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「サクラクエスト
〜勇者・大神とかえで姫の冒険〜」
第3章「月下の蛍」その1
ここは雷鳴轟く魔王の城。
石化した米田国王を救う為、小梅とプチミントを引き連れて、情報屋がいるムーンライト=タウンへ向かう勇者・大神とかえで姫。
そんな二人の行動を水晶玉に映して見物しているのは、豪華絢爛な衣装を身に纏った大男。人の姿はしているが、悪魔のような角と鋭い牙、赤鬼の如きその怖ろしい形相からは、その差はあるにしろ人間が誰しも持つ慈愛の心は一切感じられない。
「――魔王様、勇者・大神とかえで姫がムーンライト=タウンへ到着する模様です」
「では、用意していた刺客を送れ!勇者は殺し、姫君は生け捕りにして我の元へ連れてくるのだ…!あやめ姫同様、我の妃にしてくれよう!」
「はっ!」
魔王にひざまずいたさくらは一礼すると、瞬間移動で姿を消した。
「――クックック…、邪魔する奴はみ〜んなゲームオーバーにしてやる!あはははっ、魔王って楽しいな〜♪」
魔王はそれまでの重々しい言葉遣いから一転して子供のような笑い声をあげると、頭上に渦巻く巨大なひずみを見上げてニタニタした。
「誰も僕に逆らえない世界…。クククッ、この世界では僕は神なんだ…!」
「〜〜無礼者っ!放しなさい…!!〜〜きゃあっ!?」
さくらによって捕らわれたあやめ姫は、さくらと入れ替わるように魔王の近衛兵に両腕を掴まれながら謁見の間に連れてこられると、頭を押さえつけられて無理矢理、魔王の前にひざまずかされた。
「君が藤枝あやめだね?――ふーん…、この女が大神の弱点かぁ♪」
「〜〜あなた、大神君を知ってるの…?」
「少しだけだけどね。大帝国劇場のもぎりさんでしょ?母様と舞台を観に行った時に見かけたよ」
「舞台?ダイテイコクゲキジョー…?〜〜あなた、さっきから何を言ってるの…?」
「あーそっか。君はゲームの世界の住人だったねー。――でもさー、もう一度大神に会いたくない?ゲームじゃないリアル世界の大神にさぁ…?」
「え…?」
「クククッ、隠しても無駄だよ?僕はこの世界のことなら、な〜んでも知ってるんだ。あやめさんって大神のことが好きなんでしょ?」
「…!!〜〜そ、それがどうしたと言うの…?」
「――僕に協力してくれたら、君をリアルの世界に出してあげてもいいんだけどなぁ…♪」
「〜〜ひ…っ!?な、何をするつもりです…!?」
「安心してよ。それまでお姉さんにひどいことしないからさ…。リアルな肉体がないとイジメ甲斐がないもんね〜?くくくっ、あっははははっ!」
子供のように笑う魔王に顎を押し上げられたあやめ姫は魔王を睨みつけるも、恐怖で涙腺が緩んでしまっていた。
(〜〜助けて…!大神君…っ!!)
「――あやめさん…っ!?」
あやめ姫の涙がこぼれるのと同時に目を覚ました大神を隣に座っていたかえでが覗き込んだ。
「どうしたの、大神君?」
「あ…。〜〜ハァ…、夢か…」
「ふふっ、あやめ姉さんの夢でも見てたの?寝ている間、何回も名前を呼んでたけど…」
「……そう…ですか…」
馬車に揺られながら遠くを見つめる大神に、かえでは少し黙ると、そっと寄り添った。
「…ねぇ、私は出てこなかったの?ふふっ、大神君の夢に出演してたのがあやめ姉さんだけなんて、ちょっと嫉妬しちゃうな…♪」
「はは、多分かえでさんも出てましたよ。よく覚えてませんけどね」
「ふふっ、もう…。何よ、それ?適当ねぇ」
「はは…!拗ねないで下さいよ」
その時、美しい青空が暗くなり、見上げると、青白い月と満点の星が空一面に広がった。
「な、何だ…!?急に外が暗くなったぞ!?」
「ふふふっ、でも、とってもロマンチック…♪」
「あ…、か、かえでさん…♪」
「ムーンライト=タウンの領域に入ってきたわね」
「一郎叔父様ー、かえで姫様ー、そろそろ到着しますよー?」
「…はっ!?」
「〜〜お…ほほほほ…!お知らせありがとう、プチミントさん」
荷物の陰に隠れて、キスから次の段階に移行しようとしていた大神とかえでが苦笑しながら離れると、御者の蒸気ラジオからニュースが入った。
『――本日未明、ダンディー=シティーのアグニ刑務所から2人の受刑者が脱走した模様です。警察は近隣の村や町に注意を呼びかけており…』
「〜〜まぁ、怖いわねぇ…」
「アグニ刑務所といったら、ここから近いからねぇ…。お嬢ちゃん達もムーンライト=タウンに行くんなら気をつけな?」
