大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その16
「『――『死者の闇』から逃げ延びたか…。さすがは隼人家の当主。褒めてつかわそう』」
オーク巨樹の根という根に腰から下を縛られて身動きが取れなくなっている俺を見下ろし、冬牙は鼻で笑った。
闇の霊力を介し、黒く変色しつつあるオーク巨樹の巨大な核が俺と冬牙、向かい合う同じ容姿の男達を静かに見守っている…。
「『〜〜大神…さん…』」
「あやめさん…っ!〜〜彼女の体から美貴さんを解放してやってくれ…!!」
「『この女はもうあやめではない。私の妻・藤堂美貴として生まれ変わったのだ!』」
「〜〜いい加減、愛する人の死を受け入れろ!」
「『それは貴様の方だろう!?いい加減、負けを認めたらどうなのだっ!?』」
――ドスッ!!
「〜〜がはぁっ!?」
軽く蹴られただけなのに、まるで鉄球でも撃ち込まれたかのような重い衝撃が鳩尾に走った…!
「『大神さんっ!!〜〜んうう…っ!?』」
手首をオーク巨樹の根で拘束されているあやめさんの肩を冬牙は強引に抱き寄せると唇を重ね、激しく舌を絡ませた。
自分と同じ姿の男があやめさんとキスをしている…。なんとも奇妙で艶めかしい光景だが…。
「『〜〜んむうぅっ…!!もう…こんなことやめて下さいまし…っ!』」
「『恥ずかしがることはない。私達の燃え上がる愛をそこの死にぞこないに見せつけてやろうではないか』」
「『やぁ…っ!〜〜はむ…っ!んちゅ…っ、んん…っ!はぁはぁはぁ…』」
「フフ…、舌で押し返そうとすればするほど余計に絡まるぞ?それとも、私の接吻をもっと欲しているのかな…?」
「『んん…っぷぁ…!冬牙…様ぁ…』」
「〜〜やめろぉ…っ!!あやめさんに触るな…!!」
なんとか腕の力だけで進もうとするものの、巨樹の根の拘束力が想像以上に強く、思うようにあやめさんに近づけない…!
ならば、パリシィの力だ!真刀滅却のイメージを思い描いて実体化させれば…!――っ!?〜〜ち、力を出せない…!?
「『ほぉ、やけにアモスと似通った霊力だと思ったが…。奴からパリシィの力を授かっていたか』」
「〜〜く…っ!何故、力が使えないんだ…!?」
「『ふははは、馬鹿め!ここはオーク巨樹の中枢。言うなれば、支配者である私の力が最も高まる場所…!!』」
――ドスッ!!
「うあああっ!!」
「『そんな場でパリシィの力に慣れぬ貴様が力を発揮できると思ったか?所詮かりそめの肉体を得たところで、貴様は私に勝てはせんのだよっ!!』」
――バキイッ!!
「ぐああああっ!!」
「『〜〜いやああ〜っ!!大神さぁんっ!!』」
「『ふははは!苦しいか!?無様に美貴の前で命乞いしても平気だぞ?どうせ貴様のあやめは二度と帰っては来んのだからなぁ!ふはははははっ!!』」
「ぐ…っ、う…あ…!うぅ…くぅ…っ」
頭を踏まれているだけなのに脊髄が圧迫されて、背中がビリビリする…。〜〜息ができない…っ!
