大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その17



『〜〜ピエール!これは一体どういうことだ…!?』

「あはははっ!君も馬鹿だよねぇ?あのままこいつらを殺していたら、永久にロワ(王)でいられたのにさ…っ!!」


――キィィィィン…ッ!!

「うわあああっ!!」「きゃあああっ!!」

冬牙の分までオーク巨樹の霊力を奪い出したピエールが百獣の一つ・コウモリの超音波を帯びた声で俺達を吹き飛ばすと、

――パァン…ッ!!

元々は尊い生命活動を感じさせる美しい緑色を帯びていたオーク巨樹の核が遂に真っ黒に変色し、粉々に砕け散ってしまった…!

「あぁっ!?」

「〜〜オーク巨樹の核が…」

「あ〜あ、とうとう割れちゃったか…。ま、核のゆりかごで眠っていたほとんどのパリシィは僕の中へ消えちゃったわけだし、仕方ないか〜♪」

『〜〜まさか貴様…っ、核と墓場のパリシィを全て取り込んだのか!?』

「彼らも喜んでるんじゃないかなぁ?だって、パリシィになった僕がパワーアップして巴里を壊したら先輩怪人達の無念を晴らしたことになるでしょ?悲願成就の為なら霊力の提供も厭わないと思うけどねぇ♪」

『〜〜なんてことを…!』

「パリシィは復讐を望む怪人だけじゃない!巴里の平和を望む人だって大勢いたはずよ…!!」

「今の僕はパリシィのロワだよ?下々の者が王に命を捧げるのは当たり前じゃないか。――そうだったよねぇ、冬牙♪」

『〜〜くっ、お前は間違っている…!取り込んだ魂をすぐに核に戻せっ!!』

「フフッ、今さら何善人ぶってんのさっ!?」


ピエールは瞳を黒く光らせると、オーク巨樹の根を冬牙の首、腰、足にも絡みつかせた!

『ぐああ…っ!?』

『〜〜冬牙様っ!』

「僕は君と違って欲張りでねぇ、こ〜んな薄暗い大樹のロワで一生を終えるつもりはないんだよ。今の僕ならもっと上を目指せる…!巴里を壊し、帝都を支配した後は全世界を手玉に取るディユー(神)になってやるんだ!!その為にはもっともっと強い力が必要なんだよっ!――君も協力してくれるよねぇ、冬牙?負の力に魅入られて出会った仲じゃないか…っ!!」

『うわああああ〜っ!!』


巨樹の根達は元の主人である冬牙の霊力を奪うと、現在の主人であるピエールへポンプのように霊力をどんどん送り込んでいく…!

『〜〜いやああっ!!冬牙様ぁっ!!』

『〜〜うぅ…っ、来るな、美貴!お前まで霊力を吸い取られてしまう…っ』

「あはっ!きたきたきたぁ〜っ♪すっごいよぉ〜!!裏御三家ってパリシィに匹敵するほど強い霊力を持ってるんじゃないか!!こんなことなら回りくどいことしないで、始めっから君の霊力を奪っちゃえばよかったなぁ〜♪」

『ぐぅ…っ!〜〜まさか貴様、始めから謀反を企てるつもりで…!?』

「えっ?もしかして気づかなかったとか!?あははっ!さっすが大神の前世だけはあるよねぇ〜♪人を簡単に信じすぎっしょ?」

『〜〜貴様ぁ…っ!』

「フフッ!まぁ、この体をくれたことは感謝してるよ。それでもう十分!――だから、さっさと死んじゃってねぇ♪」

『うぐ…っ!ぐわああああああっ!!』

『〜〜冬牙様ぁ…っ!!』

「――おっと!レーヌ(女王)から転落した哀れな君には別の仕事をしてもらうよ♪」

『きゃ…っ!?』

「美貴さん…!?――きゃああっ!!」


ピエールがマントを翻すと、あやめさんと美貴さんが手品に使われるウサギのように消されてしまった!

