★3−2★



植え込みをかき分け、必死にペンダントを探すマリア。

「〜〜ない…!どこ…!?どこにあるの…!?」

懐中電灯を持ち、マリアを見つける見回り中の大神。

「マリア…?どうしたんだい、こんな時間に…?探し物か?」

「…少尉には関係のないことです。私に構わず、見回りを続けて下さい」

「でも、もう真夜中だぞ?こんな時間に探してるってことは、よほど大事な物なんだろ?」

「……」

「俺も手伝うよ。何を探してるんだい?」

「……ロケットペンダントです、銀色の…」

「わかった。最後にどこで見たか覚えてないかい?」

「……いえ。食堂で夕食を取った時は、確かにあったのですが…」

「そうか…。じゃあ、俺は食堂の方を見てくるよ。あ、懐中電灯貸そうか?」

「あの…」

「ん?」

「…何故、手伝って下さるのですか?」

「だって、君は俺の大事な仲間じゃないか。それにさ、もし仲間じゃなかったとしても、困ってる人を見かけたら放っとけないだろ?」

「…なるほど。そうやって他の娘もたぶらかしてるわけですね?」

「え?」

「『俺の大事な』なんて、軽々しく口にするべきではないと思います。そうやって甘い言葉で誘えば、女が誰でも寄ってくると思ってるんですか?」

「そんな…。俺はただ――」

「隊長に任命されたからといって、いい気にならないで下さい。隊長という立場と責任がどれほど重いものか…、あなたは全くわかっていません」

「マリア…」


警報が鳴り、顔を上げる大神とマリア。

『緊急警報、緊急警報!築地に魔装機兵が出現!至急、作戦指令室に集合して下さい!!』

「現れたか…!――行くぞ、マリア!」

「…言われなくても、わかってます」


クールにあしらい、先に行くマリア。困り、追う大神。ダストシュートに飛び込み、戦闘服になり、横に並ぶ大神とさくら達。

「大神少尉以下、花組全員集合しました!」

「うむ、迅速で何よりだ。現在、築地に魔装機兵が現れて破壊活動を行っている。直ちに現場に急行し、全滅させてくれ!」

「夜遅くで大変だろうけど、しっかり頑張ってね!」

「了解しました!」

「よし、出撃命令を頼む!」

「了解!帝国華撃団、出撃せよ!魔操機兵を撃破し、築地を守るんだ!!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」

