★3−3★



大神の部屋にいるマリア以外の花組。大神に抱きついて泣くアイリス。

「あ〜ん、よかったぁ〜!アイリス、すっごく心配したんだからね!?」

「はは、ごめんな、アイリス。もう大丈夫だよ」

「しっかし、大したもんだぜ!体を張っていたいけな子供を守るとは、さすが隊長だな!」

「あの子も無事親御はんの元に帰れたし、めでたしめでたしやな!」

「えへへっ、格好良かったよ〜、お兄ちゃんっ!」

「そうか。よかった…〜〜う…っ!」

「まだ痛みますか…!?」

「あぁ…。平気だよ、これぐらい」

「無理して悪化でもされたら、こちらが迷惑ですわ。今日はゆっくり休んで下さいまし。代わりのもぎりは、さくらさんがやるそうですから」

「あ、はい!真宮寺さくら、粉骨砕身の覚悟でもぎって参りますっ!!」


元気に飛び出していくさくら。

「さくらぁ!まだ開演時間じゃないってばぁ〜!」

「…う〜む、突然のフリでもあれだけボケられるなんて、天才やで」

「……ごめん。色々と迷惑かけてるみたいだね…」

「そんなの気にすんなって!あ、腹減ってるだろ?何か作ってきてやるよ」

「あぁ、ありがとう、カンナ」


ウインクし、出ていくカンナ。大神にキネマトロンを渡す紅蘭。

「あ〜、せや!お見舞いの品っちゅうわけやないけど、これ渡しとくわ」

「何だい、これは?」

「これぞ世紀の大発明、その名も『キネマトロン』や!うちが花やしき支部におった頃に開発した奴を改良したもんなんやけどな。ほれ、ここのボタンを押して電源を入れるやろ?ほんで、話したい人の名前を選ぶと…」


アイリスのキネマトロンが鳴り、応答するアイリスが画面に映る。

「『やっほ〜!アイリスで〜す!!』」

「わっ!画面に映った…!!」

「へっへ〜ん、すごいやろ!?これさえあれば、離れていてもちゃんと互いの顔を見て話ができるんや。いわば、持ち運びできるテレビジョン電話みたいなもんやな」

「へぇ、すごいな…!ありがたく使わせてもらうよ」

「うちら花組とあやめはん、あと銀座本部と念の為、花やしき支部の番号も登録しといたさかい。これでどんな緊急時でも安心やで!」

「退屈でしたら、私のところに通信してきてもよろしくてよ。…その前に爆発しなければの話ですが」

「〜〜爆発なんてせぇへん!!んもう、失礼なやっちゃなぁ…!」

「お兄ちゃん、アイリスにもいっぱい通信してね!約束だよっ!」

「あぁ、約束するよ」


大神と指切りし、ナース姿のジャンポールと共にベッドに上るアイリス。

「えへへっ、わ〜い、わ〜い!お礼にジャンポールがお兄ちゃんを診てあげるって〜!どこか痛いところはありませんか〜?」

「ハハハ…、ありがとう、ジャンポール。今はどこも痛くないよ」

「せやけど、まだ無理したらあかんで?ほれ、この薬飲んでゆっくり寝ててぇな!」


『なお〜るくん2号』と書かれた薬の赤い袋を渡す紅蘭。

「2号…!?〜〜1号はどうなったんだ…?」

「あ〜、大丈夫や。2号は改良されとるはずやさかい」

「〜〜はずって…。…何だか、いかにも怪しそうな薬ですわね」

「大丈夫やて!まぁ、多少の副作用はあるはずやけど、一度飲めばたちまち傷が治ってしまうんやで!」


一気に無理矢理大神に飲ませる紅蘭。

「〜〜ぐ…っ!!苦い…、水…っ!」

「我慢しなはれ。良薬は口に苦しって言うやろ?」

「そ、そうは言うけど…。あれ…?でも、何だか効きそうだな…」

「ホンマか!?ひゃ〜、よかったわ〜!人に使うんは、これが初めてやったさかい。ほんまはちぃと心配やったんやけどな」

「〜〜今、何て…?」

「せやから〜、『ほんまはちぃと』…」

「〜〜いや、その前!」

「う〜んと…、あ、『人に使うんはこれが初めてやさかい』?」

「〜〜ひ、人に使うのが…かい?」

「だ〜い丈夫やて!犬や猫に飲ませても死にゃせんかったし!」

「おっほほほ…!まぁ〜、それはそれは安心ですわねぇ」

「よかったね〜、お兄ちゃん!」

「〜〜どこがだよぉっ!?〜〜うぅ…、聞かなければよかった…」


笑って楽しく喋る大神達をドアから覗き、静かに立ち去るマリア。

★            ★


「〜〜だるい…。怪我だけなのに何で…?……もしかして副作用か…?」

疲れ、ベッドに横になる大神。1階から客で賑う声が聞こえてくる。

(――今日もお客さん、いっぱい入ってくれてるんだなぁ…。皆、一生懸命頑張ってるもんな…。早く治して手伝わなくちゃ…。……そういえばマリア、ペンダント見つかったのかな…?元気になったら、一緒に探してやろう……)