『美貴…!?』「姉さん…!?」

「〜〜二人をどこへやった!?」

「フフッ、――は〜い、ご注目♪」


ピエールが子供に手品を見せる奇術師のようにオーバーな動きで手を叩くと、割れたオーク巨樹の核が黒く光り始めた。

すると、いつの間にか核がホルマリン漬けのような青緑の液体で満たされていて、核の表面を覆っている薄い膜にあやめさんと美貴さんが両腕と下半身を核に埋め込まれ、ぐったりしていた…!!

「〜〜あやめさん…!!」『〜〜美貴ーっ!!』

「い、一郎…く…ん…」『冬牙…様ぁ…』

「君達二人は今日から新しい核になってもらうよ♪ディユーの僕へ永久的に霊力を供給し、奴隷女王として新たなパリシィを産み続けるんだ…!!」


ピエールが手品のように手を交差すると、核の内部を満たしている液体から電気が発生し、あやめさんと美貴さんの霊力を強制的に奪い始めた!

「きゃああああ〜っ!!」『きゃああああ〜っ!!』

『〜〜やめろぉっ!!』

「二人を離せぇーっ!!」


――ザンッ!!

俺は真刀滅却でピエールに頭上から斬りかかり、右腕を斬り落とした!

「…あ〜あ。商売道具を傷つけてくれちゃって…」

「…っ!?うわああっ!!」


斬り落とされたはずのピエールの腕が俺の顔に張りついてきて、視覚を奪った。その隙にピエールの本体にカメレオンの舌で巻かれ、ダンッ!!と地面に叩きつけられてしまった…!

「一郎君…っ!!」

――ザシュッ!!

かえでさんが暴れる腕を俺から引き剥がして神剣で斬ってくれたのをピエールはトカゲの能力で右腕を再生しながら余裕綽々で眺めている。

「〜〜そ…、そんな…!?」

「〜〜腕が再生しただと…!?」

「…あ〜、痛かった。怪人にも痛覚っていうのはあるんだからさ、もう少し考えて攻撃してくれないと…」

「〜〜く…っ、これではいくら攻撃しても…」

「お二人とも、諦めないで下さい!」

「再生できなくなるまで、根気よく攻撃を続けましょう!」

「――はいはーい、タイム、タイムー!この先、暴れん坊武将さんにはご退出願いまーす♪」

「え…っ?〜〜うわああっ!?」

「きゃああっ!!」


新次郎とラチェットはピエールのマジックで宙に浮かせられて、強制的にスター機から降ろされると、生身の状態で手品用の鏡の内側に閉じ込められてしまった!

「新次郎…!!」「ラチェット…!!」

「フフン、バッハハ〜イ♪」


ピエールが鏡をひっくり返すと、二人は巴里華撃団の作戦指令室へ鏡ごと瞬間移動され、ひっくり返されて外側に出されて尻もちをついた。

「〜〜いたたたた…」

「大河さん、ラチェットさん…!?」

「いつ戻ってきたんです〜!?」

「…ピエールのマジックにしてやられたわ」

「〜〜このまま戦線離脱なんてできません…っ!――迫水支部長!もう一度リボルバー・カノンの発射をお願いします!!」

「そうしてやりたいのは山々なんだがねぇ、射出用カプセルはあと1個しかないんだよ…」

「カプセルの定員は1名です。お二人で入られるとなると、発射の軌道がズレてしまう怖れもありますし…」

「〜〜そんなぁ…」

「――だったら、あんた達には特別任務をやってもらおうか」

「グラン・マ司令…!」

「特別任務ですって?」

「――グラン・マ司令〜、大帝国劇場の格納ポータルから例のものが転送されてきましたぁ〜!」

「グッドタイミングだねぇ。――二人とも、こっちへ来な!」


グラン・マに案内され、格納庫で新次郎とラチェットが見たものは…!

