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「サクラクエスト
〜勇者・大神とかえで姫の冒険〜」

第1章「勇者、誕生!」その2



あやめに先導され、大神とかえではランプを持ちながら、地下に続く薄暗い階段をひたすら下りていく。

「暗いから、足元に気をつけてね?」

「あ…、はい!」

「〜〜きゃあっ!!」

「危ない…!!」


階段を踏み外したかえでを大神は間一髪で抱きとめた…!

「はぁ…、よかった」

「ごめんなさい…。ありがとう、大神君」

「そのドレスと靴じゃ歩きづらいですよね…。俺の手を握ってて下さい」

「ふふっ、ありがとう」


大神はかえで姫をエスコートしながら階段を下りきると、鉄格子の奥にある重厚な扉が目に留まった。

「あの扉がダンジョンへの入口よ」

兵士達が南京錠を外して鉄格子を開けると、あやめは扉に触れた。すると、表面に魔法陣が浮かび上がり、大きな扉が左右にゆっくり開いた。どうやら、王家の者しか扉の封印を解けない仕掛けになっているみたいだ。

「ここがダンジョンか…」

大神とかえでは真っ暗な扉の向こうを覗いた。

「〜〜真っ暗で何も見えないわね…。見ているだけで、闇に吸い込まれてしまいそう…」

「王家の名誉と財産を狙う何万という者が挑戦したけど、帰ってきたのはほんの数名みたいよ」

「〜〜何万人が数人か…」

「ふふっ、怖気づいちゃった?」

「い、いえ…!――大神一郎、行って参ります…!!」

「私も行くわ…!」

「〜〜おやめ下さい、かえで姫様…!姫様にもしものことがあれば――!」

「これは私と大神君の問題よ!夫のサポートもできないような女が良い妻になんてなれるわけないものね」

「かえでさん…。ありがとうございます…!」

「…どうしても行くつもりなのね?」

「えぇ、止めても無駄よ」

「ふふっ、あなたが私の言うことをきかないくらい、最初から想定済みよ。――いいわ。なら、私も同行します」

「〜〜いぃっ!?あやめさんもですか…!?」

「あら、私じゃ頼りない?ふふっ、これでも結構、腕が立つんだから!かえで一人を守るくらいお安い御用よ」

「〜〜べっ、別に姉さんの助けを借りなくても自分の身くらい守れるわ…!」

「あら、組み手も剣の手合せも私に一度だって勝てたことあったかしら?」

「〜〜うっ!そ、それは…」

「しかし、それでは試練の意味が…」

「それは心配しなくても大丈夫よ。実際、このダンジョンに挑んだほとんどの人が優秀な傭兵を何人も雇っていたんだから。女で、しかも戦いのプロじゃない私達が一緒に行ったところで全然ズルくなんてないわよ。ね?」


あやめに上目遣いでニッコリ微笑まれたものだから、大神は赤くなって、またデレデレと鼻の下を伸ばした。

「そ、そうですね…!よろしくお願いしま…〜〜い…ってぇっ!!」

その大神の足をかえでは再び容赦なくハイヒールで踏みつけた!

「ほほほ…、ハイヒールって滑りやすいのよね。――さぁ、さっさと参りましょう。勇者様」

「〜〜か、かえでさん…!一人で行ったら危ないですって…!!」

「〜〜だったら、さっさとついてくるっ!!」

「〜〜いてててて…っ!!耳引っ張らないで下さいって…!!」

「ふふっ、仲が良くて羨ましいわ」


ランプをかざしてみると、中は岩の洞窟のような構造になっていた。

「〜〜けほっ、こほっ…!随分、埃っぽいのね…」

「仕方ないわ。最後の挑戦者が旅立ってから、もう20年以上放っとかれたままなんですもの」

「その挑戦者は帰ってきたんですか?」

「〜〜残念ながら…ね。見つけたら、骨を拾っていってあげましょうか」

「そうね…。〜〜ミイラ取りがミイラにならなければいいけど…」

「空気も悪いですし、早めに探索を終わらせましょう。最初のダンジョンですから、難易度も低めでしょうし…」

「難易度って?」

「〜〜いえ、こちらの話です…。さぁ、行きましょう!」


3人が歩き出したその時、コウモリタイプのモンスター・バットが現れた!

「出たわね…!?」

「私に任せて…!――はああっ!!」


あやめは『野薔薇の鞭』を使い、バットを瞬殺した!