眠る大神。静かにドアを開け、様子を見る三人娘。

「あら〜、寝ちゃってますねぇ…。残念」

「寝顔も可愛い…」

「ふっふっふ、かすみちゃ〜ん?や〜っぱり――」

「〜〜ほ…っ、ほら、起こしたら悪いわ。早く戻りましょ…!」


慌てて閉めるかすみをひやかす由里と椿。寝苦しく寝がえりを打つ大神。

(〜〜うぅ…。痛みは引いてきたけど…、かなり…眠い……)

眠る大神の額に手の平が乗る。

(――冷たくて気持ちいい…。誰のだろう…?)

薄ら目を開ける大神、手の平を乗せているマリアを見て飛び起きる。

「…え?〜〜マ…ッ、マリア…!?」

「…私が来たのが意外でしたか?」

「〜〜あ…、そ、そんなことはないけど…」

「……どうして…、かばったんですか?」

「え?」

「何故あの時、子供をかばったりしたんですか?」

「何故って…、そんなの当たり前だろう?市民を守るのが俺達の仕事だ」

「…命がけで守ることがですか?」

「そうだ。俺達は常に命がけで帝都を守らなくてはいけないからね」

「…では、仮に子供をかばった少尉が死んで、子供の方が助かったとしましょう。市民一人の命と引き換えに隊長のあなたが死んだとしても、あなたは正しいことをしたと言い切れますか?」

「あぁ、言い切れるよ」

「…話になりませんね。確かに子供を自分の命と引き換えに守った少尉は英雄として褒め称えられるでしょうね。ですが、残された私達はどうなるのです?せっかくあなたを中心に絆とやらが芽生えつつあったのに、また一からやり直しですよ?」

「〜〜そ、それは…」

「そんな無責任なことを言っているようでは、隊長という職務は全うできませんよ?」

「隊長に必要なのは強さだけじゃない、思いやりの心も大事だと思うよ?市民一人の命も救えないようでは、帝都を守るなんて不可能だからね」

『――仲間の命も救えないような奴に、革命軍の隊長を名乗る資格はないからな…!!』


ユーリーの言葉を回想し、拳を握るマリア。

「〜〜そんなことではいずれ…、同じ運命を辿ることになるんです…」

「え…?」

「〜〜そんな甘ったれた考えのままでは、今後の戦いには勝てないと言ってるんです…!!――あなたは、隊長失格です…!!」


目を見開く大神。ため息つき、出ていくマリア。

「…私とあなたとでは、根本的に考え方が違うようです。今のあなたを補佐するなんて私にはできません。副隊長を辞めさせて頂きます…!」

「え…!?ちょ…っ、マリア…!?」


追いかけようと部屋を飛び出すが、廊下でふらついて倒れる大神。

「〜〜だめだ…、まだ…体…が――!」

屋根裏部屋の隙間の奥で光るものを見つける大神、這いながら近づく。マリアのロケットペンダントを発見。

「あ…った……!」

ペンダントを握り、意識を失う大神。

★            ★


テラス。夜景を寂しく見つめるマリア。

(――そうよ…。今までずっと私は一人で行動してきた。〜〜そもそもここに何を期待しに来たの?私には仲間なんて必要なかったはずなのに…)

