冥王せつな誕生日記念・特別短編小説2017
「愛の思い出」その4
衛さんと甘美なキスを交わし、しばらく保健室のベッドの上でポー…ッとなっていた私だが…、
「…せつな?もう帰れるんだろ?」
「――えっ?え、えぇ…」
健康診断のデータ収集と保健だよりの作成は、USBメモリにもうデータを移したから明日以降に回すとして…、(〜〜仮に今日この後やったとしても、とてもじゃないけど集中できそうにないし…♪)私は白衣を脱いで、衛さんと保健室から出て帰宅することにした。
「こんな時間になっちゃって、ごめんなさいね…?」
「気にするなって。――ほら…」
「え…?」
衛さんは優しく笑みを浮かべると、当たり前のように私に腕組みするよう促してきた。
「しょ…、職場なのにいいのでしょうか…?」
「まだ足元フラフラじゃないか。俺が支えててやるから、な?」
「あ、ありがとうございます…、プリンス…♪」
何時間か前、うさぎちゃんがしていたように今度は私が…
――ギュ…ッ♪
と、衛さんと腕組みして、体を少し預けてみた。
「じゃ、行こうか」
「はい…♪」
衛さんと廊下をこうして並んで歩いているなんて夢みたい…♪
衛さんと腕組みしているうさぎちゃんをあんなに羨ましく思っていたことが遠い昔のようだわ…。
「――冥王先生〜、さよ〜なら〜!」
「さようなら。気を付けてねー?」
「はーい!」
「ちょ…っ!隣にいる人、誰!?まさか先生のカレシ〜ッ!?」
「ウッソ!超カッコいいんですけど〜♪」
「コ…ッ、コラ!先生をからかうんじゃないの!」
「はーい♪」
「デート楽しんでね〜、せつな先生っ♪」
「こぉら!ふふふっ、もう…」
「生徒達から慕われてるんだな」
「ふふっ!うさぎちゃんを始め、この高校の子は皆、良い子達ばかりですから」
私がさっきまでいた世界とは違い、この世界の生徒達は誰もギャラクティカ軍団が攻めてきたことを話題にしていないようだった。
ギャラクシアとの戦いで、あんなに荒れたはずの校内も校庭も…何事もなかったかのようにきれいだわ…。
「…あ、そうだわ!保健室の鍵を預けに、職員室にも寄っていかないと…」
「じゃあ、廊下で待ってるよ」
「えぇ」
――ガラ…。
「お先、失礼しまーす」
職員室に戻ると、いつも気さくに接してくれる職員達が何人か残っていた。
「あっ!お疲れ様でーす、冥王先生」
「これから飲みに行くんですが、よかったら一緒に…――あっ!?」
「きゃ〜んっ♪廊下にいるの、冥王先生の彼氏さんですよねっ!?」
「え?あ、あの…」
「何ぃっ!?この人がウワサの冥王先生の恋人ですかっっ!?」
「んまぁ〜、すっごいイケメンじゃな〜い♪どこでゲットしたのよ〜?コノコノ〜♪」
「ほ〜んと、冥王先生が羨ましいわぁ〜♪」
「冥王先生、恋人いたのかぁ…。〜〜ショックだなぁ…」
「まぁまぁ、辛いことは飲んで忘れましょうや!」
職員室でいつも顔を合わせているはずの十番高校の教職員の皆さんの反応が新鮮だった…。
「…車で待ってた方がよかったかな?」
衛さんは、ああいう風に注目の的にされるのが苦手みたいで、ゲンナリした様子だけど…。
「いいえ…、――ふふっ…♪」
――私はちょっと…嬉しかったかな…♪
だって、衛さんといるところをひやかされるなんて初めてだったんですもの…♪
…な〜んて言ったら、衛さん…怒っちゃうかしら?ふふふ…っ♪
「?何がそんなにおかしいんだよ?」
「ふふっ、だって…♪自慢の彼を同僚に紹介しちゃ悪いですか?」
「別に悪くはないけど…。さっきの人達、きっと結婚式でもあんな感じで余興やってくれるんだろうな」
「〜〜け…っ、けけけけ…結婚式…っっ!?」
「…?何赤くなってるんだよ?せつなももういい歳なんだから、結婚を考えるのは当たり前だろ?」
