大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その14



「――ピエールとはこのコンコルド広場で知り合ったんだ。昔から売れない大道芸人でね…、少ない見物客の前で懸命に手品するピエールをよく描いたものさ。この国では日本人とのハーフなんて珍しいからさ、モデルに描いたら売れるかもって、始めは面白半分に描いてたんだよ。だが、あいつはどんなに好奇の目で見られようが、馬鹿にされようが、世界一のマジシャンになる夢に向かって頑張ってたんだ…」

絵描きの男・アランは小梅の俺を木炭でキャンバスに描きながら、昔、バーで本人から聞いたというピエールの過去を教えてくれた。



純・ピエール・島本は、フランス人の父と日本人の母の間に生まれた。父は入籍どころか認知もしなかったので、ピエールは日本に帰国した母親に女手一つで育てられた。日本人のくせに金髪で気味が悪いと幼少期からいじめられたものだが、自分を愛し、守ってくれる母にだけは心を開いていたらしい。

だが、そんな母は朝から晩まで身を粉にして働いた疲れと心労が祟り、寝たきりになってしまう。将来を不安に思い、悪いことばかり考える母を少しでも元気づけようと、ピエールは拾ってきた道具で浅草の仲見世芸人の見よう見真似で手品を披露してみた。その時に見せてくれた母の笑顔に嬉しくなったピエールは、もっとたくさんの人に芸を見せて笑顔になってもらいたいと思うようになり、奇抜な外見を生かした奇術師になろうと志し始めたのだという。

高度な手品を研究して独自のタネを考えるうちに科学にも興味を持つようになったが、生活は苦しく、学校に行ける余裕はない…。若きピエールは昼は路上の取り締まりを行う警官の隙を狙って大道芸人として母の代わりに稼ぎ、夜は独学で科学を学ぶという日々を送るようになる。

科学を学んでいくうちにピエールは遺伝子学…、特に人間の生態と進化・能力の限界の分野に興味を持つようになったらしい。これが結果的にパリシィの能力に憧れた要因になったのだろうが、奇異の目で見られることの多かったハーフの自分をコンプレックスに感じていたのかもしれない…。

やがて、努力が実を結び、ピエールは『半西洋人の美形奇術師』と評判になり、浅草の舞台にも立たせてもらえるようになった。生活にもいくらかゆとりができ、母も病院で診てもらえるようになって、少しずつ快方に向かっていった。

自分を日本人とも欧州人とも言えぬ半端な容姿にし、母を捨てて苦労させた父を恨み、自分の人生がうまくいかないのはこの父の血のせいだと一時は決めつけていたピエールだが、この頃になると『生まれ持った血は関係ない。どんな人間でも努力すれば必ず道は開ける』と思えるようになり、自信をつけていた。

だが、人間というのは一度成功したら現状では満足いかなくなり、欲深く、大胆になるもの…。ピエールはいつかフランスの舞台に立って、自分達を捨てた父と再会することを夢見るようになる。成功した自分を父に見せつけ、いつか家族3人一緒に暮らせる日を夢見ていたのかもしれない…。

そして、金を貯めたピエールは単身フランスに渡り、世界一の奇術師を目指して、コンコルド広場で大道芸人としての生活を始めることにした。案の定、東洋の猿の血が入っていると馬鹿にされ、見物客も少ない毎日が続いたが、『日本で認められた自分なら、いつかフランスでも通用するだろう』という自信に支えられ、努力を惜しまずに頑張っていた。

しかし、フランスは日本以上に人種差別がひどく、日本人の血が入っているというだけの理由で、技術はあるのにステージに上げさせてもらえず、なかなか知名度を上げられないでいた。やっとステージの依頼が来ても、本業の手品はさせてもらえず、ピエールを面白半分に舞台に上げて見世物にする始末のものばかりだった…。

ピエールはそんな屈辱にも負けずに大道芸人を続けながら、やっとの思いで父の居所を探し当てたが、父は既に他の女を作っており、息子であるはずの自分とまともに取り合ってはくれなかった…。『母とは酒の勢いで関係を持っただけ。愛情はなかった』との父の捨て台詞にピエールは怒りを覚え、いつか父を見返すほどのマジシャンになってやると決意を固める。

