★3−4★



深川の地下水路。柱に縛りつけられているロープをひきちぎろうとするマリアを笑って見下ろす刹那。

「あはははっ、無駄だよ。そのロープは闇の霊力でできてるんだ。そんな簡単に切れやしないよ」

刹那を悔しく睨むマリア。ムッとなり、爪を伸ばす刹那。刹那の爪がマリアの頬にかすり、血が流れる。

「生意気なんだよ、その顔。僕の手にかかれば、お前なんか一瞬で殺せるんだから!でも、それじゃぜ〜んぜん面白くないだろ?だからさぁ、う〜んと苦しみを味わえるようにじわじわ殺していってやるよ。そうだなぁ…。少しずつその体を切り刻んでやろうかな〜!最終的にはミンチとか?あっははははは…!!」

爪で裂かれ、傷だらけになるマリア。

「うああああっ!!〜〜く…うぅ…っ」

「どうだ?痛いだろ!?でも、まだ殺さないから安心しなよ」


脇侍に目で合図する刹那。脇侍がパイプを回すと、水位が上昇。マリアの膝が水に浸かる。

「知ってる?水責めって奴だよ。お姉さん、泳げないんでしょ?いくら平気そうな顔してても、心の中が不安だらけなのが見え見えだよ〜!あはははっ!!」

「〜〜この…っ!」

「いくら待っても助けは来ないよ。お姉さんが隊長のお兄さんにしたこと、僕、知ってるんだから。隊長失格なんて言われてかわいそ〜。そんなひどいこと言った奴のとこになんか誰も助けには行かないよ?恨むんなら、自分を恨むんだね〜」


うつむき、大神を回想するマリア。

『――君は俺の大事な仲間じゃないか』

『――もし仲間じゃなかったとしても、困ってる人を見かけたら放っとけないだろ?』

(〜〜違う…!私、本当は…隊長のことが――)

