美少女戦士セーラームーン 長編リメイク小説
ACT.6「月のプリンセス、覚醒!」その4
十番空港・滑走路。深夜。
縄で縛られているせつなを見て妖しく笑い、黒水晶の大きな塊を手にセーラー戦士達を待っているジェダイト。
「そろそろ時間か…。フフッ、果たしてお迎えは来るかな?」
「〜〜…っ」
ジェダイトをキッと睨みつけるせつな。
★ ★
空港の6番ゲートに駆けつけ、辺りを見回すムーン、マーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナス、ウラヌス、ネプチューン、サターン。
「せつな先生とジェダイトはどこ…!?」
「――来たか」
ムーン達の気配を感じ、カッと目を見開くジェダイト。
ジェダイトが指を鳴らすと黒水晶達がムーン達を囲み、黒く光りながら成長して、女型の妖魔になる。
「あぁ…っ!?」
「フッ、随分と大人数でお出迎えだな」
「〜〜一体何匹いるのよぉ…っ!?」
「キエエエエエッ!!」
襲いかかってくる妖魔達に向かっていくネプチューンとサターン。
「ネプチューン・ヴィオロン・タインド!!」
「デス・リボーン・レボリューション!!」
荒波と闇の衝撃波に呑まれ、消滅してバラバラの欠片になって分裂した妖魔達だが、少しすると欠片が元の大きさの黒水晶まで成長し、復活する。
「〜〜うっそぉ〜!?」
「分裂した…!?」
「〜〜ジュピター・ココナッツ・サイクロンッ!!」
雷に打たれて消滅し、欠片が飛び散るが、再び成長して数が増える妖魔達。
「〜〜駄目か…」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前…!――悪霊退散っ!!」
マーズにお札を額に貼られた妖魔だが、平然とお札を破り、咆哮する。
「〜〜お札も効かないなんて…」
「闇雲に攻撃しても駄目よ!何か仕掛けがあるはず…」
コンピュータで調べるマーキュリーを妖魔達の猛攻から防ぐムーン達。
「〜〜マーキュリーちゃん、早くしてぇ〜…」
「ごめんなさい!今、公式を…」
コンピュータの画面にエラーと表示される。
「〜〜弱点がない…!?」
「何だって!?」
「〜〜そんなんありなの〜っ!?」
「〜〜倒せないんじゃ、戦いようがないじゃないのよ…っ!」
「キエエエエエエッ!!」
妖魔達の攻撃を避け続け、苦戦しているムーン達を黒水晶に映し、笑うジェダイト。
「フフ、はなから勝者は決まっているのだ。手も足も出まい…!」
(皆…!〜〜く…っ、どうすれば…!?)
ジェダイトの後ろに置いてあり、力を供給している黒水晶の巨大な塊を見つけ、気づかれないようにガーネット・ロッドを手中に出すせつな。ロッドが赤く光り、静かに浮遊して、黒水晶を叩き割る。
「ム…ッ!?」
同時にムーン達を襲っていた妖魔達が一斉に消える。
「き、消えた…?」
「この気配…。――せつなママだわ!せつなママが助けてくれたのよ!」
「じゃあ、ここにせつな先生がいるのは確かなのね!?」
「急ぎましょう!」
★ ★
「〜〜貴様ぁっ!!」
ジェダイトに頬を叩かれ、したり顔で見上げるせつな。
「〜〜俺が手を出せないのをいいことに、調子に乗りやがって…っ!…ククッ、だが、お前のしたことは何の意味もなさぬ。人間のエナジーで成長した黒水晶は、砂粒ほどの欠片になっても効力を発揮するのだ。なんせ、あんなちっぽけな欠片一つ使っただけで、あんな力を発揮できたのだからな…!」
