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「サクラクエスト
〜勇者・大神とかえで姫の冒険〜」

第1章「勇者、誕生!」その1



長い長いトンネルを抜けると、小さな光が見えてきた。

「あの光は…!?」

光が大きくなっているのか、それとも自分達が光に近づいているのかはわからないが、だんだん太陽のような強い光を放って、輝き始めたのだ。

「きゃあ…っ!!」

「〜〜く…っ!かえでさん…!!」


異世界への突入に体に負担がかかっていたが、愛する人を守りたいという強い想いから、大神はかえでを強く抱きしめ、強い光に固く目を瞑った。

周囲が暗闇から光に変わっていくにつれて、二人の意識はだんだん薄れていった…。

それから、どれくらい経っただろう…?

「――う…ん…。ここは…どこだ…?」

大神はふっと意識を取り戻し、ゆっくり体を起こした。まだチカチカする目で辺りを見回してみる。

まるでヘンゼルとグレーテルでも出てきそうな薄暗い森…。帝都では見かけたことがない。

どうやら、ゲームの世界に入ることに成功したみたいだ。

「ここがゲームのバーチャル世界なのか?何だか信じられないな…。現実の世界とあまり変わらないように見えるし…〜〜って、何だ、これは…!?」

大神は自分に驚愕した!この世界に来るまで着ていたもぎり服ではなく、頭には鉢金、簡素な鎧に赤いマント、腰には鞘がついたベルトを装着していた。

「こ、これがこの世界での俺の衣装ってわけか…。まるで勇者だな…」

「――う…んん…」

「ハ…ッ、――かえでさん、ご無事ですか…!?〜〜って…!?」

「え…?」


すぐ隣に倒れていたかえでも目を覚まし、自分の姿に驚いた…!宝石がたくさんついた王冠に、深いグリーンの美しいドレスとお揃いのハイヒール…。

「〜〜な、何なの、この姫君のような格好は!?大神君が着替えさせたの…!?」

「〜〜ち、違いますって…!俺も起きてみたら、こんな格好に――!」

「――ガアアアッ!!」


そこへ、狼タイプのモンスター・ガルムが茂みから飛び出してきた!

「きゃあっ!お、狼…!?」

「早速、モンスターのお出ましみたいですね…!」

「グルルル…」


大神はかえでをかばいながら、鞘から武器を抜いた。

「〜〜いぃっ!?ただの『木の棒』じゃないか…!せめて『木刀』にしといてくれよ…」

「私の武器は『レイピア』みたいね。――さぁ、行くわよ、勇者さん!」

「〜〜ええいっ、最初の敵だし、何とかなるだろ…っ!――でやあああっ!!」

「はああああっ!!」


普段から戦い慣れている大神とかえでは、ガルムを瞬殺した!

「やったぞ…!」

「あら?何だか能力が全体的に伸びたような…」

「レベルアップしたみたいですね。面倒がらずに出会ったモンスターを確実に倒して、経験値をためていくのが早くクリアーするコツですからね」

「なるほど。急がば回れってわけね!ふふっ、さすが男の子。詳しいのね」

「ハハ…、ゲームの試作品をたくさんやっておいてよかったです…――」

「――いたぞ〜っ!!」


そこへ、ホイッスルのような笛が鳴ったと思ったら、兵士達が大神とかえでを取り囲んだ!