そして、好機の時はやって来た。世界中の奇術師が集まる世界大会が万博が開かれている巴里で開催されることが決まったのである。

この大会に優勝すれば父も自分を認めてくれ、日本にも錦を飾って帰れるだろうと意気込んで出場したピエールだったが、その大会は出来レースで、始まる前から既に優勝者はフランス人の大御所マジシャンに決まっていた。しかも、自分の出番の最中には別のフランス人のマジシャンに嫌がらせで妨害され、大勢のフランス人の観客の前で恥をかかされたという。『東洋の猿はステッキではなく、バナナを持て』と、晴れ舞台に招待した母が見ている前で、ピエールは心無い罵声を巴里のマジシャン仲間達から浴びせられてしまったのである…。

プライドを傷つけられたピエールは夢を諦め、母と日本に帰ろうとした。だが、その帰りにサリュによってオーク巨樹が復活してしまい、巴里の街は壊滅の危機にさらされた。その際に母を失ったピエールは『キモノを着たジャポネ』の幽霊に出会い、頭がおかしくなったように一人で会話するようになって、やがて忽然と姿を消したのだとか…。

『――人間の憎しみと恨みは強大な闇の力を産む…。復讐したいか、お前をこけにしたこの街に…?お前の全てを取り上げたこの巴里が憎いか…!?』

きっと冬牙の悪霊はパリシィの力を求めて巴里を訪れた際、母を亡くし、夢を奪い、愚かな父と仲間達のいる巴里への憎しみに溢れたピエールの強い負の感情に引き寄せられるようにして彼と出会い、その憎しみの力に魅入られて仲間に引き入れたんだと思う。

愛する妻を亡くした冬牙と、大切な母を亡くしたピエール…。心の拠り所を失った者同士、惹かれ合うものがあったのかもしれないな…。

そうして、ピエールは肉体のない冬牙を一時的に自分の体に住まわせ、見返りに霊力と黒魔術の知識をもらって、科学と融合させた黒魔術を使っていたわけか…。



「――その後、アイツがどうなったのかはわからん…。たぶん日本に帰っちまったんだろうがな…。職業柄、いつもひょうひょうとしてて滅多に自分の感情を出さない奴だったが、お袋さんの死は相当堪えてたみたいだしよ…。〜〜後追い自殺なんて馬鹿な真似だけはしてなきゃいいが…」

「……そうだね…」

「〜〜店長さんって可哀想な人だったんだ…」

「もし、アイツに会うことがあったら伝えといてくれや。巴里に良い思い出はないだろうが、アコーディオンの音色が恋しくなったらいつでも戻ってこい。お前がどんなに突っぱねようが、俺は永久にお前の友人で、ファンだぜ…ってな」

「…えぇ、わかりましたわ」


アランさんみたいに気にかけてくれる人もいるのに…。〜〜それでも巴里を破壊するというのか、ピエールは…?

「――ところでさ〜、小梅ちゃん♪これから何か予定入ってる?」

「…はい?」

「よかったら、俺のアパートに来ない?ガキどもは同僚に預けるとかしてさ〜♪」

「〜〜えっ?えぇっ!?」

「ヌードモデルになってくれたら、もっといっぱいピエールの話を聞かせてやるんだけどなぁ…♪」

「〜〜いぃっ!?も、もう結構ですから…!!ありがとうございましたっ!!」

「ハハッ、恥ずかしがることはないんだよ、マドモアゼル。裸婦画っていうのは画家達が追い求め続ける芸術なんだからね〜♪」

「い…、いやあっ!離して下さい…っ!!」

「きゃあっ!小梅お姉ちゃん!!」

「こ…っ、小梅お姉ちゃんから離れろ〜っ!!」

「ああん?やるのか、クソガキ!?」

「〜〜ひ…っ!?」


〜〜しつこい男だな…。こうなったら顔面にパンチの一つでも――!