「――そこまでだ!!」


鉄格子を斬り、来る大神達の光武。

「帝国華撃団、参上!」

「〜〜な…っ!?何でここがわかったんだよぉ…!?」

「へっへ〜ん、最先端の科学をナメたらあかんで!」

「お待たせしました、マリアさん!大丈夫でしたか!?」

「皆…、どうして…?」

「あやめさんから聞いたぜ!クロッサリーだかクソッサリーだか知らねぇが、そんなのあたいらにしてみれば全然大したことねぇ話だって、な?」

「〜〜せやから、クワッサリーやて…」

「あれ?まぁ、何でもいいじゃねぇか!あははははっ!」

「フン、これだから脳みそまで筋肉でできている人は…。…ま、男役のトップスタァに抜けられては、私に釣り合う相手役がいなくなってしまいますしねぇ」

「皆、マリアのことをすごく心配してたんだぞ?俺達は仲間だ。助けに行くのは当然だろ?」

「皆…」

「〜〜何だよ…、人間のくせに生意気だぞ!?――お前ら、こいつらを殺して、僕のおもちゃに改造しろぉっ!!」


襲ってくる脇侍達。

「各自、脇侍の撃破に専念!さくら君はマリアを頼む!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」

「神崎風塵流・胡蝶の舞!!」

「桐島流奥技・一百林牌!!」

「狼虎滅却・快刀乱麻!!」


攻撃に倒れる脇侍達。ロープを剣で切ろうとマリアに駆け寄るさくら。

「待ってて下さいね!今、助けます…!」

「〜〜普通の刀じゃ切れないと思うわ。あいつを倒さない限り無理――!」


光った荒鷹がロープを粉々に切る。驚くマリアと刹那。

「やりました!」

「〜〜な、何だよ…!あいつ、二剣二刀の一つを持ってるのか…!?」

「にけんに…?…何ですか、それ?」


コケそうになる刹那。

「〜〜も…っ、持ち主なのに知らないのかよ…」

「よくやった、さくら君!――マリア、立てるか?」

「え、えぇ…」

「さぁ、残るはボク一人だけですわねぇ?」

「〜〜くっそ〜…!」>


気づき、緩んだパイプを外す刹那。水が吹き出し、一気に水位が上がる。

「〜〜しもうた…!!皆、地上に戻るんや!光武に水が入ったら壊れてまう!!」

「ククッ、そうはさせるかぁっ!!」


爪を伸ばしてマリアを掴み、水中に潜って引きずり込む刹那。

「マリア…!!」

「あはははっ、悪いけど、ここで死んでもらうよ!一人でも殺して帰ったら、天海様にごほうびもらえるからね〜!!」


息ができなくなり、溺れるマリア。追おうと光武から降りる大神。

「どうするつもりですか…!?」

「泳いで追いかけるよ!マリアは絶対に俺が助ける…!!」


大神のキネマトロンにあやめから通信。

『〜〜駄目よ、大神君!!この流れの速さでは、あなたまで溺れてしまうわ!!』

「〜〜しかし、マリアを見捨てるなんて、自分にはできません…!」

「フフン、なかなか男らしい台詞ですわね」

「よし、あたいも行くよ!」

「いや、俺一人の方が身動きがとりやすい。君達は先に戻ってるんだ!」

「大神さん…」

「大丈夫だ。水練は士官学校で嫌ってほどしてきたからね…!」


凛々しく微笑み、飛び込む大神。通信が切れ、不安がるあやめと風組。

「大丈夫ですかね、大神さん…?」

「な〜に、心配いらねぇよ。きっとマリアを連れて帰ってくるさ」

「……私はマリアの気持ちもわかります。〜〜もし、何かあったら、残された方にとってみれば…」


拳を握ってうつむくあやめを見つめ、眉を顰める米田。

「大丈夫だ。大神は…俺達が選んだあいつならきっとやってくれるさ…!」

★            ★


泳いで追いかける大神、刹那とマリアを前方に発見。

(〜〜くっ、さすがに息が…。だが…、こんな所で負けてたまるか…っ!!)

マリアに手を伸ばす大神。気配を感じ、意識を取り戻して驚くマリア。

(少尉…!?)

舌打ちしてもう片方の手の爪を伸ばし、大神を攻撃する刹那。よけながら泳ぐ大神の肩に爪がかすり、戦闘服が破けて血が水ににじむ。

(〜〜少尉…っ!!)

ひるまず、マリアを助けようと腕を伸ばす大神。驚き、大神を見つめながら腕を伸ばすマリアだが、気づいて水中から飛び出す刹那。咳き込むマリア。息を切らしながら岩場に上がる大神。

「へ〜ぇ、なかなかやるじゃん。こんなに僕と遊んでくれる人、お兄さんが初めてだよ!」

「フッ、海軍少尉をナメるなよ…っ!?」

「フフン、だけど、ここでおしまいさ。喜んでいいよ?僕の一番のおもちゃにしてやるんだからなぁっ!!」


爪を伸ばして大神を攻撃する刹那。

「うわあああっ!!」

「少尉…っ!!〜〜もうやめて下さい…!私の為に誰かが傷つくのは…、もう見たくないんです…っ!!」

「〜〜俺は死なない…!!大事な君達を残して、隊長の俺が死ぬものか…っ!!」


目を見開くマリア。

「フン、格好つけちゃってさ。でも、このお姉さんはお兄さんのこと、あんまり好きじゃないみたいだよ?」

「〜〜それでも構わない…っ!マリアは…俺の大切な仲間だから…っ!!」

霊力が一気に高まり、体から光を放つ大神。霊力に吹き飛ばされ、マリアを離す刹那。

「〜〜な…っ、何だ…!?うわあああああっ!!」

「マリア…ッ!!」


大神に抱きしめられ、赤くなるマリア。光武のコックピット内のモニターに強力な霊力反応を確認するさくら達。

「〜〜な、何だ、このすっげぇ光は…!?」

「こんな反応、見たことありません…!もしかして、大神さんでしょうか!?」

「しかし、この値…、アイリスさえも上回ってますわ…!もしかして、紅蘭が飲ませた薬の副作用ではなくて…!?」

「せや!薬の成分が一時的に大神はんの霊力を増幅させとるんや!!うお〜っ!災い転じて福となすやな!!時々、自分の才能に怖くなるわ〜!」


マリアの手を引っ張りながら走る大神。

「ハァハァ…、大丈夫か、マリア!?」

「は、はい…」


大神に握られた手を見つめ、赤くなるマリア。追いかけてくる刹那。

「〜〜くっそぉ〜っ、絶対逃がさないからな…っ!!」

「〜〜く…っ、もう来たのか…」

「――ここは私に任せて下さい」


銃を構え、刹那に撃つマリア。ひるみ、足を止めてマリアを睨む刹那。

「すごい…!さすがはマリアだな!」

「…少尉のお陰です。本当は怖かっただけなんです、子供を助けた少尉が傷ついて、そして過去を知られて…、少尉や皆を失ってしまうのではないかと…。ですが、私の杞憂だったようです。大事な人を失う恐怖はもうありません。――大神隊長、あなたには安心して背中を預けられそうです」