「な、何だ…!?」

「おのれ、若造…!庶民の分際で、かえで姫様をたぶらかすとは何たる不届き者…!!」

「か、かえで姫…!?…って私なのよね…?」

「〜〜ちょ、ちょっと待って下さい!話が全く見えないのですが…」

「フフ、今さらとぼけるつもりか?大神よ、貴様はかえで姫様と駆け落ちして、この森に迷い込んだのだろう!?」

「〜〜姫と駆け落ちする勇者なんて聞いたことないぞ…?」

「ふふっ、勇者様ったら積極的なのね♪」


と、かえでは大神にぴとっと寄り添った。

「姫様、その男から離れて下さい…!」

「そんな貧しい村の猟師と駆け落ちなど…!〜〜亡くなったお后様も、さぞ嘆いておられることでしょうに…――」

「――無礼者!この方は私の婚約者。つまり、次期国王となられるお方ですよ!?私達の仲を阻害しようと企む者は全員、打ち首の刑に処します!!」

「〜〜ひいいっ!!お許し下さいませ、姫様…!!」

「〜〜私には妻と幼い娘がいるんです〜…!!」


兵士達は慌てふためき、全員かえでに土下座した。

「ふふっ、こういう台詞、一度言ってみたかったのよね〜♪」

「〜〜それじゃあ、マリー・アントワネット並のワガママ王女ですけどね…」

「――あら、こんな所にいたのね」

「あやめ姫様…!」


優雅に歩いてきた菖蒲色のドレスの女性に兵士達は背筋を伸ばし、敬礼した。

上品な雰囲気が漂うその姫君は、あやめにそっくりの顔立ちをしていた。

「あやめさん…!?」

「姉さん…!!」

「ふふ、その様子だと怪我はないようね。――大神君は盗賊にさらわれた妹を助けて下さった恩人ですよ?あまりにも無礼ではありませんか…!」

「〜〜はっ!しかし、それがきっかけで、かえで姫様はこの男のことを…」

「ふふっ、よいではありませんか。サクラ王国の次期女王の座は第一王女であるこの私が継ぐことになっています。ですから、妹のかえでには王族の厳しいしきたりに縛られぬ、自由な恋愛結婚を認めてもよいでしょう?」

「姉さん…」

「〜〜そ、それは…」

「とにかく、二人が無事に見つかったのですし、一度城に戻りましょう。――かえで、それから大神君、あなた達もいらっしゃい。国王であるお父様にちゃんと挨拶してから出発なさいな。お父様ったらね、あなたが城を出て行ったのがショックで寝込まれてしまったのよ?」

