美少女戦士セーラームーン 長編リメイク小説
ACT.5「恋敵はプリンセス!」その3



深夜・外部太陽系4人の家。

パジャマにカーディガンを羽織ったせつなが椅子に座り、客室で亜美達の看病をしている。

「――まだ起きてたの?」

同じ装いで入ってくるみちる。

「夜中のうちに容体が急変したら大変でしょう?うちで寝泊まりして勉強会を開いてるって親御さんには言ってあるんだし…」

「そうね…。――代わるわ。早く休まないと、あなたまで倒れる羽目になるわよ?」

「私は平気よ。仕事上、看病には慣れてるもの」

「…夜更かししてると、お肌が荒れて衛さんに嫌われちゃうわよ?」

「〜〜う…。そ、そんなに荒れちゃってる…!?」

「フフ、冗談よ。でも、あなたっていつもそうなんだから。私達に頼ることなく、何でもすぐ一人で抱え込んで…」

「……何だかね、そうしなきゃいけない気がするの…」

「?」

「罪滅ぼし…と言うのかしら?時々ね、そんな風に考えてしまうの…。私は迷惑をかけた。だから、この身を犠牲にしても皆に尽くさなきゃいけないって…」

「どういうこと…?あなたは別に何もしていないじゃない」

「そうよね…、〜〜そうなんだけど…。フフ…、私も疲れてるのかしらね?――ごめんなさい。やっぱり横になってくるわ」

「…そうした方が良さそうね」

「フフ、ありがとう。じゃあ、あとはお願いね?」

「えぇ。おやすみなさい…」


微笑み、ドアを閉めて部屋を出て行ったせつなを黙って見送るみちる。

★               ★


翌日、十番科学センター。

あちこちで見学する人々。私服のうさぎ、なる、るるながはるかとほたるに駆け寄る。

「はるかさーん!」

「あっ!おはよ〜!!」

「偉い偉い。今日は遅刻しなかったな」

「エッヘン!なるちゃんにモーニングコールお願いしといたからね〜♪」

「〜〜お陰でこっちは5時起きだったわよ…。でも、憧れのビューティースリーさんと一緒に休日を過ごせるなんて夢みたいです〜♪」

「ハハハッ、今日はよろしくね、子猫ちゃん達♪」

「はい〜、よろしくお願いしま〜す!」

「あの…、うさぎお姉様」

「うん?どったの?」

「えぇと…、今日はそのぉ…♪」

「うんっ!今日一日、一緒に楽しもうね、るるなちゃん!」

「はっ、はいぃ!…ぽっ♪」

「――ごめんなさい。待った…!?」


腕を組んで衛と共にやって来るせつな。少しショックを受けるうさぎに気づく衛。

「何だ、おだんごもいたのか」

「だーかーらー!私はうさぎよ!?う・さ・ぎっっ!?」

「はいはい。おはようございます、うさぎ様」


微笑む衛にときめくうさぎ。

せつなは腕を組む手に少し力を入れる。気づき、せつなを見る衛。

「――それじゃあ、入ろうか。みちるも親父さんと待ってることだし」

「うんっ!るるなちゃん、行こ!」

「うん!」


仲良く手を繋いで走っていくほたるとるるなに続き、受付でチケットを渡すうさぎ達。

「迷子にならないようにねー?」

「は〜い!」「は〜い!」

「コラ!館内は走るな、ちび助どもー!!」

「きゃははは…!」

「きゃははは…!」


はしゃいで走っていくほたるとるるなを追いかけていくはるか。

「フフフッ、子供は可愛いわね」

「俺達も行きましょうか」

「えぇ」


腕を組んで歩いていくせつなと衛を複雑そうに見つめるうさぎ。

(〜〜いいもん、いいも〜んっ!どうせ砕けるならアタックしてからって決めたんだから〜っ!!)

意気込んで2人についていくうさぎ。

「――楽しいひと時を…」

受付の人に変装し、うさぎ達を見送って不気味に笑うクンツァイト。

★               ★


十番科学センター・来賓室。

私服のみちるが父親とNASAの外国人と喋っている。ノックして入ってくるうさぎ達。

「あら、早かったわね」

「遅刻女王が珍しく遅刻しなかったからな」

「〜〜うぅ…、はるかさんのイジワル〜…」

「フフフッ、納得したわ」

「おじさん、お久し振りですー!」

「ご無沙汰しております」

「おぉ、君達も来てくれたのか。いつもみちるが世話になっているね」

「いえいえ♪」


「こちらはNASAで宇宙工学の研究をされているアーノルド・ゴールドバーグさんよ」

「Hello」

「Hi,Nice to meet you!」


握手し、アランと英語で会話するせつな。

「格好良いね〜!せつな先生って英語もペラペラなんだ〜」

「う、うん…。…だね!」

(〜〜ハァ…。英語が万年赤点の私じゃ、やっぱり差がありすぎるよなぁ…)


