冥王せつな誕生日記念・特別短編小説2017
「愛の思い出」その8



――チュンチュン…。――チュン…♪

仲良くベランダにやって来た番の鳥のさえずりに私はフ…ッと目を覚ました。

気が付くと、朝日がカーテンの隙間から差し込んで、部屋もうっすら明るくなっていた。

朝焼けの色…、――愛しのキング・エンディミオン様のマントと同じ、美しい色だわ…♪

あの後、何度も衛さんとお互いを求め合い、愛の言葉を囁き合っているうちに、いつの間にか眠ってしまったようで…、私はプリンセス・プルート風の黒いロングドレスを淫らにはだけさせて、ベッドに横になっていた。

隣で眠る衛さんの腕の中で、彼の足に自分の足を絡ませながら…。

「――くぅ……すぅ…すぅ……」

衛さんもあの後、眠ってしまったようで、上半身裸のまま、穏やかに寝息を立てている。

「ふふっ…。――おはよう、衛さん…♪」

衛さんの無防備な…、私に気を許していることがわかるその寝顔が愛しくて、私は起こさないように気をつけながら、そ…っと衛さんの頬にキスをして、寄り添って甘えてみた。

『――愛してるよ、せつな』

そう言って、昨晩はこのベッドの上で何度も愛してくれた…。

全身についたキスマークを見る度に、一晩中続いた激しく官能的な…、それでいて、甘くとろけるような衛さんとの情事を思い出して、照れくさくも嬉しくもなる…♪

――目が覚めると、大好きな衛さんがすぐ隣にいて、彼の顔をこんなに近くで…、誰にも遠慮する必要なく、こうして心ゆくまで見つめていられる…♪

ずっと憧れていたシチュエーションだった…。今までのこと全部、夢じゃなかったのね…♪――ふふふっ、シ・ア・ワ・セ…♪



――トントントントン…。

「――ん……」

しばらくして、衛さんが目を覚ました。

包丁とまな板が奏でる心地良い朝定番のリズムと、出来上がってきたお味噌汁の優しい、良い匂いにつられたらしい。

「おはよう、お寝坊さん♪」

「おはよう、せつな。休みの日でも早起きだな?」

「ふふっ!何だか寝ているのがもったいなくて…♪今日のご飯は私が作る約束だったでしょ?」

「あぁ。せつなの手料理、楽しみにしてるよ」

「ふふっ!衛さんの為に張り切っちゃうわね…♪」


エプロンを着け、台所に立って料理している私に甘えるように衛さんは後ろから抱きしめてくれた。

「良い匂いだ…。何作ってるんだ?」

「豚肉と野菜炒めよ。昨日は高カロリーな物を食べちゃったから、今朝は健康重視でね?」

「さすが養護教諭の栄養学!〜〜うわ…。でも、ピーマン入りかよぉ…」

「あら、体に良いのよ?来月号の保健便りに、この健康レシピを載せようと思って♪」

「…ちぇっ。――こうなったら、君の嫌いなナスも入れてやる〜っ!!」

「〜〜あぁっ!?なんてことを…っ!!」

「ははっ、ピーマンを入れたお返しだよ♪」

「んもぉ、衛さんったら…。――ふふふふ…っ!」

「あはははは…!」




こうして出来上がった二人分の料理を私は衛さんとダイニングテーブルに並べた。

二人分のランチョンマットにお箸にお皿にお茶碗…、そして、ハートが付いたペアのマグカップ。どれも、ちゃんと私の分も揃っているのね…♪

「冷蔵庫の余り物で作ったから、昨日のディナーと比べたら質素だけど…」

「いいよ、せつなが作ってくれたものなら何でも。――おっ、肉じゃがも作ってくれたのか!せつなの肉じゃが、好きなんだよなぁ〜♪」

「ふふっ、良かった♪」

「肉じゃがに野菜炒めに味噌汁か…。帰省した時にお袋が作ってくれる料理って感じだな」