「これは…!」

「ふぅん。本物は初めて見たけど、なかなか良いデザインね」

「これなら2人でも1個のカプセルで済むだろ?」

「だが、これは普通の光武とは違うんだぜ?万が一着弾できなかったら…」

「失敗を怖れてる暇はないはずだろ?あの娘達は皆、命がけで乗り込んだんだ。この子達だって決意は同じはずさ…!」

「戦場で頑張る彼女達を最大限にサポートしてやるのが我々の仕事ですからね。――大河君、ラチェットさん、やってくれるね?」

「えぇ、もちろんですわ!」

「大河新次郎、粉骨砕身の覚悟で特別任務にあたらせて頂きます!!」

「フフ、だったら、とっとと乗り込んでムッシュ大神に届けてやりな!」

「イェッサー!」「イェッサー!」




その頃、オーク巨樹でピエールと戦う俺とかえでさんは…。

「〜〜新次郎、ラチェット…。二人ともどこへ消えてしまったんでしょう…?」

「…おそらく、もうここにはいないでしょうね。光武のモニターは二人の生体反応をオーク巨樹の外部で感知してるもの…」

「フフッ、貴重な戦力がいなくなって残念だったねぇ。残った君達には僕のスペシャルステージを見せてあげるよ…!」


そう言ってピエールはまた奇術師独特の手の動きを披露すると、天井から根に巻かれてぐったりしているサリュがゆっくり降ろされてきた…!

「サリュ…!?」

「さぁ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!これから人体切断マジックが始まるよ〜♪」


ピエールは笑いながら自分の腕をシゾーのハサミに変えると、おもむろにサリュの首に突きつけた。

「〜〜サリュ…!!」

「〜〜うぅ…っ、ここはパリシィの聖地だ…!汚らわしい異民族が足を踏み入れる場所じゃない…っ!!」

「フフ、可愛い新入りに随分な態度を取ってくれるねぇ?粋がってるとこ悪いけど、君のハエの能力も頂いちゃうよ〜♪君だって昔は同胞の命を弄んでたんだ。偉そうに止められないよねぇ?」

「〜〜くぅ…っ」

「やめなさい、ピエール!!」

「すぐにサリュを解放しろ…!!」

「ははっ、まったく君って奴は…。かつての敵をかばおうなんて、どこまでお人好しなわけ〜?」

「サリュが俺達に戦いを挑んできたのは、パリシィの復活と繁栄を願っていたからだ!自分の為だけに強い力を求めるお前とは違う…っ!!」

「大神…」

「〜〜罰当たりめぇっ!僕はパリシィの王なんだぞ…っ!?」


オーク巨樹の核はあやめさんと美貴さん、そして冬牙とサリュの霊力をうねうねと動く根を通して奪うと、ピエールの力の糧としていく…!

「きゃああああっ!!」『きゃああああっ!!』

『うわあああ〜っ!!』「うわあああ〜っ!!」

「〜〜あやめさん…!!美貴さん…!!」

「〜〜冬牙…!!サリュ…!!」

「ふははは…!!そうだ!もっと僕に力をよこせぇ!!僕は壊してやる!僕をコケにした巴里を!忌まわしい血を寄越した父を!母を…夢を…プライドを…!大切な物を全て奪った巴里に破壊の限りを尽くしてやるぅぅっ!!」

「やめるんだ、ピエール!それ以上、霊力を取り込めば体がもたなくなるぞ…!?」

「〜〜うるさぁいっ!!お前らに僕の気持ちがわかってたまるもんか…っ!!結局、人間ていうのは産声をあげた瞬間から死ぬまでの運命が決まってるんだ…!努力だけじゃ超えられないことだってあるんだよぉぉぉっ!!」


裏御三家とパリシィ、二つの強すぎる霊力が混ざって体中を巡るうちにピエールは正気を失い、人間離れした体をさらに強靭なものにしていく!

「――うおおおおおおおっ!!」

ピエールは霊力を暴走させながら熊の怪人に姿を変えると、俺の光武Fに乗っているかえでさんに突進して、強く体当たりした。

「きゃああああ――っ!!」

「〜〜かえでさん…!!」

「ふはははは…!!力がみなぎる…!!もう少しで僕は神になれるぞぉぉっ!!」

「痛…っ!〜〜うあ…っ!?や、やめ…!いやあああああっ!!」


ピエールは鋭い牙と爪で鋼鉄の機体を剥ぎ取っていき、かえでさんを操縦席から引きずり下ろすと、巨樹の根どもを全身にまとわりつかせた…!

