冥王せつな誕生日記念・特別短編小説2017
「愛の思い出」その11



衛さんとの次のデート場所は、プラネタリウム『満天』。

確かスカイツリーのソラマチにある『天空』とは姉妹みたいなプラネタリウムよね。

「――ようこそ、『満天』へ。今回、皆様へお届けするプログラムは『癒しの惑星〜北極から見る銀河系と太陽系〜』です」

入場する前に待機する部屋で係員の女性からプログラムに関する説明を聞いた後、私は衛さんと手を繋ぎながら星空のような綺麗なトンネルを抜けて、中に入った。

「暗いから足元、気を付けろよ?」

「えぇ」


太陽系の惑星…か。〜〜我が冥王星が惑星から降格になって大分経つけど、ちゃんと取り上げてくれてるかしら…?

「うわぁ〜、おっきいね〜!」

「始まるまで遊んでようぜ〜!」

「あっ!待ってよぉ〜…!!」


――ドン…ッ!!

「きゃ…っ!?」

「〜〜危ない…っ!」


仲良くはしゃいで走り回っていた、兄妹と思われる小学生くらいの男の子と女の子にぶつかり、よろけた私を衛さんはとっさに抱き留めてくれた。

「大丈夫か?」

「ありがとう。さすがタキシード仮面様ね…♪」

「〜〜ごめんなさぁい…」

「〜〜私が前見てなかったせいで…」

「ふふっ、お姉さんなら平気よ?二人とも、ちゃんとごめんなさいできて偉いわねぇ。でも、危ないから走るのは、もうやめましょうね?」

「はぁい…」「はぁい…」

「始まるまで良い子で座って待ってること、出来るよな?」

「うんっ、出来るよ〜!」

「私だって!」

「――ユウ〜?ゆき〜?」

「あっ、ママが呼んでる〜!」

「じゃあね〜!お兄ちゃん、オバちゃん♪」


――ピキ…ッ!!