「い、一撃で…!?」

「すごいわ…!さすがあやめ姉さんね…」

「私の場合、鞭の他にも戦士の剣・ガンナーの銃・武闘家の爪も装備できるの。どう?足手まといにはならなそうでしょ?」

「はい、とても心強いです!さすがはあやめさんですね…!」

「〜〜むっ…」

「ふふ、安心してね、かえで。危なくなったら姉さんが助けてあげるから」


現実世界と同じように自分より戦闘能力の高いあやめにかえでは嫉妬したが、同時にこの感情が懐かしいとも感じていた。

『――かえで、どんなことがあっても姉さんが守ってあげるからね…!』

母親が亡くなり、姉妹二人で親戚中をたらい回しされていた時、あやめだけは幼いかえでの味方で、いつも優しく励ましてくれた…。子供の頃はそんな姉が大好きで、頼りにしていた。姉さんがいるだけで安心できた…。

けど、思春期を迎えると、優秀で皆から慕われるあやめをいつしか妬み、ライバルとして憎むようになっていた…。

けれど、あやめは変わらずに最後までかえでを愛してくれた。自分の死期が近いことを悟っていたのだろう。しかし、そんな状況でも自分の身より、妹が天涯孤独の身になってしまうことを悲しみ、気がかりでいた…。

「――かえで…?ふふっ、ボーッとしてどうしたの?」

「ふふっ、いいえ…。姉さんは相変わらずお節介だなって思っただけよ」

「もう、かえでったら…。ふふふっ」


顔を伏せ、涙を堪えるかえでの肩を大神は優しく抱き寄せた。

「お姉さんに甘えられるチャンスですよ」

「そうね…。〜〜でも、この世界の姉さんは…」


これはゲームであり、この世界の住人も全て虚構…。

それでも、かえではもう一度あやめに会えて嬉しかった。どんなにクールに気取って隠そうとしても、かえでの気持ちを大神はよくわかっていた。

「現実とか虚構とか、どうでもいいじゃないですか。今、現に俺達の目の前にあやめさんは存在してるんですから…」

「大神君…」

「何してるの〜?早く来ないと置いてっちゃうわよ〜?」

「ちょ…っ、ちょっと待ってよ、姉さん…!」

(――よかったですね、かえでさん…)


あやめに駆け寄るかえでの笑顔につられて、大神も微笑んだ。

「う〜ん…、分かれ道だわ…。どっちに行きましょうか?」

「突き当たりがある短い道だと、宝箱が置いてある可能性が高いんですよ。まずは勘で…、左に行ってみましょうか」


進んでいくと、大神の推測通り、宝箱が置いてあった。

「やったぞ!宝箱、発見だ…!」

大神は宝箱を開けた。『果物ナイフ』を手に入れた!

「お、『木の棒』より攻撃力が上がるみたいだ。早速、装備を変更しよう!」

「〜〜ちょ、ちょっと…!勝手に持ち出したりしていいの…!?」

「RPGのシステムって、そういうものなんですよ。宝箱をくまなく探した方が敵と多く戦えて経験値も稼げますし、一石二鳥ですしね!」

「へぇ〜、そうなの…!」

「ふふっ、さすがゲーマーの大神君ね!」

「ははは…。――あっ、あそこにも宝箱が…!」

「――あっ!待って、あれは…!!」

「え?〜〜うわあっ!?」


大神が近づくと、宝箱がいきなり大きな口と鋭い牙を持つモンスターに変わり、大神を丸呑みしようとした!

「〜〜危なかった…!これはミミックですね…!?」

「えぇ。宝箱のふりをして、近づいてくる冒険者達を食らうモンスターよ。なかなか手強いと聞いてるわ…!」

「その代わり、倒せば普通のモンスターより多く経験値と金がもらえるんですよ。普通の宝箱よりレアなアイテムも入手できますしね!」

「〜〜呑気に解説してる場合じゃないと思うんだけど…!?」

「来るわよ…!」


ミミックが襲ってきた!ミミックの先制攻撃『かぶりつき』!!

「うわああっ!!」

「大神君…っ!!〜〜きゃあああっ!!」


ミミックは大神とかえでにかぶりついた!

「1ターンに2回攻撃だと…!?〜〜敵の動きが速すぎる…!」

「――『スロウ』!!」


あやめは『スロウ』をかけた!ミミックのスピードが遅くなった!

「ありがとうございます、あやめさん!」

「魔法が効いてるうちに一気にたたみかけるわよ…!」

「了解です!――でやあああっ!!」

「必殺!『乱れ突き』!!」


大神とかえでの攻撃でミミックは倒れた!

「やったわ!」

「――ん?何か落ちてるぞ…」


大神は『たいまつ』を手に入れた!