「〜〜ムッ!?…悪かったですねー、いい歳こいたオバさんで?」
「ハハッ、まったく…。せつなはオバさん扱いされると、すーぐ拗ねるよな?」
「ふんっ!拗ねてなんていませんよーだっ」
「はははっ、怒るなって。またシワが増えるぞ?」
「〜〜んもう!衛さんっ!?」
「はははは…」
衛さんのすぐ隣で廊下を歩き、衛さんの瞳を見つめながら私…今、自然に衛さんと会話が出来てる…♪
不思議…。いきなり衛さんとカップルっていう設定の世界に飛び込んだのに、衛さんの前で緊張するどころか、まるで昔から恋人同士だったみたいに自分の口から次々に衛さんへの愛が込もった言葉を紡ぎ出していけているなんて…。
「――綺麗な星空だな…」
校庭に出ると、澄んだ星空とひんやり冷たい空気が私達を迎えてくれた。
「えぇ、本当に…」
地球から遠く離れているはずの星の一つ一つがくっきり浮かび上がっている満天の星空…。
この調子なら、我が冥王星も肉眼で見えるんじゃないかしら?…ふふっ、なーんてね♪
「…寒くないか?」
衛さんはそう言うと、自分のジャケットを私に羽織らせてくれた。
「あ、ありがとう…ございます…♪」
ふふっ、衛さんのぬくもりを…こんな近くに感じられるなんて…♪
「そろそろ冬支度を始めないとな。君の誕生日が終わったら、すぐハロウィーンが来て…、あっという間にクリスマスと正月だ」
「ふふっ、そうですね」
衛さんは職員用駐車場に停めてあった自分の車のドアをタッチ式の鍵で開けると、レディファーストで私を助手席に乗せてくれた。
「すぐ暖房付けて温めるから」
「は、はい…♪」
これが衛さんの車の中なのね…♪何度かお見かけしたことはあったけど、実際に乗ったのは初めてだわ…。
車内に漂う甘すぎない上品なバラの香りのフレグランスが鼻腔をくすぐって、ロマンチックな大人の気分にしてくれる…♪
「このままマンションに向かうか?」
「あ…!その前に、ちょっと家に寄ってもらってもよろしいでしょうか?お夕飯の準備をしていかないと…」
「よし、外部太陽系4戦士の家だな?」
麻布十番高校から家へ帰る道…、毎日往復して見慣れているはずの景色も車窓から見ると違って見えるのね…。
――ちょっぴりそわそわしながら、ちらっと隣を見てみる…。
運転している衛さんの横顔も素敵だわ…♪
これからは、こうやって堂々と見ていても誰にも咎められないのね…♪ふふっ!
「喉乾いてないか?そこに買っておいたホットミルクティーあるけど?」
「ありがとうございます。冷めないうちに飲ませてもらいますね…」
ドリンクホルダーに置かれていたペットボトルのホットミルクティーを飲みながら、ふとダッシュボードの上に目を向けると、大人の男性らしい気品のある内装とは少しそぐわない…ハロウィーンを意識した可愛らしいぬいぐるみがひとつ、ちょこんと飾られていた。
かっ、可愛い…♪これ、ドラクル伯爵をキュートにした感じのぬいぐるみだわ!
「それ、この前、君が作ってくれたやつだろ?」
「えっ?私が?」
「ハハ…、そっか。記憶喪失、だもんな?」
「私が衛さんに…?」
「あぁ。8月の俺の誕生日の時は手作りのシルバーアクセサリーで、バレンタインの時は俺の好きな手作りのチョコレートケーキ…。そういうの作るの、せつなは昔から本当好きだよな?掃除も洗濯も好きで家庭的だし、良い奥さんになれると思うよ?」
「…っっ!!」
こ…っ、この褒め殺し作戦…♪――もしかして、遠回しのプロポーズとか…っ!?
「そ、そんな…!これぐらい…大したことは…♪」
「もちろん、こんな良い奥さん、誰にも譲るつもりはないけど…♪」
「〜〜はう…っ♪」
ま…、衛さんって、こんなにキザだったかしら…?――それとも普段…、うさぎちゃんの前では、こんな感じなのかしら…?