「りょ〜かぁい!」


流れで自分も行こうとするアイリスを止める米田。

「おっとっと、お前さんはお留守番だ」

「〜〜ちぇ〜、バレないと思ったのにぃ…」


光武に搭乗する花組を轟雷号に収め、機械を動かして発車させる風組。

「光武、全機起動、確認!」

「光武、搭乗、確認!竜の方角にセット完了!」

「――轟雷号、発車!!」


★            ★


築地。暴れる脇侍達に逃げる人々。燃える倉庫の上から見下ろす刹那。

「あっはははは…!弱い奴らはみ〜んな殺しちゃえ!!燃やしちゃえ〜っ!!」

「――そこまでよ!!」


轟雷号から飛び降りる花組の光武。

「帝国華撃団、参上!」

「は〜、やっと来たぁ。もう待ちくたびれちゃったよ。でも、その分、い〜っぱい遊んでくれるんでしょ?」

「おいおい、あんな子供が今回の親玉かよ…?」

「〜〜むぅ〜、子供って言うなっ!べ〜だっ!!」

「ホホホ…、うちの部隊にも似たような娘がおりますわねぇ?」

『〜〜むぅ〜、アイリス、あんなんじゃないもんっ!べ〜だっ!!』


通信カメラの前であっかんべーするアイリス。

「あはは…!コンビにしたら、ええ漫才ができそうやなぁ」

『皆、子供だからって油断しちゃ駄目よ。今、あの子からすさまじい妖力反応を感知しているわ…!』

「フフン、ビビっただろ?僕は蒼き刹那。そこらへんのガキと一緒にすんなよな!――やっちゃえ、脇侍〜っ!!」


脇侍達を操る刹那。襲ってくる脇侍達と戦う花組。

「行きます!破邪剣征・桜花放神!!」

「狼虎滅却・快刀乱麻!!」

「行くで〜っ!チビロボ軍団、発射〜っ!!」


脇侍達を倒していく大神、さくら、紅蘭。

「生意気なガキんちょにはおしおきが必要ですわ!!神崎風塵流・胡蝶の舞!!」

周囲の脇侍達を燃やすすみれ。

「フン、ちょろいもんですわ――!!」

目の前に飛び出して攻撃してくる脇侍の刀を受け止め、倒すカンナ。

「へへっ、油断すんなって言われただろうが?」

「〜〜フン!余計なことを…」

「何だとぉっ!?助けてもらってその態度は何だよっ!?」

「あなたなんかに助けられるなんて、神崎すみれ、一生の不覚ですわ!!」

「〜〜二人ともっ!今は戦闘中だぞ!?」


慌てる大神を冷たく見つめるマリアのコックピットに刹那の声が響く。

『――本当は怖いんだろう、クワッサリー?』

「…!?」

『あはははっ、隠そうったって無駄さ!僕には人の心が読めるんだよ。ねぇ、正直に言いなよ。大事な奴がまた目の前で殺されるのが怖いんだろ?』

「――!!〜〜黙れぇっ!!」


銃を乱射するマリア。瞬間移動する刹那。慌ててよけるすみれとカンナ。

「〜〜おわっと…!!」

「〜〜ちょいと、マリアさんっ!?どこを狙ってますの!?」

『あははははっ!!ほ〜んと、どこを狙ってるのかな?僕はこっちだよ』


コックピット内のマリアの背後に現れる刹那。振り向き、銃を撃つマリア。瞬間移動する刹那。弾が当たりそうになるさくら、大神、紅蘭。

「きゃあっ!?」

「〜〜ど、どないしたんや、マリアはん…!?」


マリアの様子に気づき、通信で呼び掛けるあやめ。

「〜〜マリア、心を無にしなさい!!そいつは、人の心の闇につけいる能力を持ってるわ…!!」

『フフン、もう遅いよ。――ねぇ、あの時の出来事、今の隊長さんで再現してあげよっか?』

「――!!」


大神を見て、笑う刹那。攻撃するが当たらず、刹那の姿を探す大神達。

「〜〜くそ…っ、敵の動きが素早すぎて…」

『へぇ〜、嫌なんだ?それって、あのことを思い出しちゃうから?…それともお姉さん、今の隊長さんのことが――』

「〜〜黙れぇっ!!スネグーラチカ!!」


青ざめながら氷の精霊を放つマリア。瞬間移動する刹那。技を放った場所に子供が飛び出し、転ぶ。

「〜〜大変!子供が…っ!!」

「あはははっ!!ラッキー!」

「危ない…っ!! 〜〜うわあああああっ!!」


子供をかばい、攻撃を受けて飛ばされる大神に目を見開くマリア、死んだユーリーを思い出し、銃を落とす。

「〜〜大神さぁんっ!!」

『あははっ、まさか自分の攻撃で隊長さんを傷つけちゃうとはね。――どう、クワッサリー?ちゃんと思い出せた?』

「〜〜や…めて…、もう……」


頭を押さえ、うずくまるマリア。

「マリアさん…!?大丈夫ですか!?」

「あ〜あ、お兄さん、動かなくなっちゃった。もしかして、死んじゃったのかな〜?」

「〜〜てんめぇ…っ!!」


カンナの拳をよけ、倉庫の屋根に座る刹那、動揺するマリアを見て笑う。

「次はもっとイジめてあげるよ。――楽しみにしててね、クワッサリー」

瞬間移動する刹那。

「クワッサリー…って何やろ?」

「それより、隊長を運ぼう!――おい、すみれ、手伝え!」

「まったく、何で私が力仕事など…」


