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「サクラクエスト
〜勇者・大神とかえで姫の冒険〜」

第3章「月下の蛍」その4



「〜〜そんな…!?」

「〜〜月花草が…」

「私の能力は選ばれし人間だけが神から授かることができる贈り物です。贈り物を自分の為に使って何が悪いんですか?えぇ!?他人を愛して尽くしたって何の利益にもならないでしょう!?」

「〜〜愛の力を馬鹿にしてたら、その神から天罰が下るわよ…!?」

「フフフ、負け犬の遠吠えにしか聞こえませんねぇ。さぁ、お選びなさい、かえで姫。こいつらを助ける代わりに魔王様の元へ行くか、見捨てて無様に逃げ出すか…」

「きゃあああああ〜っ!!」


かえで姫の華奢な体に炎のロープがさらに食い込み、姫の服と体をジリジリ焼いていく…!

「〜〜どちらも選ぶつもりはないわ!――私はいいから、早く逃げて…!!」

「で、でも…」

「ほほぉ、正義のヒロイン気取りですか?では、魔王様の元へ行くと頷くまで火炙りにして差し上げましょう…!!」


火車のロープの炎は激しく燃え上がり、かえで姫の全身を包んだ!

「きゃあああああ〜っ!!〜〜く…っ、ウォーター・トルネード…っ!!」

かえで姫は水の魔法でロープの炎を消火しようとしたが、火に油を注いだように炎はさらに燃え上がった!

「〜〜な…っ!?いやあああああああっ!!そんなぁ〜っ!?」

「ハハハハ…!そんな初級魔法で私の炎を消せるわけないでしょう?おしおきにもっと火を強くしてあげますからね…!?」

「〜〜ひいいい〜っ!!熱いっ!!熱いぃ〜っ!!いやああっ!!やめてぇっ!!お願い!やめてぇ〜っ!!」

「あはははっ!その調子で失禁し続ければ、火が消えるかもしれませんよ?」

「ぎゃあああああああああ〜っ!!大神くぅ〜ん…!!」


泣きながら大神に助けを乞うかえでの肉体は、光熱の炎に焼かれて灰になっていった…!

「〜〜いやああーっ!!」

「〜〜かえで叔母様ぁっ!!」

「…おやおや、困りましたねぇ。本気を出し過ぎて灰にしてしまいましたよ。魔王様にどう言い訳すべきやら…?くくっ、ふははは――!!」

「――灰になるのは、あなたよ…!!」

「何…っ!?〜〜ぎゃあああああ〜っ!?」


笑っていた火車はファイヤー・ボールの炎を受け、表情を一変させた。

燃やされて灰になったはずのかえで姫が元の美しい姿で大神の隣で腕を組み、凛々しく立っていたのである…!

「〜〜ばっ、馬鹿な…!?いつの間に…!?」

「よく見てみろよ。そのかえで姫様は俺が忍術で出した偽者だぜ?」


ボワン!と灰になったかえでの代わりに煙を立てて現れたのは、黒コゲになった木の幹でできた身代わり人形だった。

「〜〜な…っ、何ですってぇっ!?」

「残念だったな、火車。囮に気づかなかったのはお前だったというわけだ…!」

「直に警察が来るわ。あなたの悪事もそこまでよ!」

「〜〜き〜っ!!よくも、この私を小馬鹿にしてくれましたねぇ!?こうなったら、力ずくでもかえで姫を渡してもらいますよっ!!」


火車はファイヤー・ボールの炎を消すと、炎型のモンスター・ファイヤーダマシイを2体呼び寄せた!

「加山、『忍者』のお前なら俺の命令には従ってくれるな?」

「おうとも!お前に身を預けるぜぇ、大神〜♪ちなみに『忍者』は攻撃力は小さいが、『ヘイスト』を使わなくても2回連続で行動できるのが特徴なんだぜ!」

「よし、じゃあ『煙幕』で火車をかく乱した後、『くない』で攻撃してくれ!」

「了解だぁ!」

「かえでさんは魔法で雑魚を一掃して下さい!」

「了解よ!――弱点は水ね…!ウォーター・トルネード!!」


かえでの魔法攻撃!ファイヤーダマシイAとBは倒れた!

