美少女戦士セーラームーン 長編リメイク小説
ACT.4「VS偽セーラー戦士!」その2



麻布十番高校・教室。

黒板を叩きながら、うさぎ達にスパルタ指導するせつな。

「〜〜何度言えばわかるのっ!?これはSVOの第3文型でしょっっ!?」

「〜〜えぇ〜ん!!そんな難しいこと言われても、わかんないよぉ〜」

「泣く暇があったら英単語の一つでも覚えなさいっ!!次の例文も基礎中の基礎よ!!――愛野さん、訳してっ!!」

「〜〜はっ、はいっ!!えぇと…」

「講義はしっかり聞くっ!!罰として、本文をノートに100回書き写すことっ!!いいわねっっ!?」

「〜〜えぇ〜っ!?これ全部〜っ!?」

「口答えしないっ!!」

「〜〜はいぃっ!!」

「〜〜せつな先生もストレス溜まってたんだな…」

「〜〜だからって、ここで発散するなっつーの」


飛んできたチョークがまこととはるかの額に当たる。

「そこっ!お喋りしないっっ!!」

「〜〜はぁい…」「〜〜はぁい…」

「よろしい。じゃあ、次の例文を英語に直して!(7)彼は夜道で悲鳴が聞こえるのを――」

「キャ――ッ!!」

「…!!」

「な、何…!?」

「保健室からだ…!」

「〜〜もうっ!こんな時に…!!」

「あっ!せつな先生、待ってよぉ〜!!」


先に教室を出て行ったせつなを追いかけるうさぎ達。

保健室のドアを開けるせつな。

「〜〜くぉらぁっ!!何授業の邪魔してくれちゃって――!?」

倒れている女生徒に気づき、我に返って駆け寄るせつな。

「大丈夫!?しっかりして…!」

「〜〜う…。ぐ、具合が悪くて…、ベッドで休もうとしたら…、いきなり…後ろから襲われて…」

「わかったわ。もう大丈夫よ。すぐに救急車を呼ぶわね…!」


心配して、ベッドに横たわる女生徒に駆け寄るうさぎ、まこと、美奈子。

女生徒を手当てするせつなにため息をつきながら髪をかき上げるはるか。

「…やっと理性を取り戻したか、あのおばはん」

――パリーンッ!!

「きゃあああああ――っ!!」

「…!!また悲鳴が…!?」

「廊下だわ!行きましょう!!」


廊下に出ると、別の女生徒と男子生徒が倒れているのを発見。駆け寄り、介抱するせつな。

「しっかりして!何があったの…!?」

「〜〜う…。セーラー…戦士…が……」

「セーラー戦士…?」


その時、はるかが仮面とマントを着けたマーキュリー達が逃げていくのを見かける。

「待てっ!!」

追いかけ、階段を上るうさぎ、まこと、美奈子、はるか。せつなは生徒達を保健室へ運ぶ。

マーキュリー達が廊下を駆け抜けると倒れていく、すれ違った職員や生徒達。

「待ちなさいっ!!」

屋上のドアを開けるうさぎ。仮面を着けたマーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナスが並んで待ち構えている。

