美少女戦士セーラームーン 長編リメイク小説
ACT.4「VS偽セーラー戦士!」その1
月の王国。セレニティが月光を浴びながら地球を眺め、祈っている。
(――君は…)
『エンディミオン…』
(エンディミ…オン…?)
『探して…、私と幻の銀水晶を……』
(幻の…銀水晶…?)
月の王国と地球が闇に覆われる。黒い翼が生え、剣を持ったクイン・ベリルが地球から舞い降りる。
『セレニティ、私はお前を許さない…。エンディミオンは…――私のものだぁぁぁぁっ!!』
ベリルの剣がセレニティの胸を貫通。
「〜〜セレニティ――ッ!!」
寝汗びっしょりでベッドから飛び起きる衛。
「はぁはぁ…。〜〜また…あの夢か……」
マンションのテラスから深夜の月を見上げる衛。月が黒いもやに覆われていく。
★ ★
犬の遠吠えを聞きながらゲーセン『クラウン』の戸締りをする元基。
「元基、お疲れなー!」
「お疲れ様でーす!」
帰っていくバイトの先輩達を見送り、シャッターを閉める元基。
「〜〜うぅ…、何でだろう?今日はやけに冷えるよなぁ…」
ポケットに手を入れて帰ろうとする元基。暗闇から人影が現れる。
「あ、すみません。今日はもう終わりなんですよ」
仮面とマントをつけたマーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナスが歩いてくる。
「え…?」
マーキュリーが振りかざす剣を呆然と見上げる元基。一瞬暗くなって救急車のサイレン。
荒らされたゲーセンと人だかり。救急車に運ばれる傷だらけの元基の手が見える。
★ ★
「――青々と綺麗な新緑…。温かい日差しを浴びて…ほら、あんなにキラキラしてる。もう5月なのね…。世間は楽しいゴールデンウィーク。旅行に行ったり、大切な人と過ごしたり…。皆が笑顔の素敵な連休。…なのに」
「〜〜どうして、うちらは追試なのぉ〜っ!?」「〜〜どうして、うちらは追試なのぉ〜っ!?」
麻布十番高校の教室で制服で追試を受けるうさぎ、まこと、美奈子、はるか。監督している春奈。
「大事な中間で赤点を取るからですっ!!小テストを疎かにする人は中間・期末で泣きを見るって、あれほど言ったでしょう!?」
「…だからって、何も休みを潰すことないよなぁ?」
「そうよ、そうよ!花の女子高生は忙しいんですからねっ!?勉強なんかしてられるかっつーの!!」
「いいから黙ってやりなさいっ!!80点以上取れるまで返しませんからね!?」
うさぎ、まこと、美奈子がぶーぶー言う中、黙って手を上げるはるか。
「どうしたの、天王君?」
「…僕、どうしてもわからないんです」
「わからないって…、この問題?――っ!」
テスト用紙を指差そうとした春奈の手を掴み、自分の左胸に押さえつけるはるか。
「いいえ、ここ!テストとは違う緊張感で高鳴る僕の心臓…。――あぁ、そうか。春奈先生、あなたが近くにいるからなんですね…」
「えっ?えぇ…っ♪」
「春奈先生、彼氏とかいるの?もしいないなら、僕が立候補してもいいかな…?」
「ま、まぁ…♪〜〜いけないわ、天王君!私はあなたの先生なのよぉ…っ♪」
春奈を惹きつけている間にうさぎ達に合図を送るはるか。頷き、教卓に忍び足で近づくうさぎ、まこと、美奈子、答えのプリントが入ったファイルを開き、ぎょっとなる。
角を出した春奈が高笑いするパラパラ漫画が描いてあるだけのプリント。
「〜〜こ…っ、答えじゃない…!?」
「――フッフッフ…、引っかかったわね…!?」
ドヤ顔で振り返り、胸の中から本物の答えのプリントを出す春奈。
「本物はここよ!先生を甘く見ないでもらいたいわねぇ!!そうやって私に言い寄ってきた男子生徒は今までみ〜んな同じやり方で答えを盗もうとしてきたんだからっ!!」
