大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その15
「――う……っ」
気がつくと、俺は暗闇の中に一人きりで倒れていた。
「ここはどこだ…?」
見渡す限り、深淵の闇が広がる暗い世界…。風もなく、音もなく…、一点の光すらも見えない虚無の世界に俺はいた。
霊力を放っているのか、自分の姿だけは暗闇の中でも確認することができる。
この服はいつものもぎり服だろうか?おそらく、気を失って集中力が途切れてしまった為に小梅の変身が解けてしまったんだろう…。
「――大神…く…ん……」
――ハ…ッ!今の声はまさか…!?
声が聞こえてきた方に急いで顔を向けると、前方にボロボロの巫女装束を着たあやめさんがオーク巨樹の根の鎖に繋がれているのが目に飛び込んできた…!
「あやめさん…!!今、助けます…っ!!」
「『〜〜来てはなりません…!!』」
「え…?〜〜うわ…っ!?」
何かに足をすくわれたようで、俺は石につまずく子供のように無様に転んでしまった。
「〜〜しまった…!」
足元を見やると、触手のように動くオーク巨樹の不気味な根が俺の足腰に絡みつき、あやめさんの元へ行かせまいとしていた…!
「『――私と美貴の城へようこそ。歓迎するぞ、大神一郎』」
床に描かれた魔法陣から現れた冬牙は美貴さんの魂が入ったあやめさんの腰に手を回し、罠にかかった俺を見下すように鼻で笑った。
「くっ、冬牙…!」
「――グラン・マ司令、さくらさん達を連れてきました〜!」
「あぁ、ご苦労だったね」
エリカ君達に案内されて、かえでさんと花組一行はシャノワールの地下にある巴里華撃団の作戦指令室に入った。
「お久し振りです、グラン・マ司令」
「顔を合わせるのはジャンヌ事件以来でしょうか?」
「そうなるだろうねぇ。皆、元気そうで何よりだよ」
グラン・マ司令は抱いていた黒猫のナポレオンを指令室の外に出すと、メル君とシー君に合図して、司令席に着席した。
「早速だけど、本題に移らせてもらうよ。あまり時間もないことだからね」
「説明は僕達からさせて頂きます!」
と、一足先に到着して調査していた三人娘のかすみ君、由里君、椿ちゃんと新次郎は敬礼して皆を出迎えた。
「大河君、冬牙の拠点がわかったって本当なの?」
「はい…。〜〜わかったにはわかったんですが…」
「…実際に見た方が早いだろ。――メル、シー!」
「ウィ、オーナー!」「ウィ、オーナー!」
メル君とシー君が蒸気コンピュータに特殊な座標点を入力すると、中央のメインモニターにぼやけたオーク巨樹が映し出された。
しかも1本ではない。外観がまったく同じ6本の大樹がエッフェル塔を囲むようにして、集中的に根を張っているのである…!
「こ、これは…!?」
「〜〜オーク巨樹って、こんなに何本もあるんですか…!?」
「いいえ、本物はこの中の1本だけです…!」
「他の5本はピエールが創った幻影だと思うんですけど…」
「〜〜黒魔術で隠されていたオーク巨樹を見つけることはできたのですが、どの大樹も同じ霊力数値なので、本物がどれかは特定できなくて…」
「へっ、わざわざ二重の防衛線を張るなんて、よっぽどあたい達が怖いとみたぜ!」
「アイリス、どれが本物かわからない?」
「〜〜わかんない…。どの木からも同じくらい嫌な力を感じるもん…」
「これも魔科学っちゅー名の手品なんやろか…?多分、いくつかに切り離しておいた空間にオーク巨樹をコピーしたもんをペタペターっと貼りつけて、あたかも大樹が分身したような幻覚を見せとるんかもしれん…」
「自分の分身を作れるピエールなら、それも可能かもしれないね…」
「〜〜手品のタネをあれこれ推測してても始まらんだろう!?一体どれが本物なのだ…!?特定はできんのかっ!?」
「どれも逃げ水や蜃気楼みたいに存在が不安定ですし、肉眼での判断は難しそうですね…」
「冬牙と美貴さんの霊力反応はキャッチできませんの?」
