美少女戦士セーラームーン 長編リメイク小説
ACT.1「セーラームーン、誕生!」その1



30世紀のクリスタル・パレス。

虹色に輝く噴水の広場で子供達が楽しく遊んでいる。

「離せよ!このクリスタル・ボール、僕のだぞ!?」

「ずる〜い!私が先に遊んでたんだよ!?」

「ほらほら、喧嘩はおよしなさいな」

「あっ、レディ・セレニティ様だ!」


鈴の音と共にやって来たレディ・セレニティの周りに集まってくる子供達。

「こんにちは、レディ・セレニティ様!」

「こんにちは。おもちゃならまだたくさんあるから、皆仲良く遊びましょうね」

「は〜い!」

「ねぇねぇ、またお話聞かせて〜」

「そうねぇ…。じゃあ、皆そこに座って」

「はーい!」


レディ・セレニティを囲んで芝生に座る子供達。

「今日は何のお話にしましょうか?」

「おっかない怪獣が出てくるのがいいな!」

「え〜?可愛いお姫様が出てくるのがいいよぉ〜」

「クスッ、じゃあこうしましょう。今日はおっかない怪獣もお姫様も両方出てくるお話にしまーす」

「え〜?それ、なぁに!?」

「面白そ〜♪」

「そう、とっても面白いお話よ。――昔々、まだこのTOKYOがクリスタルに包まれる前のお話です。あるところに一人の女の子がおりました。その子はとってもドジでおっちょこちょいで、お勉強は苦手、悲しいことがあるとすぐ泣き出してしまう女の子です。でも、その女の子は後に伝説の戦士として仲間と一緒に地球を救い、素敵な王子様と結ばれて、このクリスタル・トーキョーの女王となりました」