大神に肩を貸して轟雷号まで運ぶすみれとカンナ。大神を心配に見る子供。

「よかった…。あの子、無事だったんですね…!」

黙って子供と大神を見つめ、拳を握るマリア。

★            ★


医務室。手当てを受け、医療ポッドで眠る大神を囲む花組。

「〜〜うえ〜ん、お兄ちゃああ〜ん!!死んじゃやだよぉ〜っ!!」

「大丈夫だよ、アイリス。あたい達の隊長があれ位で死ぬわけねぇだろ?」

「……ごめんなさい、私のせいで…」

「マリアも気にすんなって!あいつ、すばしっこかったから仕方ねぇよ」

「それにしても、何故あそこで子供が飛び出してきましたの?――風組!ちゃんと避難誘導を行って頂かないと困りますわっ!!」

「〜〜すみませぇん…」

「私も注意が足らなかったわ…。きっと、両親とはぐれて避難経路から飛び出してしまったのよ…」

「まぁ、あの子は無事やったんやし、もうええやないの。――う〜ん、それにしても、クワッサリーかぁ…」

「一体どういう意味なんでしょう…?」

「聞いた感じやとモスクワ語っぽいんやけど…。――マリアはん、どういう意味か知ってます?」

「……いえ、知らないわ」


暗いマリアを伏せ目がちに見つめるあやめ。

「そうかぁ…。マリアはんでもわからん言葉やなんてなぁ…」

「『クワッサリー、畑で耕すのはくわっさりー』。あはは、なんちって」

「フン、筋肉馬鹿」

「〜〜んだとぉっ!?」

「コラ!怪我人が眠ってるのよ?静かにしなさい!」


つんとし合うすみれとカンナ。

「…皆、疲れたでしょ?明日の公演も残ってるんだし、早く休みなさいな」

「え〜っ!?アイリス、眠くな〜い!」

「ふふっ、じゃあ、絵本を読んであげるから、ね?もうおやすみしましょ?」

「わ〜いっ!ありがと〜、あやめお姉ちゃん!」


眠る大神を黙って見つめるマリア。

★            ★


地下の射撃場。心臓を大きく外れて命中する銃弾。

(〜〜銃の腕が落ちた…。私に人間らしい心が戻ってきたから…?)

廊下でペンダントを探すマリア。道着を背負って鼻歌交じりに階段を下りてくるカンナ、マリアを見つける。

「お、何してるんだ?」

「…何でもないの」

「水臭いなぁ。困ってることがあるんなら言ってくれよ、な!」


肩に手を回すカンナの手を払うマリア。驚くカンナ。

「…私のことは気にしないで。それより、早く鍛練に行ってきたら?」

「そう言われると、余計探りたくなっちまうんだよな〜!ハハ、人間のサガだよなぁ〜。ほれ、さっさと言わねぇと、こちょこちょの刑だぞ〜!」

「…どうして?」

「へ?」

「〜〜仲間だからって何でも隠さずに言えって誰が決めたのよ!?誰にだって知られたくない秘密はあるでしょう!?それとも、ここではプライバシーも何も尊重されないわけ…っ!?」

「マ…、マリア…?」

「〜〜あ…、ごめんなさい…。きっと疲れてるんだわ…」

「…いや、あたいも悪かったよ、土足で人の心踏みにじろうとしちゃってさ。…でも、あたいら2人は華撃団の初期メンバーだろ?だからさ、あたいには遠慮なく何でも話してほしいんだ。〜〜あ…、いや、話したくないんなら無理にとは言わねぇけどさ…。……そうやって未だに自分の殻に閉じこもろうとしてるマリアを見てると、何だかショックでさ…」

「……」

「あたいは…ほら、頭悪くて鈍感だからさ、ちゃんと言葉で言ってくんなきゃわかんねぇんだよ。せっかく縁あって一つ屋根の下で暮らしてるんだ。もっと仲良くやっていこうぜ?」

「カンナ…。〜〜ごめん、私…」

「謝るくらいだったら、もっと素直になれって!いいか?明日もそんな暗い顔してたら、一生口きいてやんねぇからなっ!?…そんじゃ、おやすみ〜!」


背中を向けながら手を振るカンナを見つめ、微笑むマリア。

(――カンナは、いつもああやって私達を励ましてくれる。…そういえば、ここで出会ってからずっとそうだった。最初は、うっとうしくて仕方なかった。…でも、今は?カンナに…皆に優しくされるのって、こんなに心地良かった…?)

懐中電灯を持って見回りするマリア。舞台。曲をかけ、ダンスの特訓をするさくら。腰につけた一馬のお守りの鈴が鳴る。回想。桜の木の下で剣の稽古をする幼いさくら。歩み寄る一馬。

『あっ、お父様ぁ〜!』

若いあやめ、山崎、米田も来る。顔はぼやけ。喜び、一馬に抱きつくさくら。桜の木の下であやめの隣に座り、元気に話すさくら。

『さくらもお姉ちゃんみたいになりたいなぁ!そんでね、悪い奴らをどんどんやっつけるの!えへへっ、格好良いでしょ〜!?』

微笑み、さくらの頭をなでるあやめ、隣に来た山崎の肩に寄り添う。ピンクと青の色違いのお守りが2人の胸元で揺れる。回想終了。顔を洗ってタオルで拭くさくら、鏡を見つめる。

(――私…、あの時のお姉ちゃんに近づけてるかな…?……もう一度会いたいなぁ、桜の木のお姉ちゃんに…)