「続いては俺だ!――『煙幕』っ!からの〜、『くない』攻撃だっ!!」

火車は隙のない加山の攻撃にダメージを受け、舌打ちした。

(〜〜チッ、先行を取られてばかりでは不利ですね…。なんとかあの厄介な忍者を封じないと…)

「――プチミント、早く乗って…!」

「〜〜でも、加山さん達が…」


番が来て、小梅と共に風の絨毯で脱出しようとしていたプチミントを見て火車はニヤッと笑うと、彼女に狙いを定めて炎を発した!

「〜〜まずいわ…!早く逃げなさいっ!!」

「え…?」


――ゴオオオッ!!

かえでの注意が功を奏し、プチミントがとっさに気づいたので、炎はギリギリ頬をかする程度だった。しかし、その拍子にプチミントはバランスを崩し、高床式の倉庫からまっさかさまに落ちていってしまった…!!

「きゃああああ…!!」

「〜〜プチミント…!!」

「〜〜プチミントさん…っ!!」


落ちそうになったプチミントの腕を加山が必死で掴んだ…!

「〜〜ま…、間に合ったか…」

「加山さん…!〜〜偽善なんてやめて下さいっ!!本当は私のことなんて愛してないくせに…!」

「〜〜嘘をついてすまなかった…。だが、君を騙して傷つけるつもりはなかったんだ…。――これだけはどうか信じて欲しい。君に捧ぐこの愛は本物だよ…!」

「加山さん…」

「――フフフ…、冷酷な忍者さんが人助けとは珍しいですねぇ」


火車は追い打ちとばかりに、加山の首を炎のロープで絞め上げた!

「〜〜ぐあ…っ!?」

「〜〜加山さん…!!」

「〜〜ぐ…あ…あぁぁ…」

「クククッ、どうです〜?喉が焼けて声も出ないでしょう!?」

「〜〜ぐふ…っ、う…うぅぅ…」

「〜〜加山…っ!!」

「…おっと。ここを通りたければ私を倒してからにして下さいね?フフ…」

「〜〜くそ…っ」

「〜〜離して下さいっ!このままじゃ、あなたまで…!!」

「〜〜いいんだよ…。最期くらい人間らしいことして、君の記憶に残っておきたいからな…。プチミントさん…、この手を…絶対に離す…な…よ…!?」

「加山さん…。〜〜やっぱり、加山さんは加山さんですね…。加山さんが忍者でも、私の知らない所でお仕事していても、私の好きな加山さんに変わりはないのに…。〜〜なのに、私…っ」

「プチミントさん…」

「――加山さん、私もあなたを愛してます…!!死ぬ時は私も一緒に――っ!!」


プチミントの涙が無残に落ちていた月花草にこぼれ落ちたその時、ムーンライト=タウンと街はずれの倉庫を暗闇が覆った…!

「月食が始まったのか…!」

「見て…!月花草が…!!」


そして、月に再び光が戻り始めた瞬間、枯れたり燃えたりしたはずの月花草達がよみがって、綺麗なピンクの蕾を咲かせながら光り始めると、濃いピンクの花びらから淡い桃色に光る月花蛍達がそれぞれの花から生まれ、加山とプチミントを祝福するように二人を囲みながら飛び始めた…!

「これは…!」

「月花蛍だわ…!霊力を奪われても、ちゃんと生まれてこれたのね…!」

「〜〜こしゃくなぁ…っ!!――ぐわあああっ!?ま、眩しい〜っ!!」

「――勇者様〜、姫様〜!」

「――私達も応援します!頑張って下さ〜い!!」


先に逃げた住民の女性達がそれぞれの愛する人と持っている月花草から大神とかえでにエールを送るように月花蛍を倉庫下から飛ばし、火車の目を強い光で眩ませた…!!