「〜〜オ…ッ、オバ…!?」

無邪気に手を振って走っていった子供達を私は大人げなく額に青筋を立てて睨みつけてしまった…。

「〜〜ま…、まぁまぁ…、子供の言うことじゃないか。な?」

「〜〜何で衛さんは『お兄ちゃん』なのに、私は『オバちゃん』なのかしら…?」

「…その服のせいでバブル世代だと思われたんじゃないか?」

「〜〜んもうっ!あんな小さい子達がバブルなんてわかるわけないでしょっ!?」

「はははは…!怒らない、怒らない♪――ほら、せっかく雲シート取れたんだからさ」

「…ふふっ、それもそうね」

「こちらへどうぞ、プリンセス…♪」


衛さんはプリンスらしく気取って私の手を取ると、まるで本物の雲のように白くてフワフワの円形の極上ソファーに私を座らせてくれた。

「わぁ…!フカフカで気持ち良いわねぇ…♪」

「だろ?靴脱いで、もっとこっち来いよ」

「あ…っ♪」


衛さんに肩を抱き寄せられて体が密着し、私は思わず頬を紅潮させた…♪

――ドクンドクンドクン…♪

衛さんの温もりと一緒に心臓の鼓動も伝わってきて、何だか安心するわ…。

きっと、私の高鳴ってるこの心臓の音も衛さんに聞こえちゃってるんだろうな…♪

衛さんとずっと一緒にいて、何度も抱かれたはずなのに…、私ったら隣にいるだけで、まだこんなにドキドキしちゃうなんて…♪

「ま、衛さん…♪」

ふふふっ!こうなったら、上映中ずっと衛さんの腕の中で甘えちゃおうかしら…♪

「このシート、最高だな♪始まったら確実に寝ちゃいそうだ…」

〜〜んもうっ!衛さんってば、私が寄り添ってても全然緊張しないみたいね…。

――でも、それだけ私が隣にいることを当たり前に思ってくれているってことかしら?ふふふっ♪

「おっ、アロマが香ってきたな」

「本当…!何だかひんやりしてて、頭が冴えそうなミント系の香りだわ」

「きっと北極をイメージした香りなんだろうな」

「ふふ、気に入ったわ。終わったら、ショップでアロマオイルを買っていこうかしら?」

「そうだな。俺達のリビングのディフューザー用に…♪」

「ふふふ…っ♪」


すると、アナウンスが流れて室内がだんだん暗くなっていき、美しいヒーリングミュージックとナレーションに乗せて、巨大スクリーンに癒しの映像と満天の星空が投影され始めた。

「きれ〜い…!」

「これが北極から見た星空…か」


…?北極の映像を見ていくうちに、何だか衛さんの表情がだんだん暗くなっていくような…?

「…もしかして、クイン・ベリルと四天王のことを思い出してるの?」

「……まぁな。あの頃は前世の記憶が色々甦ったせいもあって、随分と悩まされてたなぁって…」

「衛さん…。〜〜そうよね…。前世のあなたはクイン・ベリルと四天王を裏切って、セレニティと…」

「そのセレニティでさえも、転生した今の俺は…。〜〜本当、ひどい男だよな…」

「衛さん…。――今のあなたはゴールデン・キングダムの王子じゃなくて、普通の大学生の地場衛さん。あなたの今の恋人はクイン・ベリルでもセレニティでもない…、…私でしょ?」

「…そうだな。あの後すぐに30世紀でプルートに出会って、現代に転生してきてくれた君と真実の愛を育むようになって、俺はとても救われたんだ。運命というものを感じさせてくれた、本当に愛する人とやっと巡り会えたような気がする…。今を生きる俺に生きる意味と希望を与えてくれた君には本当に感謝してるよ」

「衛さん…♪私の方こそ感謝しているわ。ずっと孤独だった私は、あなたに出会えたことで愛というものがどういうものなのかを知ることが出来たんですもの…。たとえ、この宇宙が消えても…、二人の愛は永遠なんだってこともね…♪」

「そっか…♪……デート中なのにゴメンな、こんな話して…。〜〜はは、別のプログラムにすれば良かったかな…?」


重い空気を和らげようと苦笑した衛さんを私は下唇を噛みしめてギュッと抱きしめた…!

「…!せつな…?」

「前世で犯した罪の痛みを現代でまで感じる必要はないの…。もし、また過去を思い出して辛くなったら…、私が未来まで一緒に業を背負うわ。あなたの苦しみは私の苦しみでもあるのよ、衛さん…?」

