冥王せつな誕生日記念・特別短編小説2017
「愛の思い出」その3
「――うぅ…ん…」
――あれから、どれくらい時間が経ったのかしら…?
目を開けると、見慣れた保健室の天井が視界に入ってきた…。
衛さんを巡る喜びと混乱と感動と驚きと興奮と疑念と…とにかく色んな感情がごちゃ混ぜになったあのやり取りの後、私の頭と心と体はオーバーヒートを起こしてしまったらしい。
さっき目が覚めた時と同じように、職場である麻布十番高校の保健室のベッドに私はまた横たわっていた。
「――あ…っ!せつな先生ぇっ!!」
「顔がまだ赤いな…。大丈夫か?」
「え、えぇ…」
私ったら、衛さんの前で失神してしまうなんて…。
〜〜うぅ…、恥ずかしいところを見られてしまったわ…。
「ごめんなさいね…。何度も迷惑かけちゃって…」
「そんなの気にしなくていいんだよー!仲間でしょ、私達っ♪」
「目を覚ましてくれて本当によかった…」
「〜〜…っ!!」
安堵した柔らかい表情を浮かべた衛さんに顔を覗き込まれて、私は恥ずかしくなって視線をそらすと、さらに紅潮してしまった顔を見られないよう、掛布団を顔半分まで上げて隠した…。
時計は既に7時をまわっていて、外はもうすっかり暗くなり、部活に励む生徒達もまばらになっていた。
私が気絶するまで、きゃぴきゃぴして賑やかだった保健室は、いつの間にか静かになっていて、うさぎちゃんと衛さんだけが残ってくれているようだった。
「ところで、亜美ちゃん達は?」
「4人とも帰ったよ?亜美ちゃんは塾で〜、レイちゃんは巫女さんの仕事でしょ?んでもって〜、まこちゃんはバイトで〜、美奈子ちゃんはアイドル事務所のオーディションを受けに行くって言ってたよね?」
「あぁ。あの後、はるかさんとみちるさんとほたるちゃんも来てくれたから事情を説明しておいたよ」
「そう…」
うさぎちゃんと衛さんがいつものように肩を並べている…。
――やっぱり、さっきのは白昼夢か何かだったんだわ…。
命がけでギャラクシアと戦ったせいで神経も異常な興奮状態にあったから、あんな変な幻覚と幻聴が表れたのね…。
…ふふっ!そうでなければ、私が衛さんの恋人になれるなんて夢のまた夢ですもの…。
普段見慣れた光景が戻ってきてホッとしたような…、……ちょっぴり残念なような…。
「今日は私のせいでデートが台無しになっちゃって、ごめんなさいね…?今からでも2人で学校の周り、お散歩してきたら?」
「…?デートぉ?」
「俺とおだんごで?――ぷっ!あはははっ!」
「あっはははは…!んも〜!冗談言うなんて、せつな先生らしくないよ?今日は一体どうしちゃったのよ〜?」
「…え?」
「そんなにデートがしたいなら、今からでも出来るだろ?その為に君が目を覚ますまで待ってたんだからさ」
「で、でも、うさぎちゃんはさっき出かけてたって…!?」
「あー、それ?元基お兄さんに会いに一人で『クラウン』に行ってきたんだー♪〜〜でもさ…、少し遊んだらあっという間にお小遣い失くなっちゃって…。早く帰っても、赤点のことでママに怒られるだけだし…、今よりお小遣いを減らされるのも嫌だしさ、それで…ちょっと残ってたわけよ…♪〜〜あははは…」
「フッ、お前、まーた赤点取ったのか?」
「〜〜ムッ!?じゃなければ、だ〜れがこんなキザで陰険な奴とおんなじ部屋で待ってるもんですかっ!!」
「俺もお前みたいにバカで生意気なおだんご頭のガキ、こっちから願い下げだ!」
「〜〜おだんごおだんご、うるっさいなぁ〜っ!!――せつなさん、よ〜くこんな奴と付き合えるよねー!?私だったらゼ〜ッタイッ!一日でも耐えられないよっっ!!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ、たんこぶ頭!」
「〜〜たんこぶじゃな〜いっ!!これは、おだんごよっ、お・だ・ん・ごっっ!!」
「へぇ〜?さっきは、おだんごって呼ばれるの、嫌がってたくせに…」
「〜〜ムキ〜ッ!!ああ言えば、こう言うんだからぁ〜っ!!」
う…、うさぎちゃんと衛さんが…まるで出会ったばかりの頃のように喧嘩してる…?