「何に使うんだろう…?明かりなら、もうランプがあるしな…」

「どこで役立つかわからないし、一応、貴重品袋に入れておきましょう」

「そうですね」


ミミックを倒した大神達は、再びダンジョン探索を始めた。

「それにしても、最初のダンジョンからミミックを用意してるなんて…。〜〜難易度高そうだな、このゲーム…」

「ふふっ、ひずみの影響でそう改変させられてるだけかもしれないわ。とにかく、この調子で頑張りましょ!」

「そうですね!頑張りましょう…!!」

「それより、剣のある場所はまだなのかしら…?もう随分歩いたと思うんだけど…」

「そうね…。とりあえず、さっきの分岐点まで戻ってみましょうか」

「了解!」


今度は先程の分岐点を右に進んでみたが…、

「あら…、行き止まりみたいね…」

「おかしいわね…。もう他に道なんてなかったわよ?」

「あ、そうだ…!さっきの『たいまつ』を使ってみたらどうでしょう?暗闇で見落としているスイッチとかがあるかもしれませんし…」

「そうね。使ってみましょう…!」


大神は『たいまつ』に火を灯した!

すると、行き止まりだと思っていた壁に隠し扉があるのを発見した!

「こんな所に隠し扉が…!」

「仕掛けが解けた時の達成感…。RPGの醍醐味だよな!」


扉を抜けると、待ち伏せていたかのように蜘蛛タイプのモンスター・毒グモが襲いかかってきた!

「〜〜でっかい蜘蛛ですね…。すみれ君がいたら、大騒ぎだな…」

「さっきのミミックより動きが遅いわね。一気に片づけちゃいましょ!」

「ちょっと待って!地道にダメージを与えていくのもいいけど、もっと効率良く決着をつけられる方法があるわ。――かえで、これをつけてみて」


かえでがあやめに手渡された腕輪をつけてみると…!

「えっ!?モンスターの情報が頭の中に入ってくるわ…!」

「『モンスター・ブレスレット』よ。はめれば、敵の名前や種族、耐性や弱点までわかってしまうの!さぁ、あの蜘蛛の弱点は何?」

「『火』よ…!耐性は『土』ですって!」

「了解!――『ファイヤー・ボール』!!」


あやめの放った火の玉魔法に毒グモは苦しんでいる…!

「これで一気にHPが減ったはずだ…!――俺も行きます…!『紅蓮斬』!!」

大神は炎をたぎらせたナイフの刀身で毒グモにとどめを刺した!

「ギャアアアア…!!」

毒グモは断末魔の叫びをあげながら、大きな音を立てて地面に倒れた。

「よくやったわ、二人とも!」

「あやめさんのアシストが見事だからですよ。――ね、かえでさん?」

「ふふっ、確かにね」

「ふふ、お役に立ててるみたいで嬉しいわ。――そのブレスレット、あなたにあげるわ。これからは猟師の奥さんとして、旦那様の狩りをサポートしてあげなくちゃね!」

「ふふっ、そうね。ありがとう、姉さん」

「さぁ、先に進みましょうか…!」


毒グモに背を向けて歩き出そうとしたその時、まだ息があった毒グモは、あやめめがけて毒の液体を口から吐いた!