「はい、おじさんも気をつけて下さいね…?」
町の入口で止まってくれた馬車から荷物を降ろすと、大神とかえでは小梅とプチミントと共にムーンライト=タウンへ入った。
「ここが港町『ムーンライト=タウン』よ」
夜空の下で闇を灯すランプの数々が月光と重なって街の夜景を彩っているとても幻想的な街だ。海が月明かりとランプの明かりで色づき、迷い込んでしまった船を灯台代わりに港へと導いている。
「綺麗な街ねぇ」
「まだ昼間の時間帯なのに、この街だけ夜なんだな…?」
「この街は地脈が特殊でね、霊力が周辺の自然に影響して、一日中夜みたいに真っ暗なの」
「私達が働いている『ROMANDO』もランプが一番の人気商品なんですよ」
「へぇ、一日中夜の街なんて面白いな…!」
「――ふふふっ、早く咲かないかな〜♪」
「楽しみだね〜」
大神とかえでの横を何組ものカップルが楽しそうにすれ違っていく。
「随分、賑やかねぇ?」
「今日は年に一度の『月花草祭り』ですからね」
「ゲッカソウマツリ…?」
「毎年この季節になると、ムーンライト=タウンでは月食が起こるんです。月花草というのは月食が終わった直後の月光を浴びて花を咲かせる植物で、この地方しか咲かない珍しい花なんですよ」
「それで、花弁が開くと同時に月花蛍が生まれるのよ」
「花から生まれる蛍か。綺麗だろうなぁ」
「えぇ、とっても…!月花蛍が生まれる瞬間を好きな人と一緒に見ると、そのカップルは永遠に結ばれるという伝説もあるぐらいですから」
「ふふっ、それで各地からカップルが集まっているわけね。――ねぇ大神君、せっかくだから私達も月花蛍が生まれるところ見ていきましょうよ」
「あ…、……そうですね…」
(――月に咲く花…か…)
先程の夢が引っかかっているのか、大神は頭の中で赤い月夜に降魔・殺女に変身したあやめを思い出していた…。
「大神君…?」
黙って月を見上げている大神が何を考えているのか察したようで、かえでは複雑な表情で大神の肩に寄り添った。
「〜〜ごめんなさい。姉さんの夢を見たばかりなのに無神経だったわね…」
「…いいえ、俺もかえでさんといつまでも一緒にいたいですから。『ROMANDO』に行ったら、一緒に月花蛍を見ましょうか」
「大神君…。――ふふっ、えぇ♪」
「――兄さーん、かえで義姉さーん、『ROMANDO』はこっちよー?」
「〜〜あっ、小梅とプチミント、いつの間にあんな所まで…!?」
「ふふっ、義姉さんって響き、新鮮でいいわねぇ♪――行きましょう、大神君」
「はい、かえでさん…♪」
不安を拭うように手を握ってくれたかえでの優しさに大神は感謝しながら微笑んで握り返した。
従業員として働く小梅とプチミントに案内されて、大神とかえではムーンライト=タウンの中央通りにある『ROMANDO』にやって来た。
「へぇー、紐育にある『ROMANDO』とそっくりですね」
「ふふっ、そのこだわりも紅蘭らしいわね」
「――店長、こんにちは」
「今日もよろしくお願いしまーす」
「――OH〜!ミス・プチミント〜♪」
「きゃあっ!」
プチミントが入ってくるなり、店長と呼ばれる白いスーツの男がひしっ!!とプチミントを抱きしめた。
「バイト6時間なんて短すぎるよ〜。住み込み+三食付きでここに一緒に住まない?」
「〜〜か、加山さん!お客様の前ですから…」
「はっはっは、プチミントは照れ屋さんだなぁ〜♪」
「〜〜はは…、やっぱり情報屋っていうのは加山のことだったんですね」
「〜〜ゲームの世界でも、設定がそのまんまね…」
「よぉ〜、いらっしゃい♪お二人さんは旅行者かい?だったら、いいアイテムあるんだよ〜!どうだい、アイテムの最大所持数が倍に増えるこの『カバン(大)』は!?『ROMANDO』限定商品だぞ〜♪」
「おぉっ、アイテムの所持数が15個から30個まで増やせるというわけか…。それは便利だなぁ!」
「だろだろ〜♪うちは初見さんでも安くするぜぇ〜♪」
「〜〜何だか男子だけで盛り上がってますね…」
「〜〜あんな汚い鞄のどこがいいのかしら…?」
「一郎叔父様、紹介しますね。私が働いている『ROMANDO』の店長・加山雄一さんです」
「OH!どこの紳士かと思ったら、プチミントさんの叔父上でしたか…!! いやぁ〜、叔父様の方からご挨拶に出向いて頂けるとは感激だなぁ〜♪はっはっは〜!是非、自分も一郎叔父様と呼ばせて下さいっ!!」