「――あんたっ!!」

「〜〜ゲッ!!か、母ちゃん!?」

「また若い女をうちに連れ込む気だね!?私が気づかないとでも思ってるのかい!?」

「〜〜その絵あげるよ!それからこれ、俺の蒸気携帯の番号。よかったら電話して♪」

「〜〜待ちな!アラン!!これで浮気は何度目だと思ってるんだ〜いっ!?」


女好きのアランさんはスケッチブックからピエールの絵と連絡先が書かれた小さな紙切れを小梅である俺に渡すと、武器代わりにフランスパンをブンブン振り回すでっぷりした奥さんから慌てて逃げて行った…。

〜〜奥さんがいるのに他の女に手を出すって…、さすが恋多きフランス人というべきか…。

「…あのおじちゃんの話、信じちゃってもいいのかなぁ?」

「店長さんのお話とつじつまが合うし、嘘ではないと思うけど…」

「〜〜店長さんが僕達を『羨ましい』って言ったのには、そんな理由があったんだね…」

「だから店長さん、巴里を憎むようになっちゃったのね…。その人の実力や人間性を見ようとしないで、人種の違いだけで差別するなんて、ひどい話だわ…」

「巴里も帝都と同じなのよ。人の夢や欲望が集まる都市には人の心にも魔が芽生えやすいの…。荒んでしまったピエールの心は、この地に潜む魔には恰好の餌だったに違いないわ…」

「それでも、巴里に住んでる人皆を殺していい理由にはならないよね!?」

「えぇ、巴里にいるのは悪い人ばかりじゃないわ。エリカお姉ちゃん達みたいに親切な人だってたくさんいるんですもの!」

「さっきの画家のおじさんだって、店長さんのこと心配してたもんね…!それに、こんな綺麗な街を壊したら勿体ないもん!」

「巴里にも良い所はいっぱいあるんだよって、ひまわり達が教えてあげなくちゃ!」

「えぇ。その為にも早くアモスの所へ向かいましょう!」

「おーっ!」「おーっ!」「おーっ!」

『――神の子であるパリシィがどうして異国の卑劣な種族と手を組まなくちゃならないのさ?』


…今日、サリュに言われた言葉をふと思い出した。

パリシィを始めとする欧州人というのは元々、民族意識や誇りが強く、他民族を排除したがる種族なのかもしれない…。だが、巴里華撃団が俺を受け入れてくれたように俺達は民族の違いを超えて、きっと分かり合えるはずだ…!

俺達が冬牙を倒し、ピエールを説得して全てを終わらせてみせる…!!

「――きゃああーっ!!助けて〜!!」

「見たこともない化け物が〜!!」

「…!な、何だ!?」

「小梅お姉ちゃん、あれ…!」


ひまわりが指差した先に顔を向けた俺達は信じられない光景を目の当たりにした…!

「キシャアアアッ!!」

帝都の地下にしか潜んでいないはずの降魔が巴里の街で集団で暴れているのである!

「〜〜うわああっ!?あ、あれって降魔だよね…!?」

「どうして巴里に降魔が…!?降魔は帝都にしかいないはずじゃ…!?」


降魔が巴里の街にいるところなんて留学中は見たことなかったが…、やはりこれも冬牙の仕業か…!?

「キシャアアアッ!!」

「危ない…!!」

「きゃああっ!!」「ひえええっ!!」「うわああっ!!」


〜〜間一髪のところで降魔を倒せたが、子供達が一緒だと戦いづらいな…。どこか避難できる安全な場所はないだろうか…!?

『――皆…!』

その時、俺達の元へ光が降り注いで、アモスの精身体が姿を現した。

「アモス〜!」

『〜〜君達が巴里へ来たことが冬牙様に知られてしまったようだ…。早く光の中へ…!』

「助かる…!」


子供達を光の中へ誘導しようとしたその時、上空から闇の衝撃波が襲ってきた!

「うわあああっ!!」

「〜〜小梅お姉ちゃん…!!」

「――人の過去を嗅ぎまわるなんて、悪趣味極まりないねぇ〜」


と、憎たらしく笑いながら長い舌を垂らし、宙に浮かぶピエールが姿を見せた。

「〜〜くっ、ピエール…!」

「店長さん、巴里の街を狙うのはもうやめて下さい!!」

「巴里にだって良い人はいっぱいいるんだよ!?」

「情に訴えようったって無駄だよ?僕はもう人間であることを捨てたんだからね…!――人のプライバシーを侵害する悪〜い子は、鬼の冬牙にお仕置きしてもらわないとねぇ…♪」


ピエールがマスク・ド・コルボーの能力で漆黒のマントを翻すと、俺と子供達の周囲は一瞬にして暗闇に包まれた!