『――そうだよね〜、クワッサリー』


刹那の声が頭の中で響き、辺りを見回すマリア。

『君は一人でも十分強いよ。そうやってさ、今までいろんな人を殺してきたんでしょ、死んだ隊長の仇を取る為にさ…?』

「〜〜何故そのことを…!?」

『言ったでしょ?僕は人の心が読めるんだ。今さら君が何でクワッサリーって呼ばれるのを怖がってるのかもね…!』

「〜〜貴様…っ!!」

『あはははっ!そんなに過去をあいつらに知られるのが怖いんだぁ?』

「〜〜黙れっ!!どこにいるの…!?姿を見せなさいっ!!」

『へ〜ぇ、僕を殺したいんだ?じゃあ今から…、そうだな、この前の築地の港においでよ。1対1でちゃ〜んとケリつけようじゃんか』

「――望むところだわ…!」


銃を構え、鋭い目を上げるマリア。

★            ★


大神の部屋の前。辺りを確認して様子を見るさくら。あやめはいない。

「よし、リベンジ成功だわ!」

入ろうとするさくら。あやめが大神に肩を貸しながら歩いてくる。

「もう…、ちゃんと寝てなきゃ駄目じゃないの」

「〜〜す…、すみません…」


慌てて柱の陰に隠れ、様子を見るさくら。

「ほら、着いたわ。入るわよ?よいしょ…っと」

大神の部屋のドアを開け、大神をベッドに横たわらせるあやめ。

「どう?いくらか楽になった?」

「はい…。ありがとうございました…」

「廊下で倒れてるのが見えてびっくりしたわ…。こっちまで卒倒するかと思っちゃった」

「はは…、本当にご迷惑をおかけしました…」

「ふふっ、いいわ。理由は大体察しがついてるもの」


大神が手に握るマリアのペンダントを見て微笑み、頭をなでるあやめ。

「まぁ、すごい汗…。着替えなきゃ風邪引いちゃうわ…!」

「〜〜いいっ!?い…っ、いいですよ!!自分でできますから…っ!!」

「ダ〜メ。ほら、ジタバタしない!ボタン外すわよ?」

「〜〜うわあああっ!!ちょ…っ、あやめさああんっ!!」


無理矢理大神を着替えさせるあやめ。隠れながら大神とあやめを見てムカつくさくら、触っていた柱にヒビが入る。

★            ★


支配人室。煎餅をやけ食いするさくらを見ながら酒を飲む米田。

「〜〜まったく…!日本男児がだらしないったらありゃしませんっ!!」

「ハハハ…、そうかそうか。ま、大神もまだ就任して日が浅いんだ。不安で誰かに頼りたいんだろ。少しぐらいは大目に見てやってくんな」

「〜〜嫌ですっ!!大神さん…、あやめさんの前では私に見せないような顔をするんです…。〜〜不安になっちゃうんです…。やっぱり大神さんは、あやめさんに…その…、恋…してるのかなって…」

「ふふ…、恋ねぇ…。お前さんもそういうこと考える年頃になったか…」


煎餅を食べ続けるさくらを見て微笑む米田。

「――ハハ…、お前を見てると、昔のあやめ君を思い出すなぁ」

「え…っ!?わ、私があやめさんに…ですか?」

「あぁ。健気で可哀相なぐらいにまっすぐ、何の汚れも知らない心を持った新米隊員。どんなに苦しい戦況でも『何とかなります!』っていっつも笑顔で張り切ってよぉ。そんで、よく失敗しては部屋にこもって泣いてた…。今は落ち着いてるがな、昔は空回りする程の元気娘だったもんさ」

「あやめさんがですか…?何だか…少し信じられないです…」

「あやめ君がああまで変わったのは、あいつらを失ってからだ。お前の父ちゃんともう一人、山崎少佐…。皆、同じ対降魔部隊、たった4人の部隊に所属してたんだ。覚えてねぇか?お前も何度か会ったことあるんだぞ」

「えっ、そうなんですか?〜〜う〜ん、覚えてるようないないような…」

「ハハハ…、まだこんなに小せぇ頃だったからな、無理もねぇか…。――あやめ君はな、4人で守ってきた帝都の平和の為に帝撃ができる前も、もちろん今もそりゃあ一生懸命頑張ってくれてるんだ。…だが、あの頃はあまりに純粋無垢だったんだ。いくら首席で士官学校を卒業したとしても、所詮は16歳の箱入り娘…。……世の中を知らなすぎたんだ…」

「支配人…?」

「…いや、こっちの話だよ。ま、要するにだ。お前もこれから精進すれば、あやめ君みたくなれるってこった」

「そっか…!そうですよね!やったぁ!私、あやめさんみたいな女性になれるよう、頑張ります!!――そうすれば、きっと大神さんも…、きゃっ!」

「ハハハ…!あんまり張り切りすぎて、無茶すんなよ?無理に背伸びしなくとも、お前はお前のままが一番だからな」

「支配人…。ありがとうございます…!ふふっ、何だかお父様とお話ししてるみたい…」


微笑むさくらを目を細めて見る米田。回想。雨の中で対峙する米田と一馬。

『……私にもしものことがあったら、さくらをお願いします』

一馬に掴みかかる米田。

『〜〜バッカ野郎!!お前一人が命を捨てる必要はねぇんだ!!いいか!?破邪の力を使うのだけは、俺が絶対に許さねぇ!!わかったな…っ!?』

寂しそうに笑う一馬。回想終了。煎餅を食べながら、ゴキゲンでお茶を飲むさくら。

(――安心しろ、一馬。さくらはあの頃のまま素直にまっすぐ育ってるぜ。…俺は誓ったんだ、さくらにお前と同じ運命を辿らせはしねぇ。〜〜絶対にだ…!)

