美少女戦士セーラームーン 長編リメイク小説
ACT.5「恋敵はプリンセス!」その1
麻布十番街を襲う影のマーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナス。
逃げながら倒れていく人々のエナジーが集まり、玉座に座るベリルの体に吸収されていく。
「おぉ…、エナジーが…!力がみなぎってくる…!!」
目を開けて黒い水晶玉に手をかざし、せつなとプルートを映すベリル。
「もう少しだ…!もう少しでこの女を…!!」
ダーク・パワーで水晶玉を割り、破片をつまんで微笑むベリル。
「さぁて、どう可愛がってくれようか?ひっとらえ、嬲り責めにし、泣いて許しを乞わせる…。ククク…、そしてエンディミオンの見ている前でこの女を…!!」
破片を粉々に握り潰し、不気味に笑うベリル。散らばった破片が黒い炎に燃え尽きる。
「今度こそ復讐を果たしてくれるわ、セレニティ…!」
「――クイン・ベリル様」
クンツァイト、ゾイサイト、ネフライト、ジェダイトがそれぞれの入口から影の内部4戦士を引き連れて現れ、ひざまずく。
「作戦は順調のようだな」
「はっ!内部4戦士の闇のエナジーも、さらに濃度を増しております。今回こそプリンセスとエンディミオンの捕獲も成功するかと」
影のマーキュリー達も無表情でベリルにひざまずく。
「プリンセスを捕獲できれば、銀水晶の在処も明確になるはず…。今しばらくお待ちを、我らが女王」
「期待しておるぞ、四天王。我々の勝利も間近だ!――行け!!」
「はっ!」「はっ!」「はっ!」「はっ!」
深々と礼をし、去っていく四天王と影の内部4戦士。内部4戦士を黙って見つめるベリル。
「……セーラー戦士…か…」
『――はああああああっ!!』
力を解放して戦っていたムーンを回想するベリル。
(あのセーラームーンとかいう小娘…、〜〜この前の力は一体――!?)
『――おおおぉ…!闇のエナジーが満ちていく…!!』
「ハ…ッ!?――何者だ…!?」
メタリアのうめき声が聞こえ、辺りを見回すベリルだが、気配が消える。
「……気のせいか」
『――クククク…ッ』
メタリアの笑い声に反応するように玉座の後ろにある大きな黒水晶が黒く光る。
★ ★
うさぎの夢。地球国の城から真っ白な美しい月が見える。
(うわぁ、満月だ!きれ〜い…♪)
『――セレニティ』
エンディミオンが近づいてくる。
(え…?ち、地場衛!?何よ、そのコスプレ…!?)
「エンディミオン…!」
エンディミオンに抱きつくセレニティ。セレニティの目線なので、自分は見えない。
(〜〜うひゃあっ!?な、何!?体が勝手に…っ!?)
「会いたかった…。この瞬間を今日もどれほど待ち焦がれたものか…!」
「えぇ。あなたに会えない日なんて考えられない…!」
(〜〜ちょっと、ちょっと!?何か勝手に口が動くんですけど〜!?)
「私もだ、セレニティ。――たとえ神を敵に回しても、君とずっと一緒にいたい…!」
「エンディミオン…」
セレニティを強く抱きしめるエンディミオン。
(〜〜うきゃああ〜っ!?ちょ…っ、どうしちゃったのよっ!?それに、私はセレニティじゃ――っ!?)
遠くからセレニティとエンディミオンを睨んでいるベリル(地球の女王の衣装)を見つけるうさぎ。
(――え?あれって…!)