「〜〜何か言った?」

「ハハッ、なんならエプロンじゃなくて割烹着を着ればよかったのに♪」

「……はい、ご飯」

「〜〜せつな先生…、茶碗の大きさに対して、ご飯の量が圧倒的に少ないんですが…?」

「ふふっ、割烹着を馬鹿にした罰よ♪」


〜〜まったく…。この世界の衛さんは、私のオバさんキャラをすーぐイジるんだから…。

――でも、こういう風にふざけ合って、じゃれ合うのも悪くないかもね…♪

私の世界の衛さんも、いつかこういう風に私にもっと心を開いてくれるようになるといいな…♪

「うん、どの料理も美味いよ!さすが女子力高いせつなだな」

「本当?フフッ、よかったぁ」

「来月からは、こうして毎日君の手料理が食べられるようになるんだな…。せつなの手料理、大好きだ…♪」


――きゅん…っ♪

衛さんが当たり前のように…、私の手料理を美味しそうにたくさん食べてくれている…♪

そして、その光景をまるで新婚ホヤホヤの夫婦みたいに幸せそうに見つめる私…♪ふふ!

元の世界に帰った後も時々、今みたいに衛さんに手料理を持って行ってあげようかしら?

大学生の一人暮らしですもの!栄養バランスだって、どうしても偏っちゃうわよね…。

〜〜って、嫌だわ。私ったら恋人っていうより、やっぱり母親目線になっちゃうみたい…。

「――洗い物、手伝うよ。昨日の分も溜まってることだしな」

「ありがとう。じゃあ、私が洗うから、衛さんは隣で拭いてくれる?」

「あぁ、わかった」


ふふっ、こうして衛さんとキッチンに並んで立つの、夢だったのよね…♪

「…あ!そういえば、映画借りてきたんだ。洗い物終わったら一緒に見るか?」

「いいけど…、何の映画?」

「『美しき片思い』。この前、見たいって言ってたろ?」


その映画…!公開されたのは50年以上前の洋画だけど、物語が気になってて、ちょうど借りてこようと思ってたところなのよね。

まさか、この世界の私も同じ考えだったなんて…。ふふふっ!

『――ごめん、ステファニー。俺達、結婚するんだ…』

『そう…。……おめでとう、チャーリー…』

『……君の正直な気持ちを聞かせてほしい。〜〜本当はわかってたんだ、君の気持ち…。君が俺をいつも遠くから優しく見守ってくれていたことも…!』

『……あなたの幸せは私の幸せでもあるのよ…。どうか私が可愛がるあの娘と幸せになってね…!〜〜さようなら…っ!!』

『待ってくれ…!〜〜ステファニー…ッ!!』


壮大な音楽と共に映画が終わり、エンドロールが流れてきた。

「う〜ん…、ヒロインが報われないっていうのは何となくタイトルから推測できたが…。俺としては、やっぱりハッピーエンドの方がいいかな…。せつなもそう思…――っ!?」

「〜〜ずずずず…っ!うぅ〜…、ステファニ〜…。ぐすん…ずず…っ、ぐすん…っ」

「〜〜せ…、せつな…!?」


ソファーに座って鑑賞していた衛さんは隣に座っている私を見て、ぎょっとしたらしい。

〜〜私が号泣して、ハンカチに収まらないほど涙と鼻水をボタボタ流しながら、やけ食いとばかりにポップコーンをお皿ごと抱えて、口いっぱいに頬張っているからかしらね…。

「そんなに感情移入できる映画だったか…?」

「だって、私にはヒロインの気持ちが痛いほどわかるんですもの…っ!!〜〜好きな人の為とはいえ、愛してるって伝えることも叶わずに、相手の幸せを願って泣く泣く身を引かなければいけない苦しみ…っ!!ただ遠くから見守ることしか出来ないのがどんなに辛いことか…っっ!!」