「あぁ…っ!?」

「〜〜何でぇ〜!?お空が急に真っ暗になった〜!?」

『〜〜くっ、早く僕につかまって…!!』

「――させないよ…!!」


手を差し伸べるアモスの手を取ろうとした子供達をさらおうとしたピエールの前に俺はイメージで作り上げた真刀滅却を手に立ち塞がると、なでしこ達の背中を押して、子供達全員をアモスの光の中へ押し込んだ!

「小梅お姉ちゃん…!?」

「アモス、子供達を頼む!」

『…はい!』

「〜〜待って、アモス!まだ小梅お姉ちゃんが…!!」

「俺のことはいい!早く行け!!」

「〜〜小梅お姉ちゃ〜ん――っ!!」


誠一郎達が小梅の俺に手を伸ばそうとした直前にアモスは子供達を連れて光と共に消えてくれた。

だが、ホッとしたのも束の間、俺の隙を見逃さなかったピエールは素早く間合いを詰めると、衝撃波を俺の懐に打ち込んだ。

「かは…っ!?」

女性の体である俺は軽々と上空に打ち上げられ、気を失ったところをカラスの黒い翼が生えて飛んできたピエールにお姫様抱っこでキャッチされた。

「弱いくせに格好つけちゃって…。ま、一番の大物をゲットできたからいいけどね♪」

「――待ちなさい!」


ピエールに抱えられた俺が異空間の闇に呑み込まれる直前に、かえでさんが駆けつけてきた!

「巴里に降魔を放ったのもあなたね!?今すぐ撤退させなさい!!」

「フフッ、君か。来てくれると思ったよ」


ピエールはニヤッと笑うとマントを小梅の俺に被せ、手品の要領で消した。

「えっ?今のは…小梅さん…!?」

「ククッ、探す手間が省けてラッキーだよ。君を殺せば冬牙はゴキゲンになって、もっとたくさんの能力をくれるだろうしね…!」


ピエールは今度は豹の怪人に姿を変えると、四つん這いになって、かえでさんを威嚇した。

「ガルルル…ッ!!――グアアアアッ!!」

「う…っ!〜〜きゃああああっ!!」


かえでさんは間一髪で神剣白羽鳥を豹の口に挟めたので、なんとか牙で首を噛まれる事態は避けられたものの、猛獣との力の差は歴然だ…!

「〜〜くぅ…っ!うぅ…」

――カカカッ!!

「ギャアアアアッ!!」

飛んできたナイフが両目に刺さった豹のピエールはかえでさんを解放すると、地面の上でのたうち回り出した!

「かえで、大丈夫だった!?」

「ハァハァ…。助かったわ、ラチェット」

「…どうしてここに寄るって一言言ってくれなかったの?考えなしに突っ走るなんて、あなたらしくないわよ?」

「〜〜ごめんなさい…。でも、何だかここに一郎君がいるような気がして…。それで来てみたら彼の姿が…」

「えっ?」

「一瞬だったから、よくは見えなかったけど、あれは確かに…――きゃあっ!?」


その時、豹のピエールがかえでさんとラチェットの間を猛スピードで横切り、その勢いで二人はそれぞれ別方向に倒された。

「フフッ、逃がしはしないよ…♪」

「〜〜目を潰されても平気なんて、タフガイにも程があるわね…」

「――キエエエエッ!!」


そこへ背後から降魔達も迫り、かえでさんとラチェットは敵の軍勢に包囲されてしまった!

「〜〜しまった…!?」

「あはははっ!そいつらとこの僕に食われるの、どっちがいい?」

「〜〜くっ、帝都も巴里もあなた達の好きにさせるものですか…っ!」

「冬牙はどこ!?一郎君とあやめ姉さんに何かあったら、ただじゃおかないわよ!?」

「残念だけど、生きて会えるのは無理そうだよ?だって、君は今ここで僕の餌になるんだから…!!」


ピエールが血生臭い息を吐いて鋭い牙と爪を剥き出しにし、かえでさんとラチェットに飛びかかろうとしたその時…!

