美少女戦士セーラームーン 長編リメイク小説
ACT.6「月のプリンセス、覚醒!」その2
ダーク・キングダムのアジト。
水滴が垂れ、響く音に目を覚ますドレス姿のせつな。
「ここは…?――何、これ…!?」
衣装に驚き、ベッドの上を探して変身ペンを見つけて安堵し、ベッドから降りようとするが、頭痛とめまいがして頭を押さえるせつな。
「〜〜っ!な、何なの…?体が鉛みたいに重い…」
「――ご機嫌麗しゅう、プリンセス」
ほくそ笑んで歩み寄ってくるベリルを睨むせつな。
「あれだけの闇のエナジーを浴びながら、これほど早く目覚めるとは…。さすがは月のプリンセス。普通ならば起き上がるどころか、まぶたを開けることもままならぬというのに」
「……ここがあなた達のアジトなのね?」
「クククッ、その通り。銀水晶の在処を吐くまでは夜も寝ずに楽しんでもらうぞ♪」
「フッ、私はプリンセスといってもセーラー戦士よ?どんな拷問を用意しているのか知らないけど、無駄骨になるのは確かね」
イラつき、せつなの頬をはたいて顎を押し上げるベリル。
「…生意気な態度は昔と変わらぬな。己の立場というのがわかっておらぬようだ」
ベリルの手を払い、変身ペンを掲げるせつな。
「プルート・プラネットパワー・メーイクアーップ!!」
変身できず、慌てるせつな。
「〜〜変身できない…!?」
「ハハハハ…!!抵抗できぬよう、その体に闇のエナジーを注入しておいたのだ!変身できるわけあるまい!!」
「〜〜く…っ」
「それに、ここをどこだと思っている!?最高ランクの闇のエナジー濃度を誇る我々のアジトであるぞ!?お前のちっぽけな月の光など、すぐ闇に呑み込まれるわぁっ!!」
杖を向けるベリル。黒い雷がせつなに落ちる。
「きゃあああ――っ!!」
「アッハハハハ…!!痛いか!?苦しいか!?だが、私がお前から受けた苦しみは、そんな程度ではないっ!!」
怒りで、せつなの両腕に爪を食い込ませながらベッドに押さえつけるベリル。
「〜〜うぅ…っ!」
「お前がかつて私にしたように、お前の大切にしているものは全て私が奪い取る…!仲間も地球も――愛する男もなぁ…っ!!」
操られた衛を思い出し、悔しく睨み返すせつな。
「そんなこと…っ、〜〜させない…っ!!」
「ぐ…っ!――ぎゃあああっ!!」
ベリルの腕を押し返し、手中に呼び出したガーネット・ロッドでベリルを殴り、その隙に変身ペンを持って逃げ出すせつな。
「〜〜おのれぇ…っ」
足をひきずって壁に寄りかかりながらも、急いで逃げるせつな。
(〜〜足が重い…。でも、外にさえ出られれば、何とか皆に連絡が取れるはず――!)
「――逃がすものかぁっ!!」
「ハ…ッ!?」
クンツァイトが追いかけてきて、剣を振り下ろしてくる。
剣をロッドで払い、逃げるせつなだが、操られたエンディミオンが前に立ちはだかり、足を止める。
「衛さん…!?」
「セレニティ、部屋に戻るんだ」
「〜〜いくら、あなたの頼みでもお断りよ!そこをどいて頂戴…っ!!」
「何故、私から逃げようとする?何千年の時を経て、私達はやっと巡り会えたのだぞ?」
「あなたは確かにエンディミオン様だわ…。私にはわかります。…だけど、今のあなたは違う!操られているだけのただの人形よ!!〜〜お願い、衛さん!元に戻って!!いつもタキシード仮面になって、私達を助けてくれたでしょう!?」
腕を掴んで説得してくるせつなに妖しく微笑み、突き飛ばすエンディミオン。
「捕虜は捕虜らしく従えばいいものを…」
剣の刃先をせつなに向けるエンディミオン。複雑な表情でロッドを構えるせつな。
「たとえ変身できなくても…、――私は負けない…っ!!たあああああっ!!」
ロッドを剣で防ぎ、せつなに悲しそうな顔を見せるエンディミオン。
「セレニティ…、君と戦いたくはないんだ…」
「エンディミオン様…。〜〜あう…っ!?」
隙が出来たせつなの首を絞め、妖しく笑うエンディミオン。
「ふははははっ!馬鹿なプリンセスだ。私が貴様のような女に本気で惚れていると思ったのか!?」
「〜〜う…っ、ま…、まも…る…さ…ん……っ」
(駄目…。いくら頭でわかってても、やっぱり…――っ!?)
