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「サクラクエスト
〜勇者・大神とかえで姫の冒険〜」

第1章「勇者、誕生!」その3





「――もうそろそろ、岩が見えてくる頃だと思うんだけど…」

頻繁に現れるモンスターを倒しながら、しばらく歩いていくと、ダンジョンの一番奥の部屋に金色に輝く剣が刺さる不思議な岩を見つけた。

「あれが宝剣か…!」

「――!気をつけて…!妖気を感じるわ…」


あやめが呟いた刹那、モンスターの不気味な咆哮が地下に響き渡った。

「〜〜な、何…!?」

「――キシャアアアッ!!」


巨大なドラゴンが翼をはためかせ、こちらに飛んできたのだ…!

「〜〜いぃっ!?最初のボスにしては迫力ありすぎだろ…!?」

「なるほど…。おおかた、宝剣の守り神ってとこかしらね…!」

「でも、変ねぇ?ドラゴンが宝剣を守ってるなんて話、聞いたことなかったけど…」

「え…?」

「――あっ!見て、大神君…!!」


かえでの指差した方を見てみると、ドラゴンの背後にこの世界とは別世界のような、違和感のある暗黒のひずみが発生していた…!

「もしかして、あれが紅蘭の言っていたひずみですか…!?」

「おそらくね…。何者かによってあれが発生したから、プログラミングされていなかった強力なモンスターが出現したんだわ…!あのドラゴンを倒せばひずみは消えて、ゲームの矛盾も少しは戻るはずよ!」

「ねぇ、ひずみなんてどこにあるの…?」


どうやら、ゲームの世界の住人であるあやめには見えないようだ。

「後で説明します…!とりあえず、このドラゴンを倒しましょう!」

「了解!」「了解!」


ドラゴンは大きな口で咆哮し、威嚇してきた。両者共に気合十分だ!

3人は臆することなく、連携プレーを生かし、大神は突進して『果物ナイフ』でドラゴンの心臓部分を、かえでは背後に回り込んで『レイピア』で背中を、あやめは跳躍して『野薔薇の鞭』で目を、それぞれ攻撃した!

だが、ドラゴンはさほど苦しむことなく、平気で立っている。

「〜〜あまり効いてないみたいね…」

かえではドラゴンが振り回している尻尾攻撃をよけながら、『モンスター・ブレスレット』でドラゴンの生態を調べた…!

「〜〜物理攻撃に耐性があるみたいね…。弱点は『氷』ですって…!」

「私が魔法を詠唱するわ!発動までドラゴンの気をそらしといて頂戴!」

「了解!」「了解!」


詠唱中のあやめが攻撃されないように、大神とかえではドラゴンの気を引きながら攻撃することにした。

「はああああっ!!」

「やああああっ!!」


カキーン…!!ドラゴンの体は硬いうろこで覆われており、先程と同じようになかなかダメージを与えられない…!

「〜〜レベル1桁で倒せる相手じゃないな…。戻って経験値稼ぎするといっても、ボス戦では逃走できないし…」

「〜〜きゃああっ!!」


ドラゴンが歩く度に洞窟内に地震が起き、とても立っていられない…!

「いやああんっ、揺れるぅ〜!」

「あぁんっ、ダメぇ〜!これじゃあ呪文が唱えられないわ…!」

「〜〜くっ、あやめさん、さっきの『スリープ』をお願いします…!」

「〜〜駄目よ…!眠りに耐性があるわ…!!」

「〜〜く…っ、とりあえず回復を――!きゃあああああっ!!」


あやめはドラゴンの尻尾に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられて気を失った。

「〜〜姉さん…!!」

「〜〜くそ…っ、よくも――!」


ドラゴンは口から炎を吹き、大神とかえでは火の海に包まれた!

「うわああああ…!!」

「きゃああああ…!!」


強力な攻撃に大神とかえでは傷だらけになって倒れた…!HPも残りわずかである…。

「〜〜くそっ、かえでさん、回復魔法は覚えてませんか…!?」

「〜〜ごめんなさい…。覚えてないわ…」

「〜〜そうですか…。回復アイテムも使い切ってしまったし…。〜〜このままだとゲームオーバーに…」


すると、大神の視界に岩に刺さるあの宝剣が入ってきた。

(――いちかばちか、あれに賭けてみるしか…!)

