美少女戦士セーラームーン 長編リメイク小説
ACT.5「恋敵はプリンセス!」その2



「これはこれは校長先生!ゴールデン・ウィーク中にも関わらず、ご出勤されるとはさすがですなぁ♪」

「フフ、教育者として当然の務めですわ」


ほたるを見つめ、妖しく笑って屈むベリル。

「あなた、お名前は?」

「〜〜と…っ、土萌…ほたる…です…」

「フフ、可愛いお名前ねぇ。ほたるちゃん、保健室で遊ぶのは構わないけど、ママのお仕事の邪魔をしたら駄目よ?よかったら校長室で一緒にお話しない?美味しいチョコレートもあるわよ?」

「え?〜〜え〜とぉ…」


ほたるをかばい、前に出るせつな。

「…せっかくですが、校長!この子、こう見えて喘息持ちなんです。いつ発作が起きるかわからないので、私が傍にいてやらないと…!」

「そ、そうなの!〜〜ゲホ、ゲホゴホ…!!」

「えー?そのおてんばがですかぁー?」

「…ムッ」

「ふふっ、そう。…何だか私に預けるのが不安みたいなお顔ねぇ?」

「〜〜いえ、そんなことは…」

「まったく、遠藤校長の御誘いを断るとは失礼な…!――ささ、参りましょう!私でよければ、何時間でもお話しさせて頂きますよ〜♪」

「フフ、それは楽しそうね。――では冥王先生、またね…♪」


せつなを冷たい瞳で見つめながら教頭と保健室を出て行くベリル。安堵し、ほたるから離れるせつな。

「〜〜おっかな〜い…。何なの、この学校?半分ダーク・キングダムの巣窟じゃん!」

「そうね…。でも、まだ遠藤校長が奴らと繋がっているとは断言できないし――」


保健室の入口でせつなに向かって手を伸ばしているテニスウェア姿の三船を見つけるほたる。

「危ない…っ!!」

せつなを突き飛ばし、代わりにダーク・パワーを受けて壁にぶつかり、気絶するほたる。

「〜〜ほたる…!!」

「チッ、邪魔しやがって…!」


黒水晶をせつなに飛ばす三船。よけ、体勢を整えるせつな。

「〜〜やっぱり、あなた…!!」

「フフッ、気づくのが遅かったな!」


せつなを攻撃し、追いつめて首を絞める三船。

「あぐ…っ!?」

「フフ、おとなしくすればすぐに済む…♪」


せつなの首を絞めながらベッドに押し倒そうとする三船。

「く…っ、――ガーネット・ロッド!!」

手中にロッドを呼び出し、三船の腹を殴って隙を作り、変身ペンを取り出すせつな。

「プルート・プラネットパワー…――!!」

背後から訓がせつなの腕を掴み、以象と台東も保健室に入ってくる。

「〜〜しまった…!?」

せつなをベッドに押さえ込み、近づく四天王。

「いけませんねぇ、プリンセス。無駄な抵抗は体力を消耗するだけですよ?」

「〜〜だ…っ、誰か――むぐ…っ!?」


せつなの口を塞ぐ台東。

「無駄だ。おとなしく捕まれ…!」

「その前に銀水晶がどこにあるのか教えてもらおうか」

「む…っ、んん…っ!〜〜誰が…あなた達なんかに…!」

「フッ、ならば…、――力ずくで奪うのみ!!」


せつなのスーツのボタンを引きちぎる訓。

「きゃああああっ!?」

「探せ!!どこかに隠しているはずだ!!」


せつなに手を伸ばす四天王。

「〜〜やめてええっ!!いやああああっ!!」

「――いーけないんだー、いけないんだー♪」


振り返る四天王。窓の外から体操着姿のはるかとみちるが顔を出している。

「保健室でそんなことしていいんですかー、先輩方?」

「…ウラヌスにネプチューンか」

「邪悪なオーラが見え見えよ?残念ねぇ。もう少しうまく隠せてたら、もっと楽しめたのに…♪」

「〜〜くそ…っ!」


逃げるように保健室から出て行く四天王。

窓から保健室に入り、せつなを起こすはるかとみちる。

「大丈夫か?」

「えぇ…。――そうだ!ほたるは…!?」


辺りを見渡し、倒れているほたるを発見して駆け寄るせつな。

「ほたる…!ほたる…!!」

「う…ん…。――せつなママ…!大丈夫だった!?」

「えぇ、はるかとみちるが助けてくれたのよ」

「何の騒ぎ…!?」


騒ぎを聞きつけ、窓に駆け寄ってくる体操着姿のうさぎ。

「〜〜せつな先生…!?」

「…未遂だから安心して」

「〜〜やっぱり危険だよ!クイン・ベリルを倒すまで、おうちに隠れてた方がいいんじゃない!?」

「同じ学校にいたから助けられたんだよ。仮に雲隠れさせて南京錠をかけたとしても、僕達が出かけている時に襲撃されたら同じことだ…。…ったく、こういう時は助けに来ないんだな、タキシード仮面って」