「〜〜えぇ…。残念ながら跡形もなく消されてしまっていて…」
「面倒くせぇ議論してねぇで、片っ端から燃やしてけばいいんじゃねぇのか?」
「さっすがロベリアさん!バッチグーなアイディアですね〜♪」
「〜〜ちょ…、ちょっとぉ!やたらなことして、オーク巨樹が暴走しちゃったらどーすんのさー!?」
「そうなったら、そうなった時だろ?」
「――っ!?う、うう…っ」
「…!大河君!?」
その時、新次郎が頭を押さえて苦しみ始めたので、ラチェットは急いで駆け寄り、支えてやった。
「大河さん…!?」
「〜〜大河君、どうしたの…!?頭が痛いの!?」
「うぅ…っ!――あ、あなた…は…――っ!!」
新次郎はしばらく頭を押さえて黙り込むと、落ち着いた様子で立ち上がり、もう一度モニターを見つめ直した。
「大河君…?」
「――そうか…!皆さん、モニターに映るオーク巨樹はどれも偽物です!!」
「な、何だってぇ!?」
「大河さん、すごいです〜!どうしてわかるんですか〜!?」
「僕の中にいる信長が教えてくれるんです…。冬牙の霊魂は同じ時代に生きていた自分と近い霊力反応をしてるから、すぐ見つけられるって…!」
「信長って、戦国武将のあの織田信長さんですか…?」
「アイリス、知ってるよ!『てんかとーいつ』の為にいっぱい人を殺した怖〜い人なんでしょ…!?」
「えぇ…。かつて信長は第六天魔王として復活して、紐育を支配しようとしたことがあるの。戦いに敗れた彼は今、大河君の体の中で眠りについてるはずなんだけど…」
「信長は冬牙と戦えると知って、血を煮えたぎらせています…!〜〜僕だけで抑えきれるかどうか…っ」
「〜〜大河君、無理しないで…!」
「だ、大丈夫です。冬牙の元まで皆さんを案内できるのは僕だけですから…。一郎叔父とあやめ叔母を助ける為にも僕が頑張らないと…っ!」
「大河君…」
「ハァハァ…。かえで叔母、本物のオーク巨樹はあの座標点にいます…!」
「わかったわ!――かすみ、由里、椿!解析をお願い!!」
「了解!」「了解!」
「あぁ…っ!?――肉眼では見えませんが、異常に高い霊力数値の一点を確認しました!!」
「そこが鉄壁を崩せる抜け穴のようだね…!――メル、シー、そこを集中的に砲撃するんだ!!」
「ウィ、オーナー!」
「座標点に照準セット!砲撃開始します…!!」
メル君とシー君が高射砲で砲撃すると、別の空間を覆っていたベールがガラスのように割れて露わになり、その中から実体のオーク巨樹が姿を現した!
「やったぁ!オーク巨樹、現れましたぁ〜♪」
「偽物もぜ〜んぶ消えたデ〜ス!」
「数値、霊力反応共に間違いありません!本物のオーク巨樹です〜!!」
「よくやったわ、大河君!さすが星組の隊長さんね♪」
「えへへ…♪信長のお陰ですよ。そもそも夢に出てきて冬牙のことを教えてくれなかったら、僕はここには来なかったでしょうし…」
「隼人の血を引くうえに信長を身に封じている大河隊長に信長がいてもたってもいられなくなって、冬牙の存在を夢で知らせたというわけね」
「はい…。たとえ今回の敵がご先祖様でも、都市の平和を脅かす存在なら倒すまでですから!」
「大河君、紐育華撃団を代表して一緒に頑張りましょう!信長が暴走しないように私が傍でついててあげるから…ね♪」
「ラチェットさん…♪ありがとうございます!」
「ヒュ〜ヒュ〜♪見せつけてくれますねぇ〜、お二人とも〜♪」
「でも、あそこまでどうやって行くんですか?」
「巴里にも翔鯨丸やミカサのような飛行船はあるのかしら?」
「あぁ、それなら心配ないよ」
「〜〜まさかとは思うが…、またリボルバー・カノンで行くとか言い出さねぇよな…?」
「――その通りだよ、ロベリア君」
と言いながら入ってきたのは、スーツをパリッと決めた凱旋門支部長の迫水さんだった。
「あ〜!迫水さ〜ん♪」
「久し振り〜♪元気だった?」