「『…だが、すぐに殺すのも味気ない。せっかく我々の愛の巣へ招待してやったのだからな』」
「『――きゃあっ!?』」
そう言うと、冬牙はおもむろにあやめさんの胸を後ろから鷲掴みにした。
「『んはぁっ!あああぁ…っ!!見ない…でぇ…っ!』」
「〜〜く…っ、あやめさん…っ」
「『フフ…、愛しのあやめが私の手で乱れる様を見届けるがいい!』」
冬牙の手指の動きに合わせて、あやめさんの大きくて柔らかい胸が色々に形を変える。
〜〜胸を揉まれる度に、あやめさんは真っ赤な顔で涙を浮かべ、助けを求めるように俺を見つめてくる…。
「『きゃあああっ!!うあああ…んっ!彼の前で入れないでぇ〜っ!!〜〜もが…っ!?ん…っ、あむああああああ〜っ!!やあああああああ〜っ!!』」
「〜〜あやめさぁんっ!!」
吊るされた状態で足を開かれ、冬牙のモノを受け入れて絶叫するあやめさん。
冬牙が腰を動かす度に喘ぐ小さな口が俺と冬牙の男根と同じくらいのサイズのオーク巨樹の根によって塞がれた。
「『んむううう〜っ!!ふぅっ、ふぅっ、うぅ…っ!?んおおおおおお〜っ!!』」
後ろの穴にも同じ大きさの根を挿入され、あやめさんはよだれを垂らしながら根を頬張り、本能のままに嬌声をあげ続ける。
俺の体だから感じているのか、それとも冬牙に抱かれて美貴さんが悦んでいるのか…。あるいはその両方かもしれないが…。
「『私とオーク巨樹、どちらで感じるのだ?正直に申してみよ』」
「『ひあああああああああ〜っ!!どっちも気持ちいいれすぅ〜っ!!』」
巨樹の細い根で乳首をこねくり回されたり、冬牙に陰核を甘噛みされたりして、あやめさんと美貴さんは二人ともあっという間に達してしまった。
「『はーっ、はーっ、はーっ…』」
あやめさんは汗びっしょりの火照った顔で息を切らし、その美しい肢体をだらんと冬牙に預けた。
快感の余韻に浸る彼女を満足そうに見ながら冬牙が命じると、オーク巨樹は手足の拘束用に使っている以外の根を彼女の体から撤退させた。
「『気持ち良かったか?奴を亡き者にした後で、もっといいことをしてやろう…♪』」
「『は…っ、あ…っ…ん…』」
「〜〜もうやめてくれ!あやめさんが壊れてしまう…っ!!」
「『ククッ、愛する女を寝取られて悔しいか?何もできぬ自分が情けないか!?えぇ!?』」
「〜〜ぐあああ…っ!!」
冬牙は巨樹の根を俺の首に巻きつけると、容赦なく締め上げてきた!
「『やめてぇっ!!もう私の為に人様を傷つけるのはおやめ下さいましっ!』」
「『…何だ、美貴よ?邪魔者のこやつをかばおうと言うのか?』」
「『あなた様の光が結集して生まれたのが大神さんであるように、あなた自身にもまだその光が残っているはず…!〜〜闇に心を捕らわれないで、冬牙様!!優しかった昔のあなたに戻って下さいませ…っ!!』」
――パァンッ!!
「『〜〜きゃあっ!!』」
「美貴さん…!!」
「『偉そうに夫に助言か?お前は隼人と藤堂の血を絶やさぬよう、黙って我が子を産み続ければよいのだっ!!』」
「『はぁっ!?〜〜あああああああああ〜っ!!』」
オーク巨樹の根どもが冬牙の求めるままに動いて、あやめさんの体に絡みつき、再び敏感な部分を刺激し始めた。
「『〜〜んくぅっ!!お願いです!体を大神さんに返してあげて下さい…!!』」
「『ほぉ、よいのかな?もうこうしてお前を可愛がってやることはできなくなるのだぞ?』」
「『あはあああああああっ!!くぅっ、んうぅぅ〜っ!!』」
あやめさんは再び冬牙を迎え入れると、腰を挟んで打ちつけるように自分から動き出した。
「『フフフ、それでよい。元気な男児が産まれるよう精進せよ!』」
「『うはぁ…っ!!はぁっはぁっはぁっはぁっ…あ…っ!!』」
「『快感に屈してしまう自分が情けないか?フフ、だが、それも妻の務め。ピエールの野望を見届けたら日本へ戻って一からやり直そうではないか』」
「『あはあああああ〜んっ!!冬牙様ぁ〜っ!!また…イッちゃいますぅ〜っ!!』」
「〜〜くぅっ、冬牙ぁ…っ!!」
「『くくくっ、私が憎くて仕方なかろう?その憎しみを私のように力に変えてみよ!もしかしたら、あやめを助けられるかもしれないぞ?』」
「……俺はお前が憎いわけじゃない。いつまでも過去を引きずり、憎しみに囚われ続けるお前が憐れなだけだ…」
「『…何?』」
「お前は心から美貴さんを愛していた…。愛から生まれる力がどんなに尊いものかも知っていたはずだ!それを忘れてしまったということは、お前の心が黒魔術の呪縛から解かれていない証拠だ…!!」
冬牙は無言のまま俺の足に絡みついていた根どもを斬ると、顔のすぐ真横の地面にぶっきらぼうに刀を刺した。
「『…その反吐が出そうな説教は死期を遅らせる為か?――貴様のような臆病者の偽善者は死あるのみ…っ!!』」
――カキーンッ!!