「〜〜うわ…。寂し〜い…」
「さぁ、早く席に戻って続きをおやりっ!!今日も私の勝利だわ!!お〜っほっほっほ…っほ…う、うぅ〜…」
後ろを向いて見えないようにハンカチで顔を押さえて泣く春奈。
「〜〜あ〜あ、また無理しちゃって…」
「はるかさんのせいだー」
「〜〜チッ、お前らだってノリノリだったじゃないかよ」
席に戻ってテストを続ける4人。涙を拭い、ハッと腕時計を見て、慌てて帰り支度を始める春奈。
「〜〜ヤダ!もうこんな時間っ!?」
「えっ?ハルダ、帰っちゃうの!?」
「私は忙しいんです!あなた達の面倒オンリーってわけにはい・か・な・い・の!」
「え〜?何それ!?信じらんな〜いっ!!」
「生徒に追試やらせっぱなし!?そりゃないよ、先生!」
「校長に訴えるぞー?」
「〜〜失礼ねっ!私は研修旅行に行くんです!もちろん、他の先生方と一緒にね――」
鞄から沖縄の有名ホテルのエステやバイキングのパンフレットが落ち、慌てて拾う春奈。
「……へー。研修ってエステ行ったり、食べ放題できるんだー?」
「〜〜そっ、そうよ!とにかくっ!!代わりの監督の先生を呼んできますから、おとなしく待ってるのよ!?いいわねっ!?」
ドアを強く閉めて廊下に出て行く春奈。
「…行っちゃったな」
「ねーねー、やっぱ一人旅かな♪」
「他の先生と一緒って言ってたけど、絶対全員独身女よね〜?」
「嫌だねぇ、30手前の崖っぷち女って」
強く開くドアにビクッとなるうさぎ達。
「〜〜っ…!!」
目に涙をにじませながらドアを強く閉める春奈。無言で呆れるうさぎ達。
★ ★
職員室。休日なのに出勤し、職員相談室で教頭と打ち合わせしているベリルをデスクから監視しているせつな、晩餐会を思い出す。
(――この間の晩餐会…、はるか達の言うように、もし、事前に仕組まれていたものだとしたら…)
『――間違いないわ!校長は裏でダーク・キングダムと繋がっているのよ…!!』
『――お前達・月の王国の者とセレニティに復讐する為、私は地獄の底から復活したのだ…!!』
ベリルを思い出しながら校長を見つめるせつな。目が合い、慌てて目をそらす。笑顔でせつなに近づいてくるベリル。
「冥王先生、先日はありがとう。プリンセスDもお友達がたくさんできたって喜んでらしたわ」
「こ…、こちらこそお招き頂き、ありがとうございました。とても有意義な時間を過ごせましたわ」
「それはよかった。今度は私の家にも是非いらして?精一杯おもてなしさせて頂くわ」
「ありがとうございます…」
「冥王先生〜っ♪」
明るくせつなに駆け寄ってくる春奈、校長に気づいて慌てて頭を下げる。
「…じゃ、またね」
去っていくベリルにお辞儀するせつな。春奈も慌ててお辞儀し、安堵する。
「〜〜ハァ…。な〜んか緊張しない、最近の遠藤校長?前は庶民的なおばちゃまって感じだったんだけどなぁ…」
「……」
「…冥王先生?」
「――あ…!ご、ごめんなさい!それで、何か?」
「あ、そうなのよ!〜〜お願いっ!一生のお願い!!」
「え?」
「〜〜私、このままだと30過ぎても独身なの!これが最後のチャンスなのよぉっ!!」
せつなの肩を掴んでグラグラ揺らす春奈。
「冥王先生はモテるからいいでしょうけど、私ってこんなキャラでしょ?だから、思うような男をゲットできなくて…。〜〜だからね、これに賭けてるのっ!!」
「〜〜だから、何の話ですか!?」
★ ★
「――んで、話を聞いて断りきれず、ここに来たと…」
うさぎ達が補習を受けている教室の教卓に立つせつなは溜息。
「〜〜だって、同年代の独身女として共感が…」