「やぁ。帝都と巴里…、こうして両方の花組が揃うと、花の都もいっそう華やかになるね」
「ひずみの瘴気の方はどんな感じだい?」
「そろそろ特殊部隊の霊力も限界です…。早急に隼人冬牙を討たなければ、3時間もしないうちに巴里市内に漏れ出す可能性が高いかと…」
「そうかい…。〜〜ムッシュ大神がいないとなると、戦いも厳しくなるだろうけどね…」
「リボルバー・カノンのことは凱旋門支部長の私に任せてくれたまえ。性能を改良しておいたから、以前より着弾の安全性は高まったはずだよ」
「ですって!よかったですねぇ〜、ロベリアさん♪」
「〜〜チッ、そんなもん改良してんなら飛行船の一つでも造れってんだよ」
「まぁまぁ、ロベリアさん」
「これもボク達の街を救う為だと思ってさ!」
「…チッ、わかったよ。その代わりボーナスは弾んでもらうからな♪」
「フフ、仕方のない奴め。――早速、ジャン班長に言って、光武搭乗の準備に掛かるとしよう!」
「あっ!でも、私達の光武は劇場に置きっぱなしですよ…!?」
「それは大丈夫や!こんなこともあろうかと、ジャンはんと王はんに頼んで、大帝国劇場とシャノワールとリトル・リップ・シアター、それぞれの格納庫に光武を自在に輸送できる連携ポータルを設置しておいたさかい!」
「フフ、さすがは紅蘭ですわね!」
「じゃあ、私と大河君のスターもここまで輸送できるというわけね?」
「もっちろんや!待っててや!今、帝撃のポータルと接続するさかい――」
『――ちょっと〜、私達をお忘れでな〜い?』
紅蘭が蒸気コンピュータで大帝国劇場の作戦指令室と通信を始めると、薔薇組が応答して、琴音さんの顔が中央モニターに映った。
『あっ、薔薇組はん、丁度よかったわ〜♪光武の転送、手伝ってくれへん?』
『〜〜その前に私達にも喋らせなさいよ〜っ!』
『〜〜たとえ同人サイトでも出番を増やしたいんです〜!!前回のかえでさんお誕生日編では、あろうことか私達、筆者に出番忘れられたんですからねっ!?』
『〜〜そうよ、そうよっ!!オフ会で言われて初めて気づいたってどういうこと〜っ!?』
「〜〜いや…、それを私達に言われても…」
『――はいはい、どいたどいたー』
『きゃあんっ♪』
薔薇組を突き飛ばして、今度は双葉姉さんと先巫女様と桂おばあ様がモニターに映った。
「おばあ様…!」
「双葉お義姉様、ご無事でなによりですわ!」
『あったりまえだろ〜♪私達を誰だと思ってるんだい?』
『予告通り、ひずみと三聖神社の全ての鳥居に結界を施しておいたぞい』
『これで少しは瘴気が漏れ出すまで時間を稼げるじゃろう』
「助かりました!さっすが裏御三家のおばあ様方ですね!」
『〜〜ちょっと、ちょっと〜ん!私達の出番取らないでくれる〜っ!?』
『副司令、銀座本部も帝撃防御壁を展開しておきましたから安心して下さいね!』
「えぇ、あなた達もよくやってくれたわ。留守番、しっかり頼んだわよ!」
『〜〜まったく…。花の都に一番似合うのはこの私達でしょうに…』
「まぁ、そう拗ねんなやて。早いとこ転送の準備を頼むで〜!」
『…はいはい。今やってますよ〜だ!』
『――きゃっふ〜ん♪こっちはもう転送、完了したわよ〜ん!』
すると、中央モニターの画面が二分割されて、虹組の制服姿のプラムさんと杏里君が映った。
「プラムさん、杏里君!」
『Hi、タイガー♪ラチェットとの巴里旅行、楽しんでる〜ん?』
『遊びに行ったわけじゃないんですから、任務が終わったらさっさと帰ってきて下さいよねっ!?』
『ほほぉ〜♪杏里君、やっぱり大河君がいないと寂しいのかな〜?』
『〜〜にゃうっ!?サ、サニーサイド様…!!』
『Hahaha!ハ〜イ、ラチェット〜♪僕も君がいなくて寂しいよ〜。僕もエイハブで巴里まで行っちゃおうかな〜♪』
「…プラム、杏里、ご苦労様。二機とも受け取ったから切るわね♪」
『えっ?あ…っ!〜〜ちょ、ちょっと待ってよ!ラチェ――!!』
――プツッ!!