「〜〜そ…っ、そうか…。……とりあえず、拭いたらどうだ…?」

「…ぐすん。ありがとう」


私は衛さんが差し出してくれたティッシュを箱ごと受け取ると、チーンッと思い切り鼻をかんだ。

「…それって、もしかして実体験とか?」

「〜〜う…」

「へぇ、意外だなぁ…!せつなにも、そんな恋愛経験あるんだ?」

「……えぇ、実は…ね」

「そうか…。君にそんなに想われてたその人にちょっと嫉妬しちゃうよ…。好きな人の為に自分が身を引くって、なかなか出来ることじゃないよな…。本当に愛してたんだな、その人のこと…」

「……」


〜〜ハァ…。私が今も切ない思いをしながらも、こんなに想い続けてる相手は違う並行世界のあなたなのよ…って、この世界の衛さんに事情を説明してあげることが出来ないもどかしさで、また泣きたくなってきたわ…。

「……お化粧、直してくるわね」

「ん…?あぁ――」


――ドクン…ッ!!

「…っ!?」

洗面台に向かう途中の廊下で、私は自分の心臓が一際大きく波打ったのを感じ、呼吸を乱して左胸を押さえながら廊下の壁に手を突いた。

「〜〜んはぁ…っ、ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ッ」

――今、確かに感じたわ…!

時空の扉にあの脅威が…、〜〜セーラーギャラクシアが再び近づこうとしている…!!

「せつな…!?〜〜どうした…っ!?大丈夫か!?」

「ハァハァ…、平気よ。心配かけて、ごめんなさいね?ちょっと眩暈がしただけだから…」


私の異変にいち早く気づき、衛さんは心配そうに私を見つめ、優しく抱き起こしてくれた。

――この世界の人間と深く関わり、肉体と魂の絆を深めていけばいくほど時空に大きな揺らぎが生じ、私の世界のギャラクシアを封じている時空の棺も封印の力を弱めていく…。

それが私の愛する人…、衛さんであれば尚更、時空の揺らぎも裂け目も大きく発生する…。

再びギャラクシアと対峙し、この世界のプルートを呼び戻して、私は元の世界に…、〜〜衛さんとは結ばれることのない孤独な世界に帰らなければいけない時が迫っているのね…。

「せつな…。〜〜今日は出かけずに横になってた方が…」

「……平気よ…。――衛さん、私とデートしてくれる…?」

「え…?」

「〜〜お願い…っ!!今日は誕生日プレゼントを買いに行く約束だったでしょ…!?」

「せつな…」

「……ワガママを言って、ごめんなさい…。〜〜でも、もう時間がないのよ…っ!」


眉を顰め、目に涙を浮かべながら懇願してくる私の真剣な顔に衛さんは少しの間、沈黙すると…、フッと優しい笑みを浮かべて、頭と髪を優しく撫でてくれた。

「――わかった。せつながそこまで言うなら、今日はとことんワガママに付き合うよ」

「衛さん…。〜〜ありがとう…っ!大好きよ…♪」


この温もりを本当はいつまでも肌に感じていたい…。愛してるってことを言葉と行動で、この先何度も伝えていきたい…。

……でも、あと少しでギャラクシアの封印が完全に解けてしまうわ…。

〜〜私はセーラー戦士ですもの…っ!どんなに辛い現実が待っていようとも、それを受け止めて、戦いに行かなくては…!!