「〜〜なんという光だ…!?ムーンライト=タウンでこれほどの強い光が生まれようとは…!!」

「これがあなたが馬鹿にした愛の光よ…!!――大神君、私達の愛の力も見せつけてやりましょう!」

「了解です、かえでさん!」

「〜〜私の炎より強い光ですってぇ…!?そんなもの認めませんよっ!!――食らいなさい!紅蓮火輪双!!」


火車の必殺攻撃にも動じず、大神とかえでは互いの手を握って瞳を閉じると、額をくっつけ合った。

「――感じるわ…。大神君の力が私に流れ込んでくる…!」

「かえでさん、俺の魔力、受け取って下さいね…!」

「大神君…!」


大神とキスをしたかえで姫のMPが全回復した!

「――リフレクション!!」

大神とかえで姫の周りに発生した魔法障壁が鏡のように火車の強力な炎を跳ね返し、猛烈な炎の波となって火車自身を飲み込んだ!!

「な…っ、何だと…!?〜〜ぎゃあああああああああ〜っ!!」

「見たか!?これが俺達の愛の力だ…!!」

「ふふっ、私と大神君の愛の炎に勝てるかしら!?」

「〜〜ぐああああ…!!燃えるぅ!!ふはははっ!私の体が燃えていくぅっ!!私の炎は街を…、そして私自身も…この世界全てを焼き尽くすのだぁ〜っ!!」


火車は狂ったように笑いながら倉庫から転げ落ちると、蒸気となった体が爆発して粉々になった…!

「ハァ…、終わったわね…」

「〜〜お〜い、お二人さん助けてくれよぉ〜」

「あっ、忘れてた…!――今、助けるよー!」


加山と共に大神とかえでに引っ張り上げられたプチミントは、涙を拭うと笑顔で加山に抱きついた!

「加山さん、さっきはひどいことを言ってごめんなさい…。それから、助けに来て下さって、ありがとうございました…!」

「プ、プチミントさん…♪人前で抱きつかれるの苦手じゃなかったっけ?」

「ふふ、今は平気です。月花蛍の誕生を一緒に見られた加山さんとなら私…♪」

「プチミントさん…♪」

「――加山、これを…」


大神は加山に月花草を渡した!

「あぁ。――俺、今の任務が終わったら『シャドウ=ムーン』を辞めるからさ。これからはこのムーンライト=タウンで俺と一緒に暮らして欲しい」

「〜〜そのお仕事は、私にも言えないような危険なものなんですか…?」

「〜〜すまない、任務の口外は禁止されてるから詳しくは言えないが…。だが、俺は誓うよ、君に危険な思いは二度とさせない!プチミントさん、君のことは俺が一生守るから…!!」

「加山さん…♪」

「あ…、でも、結婚式の資金は火事で燃えちゃったんだよなぁ…。〜〜ハァ…、せっかくサプライズプロポーズしようと思ったのに…」

「結婚式なんて、ただの形式でしょう?式を挙げなくても私は構いません。一緒にもう一度『ROMANDO』を始めて、二人の今後の為に一から貯金しましょう。私、忍者さんのお仕事が終わるまで、いつまでも待ちますから…」

「プチミントさん…。――ありがとう。その時が来たら結婚しよう…!」

「はい…♪」


目の前で繰り広げられる、火車も真っ青なほどの加山とプチミントの燃え上がるようなキスに、大神とかえでは照れ笑いしながら顔を見合わせた。

「はは、街に戻ってましょうか…」

「ふふっ、そうね。お邪魔虫は退散しましょ♪」




加山とプチミントを二人っきりにさせ、ムーンライト=タウンに小梅と一緒に戻ってきた大神とかえで。

だが、火車によってほとんどの家屋は焼かれ、街は見るも無残な景観になってしまっていた…。

「〜〜あんなに綺麗だったのにね…」

「〜〜すっかり暗い街になっちゃったな…」


変わり果てた街に落ち込む住民達だったが、そこへ月花蛍達がムーンライト=タウンのあちこちを街灯のように照らし始めた。

「月花蛍が戻ってきた…!?」

「きっと恩返しがしたいのよ。毎年、自分達のお祭りを開いて愛してくれるこの街の人達の力になりたいってね」

「わぁ、綺麗ねぇ…!」

「月花蛍は俺達の希望の光だな…!」

「落ち込んでる暇はないぞ!月花蛍が照らしてくれている間に頑張って街を復興させようじゃないか!」

「おーっ!!」

「ふふっ、皆に押しつけてばかりじゃ悪いから、私も行くわね!」

「あぁ、小梅も頑張れよ!」

「えぇ、加山店長とプチミントの力になれるように、しばらくは『ROMANDO』復活に向けて精を出すことにするわ。一郎兄さん、かえで義姉さん、ムーンライト=タウンを救ってくれてありがとう!宿屋を取ってあるから、今日はゆっくりしていってね!」