肩をすくめるはるか。うつむき、白衣で体を隠すせつな。

「き…、きっと今、忙しいんだよ!だって、せつな先生はプリンセスなんだよ?絶対助けてくれるに決まってるじゃない!」

「…随分と肩を持つんだな?だが、あの男も銀水晶を狙っていると言っていた…。ダーク・キングダムの仲間じゃないにしても、僕達の敵に変わりはない!」

「な…、何で!?まだそうと決まったわけじゃ――!!」

「気持ちはわかるけど、あまりまだ信用しない方がいいわ。きっと銀水晶を奪う為に、あなたとせつなを罠にはめようとしてるのよ。四天王が亜美ちゃん達にしたのと同じやり方でね…!」

「そんな…!〜〜そんなの違うもん!!タキシード仮面様は絶対良い人だよ…っ!!」

「…月野!」

「〜〜いいもんっ!!私だけでも信じてあげるもん!!絶対ぜ〜ったい味方だもんっ!!」


泣きながら走っていくうさぎ。

「うさぎちゃん…!」

「…放っとこうぜ。少し頭を冷やさせよう」

「感情に流される戦士は早死にするだけよ…」

「〜〜……」


体育教師が竹刀を持って窓越しに怒鳴り込んでくる。

「くぉらぁっ!!お前ら、体育祭の実行委員だろ!?練習する気あるのかぁっ!?」

「…はいはい」

「…まったく、暑苦しいこと」


ため息をつき、せつなに鍵を渡すみちる。

「ロッカーに私の予備の服があるわ。とりあえず、それを着てて。後でメイドに届けさせるから」

「ありがとう…」


ウィンクして去っていくはるかとみちる。怒りながら体育教師も去る。

見送り、先程のことを思い出し、体を震わせるせつな。

「大丈夫、せつなママ…?」

「ゴメン…。〜〜ちょっとダメみたい…」


体を押さえて、静かに泣くせつなをなだめるほたる。

2人を校長室から水晶で覗き見ているベリル。

(――ククク…、もっと苦しむがいい、プリンセス!そして、考えるのだな、我々が何故この学び舎に潜入したのかを…!)

普通に生活しながら、少しずつエナジーを奪われていく麻布十番高校の生徒と職員達。

エナジーを集めながら不気味に笑い、弓道場で矢を放つ台東、バスケ部を見学する以象、バレー部の試合を見る訓。

★               ★


エナジーを奪われながら練習するテニス部員達を不気味に見つめながらテニスコートを出る三船。

「チッ、俺としたことが…」

せつなと戦った時にロッドで叩かれて赤く腫れた自分の手を水飲み場で冷やす三船。

「――あっ!三船先輩…!!」

なるが三船に気づき、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「…君は?」

「あ…、いきなりごめんなさい。私、女子テニス部の大阪なるっていいます!わ〜、憧れの三船先輩に会えるなんて感激〜♪今度の大会も頑張って下さいね!女子部員一同、応援してますから♪」

「…それはどうも」


去ろうとした三船の手に気づくなる。

「やだ…!どうしたんですか、その怪我!?」

「…大したことはない。すぐ治る」

「駄目です!テニスプレイヤーが手を怪我するなんて命取りでしょう!?」


三船の救急セットで手当てし、ハンカチで巻いてやるなる。驚く三船。

「…これでよしっと!エースが調子悪いんじゃ、シャレになんないですからね」

「――なるちゃ〜ん!校庭に集まれって〜!」

「あ、うさぎー!」


なるに駆け寄ってきて三船に気づき、驚くうさぎ。三船も驚く。

(み、三船…!?)

(セーラームーン…!?)