「――それじゃあ、サンシャインシティでいいんだな?」

私と衛さんは外出着に着替え、衛さんの車に乗って出かけようと、マンションの駐車場にやって来た。

衛さんの服装は昨日、私の世界の衛さんがうさぎちゃんとのデートに行くのに着ていた服と全く同じで、私も衛さんの服に合わせたモノトーンのペアコーデに挑戦してみたわ…♪

「えぇ。本当は衛さんの行きたい場所なら、どこでもって言いたいところなんだけど…」

「そういえば、アルパに新しく出来た雑貨屋に行ってみたいって、この前言ってたもんな?ついでにリニューアルした水族館にも行ってみるか?」

「えぇ。あと、プラネタリウムに展望台でしょ?それから、ショッピングにカフェ巡りに噴水広場のイベントにも参加して――♪」

「〜〜おいおい…。一日で、そんなにまわるつもりか…?」

「出来るだけでいいの…!――帰る前に出来るだけ、あなたとの思い出をたくさん作っておきたいから…♪」

「ハハ、大袈裟だなぁ。明日から会えなくなるわけでもあるまいし…」

「……そうね…」


――時空の扉が教えてくれる…、ギャラクシアの気配を最も強く感じる場所が池袋のサンシャインシティ…。恐らく、この場所のどこかにギャラクシアを封じ込めている時空の棺があるはずだわ…。

衛さんとの思い出を作りながら色々巡って、ギャラクシアが封じられている場所を早く見つけ出して、彼女が復活する前に先手を打たないと…!

「――わかったよ」

――ぎゅ…っ!

「…っ♪」

「今日はずっと一緒にいよう、せつな。約束だ」

「衛さん…。――ありがとう…♪」


衛さんが握ってくれた手を握り返して、私は頬を赤く染めて微笑み返し、肩に寄り添った。



駐車場に車を停めて、私と衛さんはサンシャインシティの中を散策し始めた。

「どこから行く?エレベーターで昇って、先に同じ階の水族館とプラネタリウムから攻略するか?」

「えぇ、それが効率的よね」


――ここのどこかにギャラクシアがいるのね…。

私が見つける前に、あの破壊の悪魔が解き放たれて、こんなにたくさん人がいる場所で暴れでもされたら…。〜〜想像しただけでも背筋が凍るわ…。

「それじゃ、水族館に入ろうか」

「えぇ」


色々な形や大きさの水槽に入って美しいライトに照らされた、たくさんの魅力的な魚達…。

「きれ〜い…♪」

幻想的な海の世界に引き込まれ、いつの間にか私は自分から衛さんと腕組みをしていた。

照明を際立たせる為に薄暗くなっている通常展示の通路には私達以外にもカップルと思われる男女ペアがたくさんいて、皆、腕を組んだり、手を繋いだり、寄り添ったりして仲睦まじげに二人の時間を満喫している。

「人が多いから、はぐれないようにしがみついてるわねっ」

「はは…!どうぞ、プリンセス♪」


衛さんと腕組みしている私…、……他の人の目にはどう映ってるのかしら…?

ちゃんとお似合いに見えるかしら…?〜〜彼にふさわしくないオバさんって思われてたら、どうしよう…。

〜〜あぁ…、早くギャラクシアを探せって時空の扉が忠告してくるのに…、こんな風に衛さんと一緒じゃ集中できないわ…♪

〜〜ごめんなさいっ!あと少しでいいの…!衛さんとの残された時間を満喫させて…っ!!

「――へぇ、これが空飛ぶペンギンかぁ」

あれこれ考えているうちに、いつの間にか私達は家族連れの多い屋外コーナーに出ていた。

可愛らしいペンギン達が池袋のビル群が背景として見える大きな水槽をスイスイ泳いでいく。その光景は、まるで都会の空を飛んでいるようだわ…!

「ふふっ、可愛いわねぇ」

「あれだけ、のびのび泳げたら気持ち良いだろうなぁ」

『――空飛ぶペンギンを見に行くんだ〜♪』


――そういえば、この水族館…、私の世界のうさぎちゃんと衛さんが昨日、デートしに行った場所だわ…。

その場所に今日、この世界の衛さんは私の方とデートに来ているなんて…。ふふっ、本当…、何の因果かしらね…?

「向こうでハロウィーンの企画展をやってるみたいだな。行ってみようか?」

「そうね」


水族館でハロウィーンの企画展…?ペンギンやイルカ達に仮装でもさせてるのかしら?

「こちらの装着をお願いしまーす」

「…?これってVRよね?」

「あぁ。このゴーグルとヘッドホンを装着して、館内をまわるみたいだな」

「私、VRって初めてだわ♪うさぎちゃん達はこの前、遊園地で体験してきたって――」


私がゴキゲンにヘッドホンを装着し、ゴーグルをかけた次の瞬間…!