「すっご〜い!」

「その女の子の名前、なんていうの?」

「皆もよーく知ってるお名前よ。だって、愛と正義の美少女戦士セーラームーンのお話なんですから…!」


★               ★


21世紀の東京。

満月。深夜に自宅のベッドで寝ているうさぎ。カーテンが揺れ、窓に屋根の上を走っていく外部太陽系4戦士の影が映る。

宝石を奪って逃げる泥棒が大通りから裏道へ。

「――ワールド・シェイキング!!」

地面を震わす黄の攻撃弾が壁に当たり、崩れた瓦礫が泥棒の行く手を塞ぐ。追いつく外部4人。

「悪いが、その宝石は置いていってもらおうか」

「今度からお買い物の時は、ちゃんとお金を持ってらっしゃいね」


泥棒は不気味に雄たけびをあげ、妖魔になって外部4人に襲いかかる。

「…まぁ、身の程知らずですこと」

「はあああっ!!」


サターンにサイレンス・グレイヴで右腕を斬られ、倒れる妖魔。

「プルート!」

「えぇ!」


ガーネット・ロッドとサイレンス・グレイヴを妖魔に向けるプルートとサターン。

「プルート!」

「サターン!」

「プラネット・キャノン!!」「プラネット・キャノン!!」

「ぎゃああああ…!!」


腕を残して消滅する妖魔。

「…やれやれ。連日深夜戦なんて勘弁して欲しいよな」

「ふふ、夜更かしはお肌の天敵ですものね」


妖魔の盗んだ宝石を手に取り、確認するプルート。

「〜〜これも違うわ…。私達の探しているものじゃない…」

「〜〜え〜?またぁ…?」

「ふふっ、仕方ないわ。簡単に見つからないことくらい始めからわかってたでしょ?」

「〜〜ぶ〜…」


不満そうに頬を膨らますサターンの頭を優しく撫でるプルート。2人の陰で妖魔の腕がピクピク動き出し、サターンに狙いを定めて飛び上がって襲いかかる。

「ハッ!?危ない…!!」

「え?」


振り返ったサターンの首を絞める妖魔の腕。

「〜〜あぐ…っ!?」

「〜〜サターン!!」


苦しむサターンから妖魔の腕をほどこうとするプルートだが、腕はサターンを放し、プルートの足を掴んで転倒させ、猛スピードで港まで引きずる。

「キャ――ッ!!」

「〜〜プルート…!!」


追いかけるウラヌス、ネプチューン、サターン。

プルートを海へ放り投げる妖魔の腕。落ちる寸前でプルートの腕を掴み、引き上げるネプチューン。

「〜〜手間かけさせやがって…!!」

「おとなしく無へ還りなさいっ!!」


ウラヌスが殴り、踏みつけていた妖魔の腕を鎌のサイレンス・グレイブで切り裂くサターン。砂となって消滅し、風に乗って運ばれていく。

「〜〜ハァ…、今日のは特にしつこかったね?」

「大丈夫だった?」

「えぇ、助かったわ」

「…やはり、向こうも力を増してきているな」

「…私達の力じゃ、これで精一杯よ」

「〜〜やっぱり、あれを実行するの…?」


顔を見合わせ、頷くウラヌスとネプチューン。

「〜〜そんな…」

「――たとえ他人の運命を弄ぶことになっても、僕達は太陽系の戦士として使命を果たさなければならないんだ。この地球を守るという最大の使命を…!」


夜が明け、朝日が外部4人に当たる。

★               ★


朝になり、うさぎの部屋から聞こえてくる目覚まし時計のアラーム。

うさぎの分の朝食を準備する母の育子。

「うさぎー、8時過ぎたわよー?」

「〜〜う〜ん…。あと5分〜…」

「〜〜まったくもう…」

「…放っときなよ。目ぇ覚ますまで起きやしないんだから」


外部4戦士が盗まれた宝石を取り戻したニュースをリビングのテレビで観ながら朝食を食べる父・健司と弟の進吾。

「へぇ〜、セーラー服美人戦士4人組だってさ!21世紀になったばかりなのに、まるで世紀末みたいな話だな」

「…っつーかさー、誰も顔見たことないのに何で美人ってわかるんだっつーの!」

「ははは…、いいじゃないか、その方が夢があって!『悪人を懲らしめる謎の美人セーラー戦士カルテット』!!今月はこのネタで決まりだな♪」

「頑張ってね、あなた。雑誌が売れれば、いずれは編集長!泥棒が盗もうとしたのと同じくらいの宝石も買えるようになるでしょうしねぇ〜♪」

「はっはっは、もちろんだとも――!?」


――ドスッ!!