ため息をついて暗くなっているうさぎを黙って見つめている衛。

「せっかくお友達が来て下さったんだ。一緒に見学してきたらどうだい?」

「そうさせてもらうわ。――それじゃ、行きましょうか」

「はーい!」「はーい!」


来賓室を出るうさぎ達を笑顔で見送るみちるの父。

背後に四天王がいて、みちるの父とアランのエナジーを奪う。倒れるみちるの父とアラン。

「マスターとプリンセスが一緒とは好都合だな」

「あぁ、今日こそ二人をベリル様の元へ…!」


顔を見合わせて不気味に微笑み、瞬間移動するクンツァイト、ゾイサイト、ジェダイト。

うさぎ達と一緒にいたなるに少し驚くネフライト。

「今の娘は…!……フン、セーラー戦士の知り合いなら斬り伏せるまでだ!」

黙り込み、クンツァイト達の後を追って瞬間移動するネフライト。

★               ★


十番科学センター・展示会場。

「――これが月の石よ。今まで宇宙飛行士が持ち帰った中で一番大きな物なんですって」

「へぇー、すっごーい!」


はしゃぎながら見学するほたる、なる、るるな。

はるかはアメリカ人のアーティストが描いた独特な宇宙人の絵を見て、難しく考え込んでいる。

「衛さん、見て!」

「へぇ、アポロ11号の縮小模型かぁ。よく出来てますねぇ」

「ふふっ、ちっちゃくて可愛いわよねぇ」


楽しそうに喋りながら歩いているせつなと衛を後ろから見ていて、暗くなっているうさぎ。

(――あの二人…、いつの間にあんなに仲良くなったのかな…?)

『――いつまで経っても部屋から出てこないんだよねー』


ほたるの言葉を思い出し、忘れようと頭を横に振るうさぎ。

(〜〜ダメダメッ!ここでへこたれたら女が廃るぞ、うさぎっ!!)

意気込み、せつなと衛の間に割り込もうとするが、立ち止まるうさぎ。

(――やっぱり、こんなことダメだよね…。〜〜二人とも、あんなに楽しそうなんだもん…っ)

涙をにじませた顔を伏せ、早足で衛とせつなを追い抜くうさぎ。

「あれ…?うさぎーっ!?」

「どこ行くの、うさぎちゃん…!?――あ…っ!?」


うさぎの異変に気づき、せつなの手を払って、うさぎを追いかける衛。

「〜〜衛さん…」

(〜〜そうだよ…っ!これじゃあ、ただのお邪魔虫じゃない!二人の関係を壊していい権利なんて私にはないのに…。〜〜いいんだもんっ、私!アイツが幸せなら…、それで…っ!!)

「――おい、おだんご!どうしたんだよ?」


追いつき、うさぎの腕を引っ張る衛、泣き顔で振り返ったうさぎに驚く。

(――まただ…!この感じ…)

衛の手を振り払おうとするうさぎ。

「〜〜何でついてくんのよっ!?早く先生の所に戻ればいいじゃんっ!!」

「何怒ってんだよ?今日のお前、おかしいぞ?」

「〜〜放っといてよっ!!私の気持ちなんて何も知らないくせに…っっ!!」


涙をこすり、目が真っ赤になるうさぎを見つめる衛。

「……悔しいのよ…!悔しいけど…、いつの間にかこんなに好きになっちゃってたんだもん…っ!!せつな先生に負けないぐらい、私だってあんたを好きになっちゃったんだもんっ!!〜〜笑えばいいわよ!お前なんか選ぶはずないって…!!」

「おだんご…」

「……放っといてって言ってるでしょ!?〜〜どうせ私はバカで泣き虫だもんっ!!〜〜人の恋路を邪魔する最低女だも――っっ!!」

「――俺が好きなのは…っ!!」


うさぎの肩を掴む衛だったが、黙ってうつむき、うさぎの手を引っ張って、上演中のプラネタリウムに入る。

「〜〜ちょ…っ!?放してよっ!!」

「いいから来いよ!――そろそろ始まる時間だ…」


うさぎと衛が中に入ると、天井いっぱいのスクリーンに月と地球が映った。

「月と…地球…」

『――セレニティ…』


夢の中のエンディミオンを思い出すうさぎ。

「――やっぱり、お前も見てるんだな?セレニティとエンディミオンの夢を…」

「えっ?ひょっとして、あんたも…!?」


黙ってポケットから月のオルゴールを出し、うさぎに見せる衛。

「それは…?」

「オルゴール。…壊れてて音は出ないけどな。子供の頃、記憶がない状態で目を覚ました俺は、これだけ持ってたんだ…」

「え…?あんた、記憶喪失なの!?」

「……両親と旅行している最中に事故に遭ったらしい。親は二人とも死んで、俺一人が生き残ったんだ…。…今も事故に遭う前の記憶は戻ってない。医者から聞かされた『地場衛』という名前…、それさえも本当に自分の名前なのかどうか疑いたくなってしまう…。俺は本当に『地場衛』なのか?本当は違う人間ではないのか?もっと思い出さなければならない何かがあるんじゃないのか…!?……その答えを探す為に、俺は怪盗ルパンみたく夜空を舞い、探してるんだ。夢の中でセレニティが訴えてくる幻の銀水晶を…!」