「――弱い人…」
「何…!?」
「そんな物に頼らなきゃ自分を強く見せられないなんて、哀れだわ…」
「〜〜貴様ぁっ、もう一度言ってみろっ!!」
再びせつなをはたくジェダイト。ジェダイトに余裕の笑みを浮かべるせつな。
「所詮、あなたの強さはその程度なのよ。自分より弱い人間にしか威張れないじゃない」
「〜〜黒水晶を手に入れた今の俺は無敵だっ!!」
「そんな紛い物の力は、その人の本当の強さとは言えないわ。だけど、セーラー戦士は違う!そんなうわべだけの強さにしか惹かれないあなたに私達は倒せないわ…!!」
「〜〜このアマぁ…っ!!」
「――おやめなさいっ!!」
せつなの殴ろうとした手を止め、ハッと振り返るジェダイト。
横に一列に並んでいるムーン達。
「愛と知性の戦士、セーラーマーキュリー!水でもかぶって反省しなさい!!」
「愛と情熱の戦士、セーラーマーズ!火星に代わって折檻よ!!」
「愛と勇気の戦士、セーラージュピター!しびれるくらい後悔させるよ!!」
「愛と美貌の戦士、セーラーヴィーナス!愛の天罰、落とさせて頂きます!!」
「天空の星・天王星を守護に持つ飛翔の戦士、セーラーウラヌス!」
「深海の星・海王星を守護に持つ抱擁の戦士、セーラーネプチューン!」
「土星を守護に持つ破滅と誕生の戦士、セーラーサターン!」
「そして、この私・愛と正義のセーラー服美少女戦士セーラームーン!私達の大事なプリンセスを人質にして痛めつける闇の王国!お陰で、こっちの絆はどんどん深まるばっかりよ!今日こそ、せつな先生を返してもらうわ!さもないと、このセーラームーンが月に代わっておしおきよ!!」
「〜〜くっ、いつの間に…!?」
「頭に血が上っていたせいで、周りのことが見えなくなってたようね?」
「〜〜くそぉ…っ」
「せつな、離れろ!――ウラヌス・スペース・タービュレンス!!」
青い風の刃を掌で受け止め、ニヤッと笑って消し去るジェダイト。
「ククッ、その程度か?では、こちらも行くぞ!――ダーク・パワー・ストロング!!」
ジェダイトのダーク・パワーをムーン・スティックで防ぐムーン。
「ムーン・ヒーリング・エスカレーショーン!!」
「ふははははは…っ!!笑止っ!!」
ピンクの光をダーク・パワーに押し返され、吹き飛ばされるムーン。
「きゃあああああーっ!!」
「〜〜セーラームーンっ!!」
「フハハハッ!!素晴らしいっ!!やはり、今の俺は強い!お前らのようなクズとは違うのだぁぁぁっ!!」
「きゃああああああ〜っ!!」
黒い雷を纏わりつかせた剣を振るジェダイトの桁違いのパワーに吹き飛ばされ、倒れて悶え苦しむムーン達。
「やめてぇっ!!〜〜もう逃げて…っ!私なんて助けなくていいから…!!」
「〜〜駄目だよ…っ。せつな先生はプリンセスである前に…、私達の大事な仲間だもん…っ!」
「そうです。あなたは、この地球や人々と同じ、私達が守らなければいけない人…!」
「それが私達の使命だもん!見捨てるなんて…、できないよ…っ!」
「皆…」
「クククッ、最後のお別れは済んだか?」
剣の刃先を向けてくるジェダイトを睨みつけるムーン達。
「…最後にもう一度だけ聞く。幻の銀水晶はどこに隠している?」
「だから、私達も探してるって言ってるでしょ!?もし知ってたとしても、あんた達なんかに教えてやんないけどね〜っだ!」
「クククッ、そうか。最後まで生意気な小娘どもだったなぁ…っ!」