やっぱり…これって、さっきの夢の続きなの…!?
〜〜ってゆーか、こんなに醒めない夢なんて…、もう夢じゃないわよねぇ…っっ!?
「〜〜ス…、スト〜ップ…ッ!!二人とも、喧嘩はやめなさいっ!!」
「むぅ〜…。だぁってぇ〜…」
体を起こして動かそうとすると、ギャラクシアと戦った証である鈍くて重い痛みが体中の所々にまだ残っているのがわかる…。
私が異空間の揺らぎを発生してしまったせいなのかはわからないけど…、この痛みのお陰でここはフワフワした夢の世界ではなく、ちゃんと存在する現実の世界なんだって実感できるわ…。
「……うさぎちゃんはそれでいいの?その…、私が衛さんとお付き合いしてても…」
「?何で?」
「何でって…。〜〜あなたと衛さんはセレニティとエンディミオン…、前世からの恋人同士のはずでしょ…!?」
「まぁ…、確かに前世じゃそうだったかもしれないけどな?」
「今の私はセレニティじゃなくて、月野うさぎなわけだし…。何かもう、あの頃とは価値観も考え方も違うってゆーかぁ…」
「〜〜えぇっ!?」
「あ、それ俺も思った!」
「でしょ?」
〜〜ミ…、ミラクル・ロマンスなのに…、そんな軽く扱われていいのかしら…?
「〜〜で…っ、でもっ!お互いにとっては運命の相手でしょう!?今度こそ幸せになれるようにって、クィーン・セレニティ様はあなた達をわざわざ同じ地球に転生させたのに…」
「う〜ん…。お母様には悪いんだけどさ…、地球人として生まれ変わった今はエンディミオン様以外にもカッコいい人が周りにい〜っぱいいるんだも〜んっ♪元基お兄さんとか〜、スリーライツとか〜♪」
「俺も前世では、せつなと出会ってなかったからな…。考えてみれば、太古の昔にセレニティじゃなくてプルートの方と恋に落ちていれば、月と地球の戦いが起こるなんてこともなかったかもしれないよな?」
「そうそう!クイン・ベリルも、せつな先生となら仕方ないって納得してくれたかもしれないしね〜?」
た、確かに…、前世の私は時空の扉の守り人で、月はおろか地球に行くことは許されていなかったから、エンディミオン様と当時、顔を合わせたことは一度もなかったけれど…。
〜〜あの嫉妬深いクイン・ベリルのことですもの…、もし私とエンディミオン様がそういう仲になれば、『女の論争』ならぬ『女の戦争』を引き起こして、冥王星のカロン・キャッスルに四天王を連れて攻め込んできたかもしれないわね…。
「…あっ!じゃあ、スモール・レディはどうなるのよ!?うさぎちゃんと衛さんが結婚しなければ彼女は生まれないことに…」
「……すもぉるれでぃ…?」
「もしかして、ちびうさのことか?」
「よかった…!この世界にも、ちびうさちゃんは存在するのね!?」
「あはは!せつなさんってば何言ってるの〜?そんなの当ったり前じゃ〜ん」
「そういえば、ちびうさの奴…、今日遊びに来るって言ってたよな?」
「あ、そういえば…」
「――パパ〜!ママ〜!」
「ほら、噂をすれば…♪」
ピンクの雲がもくもくと保健室の天井近くに集まって来たわ。
時空の鍵を使って、スモール・レディが30世紀の未来からやって来る合図ね…!
「――じゃ〜んっ♪ちびうさこと地場うさぎ!30世紀の未来から華麗に参上〜っ♪」
と、元気いっぱいにダイブしてきたスモール・レディをいつものように衛さんがしっかり受け止めた!