「ああああああぁぁぁぁぁぁ…」

恨めしそうにこちらを睨みながら床を這ってくる血だらけの女が呻きながら現れた…!

「きゃああああああああああああああああああああ〜っ!!」

衛さんはVRのその幽霊より、私の悲鳴の方にビクッとなったらしい。

「だ、大丈夫か…、せつな…?」

「〜〜あぁ〜ん、怖くて目開けられないぃ〜!!……目の前にまだいるっ?ねぇっっ!?」

「…もういないよ」

「ホ…ッ、よかったぁ…」

「…後ろにはいるけど」

「え…っ?〜〜ひぃっ!?いやあああああああああああああ〜っ!!」


目を開けて後ろを振り向いた瞬間に幽霊にまた遭遇して、私は再び絶叫し、衛さんに抱きついてガクガク震えた。

「〜〜あぁ〜ん、衛さんのバカァ〜ッ!嘘つきぃ〜…」

「ハハハッ、せつなって理学部出身の割にオカルト系に弱いよな?」

「〜〜幽霊なんて存在しないことを証明したかったから理系に進んだんですぅ〜っ!!……うぅ…、もうイヤぁ…」

「…そういや、化学室のガイコツの標本相手に大騒ぎしたこともあったって、おだんごから聞いたっけ」

「〜〜あの時は私だけじゃなくて、うさぎちゃんも怖がってたんですからねっ!?」

「はいはい…。…ギブアップするか?」

「いいえっ!セーラープルートの名にかけて、最後までやり抜いてみせま…〜〜きゃあああああっ!?今度は逆さにぶら下がってるぅ〜っ!!」

「怖いなら目、瞑ってろよ。――ほら、俺の腕につかまれ」

「〜〜ぐすん…、ごめんなさぁい…」

「冷静沈着なプルートも、お化けの前では形無しだな♪」

「〜〜うぅ…」


目を瞑り、震えながら腕にしがみつく私を衛さんは誘導しながら隣で歩いてくれている。

「おおおおおぉぉぉぉ…」

「〜〜いやあああああ〜んっ!!来ないでぇ〜っ!!」


――むにゅう…っ♪

「う…っ♪」

私は悲鳴をあげ、さらに衛さんの腕にしがみついたので、私の大きな胸がくっついてきた感触を腕に感じた衛さんは、顔を赤くしながら隣にいる私を見つめてきた。

「お、おい…っ!せつな…♪」

「〜〜いやあああ…!!目瞑ってもヘッドホンから変な声が聞こえてくるぅ〜っ!!」


――むにゅううう…っ♪

「〜〜やめてぇぇ〜っ!!ああああ〜んっ!!もう許してぇぇぇ〜っっ!!」

私の豊満な胸の谷間に腕を挟まれている上に、幽霊に襲われてるとは思えないほど妖艶な私の悲鳴を耳元で鑑賞でき、衛さんはまんざらでもないという感じだ…♪

「……そんなことばっかりしてると、後で俺がもっと叫ばせてやるからな…♪」

『――見つけたぞ…、冥王星のプリンセス…ッ!』

「…っ!?」


一瞬、私と衛さんのゴーグルにギャラクシアの映像が映り込んだ…!