大神はドラゴンの攻撃をよけながら岩に駆け寄ると、宝剣の柄を掴んだ。

「大神君…!?」

「〜〜頼む…、抜けてくれ…!――うわああっ!!」


宝剣の守り神であるドラゴンは、宝剣を抜こうとする大神に再び強力な炎を吐いた!

「〜〜いけないわ!これ以上、ドラゴンを刺激したら…!!」

「〜〜それでも…諦めるものか…っ!く…っ!!」


大神が諦めずに宝剣を引っ張り続けたその時、ドラゴンの炎が気絶して倒れているあやめに降りかかろうとした…!

「あやめさん…!!」

大神はあやめに『かばう』を発動し、あやめを抱きしめて、炎をよけた!

「――うう…ん…っ、――え…?お、大神…君…!?」

「安心して下さい。あなたは俺が守ります…!」

「大神君…」


あやめ姫の好感度が上がった!

「姉さんは私に任せて、早く宝剣を…!」

「お願いします!〜〜くそ…っ、頼むから抜けてくれ…!!」


大神が力いっぱい引っ張ると、刀身が少し岩から抜けた。

「やったぞ…!この調子で…――ハッ!?」

ドラゴンは、今度はかえでに向かって炎を吐こうとしていた…!

「〜〜かえでさん…!!」

大神が再び『かばう』をかえでに発動しようとしたその時…!

「――『アイス・ブレード』!!」

好感度が上がって『やる気最高』状態になったあやめが詠唱短縮魔法で放った氷の刃がドラゴンの首を貫いた!

「ギャアアアアア…!!」

「助かったわ、姉さん!」

「ふふっ、姉さんが守るって言ったでしょ?――大神君、今のうちに…!」

「はい!――うおおおおお…っ!!」


大神は宝剣の柄を両手で握り、力いっぱい引いた。

「――俺は勇者になるんだあああああっ!!」

大神は霊力のオーラを全身から放つと、一気に宝剣全体を引き抜いた!

「やったわ…!」

すると、宝剣の刀身は不思議な光を放ち、ドラゴンの目を眩ませた!

「ドラゴンに隙ができたわ…!」

「今よ、大神君!」

「――狼虎滅却・快刀乱麻ぁぁぁっ!!」


大神は飛び上がり、黄金に光輝く宝剣でドラゴンの心臓を突き刺した!

「ギャアアアアアアア…!!」

ドラゴンが倒れると、かえでの予想通り、ひずみも消えた。同時に、巨大なドラゴンの死体も不思議と跡形もなく消え失せたのである。

「やったぞ…!」

すると、貴重品袋に入っていた『冒険の書』が宝剣と同じ黄金の光を放ち始めた…!

「これは現実世界でもらった…!?」

「自動的に冒険の記録が書き込まれたみたいね…。けど、私達が経験してきたゲームの物語と少し違うわ…」

「本当だ…!さっき倒したドラゴンがいないことになってますね…」

「きっと、これが元からプログラミングされていた物語だったんだわ!ひずみが失くなったから、矛盾もなくなって、元の物語に少し近づいたのね」

「えっと、ドラゴンの代わりに書いてあるのは…、『――宝剣を手に入れた勇者の前に謎の女戦士が現れた。その名は――』」

「――真宮寺さくら…」

「え…?〜〜…っ!?」


その時、黒くて軽い鎧を身にまとったさくらが大神に霊剣荒鷹で斬りかかってきた…!

「さ、さくら君…!?」

「フフフ…、まさか本当に宝剣を手にする勇者が現れるとはね…!」

「〜〜どうやって侵入したのです…!?入口の封印は王家の者にしか解けぬはず…!」

「フフ、ご機嫌麗しゅう、あやめ姫様にかえで姫様。――いえ、血の繋がったお姉様方と呼んだ方がよろしいかしら?」

「え…?」

「――うわあああ〜っ!!」


その時、兵士達の悲鳴が聞こえてきて、彼らは次々に倒れていった…!