――と、思った瞬間、いつもとは明らかに違うスモール・レディのある特徴を目の当たりにして、私は開いた口が塞がらなくなってしまった…。
「まもちゃ〜ん、久し振り〜っ!」
「元気だったか、ちびうさ?髪が伸びて、ますますママに似てきたんじゃないか?」
「えへへ〜♪やっぱり、そう思う〜?」
スモール・レディの髪は同じピンク色だったんだけど、その髪型はいつものうさぎちゃんそっくりのおだんごツインテールじゃなくて、おだんごをアップにしている私の髪型に酷似していた…!
「〜〜ス…ッ、スモール・レディ…ッ!?その髪型は一体…!?」
「すもぉるれでぃ…?なぁに、それ?いつもみたいに『ちびうさ』って呼んでよ!ママぁ〜♪」
スモール・レディ――…もとい、ちびうさちゃんは、いつもうさぎちゃんが私にしているように駆け寄ってきて、笑顔で私の胸に飛び込んで甘えてきた。
「…え?〜〜マ…っ、ママぁ〜っ!?」
「…?どうしたの、ママ?未来の娘が会いに来たのに嬉しくないの…?」
「〜〜ちびうさちゃんが…、私の…娘…!?」
「?変なママー…」
「ごめんな?今日はママ、色々あって疲れてるんだよ…」
「強い敵と戦ったショックで、一部の記憶が『そんたく』しちゃってるって亜美ちゃんが言ってたわ♪」
「『忖度』じゃなくて『喪失』な?」
「〜〜う…。だから、そう言ったでしょっ!?」
「えぇ〜っ!?記憶喪失〜っ!?」
「〜〜そ…っ、そんなに深刻なレベルじゃないから安心してっ!?」
「じゃあ、私のことも覚えてないの…!?赤い瞳の色がママとそっくりだって言われて嬉しかったって、この前、お話したことも…?」
「ごめんなさいね?今、ちょっと記憶が混乱してて…。スモ――…じゃなかった。ちびうさちゃんのことを色々教えてくれたら…ママ、とっても助かるんだけどなー?」
「わかったよ!ママの記憶が早く戻るように、私と30世紀のこと、色々教えてあげるね?」
「フフ、ありがとう」
「まず、基礎的なことからね!私・月野うさぎことネオ・クィーン・セレニティは、はるか遠い未来の30世紀で、幻の銀水晶の力によってクリスタル・トーキョーを治めています!」
「おだんごはその時、銀水晶の力をこの地球に住む全ての人達に解放してな、世界中の人々は歳を取らずに長寿を全うできる…、いわゆる不老長寿の力を得たんだ」
「そして!その天才的な力を発揮する賢くて美しいクィーンと彼女を守る8人のセーラー戦士達は、銀水晶の加護によって特別に『ふろーふし』になることが出来ましたとさっ♪」
「だから、跡継ぎが出来なくてもクィーンは永久的にクリスタル・トーキョーを治めていけることが出来るんだ」
「そして、私のママ・セーラープルートを始めとするセーラー戦士達もクィーンに永久的に仕えることが出来るようになって、30世紀の今、皆はクリスタル・パレスで幸せな日々を送っているのでしたー♪」
『不老長寿』ではなく、『不老不死』…。そして、セーラームーンの後継者がいない世界…。
私の知ってる30世紀とは少し設定が違うのね…。
「じゃあ、スモ…――ちびうさちゃんは30世紀の世界ではプリンセスじゃないのね?」
「うん、そうだよ?…ま、こ〜んなドジで泣き虫なうさぎより、私の方がプリンセスにふさわしいとは思うけどね〜♪」
「〜〜ム…ッ!?何よぉ〜っ!?未来のクィーンに対して、ただの市民が偉そうにっ!!あんたなんてねぇ〜、打ち首よ、打ち首っ!!」
「べ〜っだ!ドジで泣き虫なうさぎが私のママじゃなくてほんっっと良かったっ!!」
「〜〜あんたねぇ〜っ!!そのきゃわゆ〜い名前、誰がつけてやったと思ってるのよっっ!?」
「やっぱり、ちびうさちゃんの名前はうさぎちゃんの名前から取ったのね?」
「あぁ。30世紀で暮らす未来の俺の話によると、クィーンであるおだんごに俺達の娘の名付け親になってもらいたいって頼んだのは、せつなみたいだな」
「だからね、未来の私は世界で一番素敵な『うさぎ』って名前を付けてあげることにしたのよっ♪」
「…うさぎなんて、へ〜んな名前だよねぇ〜。どうせならママと同じ『せつな』って名付けられて、『ちびせつ』って呼ばれたかったなぁ…」
「〜〜ぬわんですってぇ〜っ!?」
ちびうさちゃんが…本当に私達の娘…。――私と…衛さん…の……♪
「せ…、せつなっ!?」
「〜〜ママっ!何で泣くのよぉ〜!?」
「ふふっ、ごめんね?何だかこの幸せが信じられなくて…」
「…?今日のせつな先生、やっぱりへ〜ん…」