「さぁ〜、大河君!一緒にスターに乗り込みましょうか♪」
「は、はぁ…」
「〜〜ラチェット…、相変わらずサニーさんに容赦ないデ〜ス…」
「――副司令、こちらも全隊員分の光武が格納庫に転送されてきました!」
「わかったわ。――皆、出撃準備を始めるわよ!」
「了解です!」
「ちょいと、かえで。あんたも出撃するのかい?」
「えぇ、最終的に彼を止められるのは私と姉だけでしょうから…」
「ご心配なく。私もサポートしますわ」
「フフッ、別に止めるつもりはないよ。司令官が私だけなら本部で意見が衝突する面倒もないだろうしね。ただし、私の指示には従ってもらうよ?」
「えぇ。かすみ達をよろしくお願いします…!」
「あぁ、行っておいで。戻ったら、ムッシュ大神の誕生日会をシャノワールで派手にやろうじゃないか!」
「グラン・マ司令…。――えぇ、必ず全員で生きて帰ってきます…!!」
かえでさんは花組隊長代理として戦闘服に着替えると、シャノワールの格納庫に置いてある俺の光武Fに搭乗した。
「――光武F、お願い!一郎君を助ける為に力を貸して…!!」
かえでさんに返事するように白い光武Fの機体は温かくなると、勢いよく蒸気を噴射して起動した…!
「ありがとう…!一郎君、あやめ姉さん、待っててね…!!」
「――リボルバー・カノン、発射準備、完了しました!」
「よぉし!――迫水支部長、準備はいいか!?」
「あぁ!カウントダウンを開始しよう、ジャン班長!」
「〜〜急いで下さぁい!オーク巨樹がまた動き始めましたぁ〜!!」
「〜〜オーク巨樹の攻撃、来ます…!!こちらの動きに気づいたようです!!」
「〜〜魔法障壁も再生され始めています…!!急がないと…!!」
「く…っ!――頼んだよ、あんた達…!!」
グラン・マ司令がリボルバー・カノンの発射装置の引き金を引くと、かえでさん、ラチェット、新次郎、そして二つの花組の光武が入ったカプセルが凱旋門から、まっすぐオーク巨樹の本体へ向けて射出された…!
「射出、成功です!」
「一息ついてる暇はないよ!すぐにシャノワールにも防御壁を展開しな!!」
「ウィ、オーナー!」「ウィ、オーナー!」
「〜〜けほっ、けほっ…!えらい目に遭ったわね…」
かえでさんとラチェットと新次郎は光武Fとスターに乗ったまま、瓦礫に埋もれそうになっていたカプセルから這い出てきた。
「かえで、大河君、無事?」
「な、なんとか…。かえで叔母、一郎叔父の光武はいかがですか?」
「今のところ順調に動いてくれているわ。――それにしても、ここがオーク巨樹の中なのね…。まるでアマゾンの密林みたい…」
「どうやら、この場所に着地したのは私達だけのようね…」
「他の皆さんはどこにいらっしゃるんでしょう…?」
「霊力反応が消えてないから、どこかには着地できてると思うけど…。時間が勿体ないから、歩きながら探すとしましょうか」
「そうね!」
「――うぅ…っ!?」
「ハ…ッ!〜〜大河君…!?また頭が痛むのね!?」
「〜〜ハァハァハァ…。信長が一郎叔父とあやめ叔母の居場所を教えてくれるみたいです。ついてきてくれって…」
「わかったわ。急ぎましょう!」
「立てる、大河君?」
「はい…」
「――クククッ、ようこそ、神の種族の住処へ…!」
悪魔のような不気味な声が密林に響き渡ったので、かえでさん達が武器を構えると、ピエールが3人の頭上に浮きながら姿を見せた。
「〜〜ピエール…!」
「パリシィの娘達はいないようだね?なら、楽勝だ…♪」
ピエールはアメーバの怪人の能力で分裂して分身達を作ると、素早く3人の周りを囲ませた。
「〜〜あなたに構ってる暇はないわ!そこをどきなさい!!」
「あはははっ、悲しいこと言わないでよ〜。本当は僕と戦うのが怖いんだろ?神に最も近い力を手に入れたこの僕とさぁ…!!」
「きゃあ…っ!?」
空中を蹴って間合いを詰めてきたピエールの分身達が一斉に振り下ろしてきた剣のような黒い刃を全て新次郎が一人で刀で受け止めた!