衛さんは赤信号で車を止めると、照れ隠しの為にドラクルのぬいぐるみの手足をいじって手悪さをしていた私を黙って見つめてきた。
「…さっきから思ってるんだが、何で今日は俺に対して敬語なんだ?」
「えっ?ふ…、普段はタメ口でし――…だったかしら?」
「ははっ、そこの記憶も失くしてるのか?まぁ、付き合う前はお互いそうだったけどな。君の方が年上なのにプリンスの俺をいつも気遣って、君はいつも敬語でかしこまって…。まるでわざと他人行儀にして俺を遠ざけようとしているようにしか見えなかったよ…」
〜〜やだ…。私が衛さんのことを意識しすぎているせいで…、うさぎちゃんに悪いと思って、わざとよそよそしくしようとしてること…、不自然に思われちゃってたのね…。
「そうかと思えば、君はとても温かく優しいまなざしで俺のことを遠くから見つめてもくれていた…。フッ、本当に昔から君は不思議な女性だったよ」
「ま、まさか…、それで私の気持ちに気づいて…?」
「あぁ、まさかプリンセスを守る戦士の中に俺のことをこんなにも愛してくれる人がいたとはね…。その気持ちに気づけた時は、とても嬉しかったよ」
「そ、そう…ですか…♪」
衛さんと交際するようになったまでの経緯を聞かされ、私はさらにかああっと耳まで真っ赤になった。
――まさか、衛さんが私の気持ちを嬉しいって思ってくれていたなんて…♪
心臓がドキドキしすぎて、はち切れそう…。
〜〜で…っ、でも!目を合わさずにお話しするのは失礼だし…っ!!
「いつも俺の為にありがとな、せつな」
恥ずかしいのを堪えて私が目が合わせると、衛さんはいつもよりさらに素敵に優しく私に微笑んでくれた。
いつも、うさぎちゃんにだけに向けられているあの笑顔…。それを今は私だけに見せてくれているなんて…♪
「こちらこそ、その…――ありがとう、衛さん…♪」
プリンスである衛さんにタメ口なんて…。ふふっ、何だか変な感じ…。――でも、悪くないかも…ね♪
「――さぁ、着いたぞ」
幸せを噛みしめていたのも束の間、私達を乗せた車はあっという間に私の家に着いてしまった。
いつもは徒歩で30分以上かかるのに…、移動手段が車ということもあるかもしれないけど、衛さんと一緒だと時が過ぎるのはあっという間ね…。
〜〜タブーだから無理だけど、ガーネット・ロッドで時を戻して、もう一度さっきのやり取りを体験したい〜っ!!
「ちょっと時間がかかるかもしれないから…、よかったら、あがっていって?」
「気持ちはありがたいけど、俺はここで待ってるよ。やたらあがると、あの3人がからかってくるからな。さっきの職員達みたいに…」
「〜〜んもう!この世界のはるかとみちるとほたるったら、そんなことしてるのねっ!?」
「…この世界?」
「あ…。〜〜ちっ、違うのよ!?じゃあ…悪いけど、ちょっとだけ待っててね…?」
「?あぁ…」
〜〜ハァ…。もし変な風にからかってきたら、お夕飯作るのやめて、お粗末なカップラーメンにしてやろうっと!
衛さんを車に残し、私は、はるかとみちるとほたると暮らしている家に鍵を使って入った。
「あっ、お帰り〜!せつなママ〜♪」
ソファーでテレビを観ていたほたるが嬉しそうに駆け寄ってきて、私に抱きついてきた。
「ふふっ、ただいま。――はい、これ。ちびうさちゃんからほたるにお土産ですって」
「ちびうさちゃんからっ!?わ〜いっ♪」
一番の仲良しのちびうさちゃんからのプレゼントだけあって、ほたるったら、あんなにはしゃいじゃって…。ふふっ!