「〜〜うそ…っ!?本当にセーラー戦士だ…!!」

「本当だ!私までいる…!!」

「違う!あれは偽物だ!!」

「ちょっとぉ!私、そんなに足太くないわよっ!?似せるなら、もっと細部まで――!!」


不気味に微笑み、飛び降りる偽マーキュリー達。驚き、下を覗き込むうさぎ達。

「消えた…!?」

「〜〜くぉらぁっ!最後まで言わせなさいよ〜!!」


学校中で倒れ、苦しんでいる職員や生徒達を見るうさぎ達。

「〜〜ひどい…。どうしてこんなこと…っ」

せつなが急いで駆け寄ってくる。

「うさぎちゃん、すぐ十番病院へ行って!お母様が襲われて、搬送されたって…!!」

「〜〜ママが…!?」


校長室からうさぎ達を見て、不気味に笑うスーツ姿のベリル、廊下を歩いて行き、周りが暗闇になってダーク・キングダムのアジトへ。

スーツから普段の衣装へ戻り、掌にエナジーを集めたボールを浮かべ、玉座に座るベリル。

「クククッ、着実にエナジーが集まってきておる。この調子ならば、私の魔力が完全に復活するのもすぐだな」

それぞれの入口から入ってきて、ベリルにひざまずく四天王。

「よくやった、四天王。今回の作戦は成功だな」

「もったいないお言葉でございます」

「全ては我らが女王の為…」

「フフフ…。――して、奴らの中でアレに気づいた者は?」

「残念ながらまだ…。しかし、あの女どもの誰かがいずれ気づくはず」

「そうか。フフフッ、そうだな。楽しみはとっておかねば」

「おっしゃる通りでございます」

「では、我々は今から作戦の最終段階に入ります」

「必ずや銀水晶とプリンセス、そして、マスター、プリンス・エンディミオンをあなた様の元へ…!」

「楽しみにしておるぞ、四天王」


不気味に微笑むベリルと四天王。

★               ★


十番病院。襲われた人々が次々運ばれ、集中治療室で手当てを受けている。

酸素マスクをつけて眠っている育子をガラスを隔てて見ているうさぎと亜美達。

「ママ…、〜〜ママぁ…」

「うさぎちゃん…」


泣き崩れるうさぎをなだめるせつな。

走ってやって来る健司と進吾。

「パパ…、進吾…」

「うさぎ!ママはどうした!?」


黙って、うつむくうさぎ。集中治療室にいる育子を見てショックを受ける健司と進吾。

「〜〜ママ…」

「――ご安心下さい」


やって来る亜美ママ。

「ママ…!」

「少し衰弱が激しいですが、命に別状はありません。骨折は何か所かあるものの、臓器に損傷はありませんので、しばらく入院すれば大丈夫でしょう」

「よかった…!」

「ありがとうございます…!妻をお願い致します…!!」

「もちろんですわ。では、他の患者さんもいらっしゃいますので、私はこれで」


去る亜美ママに深々とお辞儀する健司。育子を見守るうさぎと進吾。

「よかったわね、うさぎちゃん」

「えへへ、うん…!」

「それにしても、許せないな、あいつら…!」

「えぇ。きっと四天王が化けているに違いないわ」

「とりあえず、何班かに分かれて街をパトロールしよう」

「そうですね。おそらく、また違う人達からエナジーを奪う気でしょうし…」

「待って!私も…!!」

「うさぎちゃんは残って。色々あって疲れたでしょう?」

「そうよ。お母様の傍にいてあげた方がいいわ」

「敵の殲滅は私達にまっかせなさ〜い!」

「皆…。〜〜ゴメン…」

「仲間だもん、当然だよ!私達が戻ってくるまで、ちゃんと良い子で待ってるんだぞ?」

「えへへ、わかってるって!皆、気をつけてね…?」

「えぇ、じゃあ行ってくるわね」


出て行く亜美達を見送るうさぎ。

「――やっぱり元気なかったですね、うさぎちゃん…」

「仕方ないわ、大切な家族が襲われたんですもの…。今日は私達だけで頑張りましょう?」

「そうだね!」


亜美の隣に駆け寄るほたる。

「ねーねー、ところでさっきのお医者さん、亜美ちゃんのママなの?」

「〜〜え、えぇ…」


うつむく亜美にきょとんとするほたる。

「――亜美、ちょっといいかしら?」

母親に呼ばれ、気まずそうにうつむく亜美。

「…ごめんなさい。先に行っててくれる?」

「…?うん…」


母親に連れられ、廊下を歩いていく亜美。

「亜美ちゃん…?」

★               ★


夕空の下、入院患者達が散歩している庭を母親の後ろをついて歩く亜美。