一馬に抱きつく幼いさくらを目を細めながら回想し、酒を飲む米田。

★            ★


「――はい、終わり!」

真っ赤になりながら大の字でベッドに寝て、新しいパジャマに着替え終わる大神。鼻歌混じりに大神の着ていた服をたたむあやめ。

「〜〜あやめさんは…、その…こういうこと平気でできる方なんですか?」

「だって、部下の面倒を見るのが私の仕事ですもの。…変かしら?」

「いや…、その…。〜〜いっ、一応俺も男ですから…」

「ふふっ、そういえばそうだったわね」

「〜〜そういえばって…。……何気に傷つくな…」

「ふふっ、ごめんなさい。小さい頃、よく妹の世話をしてたからかな?……よくお節介って言われちゃうのよね…」

「そ、そんな、お節介だなんて…!そういう細かい気配りとか、俺ならやってやろうと思っても、いざって時は気づかないと思いますし…。〜〜ハァ…、そう考えると、俺ってやっぱり駄目な隊長なんだなぁ…」

「…マリアに何か言われたの?」

「……子供が助かった代わりに俺が死んだらどう責任を取るつもりだったんだ、残された私達のことは考えなかったのかって…。そんな甘ったれた考えでは戦いには勝てない。〜〜俺は…、隊長失格だって…」

「そんなことないわよ。まだ一人前とは言えないけど、あなたはよく頑張ってくれてるわ」

「ありがとうございます…。でも、マリアの言うことも一理ありますから…。〜〜はは…、ショックだな。隊長は隊員に信頼されてこそなのに…」

「こぉら、弱気になったら駄目でしょ?」


大神の額を小突くあやめ。

「マリアの戦場での判断力は、隊員の中でもずば抜けてるわ。あの娘はね、あなたが来る前から他の娘にも厳しかったの。陣形が少しズレてるとか…、そういうちょっとしたミスにもよ?隊長という責任が重かったからなのか、それとも他の気持ちがあったからなのかは本人に聞かなればわからないけど、自分自身にはその何倍も厳しくてね…。単にマリアに認められたいだけなら、隊長としてのスキルを上げればいいわ。でも、それだけじゃ駄目ってことは、わかるわよね?」

「はい。俺、自分のしたことが間違いだったと思いたくありません。本当に帝都を守りたいなら、損得を頭で考えるよりまず行動に移すべきかと…」

「そうね。でもね大神君、これだけはわかって。マリアは本当にあなたを嫌っているわけではないの。少し戸惑ってるだけなのよ、亡くなった隊長とあなたが重なって見えてね…」

「え…?」

「ふふっ、これ以上喋ったらマリアに怒られちゃうわね。――包帯取り替えましょうか?さ、もう一度脱いで」

「〜〜いいっ!?ま、またですか…!?っていうか、着替えてる途中でやるべきだったんじゃ…!?」

「いいじゃないの。部屋暖かいんだから、風邪なんか引かないわよ」

「〜〜そ、そういう問題では…って、うわああ〜っ!!」

「〜〜大変や、大神はん!!マリアはんが――!!」


慌てて大神の部屋に入ってきた紅蘭、上半身裸の大神とベッドに座るあやめに一瞬沈黙し、冷静にドアを閉めて笑う。

「な〜んや、お二人はん。最中は鍵かけとかなあかんで〜?」

「〜〜ちっ、違うって…!!」

「マリアがどうかしたの?」

「あ、せや!〜〜何や知らんけど、いきなり光武に乗って、飛び出していってしもうたんや…!」

「〜〜何だって…!?」


★            ★


築地。光武に乗って港を見回すマリア。

「〜〜どこにいるの、刹那!?おとなしく出てきなさい!!」

「へ〜ぇ、本当に一人で来たんだ。偉い、偉い!」


座っていた屋根から着地する刹那。銃を構えるマリア。

「お前達のアジトはどこ!?案内してもらうわよ…!」

「あはははっ、そんなに急がないでよ。望み通り連れてってあげるからさ」


マリアに近づき、囲む脇侍達。

「〜〜しまった…!」

「脇侍の気配にも気づかないなんてねぇ。よっぽど動揺してるんだね。あははっ、僕があのこと隊長さん達に喋ったら、もっと面白くなるかな〜?」

「〜〜やめろ…っ!!」


刹那に銃を放つマリア。素早くよけ、マリアの目の前で笑う刹那。

「ふいうちなんて許さないよ?お前は、今日から僕のおもちゃになるんだから!」

(〜〜まず…い…。瞼が…重…く……)