包丁を健司の目の前のテーブルに笑顔で突き刺す育子。

「…だったらお安い御用よね〜、ダイヤの指輪くらい?――あなたがこの前買い忘れた夫婦20年目の証も…っ!!」

「〜〜いや…、だからそれはさー…、あ、あの日は残業があって…!けっ、決して結婚記念日を忘れていたというわけではないんだよ…っ!!」

「…ふーん。――うさぎー、いい加減起きなさーい!?もう5分経ったわよー!?」

「〜〜ホッ」

「ひひひっ♪バカうさぎのお陰で命拾いしたね、パパ」

「〜〜こ、こら!子供は早く学校に行きなさい!!」

「はいはーい♪――んじゃ、行ってきまーす」

「気をつけてねー?――うさぎー、あなたも早く学校に行きなさーい!?高校生にもなって一人で起きられなくてどうするのー!?」

「むにゃむにゃ…うふふ…♪お花見団子、もう食べられないよぉ〜…」

「今日は家庭訪問の日でしょー?ママ、また桜田先生にお説教されちゃうじゃなーい」

「うふふ…、桜だ春だ……春だ……〜〜ハルダ…!?」


飛び起き、慌てて制服に着替え、鞄に教科書を詰め込むうさぎ。

「〜〜うわああ〜ん!!ま〜た遅刻だぁ〜!!どうして早く起こしてくれないのよぉ〜!?ママの馬鹿〜っ!!――あ、パパ、おはよう!」

「お、おはよう…」

「何度も起こしたわよー?なるちゃんと遅くまでメールしてるから、朝起きるのが辛くなるんでしょ?」

「〜〜ママッ!!呑気にテレビ観てないでお弁当〜っ!!」

「キッチンよ。毎日同じこと言わせないで頂戴」


テレビに視線を向けたままキッチンを指差す育子。

弁当を持って靴を履き、外に飛び出すうさぎ。

「〜〜いってきま〜すっ!!」

「いってらっしゃーい」


テレビを見たまま手をひらひら振る育子。おどおど新聞を読みながら育子の様子をうかがう健司。

「〜〜あ、あの…、ママ?僕のお弁当は…?」

黙ってテレビを消し、鼻歌を歌いながら洗濯かごを持つ育子。

「あ、あのぉ…?」

「…うちのうさぎもセーラー戦士みたいにしっかりしてればねぇ。さぁ、お洗濯、お洗濯〜♪」


笑顔の育子、さりげなく口紅のついたワイシャツを広げて見せびらかす。

「〜〜そ、それ…は…」

「うふふっ、これじゃあ結婚記念日も忘れるはずよねぇ?――どういうことか説明してもらいましょうか…!?」


包丁を再びテーブルに突き刺し、額に青筋を立てる育子。

「いや…、そ、それは多分…会社で…いや、通勤ラッシュで…!〜〜うぎゃああああ〜っ!!」

★               ★


「〜〜ハァハァハァ…、またハルダに怒られちゃうよぉ〜…」


桜並木を抜け、麻布十番高校の校門を全速力で駆け抜けるうさぎ。

チャイムが鳴り、担任の春奈が1年1組に入ってくる。制服姿の亜美、まこと、美奈子、はるか、みちるが各々の席にいる。

「起立ー、礼ー、着席ー」

「おはようございまーす」

「はい、おはよう。今日も桜が満開!お花見日和ねぇ♪」

「じゃあ、今日は授業をやめて、お花見にしようよ!」

「駄目よ!学生の本分は勉強、勉強♪」

「え〜?今日も花見なしかよ?先生の名前『桜だ春だ』なのに?」


どっと笑いが起きる教室内。

「コラ、先生をからかうんじゃありません!馬鹿なこと言ってないで、教科書10ページ!」

「はーい」

「じゃあ、このページのセンテンスを…」


春奈と生徒達のやり取りの間にこっそり教室に入り、床を這って自分の席の椅子に手をかけ、安堵するうさぎ。

「――月野さーん、訳してくれるかしら?」

「〜〜えっ!?」


動きが止まり、恐る恐る振り返るうさぎ。怒りを押し殺して微笑む春奈。

「あ…、お、おっはよ〜ございま〜す、春奈先生!」

「〜〜月野さん…、もうとっっくにホームルームは終わったんだけど、そこで伝えた今月の我が校の目標、何だかわかるかしら?」

「え?〜〜え〜っと…、あ!『ご飯は三食残さず食べよう』!?」


再び笑いが起きる教室内。

「〜〜そうねぇ。それもとっても大事なことだけど、それより今のあなたにうってつけな内容なの…っ!!」

バンッ!!と壁に貼ってある今月の目標の紙を強く叩いてみせる春奈。

「〜〜『今月の目標・遅刻ゼロを目指そう』!!あなたは今日4月18日までで遅刻11回!!クラス・学年の垣根を越え、全学年で断トツトップですっ!!」

「〜〜うぅ〜…、だって朝起きるの苦手なんだもぉ〜ん…。ほら、低血圧って知ってるでしょ、先生♪」

「低血圧だぁ!?〜〜己の健康診断結果を目ぇひん剥いて見てらっしゃいっ!!」


首根っこを引っ張り、うさぎを廊下に締め出す春奈。

「…あーあ、まーた怒られちゃった。たかだか遅刻ぐらいであんなに怒んなくてもいいのにさー…」

――ぐー…。

「〜〜そういえば、朝ご飯食べるの忘れてたぁ…」

辺りを見回し、鞄から弁当を出して笑顔になるうさぎ。

「――えへへ、ちょっとだけならつまみ食いしても平気だよね〜♪いっただっき――!」

――ガラガラ…!