「…どうしたの、ママ?」

「…連絡があったわ。今日、塾を休んだそうね?」

「えぇ、今日は皆と過ごすって前から約束してたから…。でも、塾には連絡しておいたわ。休んだのは今日一日だけだし、そんなに支障は――」


立ち止まり、振り返る亜美ママ。

「……皆って、さっきの娘達?」

「えぇ!皆、素晴らしい人達ばかりよ。私のことを友達だと思ってくれている大切な仲間なの。今度、ゆっくりママにも――!」

「――すぐに捨てなさい」

「…え?」

「…聞こえなかったの?そんなくだらない友情ごっこなんて、すぐにやめろと言ってるの!」

「〜〜な…っ!?ど、どうして…!?」

「あなた、もう高校生でしょう?今の時期から頑張らないと、どんどんライバル達に差を縮められるのよ!?それぐらい頭の良いあなたなら、わかるわよね!?」

「〜〜だとしても、お友達といることがどうして悪いの!?一緒に遊んだからって、受験に失敗するとは限らないでしょう…っ!?」

「亜美、あなたは天才的な頭脳を持つ特別な娘なの!そこら辺の馬鹿な女子高生とはレベルが違うのよ!?あんなちゃらんぽらんな集団にいて、あなたまでおかしくなったらママ…、〜〜何を支えに生きればいいか…」

「〜〜ママ…」


父親が画材を持って出ていく様子を思い出す亜美。

『〜〜パパ…!行かないで…!!』

『亜美、ごめんな…。パパはもう…疲れたんだよ…』

「――パパが出て行ったのだって…、ママのせいじゃない…」

「え?」

「〜〜ママは冷たい人間よ!!パパや私の気持ちなんて一生わからないわ…っ!!」

「〜〜亜美…!」


目に涙を浮かべながら廊下を走っていき、壁にもたれる亜美。

「私だって…、〜〜普通の女の子よ…?」

小学生時代を思い出す亜美。放課後にドッジボールで楽しく遊び子供達を羨ましく見ながら帰っていく。

『あ!亜美ちゃんだー!』

振り返る亜美。亜美に駆け寄ってくる女の子達。

『ねぇ、一緒にドッジボールやらない?』

『うちのチーム、丁度一人足りなかったんだよね〜』

『一緒に遊ぼうよ、亜美ちゃん!』

『うん!』

『――亜美!』


女の子達と手を繋ぐ亜美だが、後ろから迎えに来ている母親が呼び止める。

『何やってるの!?もう塾の時間でしょう?』

『ママ…』

『あ、そっか…。亜美ちゃん、毎日塾通ってるんだよね?』

『ゴメンね、無理言っちゃって…。お勉強、頑張ってね!』

『バイバーイ!』


手を放して去っていく女の子達を寂しく見送る亜美。

『何してるの?ママ、忙しいのよ!?手間をかけさせないで頂戴!』

亜美の手を引っ張って連れて行く亜美ママ。女の子達と離れていく亜美。

(――あれ以来、クラスメートはだんだん私を無視するようになって、私は一人ぼっちになった…。〜〜やっとできたお友達なのに…、もう…あんな辛い思いをするのは嫌…っ!!)

『――怖がらないで…』

「え…?」


腕にしている通信機が黒く光る。以象の声が聞こえ、顔を上げる亜美。

「以象…さん…?」

『安心して、君はもう一人ぼっちじゃない。これからは僕がずっと傍にいてあげる…』


以象の声を聞き、とろんとした目つきになる亜美。

★               ★


十番街を一緒にパトロールするレイとみちる。

「――どう?妖気は感じる?」

「ゲーセン、公園、十字路…。かすかですけど、麻布十番のあちこちに…。でも、場所に共通点があるようには…」

「そう…。ここから近い場所は?」

「そこの宝石店ですね。行ってみましょう」


レイの携帯が鳴る。父の秘書の名前を見て怒った顔になり、電源を切る。

「どうしたの?」

「…知らない人からですっ!」

「え?」


ビルの画面にレイパパの選挙当選の映像が映っている。見上げるレイとみちる。

『――ありがとうございます!初心を忘れることなく、日々、国民の皆様のお役に立てるよう精進し、全力を尽くす所存でございます!』

「火野議員だわ…!相変わらずすごい人気ね」

「……あんなの、うわべだけの笑顔よ」

「え…?…もしかして、あなた…火野議員の?」

「…えぇ、彼は私の父親です。世間ではやり手の政治家で通ってるけど、本当は全然違うの。……母が入院した時だって、一度もお見舞いに来なかった…。ママは待っていたのに…ずっとずっと…、〜〜意識がなくなるまで…っ」