冥王せつなとして現代に転生する前…、まだ30世紀のクリスタル・トーキョーで時空の扉の番人をしていた頃、スモール・レディはよく私を訪ねに来てくれた。
今より少し幼くて、無邪気なちびうさちゃんが私のことを友達としてだけでなく、母親のように頼りにしてくれたら…。
キング・エンディミオンの正妻になりたいとか…そういう邪な野望とかではなく、いつも忙しいネオ・クィーン・セレニティの代わりに私のことを本当の母親のように思ってくれたら…って思ったことは何度もあったわ。
キングとスモール・レディが一緒に私を訪ねに来てくれたことはあまりなかったけど、あの時は3人で色々なお喋りをして、とても楽しかった…。
もしも私達が本当の家族ならって…。〜〜そう思う度にクィーンに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった…。
うさぎちゃんには悪いと思いつつも…、タブーであるにもかかわらず、心のどこかでずっと『そうなったらいいな』って思い描いてきた…、決して叶うはずのない私の甘い夢が今、こうして現実のものとなっている、この世界…。
この世界は一体何なの…?
「――あっ、そうだ!この前ね、パパとママと3人でピクニックに行ったんだ〜♪その時の写真と動画、まもちゃんとママにも見せてあげようと思って持ってきたの〜!」
そう言うと、ちびうさちゃんはリュックの中からクリスタルでできた装置のようなものを取り出して、保健室の電気を消した。
「いっくよ〜!」
ちびうさちゃんの掌の上でクリスタル製の装置が宙に浮いて輝きを放ち始めると、まるで自分達が映像の中に入り込んだかのような、臨場感があって精細な立体映像を浮かび上がらせた。
「すごいホログラムだな…!」
「さすが30世紀…っっ!!」
「ん〜とぉ…、確かこの辺に…――あった〜!コレコレ〜♪」
ちびうさちゃんがピクニックの時のものを選ぶと、装置がくるくると回り始めて、大きくてリアルな動画のホログラムを保健室全体に浮かび上がらせた。
『――パパ〜、ママ〜!早く早く〜♪』
『コラコラ、そんなにはしゃぐと転ぶぞ?』
『ふふふっ、うさぎったら…』
今より少しだけ歳を取った衛さんと私がちびうさちゃんと家族水入らずで、光が反射して美しい水晶の森の中を歩いている。
都心では見かけない、珍しい動植物に興味津々のちびうさちゃんに優しく教えてあげる衛さん…。
家で作って来た手料理をバスケットに入れて持ってきて、夫の衛さんと娘のちびうさちゃんに振る舞う未来の私…。
ピクニックシートの上で、私の手料理を美味しそうに食べてくれる衛さんとちびうさちゃん…。
夜になって幻想的な夜行性の蝶やホタルが舞い、まるでエリュシオンのような美しい風景に囲まれながら疲れて眠ってしまったちびうさちゃんを膝枕してやり、可愛い娘の寝顔を隣にいる衛さんと優しく見守っている私…。
キング・エンディミオンの薄紫色のタキシードに身を包んでいない、普段着の衛さんの姿も素敵だわ…♪
動画を見せながら、ちびうさちゃんが説明してくれた話の内容によると、衛さんはネオ・クィーン・セレニティであるうさぎちゃんと結婚しなかった為にキング・エンディミオンにはならず、30世紀でも普通の地場衛として生きているらしい。
そして、私はそんな衛さんと結婚して地場せつなとなり、ちびうさちゃんという娘が産まれて…。
『――せつな…』
『ふふっ、ダメよ。うさぎが起きてしまいますわ』
『少しだけ…』
『衛さん…』
まるでおとぎの世界のような風景の中で交わす衛さんと私の甘いくちづけ…。
『これからも、あなたをお慕い申し上げます…♪』
――幸せそうに衛さんを見上げ、微笑む私のホログラムは手で触れれば霞となって消えてしまいそう…。
罪悪感を抱きながらも、私が理想としてきた幸せな家族が、こんな近くに…確かに存在しているなんて…。
「――終〜わりっと…!じゃあ、そろそろ30世紀に帰ろうかな」
いつの間にかホログラムの上映会は終わったらしく、保健室の明かりがまた点いて、私は我に返った。
「パパとママがね、まもちゃんと21世紀のママによろしくって♪…あ、ついでにうさぎも」
「〜〜あっ、そ」
「ありがとな。そっちも元気そうで何よりだって、よろしく伝えてくれ」
「うんっ!…あっ!――それからねぇ〜、ママ…♪」
と、ちびうさちゃんは何やらニヤニヤしながら私の耳元に近づいてくると…?