「えっ!?〜〜それは大変だわ…!早く帰りましょう…!」

「〜〜俺…、ついていっても大丈夫なんでしょうか…?それこそ、いきなり打ち首とか言われるんじゃ…!?」

「ふふっ、そうなったら、私がうまくフォローしてあげるわ。――さぁ、サクラ城へ戻りましょう」


大神とかえでは、あやめ姫と護衛の兵士達と共に馬で森を抜けると、でこぼこ道を走る馬車に揺られ、サクラ王国の王都・フジエダ=ハーレムに向かった。

「うわぁ…、でっかい城下町だな…!」

「我がサクラ城がある王都・フジエダ=ハーレムは、サクラ王国の領土で一番栄えている街なのよ」


元気に働く人々。繁盛する店の数々。仲良く遊ぶ子供達。美しい自然が残る一方で、近代的な建造物が建ち並び、整備された煉瓦道が走っている。

人々の笑顔と街の活気がサクラ王国の繁栄を代弁しているかのようだ。

「素敵な街ですね…!」

「本当…!これが全部作り物なんて、信じられないわね…」

「ふふっ、おかしな子達ね。まるで初めて見るみたいに…」

「〜〜あ…ははは…」


大きな城門を抜けて馬車から降りると、大神とかえではあやめ姫に連れられ、城内に入った。

豪華で、センスの良い調度品の数々に目を奪われながら、国王のいる謁見の間へと歩いていく。

「西洋風の城なんて初めて入りましたよ…!」

「私もよ。けど、不思議ね。初めて見るはずなのにどこか懐かしいわ…」

「きっと、ゲームのキャラ設定がプレイヤーに反映されてるんですよ。王女のかえでさんが生まれ育った城を懐かしく思うのは当然でしょうからね」

「ふふっ、なるほどね」

「――ご無事でしたか、かえで姫様…!」


そこへ、下っ端の兵士よりも豪華な甲冑と紺碧のマントを身にまとった葵叉丹が近づいてきて、かえでにひざまずいた。

「〜〜あ…、葵叉丹…っ!?」「〜〜あ…、葵叉丹…っ!?」

「あおいさたん…?何ですか、それは?姫、ふざけてないで、こちらに――」

「〜〜きゃああっ!!近寄らないで…っ!!」

「かえでさんには指一本触れさせるものか…!!」

「…は?」

「ふふっ、かえでったら何を寝ぼけてるの?彼は山崎真之介。私達・王族の近衛隊長でしょう?」

「こ、近衛隊長…!?」

「ホ…ッ、なんだ…。ゲームの世界の住人だったのか」

「何をわけのわからんことを…。――貴様が大神一郎だな?本来ならば即刻死刑に処するところだが、かえで姫様のお命をお救いした功績は認めるとしよう。だが、ここはお前のような下賤な民の来る所ではない!即座に立ち去れ…!!」

「〜〜待って…!彼はかえでの恋人なのよ!?」

「フッ、あやめ姫様までそんな馬鹿げたことを…。第一、こんな卑しい身分の者が神聖な城をうろつくなど――!」

「いいから、あなたはもう下がりなさい!これは王女としての命令よ!?」

「……かしこまりました」


あやめ姫の命令で、山崎は大神を睨みつつ、渋々その場を離れた。

「〜〜助かった…」

「ごめんなさいね…?彼、軍人気質だから…。厳しいけど、根は悪い人ではないのよ?」

「承知しております。王族を守る任務を怠っていない証拠ですよ。特に俺のような、どこの馬の骨かも知れぬ男を警戒するのは当然でしょうからね」

「ふふっ、そう受け取ってくれると助かるわ。大神君は優しいのね」

「えっ?はは、それほどでも…」


あやめにデレデレする大神にかえではムッとし、ハイヒールで思い切り足を踏んだ!

「〜〜い…っ!?」

「おほほほ…、ごめんなさい。足が滑っちゃったわ」

「ふふっ、かえでったら」


廊下を歩いていると、城で働くメイド達の会話が聞こえてきた。

「――はぁ〜、今日の山崎隊長も素敵よね〜!」

「国立科学アカデミーを首席で卒業した上に、闘技場チャンピオンの称号を5年連続で獲得して殿堂入りしたらしいわよ!さすが若くして近衛隊長の座まで上り詰めたお方よね〜!」

「それに、あの甘いマスク…!たまに見せる氷の微笑がたまらないのよね〜!」

「私なんか今日、暴れ馬に襲われてるところを助けてもらっちゃった!」

「まぁ!なんて羨ましい〜!!」

「…ゲームの世界の山崎は良い人みたいね?」

「そうですね。紅蘭の好きなように設定できる世界ですし…」

「ふふっ、山崎少佐は紅蘭の永遠の憧れの先生ですものね」

「……この世界のあやめさんも山崎を慕っているのでしょうか…?」

「…気になるなら、本人に聞いてみればいいじゃないの」

「〜〜そ、そんなこと、王女に聞けませんって…――!」

「――随分楽しそうだけど、さっきから何を話してるの?」

「〜〜い、いえ…、大したことでは――!」

「――姉さんと山崎隊長はどんな関係なのか、彼が気になるんですって」

「え?」

「〜〜いぃっ!?ちょ…っ、かえでさん…!?」

「ふふっ、代わりに聞いてくれって顔に書いてあったわよ♪」

「ふふ、恋人だと思った?残念ながら、ただの王女と部下よ。確かにお父様は山崎隊長に一目置いてるし、私と婚約させたがってるみたい。彼は優れた軍人だし、リーダーシップもあって、この国の王にふさわしい器だろうって…」

「そ…、そうですよね…」

「――でもね、彼、好きな人がいるみたいなの。故郷に残してきた人がいるって、いつも手紙を伝書鳩に届けさせてるわ。どんな人なのか気になるけど、王女の私にも絶対教えてくれないのよね。ふふっ!」