「せつな…。――ありがとう」


北極に降り注ぐオーロラと輝く星空の映像を背景に、私と衛さんは雲シートの上で抱きしめ合いながら口づけを交わした。

「ん…っ♪ダ、ダメよ…!周りに気づかれちゃうわ…」

「暗いんだからキスぐらい平気だよ。…その為のカップルシートだろ?」

「衛さん…♪」


私は頬を赤らめながら嬉しく微笑むと、背もたれにもたれながら衛さんの首に腕を回してキスを受け入れ、何度も唇を重ね合った…♪

――そう、暗い過去のことなんて関係ないの。二人でこれから築いていく未来の方が、あなたと私にとっては大切なことなんだから…♪



「――次は、どうするんだ?」

「そうねぇ…。じゃあ、お買い物にしない?」


プラネタリウムの上映が終わり、私と衛さんは腕を組みながらエレベーターで地下のショッピングエリアまで降りてきた。

「せっかくだから、ダブルベッド見て行かないか?今使ってるセミダブルじゃ、一緒に寝るのに狭いだろ?」

「そうよねぇ…。――昨晩はギシギシきしんで、ちょっと集中できなかったし…♪」

「そ、そうだな…♪」


――ダブルベッド…♪

それって、寝てる時に衛さんに突然抱きしめられて、『いいだろ?』って求められたり…♪

毎晩、イエス・ノー枕で意思を確認し合ったり…♪

明日は早いからダメって言っても、衛さんが『少しだけ…』って言いながら、私の服を無理矢理脱がせてきたり…♪

「〜〜いやああ〜んっ♪衛さんってば、そんな強引な…っっ♪」

「…またエッチな妄想してるだろ?」

「あ…♪〜〜ご、ごめんなさい!つい…」

「――その妄想、今夜叶えてやろうか?」

「〜〜はう…っ♪」


転生してくる前から、時空の扉の前でずっとしていたキングとの…、衛さんとのあんな妄想やこんな妄想を本人に教えるのは恥ずかしいけど…♪

……ちょ、ちょっとだけなら試してみたいかも…っ♪

「えーっと、家具屋は…、――あそこにあるみたいだな。行ってみようか?」

「えぇ」

「――いらっしゃいませ〜」


――展望台で気配を察知した通り、地下に来た途端、急に胸騒ぎがして…、時空の扉が教えてくれるギャラクシアの反応も強くなった気がするわ…。

衛さんとショッピングデートしながらエリアを一つずつ、しらみつぶしに探していくしかなさそうね…。

「…?ボーッとして…、どうかしたのか?」

「…っ!なっ、何でもないわ…!――あっ!このベッドなんかいいんじゃない?」

「おっ、さすがせつな!値段も手頃だし、良いセンスしてるなぁ」

「ふふふっ♪」


――それに、このベッドの固さなら丁度良いものね…♪…なんちゃって♪

「すみませーん。これ下さーい」

「ありがとうございます〜。お届けの希望日時の指定はございますか?」

「はい。じゃあ、来月の頭に――」

「あっ、待って!支払いなら私が――!」

「いいよ、俺が払うから。……と言いたいのは山々なんだが…、〜〜悪いけど、給料が出たら折半頼むな?」

「ふふふっ!じゃあ、私のカードで冬のボーナス一括払いにしておくわ。大学生のバイト代だけじゃ、ちょっとキツいものね〜?」

「〜〜う…。甲斐性なくて悪かったな…っ」

「ふふふふ…!」


衛さんと私の二人で初めて買ったダブルベッド…♪〜〜届くところを見届けられないのが残念だけど…ね。

「どうせなら今日、食器も雑貨も足りない物は買っていくか?」

「そうね。私の分も全部揃えてくれるなんて、同棲が始まる実感が湧いてくるわ…♪」

「そうだな。せつなとの新生活、俺も楽しみだよ…♪」

「ふふふっ!私もよ、衛さん…♪」




その後、地下のショッピングエリアをグルグル回ってみたけど、ギャラクシアの反応を強く感じる場所は、まだ見つけられないでいる…。

「――たくさん歩いて疲れただろ?そろそろカフェに寄って休憩するか?」

「そうね。――じゃあ、あそこなんてどう?コーヒーが美味しくて有名なお店なんですって」

「へぇ、行ってみるか」


私は近くにあったカフェに荷物を全部持ってくれている衛さんを誘導した。

「俺はコーヒーのブラックで」

「私はカフェラテを」

「かしこまりました」

「甘い物は頼まなくていいのか?」

「昨日、ケーキを食べたんですもの。これ以上、糖分を摂取したら虫歯や糖尿病になっちゃうわ」

「ははっ、さすが養護教諭!徹底した健康管理だな」

「ふふふっ♪」

「――んでさ〜」

「きゃはははっ!超ウケる〜♪」


店のオープンテラスに座っている私達の前をゾンビの傷メイクをした大学生と思われる集団が通っていった。

「もうすぐハロウィーンとはいえ…、さっきから遭遇するの、仮装した人ばかりだな?」

「あっ、見て!噴水広場で何かやってるみたいよ?」

「ん…?どれどれ…?」

「――ただ今、噴水広場ではハロウィーン・イベントを開催しておりま〜す!サンシャインシティの中で撮影されたペアでの仮装をツイッターやインスタグラムに投稿して頂いた方に海外旅行や家電などが当たる福引券を差し上げてま〜す♪お友達や親子やカップルで是非ご参加下さ〜い!」