「マリア…」

「――隊長、命令をお願いします!」

「よし!刹那を撃破し、必ず本部に帰還するぞ!!」

「了解!」

「〜〜は…はははっ、この僕を倒せるかな〜?――魁!冥府王斬翔!!」


分身の術のように素早い動きで攻撃してくる刹那。よけ、背中あわせになる大神とマリア。

「〜〜く…っ、どれが本物なんだ…!?」

目を閉じて気配を読み、目を開くマリア。

「――そこよ!!スネグーラチカ!!」

氷の精霊が刹那に命中し、凍らせる。

「〜〜そ…、そんな…馬鹿…な…!?」

「今です、隊長!」

「わかった!――狼虎滅却・千変万化!!」

「い、いやだ…、死に…たく――ぎゃああああああ〜っ!!」


氷と共に砕ける刹那の体。副作用が切れて霊力の増幅が消え、倒れる大神を支えるマリア。

「〜〜隊長…っ!」

「はは…っ、初めて隊長って呼んでくれたね」


涙ぐみながら微笑むマリア。

「あ、そうだ…!」

マリアにロケットペンダントを渡す大神。

「これ…、衣裳部屋に落ちてたよ。探してたんだろ?」

「もしかして…、ずっと探しててくれたんですか?」

「あぁ。見つかってよかったよ。…あ、中身は見てないからね?」

「――もう…いいんです」


ロケットの写真のユーリーに微笑み、閉めるマリア。

「え…?」

「…いえ。ありがとうございました、大神隊長。あなたは、私達花組の自慢の隊長です…!」


赤くなりながら微笑むマリア。照れる大神。

「――大神さぁん!マリアさぁん!」

光武から降りて駆け寄ってくるさくら達を迎える大神とマリア。轟雷号。大神とマリアの無事を喜ぶアイリスと風組。安堵し、席に座るあやめ。

「ははっ、やってくれたな、大神の奴」

「えぇ…!2人とも無事で本当によかったです…!」

「――いい勉強になったろ?時には部下に頼り切ってみるんも必要ってこった」

「ふふっ、そうですね。私ももっと彼らを信頼してやらないと…!」


築地の地下水路。喜び合う大神とさくら達。

「――ねぇねぇ、早くいつものやつ、やりましょうよ!」

「そうだよ!やっぱこれがなくっちゃ、終わった気になんねぇからな!」

「では、今回はマリアさん、頼みましたわよ!」

「OK。それじゃあ、いくわよ!せーの…っ、――勝利のポーズ、決めっ!」


マリアを中心にポーズを決める花組。

★            ★


大帝国劇場。開演中の『椿姫の夕』。

「『――アルマン、もし、これからあなたを想う清らかな娘が現れたら、その娘を妻として迎えてあげて…。そして…、これを渡して頂戴…』」

「『これは…、君の宝物のペンダントではないか…!』」

「『えぇ、これは大切な人からの贈り物だと…。このペンダントの持ち主はあなた達を天から見守っていると伝えて頂戴…。さぁ笑って、もう一度私だけの為に…。寂しそうな顔より笑っているあなたの方が素敵だわ…』」