「幻の…銀水晶…」

「あぁ。銀水晶が手に入れば、自分が何者かもわかるかもしれない…。不思議とそう思えてならないんだ…」


自分を見つめてくる衛がタキシード仮面に重なって見えて、ドキドキするうさぎ。

「――あなたは…、もしかして…!」

スクリーンに映っていた映像が消え、超音波が発生する。

「きゃあああっ!?」

耳を塞ぐ観客達、うさぎと衛。

笑いながらスクリーンに映し出されるクンツァイトの姿。

「クンツァイト…!?」

「愚かな人間どもよ。我らが女王にひざまずけ!闇の王国再興の為にエナジーを差し出すのだ…!!」


エナジーを奪われ、倒れていくプラネタリウムの観客達。

「あぁ…っ!?」

ゾイサイト、ネフライト、ジェダイトがそれぞれ影のマーキュリー、ジュピター、マーズを使って十番科学センター館内の人々のエナジーを奪わせる。

「これは…!?」

逃げながら倒れていく人々に気づき、異変を察知するせつな達。

「〜〜大変…っ!!早く皆に知らせないと…!!」

通信気を遣おうとするうさぎだったが、プラネタリウムの扉を閉められ、通信不能に。

「〜〜ウソ!?電波が…っ!?」

「く…っ!〜〜閉じ込められたか…」

「――逃がしませんよ、マスター」


スクリーンから抜け出て、姿を現すクンツァイト。うさぎの前に立ち、かばう衛。

「今日こそ我らと共においで下さいませ、プリンス・エンディミオン。女王がお待ちです」

「誰がお前達などに従うものか!」

「あんた達の狙いは地場衛なんでしょう!?だから、コイツのエナジーを感じた場所を片っ端から荒らしまくってたってこと、ちゃーんと知ってんだからっ!!」

「…プリンセスと離れていましたか。――まぁいい。多少手数が増えたところで作戦に支障はない!」


剣を手中に出し、襲いかかるクンツァイト。よけるうさぎと衛。

(〜〜どうしよう!?コイツの前じゃ変身できないよぉ…!)

「きゃ…っ!!」


クンツァイトの攻撃をよけ続け、転ぶうさぎ。

「〜〜うぅ…、いったぁ〜い…」

「クククッ、他愛もない」


剣の刃先をうさぎに向け、ほくそ笑むクンツァイト。

「まずは貴様からだ。――死ねぇっ!!」

剣を振りかざすクンツァイトに身構えるうさぎ。

――ヒュ…ッ!!

「〜〜ぐ…っ!?」

真っ赤な薔薇を投げつけられ、剣を落とすクンツァイト。

「え…っ!?この薔薇はまさか…!!」

「――狙いは私とプリンセスだろう!?その娘には手を出すな…!!」


同じ薔薇を懐から出し、タキシード仮面に変身する衛。

「あ、あなたは…!!」

目を見開き、衛とタキシード仮面との思い出を回想するうさぎ。

『――英語、5点…。すごい点だな』

『――へぇ、力はあるんだな。馬鹿力ってか?』

『――1曲踊ってやるよ。退屈しのぎにな』

『――最近気づくと、お前の顔を見てる。お前といると何故だか安心するんだよな』

『――セーラームーン、私と強く念じるんだ!』

(地場衛が…、タキシード仮面様…!?〜〜えええええ〜っ!?)

