大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その13



ここはオーク巨樹の核がある中枢部。現在、冬牙が本拠地として使っている場所だ。

化け物が流す血のように赤黒く変色した核の周囲にオーク巨樹は痩せ衰えたおびただしい数の大樹の根を張り巡らせ、核を安易に使わせまいと抵抗を試みているが、その最後の砦が落ちるのも時間の問題だ…。

あやめさんの体を借りて覚醒した美貴さんは、その張り巡らされている巨樹の根の一本に腰掛け、すすだらけになって古ぼけてしまった髪飾りを寂しそうに見つめている。

その髪飾りとは、儀式の前に彼女があやめさんを守る為につけてやったもの…。生前、愛する冬牙からもらった、あの大切な髪飾りだった。

「『――懐かしい物を持っているな』」

笑みを浮かべた冬牙は背後から美貴さんを抱きしめると、彼女の細く長い指と透き通るような白い肌に優しく口づけした。

「『そんな物など、もう捨ててしまえ。お前の美しい指が汚れてしまう…』」

「『……』」

「『そんなに髪飾りが好きなら、もっと高価なものをくれてやろう。今の私に手に入れられぬ物などないからな』」

「『…っ!』」


美貴さんは眉を顰めて冬牙を払うと、髪飾りを大事そうに掌で包みながら立ち上がった。

「『美貴…?』」

「『……あなたは何もわかってらっしゃらないのですね…。この髪飾りをあなたから頂いて、私がどれだけ嬉しかったか…。〜〜この身を炎に焼かれている間もどれだけ励まされたか…!』」

「『一体何が不満だと言うのだ?私とお前は共に闇の中から甦ることができた!果たせなかった夢の続きを、やっとこの時代で叶えられるのだぞ!?』」

「『〜〜魔の力を借りてまで甦りたくなどありませんでしたわ!!こんな辛い思いをするなら、あのまま眠り続けた方がどんなに幸せだったか…!!』」

「『美貴よ…、一体どうしたと言うのだ!?私と暮らす日々をあんなに望んでいたではないか…!!』」

「『あなたが変わってしまったからよ…!!力づくで欲しい物を奪えれば他の者はどうなっても構わないのですか!?〜〜今のあなたは、私を凌辱したサタンと同じです…っ!!』」

「『〜〜この私が…、サタンと同じだと…!?』」

「『えぇ、そうよ!今のあなたは私への歪んだ愛で周りが見えなくなっているのです…!!〜〜私を失ったことで、あなたの心は深い闇を植えつけられてしまったんだわ…』」


冬牙の心音と心の悲鳴が共鳴するように俺の心臓にも響いてくる…。

美貴さんは涙を流し、憐れみながら冬牙を強く抱きしめた。

「『お願いです、冬牙様。優しかった昔のあなたに戻って…!そして、共に極楽へ参りましょう。ここは私達のいるべき時代では…――あぁっ!?』」

だが、冬牙は美貴さんの言葉に耳を貸すどころか、オーク巨樹の根で美貴さんの手首を縛り、足を浮かせて吊し上げてしまった。

「『――そうして、また私を拒むのだな…?〜〜お前があの時、私の手を取ってさえいれば悲劇は起きずに済んだものを…っ!!』」

「『きゃああああ――っ!!』」


冬牙が怒りを露わにすると、俺の肉体から闇のオーラが大量に放出した。

それに触れた巫女装束が黒い炎で燃えていき、美貴さんの美しい裸体を露わにしていく…!