「〜〜何があったの…!?」

「〜〜お…、お逃げ下さい…。魔王の手先が…侵入し…、国王…様を…!」

「〜〜お父様が…!?」

「あははははっ!サクラ家の天下も今日でおしまいよ…!!」

「〜〜まさか、さくら君は魔王の手下なのか…!?」

「〜〜そんな…!――さくら!正気に戻って…!私達がわからないの…!?」

「ふふふ、言われなくても、よ〜くわかってるわよ、勇者・大神とかえで姫…。――魔王様の邪魔をする虫ケラだってことをねぇ…!!」


さくらが荒鷹を振り下ろすと、その剣圧に大神とかえでは吹き飛ばされた…!

「うわあああっ!!」

「きゃあああっ!!」

「〜〜大神君、かえで…!!――きゃあああっ!!」


さくらはあやめを羽交い絞めにすると、荒鷹を首に突きつけた!

「フフフ…、一緒に魔王様の元へ来てもらうわよ、あやめお姉様…!」

「〜〜いやああっ!!助けて!大神君…っ!!」

「〜〜あやめさあああん…っ!!」


大神とあやめは手を伸ばし合ったが、あと一歩の所で届かなかった…。

「――米田国王に伝えなさい。お前の大切なあやめ姫は魔王様の妃になる。式をすっぽかしたら承知しないとねぇ…!あっはははは…!!」

さくらは高笑いをしながら、あやめ姫をさらって、消えていった…!

「そんな…。〜〜くそぉっ、あやめさん…!」

「〜〜まさか、さくらが敵方だったなんてね…。これもひずみから生じた矛盾なのかしら…?」

「それとも、単に魔王とやらに操られてるだけかもしれませんし…。〜〜それより、米田国王が心配です…。城に戻りましょう!」

「そうね…!」


大神とかえでが急いで階段を駆け上がって、城に戻ると、すでに城内は火の海と化していた…!

「〜〜ひどい…!どうしてこんな…!?」

「〜〜うわああ〜っ!!」


城の兵士達が次々に倒れていく…。

その中で、傷だらけの米田国王も魔王の手下である闇のモンスター達と戦っていた…!

「〜〜国王様…!」

「おぉ、お前さんらか…!へへ、宝剣を手に入れることができたみてぇだな。俺の見込んだ通りだぜ…。〜〜ぐ…っ!」

「〜〜お父様…っ!しっかりして下さい…!!」

「〜〜へっ、情けねぇったらありゃしねぇ…。年取ったせいか、剣の腕が鈍っちまってよ…」

「山崎近衛隊長は…!?」

「〜〜あいつなら…死んだよ…。俺をかばったばかりにな…」

「〜〜そんな…!?」


その時、炎に包まれた柱と天井が3人のいる所に焼け落ちてきた。最早、城が崩れ落ちるのも時間の問題だ…!

「〜〜とりあえず、外へ逃げましょう!俺の肩につかまって下さい…!」

「〜〜すまねぇ…!」


つい数時間前まで平和だった城が、今や地獄絵図と化していた…。

熱い炎と煙にまかれる中、あちこちで兵士やメイド達が助けを乞い、泣き叫ぶ声が聞こえてくる…。

大神とかえでは途中で出くわした魔王の手下達と剣を交えながら、米田国王を連れ、何とか城の外に逃げることができた…!

「〜〜ハァハァ…、ご無事ですか、国王様…!?」

「〜〜ゲホッゲホッ…!あぁ、何とかな…」

「――国王とかえで姫が逃げたぞ〜っ!!」

「〜〜く…っ、ここも危険だわ…。どこか隠れられそうな場所は…!?」

「ここから南にモギリ村という小さな村がある。情けねぇが、そこでしばらく匿ってもらおう…」

「わかりました。しっかりつかまってて下さいね…!」


サクラ城が焼け落ち、パニックに陥る王都・フジエダ=ハーレムを背に、大神とかえでは米田国王と共にモギリ村を目指した…。

第1章、終わり


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