〜〜く…っ!なんとか刺さっていた刀で冬牙の真刀を受け止められたが、一撃がこんなに重たく感じる攻撃は初めてかもしれない…。
だが、俺もあやめさんを助ける為に負けられないんだ…っ!!
――カキーン!!カキーン!!カキーン…ッ!!
「『ふははは…!!どうした、大神一郎!?力の差がわかって愕然としたか!?』
「〜〜お前がどんなに無念だったのかはわかる…!サタンがいない今、どこに怒りをぶつけたらいいのかわからないんだろう!?」
「『〜〜知ったような口を…!貴様も人間ならば心の闇をぶつけてみよ!!猛りの解放こそ戦で勝つ秘訣なりぃっ!!』」
――カキーンッ!!
「〜〜くぅっ!!お前にどんなに挑発されても、俺は絶対に闇の力は使わない!負の感情に身を任せれば自分を見失い、大切なものを全て失うとお前が身を持って証明してくれたからな…!!」
「『〜〜戯言を…っ!私には己を汚してでも守りたいものがあるのだ…!!』」
「それは俺も同じだ!俺もお前と同じくらいあやめさんを愛している!命を懸けて守りたいほど愛している!!――だから愛の力で戦うんだぁっ!!」
――カキーン…ッ!!
「『〜〜何…っ!?』」
俺に払われた真刀が己の手から離れて宙を舞い、虚しく地面に刺さった様子を冬牙は信じられないような顔で見つめた。
「『〜〜そんな馬鹿な…?地獄から甦り、オーク巨樹を支配した私が…!何故、お前のような死にぞこないに…!?」
「希望を抱けば光が生まれるように、誰かを心から愛すことで人は強くなれる。あやめさんへの愛がある限り、俺はどこまでも強くなれるんだ…!」
「『大神さん…』」
『――まだ私達の希望の光は消えてはおりませぬ…!』
光輝く豊春を産んだ生前の美貴さんを回想し、冬牙は静かに拳を震わせた…。
「『〜〜愛だの希望だの、そんな精神論にすがっても私はサタンに敵わなかった!あの時、黒魔術を使ったのだって全て美貴を救う為だったのだ!!』」
「…自分を守る為に鬼に変わったお前を見て、美貴さんは喜んだか?」
「『…っ!』」
「――美貴さんを真の愛で包んでやれない限り、お前は俺に勝てやしない…」
俺は冬牙を敗った刀で、あやめさんを拘束していた根を斬ってやった。
「怪我はありませんか?」
「『えぇ。助けて下さって、ありがとうございました』」
「『……マコトノアイ…だと?〜〜貴様は私の愛が偽りだと言うのかぁっ!?』」
冬牙は悪魔のように目を赤く光らせて牙を剥くと、自分が立っている地面に黒魔術の魔法陣を展開した…!
「『きゃあああっ!!』」
「あやめさん…!!〜〜うぅ…っ!」
黒魔術発動の際に巻き起こった黒い風に飛ばされそうになったあやめさんを俺は踏ん張って抱きしめながら守る…!
「『〜〜美貴を返せぇっ!!その女を本当に愛しているのは、この私だぁっ!!』」
「〜〜それ以上、黒魔術を使うな!もう誰かを憎むのはやめろぉ…っ!!」
「『黙れぇっ!!〜〜たとえ代償で霊魂が消えようとも、貴様だけは殺してやるぅっ!!』」
〜〜嵐がひどくて目も開けられない…!やはり説得は無理なのか…!?
せめて、あやめさんだけでも――っ!
「『――冬牙様、いい加減になさいまし!』」
「え…っ?――!」
あやめさんは俺の腕に抱かれながら凛と言い放つと、突然、俺の唇にキスしてきた。
「あ、あやめさん…?」
「――よく頑張ったわね。あとは私達に任せて!」
あやめさんはニコッと笑うと、体から美貴さんの精身体を解放した。
「美貴さん…!?」
『冬牙様、おいたをするとおしおきですよ!?』
「な…っ!?〜〜ぐあああああ〜っ!!」
降魔の翼ではばたく美貴さんがお札を冬牙の額をデコピンすると、冬牙の精身体が俺の体から飛び出してきて、空っぽになった俺の肉体がうつ伏せに倒れてきた!