「『安心しろ、愛するお前を火あぶりにはしない。…だが、あまり私を怒らせるなよ?たとえ降魔といえど、今の私の力ではお前など簡単に殺せてしまうからな…!』」

「『あぁぁ…っ!いやあ…ああっ!!』」


冬牙は美貴さんの乳房をぐっと掴み、強く揉みながら美貴さんの首筋と鎖骨に舌を這わせていく。

「『お前の体に触れていいのは私だけだ。あの頃を思い出せ、美貴。そうすれば難なく受け止められるはずだ』」

「『ああああああ〜んっ!!』」


冬牙は執念深く、念入りに美貴さんの全身を舐め回し、まるで獣のマーキングのように美貴さんのきめ細やかな肌にキスマークと歯形を残していく。

「『ふうぅ…っ。〜〜お願いです、冬牙様!これ以上、私の為に悪事を重ねないで下さいまし…!』」

「『戦事に妻が口を挟むな…!!』」

「『ひいいっ!?』」

「『お前を甦らせる為に私がどれだけの犠牲を払ったか知らんだろう!?〜〜当主の座を追われ、アモスにも裏切られた今の私にはもうお前しかおらぬのだ…!』」

「『冬牙様…。〜〜くうん…っ!』」

「『フフ、久し振りに疼くであろう?どうだ?ここがいいのだろう?』」

「『ひあああっ!!あああんっ、あああ〜っ!!やあああああ〜っ!!』」


キス越しに、摘ままれた乳首から指先で闇の霊力を注がれる度、それは媚薬のように美貴さんの五感を鋭くして、感度を向上させる。

冬牙に少し触れられただけで美貴さんの体は跳ね上がるほど感じるようになり、失禁したと見間違うほどに愛液をたれ流して、オーク巨樹の根を卑猥に濡らしていく。

「『黒魔術のお陰で、もうこの身が朽ちることはない。永久に私の慰み者にしてやる。夫を悦ばせるのが妻の役目だからな』」

「『いやあああああっ!あっあっあっあっ……!!』」

(ダメ…、感じたら…闇に堕ちてしまう…)

「『ああああっ!はあああっ!!あああああああ〜んっ!!』」

(でも、気持ちいい…っ!久し振りの冬牙様のお勃起の味…♪もう二度と味わえないと思っていたのに…!!)

「『はああああああっ!!あふっ、んふううっ!!ううううう…っ!!』

(ダメ…!あやめさんの体だと、大神さんの体に敏感になっちゃって…っ)

「『くはあああっ!!すご…いぃ!!冬牙…様ぁ…!お…っ、おおおおおおっ!!』」

(もう…我慢できない…!)

「『んうんんんっ!!かはぁ…っ!?あおおおおおっ!!あはあああああ〜っ!!』」

(堕ちてしまう…!〜〜底なしの闇に…堕ちるぅ…!!)

「『ああああああ〜っ!!気持ちいい〜っ!!果てるぅぅ〜!!果てちゃうぅ〜!!』」


そのうち美貴さんは自ら腰を前後に激しく振り出し、笑みを浮かべて冬牙の体を堪能しながら一際大きく、艶のある声で達した。

「『はぁはぁはぁ…、冬牙…様ぁ……♪』」

絶頂の瞬間、握りしめていた髪飾りを落としてしまったが、美貴さんはそれに気づかず、汗びっしょりで肩で大きく息をしながら冬牙に微笑むと、積極的に唇を奪って、久し振りの夫の体を再び求め始めた。

「『フフ、その調子で私を求め続けろ。子供は多い方がいい。先立った豊春の為にも、これから弟と妹をたくさん作ってやろうではないか』」

「『あああああ〜っ!!気持ちいい〜っ!!あああああっ!!もっとぉ〜!!もっと突いて下さいまし、冬牙様ぁ!!んはああああああああ〜っ!!』」

「『…声が届かないほど交わいに夢中か。ククッ、いいだろう。今日は甦りを果たした記念に心行くまで楽しもうぞ…♪』」

「――お楽しみ中のところ失礼するよ〜」

「『…ピエールか。夫婦の営みを覗き見とは感心せんな』」

「『んひいっ!?あはああああああ〜っ!!おほ…っ、おっおっおっ…♪』」


ニヤニヤしながら歩いてきたピエールを冬牙は鬱陶しそうに睨みながら美貴さんの中に出し、また抽送を繰り返す。

「だから謝ったじゃない。君こそちゃんと聞いてるの?」

「『…冷やかしなら立ち去れ!』」

「ハハ…!いいけど、そんなことしてて大丈夫?あいつら巴里に来ちゃったみたいだけど?」

「『…帝国華撃団か?』」

「――それから、もう一グループ…♪」


ピエールは黒い炎に一太と子供達のリアルタイム映像を映して見せた。

「『〜〜この霊力の波長…!まさかこいつは…!?』」

「あははっ、アモス君がまた余計なことしちゃったみたいだよ?懲りないよねぇ、あの子も♪」

「『〜〜アモスめぇっ!!主人の私をどれだけ愚弄すれば気が済むのだっ!?』」

「『きゃあああああああああ〜っ!!』」


爪を肌に食い込ませ、もっと奥まで貫き…。冬牙は怒りとイライラをぶつけるように美貴さんの中に出し入れする腰の動きをさらに激しくし始めた!

