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「サクラクエスト
〜勇者・大神とかえで姫の冒険〜」

第3章「月下の蛍」その3



その頃、プチミントは…。

「〜〜きゃああーっ!!」

『ROMANDO』を囲んでいる火柱をバケツに汲んだ水をかけて消していたが、かよわい少女の力では炎を操る異能者相手には限界があった。

「――残りはその店だけですね。私の炎で灰にして差し上げましょう…!」

「〜〜ハァハァ…、そんなこと…させるものですか…っ!加山さんのお店は私が守ってみせるわ…!!」


プチミントは肌や服をすすだらけにしながらもバケツを握りしめ、諦めずに消火活動にあたっている。

「クククッ、そんなちっぽけな店一つに命を懸けるとは愚かですねぇ。死に急ぐおつもりなら、その店もろとも焼いて差し上げましょう。――骨も残らぬ程にねぇ…!!」

「きゃ…!?」


火車から発せられた猛烈な炎がプチミントに当たる直前に加山は素早く駆けつけ、プチミントを抱きしめながらダイブした…!

「加山さん…!」

「よかった…!無事だったか、プチミントさん」


だが、火車が放った炎は『ROMANDO』を包み、あっという間に全焼させてしまった…!

「〜〜あぁっ!お店が…!!」

「〜〜行くな…!!店なんかまたいつでも開けるだろう!?」

「加山さん…。〜〜う…っ、ごめ…んなさ…いっ…、守れ…なく…て…っ」


呼び止め、強く抱きしめてくれた加山の腕の中でプチミントは号泣した。

「…おや?誰かと思えば加山君ではありませんか」

「――!!お前は火車…!?」

「加山さんのお知り合いなんですか…!?」

「えぇ、大親友ですよ。彼には随分世話になりましたからねぇ」

「〜〜アグニ刑務所から脱獄したというのはお前だったのか…!」

「ふははははっ、無作為に選んだ街にあなたがいるとは思いませんでしたよ!まさかこんな形で復讐できることになるとはねぇ…っ!!」


火車が放った炎の玉に身構える加山とプチミントだったが、大神が宝剣でかばい、炎の玉を弾き返した…!火車は首を横に傾けて、返ってきた炎の玉をよけると、伝説の宝剣を持った大神を見て怪しく笑った。

「ほぉ、その剣は…。あなたが伝説の勇者・大神ですか。クククッ、今日はツイてますねぇ♪」

「〜〜街をこんなに焼いて…、何のつもりだ!?」

「久し振りにシャバの空気を吸ったら、また放火の快感を味わいたくなっただけですよ。しかし、天才放火魔の私を刑務所送りにした加山君が移り住んだ街と知ったからには、全ての住民を焼き殺さないと気が済みませんねぇ…!」

「火車を刑務所送りにしたのが加山だって…!?」

「〜〜どういうことですか、加山さん…!?あなたはただの貿易商だって…」

「おやおや、彼女さんに素性を明かしていなかったのですか?国際指名手配犯だった私を捕まえた際の武勇伝を語って差し上げればよろしいではありませんか。――でしょう、アラタカ村の忍者さん?」

「…!!」

「〜〜か、加山さんが…忍者…?」

「しかも、ただのではありませんよ?ダンディー=シティー警察と手を組む特殊忍者部隊『シャドウ=ムーン』…。加山君は任務遂行の為ならば平気で人を欺き、邪魔者は悪魔の如きむごい方法で排除する冷酷非道な集団の隊長さんなんです」

「〜〜そんな…!?……モギリ村にも『シャドウ=ムーン』に殺された方がいるんです…。貧しいせいでロクに食べ物も口にできず、ダンディー=シティーのパン屋さんからパンを盗んだせいで暗殺されたって…。〜〜それも加山さんが指示を…?」

「〜〜それは…」

「フフフ…、それからご存知ですか、お嬢さん?アラタカ村の忍者は同じ村のくノ一としか結婚できないんですよ。つまり、加山君はそのことを知ったうえで、あなたとお付き合いされていたのです。つまり、あなたは彼に女心を弄ばれていたというわけですねぇ…!」

「〜〜…っ!!」

「〜〜違うんだ、プチミントさん…!!俺は本当に君を――!!」


プチミントは加山の手を払うと、メイクが取れそうなほど涙をいっぱい流しながら眉を顰めた。

「〜〜私に言っていたこと…、全部嘘だったんですね…。いつもの笑顔も…、あの日のプロポーズも…」

「〜〜プチミントさん…」

「――ウォーター・トルネード!!」


小梅と住民達と共に消火活動にあたっていたかえでは、『ROMANDO』を包んでいた炎を水の魔法で消し、大神と合流した。

「火車…!?ということは、あなたが放火魔ね…!?あなたが街に放った火は全て消してあげたわ!」

「ほぉ、私の名をご存知とは…。フフフ…、もしかして、あなたが魔王様がおっしゃっていたかえで姫というのはあなたですか?」

「えっ?」

「〜〜魔王だと…!?まさかお前はそれで脱獄を…!?」

「ご名答です♪魔王様の手下から、脱獄に協力してやるから姫君をさらってこいと頼まれてしまいましてねぇ。――というわけですから、一緒に来てもらいますよ…!?」


火車は炎を出そうとしたが、手の平がプスプスいっただけで、火を出すことができなかった…!