「なるほど…!だから皆、仮装してたのねぇ」

「俺達二人ともSNSなんてやってないし…、関係ないか」

「そ、そうね…」


ハロウィーンの仮装なんてやったことないけど…、――衛さんとペアでなら、やってみてもいいかなぁ…♪…ふふっ!な〜んてね♪

仲良くコスプレしているカップルが店の前を通る度にソワソワする私を衛さんは、しばらく黙って見つめていると…、

「…やってみるか、仮装?」

「え…っ!?で、でも…、こういうの衛さん…、好きじゃないでしょ…?」

「ハハ、そうやって目の前でソワソワされちゃなぁ…。それに、せっかく今日はせつなの誕生日なんだし、思い出作りにもなるかなって思ってさ」

「衛さん…♪」


じ〜ん…♪テレパシーが通じたわ…っ!!

この世界の衛さんには何も言わなくても、言葉や態度で私の考えてることが通じちゃうのね…♪

「それで、何の仮装にするんだ?定番だとドラキュラと魔女かな…?さっき見かけたコスプレショップで手っ取り早く衣装を揃えられそうだし」

「…それより、もっとお金がかからない衣装があるわよ♪」

「?」


ふふっ、さぁ!私達も仮装して、噴水広場に急ぐわよ…っ!!



「――おぉ〜っ!!セーラープルートとタキシード仮面がいるぞっっ!!」

「あのガーネット・ロッドも本物みたいっ!!クオリティ高っっ!!」

「あの…!写真、撮らせてもらってもいいですかっ!?」

「えぇ、どうぞ♪」

「うおおおお〜っ!!プルートお姉様ぁ〜♪なんて美しい〜っっ!!」

「このタキシード仮面様、めっちゃイケメンなんですけど〜っ♪」


噴水広場にやって来た私と衛さんの仮装に他のコスプレイヤー達が食いつき、私達はパシャパシャとカメラのフラッシュを浴び続ける…!

「目線、こちらにもお願いしま〜す!」

「は〜い!――あっ、コラ!そこのあなた、下から撮ったらダ・メ・よ♪」

「は〜いっ、お姉様ぁ〜♪」

「〜〜これ…、いいのか?」


衛さんが苦笑するのも無理もない。

だって、私と衛さんはセーラープルートとタキシード仮面にただ変身しただけなんだから…♪

「〜〜俺達の正体が世界中にどんどん拡散されていってるんだが…」

「ふふっ、誰も本物だとは気付かないわよ♪」

「お二人とも〜、ポーズお願いしま〜す!」

「は〜いっ!――ちょっとだけサービスし・ちゃ・う・わ・よ♪」

「うおおおおお〜っ!!プルートお姉様のおみ足〜っっ♪」

「ハァハァ…♪もっとスカート捲って下さ〜いっ!!」

「タキシード仮面、何やってんの!?ちゃんとバラ構えて〜!!」

「〜〜は、はぁ…」


ふふっ、たまにはこうやってもてはやされるのも悪くないわね…♪

「〜〜ハァ…、やっと終わったか…。まさか、あんなに注目されるとは思わなかったよ…」

「私達もインスタントカメラで撮りましょうよ!ほら、衛さんもポーズとって♪」

「……せつな…。君がいくつなのかは敢えて聞かないが、今時インスタントは…」

「〜〜んもう!衛さんったら知らないの!?今、若者の間では流行ってるのよ?」

「ははっ、冗談だよ。せつなって結構、流行に敏感なんだな?」

「ふふっ、うさぎちゃん達からの受け売りですけどね。誰かに撮ってもらう?」

「いや、自撮りでいいよ。――ほら、せつな。もっとこっちに寄らないと映らないぞ?」

「え、えぇ…♪」


まっ、衛さんと顔をこんなに近づけられるなんて幸せ…っ♪

「はい、チーズ!」

――パシャ…ッ!