「『隼人の気配が近づくのは感じていたが…、悪運の強い男だ』」

「向こうからやって来るなんて好都合だよね〜。一緒にいる子供共々、今度こそ霊力を吸い尽くしちゃおうよ♪」

「『あぁ。そうすれば私の霊力も増し、もっと美貴を悦ばせてやれるからな…♪』」

「『んぎいっ!?ひああああああああっ!!あぁ…っ!も、もう…や…め…っ!!』」

「あははっ!そんなに乱暴にヤッちゃ、せっかくの器が壊れちゃうよ?」

「『今の美貴は降魔だ。イキッぱなしにされた程度では死なんだろう。…うっ!』」

「『ひはああっ!!いやああああああああ〜っ!!感じちゃうぅ〜!!』」

「『フフ…、強情な美貴も少し可愛がってやるだけでこれだ。今の私に逆らえる者などいやしない…!――ピエールよ!奴らを生け捕りにして、ここへ連れて参れ!!』」

「いいけどさ〜、それにはもっと怪人の力を増やさないとなぁ〜?」

「『…フン、手間のかかる奴め』」


冬牙はオーク巨樹の根に手を当て、交わいで高まったばかりの霊力を注入すると、支配したオーク巨樹の核から黒い光線をピエールに当て、新しい怪人の力を与えた。

「フフッ、メルシィ♪」

「『…奴らの力を取り入れるのもほどほどにしておけ。お前の方が壊れることになるぞ?』」

「あはは、ご忠告どうも♪」

「『あはあああああああ〜っ!!愛してますわ!冬牙様ぁ〜っ!!もっとぉ!もっとこの美貴を辱めて下さいましぃ〜っ!!』」

「『ククク…、お前の体もなかなかだったが、この大神とかいう男の肉体は最高だな!いくら霊力を使っても疲れることを知らぬ…!!』」

「それはよかったねぇ。――せいぜい今のうちに楽しんでおきな…♪」


ピエールは美貴と夢中になってセックスを続ける冬牙を見やると、不気味に笑いながら中枢部を後にした…。



アモスの光に導かれ、俺となでしこ達はコンコルド広場までやって来た。

「コンコルド広場だ!懐かしいなぁ…!」

すると、光は役目を果たし終えたのか、俺達の案内を終えると、スーッと空気に紛れるように消えていってしまった。

「あ!光が…!?」

「ということは、この広場のどこかからオーク巨樹へワープできるのかもしれないわね」

「僕達はここで待ってればいいのかな?」

「アモスが迎えに来てくれるのかもしれないしね!」


パリシィの力をもらったお陰で、オーク巨樹の気配をここの広場一体に強く感じるのは確かだ。だが、どうして途中で光が消えてしまったんだろう…?

とりあえず、なでしこの言う通り、歩き回ってみるとするか――。

「――わぁ〜!すっご〜い!!」

「え…?〜〜お、おい!勝手に離れるなよっ!!」

「あ…、ごめんなさい…」

「でも、あの人達すっごいんだよ!?一太君も見てみなよ〜!」


なでしこ、ひまわり、誠一郎の子供達が夢中になっていたのは大道芸人だった。

竹馬をつけたピエロのジャグリングに、シルクハットから鳩を出す手品師に、パントマイムをするコンビ…。…命を狙われているとも知らず、子供達は珍しいパフォーマンスの数々に大はしゃぎだ。

広場には俺達以外にも観光客や巴里市民達がたくさんいる。…この中に冬牙のスパイがいないとも限らないからな。決戦に向けて、早く子供達をアモスの元へ連れて行って、保護してもらわなければ…!