「――30世紀にいるママのお腹にはね、今、赤ちゃんがいるんだよ…♪」
「え…っ!?」
「えっへへ〜♪このこと、まもちゃんにはまだ内緒ねっ♪」
み…っ、未来の私のお腹の中に2人目の衛さんの子が…♪
「そ、それで…?男の子?女の子?どっちなの…!?」
「それはね〜、次来る時までのヒ・ミ・ツ♪」
「…さっきから何を二人でコソコソ話してるんだ?」
「えへへ〜♪それはぁ…」
「パパにはヒ・ミ・ツ…よね♪」
「んん?何だよ、それ…」
家族の中で一人だけ仲間外れにされたことに衛さんは少しふてくされてしまったようだ。
ふふっ、時折見せる、こういう子供っぽいところも母性本能をくすぐるのよね…♪
「いいな、いいなぁ〜。〜〜主人公なのに、な〜んか私一人だけ脇役〜って感じ〜…」
「――うさぎー、いるかー?」
声のした方へ顔を向けると、保健室の入口にスリーライツのリーダーである星野光君が立っていた。
「星野…!早かったね?新曲の打ち合わせ、もう終わったの?」
「あぁ。あとは大気の詩が出来るまで待つって感じかな。そっちは帰りの支度できたか?」
「うん!」
「へぇ〜!うさぎのくせにアイドルと付き合ってるなんて、ヤるじゃ〜んっ♪」
「〜〜ち…っ、違うってばぁっ!!今日はその…、特別よっ!私みたいなかよわい女の子が一人で暗い中帰るのは危険だからって…!ただのボディガードよ、ボディガードっっ!!」
「ボディガード…ねぇ。――別に俺は気にしないぜ?お前となら週刊誌に撮られても…さ」
「えっ?せ、星野…♪」
「…ほら、行くぞ!〜〜べ…っ、別に家の前まで送っていくだけだからさ…!この後、銀河テレビ局でドラマの撮影あるんだからなっ!?」
「わ、わかってるわよ…っ」
いつものように口喧嘩が始まりそうになった瞬間、うさぎちゃんはすぐ隣を歩く星野君に強く手を握られて、ハッとなって頬を赤らめた。
「星野の手…、あったかいね…♪」
「……寒いんなら…、俺のマフラー…するか…?」
「うん…♪――じゃあ、また月曜日ね〜、せつな先生〜!」
うさぎちゃんは少しはにかみながら私に笑顔で手を振ってくれると、何を話しているかは聞き取れないけど、星野君の隣で楽しそうにお喋りしながら保健室を後にしていった。
「…な〜んか、あの2人ってイイ感じじゃない♪」
「ふふっ、そうね」
……私が知ってる世界では、衛さんに秘かに恋心を抱いている私と同じで…、星野君はうさぎちゃんに片思い中だったはずなのに…。
――こういう風に、もし星野君の気持ちをうさぎちゃんが受け入れてくれれば…。
……許されないことだけど、正直、そう思ってしまったことも何度かあるわ…。
「…どうかしたか、せつな?」
「衛さんは今、幸せなの…?〜〜うさぎちゃんじゃなくて、私を選んだことに対して罪悪感は…ない…?」
「当たり前だろ?ははっ、今日は少しおかしいぞ?やけに俺とおだんごをくっつけたがるなぁ?」
「ほーんとよ!どうしちゃったの、ママ?」
「そ、そうね…。……本当にごめんなさい…」
「だから、何で謝るんだよ?」
「〜〜…っ」
ほんの数時間前までいた世界とは、まるで異なるおかしな世界…。
――けど、もしここが本来、私のいるべき世界だとしたら…?今までの世界は幻で、何らかの敵の罠から解放されて、ようやく長かった悪夢から今、覚めたのだとしたら…?