「あう…っ!?〜〜きゃああああ〜っ!!やめてぇ〜!!」

「かえでさぁん…!!〜〜ぐわあああっ!!」

「あーっはははは…!!もっと僕を怖がれ!泣き叫べよ…!!今日から僕が全世界…、いや、全宇宙のディユー(神)だぁぁぁっ!!」

「うわあああああ…!!」「きゃあああああ…!!」


首に手足に腰に…、オーク巨樹の根が黒い電流を帯びながら俺とかえでさんの全身に巻きついて、霊力を根こそぎ奪っていく…!

「〜〜一郎君っ!!かえでぇっ!!」

「く、苦しい…っ。力…がぁ…」

「くぅ…っ、かえで…さん…――っ!」


俺がかえでさんに絡みつく根を斬ろうと体勢を変えた弾みに、懐からアランさんからもらったピエールの絵が落ちてきた。

『――もし、アイツに会うことがあったら伝えといてくれや。巴里に良い思い出はないだろうが、アコーディオンの音色が恋しくなったらいつでも戻ってこい。お前がどんなに突っぱねようが、俺は永久にお前の友人で、ファンだぜ…ってな』

――そうだ、ピエール…。巴里にだってお前を慕ってくれる人はいるんじゃないか…!

「見てくれ、ピエール!これは夢に向かって頑張るお前を描いたアランさんの絵だ…!!」

「それがどうした?」

「覚えてるだろう、巴里で親しくなった絵描きのアランさんを…!?思い出せ、巴里での生活も悪いことばかりじゃなかったはずだ!アランさんは母親を亡くしたお前を気にかけて、いつでも巴里に戻ってこいと言ってくれたんだ…。連絡が取れなくなったお前を今も心配してるんだぞ…!?」

「…違うっ!!どうせからかう相手がいなくなって退屈してるだけなんだ!アイツは純粋なフランス人だ!同情する振りをして、忌まわしい血を持つ僕を陰で笑ってるに決まってる…っ!!」

「あなたの血は忌まわしくなんてないわ!ちょっと嫌な思いをしたぐらいで、どうして世の中全てを憎んでしまうの!?自分の思い通りにいかないのが世の中よ!だから頑張る甲斐があるんでしょう…!?」

「お前は今まで何の為に頑張ってきた!?何の為に手品師を目指そうと思ったんだ!?大好きな母親が笑ってくれたからだろう?たくさんの人を笑顔にしたいと思ったからだろう…!?一度や二度失敗したぐらい何だ!?それでも諦めずに努力を続けた者だけが栄光と夢を掴めるんじゃないか…!!」

「〜〜黙れぇっ!!優秀な血が流れるお前らに何がわかるんだよ…!?巴里の人達は半端者の僕の力を認めようとしなかった!認める機会すら与えてくれなかったんだ…!!差別を受けたこともない奴らが偉そうに言うなっ!!」

「……お前が受けた屈辱も苦痛もわかるよ…。俺も留学中、フランス人の男に日本人だからと馬鹿にされたことがあるんだ…。だが、少なくともアランさんはお前のファンだと言っていた!お前の実力とマジックへの真摯な気持ちが日本人を小馬鹿にするフランス人の心を動かしたんじゃないか…!!一人でも応援してくれる人がいたら、それでいいだろう!?」

「力なんてなくても、あなたのマジックなら、いずれ世界中の人を虜にできるわ…!自分の力を自分が信じてあげないでどうするのよ!?」

「ファンだの友人だの…、〜〜そんなもの僕はこれっぽっちも欲しくないんだよっ!!どうせ神の力さえ手に入れれば皆、僕を畏れ、崇めるようになるんだ…!!力ある者が頂点に立って何が悪いんだよっ!?」

「〜〜ピエール…」

『…力でねじ伏せることでしか人と向き合えんとは哀れな男よ。貴様のような奴に裏御三家とパリシィの力は使いこなせん。自滅するのがオチだ』

「〜〜偉そうに人のこと言えるのかい!?さっきまで君も同類だったじゃないさぁ…っ!!」


ピエールの逆鱗に触れた冬牙めがけて、先が鋭く尖った巨樹の根が向かっていく…!