「わぁ…!クリスタルで出来た…、え〜っと…?これ、何なんだろう…?」
「きっとポケベルじゃない?二人で暗号を決めて、やり取りできるのよ?」
「ぽけべるかぁ…!さっすが、せつなママは何でも知ってるねっ♪」
〜〜う…。単にポケベルが流行ってた頃、もう産まれてたってだけなんだけどね…。
「――あっ、ちびうさちゃんからお手紙も入ってる!今度会った時、一緒に秘密の暗号考えよう、だって♪」
「ふふっ、よかったわねぇ。またすぐに会いに来てくれるわよ。――ところで、はるかとみちるは帰ってる?」
「うんっ!呼んでこよっか?」
「――その必要はないよ」
そう言って、はるかとみちるが階段を下りて、リビングにやって来た。
「お帰り、せつな」
「ごめんなさいね?今日は、はるかも私も仕事で学校を早退したものだから、すぐに駆けつけられなくて…」
「いいのよ。――お陰で、衛さんが来てくれたし…♪ふふっ!」
「あら、そうなの?なら、良かったじゃない」
「ま〜た、いつもののろけ話か?…ま、今日はお詫びにとことん付き合ってやるよ」
「ごめんなさい。この後、私、衛さんのマンションにお呼ばれしてて…――」
着替えてから料理を始めようと、階段を上がって2階の自分の寝室のドアを開けると、何故か部屋中ダンボールだらけで、部屋の中はクローゼットを始め、荷物がほとんど無い状態だった。
「この荷物、どうしたの…!?」
「どうしたのって…せつな、あなた来月、衛さんのマンションに引っ越すんでしょ?」
「〜〜えぇっ!?いつ、そんなことに…っ!?」
「…何を今さらうろたえてるんだよ?どうせもう、我らのプリンスと×××や×××もやってるんだろ♪」
「〜〜…っ!?」
「…?×××ってなぁに、はるかパパ?」
「〜〜はるかっ!!」
「はははっ、ほたるも大人になればわかる話さ♪」
「〜〜むぅ〜!そうやって、ま〜た子ども扱いするんだからぁ〜…」
はるかに頭をなでなでされても、ほたるは納得いかずに腕組みして頬を膨らませた。
「けど、よかったじゃないか。前世からの君の夢がやっと叶ったわけだろ?」
「おめでとう、せつな。衛さんといつまでも仲良くね?」
「はるか…、みちる…」
「〜〜離れて暮らすことになっちゃうのは寂しいけど…、せつなママが幸せなら私も嬉しいよっ!?そんで、早く元気なちびうさちゃんを産んでねっ♪私、待ってるからっ!!」
「ふふっ、ほたるったら」
「ずっと4人で暮らしてきたこの家には、せつなとの思い出がたくさん詰まってるわね…」
「そうだな…。――誓いの指輪…、今度は衛さんに買ってもらえよ?」
「えぇ、ありがとう」
「早く早くー!衛さん、外で待ってるんでしょ?」
「お夕飯は特別に私が作るから安心して♪」
「〜〜うぐっ!?きょ…っ、今日はみちるの手料理か…」
「〜〜た…、たまにはどっかに食べに行こうよ!その方が後片付けもしなくて済むし…!ねっ、みちるママ!?」
「…どういう意味なの、2人とも?もしかして、私の手料理が食べられないとでも言いたいのかしら〜!?」
「〜〜う…っ!?そ、そういや数学の宿題、まだやってなかったっけかなぁ〜…?」
「〜〜わ…っ、私もっ!!せつなママのお泊り支度、一緒にしてあげるねっっ!?」
「……ほたるはともかく、はるかっ!?数学の宿題なんて、今日は出てないはずでしょっ!?」
――ぎゅむうううう…っ!!