「せつな…?」
恐る恐る手を伸ばして、ゆっくり確かめるように触れてみた衛さんの顔…。
――幻なんかじゃない。実際に…私の目の前にこうして、私を愛してると言ってくれる彼は存在しているじゃない…!
「夢じゃないのよね…?私…っ、これからは堂々とあなたの近くにいていいのよね…?あなたに愛してるって伝えてもいいのよね…っ!?」
「あぁ、もちろんだ。――俺はずっと…、せつなの傍にいるよ」
「衛さん…」
「ほら、ママ…!」
「あ…っ♪」
ちびうさちゃんに背中を押され、近づいてきた私の体を衛さんはぐっと強く抱き寄せてくれた。
「せつな、愛してる…」
瞳を閉じて、私の肩を抱きながら近づけてきた衛さんの唇を…今度は素直に唇で受け止めてみる…。
柔らかくて温かい…衛さんの…プリンスの唇の感触…。
「衛さん…っ」
ずっと、こうして触れてみたいと思ってた…。罪の痛みなんか、もう感じない…。
あなたの一部が私の心と体をこんなに熱く…激しく火照らせてくれる…!
私は白衣が乱れるほど夢中になって、衛さんの肩に手を回して、もっと彼を抱き寄せて、何回も唇を重ねたり、唇に吸いついたり、舌を絡ませ合う…!
「〜〜せ…、せつな…っ!?ちっ、ちびうさがいるんだぞ…!?」
「ん…っ、もう止まらないの…!もっとキスして…。お願い、キング…ッ♪」
「キ、キング…って?」
「…あ、間違えちゃった♪――もうキングでもプリンスでも、どっちでもいいわっ!!さぁっ!早く来てぇ〜っ、衛さぁ〜んっっ♪」
「うわあっ!?〜〜娘の前でベッドに押し倒すのはマズイって…っ!!」
「〜〜あ…、私、帰るね…?何かお邪魔みたいだし…♪」
「あっ、ちびうさ――っ!?」
ちびうさちゃんがそそくさと時空の鍵を使って未来に帰ると、私はようやく我に返って、妙に込み上げてくる恥ずかしさと気まずさを堪えつつ、衛さんを保健室のベッドから解放してあげた。
「〜〜ご、ごめんなさい…」
「…まったく、今日の君は本当に変だな?」
〜〜私ったら、プリンスになんて大胆なことを…っ!?
……もしかして、嫌われてしまったかしら…?
〜〜ああん、もうっ!恐くて衛さんの顔を直視できな――っ!?
――チュ…ッ♪
「あ…♪」
衛さんは保健室のベッドに腰掛ける私の肩に腕を回して抱き寄せると、熱く火照った私のおでこに軽くキスしてくれた。
「さっきは確かに驚いたが…、あんなに感情むき出しで取り乱す君もなかなか見られないっていうか…その…――可愛かったよ…♪」
――きゅん…っ♪
そ、そんな…!私のことを可愛いだなんて…♪
あぁ…、地球に攻めてくる敵に殺されるより先に私、プリンスにキュン死させられそうです〜…♪
「俺達も帰ろうか」
「は、はいぃ…♪――ふぅ…っ♪」
「おっと…!…もういちいち倒れるの禁止な?」
「…はい♪」
ふふっ!こうして衛さんに抱きしめてもらっていれば、喜びのあまりまた気絶しても大丈夫そうね…♪
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