白い光に目が眩み、ゆっくり目を覚ますうさぎ、大きなベッドから起き上がって辺りを見回す。
「……あれぇ…?ここ、どこ…?」
「――うさぎちゃん!気がついたんだね〜!!」
私服のほたるがドアを開けて入ってくる。
「ほたるちゃん…?」
「はるかパパ〜、みちるママ〜!うさぎちゃん、起きたよ〜!!」
部屋を出て、笑顔で廊下を走っていくほたる。追って、部屋を出るうさぎ。
「ちょ…っ!待って、ほたるちゃん!ここはど――っ!?」
階段を下り、豪華な屋敷に目を奪われるうさぎ。
「うひゃあ〜!何ここ!?お城!?」
「――フフ、気に入ってもらえた?」
リビングのソファーに座っている私服のはるか、みちる、せつな。ほたるはせつなの隣に座る。
「はるかさん!みちるさん!せつな先生…!」
「ようこそ、我ら外部太陽系戦士の屋敷へ」
「正確には、みちるママの第二邸だけどね〜」
「すっご〜い!さすが海王財閥…!!……でも、何で私、ここに…?」
「覚えてない、この前のクイン・ベリルとの戦い…?」
「あ…!そうだった!!〜〜せつな先生、大丈夫だった!?」
「えぇ、お陰で助かったわ。ありがとう」
「よかったぁ…!」
「私達も大変だったんだよ?誤解してる街の人達にいきなり襲われてさ…。でも、るるなちゃんのお姉ちゃんが助けてくれたんだ〜♪」
「なるちゃんが?」
「あぁ。それから通信機で君達の居場所を特定したんだ。それで駆けつけてみたら、倒れた君とプルート、それにタキシード仮面がいたというわけさ」
「そうだったんだぁ…」
(――タキシード仮面様、また助けに来てくれたんだぁ…♪えへへ…っ♪)
赤くなって喜ぶうさぎ。
「せつなから聞いたわ。あなた、少し力を解放しすぎたようね。あの後、3日間も眠り続けていたのよ?」
「えぇっ!?3日も〜っ!?」
「そうよ?あのまま目が覚めなかったら、どうしようかと思ったぐらい」
「いびきもうるさかったしな…」
「〜〜あっはははは…。それだけ体張ってプリンセスを守ったってことじゃん!でも、よかったよね!プリンセスはプルートだってわかったわけだしっ♪」
「そのことなんだけどね…、〜〜あれはあなたを逃がす為に咄嗟についた嘘なの…」
「え?そうなの…?」
「えぇ。だから、私が本当にプリンセスかどうかは…」
「…いや、ほぼ間違いないだろう。街中に響いたというクイン・ベリルの声はせつな…、君にしか聞こえなかった」
「それに、地球国の王子・エンディミオンの地場衛と恋に落ちた…。クイン・ベリルの話が本当ならば、セレニティとエンディミオンは必ず惹かれ合う運命になるはずですもの」
「すっご〜い!あのテニスボールのお兄ちゃん、せつなママの運命の人だったんだねっ♪」
「えっ?そ、そんな…!運命の人だなんて…♪」
頬を赤らめるせつなを見つめるうさぎ。
「地場…衛…」
『――セレニティ…』
夢に出てきたエンディミオンを思い出し、衛と重ねるうさぎ。
(――そっか…、エンディミオンって王子様だったんだ…。〜〜そうだよね…。プリンセスはせつな先生なんだもん。あんなに綺麗な人が運命の相手なら、アイツも喜ぶよね…)
「…うさぎちゃん?」
「…え?あ、ゴメン…!まだ寝ぼけてるみたいだね。あははは…!」
?マークを浮かべ、うさぎを見つめるほたる。
「――さて、あとは幻の銀水晶を見つけ出して、我らがプリンセスをお守りするだけだな!」
せつなの手を自分の掌に乗せて、王子のように気取るはるか。
「でも、突然プリンセスなんて言われても困るわ。それに、普段生活するうえではどうでもいいことよ。私もセーラー戦士!今まで通り、普通の仲間として接してもらえる?」
「欲がないわねぇ、せつなは。下っ端は思う存分パシリにすればいいのよ♪」
「〜〜みちる、君ん家のメイドじゃないんだからさ…」
「あははは…!」「あははは…!」
『――次のニュースです。昨晩もセーラー戦士と名乗る4人組の強盗が麻布十番街の宝石店に次々と荒らしに入り、港区は麻布警察署の協力で自警団を作るという具体的な対処策を打ち出すと共に…――』
つけていたテレビのニュース番組で防犯カメラに映る影のマーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナスの映像が流れる。
「〜〜んもう!まーだ懲りずにやってたのね!?――ねぇ!亜美ちゃん達も入れて、私達も対策を考えようよ!もうあいつらが地場衛がいた場所を狙ってるってわかったわけだしさ」