「〜〜チッ、久し振りに暴れたら、もう霊力が尽きてしまいましたか…。――仕方ありませんねぇ、作戦変更です…!」

火車が指を鳴らすと街中にモンスターが現れて、プチミントと小梅らムーンライト=タウンの女性達を羽交い絞めにして、人質にとった…!

「きゃあああっ!!」「きゃあああっ!!」

「〜〜プチミントさん…っ!!」

「〜〜小梅…!!」

「ククク…、勇者・大神よ、この女性達を返してほしければ北東にある『月花草・倉庫』まで来なさい。かえで姫を差し出してくれたら、この街と女性達は助けてあげましょう。――かえで姫、あなたも姫君なら民の為に犠牲になるのは本望でしょう?」

「〜〜くっ、卑怯な…」

「首を洗って待ってろ、火車!俺はかえでさんもこの街も両方救ってみせるからな…!!」

「大神君…!」

「大神…!」


かえで姫の好感度が上がった!加山の好感度が上がった!

「…やれやれ、寒々しくて暖を取りたい気分ですねぇ。その熱血漢がどれだけ私の炎に対抗できるか楽しみにしてますよ…!」

「〜〜助けてぇ…っ!!」

「〜〜プチミントさぁぁん!!」


プチミントとムーンライト=タウンの女性達は愛する男達に助けを乞いながら火車と手下のモンスター達にさらわれていってしまった…。

「〜〜そんな…、プチミント…さん…」

「〜〜加山…」


大神は加山のキャラ設定ページを再度開いてみた。すると、物語が進行して、加山のジョブの表記が『遊び人』から『忍者』に変わっていた。

「お前の本当のジョブは『忍者』だったんだな…。だから、『盗む』コマンドも使えたというわけか…」

「身分を隠す為、わざと『遊び人』の振りをしていたわけね…」

「〜〜仲間と婚約者に嘘をつき続けた結果がこれさ…。任務とはいえ、俺は火車の言う通り、今まで数えきれないほどの人を傷つけてきたんだ…。天罰を食らって当然だよな…」

「でも、あなたは本当にプチミントさんを愛してるんでしょう?小梅さんから話を聞いた時の顔を見ればわかるわよ」

「〜〜もう遅いですよ…。俺は嘘つきの最低野郎ですから…。どうせ忍者なんて普通の人の幸せは望めないんです。恋心なんて任務遂行の足枷にしかならないんですから…。……プチミントさんも俺の正体を知って、さぞ失望したことでしょうね…」

「だからって、プチミントとこの街を見捨てるのか!?〜〜簡単に諦めるなよ…っ!!プチミントに月花草を渡して、もう一度プロポーズするんだろう!?このまま誤解されたままでいいのか…!?」

「大神…」

「プチミントさんも小梅さんもあなたが来るのを待ってるはずよ。私達と一緒に助けに行きましょう!」

「――そうだな…。やらないで後悔するより、当たって砕けた方が何倍もマシかもしれないな…!俺もプチミントさん達を助けに行くよ!そして、もう一度自分の正直な気持ちを伝えるんだ…!」

「俺達も応援するよ!さぁ、倉庫へ急ごう!!」

「了解だ!」




一方、『月花草・倉庫』では、火車にさらわれた女性達が収穫された月花草を保管する倉に閉じ込められ、怯えながら身を寄せ合っていた。

「ククッ、恐怖に臆する女性の顔は何物にも勝る美しさがありますねぇ」

「〜〜私達をどうするつもり…!?」

「ご安心を、あなた方は大事な人質ですから。まぁ、勇者と姫が取引を拒んだその時は、この倉庫もろとも焼いて差し上げますが♪」

「〜〜ひ…っ!?」

「〜〜やめて…!!そんなことしたら月花草が枯れてしまうわ…!!」

「あっははは…!!くだらない愛の伝説など信じているから、そんな目に遭うんです。自分の愚かさを恥じながら焼け死ぬといいですよ…!」

「〜〜小梅叔母様ぁ…」

「〜〜大丈夫よ、プチミント。兄さん達がきっと助けに来てくれるわ…!」

(〜〜加山さん…、助けてぇ…っ!)




プチミントが怯えながら小梅にしがみついていた頃、大神とかえでは加山と木の上で身を潜め、倉庫の様子を窺っていた。

「――見張りが多いわね…。正面突破は難しそうだわ」

「しかも、門番はゲームの終盤に出てきそうな奴ですからね…。〜〜戻ってレベル上げする時間もないだろうしな…」

「では、忍者らしく屋根裏から潜入しようか。攻略に必要なアビリティを教えてやるから、ついてこいよ!」


大神とかえでは『這う』と『隠れる』のアビリティを覚えた!