『〜〜冬牙様ぁ…っ!!』

――カキーンッ!!

身構えていた冬牙はそっと目を開け、驚いた。謀反を起こし、敵対していたはずのアモスが精霊術で創った刀で自分を根から守っていたんだ!

「フフッ、やっと観念して出てきたのかい?」

「アモス、お前…!」


正気を取り戻し、昔のように穏やかな顔つきに戻った主人にアモスは微笑んで刀を鞘に収めると、片膝をついて頭を下げた。

『――遅くなって申し訳ありません。ピエールに気づかれぬよう、子供達と潜入するのに手間取ってしまい…』

「子供達って、まさか…!」

「――ひまわり、誠一郎、行くわよ!」

「りょーかいっ!」

「えぇ〜いっ!!」

「――!しまった…!?」


ピエールがアモスに気を取られている隙に、なでしこ、ひまわり、誠一郎は手を繋ぎながら大きなオーク巨樹の幹に触れ、核に霊力を注いだ。

「〜〜お願い…!お父さんとお母さんを助けて…!!」

なでしこ達の強い祈りが届いたのか、オーク巨樹は子供達の霊力を吸い取ると逆流させ、ピエールの怪人の肉体に猛毒な光の霊力を流し込んだ!

「ぐわあああああっ!!」

二つの裏御三家の血が混ざり合った強力な霊力でオーク巨樹の核は急激に膨れ上がり、パァンと破裂して表面の膜が割れた!

すると、意識が朦朧としていたあやめさんと美貴さんの体に元の霊力が戻り、二人は光に包まれながら解放され、静かに地面に横たわった。

『――うう…ん…』

「お母さ〜ん!」

「ひまわり達、助けに来たよ〜っ!」

「なでしこ、ひまわり…!?」

「〜〜ウグオオオオ…ッ」


子供達の霊力の輝きに苦しみ、オーク巨樹からの霊力供給も途絶えたピエールの体が急速にミイラ化すると、支配されていた巨樹の根達は俺とかえでさん、冬牙とサリュを解放し、奪った霊力をそれぞれの体に返した。