「…うまく撮れたかしら?」

「う〜ん…。〜〜使い切って現像してみないと何とも言えないな…」

「じゃあ、今度はスマホで撮ってみる?」

「そうだな…――」

「――はいっ、チ〜ズ!」

「ち〜ず〜っ♪」

「あっ!あの子達みたいに自撮り棒があると撮りやすそうだな」

「ちょっと貸してもらいましょうか?」


――あら…?着ぐるみのように大きなジャック・オー・ランタンを着て、緑のカボチャパンツとオレンジのタイツを履いた、あの金髪のおだんご頭の子…、どこかで見たような…?

「もしかして、うさぎちゃん…っ!?」

「あっ、せつな先生〜♪…と、〜〜陰険仮面男っ」

「…出たな、泣き虫たんこぶ頭」

「ねぇ、何でプルートに変身してるの?〜〜もしかして、近くに敵がいるとか…っ!?」

「ち、違うのよ!ハロウィーンの仮装には、これが一番手っ取り早くていいかなぁって♪」

「あ〜、なるほど〜!考えてみれば、そうだよねぇ?セーラー戦士って今は海外でも大人気だし〜♪」

「…そのことにもっと早く気が付けば、そんなダッサいカボチャパンツとタイツなんて履かずに済んだのにな?」

「〜〜むっきぃ〜っ!!だってこれが一番安かったんだも〜んっ!!こっちは赤点取ったお陰で、お小遣い減らされたんですからね〜っ!?」

「〜〜それは自分のせいだろ?」

「ふふっ!でも、色合いが元気なうさぎちゃんに合ってて可愛いわよ?」

「そう言ってくれるのは、せつな先生だけだよぉ〜!〜〜びええええ〜ん…っ!!」

「ふふ、よしよし♪ハロウィーン当日は私が可愛い衣装作ってあげるから泣かないの!」

「本当っ!?わ〜いっ♪」

「その代わりと言ってはなんだけど…、その自撮り棒、ちょっとだけ貸してもらえない?」

「これ?――ふっふっふ、どうしよっかな〜♪」

「〜〜何だよ、気持ち悪い笑い方して…?」

「まぁ〜、せつなさんになら喜んで貸すけどぉ〜♪……アンタがいるとなるとねぇ…、ふっ」

「〜〜はぁ?」

「どうしても貸してほしいと言うなら、今まで私をこっぴどくバカにしてきたことを今この場で謝ってもらいましょ〜かっ!地場衛っっ!!そして、『とびっきりキュートなプリンセスのうさぎ様、どうかあなた様の自撮り棒を性悪プリンスの私に貸して下さい』って、土下座しながら頼むことねっ!!」

「…じゃ、いいわ。――そこの店で売ってたから、買ってくるな?」

「〜〜え、えぇ…」

「〜〜えぇ〜っ!?諦めるの早っっ!!」

「――ちびちび〜っ!」


そこへ、うさぎちゃんにどことなく雰囲気が似た…、ちびうさちゃんよりも幼い感じの、ピンク色でハート形のおだんご頭をした女の子が天使の格好で星のステッキを持って、私達に駆け寄ってきた。