せつなの首に小さい黒水晶を打ち込むエンディミオン。
「あ…っ!?〜〜な…、何を…?」
「少しの間、痺れて動けなくなるだろうが、死ぬことはないから安心したまえ」
「ククッ、さすがはマスター」
頬から流れる血を拭いながらベリルも追いつき、エンディミオンとクンツァイトの隣にやって来る。
「〜〜チッ、私の顔に傷をつけおって…。――クンツァイト!」
「はっ!」
首を押さえてうずくまっているせつなを立たせるクンツァイト。
「例の部屋に連れて行け」
「かしこまりました」
「クククッ、私を怒らせた罰だ、セレニティ。私がお前に本当の地獄というものを味わわせてやる…!」
「は…っ、放してっ!〜〜いやああっ!!」
開かずの間の扉が開き、部屋に入っていくベリルとエンディミオン。
「フフ、女の恨みとは怖ろしい」
「いや…!待って、お願い…っ!!〜〜いやああああああ〜っ!!」
クンツァイトにお姫様抱っこで連れ込まれ、泣き叫びながら外に向かって手を伸ばすせつな。
一瞬暗くなり、再び開かずの間の扉が開き、涙を流しながら白目を剥いて気を失っているボロボロのせつなが仰向けに廊下に倒れ込み、続けて満足そうにベリルがエンディミオンとクンツァイトを引き連れて出てくる。
「フフフッ、よいザマだ」
「あれだけの責め苦を受けても舌を噛まぬとは、さすがはプリンセス」
「ククッ、忍耐が強ければ強いほど、落とし甲斐があるというものです」
「――ベリル様、そろそろ…」
「フフ、よろしい。名残惜しいが、私は例の作戦に取り掛かるとしよう」
せつなを見下ろして頭をヒールで踏みつけながら不気味に微笑み、ショールをクンツァイトに預け、エンディミオンに寄り添うベリル。
「フフフッ、まだまだこれからだ。また逃げ出さぬよう、しっかり見張っておくのだぞ?」
「はっ!」
「目が覚めたら、また可愛がってやろう。この女、極度の欲求不満らしいからな」
「クククッ、かしこまりました、マスター」
せつなをお姫様抱っこし、開かずの間に戻っていくエンディミオンとクンツァイト。
扉が閉まり、しばらくして再び聞こえてきたせつなの叫び声と嬌声にほくそ笑み、満足そうに歩いていくベリル。通っていた真っ暗な通路が十番高校の廊下に変わり、女王装束からスーツ姿に変わるベリル。
「おはようございます、校長先生!」
「おはよう」
「おはようございまーす!」
「ふふっ、おはよう」
「――おはようございます、『闇の女王様』」
立ち止まり、ゆっくり振り返るベリル。制服姿のはるかとみちるが笑顔で立っている。
「…おはよう、天王君、海王さん」
「そろそろプリンセスを返して頂けないかしら?せつながいないと、家の中が汚くなっちゃって困ってますの」
「……」
しばらく沈黙し、再び笑顔になるベリル。
「――それじゃ、校長室まで来てくれるかしら?」
★ ★
校長室のソファーに座っているはるかとみちる。
ティーカップに紅茶を注ぐベリル。
「面白いことを言うのねぇ?闇の女王とか月のプリンセスとか…、フフッ、それって流行ってる小説か何か?」
「あら、遠藤校長も読んでらっしゃるんですのねぇ?プリンセスが月の住人だって、よくご存知ですこと♪」
注ぐ手を止め、静かにティーポットを置くベリル。
「…まだしらをきるつもりか?とっくにバレバレなんだよ!あんたの偽善者ぶりを見れば尚更な」
ベリルの胸倉を掴むはるか。
「せつなをどこにやった?俺達のプリンセスにもしものことがあったら、その時は――!」
「…天王君、その手を放しなさいな」
「〜〜人の話を――っ!!」
「もし今、私がここで誰かを呼べば…、あなた一体どうなるかしらね?」
「…っ!!」
「停学…、もしくは退学かしら?」
「……はるか」