「あやめさん…!」『美貴…!』

「一郎君…!」『冬牙様…!』


俺と冬牙はあやめさんと美貴さんにそれぞれ駆け寄り、互いの無事を祝して強く抱きしめ合った。

その様子を子供達はアモスと一緒に嬉しそうに見守っている。

「よかったね、アモス!」

「あぁ、君達のお陰だよ」

「…アモス、何故だ?〜〜私はそなたを破門しただけでなく、邪な思いでパリシィの力を奪ったというのに…」

『…後にも先にも私がお仕えするのは冬牙様のみ。鬼の力を捨てた今のあなた様は以前と同じ…、私がお仕えすべきお方と判断したからです!』

「アモス…」


冬牙は涙を見せないように男らしくアモスを抱きしめた。

「〜〜すまなかった…。愚かな主人を許してくれ…」

「冬牙様…」


人間の感情を忘れたはずの瞳からは涙がこぼれ落ち、アモスは年相応の少年の泣き顔で抱きしめ返し、主人との再会の喜びをかみ締めた。

「――うまくいってよかったわね」

「うんっ!」

「ありがとう、なでしこ、ひまわり、誠一郎」

「3人とも無事でよかったよ」

「ここに来るまでアモスが守ってくれたんだー!さっきみたいな霊力の使い方も教えてくれたんだよ!」

「えっへん!ひまわり達がいて、よかったでしょ〜♪」

「ふふっ、えぇ。とっても強くて、お母さんビックリしちゃったわ」

「――ごほん!」


咳払いして腕組みしているかえでさんに気づき、子供達は慌てて並んで敬礼した。

「〜〜にっ、任務ご苦労であります!副司令殿っ!!」

「ふふっ、他に何か言いたいことがあるんじゃない?」

「そ、そのぉ…、〜〜お約束を破ってごめんなさいっ!」

「〜〜帝都に帰ったら、ちゃんとお尻ペンペン受けますから…っ!」

『どうか子供達を叱らないであげて下さい!怒るなら大神殿の命令に背いた僕に…!』

「アモスが冬牙を助けたかったように、この子達も俺達を助けたかったんですよ…!」

「…ふふ、まぁ初めてにしては霊力の扱い方もまぁまぁだったしね♪」

「母さん…!」

「許してくれるの〜!?」

「――ただし!お約束を破ったのはいけないことよ!?罰として明日から一週間、劇場のお掃除をお手伝いしてもらいますからねっ!?」

「え〜っ!?」「え〜っ!?」

「〜〜ひまわり達、大活躍だったのにひどいよぉ〜!」

「それとこれとは別です!…ねぇ、姉さん?」

「ふふっ、そうね。丁度、新春公演で忙しくなる頃だし…」

「そういうこと!いつものおしおきに比べたら軽い方でしょ?」

「そうだね。えへへっ!でも、何だか今日は叱られても嬉しいや♪」

「ふふっ、私も♪早く帰って、お父さんのお誕生日会とお正月公演の準備をしましょ!」

「さんせ〜い!」

「〜〜ぶぅ〜…。こんなんなら、おうちで『プリティマミーお正月スペシャル』観てればよかったぁ〜…」

「あははは…!」


和やかになった空気の中、再び闇が蠢き出したのをアモスと冬牙は察知して、素早く刀を構えた。

『…冬牙様!』

『あぁ、まだ戦は終わっていないようだ…!』


異空間に拡散していた闇の霊力がミイラの亡骸に再び集まると、ピエールはトカゲの再生能力で血管と皮膚を再構築し、巻きついてきたオーク巨樹の根を闇の炎で全て焼き払った…!

「――いいねぇ、いいねぇ…!君達のその力、ゾクゾクするよぉ…♪」

「店長さん…!?」

「〜〜あんな状態になっても、まだ生きていられたなんて…」

『ですが、オーク巨樹が解放された今、パリシィの力は奪えなくなったはず…!』

『これ以上、力は増やせまい!観念するのだな!?』

「ククッ、それはどうかな…?」


ピエールは不気味にほくそ笑むと、アメーバの怪人の能力でまた分身達を作り、その分身達をさなぎの繭のような球体に変えた。

「こ、これは…!?」

本体である自分は蝶のような触手を2本額から伸ばした。

その直後に触手の先端が幾枝にも分かれた状態で全ての繭に触手が突き刺さり、霊力を奪い始めた…!

『〜〜まさか自分の霊力を吸収し直しているの…!?』

「ふははは!これで僕は無限に強くなれるぞぉ!!世界中の愚民どもをひざまずかせるまで倒れるわけにはいかないんだぁっ!!――ウオオオオ…ッ!!」

「〜〜やめろ、ピエール!これ以上、力を取り込めば本当に――!」

「ガフゥ…ッ!フゥフゥフゥ…ッ、グオオオオオ…ッ!!」


ピエールの瞳は段々と焦点が合わなくなっていき、やがて背中からアゲハ蝶のような羽根が生えた。

「――ウルアアアアアアアアアッ!!」

美しい羽根を得た代償に、ピエールはパリシィの霊力を体内に取り込み過ぎたせいで我を失い、収めきれなくなった霊力を体中の毛穴から煙としてまき散らしながら暴走を始めた。

そんな彼の肉体は蝶からさらに人間離れした、奇々怪々な姿へ変わっていく…!

カメレオンの長い舌はそのままに、ユニコーンのような角が生えた頭部にコウモリのように目が離れて耳まで口が裂けた不気味な顔、脚力抜群の豹のような脚と爪に、細い体には不釣り合いな熊のような毛むくじゃらの太い腕、その腕から背中にかけては鷲のような大きな翼が生えた。

「〜〜ひええ〜っ!!何あのキモいの〜っ!?」

「あなた達は下がってなさい…!」

『フハハハハ…!!コノ姿ト力コソ僕ガ求メテイタモノダヨ!!僕ハ遂ニ神ニナッタンダァァァッ!!』


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