「ふーん、そうなの。…じゃあ、あやめ姉さんはフリーってことね。〜〜よかったわねぇ、大神君?」

「〜〜ムカついたからって、俺にガン飛ばさないで下さいよ…。自分で聞いたくせに…」

「ふふっ、いつまでも姉さんにデレデレしてるあなたが悪いのよ♪」


ゴシック形式の柱の間を進んでいくと、豪華な装飾が施された大きな扉が見えてきた。

「――さぁ、着いたわ。ここが謁見の間よ」

兵士二人が扉を開いてくれたので、大神とかえでは、あやめ姫と共に謁見の間へ足を踏み入れた。

「――おぉ、かえで…!無事で何よりだった…!」

「よ…っ、米田支配人…!?」


玉座に座っていたのは、帝劇前支配人の米田にそっくりな国王だった。

「頭が高いっ!!米田国王様の御前であられるぞ!?」

「こ、国王様…!?」

「…ということは、私と姉さんの父親ってわけね」

「さすが紅蘭の作ったゲームだな…!この調子でどんどん顔馴染みが出てくるってわけか」

「ハッハッハ…!小さな村の猟師が一国の姫君と駆け落ちしようとは、なかなか面白ぇ話じゃねぇか。確かお前の名はオオガミだったな?」

「はい!ご無礼を失礼しました、国王様。自分は大神一郎と申します」

「うむ、礼儀正しい真面目そうな兄ちゃんじゃねぇか。気に入ったぜ!」

「あの…、国王様は倒れられたとあやめ姫様から伺ったのですが…」

「俺が?ハッハッハ…!あやめに一杯食わされたみてぇだなぁ。俺はこの通り、ピンピンしてらぁ!」

「〜〜な…っ!?――姉さん…!?話が違うじゃないの…!」

「ふふ、ああでも言わないとあなた、帰ってこないつもりだったでしょ?」

「〜〜そ、それはそうかもしれないけど…」

「嘘をついたりしてごめんなさい…。でも、お父様も城の者達も皆、あなたを心配してたのよ?」

「〜〜悪かったわ…。けど、きっと皆、私と大神君の結婚を反対するだろうと思って…」

「でも、一言でいいから私に相談してほしかったわ…。〜〜姉さん、それがとても悲しくて…」

「〜〜ごめんなさい、あやめ姉さん…」

「まぁまぁ、そのへんで勘弁してやれって。こうして無事に戻ってきたんだから、いいじゃねぇか。――それよりも…だ。大神よ、お前さんは本当にかえでを嫁にもらいてぇってーのか?」

「はい!身分の卑しい自分とかえで姫様では釣り合わないかもしれませんが…、それでも俺はかえで姫様を生涯愛することを誓いましたから…!」

「大神君…」


かえで姫の好感度が上がった!

「フッ、そうかい、そうかい。その心意気、気に入ったぜ。――だが、ただでやるってわけにはいかねぇな。王家代々の決まりってのがあるからよ」

「決まり…?」

「大神、お前に王女を嫁にもらう資質があるかどうか試練を課してやる。その試練を乗り越えることができたら、お前達の結婚式を盛大に城で挙げさせてやらぁ」

「ありがとうございます…!それで、その試練とは一体…?」

「なぁに、単純なことさ。この城の地下にはな、王家の紋章が刻まれた宝剣が岩に刺さって眠ってるんだ。その宝剣を引き抜くことができるのは、その剣に認められた者…、つまり勇者になる証を持った者だけだ。そいつを抜いて、ここに持ってくることができたら合格!お前さんとかえでは晴れて夫婦というわけだ!どうだ、わかりやすいだろう?」

「わかりました!大神一郎、粉骨砕身の覚悟で任務遂行に努めます!」

「ハハハ!軍人みてぇにお硬い奴だな。ま、その意気込みが最後まで続くことを願ってるぜ。地下には町の外と同じで、魔物がうようよ出るからな。気ぃ引き締めて行かねぇと、宝剣を見つける前にお陀仏になっちまうぜ?」

「了解しました!重々、気をつけて行って参ります!」

「よし、そんじゃ行ってくるがいい!――あやめ、入口まで案内してやれ」

「わかりました」


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