「そうさせてもらうわ。ありがとう、小梅さん」

「ふふふっ!…あ〜あ、私も早く月花蛍を一緒に見られるような良い人を見つけなくっちゃな〜♪――それじゃあね!」


復興に向けて励まし合う住民や観光客達を照らす月花蛍を見ながら、かえでは大神にそっと寄り添った。

「絶望的な状況にあっても、希望を捨てない限り、誰かが光で導いてくれる…。この街は、きっと近いうちに復興できるでしょうね」

「そうですね。――はい、かえでさん」


と、大神はかえでに蕾の状態で光っている月花草を渡した。

「まぁ…!ふふふっ、大神君もミカヅキ湿原から摘んできたの?」

「街に来た時、一緒に月花蛍を見ようって約束しましたからね。――ほら、生まれますよ…!」


月光を浴びた月花草の花びらが濃い桃色に変わって開くと、月花蛍は元気に飛び出し、大神とかえでに挨拶するように二人の周りを飛び回った。

「ふふふっ、綺麗ねぇ」

「――かえでさん、愛してます。伝説通り、これからも俺の隣にいて下さいね」

「ふふっ、了解よ、勇者君!――今日は宿屋に泊まるから、思い切りできるわね…♪」

「そ、そうですね…♪今日はミカヅキ湿原で焦らされた分も含めて、可愛がってやりますから…♪」

「ふふっ、もう…。大神君のエッチ…♪」


大神とかえでがキスするのを月花蛍はお尻を発光させて祝福するように見守るのであった…。



――そして、翌日。

宿屋のロビーに来てくれた加山から約束通り、大神とかえでは石化の呪いを解ける魔女に関する情報を聞いていた。

「――魔女と関係がありそうな場所をピックアップしておいたぞ。まず、どんな願いも叶えると言われる宝珠が祀られているシーサー島、そして、奇跡を起こせるシスターがエクレア村という所にいるそうだ。あとは、どんな病も治すことができる万能薬を作れる女医がいるという病院がフリーバード=タウンにあるとか…」

「助かるよ、加山。早速行ってみることにするよ」

「あぁ、『ROMANDO』が失くなったから、情報を仕入れ直さないといけないからな…。3日経ったら、またムーンライト=タウンに来てくれ。その頃までには、もっと良い情報が入荷できると思うからな」

「シーサーにシスターに女医ねぇ…。〜〜またしても次に出てきそうなキャラが想像つくわね…」

「ここからだと、シーサー島が一番近いはずだ。ここから南にある小島なんだが、この街の港から定期船が出ているから乗っていけば着けるはずさ」

「わかったよ。それじゃあ加山、3日後にまた会おう!」

「おう、気をつけてなぁ〜、大神ぃ♪旅の途中で、かえで姫様を孕ませるんじゃないぞ〜♪」

「〜〜ずるっ!それをそのままお前とプチミントに返してやるよっ!!」

「はははっ!じゃあなぁ〜♪」


ムーンライト=タウンの港に向かう大神とかえでを見送った加山は真顔に戻ると、街の外に出て、キネマトロンで通信を開始した。

「――こちら『シャドウ=ムーン』隊長の加山。さくらお嬢様のものと思われる霊力反応を勇者・大神と名乗る男から確認できました」

『――ごにょごにょごにょ…』

『――引き続き調査を続けなさい…と長老様はおっしゃっておいでです』

「……かしこまりました」


加山はキネマトロンを閉じると、静かに溜息をつきながら帽子を深く被り直した。

「〜〜これが最後の任務だ…。待っててくれよな、プチミントさん…!」



第3章、終わり


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