笑いながら剣を振りかざすジェダイト。
「ジェダイト…。〜〜もうこんなことはやめてっ!私に見せてくれたあの笑顔も優しさも…、全部嘘だったのっ!?」
「マーズ…!?」
マーズの言葉に眉を顰め、うつむくマーキュリー、ジュピター、ヴィーナス。
「フフッ、最期に何を言い残すのかと思えば…。前に教えただろう、あれはお前達をはめる作戦だったのだと?」
「それでもいいわっ!私は…、〜〜私達は皆…、あの時、あなた達と過ごせて幸せだったから…」
「レイちゃん…」
「ククッ、愚かな…。死ぬ時間を遅らせたくて、そんなでまかせを言ってるのだろう?…もうこれ以上は待てんな。あいにく俺は気が短いのでね?」
背後にある黒水晶が細かく砕け、欠片となって流星のようにジェダイトの体に吸い込まれていく。
「あぁ…っ!?」
「黒水晶が…!」
「ふははははは…!!もっとだ…!もっと俺に力をくれぇぇぇっ!!」
「〜〜やめなさい!これ以上、黒水晶の力を取り入れたりしたら――っ!!」
「――…っ、駄目ぇぇぇっ!!」
駆け寄ろうとしたマーズにダーク・パワーを放つジェダイト。
「きゃああああーっ!!」
「〜〜マーズ…っ!!」
「う…うぅ…っ、――…っ!?」
すさまじい闇のオーラを纏い、マーズに剣先を向けて見下ろすジェダイト。
「〜〜マーズ!!」
「――さようなら、レイさん。楽しかったですよ…っ!!」
「〜〜マーズぅっ!!」
「〜〜…っ!!」
剣を振りかざしたジェダイトに身構えるマーズだが、黒水晶と共鳴させていたジェダイトの心臓が強く鼓動し、苦しそうに胸を押さえながら剣を落とすジェダイト。
「〜〜か…はぁ…っ!?」
「ジェダイト…!?〜〜ジェダイト、しっかりしてぇっ!!」
ジェダイトに駆け寄り、抱き起こすマーズ。
「マーズ!」
「ジェダイト…!〜〜いやああっ!!ジェダイトぉっ!!」
「…っ!?――いけない!離れるんだ…!!」
「え…っ?」
「う…あ…あ…あああああああああ――っ!!」
持ってきた黒水晶を全て取り込み、闇の力を解放するジェダイト。
助けられ、ジュピターに縄をほどかれて、ハッとなるせつな。
「これは…!?」
「ウガアアアアアアアアッ!!」
「きゃああっ!?」
「マーズ…!!」
ジェダイトの全身から放たれたダーク・パワーに吹き飛ばされたマーズに駆け寄るムーン達。
「〜〜ウゴオオオオッ!――ウオオオオオオオオオ〜ッ!!」
苦しんでいたジェダイトの体が獣のように大きくなっていき、牙が生えて妖魔に変わる。
「嘘…っ!?」
「〜〜ジェダイトぉっ!!」
駆け寄ろうとするマーズを押さえるウラヌス。
「〜〜放してぇっ!!」
「馬鹿野郎っ!アイツはもうジェダイトじゃない!妖魔なんだぞ!?」
「この膨大な闇のエナジー量…。〜〜きっとジェダイトの体と精神は、それを抑えきれなくなってしまったのね…」
「戦うのよ、レイ!彼の暴走を止めるにはそれしかない…!」
「そんな…。〜〜そんなの…できるわけないじゃない…っ!」
泣き崩れ、うずくまるマーズ。
「〜〜マーズ…」
複雑そうに顔を見合わせるムーン、マーキュリー、ジュピター、ヴィーナス、サターン。
「…勝手にしろ!」
「…せめて苦しまないように…ね」
マーズに背を向け、ジェダイトに飛び掛かるウラヌスとネプチューン。
「〜〜ごめんね、レイちゃん…」
サターンも申し訳なさそうに背を向け、ウラヌスとネプチューンに加勢する。