「――クアットロ・スタジオーニ!!」

「――ダス・ラインゴルト!!」


ローズピンクの光線シャワーとレイピアによって、かえでさん達を囲んでいた降魔達が消滅すると、奴らと入れ替わるように、かえでさんとラチェットの背後に花組が一斉に並んだ!

「帝国華撃団、参上!」

「皆…!」

「かえでお姉ちゃん、ラチェット、怪我してない!?大丈夫!?」

「えぇ、なんとかね」

「…ちぇっ、君といい大神といい、本当悪運強いよねぇ?」


ピエールはつまらなそうに顔をしかめると、今度は大きな翼が生えた鳥に姿を変えた。

「〜〜ま〜た違う怪人になったデ〜スか!?しつこいデ〜ス!!」

「…今度は鷲の怪人みたいだね」

「しつこいのは君達の方だろう?わざわざ海まで渡ってくるなんてさぁ…!!」

「きゃああああっ!!」


鷲の怪人となったピエールが翼で起こす突風と竜巻に圧倒され、かえでさん達は攻撃するどころか目を開けることすらできない…!

「あははっ、やっぱりパリシィの力ってすごいや!もっと…!もっと力が欲しいよ…!!全ての怪人の力を手に入れたら、きっと僕は神になれるぞ!!これはタネも仕掛けもない魔法の力なんだ…!!」

「――サクレ・デ・リュミエール!!」


その時、頭上から降り注いできた神の光がかえでさん達が受けた傷を塞いで癒し始めた…!

「この技は…!」

「――支配と暴力を好む者に神を名乗る資格はありません!」


声が聞こえてきた方に皆、一斉に視線を向けると、光武Fに乗ったエリカ君達・巴里花組が一列に並んで臨戦態勢を取っていた。

「巴里華撃団、参上!」

「巴里花組の皆さん…!」

「皆さ〜ん、お久し振りで〜す!」

「ふーん、君達が巴里華撃団か…。噂には聞いてるよ、オーク巨樹の暴走を止めた英雄なんだって?」

「え〜♪英雄だなんて、そんな〜♪」

「…ハン、敵に褒められて喜ぶ馬鹿がどこにいんだ?」

「ここにいますよ〜?」

「ピエールさん…とおっしゃいましたか?同じパリシィの私達なら、あなたを止められるはずです…!」

「そういうわけだから、こいつはボク達に任せてよ!」

「頼んだわよ!」

「私達は降魔を!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」

「エリカ、いっきま〜す♪――どっせ〜いっ!!」


と、エリカ君はやるき満々でマシンガンをぶっ放したが…。

「〜〜あ…、あれあれぇ…?」

肝心のピエールは無傷のまま残し、周りの広場の公共物は全てマシンガンによってボロボロに壊されてしまった…。

「フフッ、わざわざ僕が壊すまでもないみたいだね?」

「〜〜エリカ!公共物には気をつけろといつも言っておるだろうがっ!!」

「〜〜あはは…、エリカ、失敗しちゃいましたぁ〜…」

「――北大路花火、一の舞!金枝玉葉!!」


花火君の矢の連射をピエールはバックステップでよけると、ニヤッと笑って元の姿に戻った。

「なかなかやるねぇ。それじゃ、君達にはこの怪人でいこうか!」

ピエールは体を覆って隠していた漆黒のマントを払うと、今度はアルマジロのように体を丸め、固くした。

「あれってアルマジロかなぁ?」

「な〜んか丸っこくって可愛いですね〜♪」

「〜〜ふざけおって…っ!はあああああっ!!」


グリシーヌは斧をピエールに振り下ろしたが、思った以上に体が硬く、傷一つつけられない!

「〜〜くっ、なんて固さだ…!?」

「フフッ、その程度?」


アルマジロの怪人となったピエールは丸まったまま転がり始め、エリカ君達に体当たりしてきた…!

「きゃあああっ!!」

「〜〜まずはアイツの防御を崩さないと…!」

「〜〜それ以前に、動きが早すぎて狙いが定まりません…!」

「…隊長、どうすんだー?指示がなきゃ動けねぇだろーが」

「えっ?そ、そうですねぇ…。じゃあ、鬼ごっこで追い詰めましょう!」

「〜〜ズルッ!」

「〜〜お…、鬼ごっこだとぉ!?」

「グリシーヌさんは缶蹴りがいいですか?」

「〜〜そういう問題ではないっ!!」

「ククッ、鬼ごっこかぁ。――面白そうだね…!」

「えっ?〜〜きゃああ〜っ!!」


ピエールはほくそ笑むと、猛スピードで転がりながらエリカ君を追いかけ始めた…!