「君も早く変身を!」

「〜〜は、はいぃっ!え、えっと…、――ム…ッ、ムーン・プリズムパワー・メーイクアーップ!!」


セーラームーンに変身するうさぎ。

「楽しい楽しいゴールデン・ウィーク中の宇宙博覧会!NASAの協力まで得たイベントを闇の力でめちゃめちゃにしようだなんて許せないっ!!この愛と正義の戦士セーラームーンが月とアームストロング博士に代わっておしおきよ!!」

「フッ、口だけは達者なようだな」

「共に戦おう、セーラームーン!」

「えっ?は、はい…!」


クンツァイトを前後で挟み、構えるムーンとタキシード仮面。

(〜〜うぅ…。何だかいつもとは違った緊張感が…)

「フッ、お前達だけでこの私を倒せるとでも?」

「ムッ!?〜〜やってみなきゃわかんないでしょっ!?――でやああああっ!!」


クンツァイトにチョップとキックをお見舞いし、ティアラをかざすムーン。

「ムーン・トワイライト・フラーッシュ!!」

ピンクの光を剣で弾くクンツァイト。

「ナメるな!ダーク・パワー!!」

「きゃああっ!!」

「セーラームーン…!!」


襲いかかってきたクンツァイトにステッキで反撃するタキシード仮面。

舌打ちし、ブーメランを飛ばすクンツァイト。

弾き、隙ができたタキシード仮面の懐に入り込むクンツァイト。

「ダーク・パワー・ストロング!!」

「うわああああっ!!」


鳩尾に黒い攻撃弾を受け、吹き飛ばされるタキシード仮面。

「〜〜タキシード仮面様ぁっ!!」

★               ★


十番科学センター・展示場。

逃げ惑う人々のエナジーを奪う影のマーキュリー、マーズ。ジュピター、ヴィーナス。それを操っているゾイサイトとジェダイト。

「愚かな…。逃げても無駄だとわからぬのか?」

敵を見つけ、構えるはるか、みちる、せつな、ほたる。

「出たな!?ダーク・キングダム…!」

「〜〜あの人達はうちの店を襲った…!」

「せつなは大阪さん達を!」

「わかったわ!――二人とも、こっちよ!」

「は、はい…!」

「〜〜ほたるちゃん…」

「だーいじょーぶ!外に逃げる隙を作るだけだから、先行って待ってて♪」

「うん…。無理しないでね…!?」


なるとるるなを誘導し、避難させるせつな。

「よーっし、行くよっ!――サターン・プラネットパワー」

「ウラヌス・プラネットパワー」

「ネプチューン・プラネットパワー」

「メーイクアーップ!!」「メーイクアーップ!!」「メーイクアーップ!!」


ウラヌス、ネプチューン、サターンに変身するはるか、みちる、ほたる。

エナジーを奪い、倒れた人を足蹴にするジェダイトとゾイサイト。

「あっけないな…。実に人間というのは脆い生き物だ」

「――待て!!」


無表情で振り返る影のマーキュリー達。

外部3人に舞う花びら。

「新たな時代に誘われて、飛翔の戦士セーラーウラヌス、華麗に活躍!」

「同じく、新たな時代に誘われて、抱擁の戦士セーラーネプチューン、優雅に活躍!」

「破滅と誕生の戦士セーラーサターン!悪しき者達よ、おとなしく闇に還りなさい!!」

「ククッ、やっとご登場か、セーラー戦士」

「果たしてこの娘達と戦えるかな?」


マントをなびかせ、無表情で剣を構える影のマーキュリー達。

「…我らが女王に逆らうつもりか?」

「お願い、皆!もう憎しみの感情は捨てて!!これ以上誰かを恨んでも、自分の心が醜くなるだけなんだよ!?」

「黙れ!」

「私達の邪魔をする者には」

「死、あるのみ…!!」


襲いかかってくる影のマーキュリー達の攻撃を同時にかわし、跳ぶウラヌスとネプチューン。

「ワールド・シェイキング!!」

「ディープ・サブマージ!!」


黄と深緑の攻撃弾が命中し、気絶する影の内部4戦士。

「片がつくまで、おとなしくしててくれよな?」

「〜〜こしゃくなぁ…っ!」


剣を手中に出し、襲いかかってきたゾイサイトとジェダイトと戦うウラヌス、ネプチューン、サターン。

「クククッ、どうした?」

「お前達の力はその程度か?」

「〜〜何だ…?こいつら、さっきから防御に徹してばかりで…」

「えぇ…。まるでわざと時間稼ぎでもしているような…」


バックスキップし、背中合わせになって集まる外部3戦士。

「そういえば、クンツァイトとネフライトは…!?」

不気味な笑みを浮かべるゾイサイトとジェダイト。

「ハ…ッ!〜〜まさか…!!」

ウラヌスが走って移動しようとした瞬間、扉とシャッターが全て閉まる。

「〜〜しまった…!!」

「さすがに読みが深いな。そうだ、これはプリンセスをお前達から引き離す作戦!」

「残念だったな。プリンセスを安全な役目につけたのが、かえって裏目に出てしまったというわけだ」

「〜〜く…っ、まんまと敵の罠にハマってしまったというわけね…」

「ふはははは…!!さぁ、心ゆくまで戦いに興じようではないか!外部太陽系セーラー戦士の諸君!!」

「〜〜チッ、さっさとケリつけて、せつなの元へ向かうぞ!」

「えぇ!」「うんっ!」


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