「〜〜いででででっ!!耳引っ張るなって…っ!!ちぎれるって、みちるぅぅっっ!!」
ふふふっ!普段はカリスマで通ってるはるかとみちるコンビのこんな夫婦漫才のような姿が見られるのも、この家の住人の特権よね♪
「何なら明日は、ずっと衛さんと過ごしてもいいのよ?明日はお休みなんだし、あなたの誕生日でもあるんだから」
「〜〜えぇ〜っ!?パーティーは〜っ!?」
「パーティーなら、うちでいつでも出来るだろ?」
「せつなは、いつも仕事で忙しいんだから、たまにはご褒美をあげないとね?」
「〜〜むぅ…。……そうだね…。でも、ハロウィーンまでには絶対パーティーしようねっ!?約束だよっっ!?」
「はいはい。それじゃ、ハロウィーンパーティーも兼ねて、せつなのバースデーパーティーには皆で仮装しましょうか?」
「わ〜い!早速、準備しなくっちゃ〜♪コスプレのこと、うさぎちゃん達にも後でメールしておこうっと!」
神秘的なサターンに変身するほたるも、はるかやみちるや私の前では無垢な普通の子供と何ら変わらないものね…。
「ふふっ!よかったわね、ほたる」
「うんっ!ね〜、はるかパパにみちるママ♪どんなコスプレにするか話し合おうよ〜!」
「そうだな。じゃあ、レストランで食事でもしながら――」
「…ゴホン!」
「〜〜う…っ!?じゃ、じゃあ…、みちるママの手料理を頬張りながらでも…」
「ウフッ♪今日は、せつながいない分、腕によりをかけてあげるわね…♪」
「〜〜う…、うわあ〜…!楽しみだなぁ〜、ほたる…?」
「〜〜そ…、そうだね〜、はるかパパ〜…?食べ過ぎてもいいように…、胃薬…用意しておかなくっちゃ〜…」
「ほほほほほ…、そんなもの必要なくってよ♪」
〜〜さ、さて…、試食を頼まれないうちに私はさっさとお泊り支度をして、家を出ちゃいましょうっと…!
「――お待たせ〜、衛さん♪」
「ん…?随分、早かったな?」
衛さんは車の中でライトを点け、運転席で雑誌を読んでいた。
「今日は私の代わりに、みちるが腕によりをかけて作るんですって」
「ははっ、それははるかさんとほたるちゃんもご愁傷様だな」
私は助手席に戻って隣に座ると、衛さんがどんな雑誌を読んでいるかが詳しくわかった。
「その雑誌…、ハーバード大学の医学研究のね?」
「あぁ。今度、ハーバード大に論文を出してみようと思ってね…。K.O.大学の医学部から一人、ハーバード大学へ留学出来ることになったんだ」
「そう…。その論文、認められるといいわね。衛さんの夢ですものね…?」
「あぁ、ありがとう。せつななら、そう言ってくれると信じてたよ」
アメリカ留学…か。〜〜遠距離恋愛になってしまうのは寂しいけど…、衛さんの将来の為ですもの…ね……。
エンジンをかけようと思って、キーを差し込もうとした衛さんは、私の横顔が笑みを浮かべながらも暗くなっていることに気付いたらしく…、
「あ…っ♪」
何も言わずに、そっと私の肩を抱き寄せて、頭を撫でてくれた…。
「…せつなって案外、顔に出やすいタイプだよな?」
「ご、ごめんなさい…。〜〜応援しなくちゃいけないのに…私ったら…」
「いいさ、まだ決まったわけではないし。…それにさ、平気な顔で見送られる方が逆に傷つくだろ?」
「ふふっ、それもそうね」
十番高校の養護教諭として就職した社会人の私と違って、衛さんはまだ大学生ですもの…。
自分の将来について考えたり、夢の為に色々とチャレンジするのは当たり前のことよね…。
「――もし留学が決まっても、俺のことを待っててくれ。せつな…、必ず君の元へ帰るから…」
「えぇ、衛さん…。たとえ離れていても、この空は繋がってるものね…」
30世紀で時空の扉の番人をやっていた頃に未来のあなたが会いに来てくれるのを今か今かと待ち焦がれていた時と比べたら…、ふふっ!留学の数年間なんて、あっという間よね♪
「…よし!いつものニヤケ顔に戻ったな♪」
「〜〜んもう!どういう意味っ!?」
「はははは…!」
最初は緊張したけど、だんだんと衛さんの運転する隣で、まるで昔から付き合っているカップルみたいに…ごく自然に振る舞うことが出来るようになってきているわ。
まるで、いつもの私ではない、別の私になっているような…。この変な感覚が何なのかは、まだよくわからないけど…。
「――到着…っと」
衛さんは地下駐車場に車を停めると、私のお泊りセットが入ったバッグをトランクから出して持ってくれた。
「ここは…?」
「おいおい…、まさか俺のマンションまで忘れたわけじゃないよな?」
「〜〜えぇっ!?」
じゃあ…このやけに広い駐車場って…、衛さんのマンションの駐車場なの…っ!?