「なぁに、ちびちび?また写真撮って欲しいの?」

「ちびちび〜♪」

「その娘、初めて見るけど…、誰だ?」

「なーに寝ぼけたこと言ってんのよ?私の妹の『月野ちびちび』でしょーがっ」

「〜〜それ、本名なのか…?」

「ふふっ、可愛い天使さんねぇ♪うさぎちゃん、妹さんなんていたのね?」

「いるも何も…――あれ?そういえば、あんた…どこの幼稚園に通ってるんだっけ?」

「だっけ?」

「あれ?保育園だったっけ?」

「たっけ?」

「〜〜んもぉっ!真似しないでっ!!」

「まねしないでっ!」

「…あんた、オウム?」

「あんた、おバカ〜♪」

「〜〜んなぁ〜にぃ〜っ!?」

「きゃははははっ!」


ちびちびちゃんは怒ったうさぎちゃんを見て、きゃっきゃっと無邪気に笑っている。

「クスッ、妹の方が一枚上手みたいだな?」

「〜〜むっきぃ〜っ!!いっちいち、うるさいわねぇっ!!」


うさぎちゃんが衛さんを怒鳴っていると、ちびちびちゃんが私の元へ駆け寄ってきて、くいくいっとスカートの裾を引っ張ってきた。

「ん…?どうしたのかな、ちびちびちゃん?」

「希望の光…」

「…?希望の光…?」

「そういえば、ちびちびって今いくつだっけ…?〜〜う〜ん…。よく考えたら昨日まで、こんな娘うちにいなかったような…」

「えっ?」

「〜〜おいおい…、何わけのわからんことを――」


と、その時だった…!

「――…っ!?〜〜ちびちびっ!!ちびちびぃ〜っ!!」

「…?どうしたの、ちびちび?おトイレ行きたいの?」

「〜〜ちびちびぃっっ!!」


――っ!?ちびちびちゃんが騒ぎ始めた途端、時空の揺らぎが大きくなったのを感じたわ…!!

〜〜まさかギャラクシアの封印が…っ!?

「あっ、せつな…!?」

「〜〜ごめんなさいっ!すぐ戻るわ…!!」

「〜〜ちょ、ちょっとぉ!?どこ行くの、せつなさぁ〜んっ!?」


私は空間の異変を感じた場所に向かって、急いで走っていく…!

時空の揺らぎが大きくなったお陰で、今まで曖昧だったギャラクシアが封じられている場所が今は手に取るようにわかるわ…!!

本当は、この世界の衛さんとうさぎちゃんの力も借りたいところだけど…、〜〜並行世界のことを知られるのはタブーですものね…。

「――ハァハァハァハァ…!」

当然ながら、すれ違っていく他の通行人達は時空の異変には気づいていない…。

――けど、時空の扉の番人である私は、はっきり感じるわ!この先に時空の棺の気配を…!!



「――いらっしゃいませ〜」

到着した場所は、新しく出来たばかりの可愛い雑貨屋さんだった。

お洒落で大人可愛いヨーロッパの輸入家具や雑貨を売っているお店で、たくさんの女性客が来店している。

〜〜こんな可愛らしい店の空間の歪みに、あのギャラクシアが封じられているなんて、にわかには信じられないけど…。

「――あぁ…、ここに来たかったんだな」

「…え?」


振り向くと、私の後を追ってきたと見える衛さんが少し息を切らしながら笑顔で立っていた。

「衛さん…!もしかして、ついてきてくれたの…?」

「当たり前だろ?…さっきから単独行動しすぎだぞ?デートだってこと、忘れてないか?」

「〜〜ご、ごめんなさい…。そうよね…」

「…そういえば、誕生日プレゼントはここで買いたいって前に言ってたもんな?どれにするか、俺も一緒に選んでいいだろ?」

「えぇ、もちろんよ…♪」


ふふっ!セーラー戦士の使命と恋人との時間を両立させるのって、結構大変なのね…♪

…でも、よく考えたら衛さんと店内を見回りながら時空の歪みを見つける方が効率的だわ。

本当は封印を解くことなく、時空の棺ごとギャラクシアを元の世界に戻せれば一番いいんだけど…、並行世界を行き来する為には大きな時空の揺らぎを発生させて、なるべく短時間で元の世界に戻って、時空の裂け目を閉じないといけないのよね…。

〜〜その為には、もう一度ギャラクシアと戦って、私の時空と空間を操るパワーと彼女の強大なパワーをぶつけ合わなくては…!