……と言っても、私は怖くてゴーグルの映像を見ていられなかったから気づかなかったんだけど…。

「…?今のは一体…」

「〜〜えっ?何っ!?まさか、お化けが増えたのっっ!?」

「はは、違うから落ち着けって。…前の作品の残像かな?」


〜〜うぅ…。今日のこれ、絶対夢に出てくるわ…。



「〜〜ハァ…、疲れたぁ…」

水族館を出た私は、ぐったりうなだれて、同じ階にあるプラネタリウム前の椅子に座った。

「――ほら、ジャスミンティー」

と、衛さんは自販機で買ってきてくれたペットボトルのお茶を私に差し出してくれた。

「これで、いくらかは落ち着くだろ?」

「ありがとう…。〜〜叫んだせいで喉もカラカラよ…」

「…昨日の夜の方がもっと叫んでた気もするけどな♪」

「はう…っ♪〜〜あっ、あれは叫びの種類が違います…っ」

「ハハハ…!次はプラネタリウムだろ?上映作品は2種類あるみたいだな。アーティストとのコラボシリーズか、オリジナルアロマが香る世界の星空シリーズ、どっちにする?」

「じゃあ、アロマの方にしようかしら。〜〜何か今…、とっても癒されたい気分ですもの…」

「ははっ、そうかもな。チケット買ってくるから、君はここで飲んで待っててくれよ」

「えぇ、色々やってもらっちゃって悪いわね…」

「せつなの為だからな…♪」


と、衛さんは笑顔で私の頭をポンポンして、プラネタリウムのチケット売り場に行った。

〜〜ハァ…、さっきは失敗しちゃったな…。別にお化けの存在を信じてるってわけじゃないんだけど…、ああいうホラー作品って昔から苦手なのよねぇ…。

…でも、こういう後で笑いに変えられるような失敗談も衛さんとの大切な思い出に変わりないわよね♪ふふふっ!

「――チケット買えたぞ。上映時間まで、まだ時間あるから違う場所に行ってみるか?」

「そうね。次は展望台に行ってみましょうか?」


衛さんがプラネタリウムのチケットを持って戻って来たので、すくっと私は元気に立ち上がってみせた!

「おっ、復活早いな?」

「だって、時間がもったいないんですもの!――それに、衛さんが一生懸命看病してくれたお陰よ…♪」

「いえいえ、本職のせつな先生には遠く及びませんが♪」

「ふふふふっ!」


昨日までの私は、こうして衛さんと実際にデート出来るなんて考えたこともなかったわ…。

うさぎちゃんからは話を聞くだけだし、衛さんとのデートって一体どんなのかしら?って、これまでは頭の中で想像することしかできなかったもの…。

「――ほら衛さん、早く行きましょうよっ♪」

「ははっ!待てって、せつな」

「ふふっ!こっちよ〜、衛さ〜んっ♪」


手を繋ぎ、衛さんを引っ張って、いつもより嬉しそうにはしゃぐ私を見て、衛さんも私と同じくらい嬉しそうな、素敵な笑顔を見せてくれた…♪



プラネタリウムの上映時間になるまでの間、私と衛さんはエレベーターで展望台に昇ることにした。

「わぁ…!良い眺めねぇ」

「良い天気で良かったな」

「そうね。――まぁ…!あそこに富士山も見えるわ」

「あぁ。きっと夜景も綺麗なんだろうな」


手すりを握り、身を乗り出して感動しながら眺めている私の手を衛さんは、そっと握ってくれた。

「夜、また一緒に来ようか?」

「えぇ…♪」


重ねてきてくれた衛さんの手を私も自然に握り返した。

この世界に来たばかりの頃は、衛さんに呼び捨てで話しかけられるだけで照れちゃって、プチ・パニックを起こしてたのに…。ふふっ!

衛さんとの慣れないラブシーンを重ねて、我ながら良くここまで成長したものだわ…♪

「見て…!こっちにガラスの床があるわよ」

「〜〜うわぁ…。よく下見られるな…?」

「あら?タキシード仮面様なのに高い所が怖いの?」

「〜〜怖いとか、そういう問題じゃなくてだな…。わざわざそんな場所に乗る必要ないってことを俺は…」

「これも根性と忍耐力を鍛える訓練よっ♪――ほら、衛さんもいらっしゃいよ!」

「〜〜お…っ、おい、せつな…!」


――ダン…ッ!!