「〜〜チッ」
悔しそうに放すはるか。スーツの襟を直し、微笑むベリル。
「早く教室に戻りなさい。あなた達のクラス、次は担任の桜田先生の授業でしょ?」
「……」「……」
黙ってベリルを睨み続けるはるかとみちる。
★ ★
1−Aの教室でテスト勉強している生徒達。
「ふぁ…、ふぁっとどーゆー…?」
教科書を広げ、首を傾げているうさぎ。周りに集まっている亜美、まこと、美奈子。
「うさぎちゃ〜ん?今さらあがいても赤点ってことに変わりはないわよ〜♪」
「…人のこと言えるのかよ、美奈子ちゃん?」
「〜〜ムッ!そういうまこちゃんこそ、どうなのよぉっ!?」
「私はバイトが忙しいから、言い訳できるからな♪――でも、昨日のハルダの髪触る癖、あれって絶対今日小テストって意味だよな〜?」
「そうそう!本人はバレてないつもりでも、クラス全員わかっちゃうっつーの♪」
「〜〜うえ〜ん!やっぱり、なるちゃんの言ってた通りなんだ〜!!亜美ちゃ〜ん、助けてぇ〜!!」
「〜〜わ、わかったわ。残り3分でどれだけできるかはわからないけど…」
「…?ところで、レイちゃんとほたるちゃんは?」
「あー、何か自分の学校に戻ったみたいだよ。とりあえず、また夜に火川神社に集まろうってことでさ」
「はぁ〜…。いいわよねぇ〜、エスカレーター式の私立と小学校に通ってる子は…」
はるかとみちるが教室に戻ってくる。
「あ!お二人とも、どこ行ってたんですか〜?…もしかして、小テストの答案用紙、盗んできたとか♪」
「〜〜それはこの前、失敗しただろ?」
「もしかして、校長室ですか?」
「えぇ…。…でも、見事に失敗よ。やっぱり、正面からは無理ね」
はるかとみちるが席に着くとチャイムが鳴り、春奈がテスト用紙を抱えながら無表情で教室に入ってくる。
「起立ー、礼ー」
「〜〜うわぁ!テスト用紙っ!!やっぱり抜き打ちテストなんだぁ〜っ!!」
「フフン、こんなんちょろいって♪」
机の中で教科書を広げるまこと。
「あら〜、まこちゃんってば大胆〜♪」
「…水野、俺が背中突ついたら頼むな?」
「〜〜え?」
「〜〜はるかっ!」
「着席ー」
「……」
生徒達が着席しても授業を始めず、黙って下を向きっぱなしの春奈。
「…ハルダ?」
ざわつく教室内。
ゆっくり顔を上げ、鋭い目つきで生徒達を睨む春奈。
「――銀水晶…」
「えっ?」
「銀水晶を奪え…、我らが女王の為に…!」
春奈の目から黒い超音波が発せられ、エナジーが奪われる速度が速まり、苦しむ生徒達。
「皆…!?」
「〜〜な…っ、何よ、これぇっ!?」
「まずい…!ハルダの目を見るなっ!!」
「銀水晶を探せ…!王国復興の為に探すのだぁぁぁっ!!」
操られ、無表情でゆっくり立ち上がる生徒達。
「あぁ…っ!?」
「廊下に出るのよ!!」
「銀水晶を奪え…」
「セーラー戦士を抹殺せよ…」
「〜〜うわああ〜ん!!イヤだぁぁぁ〜っ!!」
「うさぎちゃん、早くっ!!」
春奈と生徒達から逃れ、廊下に避難するうさぎ、亜美、まこと、美奈子、はるか、みちる。
廊下にも操られて徘徊している職員と生徒達がたくさんいる。
「銀水晶…、銀水晶はどこだ…?」
「〜〜く…っ、こっちだ!」
はるかの誘導で階段裏に隠れるうさぎ達。
「〜〜はぁ〜…。一体何が起こったってーのよぉ〜?」
コンピュータで調べる亜美、画面に校内がすさまじい闇のエナジー濃度に侵されていることが出る。
「〜〜なんてことなの…」
「何かわかった?」
「えぇ。この校舎にいる私達以外の人間は全員洗脳されて、エナジーを奪われているみたいです…」
「〜〜えぇ〜っ!?うっそ〜っ!?」
「――見つけた…」
「ハ…ッ!?」
うさぎ達を取り囲む生徒と教師の集団。