「きゃあ…っ!?」

ジュ…ッ!と毒の液体はあやめの腕を少し焼いた。

「〜〜姉さん…!!」

「〜〜くそ…っ!たああああっ!!」


大神のナイフ攻撃で、毒グモは今度こそ息絶えたようだ。

「あやめさん、大丈夫ですか…!?」

「〜〜毒を受けてしまったみたいね…。ごめんなさい。油断したわ…」

「〜〜とにかく、『ハーブ』で傷を治さないと…!」


大神とかえでは急いで持ち物袋の中を見た。HPを回復する『ハーブ』は入っていて使えたが、毒消し用の薬草は入っていないようだ…。

「〜〜困ったわね…。毒を消す魔法なんて知らないし…」

「〜〜かといって、毒状態のまま歩くと、少しずつHPが減っていって、最終的には瀕死になってしまいますし…」

「〜〜私はここに残るわ。一緒に行けば、足手まといになっちゃうもの…」

「〜〜駄目よ…!そんな状態でモンスターに襲われでもしたら…!!」

「私のことは気にしないで…。――ほら、早く行きなさい…!宝剣を持って帰って、結婚を認めてもらうんでしょ?」

「〜〜でも…――!」


すると、大神はあやめの傷口に唇で触れると、毒を吸い、吐き捨てた。

「お…、大神君…?」

「ゲームだと、こういうことはできませんけどね…。具合はいかがですか?」

「だいぶ良くなったわ…。体の痺れと吐き気が消えたみたい」

「はぁ…、よかった…!毒が全身にまわる前で…」


安堵して微笑んだ大神を見つめて、あやめは頬を紅潮させた。

「ありがとう、大神君…。お陰で助かったわ。ふふっ、姉の私まで助けられちゃったわね」

「はは…、無事でよかったです、あやめさん」

「大神君…」

「〜〜ちょ〜っと、いいかしら〜、大神君っ!?」

「〜〜いぃっ!?」


あやめと見つめ合って良い雰囲気になっていた大神の腕をかえでは引っ張って立ち上がらせた。

「ど、どうかしたんですか…?」

「ここに妙な魔法陣があるんだけど、何なのかしら…?」


その魔法陣は床に描かれた大きなもので、青白い光を放っていた。

「防御と癒しの陣形がミックスしたタイプのものね…。モンスター除けの休憩所ってとこかしら?」

「なるほど…!ゲームでいうところのセーブポイントってわけか…。――さすがあやめさん、魔法陣にもお詳しいんですね!」

「ふふっ、前に本で読んだだけよ」


仲良く喋る大神とあやめにかえではますます嫉妬し、腕を組んで頬を膨らませた。

大神とあやめとかえでが魔法陣の中に入ると、癒しの風が3人の傷を治し、体力と魔力を回復させた。

「すごいな…!ただ入っただけなのに元気が出てきたぞ…!」

「この中は安全みたいだし、少し休んでいかない?」

「…こんな不気味な場所じゃ、ゆっくり休めないんだけど?」

「ちゃんとHPとMPを回復しておかないと、ボス戦の時に厄介ですよ?」

「あっ、そう。…すぐそうやって、あやめ姉さんの味方するんだから。フン!」

「かえでさん…?何を怒ってるんですか?」

「〜〜別に怒ってないわよっ!」

「ハハ、嘘ですね。かえでさんって怒る時、すぐ頬を膨らましますもん」

「〜〜んもう…!放っといてっ!!」

「ははは…!」


かえでのほっぺを触って遊ぶ大神と、拗ねながらも笑うかえで。楽しそうにじゃれ合う二人をあやめは見つめ、口元を緩ませた。

「ふふふっ…!あなた達、まだ知り合って間もないのに、いつの間にそんなに仲良くなったの?」

「え?〜〜そ…、それは…なんというか…」

「ふふっ、何だか嫉妬しちゃうな…。出会わせてくれた盗賊に感謝しなくちゃね?」

「はは、そうですね」

「…そろそろ行きましょうか。これ以上、こんな気味悪い場所に長居したくないもの」

「あっ、待って下さいって…!はぐれたら厄介――!」


立ち上がった大神の裾をあやめが引っ張って呼び止めた。

「あやめさん…?どうかされましたか?」

「…ねぇ、大神君。――もし…、盗賊にさらわれたのが私の方だったら…、かえでみたいに助けてくれた?」

「もちろんですよ…!それに、さらわれたのがどんな人でも俺は助けるつもりです」

「ふふっ、あなたらしいわね。ありがとね。それを聞いたら、嬉しくなっちゃった…!――あなたみたいに勇敢な人が次期国王なら、この国も安泰でしょうにね…」

「え…?」

(そ、それってもしかして…!?)

「〜〜ごめんなさい…。こんなこと言われたら迷惑よね…。あなたはかえでと結婚するんですもの…。今のは忘れてね…?」

「あやめさん…」

『――大好きよ、大神君…。ずっとずっと傍にいてね…』


あやめと愛し合っていたあの頃の思い出が走馬灯のように駆け巡る…。

大神は嗚咽を押し殺しながら、強くあやめを抱きしめた。

「え…?」

あの永遠の別れの日から今までずっと思っていたこと…。もう一度この手であやめを抱きしめたい…。その念願がやっと叶った…。

「お…、大神…君…?」

抱きしめられて赤くなっているあやめを大神は苦笑しながらゆっくり離した。

「ご無礼を失礼致しました。かえでさんは俺が必ず幸せにしますから…!」

「ふふっ、えぇ。約束…ね!」

「はい…!」


大神は微笑むと、あやめと指きりをした。

たとえ紅蘭の作り上げた虚構…、実在しない世界に住む住民だとしても、大神はもう一度あやめと出会えて、変わらぬ温もりを感じられて、幸せだった…。

大神とあやめがかえでの後を追って歩いていくと、途中でかえでが壁に寄りかかって待っているのが見えた。

「…その顔だと、もう平気みたいね?」

「えぇ。思い出は美しいまま、心の中にしまっておこうと思います…。――それに今の俺には、かえでさんがいますから…」

「ふふっ、大神君ったら…!」


かえでは満面の笑みで大神に抱きついた。

「ふふっ、はいはい。続きは城に戻ってからにしてくれる?」

「あ…はは…、はい!では、行きましょうか…!」


大神とかえでは見つめ合って手を繋ぐと、あやめと共に最深部を目指した。


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