「『マルグリット…。〜〜マルグリットォォォォ…ッ!!』」


息を引き取ったマルグリット役のすみれを抱きしめて泣くアルマン役のマリア。号泣し、拍手する客達。休憩中の楽屋前の廊下で差し入れを運ぶ三人娘。

「はい、どうぞ!マリアさんへのファンレターですよぉ〜!」

「ありがとう。楽屋に置いといてくれる?休憩中に読むの楽しみなのよね」


マリアの笑顔によろめく椿。

「ふぅ…、そろそろ休憩も終わりですわね」

「そうね。じゃあ、午後の部もこの調子で行きましょうか」


準備して舞台に向かうマリアとすみれ。

「はわぁ〜!マリアさん、あれから随分優しくなりましたよねぇ…。ますますファンになっちゃいましたぁ〜!」

「そうね〜。特に…」


大神とすれ違うマリア、赤くなりながら会釈する。微笑み返す大神。

「大神さんに優しくなったわよね〜。何だか恋する乙女って感じ?」

「はわあっ!?〜〜うぅ〜、マリアさんはぜ〜ったいに渡しませ〜んっ!!」

「〜〜そ、そう…。マリアさんもなんだ…」

「あ〜あ、ライバルが増えちゃって大変ね〜、かすみちゃん」

「〜〜うぅ…、だから、違うんだってば…」

「――それでは、これで…」

「あぁ、午後の部も頑張れよ」

「はい、ありがとうございます…!」


歩いていく大神の背中を見つめながらすみれと並んで歩くマリア。

「まったく…。ド素人の少尉に言われずとも、私達ならいつでも完璧に演じきってみせますわよ、ねぇ?」

「そう?でも、隊長に応援されると、元気が出るじゃない」


ロケットペンダントに入れた大神の写真を見つめ、微笑むマリア。小道具の箱を運ぶ廊下を歩く大神。待ち伏せ、大神の額を小突くさくら。

「…え?」

「うふふっ!きゅんってなりましたか?」

「…もしかして、あやめさんの真似かい?」

「真似じゃありませんよぉ。私とあやめさんは似てるんですから!」

「〜〜ゴメン…。意味がよくわからないんだけど…?」

「いいんです!私にも望みはあるってわかったんですから…」

「え?」

「…何でもありません。ほら、舞台の様子、見に行きましょ!あ、そういえばマリアさんが一緒に蒸気テレビジョン見ましょうって言って下さったんですよ!やっぱり、テッタ君は大人気ですね〜!」

「へぇ、テッタ君って毎日やってるんだ?」

「そうなんですよ!月曜日から金曜日まで夕方の5時からですね――」

「――あっ、お兄ちゃん、み〜っけ!」


アイリスに抱きつかれてバランスを崩し、小道具をぶちまける大神。

「あ〜っ!!〜〜まずい…!!」

「だ、大丈夫ですか…!?」


慌てて小道具を拾う大神とさくら。平気で喋るアイリス。

「ね〜ね〜、聞いて!米田のおじちゃんがね、アイリスの光武できたって教えてくれたんだ〜!えへへっ、これで戦いの時も一緒にいられるねっ!」

「〜〜すまない、アイリス。後ででいいかな?今、忙しいんだ」

「え〜っ!?何でぇ〜っ!?」

「えっと…、これで最後ですね?」

「あぁ、ありがとう、さくら君。〜〜あっ、もうこんな時間だ…!早く舞台袖に行かないと…!」

「またすみれさんに怒られちゃいますもんね…!私も手伝いますっ!


急いで走っていく大神とさくら。置いていかれ、ふくれるアイリス。

「あ、お兄ちゃ〜ん…!〜〜んもう、恋人のアイリスをほっとくなんて、どういうつもり〜!?――お兄ちゃ〜ん!!アイリス、怒っちゃうからね〜っ!?」

大神を追いかけて走るアイリスを黒い炎に映す叉丹。

「ほぉ…、素晴らしい霊力の輝きだ。この小娘が奴らの中で最も高い霊力の持ち主か…」

黒い炎にさくらを映し、自分の刀の光刀無形を不気味に見つめ、握る叉丹。

「二剣二刀の一つ、霊剣荒鷹か…。利用する価値は大いにありそうだ…!」

炎を握り潰し、不気味に笑う叉丹。

第3話、終わり

次回予告

やっほ〜、アイリスで〜す!
アイリス、今日で10歳になったんだよ!
これでいつでも結婚できるね〜、お兄ちゃん!
…って、あぁ〜っ、言ってる傍からあやめお姉ちゃんばっかり見てぇ〜っ!!
んもう、アイリスだって子供じゃないもん!
次回、サクラ大戦『一人ぼっちの眠り姫』!太正桜に浪漫の嵐!
構ってくれなきゃ、アイリス、寂しいよ…。


第4話へ

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