「あーあ、もう休憩終わりかー…。じゃ、行こうか。かったるいけどー」

「う、うん…」

「じゃあ三船先輩、お大事にして下さいね!――それじゃ!」


うさぎと去っていくなるを不思議そうに見つめる三船。

「……なるちゃん、三船と何喋ってたの?」

「ふふっ、ヒ・ミ・ツ♪でも、格好良いよね〜、三船先輩!お話できて嬉しかった〜♪」

「〜〜大丈夫!?怪しいこと何もされなかった!?」

「やあねぇ、うさぎってば。三船先輩は確かにモテるけど、そんな人じゃないんだってば!」

「そ、そう…だね…」


うさぎと喋るなると手に巻かれたハンカチを見つめる三船。

(――何だったんだ、あの小娘は…?)

★               ★


衛のマンション。

部屋を暗くして、ベッドに座っている衛。せつなとプルートを思い出し、困惑する。

(セレニティ…。君を見つけたはずなのに、何故俺の胸はこんなにモヤモヤしてるんだ…?)

『――幻の銀水晶を探して…!』


夢の中のセレニティを思い出し、深いため息をつく衛。

(何故だ?プルートとセレニティが同一人物とはどうしても思えない…)

机の上に置いてある晩餐会のチケットの半券を見つめ、うさぎとムーンを思い出す衛。

(――セーラームーン…。君が現れたからなのか…?)

――ピンポーン…。

インターホンが鳴り、玄関を開ける衛。私服のせつなが立っている。

「こんばんは。ご無沙汰しております…」

「…せつなさん、でしたっけ?今日は…?」

「突然押しかけちゃってごめんなさいね。あの…、明日お暇ですか?」

「まぁ、特に用事は…」

「そうでしたか…!実は十番科学センターでNASA主催の宇宙博覧会をやるんですって!このチケット、ペアなので、よかったら一緒にどうかと思って…。〜〜あ、無理にじゃなくて構いません!ただ、この間助けて頂いたお礼も兼ねて…」

「……」

「…衛さん?」

「……いえ、何でも。――わかりました。付き合いますよ」

「本当ですか!?よかったぁ…♪」


安堵して笑顔になったせつなを黙って見つめる衛。

「…せっかくですから、あがっていきませんか?」

「〜〜え…っ!?」


真っ赤になるせつな。

「…?あの…?」

「〜〜あ…。じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて…♪」


靴を脱いであがるせつな、ソファーに座り、部屋を見渡して雑誌が出しっぱなしなのに気づく。

コーヒーを入れる衛。

「砂糖とミルクはどうし――!?」

雑誌を片づけ、モップをかけているせつなにぎょっとする衛。

「あ…。〜〜ごめんなさい、勝手に!いつもの癖でつい…」

「…その辺に置いといてくれて構いません。後で片づけますから」

「わ、わかりました…」


モップを立てかけ、テーブルの上に雑誌を置き直すせつな。宝石関係の雑誌とわかる。

「水晶…」

マークしてある箇所を開くせつな。全て水晶関係。

コーヒーを置き、真剣な顔になる衛。

「――プリンセス」

「えっ?」

「俺がエンディミオンだって…、ご存知でしたか?」

「…えぇ。もしかして前世の記憶が…?」

「いえ…。ただ、いつも夢の中でセレニティが訴えてくるんです。自分と銀水晶を早く見つけて欲しいと…。何故かあなたがプリンセスとわかった今でも…。――せつなさんはエンディミオンの夢を見ますか?」

「いえ、私の方は…――?」


ゴソゴソいうモップを覗き込むせつな。モップから顔を出したゴキブリが飛んでくる。

「きゃああああ〜っ!!」

青ざめて、衛に抱きつくせつな。

「せ、せつなさん…!?」

「いやああああ〜っ!!ゴ…ッ、ゴキ…ゴキブリ…!ゴキブリが…!お願い、早く!〜〜早く取ってぇ〜っ!!」


新聞を丸めて叩き、ティッシュに包んでゴキブリを捨てる衛。

「取りました!取りましたから…!!」

「ぐすん…。〜〜すみません…。私、ゴキブリが大の苦手で…」


震えながら嗚咽を漏らしているせつなを見つめ、前世が少しフラッシュバックする衛。

(――何だ…?この感じ…、前にもどこかで…)

「あ…。〜〜ご、ごめんなさい!私ったら――っ!?」


衛に無言で抱きしめられ、真っ赤になるせつな。

「ま…、衛さん?あの…」

「セレニティ…、……やはり、あなたで間違いないのか…?」

「え…?」


★               ★


衛のマンション近くの公園。

ブランコに乗って、電気が点いた衛のマンションを見上げているうさぎ。

「……あーあ…。何で来ちゃったんだろ…?」

胸を押さえながら必死に涙をこらえるうさぎ。

(〜〜苦しいよ…。どうして…?私の好きな人はタキシード仮面様だけなのに…)