複雑に顔を見合わせる外部4人に首を傾げるうさぎ。
「…どうしたの?」
「――ちょっと来てくれる…?」
せつな達の後に続き、階段を上って客室に入るうさぎ。
黒いエナジーを放出しながらベッドでこん睡状態に陥っている亜美、レイ、まこと、美奈子に驚く。
「皆…!?〜〜何これ!?どうしちゃったの…!?」
「…闇のエナジーを吸い取られているのよ」
「闇のエナジー…?」
「恨み、怒り、憎しみなど、人の心に潜む負の感情から発生する影のエナジーよ。通常のエナジーとは相反する存在で、ダーク・キングダムの力の源になるの…。――これを見て…!」
コンピュータを動かすせつな。画面に闇のエナジー濃度が表示される。
「4人の心を支配している負のエナジーがすさまじいスピードで吸い取られているわ…。彼女達のその闇のエナジーが偽セーラー戦士達を動かしていることがわかったの。奴らは四天王が化けたものじゃない、亜美ちゃん達の影の部分だったのよ…!」
「えっ?じゃあ、もし偽セーラー戦士を倒しちゃったら…!?」
「亜美ちゃん達の心も消滅する…。運が良くても、植物人間になるのは避けられないでしょうね…」
「〜〜そんな…!でも、憎しみが消えれば偽者は消えて、目を覚ますんだよね!?」
「…おそらくな。だが、こいつらが一体何に憎しみを抱いているのか…、このままの状態じゃ肝心な部分を聞き出せないんだ」
「〜〜そっか…。う〜ん…、何か目が覚める方法ないかなぁ…?」
「…やっぱり、あいつらかも!」
「…?あいつら…?」
「最近ね、亜美ちゃん達に近づいてきた4人組の男がいるの!うさぎちゃんも知ってるよね!?」
「えっ?それって、もしかして…!?」
「弓道部主将のJ・台東、テニス部エースの三船光、学級委員長の斉藤以象、バレー部コーチの斉藤訓…。いずれも十番高校に在籍する男達よ」
「おそらく、奴らは四天王だ。水野達を甘い言葉で誘い、近づいたに違いない…!」
「そんな…!〜〜ひどいよ!純情な乙女心を利用したなんて…っ!!」
「ほんっと最低だよねー!早く捕まえて、お尻ペンペンだよっ!!」
「でも、証拠もないのに闇雲に突っかかっていったら、逃げられるかもしれないわ…。こっちもフェアに勝負しないと!」
「そっかぁ…。〜〜う〜、もどかし〜いっ!!」
地団駄を踏むほたる。夢の中のエンディミオンを思い出すうさぎ。
「――エンディミオン…」
「え?」
「エンディミオンの生まれ変わりって地場衛なんだよね?あいつも何か特別な力を持ってないのかな!?その力でもし、亜美ちゃん達を救えるとしたら…!」
「まだ覚醒していなかったとしても、仲間にしておけば後々好都合ですものね」
「えぇ。4人を救うまではいかなくても、何らかの形で協力してくれるかもしれないわね。――すごいわ、うさぎちゃん!セーラー戦士として自覚が持ててきたわね!」
「へへ〜、自分でもビックリかも♪」
「…地場衛か。そんな簡単に信用するのもどうかと思うけどな?」
「しょ〜がないでしょ?今は他に方法がないんだから!」
「ハァ…、…わかったよ」
「へへ〜♪じゃあじゃあ、どうやって衛さんと接触する〜?」
「丁度良いイベントがあるわ。今度、我が海王財閥がNASAを援助することになってね、それを記念した宇宙博覧会が十番科学センターで開催されるの」
うさぎ達にチケットを見せるみちる。
「宇宙博覧会?」
「NASAで保管されている貴重な宇宙資料や鉱物を特別に展示するのよ。プラネタリウムでは月と地球に関するスペシャル・シアターも上演するみたいね」
「月と…地球…」
「わぁ、面白そ〜♪」
「…で、その博覧会に地場衛も招待するってわけか」
「そういうこと。チケットもプレミアものだし、連休中だから断られる可能性も低いと思うわ」
「なるほど〜!…で、チケットはどうやって渡すの?」
「そりゃ当然…」
親指でせつなを指すはるか。
「えっ?〜〜無…、無理よ!急に前世の恋人って言われたのよ!?変に意識しちゃうわ…」
「あらあら。恋愛のことになると、すーぐひよっこになるんだから♪」
「もう!大人をからかわないで!」
「はははは…」「ふふふふ…」
笑っているはるかとみちるの傍でうつむいているうさぎを見つめるほたる。
「……うさぎちゃん、…うさぎちゃんも一緒に渡しに行く?」
「え…?」
「せつなママ一人だと、敵に狙われやすいでしょ?すっごい力を使えるうさぎちゃんも一緒に行けば安心かな〜って♪」