「〜〜あ…、あぁ…。よろしく頼むよ…」
「あら?もしかして、プチミントさんが言っていた婚約者って…?」
「は、はい…。こちらの加山さんのことです…♪ぽ…っ」
「まぁ、そうだったの!ふふっ、おめでとう♪」
「式はいつ挙げるんだい?」
「それはまだ先かなぁ…。なんせ店が火の車ですから、結婚資金を貯める余裕ありませんし…」
「でも私、加山さんが結婚の約束をしてくれただけでも幸せですから…♪」
「ふふ、そう。じゃあ、これはご祝儀代わりになるかしら?」
と、かえでは自身が身に着けていた高価なペンダントをカウンターに置いた。
「えっ?これってまさか本物のダイヤモンド…!?」
「もちろん♪」
「姫様だけに払わせるのは申し訳ないからな。――よっと…!これは俺が捕獲した鹿の毛皮だ。合わせたら依頼の対価ぐらいにはなるだろう?」
「〜〜ちょ、ちょっと待て…!依頼っていうのは裏稼業の方のか?」
「えぇ、私はサクラ王国の第二王女・かえでと申します。実はあなた達にある情報収集を依頼したいの…」
大神とかえでは加山にこれまでのいきさつを全て話した。
「――そうか…、米田国王陛下がな…。仕事柄、魔女の噂は耳にしたことはあるが、ここにある情報じゃ少なすぎるな…。ネタを一から仕入れないといけないんで時間はかかるかもしれないが、それでもいいか?」
「えぇ、構わないわ」
「協力感謝するよ」
「こんなビッグな依頼、100年に1度あるかないかなんでね♪――プチミントさん、悪いけど、倉庫から今ある分の資料を持ってきてもらえるかい?」
「わかりました!」
加山はプチミントが倉庫に入ったことを確認すると、小声で大神に毛皮とネックレスを返した。
「――これは返すよ。彼女の親戚から、そんな大金は受け取れないからな」
「だが、それでは俺達の気が済まないよ…」
「はは、わかってるよ。こっちも商売なんだ、無料で引き受けるわけないだろ?…その代わりと言ってはなんだが、頼みがあるんだ。俺と一緒に月花草を採りにミカヅキ湿原まで行って欲しいんだ」
「月花草を…?何の為に?」
「加山さん、プチミントにもう一度プロポーズするんですって。今週の売り上げ分で、やっと目標の結婚費用に到達したのよね?」
「本当か?すごいじゃないか!」
「ははは…、まぁ…小梅君のお陰でコツコツとな♪」
「そういう依頼なら大歓迎よ♪――大神君、私達もプロポーズ大作戦に協力してあげましょうよ!」
「そうですね。親友と姪っ子の為に一肌脱ぐとしましょうか!」
「そうかそうか、手伝ってくれるか〜!そんじゃ、交渉成立だな。頼んだぜ、お二人さん♪」
加山が仲間になった!
「――加山さーん、この資料、どこに置いときますかー?」
「あっ、プチミントさんが戻ってきた…!…本人には秘密にしといてくれよな?あとで驚く顔が見たいからさ…♪」
「はは、わかってるって」
「それじゃあ、月食が始まる前に採ってくるとしましょうか」
「――あら…?加山さん、どちらへお出かけですか?」
「〜〜あー…、えっと…、二人に街を案内してくるよ。祭りを見学したいって言うからさ」
「なら、私も――!」
「〜〜あ〜!寒いからいいって!君はその資料を小梅君とまとめといてくれないか?」
「〜〜そうですよね…。ちょっと寂しいけど、加山さん達が戻ってくるまで仕上げておきますね!」
「ハハッ、プチミントさんは本当良い子だなぁ〜♪」
加山はプチミントを片手で抱きしめると、その手で頭をなでなでした。
「お土産持って帰るから、店番頼んだぞ?」
「んも〜、また子供扱いするんですからぁ〜…」
「はは…!失敬、失敬♪」
「ふふっ、じゃあ、行きましょうか」
勇者・大神とかえで姫は加山とプチミントの恋のキューピッドとなるべく、ムーンライト=タウン北西にあるミカヅキ湿原へ向かった。
この美しい街が悪魔のような男によって危機にあるとも知らずに…。
「――やはり火は美しいですねぇ。街のあちこちで激しい愛の炎が燃え上がってますよ…!クククッ、ですが、私の炎には何人も敵わないでしょうねぇ…!」
男は民家の屋根からムーンライト=タウンを見下ろすと、己の手にはめられている手錠を炎で溶かし、狂気が漂う瞳を隠すサングラスを中指で上げた…。
「――私の炎で、もっと美しい街にして差し上げますからねぇ…!」
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