腰のお守りを見つめるさくらを見回りに来たマリアが見つけ、覗く。

「あ、マリアさん…!」

音楽を止め、舞台から降りて駆け寄るさくら。

「〜〜ごめんなさい、気がつかなくて…!見回りですか?」

「…えぇ、まぁね」

「そうですか!うふふっ、副隊長さんがしっかりしてるから、大神さんも安心してお休みできますね!」

「……まだ寝てなかったの?」

「はい!少しでも早く皆さんのレベルに追いつきたくて…。大神さんが励ましてくれたんです、私は私らしく前を向いて進んでいけばいいんだって。何だか大神さんに言われると、不思議と力がわいてくるっていうか…。えへへっ、何ででしょうね?でも、大神さんのような優しい方が隊長さんで来てくれてよかったですよね!」


ムッとなり、黙って立ち去るマリア。

「あれ…?マリアさ〜ん?」

(〜〜皆、どうかしてるわ…。この前の戦いだって、私達隊員の実力で勝てたようなもの。決して無駄な指揮ばかりするあいつの手柄なんかじゃない…。……そうよ…、私が隊長と認める人は、たった一人だけ…)


テラスの窓から吹き込む風でマリアの服がなびく。夜景を見つめるマリア。

(――でも、不思議…。銀座の夜景って前からこんなに綺麗だった…?)

★            ★


舞台。大の字で休んでいたさくら、頭をくしゃくしゃしながら飛び起きる。

「〜〜うぅ〜、集中できな〜い!!…大神さん、大丈夫かしら?まさか寝ている間に状態が悪化していて、朝にはもう手遅れなんて…。〜〜大変…っ!!」

慌てて廊下を走り、大神の部屋に入ろうとしてためらうさくら。あやめが大神に付き添い、看病している。

(――あやめさん…?)

さくらに気づき、微笑むあやめ。

「あら、あなたもお見舞い?こっちへいらっしゃいな」

「〜〜あ、あの…。……失礼します…」

「あら、ふふっ、稽古着のまま来ちゃったの?」

「あ…、〜〜す、すみません…っ!どうしても大神さんの様子が気になって…。〜〜寝ている間に死んじゃったらどうしようって考えるだけで私…」

「ふふっ、そう。さくらは優しいのね。でも、大丈夫よ、今は眠ってるだけだから。でも、あなたの声と気持ちはきっと届いてるわ」

「ほ、本当ですか…?」

「もちろん。大神君もいつも隊長として頑張ってくれてるから、少しぐらい休ませてあげないとね」


大神の額をそっとなでるあやめ。

『――へぇ、隊長はああいう人が好みなのかい?』

『〜〜い、いや、それは…』


回想終了して少し嫉妬し、自分の稽古着をぎゅっと握るさくら。

「――あやめさんは…、大神さんのことが好きなんですか?」

「え?――えぇ。もちろん、好きよ」

「…!!」

「可愛い部下として…、そして、頼もしい仲間としてね」

「あ…、そ、そういうことですか…。〜〜あははは…」

「さくらも好きなんでしょう、大神君のこと?」

「はいっ、私も大神さんのこと、大好きです!隊長としてだけでなく、その…、一人の殿方として…!〜〜あ…、ヤダ、私ったら!いくら寝ているとはいえ、本人の前でそんな大胆な…!あはははっ、きゃ〜!」

「――う……ん……。あれ…?」


目を覚ます大神。真っ赤になるさくら。

「あら、目が覚めたのね。よかった――」

「〜〜き…っ、聞かれたっ!?いっ、今の聞いてましたよね!?」

「え?何のこと――」

「〜〜きゃああ〜っ!!今のはナシっ!!忘れて下さい、忘れて下さい…!!」

「〜〜うっ、うわあああっ!?な、何するんだよぉっ、さくら君…っ!!」


殴り続けるさくらに?な大神。一人笑うあやめ。

★            ★


早朝。銀座の街を歩く米田。靴磨きに扮装した加山が呼び止める。

「――旦那、どうですかい?お安くしときますぜ」

「おぉ、そうだな。んじゃ、頼もうか」


米田の靴を磨く加山。

「なかなか良い靴ですねぇ!」

「はは、一応劇場の支配人なもんでな」


真面目な顔で見上げる加山。

「――敵の名は黒之巣会…。天海を中心とした反欧米化組織です」

「なるほど…。あの刹那とかいうガキんちょもそうか…?」

「えぇ。奴らは徳川の残党を扇動し、帝都を再び幕藩体制に戻そうと企んでおります。現在、拠点を詮索中ですので、もうしばらくお待ち下さい」

「うむ…。頼んだぞ」

「……ところで、花組隊長の方は…?」

「なぁに。昨晩目ぇ覚ましたから、心配いらねぇよ」

「ほ…っ、そうでしたか…」

「――またよろしくな、靴磨きの兄ちゃん」


金をやる米田。帽子を深く被り直す加山。

「毎度あり〜!」


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