「駄目だよ、せつな先生!そんなんじゃ永久にハルダに利用され続けるよっ!?」
「そーそー!せめて給料半分よこせぐらいのことは言わないとね〜。――う〜ん。それにしても、男同伴の旅行だったとは…」
「〜〜美奈子ちゃん、鼻息荒くなってるぞ?」
「困ったわ…。これからスーパー行って特売品買おうと思ってたのに…」
テスト問題を見るせつな。
「――あら、でも、大丈夫そうね!もう一枚のプリントも基礎問ばかりだし、これなら全員合格できそうだわ!」
「本当っ♪」
「やりぃ〜っ♪急にやる気が出てきたわっ!」
「フフ…、じゃあ、1時間後に集めるから、落ち着いて問題を読んで頑張ってね。――では、始め!」
「はーい!ハァ、よかったね〜、せつな先生に代わってくれて♪」
「多少点が悪くても、すぐに帰してくれそうだしな」
「さっさと終わらせて、宇奈月ちゃんの喫茶店で打ち上げしましょ!」
「だな。どうせなら、みちる達も呼ぼうぜ!」
頑張って取り組むうさぎ達を見て、微笑むせつな。
「さてと、私は一枚目の採点でも――」
笑顔で赤ペンを持つせつな、目が点に。
「…え?」
全員赤点のテスト用紙に肩を震わせるせつな。テストが終わり、気まずく笑ううさぎ達。
「〜〜う、うそ…」
「〜〜わ…っ、わざとじゃないんだよ!?せっかくのゴールデンウィークだもん!私だって、ゆっくりしたいし〜♪」
「〜〜そ…、そうそう!ただ私達、他の人より、ちょ〜っと飲み込みが遅いっていうか〜?」
「〜〜ほら、人間誰にでも得意・不得意があるもんだし…!その…」
「〜〜ごめんなさい…」「〜〜ごめんなさい…」「〜〜ごめんなさい…」
「…別にいいじゃん、英語なんか。俺達、日本人なんだし」
「……なんか?〜〜なんかって何よ…!?」
「〜〜せ…っ、せつな先生…?目が据わってますけど…!?」
「〜〜天王はるかっ!!レーサーとして世界で活躍するようになれば、英語は必需品です!!日本代表がこんな英語力じゃ、世界のいい笑い者だわねっ!!」
「〜〜う…っ!」
「それから、愛野美奈子っ!!あなた、バレー部で海外遠征するんでしょう!?今のままじゃ現地に行っても英語がわからない=ストレスが溜まる=ミスを連発!!愛しのコーチに嫌われるわよっ!?」
「〜〜そ、そんなぁ…」
「最後に月野うさぎっ!!木野まことっ!!」
「〜〜はい〜っ!?」「〜〜はい〜っ!?」
「英語は進学のみならず、就職してからも必要なのよ!?このグローバル化した時代、最低限のレベルは話せて当然ですっ!!勉強は人の為にやるんじゃないの!自分を磨く為にやるものなのよっ!?」
「せ、せつな先生…」
「フフフ…、今日は朝まで帰れないと思いなさい?私が英語の基礎をみっちり叩き込んで、その腐った根性を叩き直してあげるわっ!!」
「〜〜えぇ〜っ!?」
「ほらっ!ボサッとしてないで、教科書開くっっ!!」
ビクビクしながら、教科書を鞄から出すうさぎ達。黒板に書いて熱血指導を始めるせつな。
「〜〜まさか、こんなことになるとはな…」
「〜〜ハルダァ…、カムバ〜ック…」
★ ★
スポーツジム。
亜美、レイ、みちる、ほたるがマシーンでそれぞれ汗を流し、休憩所へ。
「ふぅ…。たまには皆で汗を流すのも悪くないわね」
「えぇ、爽快な気分になりますよね」
「何か飲みますか?私、買ってきます」
「私も行くー!みちるママとレイちゃんは何がいい?」
「フフッ、ほたるに任せるわ」
「私はスポーツドリンクをお願いね」
「はーい!行こ、亜美ちゃん!」
「えぇ」
亜美の腕を引っ張って、走っていくほたる。
「ふふっ、可愛いですね、ほたるちゃん」
「でしょう?こんなこと言うと、親馬鹿に聞こえるかもしれないけど」