「月野さーん、さっきの英文訳せたら教室入っても…――」

教室から顔を出した春奈と目が合い、苦笑いするうさぎ。

「〜〜あは…あははは…。…ハルダも食べる。タコさんウィンナー?」

「〜〜つぅ〜きぃ〜のぉ〜さぁ〜んっ!?」

「〜〜はいーっ!?」


直立するうさぎに英語の赤点の答案用紙を突きつける春奈。

「そんな気構えだから入学早々こんな点を取るのよっ!?罰として、校庭10周してらっしゃ〜いっ!!」

「〜〜えぇ〜っ!?やぁ〜だぁ〜!!ハルダの鬼〜っ!!悪魔ぁ〜っ!!」

「自業自得ですっ!!」


泣き喚くうさぎに驚く亜美、窓の外を見ながら机に脚を乗せているまこと、うさぎの境遇に同情する美奈子。黙って見ているはるかとみちる。

「大丈夫よ、うさぎちゃん!赤点仲間はここにもいるわっ!」

「10周なんてちょろいよな?」

「…はるか!」

「〜〜あ〜ん、ごめんなさ〜い!!これからちゃんと勉強しますからぁ〜!!うわああ〜ん…!!」


★               ★


「〜〜本っ当信じらんない、うさぎったら…。遅刻して赤点取った挙句、女の子のくせに早弁までするなんて…」

「あははは〜♪どうしてもお腹の虫が収まらなくてさ〜」


廊下を並んで歩いてきたうさぎとなるだが、食堂が混雑している。

「うひゃ〜、今日も混んでるねぇ…」

「これじゃあ、ゆっくり食べられそうもないわねぇ…。――そうだ!中庭行かない?良いお花見スポット、くりが教えてくれたんだ」

「わ〜い!お花見だ〜、お花見だ〜♪」


★               ★


中庭に向かううさぎとなる。

なると楽しそうに喋って歩いていくうさぎをすれ違いざまに見て羨ましがり、持っている購買部の袋を見つめる亜美。

「――そこのお嬢〜さん♪」

「え?」


美奈子に背後から話しかけられ、驚きながら振り返る亜美。

「あ、愛野さん…」

「いつもお昼一人でしょ?たまには一緒に食べない?向こうに席取っておいたんだ〜♪」

「そ、そんな…。〜〜私なんかと一緒に食べたら、ご飯がまずくなっちゃうわ…」

「なーに言ってんの!私はもちろん、皆、亜美ちゃんと話したがってるよ?」

「あ、亜美…ちゃん…?」

「そ!私のことは美奈子って呼んで♪あ、美奈Pでも全然OKだから!」

「〜〜み…、美奈…P…」

「――美奈Pー、早くおいでよー!」

「OK!こっちも亜美ちゃん、つかまえたよ〜ん♪――行こ、亜美ちゃん!」

「え、えぇ…!」


嬉しそうに美奈子と食堂に入っていく亜美。

★               ★


中庭の桜の樹の下までやって来るうさぎとなる。

「えっと確かねぇ…、――あ!ここよ、ここ!」

「わぁ〜、綺麗な桜だね〜!」

「でしょ?ここ、あんまり知られてない穴場なんだって――!」


桜の樹の下にいるまことに気づき、怯えて立ち止まるなる。桜の花びらを浴びながら幹に寄りかかり、頭の上で手を組んで遠くを見ているまこと。

「あ、あの子、うちのクラスの…!」

まことに近づこうとしたうさぎを慌てて止めるなる。

「〜〜やっ、やめときなよ!あの木野まことって人、中学時代、先生殴って何度も転校させられたんだって。今も毎日のように不良グループと喧嘩してるって話よ…?」

「ふーん、そうなんだ…。――お〜い、木野さ〜ん!」

「〜〜ちょ…っ!!うさぎ!?」


駆け寄ってきたうさぎを睨むまこと。怯えるなる。

「お昼、一人?一緒に食べようよ!あ、私、月野うさぎ!同じクラスだよね?ね〜ね〜、まこちゃんって呼んでもいい?」

「……あんた、私が怖くないのか?」

「へ?何でぇ?」


うさぎに驚き、黙って顔をそむけるまこと。

「わぁ〜、美味しそうなお弁当〜♪まこちゃんのお母さん、お料理上手なんだねぇ〜」

眉を顰め、うさぎに弁当箱を突き出すまこと。

「…食いたいなら全部食っていいよ」

「えっ?いいの〜!?じゃあ、お言葉に甘えて…♪」


うさぎがおこわ結びを頬張るのと同時に立ち上がり、去ろうとするまこと。

「…んあ?どこ行くの〜、まこちゃん?」

「…あまり私に近づかない方がいいよ。――陰口言われるのがオチだからさ」


なるを睨み、去っていくまこと。怯えて泣きそうになり、まことの弁当を食べているうさぎに抱きつくなる。

「〜〜うさぎぃ…、やっぱ怖いよ、あの人ぉ…」

「そう?私は良い人に見えるけどなぁ…」

「〜〜あー、私、絶対目ぇつけられた!どうしよう…!?……あ〜あ…、セーラー戦士みたいな強くて格好良いボディーガード、雇えないかなぁ?」

「せぇらぁせんしぃ?」

「えっ?まさか知らないの、セーラー戦士!?」

「うん。新しい戦隊ものか何か?」

「違うわよ、これは現実のハ・ナ・シ!宝石店を襲う強盗を次々成敗してる美女4人組でね、男の子みたいに格好良いウラヌスと優雅で可憐なネプチューン、心優しいお姉様のプルートとちっちゃくて可愛いサターン!一部じゃ警察の特殊部隊って噂だけど、詳しいことはぜ〜んぶ謎なの。…毎日ニュースでやってるじゃん!父親が記者なのに何で知らないわけ?」