「〜〜うわああっ!?もっと静かに乗せろよな…っ!?」

「ふふふっ、VRドッキリのお返しよ♪――ほら見て、あんなに人が小さく見えるわ…!」

「〜〜うぅ…。わかったから早く降りようぜ…」


私に手を引かれて一緒にガラスの床に乗り、衛さんは青ざめた顔で下を見られずにいる。

ふふっ!衛さんの意外な弱点、発見かも…♪

「…おっ!向こうでまたVR体験やってるみたいだぞ?」

「えぇっ!?〜〜VRは、もうこりごりよ…」

「ははっ!ここのは、そんなに怖くないから平気だって。大学の友達から聞いたことあるんだ」

「〜〜わ、わかったわ…。その前に、ちょっとお手洗い行ってくるわね?」

「あぁ。先に並んで順番取っておくよ」


列の並びの確保を衛さんにお願いし、私はトイレ近辺の人通りの少ないエリアに移動すると、周りに人がいないことを確認してからガーネット・ロッドを手中に呼んだ。

「ここなら集中できそうね…。――ガーネット・オーヴ…!!」

私がロッドで力を使っているところを見られないよう、中にいる人の姿と声を消す結界を張って、ロッドを持った両手をまっすぐ前に突き出すと、ガーネット・ロッドからガーネット・オーヴが光を放ちながら私の手の平に降りてきて、私の頭の中にサンシャインシティ各所のリアルタイムの映像を投影し始めた。

展望台なら、サンシャインの色々なエリアの細かな時空の流れが把握できるものね…!

気になる時空の歪みがあるのは…、――地下1階ね!きっと、このショッピングエリアのどこかに私の世界のギャラクシアを封じた時空の棺があるんだわ…!

早く衛さんとこの近辺を調べないと――っ!!

「――カ〜ノジョ♪」

「えっ?〜〜…っ!?」


気が付くと、ワイシャツのボタンをはだけさせてズボンを腰履きにした、だらしない制服の着方をして、髪を金色や明るい茶色に染めた…、見るからにチャラそうな男子高校生3人組がニヤニヤしながら結界に入り込んでいた。

〜〜だ…っ、誰なの、この子達は…?それに、どうやって結界の中に入ってきたの…!?

「ヒュ〜♪お姉さん、すっげ〜美人だね〜♪」

「何持ってんの〜?その棒、ハロウィーンのコスプレに使うの?」

「俺らにも見せてよ〜♪」

「きゃっ!?〜〜ちょ…っ、近寄らないで…っ!!」


ガーネット・ロッドに興味のあるフリをして、私の二の腕や胸を触ってこようとしたので、私はとっさにガードして、ロッドを振り回した…!

「『きゃっ』…だって♪かっわいい〜♪」

「ね〜ね〜、一緒にお茶しな〜い?」


〜〜こっ、これが俗に言うナンパってやつね…!?

「…悪いけど、今、デート中なの」

「え〜?つれないなぁ〜」

「…あれ?お姉さん、よく見たら麻布十番高校の先生だよね?」

「…っ!」

「マジか〜!本物のせつな先生じゃんっ♪」

「俺らの学校でも有名なんだぜ?十番高校に美人で優しくてエロさ全開の保健室の先生がいるってなぁ♪」

「他校の俺らにも教えてくれよ、せつな先生?赤ん坊の作り方を手取り足取りさぁ…♪」

「〜〜いい加減にしなさいっ!!」


――ゴンッ!!――ゴンッ!!――ゴンッ!!

「〜〜いってぇ〜…」「〜〜いってぇ〜…」「〜〜いってぇ〜…」

「他校の生徒でも許さないわよ!?保健の授業なら、自分達の学校の先生に教わりなさいっ!!」


と、私は不良男子高校生3人組の頭を一人ずつガーネット・ロッドで叩いてやったが…、

「――ひひひっ」

「おしおきはそれで終まいか、先生よぉ…?」

(〜〜何なの、この子達…)