刹那から目を離せなくなり、催眠術をかけられて眠り、銃を落とすマリア。

「あははっ、僕に逆らおうとするからさ!――さ〜て、どんなことして遊んでくれるのかな〜。くくくっ、楽しみ〜!」

光武から降ろされ、地面に放り出されて眠るマリア。

★            ★


作戦指令室。戦闘服で集まる花組、軍服の米田とあやめ。

「――『火喰い鳥』…?」

「えぇ。それをモスクワ語で『クワッサリー』。ロシア革命時のマリアのコードネームよ」

「な〜んだ。鍬で耕す小作人じゃなかったのか」

「〜〜この真面目な話の時に…。少し黙ってて下さる!?」

「あの…、ロシア革命って何なんですか?」

「日露戦争の苦戦で生活が苦しくなった庶民達が封建的な社会を改めようと起こした社会主義革命よ。庶民だけでなく、一部の軍人も革命に加担したと言われているわ。佐官クラスの軍人が多く所属していた第一部隊にマリアはいたの。12歳という最年少ながらね」

「わぁ〜、アイリスとあんまり変わらないよ?」

「そんなに小さくて精鋭部隊にいたとはなぁ。さすがはマリアはんやで!」

「最初からマリアは銃の名手だったわけではないわ。マリアに銃の扱いを教えたのは、同じ第一部隊のユーリー隊長。外交官だったマリアのお父様と親交が深かったと聞いているわ。だけど、バレンチーノフ少佐の裏切りに遭った第一部隊は危機に陥り、ユーリー隊長は部隊の皆を守る為、囮となって一人犠牲となってしまった…。最も信頼し、慕っていた隊長を失ったショックからマリアは人間の心を捨てたわ。非道に人を殺し、戦場を駆け巡る姿から『火喰い鳥』として恐れられ、革命を成功させたわ。そして、仇だったバレンチーノフ少佐も殺した…。でも、マリアの心は報われなかったの…。革命後、アメリカに亡命したマリアは、私と会うまで殺し屋稼業をしていたわ。人の命を何とも思わない冷酷非道な悪魔だったあの娘は、笑うことすらも忘れてしまった人形だった…」

「〜〜そっか…。マリアは、ユーリー隊長のことをそんなに…」

「えぇ。きっと隊長という責任を重く考えすぎるのもそのせいだと思うわ。あの時も、きっと子供をかばった大神君が目の前で死ぬのが怖かったのよ、ユーリー隊長と同じような形で大切な仲間を失ってしまうことが…」

『〜〜そんなことではいずれ…、同じ運命を辿ることになるんです…』


マリアの悲痛な顔を回想し、組んだ手を強く握る大神。

「マリアはね、自分でも気づかないうちにあなた達を信頼してきているのだと思うの。だから、クワッサリーと呼ばれた過去を知られてしまう恐怖もあったんじゃないかしら。自分が人殺しと知ったあなた達が離れていくのを恐れて…」

「馬鹿だなぁ。それぐらいで、あたい達の絆は壊れないっつーんだ、な!」

「そうですよ!昔のことなんて関係ありません。人間、誰だって知られたくないことはあるんですし…!」

「せや。大事なんは今、そして、これからや!」

「えへっ!アイリスもマリアのこと、だ〜い好きだもんっ!」


微笑み合うあやめと米田。風組が操作するモニターの地図に反応。

「司令!深川B地点にマリアさんの光武を発見しました!」

「よし…!マリアは乗ってるか?」

「〜〜いえ、無人状態のようです…」

「ほんなら、マリアはんのキネマトロンの電波から現在位置を割り出せまへんか?」

「やってみます…!」


機械を操作する風組。E地点が赤く点滅。

「やったぁ…!――マリアさんの位置、確認できましたぁ!」

「深川のE地点…、地下水路のようです!」

「よっしゃ!おおきに、風組はん!!――大神はん、これでマリアはんを助けられるでぇ!」

「よし、早速助けに行こう!」

「まぁ、マリアさんがいなくなっては、舞台が続けられなくなってしまいますしねぇ。仕方ありませんから、私も手伝って差し上げますわ」

「マリアの光武は我々の方で回収しておく。――大神、出撃命令を頼む!」

「――帝国華撃団、出撃せよ!一刻も早くマリアを救出するんだ!!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


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