「〜〜うわああ!?」
『あやめさん、今のうちに!』
「えぇ!」
「えっ?ちょ…っ!?」
「大丈夫よ、痛くしないから♪」
あやめさんは俺の額に天雲神社のお札を貼ると、神剣白羽鳥で精身体の俺の胸を突き刺し、倒れている元の肉体の中へと戻した。
「――あ、あれ…?」
手の感触も心臓の鼓動もはっきり感じる…!
痛みも感じないほど一瞬の出来事だったが、あやめさんが俺を元の肉体へ戻してくれたんだな!
『ふふっ、作戦成功ね!』
「えぇ、一郎君が無事で本当によかった…♪」
「あやめさん…♪」
ボロボロに破れている巫女装束で抱きつかれて、俺は少しドキドキしながら半裸のあやめさんをそっと抱きしめ返した。
今は、あやめさんの温もりを肌ではっきり感じられる…。今まで当たり前のことだと思ってたのに、それがこんなに幸せなことだったなんて…!
背中に生えていた最終降魔の翼も美貴さんを解放したことで消え失せ、あやめさんも元の人間の体に戻ったようだ。本当によかった…!
『〜〜ば、馬鹿な!?美貴が覚醒して、お前の魂は消滅したはずでは…!?』
『私とあやめさんの魂は同じ体の中で共存していたのです』
「霊力が高まって美貴さんを解放するチャンスを待ってたの。あなたとたくさん交わったお陰でスムーズに作戦を進められたわ♪」
『まさか、その為に私を求めていたと…〜〜ぐふぅっ!?』
『申し訳ありません。藤堂の力で精力と一緒に霊力も吸収させて頂きましたわ』
『〜〜貴様らぁ…っ!』
体から放出していた黒い鬼火が小さくなり、力を出せなくなってうずくまった冬牙の悪霊に美貴さんは歩み寄ると、微笑んで優しく抱きしめた。
『――もう苦しまなくてもよいのですよ。これからはずっと一緒にいられます。共にあの世へ参りましょう…?』
『〜〜寄るな、裏切り者っ!!』
『きゃあっ!!』
「美貴さん…!!」
『――アモスに続き、お前まで私を裏切るとはな…』
冬牙の悪霊は美貴さんを突き飛ばすと、体内に宿していた全ての闇の霊力を解放した。
『〜〜そんな…!誤解ですわ、冬牙様…!!』
『うるさいっ!!〜〜もう誰も信じぬ…!貴様もこいつらと共に消し去ってくれるわぁぁっ!!――うおおおおおおおお…っ!!』
冬牙の姿が醜く膨れ上がり、巨大な赤鬼へと変わっていく…!〜〜冬牙の追体験をした時に見た、あの鬼にそっくりだ…!
『〜〜冬牙様ぁ…っ!!』
「〜〜美貴さん!近づいたら危険よ…!?」
「やめるんだ、冬牙!これ以上、美貴さんを悲しませるな…!!」
『――どうせ地獄に戻る運命ならば、貴様ら全員道連れだぁぁ…っ!!』
『きゃあああーっ!!』
「〜〜美貴さぁん!!」
冬牙は巨大な鬼の手で美貴さんを捕まえると、握り潰そうとギリギリ力を入れる…!
「〜〜やめろぉぉっ!!」
『こやつは私のことなど、はなから愛してはおらんかったのだ…。〜〜私の純粋な想いをもてあそべて、さぞ楽しかったろうなぁ!?』
『うぅ…う…っ、と…、冬牙…様ぁ…っ』
「〜〜聞いて、冬牙さん!美貴さんが霊力を高めたのは、あなたを苦しみから救ってあげたかったからよ…!!頑固なあなたに愛想を尽かそうとしたこともあったかもしれないけど、やっぱり美貴さんはあなたを愛してるから放っておけないって…!優しかった頃のあなたとあの世で幸せになりたいからって、必死に耐えてきたのよ!?どうして、その気持ちをわかってあげられないの…!?」
『この女は生粋の嘘つきだ!でたらめに決まっている…!!〜〜後にも先にも、私の愛する女はただ一人…。美貴…、お前だけだというのに…っ』
『冬牙様…。〜〜きゃああああーっ!!』
『鬼となった私に愛などいらぬ…!!〜〜皆…、鬼火に焼かれて消えてしまえぇいっ!!』
冬牙の体から黒い憎しみの鬼火が上がり、美貴さんを締め上げる力も一層強くなった…!