「保健室で渡した合鍵あるだろ?あれがあれば郵便受けも開けられるし、エントランスの奥まで入れるようになるから」
「わ、わかったわ…」
いつも足止めを食らっていた立派なエントランスを今回は、すんなり抜けることができた。
「はー…、立派なマンションねぇ…」
「死んだ両親が遺してくれたものだからな…」
――チーン…。
到着したエレベーターのドアが開き、衛さんは私が乗ったことを確認すると、ボタンを押して操作した。
――6階…、7階…、8階…。
ほとんど無音状態の最新式エレベーターで高層マンションを上がっていく…。
途中で誰も乗って来ることもなく、上昇を続けるエレベーターの密室の空間に衛さんと2人きり…♪
――ドクンドクンドクン…。
〜〜いつもの私だったら、この近距離で、この高鳴る心臓の鼓動を聞かれないようにするのに必死なんでしょうけど…。
「…緊張してる?」
「えっ!?〜〜そ、そういう…わけじゃ…」
「今日は色々あったんだ。シャワーでも浴びて、ゆっくり休んでくれ」
〜〜ダメね、私って…。さっきから慣れないシチュエーションの連続に舞い上がるばかりで、プリンスに気を遣わせてばかりで…。
――チーン…。
エレベーターを降りて、…ちょっと深呼吸して心を必死に落ち着かせ、少し前を歩く衛さんに遅れないようについていく…。
私は衛さんより年上なんですもの…!〜〜そ、そうよっ!男の人の家に一度や二度お泊りするくらい、どうってことないわ…っっ!!
「――ようこそ、我が城へ。プリンセス」
衛さんがドアを開けると、清潔感があって、白と黒に統一されたオシャレで開放的な空間が広がっていた…。
「お、お邪魔…します…」
ゴク…ッ。
ここが…、衛さんのお部屋…。とっ、とうとう足を踏み入れてしまったのね、私…っっ♪
〜〜え〜っと…、と…、ととと…とりあえずスリッパを…。
「…それ、ちびうさのスリッパだぞ?」
「…えっ!?〜〜あ…」
〜〜ほ、本当だわ…!?私ったらテンパるあまり、よりによって子供サイズのウサギのスリッパを履いてしまおうとするなんて…。
「はい。ママのスリッパはこっちだろ?」
「〜〜あ、ありがとう…」
衛さんがスリッパラックから出してきてくれた茶色のモコモコスリッパに履き直した。
〜〜うぅ…、プリンスにはいつだって冷静沈着な大人の女性として見られたいのにぃ…っ!!
「何か飲むか?」
「い、いいわ。さっきのミルクティーも残ってるし…」
置いてある家具やインテリアも有名な海外の雑貨店から買い付けたようなものばかり…。
さすが衛さんはセンスが良いわ。ふふっ、私のセンスと合ってるかも…♪
「先にシャワー浴びてこいよ。買っておいた夕飯、温めておくからさ」
「〜〜…っ!?シャ…ッ、シャシャシャシャ…シャワ〜ッ!?」
「…?湯船に浸かりたいなら、お湯張りするけど?」
そ…っ、そういう問題じゃ…ないんだけど…♪
「あ…っ、あの!お夕飯は私がやっておくから、衛さん先に浴びちゃって?」
「遠慮するなって。手料理は明日ご馳走してくれるって約束だろ?」
「そ、そう…だったかしら…?」
「まさか風呂の入り方まで忘れたわけじゃないだろうな?何なら、俺が体洗ってやろうか?」
「〜〜…っっ!?」
「ハハハハ…!せつなって今でも面白いくらいウブな反応してくれるよな?俺達、付き合い出してからだいぶ経つっていうのにさ」
うぅ…、プリンスとはいえ、年下の子にいいようにおもちゃにされるなんて…。
〜〜大人の女としての威厳がぁ…。
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