「せつなのプレゼントを買う為にバイトしたんだ。だから、好きなの買っていいぞ?」

「本当?じゃあ、この10万円のドレッサーでも…♪」

「〜〜じゅ…っ、10万っっ!?ま、まぁ…、せつながどうしても欲しいと言うなら…」

「ふふふっ、冗談よ♪学生さんにそんな高価な物をおねだりしたら可哀想ですものね?」

「いいぞ、別に?誕生日プレゼントは年に一度の特別なものなんだからさ」

「あら、本当に?」

「…その代わり、超過分は今夜たっぷり払ってもらうけどな♪」

「ふふふっ、もう!衛さんったら…♪」

「あははは…!」


でも、ギャラクシアの封印が解けてしまったら…、――それは、私がこの世界から離れなければいけない時でもある…。

〜〜衛さんとの楽しい時間が終わる時が刻一刻と近づいてきているのね…。

「――これなんかどうだ?」

衛さんが見つけてきてくれたのは、天使の翼のような白い羽根の形をして、えんじ色の宝石が埋め込まれた美しいエナメル製法のブローチだった。

「まぁ…!綺麗ねぇ…♪」

「アンティークかな?深みのある良い色してるよな」

「そうね。それに、この色…、ガーネット・ロッドに合うと思わない?」

「だな。じゃあ、こいつの名前は『ガーネット・ピン』ってことで♪」

「ふふっ、プルートだけの装備品ってわけね?」

「あぁ。――ほら。よく似合ってるよ、せつな」


衛さんは私のジャケットの左胸に羽根のブローチ『ガーネット・ピン』を着けてくれると、私の肩にそっと手を置いて、お店に置いてあったミラー越しにブローチを着けた私を見て微笑んでくれた。

「素敵…!何だか運命を感じちゃうアイテムだわ…♪」

「決まりだな♪包んでもらってくるよ」


向こうの世界に戻ったら、今度、衛さんのいる前で着けてみようかしら…♪ふふふっ!

「お待たせ。――はい。誕生日おめでとう、せつな」

「ありがとう…!」


黒い包装紙で包まれ、赤いリボンをかけられた立方体の小さな箱を衛さんから手渡されて、私は受け取ったプレゼントをしばらく見つめて、喜びに浸った。

「大好きな衛さんから頂いたプレゼントですもの、一生大切にするわね…♪」

「はは!大袈裟だなぁ、せつなは」

「〜〜…っ」


ダメ…。〜〜嬉し涙が溢れてきて…、目の前にいる衛さんの顔が滲んで…っ!

「せ、せつな…!?泣いてるのか…?」

「ぐす…っ。このプレゼントだけじゃないわ、あなたは私と素敵な愛の思い出をたくさん作ってくれた…っ!私、幸せよ…?〜〜たとえ、この世界から消えても後悔なんてないわ…!今日のことは一生…、いえ!生まれ変わっても絶対に忘れません…っ!!」