「サイレンス・ウォール!!」
「グオオオオオオッ!!」
咆哮し、黒の衝撃弾を爪で弾き返すジェダイト。衝撃弾がマーズ達に飛んでくる。
「〜〜しまった…!」
「きゃ…っ!?」
身構えるマーズとムーン達。前に出て、ロッドで衝撃弾を防ぐせつな。
「大丈夫だった?」
「せつな先生…!」
「助かりました」
安堵して微笑み、しゃがんでいるマーズの目線に合わせて屈むせつな。
「辛い現実から逃げるのは、一番簡単で楽な方法かもしれないわ…。でも、それで自分も周りの人も、…彼も救える?」
「〜〜…っ」
「…無理に戦えとは言わないわ。でも、私達はセーラー戦士よ?使命は忘れないで…」
立ち上がり、変身ペンを掲げるせつな。
「プルート・プラネットパワー・メーイクアーップ!!」
変身し、マーズに寂しく微笑んで、ウラヌス達に加勢するプルート。沈黙し、顔を見合わせるムーン達。
「…レイちゃん、私達も行くね?」
「……」
「何もできないかもしれないけど…、せめてジェダイトを苦しみから解放してあげようよ…?」
マーズに背を向け、ジェダイトに走っていくムーン達。
「〜〜…っ」
拳を握り、嗚咽を漏らすマーズ。
「――デッド・スクリーム!!」
「マーキュリー・アクア・ミラージュ!!」
「クレッセント・ビーム・シャワー!!」
「グワアアアアアアッ!!」
セーラー戦士達の攻撃を受け続け、よろめいて倒れる妖魔のジェダイト。
「黒水晶が体表を覆っていて防御が固くなっているけど、そろそろ限界のようよ?」
「うん…、私達の手で天国へ逝かせてあげよう?」
「――待って!」
マーズの方へ振り返るムーン達。
「マーズ…?」
「とどめは…、――私が刺すわ…!」
炎の弓矢を出現させるマーズ。
「〜〜レイちゃん…」
頷き、うつむくプルート。
ジェダイトに矢を向けてゆっくり近づいていくマーズ、台東との思い出を思い出し、涙を流す。
「台東さん…、〜〜せめて一撃で…っ」
「ウガアアアアアッ!!」
マーズに飛び掛かる妖魔のジェダイト。
「〜〜危ない…っ!!」
「ジェダイト…!」
――ザシュ…ッ!!
爪が肩に食い込み、プロテクターが飛び散って出血しながらも、飛び掛かってきたジェダイトをそのまま抱き留め、強く抱きしめるマーズ。
「ハァハァ…、ジェ…ダイ…ト……」
『――んもう、おっそ〜い!ジェダイトったら〜』
「……マー…ズ…?」
前世のマーズを思い出して動きを止め、マーズと見つめあうジェダイト。
「マーズ・フレイム…〜〜スナイパァァァ――ッ!!」
ジェダイトの心臓を貫通する炎の矢。
ゆっくりと後ろに倒れて元の姿に戻り、砂になって消えていくジェダイトの肉体。あとに砂とジェダイトの石が残る。
「……台東さん…」
『――さすがは名門T.A.女学院弓道部のエースだな』
『――それと…、恋愛成就のお守りも頂けますか?』
「〜〜うわあああん…っ!!台東さぁぁ…んっ!!」
台東との思い出を思い出し、ジェダイトの石を抱きしめながら泣き叫ぶマーズを軽く抱きしめてやるウラヌス。
「……よくやったな」
「レイちゃん…っ、〜〜…っ」
涙を流し、レイの背中を抱きしめるムーン。
「――やれやれ、実に不愉快なラブストーリーだ」
エンディミオンの声にハッとし、振り返るムーン達。
エンディミオンと歩いてくるが、ベリルの顔色は青ざめている。
「クイン・ベリル…!」
「〜〜まもちゃん…!」
ACT.6 その5へ
セーラームーン・トップへ