「え…っ!?」
「〜〜僕達はこんな所で…っ、負けられないんだあああっ!!」
新次郎は毛細血管が浮き出て充血した目をカッと見開くと、刀の柄を握り直し、一太刀でピエールの分身達を一斉に闇へと還した…!!
「この気配は…!まさか信長…!?」
「ラチェットさん、離れてて下さい!信長の力なら奴を…!うぅ…っ!!」
「〜〜大河君…っ!!」
「へぇ〜、君の体にいるのって織田信長なんだ?まさか巴里で日本の有名人に会えるとはねぇ〜」
「ハァハァ…!『――我は第六天魔王・信長…!貴様のような小者を斬ってもつまらん…。そこを通してもらうぞ!!』」
「大河君…!?」
「〜〜僕が小者だってぇ…!?…フフッ、言ってくれるじゃないか!冬牙と戦う前に僕が主人共々殺してやるよ…っ!!」
ピエールは再び自分の体を分裂させると、分身達をそれぞれトカゲ、鷲、豹などの様々な怪人に変化させた。
「〜〜く…っ!お二人は体力を温存しておいて下さい…!!――『うおおおおおっ!!』」
新次郎は信長の力を解放して二本の刀を振り回し、ピエールの分身達の返り血を浴びて笑いながら突き進んでいく…!!
「『ふはははは…!!斬って斬って斬りまくれぇーっ!!』」
「う…っ、うわあああっ!?」
信長によって肩から腰の辺りまで裂かれ、倒れた本体のピエール…!
そのあまりのグロさに、かえでさんは思わず悲鳴をあげそうになった。
「〜〜なんて力…。これが魔王・信長なのね…」
「〜〜大河君、もういいわ!もうやめてぇっ!!」
抱きついてきたラチェットの涙を目にして、新次郎はやっと我に返り、信長が表に出てくるのを煙のような霊力を体から放ちながら抑え込んだ。
「ハァハァハァ…、ラチェット…さん…?」
「〜〜どうしてこんな危険を冒すの!?力に頼りすぎて、冬牙の二の舞になったらどうするのよ!?」
「す、すみません…。僕、ラチェットさんを守ろうと必死で…」
「馬鹿ねぇ、私がただ守られてるだけの女だと思う?自分だけで頑張ろうとしないで…!大河君の傍にはいつも私がついてるんですもの!あなたの力になるなら、私はこの霊力をいつでも捧げるわ。それを忘れないで…!」
「ラチェットさん…。〜〜でも、ラチェットさんの霊力は回復したばかりですし…」
「ふふっ、二人で力を合わせれば大丈夫よ。本当、危なっかしい頑張り屋さんなんだから。やっぱり、あなたは私が支えててあげないとね…♪」
「はは、本当ですね…♪」
『――やっぱり、あなたは私がついていないとダメね』
新次郎と話す幸せそうなラチェットをかえでさんは羨ましそうに…、寂しそうに見つめていた。
昼間の仮面舞踏会の時に感じた俺の温もりを懐かしく、狂おしく抱きしめるように…。
「…急ぎましょう!早くしないと瘴気が街に漏れ出してしまうわ」
「そうね…!――大河君、私につかまって!」
「は、はい…!」
「〜〜ま…っ、待…てぇ…っ!」
ラチェットに肩を借りて走っていく新次郎を捕まえようと手を伸ばしたピエールだったが、思ってたより傷が深く、少し動くだけで血を吐いてしまい、追跡を断念せざるを得なくなった。
「〜〜この僕があんな小僧ごときに…っ!フフッ、だが、僕はすぐに強くなれる…!もっとたくさんのパリシィの力を取り込めば…っ!!――クククッ、このままで済むと思うなよ…!?」
「愛の魔法」その16へ
作戦指令室へ