「ね、ねぇ皆、早くアモスに会いに行った方がいいんじゃないかな…?」

「あ…、そうだね!」

「ひまわりも早く行きましょ!」

「え〜?あとちょっとだけ〜」

「駄目だよ、ひまわり!」

「お父さんとお母さんを助けられなくなってもいいの!?」

「〜〜ぶ〜…。だって光は消えちゃったんだよ?どうすればいいかわかんないじゃ〜ん」

「それじゃあ、広場にいる人に話を聞いてみましょうよ。何かオーク巨樹のこと知ってるかもしれないわ」

「いいよー。じゃあ、なでしこは誠一郎と聞いてきて!ひまわりは一太君と聞いてみてくるから〜♪」

「〜〜んもう、ひまわりっ!?一太君から離れなさいよぉ〜!!」

「あはははっ!べ〜だっ♪」


〜〜ははは…、また始まったか…。

「――コラ、ガキども!仕事の邪魔だ!!どけっ!!」

「〜〜きゃあっ!?」「〜〜ひえっ!?」「〜〜ひいっ!?」


騒いでいたら、近くで風景画を描いていたフランス人の絵描きに怒られてしまった…。

「す、すみません…」

「ったく、チップも払えんガキがうろつきやがって…」

「んまぁ、失礼な人ね!」

「そんなへったくそな絵じゃ売れないよ〜だっ!」

「〜〜なっ、何をぉ!?」

「〜〜うわああ〜っ!!ごめんなさい、ごめんなさい…!!」

「ほら、ひまわりちゃんも謝るんだ!」

「ぶ〜…。ひまわり、本当のこと言っただけなのに〜」

「私もひまわりに同感だわ。それに、子供の言うことにいちいち怒るおじさんって大人げないと思う!」

「〜〜ぐっ!?」


……言われてみれば、そうかもな…。

「ったく、最近のガキは生意気ばかり言いやがる…」

絵描きの男が移動しようとキャンバスを持ち上げた拍子にスケッチブックが落ちた。

「あ…、落ちましたよ?」

「ん?あぁ…」


何気なく見たスケッチブックだったが、見開きになっていたページには『悪い魔法使い』であり、『百獣の怪人』のピエールにそっくりな奇術師の絵が描いてあった…!

「あぁ〜っ!!」

「これ、『ぱぴよん』の店長さんだよね!?」

「その絵、見せてもらってもいいですか!?」

「駄目だ!どうしても見たきゃ、パパとママから金もらって、俺の絵を買うこったな。ほら、仕事の邪魔だから帰りな!しっしっ!」

「〜〜ムキ〜ッ!!あのおじちゃん、超〜ムカつく〜!!」

「私達が子供だからって馬鹿にしてるのよね!」


あの絵の奇術師…、俺の体を乗っ取った冬牙の瞳を通して見る『悪い魔法使い』にそっくりだった…。もしかして、途中で光が消えたのは俺達をさっきの男と会わせる為だったのか…?

…今はじっくり考えてる場合じゃないな。さっきの出会いが偶然とも思えない!先程の男と話せば、ピエールの正体がわかるかもしれないな…!〜〜だが、子供の姿だと相手にされないだろうし…。

――よし、思い切ってここは…!

「ゴメン!ちょっとトイレ…!!」

「えっ?」

「一太くーん!?」


俺は誰にも見られないように公衆男子トイレの個室に隠れると、パリシィの能力で子供の大賀一太から大和撫子の小野小梅に姿を変えた。

「ハ〜イ♪」

「ハ…ハ〜イ…?」


男子トイレから出てきた女の俺にトイレに入ろうとした男達は驚いていたが、今は緊急事態だ。細かいことは気にしないでおこう!