「いいか?敵が様子をうかがっている時はOボタンで『隠れる』、よそを向いている時は×ボタンで『這う』だからな?」

「わかったよ。では、行こうか…!」




大神達3人は息を潜めながらアビリティを駆使し、高床式の倉庫の柱を上って、屋根裏へうまく侵入することができた。

「正面ほどではないけど、ここも見張りでいっぱいね…」

「気づかれて応援を呼ばれても厄介だな…。なるべく戦いは避けて行こう」

「…ところで、加山はどうしてムーンライト=タウンにいるんだ?故郷はアラタカ村で、『シャドウ=ムーン』の本部はダンディー=シティーなんだろう?」

「アラタカ村の長老様から直々に、ある女性の捜索を依頼されてね…。この街の近辺で見かけたという情報が入ったから、潜入調査してるのさ」

「その、ある女性というのは…?」

「……すまないが、機密事項でね、村の者以外に教えるわけにはいかないんだ…。だが、この任務のお陰で、俺は出稼ぎに来ていたプチミントさんと出会うことができたんだ。だから、俺はこの任務を終えたら『シャドウ=ムーン』から足を洗おうと思ってる。このムーンライト=タウンに永住して、プチミントさんと一緒に静かに暮らしていこうと思ってるんだ」

「忍者だって人間ですものね。愛する人と幸せになる権利があると思うわ」

「その為にも、プチミントとこの街を救わないとな!」

「あぁ〜、大神ぃ〜♪プチミントさんの前にお前と出会っていたら、俺はお前に一生人生を捧げていたのになぁ〜♪」

「〜〜うわっ!?馬鹿…っ!あ…っ、そんなにくっついてくるなって…♪」

「ちなみに俺が両刀というのは本当だからなぁ♪プチミントさんと結婚したら、義理の甥っ子として一郎叔父上に尊敬の念と愛を込めて――♪」


すると、貴重品袋に入っていた月花草がポゥ…と淡いピンクの光を放ち、屋根裏の暗い道を照らし始めた。

「月花草が光ってるわ…!月食の時間が近づいてるのね」

「急ぎましょう!〜〜ほら、行くぞ!加山!?」

「あ〜ん、待って下さいよぉ〜、一郎叔父上〜♪」

「〜〜うわあっ!?だから、くっつくなって――あ…!うっ、うわああ〜っ!!」


――ドサーッ!!

加山が大神にじゃれていると、屋根裏の床が抜け、大神と加山は多くのモンスターが見張っている倉庫の道に落下してしまった!

「〜〜いってぇ〜…」

「〜〜大神君、加山君…!!大丈夫…!?」

「〜〜な、なんとか…」

「――ウガーッ!!」

「――侵入者、ハッケン…!侵入者、ハッケン…!」

「〜〜しまった…!!急いで戻るぞ、加山っ!!」

「アイアイサ〜♪――とうっ!!」


加山は煙幕を投げてモンスターをかく乱させると、大神と並走を始めた。

「ハッハッハ〜!忍者部隊の隊長をナメるなよ〜♪」

「〜〜いいから、黙って走れっ!!誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!?」

「――キエエエエ〜ッ!!」

「〜〜うわっ!?こっちにもモンスターが…!!」

「大神、こっちだ!」

「あ、あぁ…!」




その頃、火車とプチミント達のいる部屋では…?

「――おやおや、早くもネズミがかかったようですねぇ」

火車が掌上に炎を出すと、その映像に逃げる大神と加山の姿が映った。

「兄さんだわ…!」

「〜〜加山さん…っ!」

「…かえで姫はいませんか。――では、先にオスネズミ2匹を駆除するとしましょう…!」


火車が部屋を出て行くのを、月花草の光を頼りに暗闇の狭い通路をほふく前進で進んでいたかえでは、屋根裏から腹這いで見ていた。

「塞翁が馬とはこのことね…!」

かえでは火車が部屋から離れるタイミングを見計らい、小梅とプチミント達が捕えられている部屋へ静かに降り立った。

「かえで義姉さん…!来てくれたのね」

「しっ!今のうちに早く…!」


かえでが魔法で出した風の絨毯で人質の女性達を下ろしていたその時、炎で燃え上がるロープがかえで姫の体をきつく縛り上げた…!

「きゃああああーっ!!」

「〜〜かえで叔母様…っ!!」

「――惜しかったですねぇ。2人を囮にしたつもりでしょうが、今の私はちょっとの霊力反応にも敏感に反応してしまうんですよ。ここにある月花草の霊力を吸って、霊力が満タン状態になってますからねぇ」

「〜〜く…っ、しまった…!」


火車は憎たらしいほどニヤニヤした顔で枯れた月花草達を踏みつぶしながらロープをたぐり、かえでに近づいてきた…!


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