「〜〜美貴さん…!!」
『ふはははは…!!人の心を捨てきれぬ者から死んでいく…!それが戦の掟だぁっ!!』
「きゃあ…っ!?」
鬼の冬牙は高笑いしながら、もう一方の大きな手で押し潰そうと俺とあやめさんに向けて振り下ろしてきた…!
〜〜駄目だ、間に合わない――っ!!
――ザシュッ!!
『ぎゃああああああっ!!』
その時、日本刀とナイフで掌を刺され、冬牙は勢いで仰向けにひっくり返った!
「――ご無事でしたか、一郎叔父、あやめ叔母!?」
巨体が倒れた際に巻き起こった砂埃の中から現れたのは…!
「新次郎、ラチェット!」
「来てくれたのね…!」
「フフッ、危ないところだったわね」
『〜〜この忌々しい霊気…。――忘れもせぬ!信長ぁぁぁっ!!』
すると、呼びかけに応えるように新次郎の体から信長の精身体が出てきて、鬼の冬牙と対峙した。
『――そなたが隼人家当主・冬牙か。負の闇に呑まれ、鬼と化したか…。哀れなことよ…』
「あなたがどんなに強敵でも、僕は信長には頼らない!――僕の隣にはラチェットさんがいてくれる。それだけで力が湧いてきますから…!」
「それは私も同じよ。サポートは任せてね、大河君!」
『〜〜信長ぁっ!!隼人没落の恨み、ここで晴らしてくれるわぁぁぁっ!!』
「――私も忘れないでもらいたいわね!」
――ザシュッ!!
『〜〜ぐわああああ…っ!?』
冬牙は腕を斬られると、うめき声をあげながら美貴さんを放した。
「美貴さん…!」
落ちてきた美貴さんの精身体を俺が受け止めると、俺の光武Fに乗ったかえでさんが隣に華麗に着地した。
「一郎君、姉さん、二人とも無事でよかったわ!」
「かえでさん…!」「かえで…!」
「フフッ、さすが良いところを持っていくわね」
「あら、一郎君のヒロインはあやめ姉さんだけじゃないもの♪」
『〜〜おのれ…、次々と雑魚どもめぇ…っ!――うおおおおおおお〜っ!!』
「鬼火が大きくなった…!?」
「私と美貴さんで奪っても、まだあんなに闇の霊力を持っていたなんて…」
「〜〜それだけ冬牙が抱える負の感情は大きいというわけね…」
…だが、とうとう限界が来たらしい。
『ぐ…っ!?〜〜う…おおおおぉ…っ!ウオオオオオオオ〜ッ!!』
冬牙は息を荒げながら膝をつくと、巨体を揺らしながら頭を抱えて苦しみ出した…!