しおらしくなって反省するどころか、さっきより目が据わり、ニタッと口角を上げて怪しく笑ってきた3人の顔が不気味に見えて、私は思わず後ずさった。

説教されても教師に歯向かってくる生徒はいるけど、この子達の雰囲気はそれとは違う…、〜〜まるで誰かに操られているような…。

「その制服…、あなた達、元麻布高校の生徒さんね!?〜〜いい加減にしないと、あなた達の学校に連絡するわよ…!?」

「やってみろよ?…その代わり、先生の方も覚悟しといた方がいいぜ〜?」

「そ〜そ〜♪先生が俺らに体罰したとこ、これにぜ〜んぶ録画しといたからよ?」

「…っ!!」


と、帽子を被った少年がスマホで撮った、私がロッドで3人の頭を殴る動画を私に見せつけてきた。

「〜〜まさか、最初からそれが狙いで…っ!?」

「ひひひっ!他校の生徒にそんな物騒な物で体罰したって知られたら、ヤベェもんなぁ?」

「俺ら3人で口裏合わせちゃうし〜、どう考えても先生の方が不利になっちゃうよね〜?」

「動画をバラまかれたくなかったら、素直に俺達のモノになりな?せつなセ・ン・セ…♪」


〜〜く…っ、なんて卑怯な子達なの…。

『――クククッ、一人になる時を待ってたぞ…。早くその女を犯せ…!!そして、巨大な時空の裂け目を作り出し、私を解放するのだ…!!』

「はい、ギャラクシア様…」「はい、ギャラクシア様…」「はい、ギャラクシア様…」

「…!!今、ギャラクシアって――っ!?」


――ガシ…ッ!

「きゃああっ!?」

「こんなロッド、いつまでも持ってたら危ないぜ?」

「こんな風になぁっ!!」


――ドス…ッ!!

「〜〜かはぁ…っ!?」

一番背の高い少年にガーネット・ロッドを奪われると、私は腹にロッドを叩き込まれた…!

「〜〜んあぁ…っ、あぁ…うぅ…んっ…」

「はははっ、いい気味だぜ♪」

「先公だからって、お高くとまりやがってよぉ…!」


お腹を両手で押さえながらうずくまり、お尻を突き上げて痙攣している私を取り囲み、不良トリオは嘲笑している。

時空の扉の番人である私のロッドを普通の人間がこんな簡単に扱えるわけがないわ…。〜〜やっぱり、この子達はギャラクシアに洗脳されているのね…!?

そうだとしたら、時空を歪ませて作った私の結界に簡単に入り込んでこられたのも説明がつくもの…。

〜〜きっと、ギャラクシアは私とこの子達を交わわせて、時空の棺から自分が出る手助けをさせようとしてるんだわ…!!

「〜〜どこなの、ギャラクシア…!?この子達を今すぐ解放しなさ…――っ!!」

――ゴス…ッ!!

「きゃああああっ!!」

「うっわ、クリーンヒットしちった♪」

「お前、少しは手加減しろよー?今からヤる相手が傷だらけだったら萎えるだろーがっ」

「そうか?――俺は、そっちの方が気分が盛り上がるもんでね…っ♪」

「あん…っ!?」


と、一番背の高い少年は私を乱暴に起こして後ろから抱きしめると、私の両脇と胸の上部にガーネット・ロッドを通して、ぐっと自分の方にロッドを引き寄せて、私の両腕をホールドさせた。

「〜〜こ…っ、こら!離しなさい…っ!!」

「おぉ〜っ!お前、天才っ♪」

「〜〜いやあああ…っ!!お願いだから離してぇぇっ!!」

「はははっ!武器を取り上げられて拘束された途端、急にしおらしくなったな?」

「姿と声を消す結界を張ってくれてサンキュな、せつな先生?お陰で楽しめそうだよ…♪」

「思いっ切り声出せた方が先生も嬉しいだろ…♪」

「いやあああああああ〜っ!!衛さぁんっ!!〜〜衛さぁぁぁ〜んっっ!!」


〜〜このままじゃ、衛さん以外の人に犯されちゃうわ…っ!!

助けて、衛さんっ…!!〜〜キング…ッ!!


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