幼少時代を思い出すレイ。

病室で白い布が顔に被さる母の枕元で泣くレイ。祖父に手を引っ張られて廊下を歩き、父が笑顔でテレビに出ているのを見る。

現在に戻り、笑顔でインタビューに答える父親を睨むレイ。

「『忙しいから』…。〜〜何でもその一言で片づける、最低野郎よ…!!」

『――レイさん』


黒く光るレイの通信機。台頭の声が聞こえてくる。

「え…?台東さん…?」

「…火野さん?」


辺りを見回すレイを不審がるみちる。

『その怒りをもっと周りにぶつければいいんですよ。――君だけのやり方でね』

「私だけの…やり方…?」


とろんとした目つきになるレイ。

「〜〜火野さん…!?」

★               ★


十番街を走るまこととはるか。

「人が多いな…」

「今、街中に現れたら、どれだけの被害が出るか…。〜〜くそっ!」

「二手に分かれよう。怪しい場所を徹底的に探るんだ!」

「任せて下さい!」


はるかと別れ、再び走り出すまこと。

「次はどこに現れるっていうんだ…!?〜〜どこを襲う…!?」

「――きゃああ〜っ!!」

「…!!そこかぁっ!!」


悲鳴が聞こえてきた花屋に向かうまこと。女性客に囲まれ、黄色い声を浴びる三船を見つけ、ぎょっとなる。

「きゃ〜っ!素敵〜♪」

「お兄さん、こっち向いて〜♪」

「ハハハ…、そんなに急かさないでよ、君達。まだ仕事始めたばかりで慣れてないんだからさ」

「み…っ、三船…!?」

「あれ…?やぁ、まこちゃん。久し振り」


女性客をかき分けて、まことに近づいてくる三船。

「〜〜な…っ!?私のバイト先で何やってるんだよっ!?」

「へぇ、君もここでバイトしてるんだ?奇遇だなぁ、俺も今日からこの店でバイトすることになったんだ」

「〜〜てんめぇ…っ、また勝手に私のこと調べやがって――!!」


まことに花束を差し出す三船。

「怒った顔も可愛いけど、君は笑った顔の方が素敵だと思うけどな、俺は」

「〜〜んなぁ…っ!?」


真っ赤になるまこと。さらに黄色い声を浴びる三船。

「〜〜お…っ、怒らせてるのは、そっちじゃないかっ!!」

「ハハハ、そうだったね。ゴメンゴメン」


まことを見かけ、走るのをやめるはるか。

「…何やってるんだ、アイツ?」

周りに誰もいず、一人で喋るまことを不審がるはるか。まことの通信機が黒く光る。

「その笑顔が君の友達も好きなのかな。よかったね、うさぎちゃん達と打ち解けられて」

「…私はこういう性格だ。滅多に他人に心を開かない」

「へぇ。――でも、本当に打ち解けられたのかな?」

「は…?」

「…俺、知ってるんだよ、君がセーラー戦士だって?」

「〜〜な…っ!?」


髪を触ってくる三船の手を払い、離れるまこと。

「君が打ち解けた仲間も同じセーラー戦士…。どうやら、君が仲間だって最初から気づいてたみたいだね?」

「…何が言いたい?」

「まぁ、あくまで俺の推測だけどね、彼女達の本音とすれば、君と仲良くなりたかったんじゃない。仲間として覚醒してほしい…、それだけで近づいてきたんじゃないかな?」

「え…?」

「だって、おかしいだろう?君はずっと一人ぼっちだった。クラスメートも先生も誰も構ってくれない…。なのに、うさぎちゃんだけは声をかけてきた。そして、その直後に君は戦士として目覚めた…。――出来過ぎてると思わない?」

「〜〜そ…っ、それは…」

「まぁ、仲間を信じたければ信じればいいさ。ただ、真実を知ってショックを受けるのは、まこちゃんだからさ」

「私…、〜〜私…は…」


まことの中で、うさぎ達の笑顔が意地悪な笑いに変わる。

「腹立つよねぇ?地球を守るっていうくだらない使命の為に利用されてるんだもん。――でも、大丈夫だよ。君には俺がついてるからさ」

不気味に笑い、まことを見つめる三船。女性客達も同じ表情に。目を見開き、とろんとした目つきになるまこと。

気づき、駆け寄って、まことの肩を揺するはるか。

「木野…!?〜〜おい、しっかりしろ!木野…っ!!」


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