「セーラー戦士は我らの敵…」
「皆殺しにして、銀水晶を奪え…」
一斉にうさぎ達に襲いかかる集団。
「〜〜うわわわ〜っ!!ちょっとちょっとちょっとぉ〜っ!!」
「くっそぉっ!何すんだよっ!?」
男子生徒を殴り倒すまこと。
「乱暴は駄目よ!彼らは操られているだけなのよ!?」
「〜〜じゃあ、どうしろっつーんだ!?」
「学校を出て、レイとほたると合流しましょう!」
「それがいいかもな。こいつらを戻すのはその後だ!――木野っ!!」
「了解っス!――どりゃああああっ!!」
生徒を持ち上げて投げ飛ばし、道ができた隙に走って逃げるうさぎ達。
「〜〜早く早く早く〜っ!!」
「〜〜うわああ〜ん!ゾンビみたいで気持ち悪い〜っ!!」
逃げるうさぎ達と入れ違いに来て、校内の様子に驚く三船。
「〜〜こ…っ、これは…――っ!?」
「――銀水晶…を…探…せ…」
「…!!〜〜あの娘は…!」
操られて廊下を徘徊するなるを見つけ、怒りで拳を震わせる三船。
「〜〜どういうことだ…?エナジーをある程度集めたら、ここは解放するはずじゃなかったのか!?」
「――それは下準備さ」
ハッと振り返る三船。ジェダイトとゾイサイトが剣を持って立っている。
「麻布十番高校の全生徒と全職員のエナジーを奪った後に、生命活動を停止させないよう代替品の闇のエナジーを注入し、我らの手下に置く…。作戦は成功だな」
「あぁ。そして、次はこの街の者達を――!」
「〜〜ふざけるなっ!!関係ない者達まで巻き込むことないだろう!?」
「フッ、呆れたもんだな。それが誇り高き四天王の言葉か?」
「やれやれ、だから懲罰房に戻ってろと言ったのに…。――だが、そこまであんな小娘を愛していたとはなぁ…。クククッ、堕ちたものだな、ネフライト」
「〜〜く…っ」
「――目を覚ませ、ネフライト」
クンツァイトが瞬間移動してきて、剣を持って歩いてくる。
「我々・四天王は誓ったはずだ。地球国、またの名をゴールデン・キングダム…。闇の女王を復活させ、我々の王国をこの地球に復興させると…!」
「〜〜だが…――っ!?」
――ドス…ッ!!
「――愛など我々には必要ない。我らがかつて味わった、あの無念を思い出せ…っ!」
「〜〜ぐ…うぅ…」
クンツァイトに鳩尾を殴られ、気を失うネフライト。
「…ジェダイト、預けた物は持っているな?」
「あぁ。…だが、こんな小細工をしなくとも我らは十分強い!」
黒水晶の欠片を空中に投げ、キャッチするジェダイト。
「フッ、そう豪語する奴は大抵雑魚だがな」
「〜〜なっ、何だと!?」
「ククッ、使える物は使っておけ。その黒水晶の欠片は、飲み込めば我らの力を最大限にまで高めてくれる。だが、効果が発揮する時間は限られているからな。くれぐれも無駄遣いはするなよ?」
「〜〜言われなくてもわかっているっ!!俺を馬鹿にしたこと、後で後悔させてやるからな…っ!?」
イライラしながら立ち去るジェダイト。
「やれやれ、親切に忠告してやったのに、…短気なお坊ちゃんだ」
「フッ、挑発されて乱用する様が目に見えるようだな?」
「あぁ、まったくだ。…で、どうする?そっちのピュアなお坊ちゃんは?」
「俺がアジトまで送る。後は任せたぞ」
「任せておけ。また邪魔してこないよう、懲罰房に鍵でもつけておくんだな」
三船を抱え、瞬間移動するクンツァイト。肩をすくめ、立ち去るゾイサイト。
アジトの懲罰房に入り、石のベッドにネフライトを寝かせ、見つめるクンツァイト。
『――俺達の心にもあるんだろうか、『愛』なんて奴が…?』
『――クンツァイト〜!』
「……」
前世のヴィーナスを思い出し、苦笑しながらマントを翻し、立ち去るクンツァイト。
ACT.6 その3へ
セーラームーン・トップへ