夢の中のエンディミオンと衛、みちるの言葉を思い出すうさぎ。

『――セレニティとエンディミオンは必ず惹かれ合う運命になるはずですもの』

(せつな先生と地場衛が…、時空を超えた恋人同士…)


マンションを再び見上げ、ため息をつくうさぎ。

「…何やってるんだろ、私?あいつが誰と結ばれようが関係ないじゃん!」

うさぎが立ち上がろうとすると、ほたるが駆け寄ってくる。

「うさぎちゃーん!」

「ほたるちゃん…!ほたるちゃんも来てたんだ?」

「うん!せつなママの護衛でね♪」


元気に隣のブランコに乗るほたる。

「せつな先生から離れてて大丈夫なの?」

「んー。待ってたんだけど、いつまで経っても部屋から出てこないんだよねー。すぐ戻るって言ったのに…」

「〜〜部屋…?」

「うん。長くなりそうだから遊んでることにした!ここからでも出てくるの見えるしね」

「そ…、〜〜そう…だね…」


暗くうつむいているうさぎを黙って見つめるほたる。

「…うさぎちゃんは明日の博覧会、誰と行くか決めた?」

「……ううん、まだ。ほたるちゃんは学校の友達と?」

「うん!さっきメールでるるなちゃん誘ったらね、OKだって〜♪」

「そっか。よかったね!…私もなるちゃん誘おうかなー?」

「――タキシード仮面様は?」

「え?」

「…はるかパパとみちるママはああ言ってるけど、私はそんなに悪い人じゃないと思うんだ。…あ。でも、連絡先知らないんだよねー…」

「あはは、そうだよー!もうー、ほたるちゃんってば、おっちょこちょいなんだから〜♪」

「あははは…!でも、もしOKしてくれたら、せつなママ達とWデートできるのにね?」

「うん…、…だね」

「……もしかして、衛さんの方が好きになってたりする…?」

「えっ!?〜〜そ…、そんなことあるわけないじゃんっ!!だ〜れがあんな奴っ!!」

「私ね、子供だからってこともあるかもしれないけど…、こういう時ってどうしたらいいかわかんないんだ。せつなママは大切なママだから、幸せになってもらいたい!…でも、うさぎちゃんも大切なお友達だから、やっぱり幸せになってもらいたい…!〜〜どっちも応援したいのにさ、難しい問題だよねぇ…」

「ほたるちゃん…」

「…どう?小学生にここまで言わせといて、まーだ自分の気持ちに嘘つくつもりっ?」

「〜〜う…!」


ため息をつき、ブランコをこぐのをやめるうさぎ。

「――もし…、セレニティがせつな先生じゃなくて私だったら…、アイツ、私のこと好きになってくれたかな…?」

「…まだわかんないじゃん」

「え?」

「だって、衛さんがどっちを好きか、まだ聞いたわけじゃないんでしょ?」

「でも、〜〜答えは出てるようなもんじゃない…」

「何でそこで諦めるかなぁ?まだ何にもやってないじゃん!一生懸命アタックして、それでも駄目だった時に初めて落ち込むんだよ!でも、何故だか心は満ち足りてるの、『自分は精一杯やった!だから悔いはない!!』…ってね」

「ほたるちゃん…」

「――あ!やっと出てきたー」


ブランコから元気に飛び降りるほたる。

「じゃあ明日、博覧会でね!ファイトだぞ、うさぎ〜♪」

笑顔でガッツポーズし、走っていくほたるに手を振るうさぎ。

「……まだ何にもやってない…か」

凛々しく前を向いて、ほたると同じようにブランコから飛び降り、着地するうさぎ。

「よーっし!どうせフラれるなら、とことんアタックして砕けてやるわよっ!!うさぎ、いっきま〜す――っ!!」

元気に手を挙げたうさぎにブランコが直撃し、泣きながら後頭部を押さえてうずくまる。

「〜〜いったぁ〜…。でも、負けないもんね!そうよ!今の私はやる気に勇気!!元気120%だも〜んっ♪」

はしゃいで踊るうさぎを通りがかりの子供が指を指す。

「ママー、あの人何やってるのー?」

「〜〜しっ!見るんじゃありませんっ!!」


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