『〜〜冬牙様ぁぁぁっ!!』
「美貴さん…っ!?」
心配する俺の手を払い、美貴さんは憎しみの黒い鬼火に身を焦がし続ける冬牙の巨大な足にそっと寄り添った。
『〜〜私のせいで苦しませてしまってごめんなさい…』
『――ミ…キ……?』
『どんなお姿になっても、私はあなたをお慕い続けます。私の愛を信じてくれなくても構いません。でも、あなたを想う私の気持ちは永遠に変わりませんわ…!』
「美貴さん…」
『〜〜何ヲ今サラ…ァッ!』
「――美貴さんはあなたを騙してなんかいないわ」
『あやめさん…!』
「美貴さんと同じ魂を持つ私なら、彼女があなたをどれだけ愛しているか、よくわかるもの…。私が一郎君を愛しているのと同じくらい、美貴さんもあなたを愛しているのよ?」
『〜〜嘘ヲ申スナ!!ドウセデマカセヲ吹キ込マレタノデアロウ!?』
「最後まで話を聞いて…!〜〜美貴さんがあなたを残してこの世を去さなければならない時、どれだけ断腸の思いだったかわかる!?」
『…!?』
「〜〜私もそうだったわ…。黒之巣会との戦いでミカエルとして甦った時、一郎君を残して天上界へ行かなければならなかった時は本当に辛かったもの…」
「俺もあやめさんが死んだ時、お前と同じくらい深い悲しみに襲われたよ…。〜〜だから、残された者の苦しみは痛いほどわかるんだ…!だが、俺が負の感情に囚われなかったのは、あやめさんとの愛は永遠だと信じていたから…!仲間も皆、俺のことを想って支えてくれたからだ。皆、俺と同じようにあやめさんから人を愛する素晴らしさを教わり、深い絆を育ててきた!だから、皆との絆が強くなればなるほど俺はあやめさんを近くに感じることができた…!たとえ離れ離れでも俺達はいつも一緒なんだって思えるようになったんだ!」
「あなたのように憎しみや悲しみに身を委ねて、殻に閉じこもるのは簡単だわ。だけど、辛い現実から目を背けているだけでは何も変わらないじゃないの…!」
「どんなに悲しんだところで、愛する人が帰ってくるわけじゃない…。だから俺は辛くても現実を受け入れて、天上界で頑張るあやめさんの分まで帝都を守っていこうと誓ったんだ。愛する人を想い続ける限り、その人も自分を見守ってくれている…。ふとした拍子に思い出して辛くなっても、見えないけれど傍で支えてくれてるんだって、いつも自分に言い聞かせてたんだ。あやめさんへの愛が俺の中で失くならない限り、いつの日かまたきっと会える!愛の力は奇跡を起こすと信じていたから…!」
「だから、私達はこうしてまた巡り会うことができたの。私も天上界で大天使の仕事に追われながら、ずっと一郎君を想い続けていたわ。だから、慈悲深い主はミカエルの私を再びこの世界に転生させて下さったのよ…!」
「お前が言う憎しみから生まれた力は本当の強さとは言えない…。愛を信じて困難を乗り越え、明日への希望を抱くことで人は強くなれるんだ!」
『もう楽になっていいのですよ、冬牙様。大神さんとあやめさんのように、私達の愛も永遠です…!』
冬牙を抱きしめて、なだめている美貴さんにも黒い鬼火がうつった…!
『〜〜ヤメロォォ!コノママデハオ前マデ…!!』
『〜〜私は降魔だから平気です…。こんな炎、一人ぼっちで焼かれた時と比べたら何でもありませんわ…』
『〜〜愚カ者!私ハモウソナタガ死ヌトコロナド見タクナイノダ…ッ!!』
『ふふっ、もう私達二人とも、とっくに死んでますわよ?』
『〜〜コンナ時ニオチョクルナ――ッ!?』
美貴さんは鬼の掌に乗りながら冬牙の唇にキスすると、ニコッとあやめさんと同じ笑顔で微笑んだ。
『私はもうあなたを一人には致しません。これからはずっと傍にいますから…!』
『美貴…』
『――冬牙様、永遠にお慕い申し上げます…』
(――なんと温かい…。込み上げてくるこの懐かしい気持ちは…!)
血走っていた怖ろしい鬼の目が垂れて涙が流れると、全身が神々しく光輝き、冬牙は和服を着た元の青年の姿に戻った…!
『冬牙様…!あぁ、奇跡だわ…!』
『ありがとう、美貴。私に愛を思い出させてくれて…』
『冬牙様…♪』
冬牙と美貴さんは力強く抱きしめ合うと、夢中で唇を重ね合った。
「憎しみの鬼火もおさまったようね」
「よかった…!」
「えぇ、本当に…!」
愛を取り戻した冬牙と美貴さんを俺達が寄り添い合いながら見守っていたその時だった!
――シュルルルッ!!
『〜〜な…っ!?』
オーク巨樹の根が突然、支配者であるはずの冬牙の腕を奴隷を扱うように縛り上げたのである!
『〜〜冬牙様…!?』
「何が起こったの…!?」
「――盛り上がってるところ悪いね〜。たった今からオーク巨樹の支配者は僕になったから♪」
と、ピエールがとぼけた声とは反対に憎々しい笑みを浮かべながら姿を見せた。
「ピエール…!?」
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