「あはは、私、テレビってバラエティとドラマしか見ないからさ〜」

「ふふっ、…ま、うさぎらしいけどね〜」

「――うさぎちゃーん、なるちゃーん」


保健室の窓から白衣にスーツ姿のせつなが顔を出し、うさぎとなるに笑顔で手を振っている。

「あっ、せつな先生〜!」

「『麻布エトワール』のガトーショコラをもらったの。よかったら一緒に食べない?」

「すっご〜い!あそこのガトーショコラ、並んでもなかなか買えないのよねぇ」

「もっちろん食っべま〜す♪今、そっち行くね〜!…よいしょっと」


靴を脱いで窓から保健室に入ろうとしたうさぎを通りがかった春奈が見つける。

「――あっ!見つけたわよ、月野さんっ!!」

「〜〜ゲッ!?ハルダ…!!」

「こんな所にいたのね!?昼休みに追試するって言ったでしょう!?」

「〜〜あ〜ん、もうっ!逃げよう、なるちゃん!!」

「えっ?な、何で私まで〜!?」

「〜〜くぅおらぁっ!!待ちなさい、月野さんっ!!追試受けるまで帰らせませんからね〜!?」


なるを引っ張って逃げていくうさぎを見送り、肩をすくめて笑うせつな。

「ふふっ、可愛いわねぇ、うさぎちゃんは」

「――あの子があなたが目をつけている子?」


はるかとみちるが保健室に入ってくる。

「フフ、いいえ。一養護教諭として可愛がってるただの生徒よ」

「まぁ、ある意味目をつけるのが当然なくらい超人的だけどな」

「ふふっ、はるかったら」


保健室前の廊下に押し寄せ、はるか、みちる、せつなを見て感激する生徒達。

「きゃあっ!いたいた、天王はるか君よ〜♪や〜ん!クールな横顔も超素敵〜♪」

「授業中に居眠りしてる子供っぽい顔もまた可愛いのよね〜!」

「レースの時も格好良いけど、制服姿もかなりイケてるよね!」

「見ろよ、海王みちるさんもいるぜ!うわ!生で見ると超美人〜♪」

「俺、新しいアルバム買ったんだ!サインねだったらしてくれるかな〜?」

「でも、天王はるかと付き合ってんだろ?天才レーサーと天才ヴァイオリニスト、お似合いだけどショックだなぁ…」

「あ!せつな先生もいるわよ!落ち着いてて品があって、大人の女って感じよね〜♪」

「先生目当てで保健室行くサボリ魔が後を絶たないんだろ?教頭が頭抱えてるって話だぜ」

「そりゃ美人で優しいもん!生徒だけじゃなくて、先生からもかなり人気あるみたいよ?」

「麻布十番高校の『ビューティー・スリー』をいっぺんに見られるなんて、今日はツイてるぜ〜♪」


保健室を覗いている生徒達に気づき、振り返るはるか、みちる、せつな。

「きゃあ!目が合っちゃった〜♪」

「ゴメンよ、子猫ちゃん達。今から大人の話をするものでね♪」


笑顔で保健室のドアを閉め、鍵をかけるはるか。

「きゃあっ!保健室にビューティー・スリーが閉じこもったわ♪」

「大人の話って何を始める気なの!?きゃ〜!気になる〜っ♪」


保健室の外でまだ騒いでいる生徒達に呆れ、ため息をつくはるか。

「…ビューティー・スリーか。そんなナンセンスなネーミング、誰が考えるやら」

「でも、まんざらでもないって感じね?」

「まぁ、女の子に騒がれるのは嫌いじゃないんでね」

「――それで?あなた達も目星はつけた?」

「えぇ、はるかと一緒に何人かに絞ったわ。――IQ300の頭脳を持つ天才少女の水野亜美、一年生でバレー部の海外遠征メンバーに選ばれるほどの運動神経を持つ愛野美奈子…」

「そして、人並み外れた怪力で男達をなぎ倒す木野まこと…。他にもこの麻布十番には予知能力を持つ霊感少女がいるらしい」

「…でも、本当に目覚めさせていいものかしら?いくらセーラー戦士の力を持っているとはいえ、皆、普通の女の子なのよ!?〜〜あまりに危険すぎるわ…!」

「…せつな、甘い考えは捨てるべきだわ。心を鬼にしなければ、奴らには勝てなくてよ?」

「奴らももう動き始めている…。〜〜悔しいが、もう僕達・外部太陽系戦士の力だけであの闇は抑えきれそうにない…!」

「はるか、みちる…」

「…もし、彼女達が本当に僕らの仲間だったら、自然と覚醒の時期は巡ってくる。――そう風が教えてくれるんだ」

「心配しなくても、私達と同じセーラー戦士なら、きっと力になってくれるわ。そう信じましょう…!」

「…そうね。――そして、一刻も早く私達のプリンセスを見つけなくては…!私達が守るべき月のプリンセス…、セレニティの生まれ変わりを…!」


桜の花びらが舞う青空を凛々しく見上げるはるか、みちる、せつな。

同じ青空と麻布十番高校の校舎をサングラスをかけながら見上げる衛。


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