「そんなに感激してくれたなんて嬉しいよ。今度のデートの時、着けてきてくれよな?」

「う…っ、ぐす…ん。……えぇ」


〜〜私としたことが…、嬉しさと切なさで頭の中と心の中がぐちゃぐちゃになって、感情のコントロールがうまく出来ないわ…っ。

まるで子供のように大粒の涙をポロポロ流している私の頭を衛さんは微笑みながら優しく撫でてくれると、ギュッと抱きしめてくれた。

「もし、俺が消えて二人が離れ離れになったとしても…、俺は君の心の中で永遠に生き続けるよ。――熱い風になって、せつなの傍にいつもいるから…」

「衛さん…」

「そして、俺達はまたいつか、どこかの世界で必ず巡り会える…」


衛さんが私の顎を軽く押し上げて、まっすぐ見つめてくれている…。

その澄んだ美しい瞳に今にも吸い込まれそうだわ…♪

「せつな…、何度生まれ変わっても君と俺は未来永劫一緒だよ」

「衛さん…っ」


衛さんは瞳を閉じると、愛の言葉を紡いでくれたその唇を私の唇にゆっくり近づけてきて重ねてくれた。

この世界に来てから、衛さんとは数えきれないくらい唇を重ね合っているのに…、今までで一番嬉しいキスだった…♪

「お願い、もう一度だけ…。〜〜この夢が終わってしまう前に…」

「何言ってるんだよ。夢なんかじゃないだろ?」

「…いいの。〜〜キスして、このまま強く私を抱きしめていて…っ!!」

「せつな…?」

「衛さん…、――大好きよ…っ♪」


気が付くと、私は自分から衛さんにキスをしていた。

自分がこんなに積極的に愛を求める人間だったなんて、今まで気がつかなかったわ…。

「せつな…――」

いつもとは違う私の雰囲気に衛さんは少し驚いた様子だったけど、すぐに私の気持ちを受け入れてくれて、何度も唇を重ねて、吐息と舌を絡ませ合ってくれた…。

「んふぅ…っ、はぁはぁ…っ!衛…さぁん…っ♪」

感情が昂ぶって、唇の吸いつき方も舌の絡ませ方も抱きしめ合っている腕の力も、お互いに激しさを増していく…!

周りの目なんて気にしない…。〜〜今は残された時間を衛さんと…――っ!!

「――俺が大学を卒業したら結婚しよう」

「え…っ!?ほ、本当に…?」

「あぁ、もちろん。――約束だ、この『ガーネット・ピン』に誓ってね」

「衛さん…。――ありがとう…。とっても嬉しいわ…♪」

「愛してるよ、せつな…♪――幸せにするから…♪」


夢にまで見た、衛さんからのプロポーズ…♪

――出来ることなら、このまま時間を永久に止めてしまいたい…っ!

〜〜こんな幸せに浸った後に、またあの孤独な日々に戻るなんて嫌ぁ…っ!!

『――クックックック…』

――ドクン…ッ!!

「〜〜…っ!?」

「せつな…っ!?」


この感覚は、まさか…!!〜〜衛さんと愛を深め合ったことで、ギャラクシアを閉じ込めている時空の棺が破られつつあるの…っ!?

「〜〜ハァ…ッハァ…ハァハァ…ッ」

「せつな、どうした!?〜〜大丈夫か…!?」


胸を押さえ、うずくまってしまった私を気遣い、衛さんは心配そうに一緒に屈んでくれた。

「うぅ…っ、〜〜くぅ…っ…あぁ…あ…はぁ……や…んっあ…!?いやぁ…!いやあぁぁ…!!」

〜〜く…、苦しい…っ。ダメ…!もう…っ、持ち堪えられ…そうに…な…い…っっ!!

『――会いたかったぞ、冥王星のプリンセス…ッ!!』

――ドオオオオオオォォォォン…ッ!!

「きゃああああああああああぁぁぁぁ――っ!!」

ギャラクシアの声が頭の中で響いた瞬間、まるで体中に電気が走り、体をバラバラにされたかのような激痛に襲われて、私は自分の体を抱きしめながら背中を大きく反らし、裂くような悲鳴をあげて意識を失った。

「せつな…!?〜〜大丈夫か!?しっかりしろ…っ!!――…っ!?」

衛さんが気を失った私を抱き起こした刹那、私達二人は雑貨屋の前から黒と紫のマーブル状の闇に覆われた亜空間に強制的にワープさせられた…!!

「こ、ここは…!?」

「――ようこそ、我が墓場へ…。地球の王子よ」

「…っ!?〜〜何者だ…!?」


凛とした声とブーツのヒールの音を響かせながら闊歩してきて、ニヤッと妖しく笑った黄金色のセーラー服の女を衛さんは睨んで警戒しながら、倒れている私を抱きしめる力を強くした…!!


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