「一太君、どこ行っちゃったのかなぁ…?」

子供達は…いたいた!おとなしく待ってられたみたいだな。

「ハ、ハ〜イ♪」

「…?お姉ちゃん、だぁれ?」


〜〜あ、あれ…?そういえば小梅の俺が舞台に立ってるとこ、子供達は見たことないんだっけ…。

「あ…!もしかして、乙女組の小野小梅さんですか?」

「なでしこ、知ってるの?」

「えぇ。昔、お母さんとダブル主演で舞台に立ったことがあるって聞いたことあるわ。えっと、演目は確か――」

「〜〜そ、そう!!私がその小野小梅よ!!今、お芝居の勉強で巴里に留学しているの♪」

「へぇ、そうなんだ〜!」

「留学かぁ。格好良いですね〜!」


〜〜ふぅ…、なんとかごまかせたか。女性同士の恋愛がテーマの芝居なんてアブノーマルな内容、子供の教育上良ろしくないからな…。

「それにしても、一太君、遅いね…?」

「うーん…。どこまで行っちゃったのかなぁ?」

「え、えっとね…、一太君、お腹が痛くなっちゃったみたいだから、今、私のアパートで休ませてるわ」

「えっ?一太君、大丈夫なの!?」

「私達もお見舞いに行かないと…!!」

「〜〜たっ、大したことないから大丈夫よ!事情は一太君から聞いたわ。一太君が元気になるまで、お姉さんと情報を集めてましょう?」

「本当ですか?助かります!」

「小梅お姉ちゃんがいてくれたら安心だよね!」

「ふっふっふ…、誠一郎はパパに似て、年上がタイプだもんね〜♪」

「えっ?〜〜ち、違うよっ!」

「かすみお姉ちゃんの次は小梅お姉ちゃんか〜♪」

「なんとな〜く誠一郎の好み、わかってきたかも♪」

「〜〜あうぅ…、なでしこまでひどいよぉ…」


ははは、誠一郎ったらウブで可愛いな。

えーっと、さっきの画家は…。――あ、いたいた。場所を変えて、まだ絵を描いてるみたいだ。

「あっ、さっきのへたっぴおじさ〜ん!」

「しっ!あのおじさん、『悪い魔法使い』の店長さんのこと何か知ってるかもしれないわ。ちょっと聞いてみましょう?」

「き、気をつけて下さいね…?」

「ふふっ、私に任せて♪」

「――あっ、さっきのガキども…!まだいやがったのか!?」

「〜〜ひいっ!?」

「す、すみません、ムッシュ。ちょっとお尋ねしたいことが…」

「おっ、イイ女…♪――ゴホン。私に何か用ですかな、マドモアゼル?」

「素敵な絵を描かれる画家さんだなぁと思って…。よかったら見せて下さいません?」

「ほっほっほ、もちろんですとも♪この奇術師の絵ですかな?」


――うん。やっぱりこの絵の奇術師、ピエールに間違いなさそうだ!

「この絵のモデルの方とお知り合いなんですか?」

「ピエールでしょう?純・ピエール・島本。このコンコルド広場で大道芸人をしていたハーフの男ですよ」

「やっぱり…!ピエールについて、詳しいお話を聞かせて頂けませんか?」

「君、ピエールのファンかい?いいよ、絵のモデルになってくれたら教えてあげる♪君の絵なら今度のコンクールも特選間違いなしだろうしねぇ」

「え?〜〜えぇ、わかりましたわ…」


〜〜小梅になった途端、態度が180度変わったな…。…まぁ、作戦成功なわけだし、ここは素直に喜んでおくとするか。

「う〜ん、いいねぇ♪そのまま動かないでよ〜?」

画家の男は小梅の俺を椅子に座らせ、鼻歌交じりに絵を描き始めた。

〜〜本当はこんなことしてる場合じゃないんだが、情報を聞き出す為には仕方ないか…。

「ね〜ね〜、おじちゃん!ひまわりもモデルやってあげよ〜か♪」

「うっせぇ!ガキは静かに遊んでろ!」

「〜〜ぶぅ〜…」

「オッホン!ハッハッハ、小梅さん…だったかな?俺はアラン。よろしくね♪」

「よ、よろしくお願いします…」

「巴里へは観光に?まさかとは思うけど、その子達、君の子供じゃないよね?」

「〜〜え、えぇ。職場の上司のお子さんで、今預かってて…」

「あはは、だよね〜」

「うふふ、日本語お上手なんですね?」

「フフ、だろう?昔、ピエールからよく教わったものだよ。君みたいな可愛い日本人の観光客を口説く時に便利だからねぇ♪」

「〜〜は、はぁ…」

「ハァ…。…にしてもピエールの奴、今どこにいるんだろうなぁ?あれから全然連絡取れなくなっちゃってさ…」

「あれからって?」

「前に巴里の街に変な大樹が現れたことがあってな…、あの日からずっとさ。ピエールはその大樹から出てきた機械仕掛けの兵隊に母親を殺されてね…」


機械仕掛けの兵隊って…、ポーンのことだろうか?

……うさんくさそうな画家だが、小梅に近づきたいが為についた嘘とも思えないしな…。ピエールの知り合いみたいだから、とりあえず信じて話を聞いてみるか。


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