「〜〜あ…」
「それもそうだな。僕とみちるはハルダに体育祭の実行委員に任命されて学校にへばりついていなきゃならなくなったし…」
「頼んだわね、うさぎちゃん」
「は…、はいっ!」
うつむき、苦笑するせつなから気まずそうに目をそらすうさぎ。
「あ…、〜〜えっと…、ゴメンなさい!やっぱり無理かも…。その…、ママのお見舞いも…あるし…」
「……そう。――じゃあ、ほたる。代わりにお願いできる?」
「え?う、うん…」
「…そろそろ昼時だし、ブランチでもするか、な?」
うさぎの頭をくしゃくしゃ撫で、ソファーから立って、みちるとリビングを出て行くはるか。
「〜〜……」「〜〜……」
気まずそうに目を合わさないでいるうさぎとせつなを黙って見つめるほたる。
★ ★
翌日、麻布十番高校・校庭。
来月の体育祭に向け、1年生がダンスの練習をしている。
「あ〜あ…。せっかくのゴールデンウィークなのに、な〜んで学校に来なきゃいけないんだろ…」
体育着姿で木の下で休んでいるうさぎとなる。
「小学生じゃあるまいし、体育祭なんて出たい人だけ出ればいいのよ。ね〜、うさぎ?」
「……」
「…うさぎ?」
ボーッとしているうさぎの顔を覗き込むなる。
「――え?…あ、ゴメン!スリーライツの話だっけ?」
「それはさっき終わった!もう…、どうしたのよ?やっと練習に顔出したと思ったら、幽霊みたいに青白い顔しちゃってさ…。…やっぱりお母さんのこと?」
「…ううん、ママの怪我はだんだん良くなってきてるから」
「じゃあ何?…あ♪もしかして恋の悩みとか〜?」
「〜〜えぇっ♪」
「うそっ?図星!?きゃ〜♪誰々?うちの高校の人っ!?」
「や、やだなぁ、も〜!そんなんじゃないってば〜!!あははは…!」
衛のことが頭から離れないうさぎ、頭を思い切り掻きむしる。
(〜〜うぅ〜…!私はタキシード仮面様一筋のはずなのに…、な〜んですぐアイツが出てくるのよぉ〜っ!?)
「――コラ!そこぉっ!!休憩はとっくに終わったぞーっ!!」
「〜〜はいーっ!!」「〜〜はいーっ!!」
熱血漢の体育教師に竹刀で地面を叩かれ、慌てて直立して立ち位置に戻るうさぎとなる。
「〜〜あーあ…、せっかく好きなドラマの再放送始まったのにな〜…」
渋々練習を再開し始めるなる。
元気なく踊るうさぎを保健室の窓から見つめている白衣のせつな。
(――やっぱり、うさぎちゃんも衛さんを…。…今はそんなこと考えてる場合じゃないわね。それよりも、早く亜美ちゃん達を助け出さないと…!)
再びうさぎを見て、ムーンの力を思い出すせつな。
(うさぎちゃんがあの力をうまく使いこなせるようになれば、ダーク・キングダムに勝てるかもしれないわ…!…もし私に何かあっても、うさぎちゃんならきっと――!)
「――せっつなっママ〜♪」
「あら、ほたる…――え!?」
振り返り、ぎょっとするせつな。ほたるが鼻歌を歌いながら保健室のドアに『悪霊退散』のお札を何枚も貼っている。
「〜〜な…っ、何やってるの、ほたる!?」
「レイちゃんのおじいちゃんから、いっぱいもらってきちゃった〜♪邪を寄せつけない聖なるお札!シャキーン!!」
「〜〜あのね、ほたる…」
「連休中だから私も傍にいてあげられるけど、学校始まっちゃったら、ここで一人ぼっちになっちゃうでしょ?超〜危ないもんね!」
「〜〜き、気持ちは嬉しいんだけどね…、あんまりベタベタ貼られると…」
「――冥王先生っ!?」
教頭が保健室に怒鳴り込んで入ってくると、その拍子にお札が全部剥がれ、ショックを受けるほたる。頭を抱えるせつな。
「〜〜ほら来た…」
「このお札、廊下にまで貼ってありましたよ!?仕事場に無断で子供を連れて来た挙句に何をさせてるんですかっ!?学校は子供のおもちゃじゃないんですよっ!?」
「…申し訳ありません」
「〜〜何すんのよ、はげちゃびんっ!?もう少しで貼り終わるとこだったのに〜!!」
「〜〜は…、はげちゃ…!?」
「べーっだ!!」
「〜〜ほ、ほたる!」
「〜〜冥王先生っ!?一体あなたはご自宅でどういう教育をなさってるんですかっっ!?」
「本当に申し訳ありません…。ですが、この娘はこの娘なりに私を心配して――!」
「――よいではありませんか、教頭先生」
スーツを着て校長に化けているベリルが保健室に入ってきて、息を呑むせつなとほたる。
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