「…もしかしたら、ほたるちゃんかもしれませんね。――私達のプリンセス」
「…さぁ、どうかしら?」
「〜〜本当なんでしょうか…、私達の中にプリンセスがいるって…?」
「おそらくね…。クイン・ベリルのあの目…、嘘をついているようには見えなかったわ…」
「だとしたら、どうやって守ればいいんでしょう?誰かわからない以上、危険な目に遭い続けるのは確かですし…」
「そうね…。それに影武者を置いて敵を欺くこともできない…。――でも、全てのセーラー戦士は揃った。プリンセスの覚醒は近いはずよ」
「そして、覚醒したら命を懸けてお守りする…ですね?」
「えぇ、一人でも多く生き残ってね…」
「――きゃ〜っ♪ビューティー・スリーの海王みちるさんだ〜!」
友達と一緒にみちるを見つけてはしゃぎ、近づいてくるなる。
「あら、なるちゃんじゃないの」
「や〜ん♪私の名前、覚えてくれたんですか〜?感激〜♪握手してもらってもいいですか?」
「えぇ。クラスメイトですもの、そんなにかしこまらないで?これから仲良くやっていきましょ」
「はい〜♪」
「今日はうさぎと一緒じゃないの?」
「誘ったんだけど、英語の追試を受けてるみたいで…。まだ終わんないのかなぁ?」
「そういえば、はるかも同じこと言ってたわね」
「そっかー!だから、はるかパパ、早く出かけたんだねー」
ペットボトルを持って、亜美と一緒に戻ってくるほたる。
「あ、水野さんもいたんだー!」
「こんにちは、大阪さん」
「――と、こっちはほたるちゃんだよね?るるなのお友達の」
「はい!はるかパパったら人一倍運動好きなのに何で断ったかなーって思ってたけど、そういう理由だったのかぁ…。ふぅ、困ったもんだ…」
「や〜ん、可愛い〜っ♪」
ほたるに抱きついて、頭を撫でるなると友達。照れるほたる。
「いや〜、それほどでも…♪」
なるの持っている雑誌に気づくほたる。
「…?それ、なぁに?」
「あ、これ?それがねぇ、すっごいショッキングな記事が載っててさぁ…」
セーラー戦士の記事が乗っているページを開くなる。覗き込み、驚く亜美、レイ、みちる、ほたる。
「〜〜セーラー戦士が人を襲う…!?」
「そうなの…。昨晩、『クラウン』に現れて、バイト店員に重傷を負わせたのが1件目でしょ?それで、今朝までにKO大学付近で3件連続で暴行事件が続発したんですって!」
「しかも、犯人は決まってセーラー服を着た4人組!」
「でも、ショックよねー。憧れてたのにさぁ、セーラー戦士…」
「でも、偽物って可能性もあるでしょ?」
「えー?そう?」
「そうよ!だったら、何で今まで平和を守ってきたの!?これは絶対アンチセーラー戦士派の仕業だって!!ねー?そう思うよね、水野さん達も!?」
「え?え…、えぇ…」
真面目な顔を見合わせる亜美、レイ、みちる、ほたる。
★ ★
うさぎの家付近。育子が鼻歌交じりスーパーの袋を持って帰ってくる。
「今日はお肉も卵も特売で助かったわ〜♪今夜は、すきやきで決まりね!」
電柱に寄りかかってうずくまっているコートの女を見つけ、駆け寄る育子。
「ちょっとどうしたの、あなた…!?大丈夫?」
「――エナジーが欲しいの…」
「え…?」
コートを脱ぎ捨てる仮面のヴィーナス。仮面とマントをつけたマーキュリー、マーズ、ジュピターも出てきて、育子を囲む。
「〜〜な…っ、何なの、あなた達…!?」
「お前のエナジー…、――我々が頂く…!!」
同時に剣を振り下ろすマーキュリー達。
「きゃあああああ…!!」
育子の飛び散った血が付いた袋が落ち、卵が割れてコンクリートに染みていく…。
ACT.4 その2へ
セーラームーン・トップへ