「〜〜あ〜ん!タイムですよ、タイム〜!!最初の鬼はエリカですってばぁ〜!!」

「〜〜ハァ…。やっぱり隊長、僕がやればよかったかな…?」

「だが、チャンスだ!エリカが囮になっている間に我々で仕留めるぞ!!」

「えぇ!」

「――グロース・ヴァーグ!!」

「エリカ、よけてねー!?――マジーク・ボンボン!!」

「〜〜ひえぇ〜っ!!グリシーヌさんもコクリコも手加減して下さぁ〜い!!」

「事態が事態なんだから文句言わないの!」

「〜〜ロベリア!貴様も戦わんかっ!!」

「…チッ、わーったよ。――フィアンマ・ウンギア!!」


ロベリアに炎をつけられたピエールは炎のタイヤのように転がり始めたので、エリカ君はスタントマンのように逃げ続ける!

「〜〜ひええええ〜っ!!」

「エリカ、危ない…!!」


すると、運良く蓋が外れていたマンホールに落ちたエリカ君は間一髪のところで猛追から逃れられ、ピエールは炎をまとったまま近くの公衆蒸気電話ボックスと駐車してあった蒸気自動車に激突し、爆発を起こしたので、その場にいた市民達は皆、慌てて逃げ出した…!

「〜〜あ〜あ…。請求書の山が目に浮かぶようだね…」

「細かいことは気にすんな。結果オーライだろ?」


すると、マンホールをよじ登ってきたエリカ君が状況を見て、ニコニコしながらロベリアに向かって親指を立てた。

「さっすがロベリアさん!バッチグ〜な作戦でしたね〜♪」

「ホッ、エリカさんも無事のようですね」

「――クククッ、さすがは我が同胞だ」


そう笑いながらピエールは、爆発の炎の中から大した傷も負わずにエリカ君達に向かって歩いてきた。

「〜〜貴様、まだ生きておったか!?」

「もっと君達と遊んであげたいけど、残念ながら霊力が尽きてしまったみたいだ。――君達のパリシィの力もいずれ僕のものにしてやるからね…!」


と、ピエールは忌々しい笑みを浮かべながら瞬間移動して消えていった。

「やりました〜!エリカ達の勝ちですね〜♪」

「勝利のポーズ!……にはまだ早いか…」

「――皆さーん!」


すると、かえでさん達も降魔との戦いを終えたようで、エリカ君達と再び合流した。

「ありがとうございました!エリカさん達が来て下さらなかったら、どうなってたことか…」

「そんな…ぽっ。皆さん、ご無事で本当によかったです」

「ったく、今日はせっかくのオフだってーのによぉ…」

「仕方なかろう。またいつ奇襲されるかわからん。早いうちに拠点を叩いておくべきだろう…!」

「拠点の場所、わかったんか!?」

「うん!先に着いた三人娘さんとシンジローのお陰でね!」

「よっしゃあ!これで冬牙の奴をぶん殴りに行けるぜ!!」

「…手加減してやりなさいよ、体は隊長のなんだから?」

「へへっ、わかってるって!」

「それでは皆さん、シャノワールへレッツゴーで〜す!」

「あ〜っ!エリカさ〜ん、私とメルの台詞取らないで下さいよぉ〜」


さくら君達がエリカ君達と話しながら歩いていく中、かえでさんは小梅の俺を目撃した場所を振り返り、静かに見つめた。

(一郎君…。さっきのは幻なんかじゃないわよね…?)

不安そうなかえでさんの肩にラチェットは優しく手を添えて微笑んだ。

「大丈夫よ、かえで。大神隊長は生きて、あなたが来るのを待ってるわ」

「ラチェット…。――えぇ、きっとそうよね…!私達も行きましょう!」

(――そうよ、私と姉さんの一郎君がそう簡単に死ぬものですか…!希望を捨てなくてもいいのよね、一郎君…?)


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