★6−4★



夕食中に蒸気テレビジョンでヤフキエル導入のニュースを観る大神達。

「……遂に本格的に導入されるみたいね…」

「〜〜くっそ〜っ!!こうなりゃもうヤケ食いだ!!――お〜い、おかわり〜!」

「あ〜、はいはい…」

「私もお願いします!!たくさん食べてヤフキエル並の体力をつけないと!」

「〜〜それは無理やろ…。向こうは4mもある機械やし…」

「お兄ちゃん、アイリスもおかわり〜!」

「はいはい…。〜〜ハァ…、熱海に来ても雑用係に変わりなしか…」


カンナ、さくら、アイリスのお碗にご飯をよそってやる大神。しゃもじで大神のお椀にごはんをよそり、大神に渡して微笑むあやめ。

「いいのよ。私がやるから、大神君も食べちゃって?」

「あ、ありがとうございます…」

(――ご飯をよそるあやめさんかぁ…。絵になるなぁ…)


かっぽう着でご飯をよそる妻のあやめを妄想し、嬉しがる大神。

「お兄ちゃん、お椀持ちながら喜んでる…」

「放っときぃ。大神はんかて現実逃避したいんや」


テレビを見て、イライラするすみれ。

「まったく、誰かさんのお国の会社のせいで、とんだ迷惑を被ってますわ」

「おいおい、ラチェットにあたることねぇだろ!?関係ねぇじゃんか!」

「フン、どうだか。案外裏で繋がってたりして…」

「〜〜すみれ君!」

「…フン、少尉まであんな女の味方するんですのね――」

「――頂きっ!」

「〜〜あぁっ!!ちょ…っ、何するんですの!?」


すみれの分の肉を横取りするカンナに怒るすみれ。

「…すまねぇな、ラチェット」

「いいえ、気にしてないから」

「そうか…!いや〜、ラチェットって金持ちなのに本当良い奴だよな〜!誰かさんと違って」

「〜〜何ですってぇっ!?どういう意味ですの、カンナさん!?」


すみれの怒りの矛先を自分に向けたカンナを見つめるラチェットを不思議そうに見る大神。黙々食べるあやめとマリア。

「あっ、ラチェットさんってお刺身、食べられるんですね〜!」

「えぇ、和食はヘルシーで美味しいから、アメリカでも人気があるのよ」

「そうなんですか…!うふふっ、日本の文化が外国で受け入れてもらえてるだなんて、何だか嬉しいですね!」

「そうね。私も日本に来た頃は独特の風習に戸惑うこともあったけど、今ではすっかり日本の文化が好きになったわ」

「いろんな国と異文化交流できるんも、花組ならではやね!」

「そうよね!――花組…、失くしたくないなぁ…」


苦笑するさくらにうつむく大神達を見つめ、目を伏せるラチェット。

「――失くしてたまるか…!花組は俺達皆の居場所だからな」

大神の言葉に顔を上げ、安堵するさくら達を見つめるラチェット。

★            ★


「――神崎風塵流・胡蝶の舞っ!!」

「何のっ!!――破邪剣征・桜花放神〜っ!!」


チームに分かれて枕投げするさくら、すみれ、紅蘭、カンナ。

「これは…、就寝前の日本の儀式なの?」

「いえ、これは枕投げっていう定番の遊びなんですよ!〜〜きゃあっ!!」

「あはははっ!よっしゃあ、あと1人〜っ!!」


枕投げではしゃぐさくら達。椅子に座り、タオルをたたむあやめに寄り添うアイリス。あやめの前の椅子に座り、外の景色を見つめるマリア。

「…大変な時なのはわかるけど、せっかくなんだし、あなたも楽しんで?」

「ふふっ、私なりに楽しませてもらってます。…ただ、同じ部屋だと、寝首をかくのに都合が良いと思って」

「だったら、大神君も一緒に寝てもらう?」

「〜〜な…っ!?」

「ふふっ、冗談よ。でも、私はあの子を信じてやりたいわ。根は優しい子のはずだもの」


暗く来て、あやめに抱きつくアイリス。

「どうしたの?もう枕投げやらないの?」

「……うん。〜〜だって…」


枕投げに参加するラチェットを見つめるアイリス。

「…ラチェットのこと、嫌い?」

「わかんない…。〜〜でも、あのお姉ちゃんからすごく辛い気持ちが伝わってくるの…。だから、アイリスも悲しくなっちゃって…」

「そう…。大丈夫よ、皆がついてるでしょ?」


アイリスの頭をなでるあやめ。安堵し、笑ってあやめに抱きつくアイリス。

「…ラチェットとあやめさんは知り合いなのですか?」

「私の妹が…ね。よく言われるの、姉さんは軍人のくせに甘い、人を信用しすぎだって。でも、軍人も隊員も人の子よ?どんなに敵対しててもいつかは必ずわかり合えるって信じてる。あなたと大神君が良い前例でしょ?」

「くすっ、そうかもしれませんね…」

「今はマリアもお兄ちゃんのこと、大好きだもんね〜!」

「〜〜ア、アイリス――!」


カンナの投げた枕が顔面に当たるマリア。静かになる枕投げ中のカンナ達。

「〜〜わ…、悪い、マリア…。決してわざとでは――!!」

カンナ達を鋭く睨むマリア。ビビるカンナ達。

「――早く寝なさい。明日から地獄の特訓が待ってるのよ?」

「〜〜そっ、その顔で地獄とか言わないで下さい…っ!!」

「そんな怒んなって…!もうちょっといいじゃねぇか――おわっ!」


よろけたカンナの腕が襖を貫通。青ざめる一同。頭を抱えるあやめ。

「あ〜あ、破けちゃった〜」

さらに鋭くなるマリアの眼光にビビり、慌てるカンナ。

「〜〜あわわわ…!!ど、どうしよう…!?」

補修しようとし、カンナが襖の穴に腕を通したまま知らずに襖を開ける大神。よけい広がる穴。

「〜〜どわあああっ!!何すんだよ、隊長っ!?」

「え…っ!?〜〜うわああっ!!す、すまない!俺のせい…なのか?」

「ふっふ〜ん、大神はん、弁償やな〜!」

「きゃはははっ!お兄ちゃんが悪い〜!」

「〜〜そ、そんなぁ〜…」


笑う一同を見つめ、呆れながらも微笑むラチェット。

★            ★


ヤフキエル製造工場。潜入する加山が月組隊員達に合図。散らばって詮索する隊員達。監視中の米兵を待ち伏せして気絶させ、服をはいで米兵に紛れ込む加山、機密室を発見し、他の米兵が暗証番号を入力して入っていく後に続いて中へ。製造装置に入った降魔の死体に驚く。

「〜〜こ…っ、これは…、降魔…!?」

「――さすがは帝国華撃団の忍者部隊。ここに潜入できるとは見事です」


ハッと振り返る加山。歩いてくるブレント。

「ですが、これは我が社の最高機密事項。知ってしまったからには、生きて帰すわけにはいきませんね」

瀕死の月組隊員達を放り投げる米兵達。加山を取り囲むヤフキエル達。

「……なるほど、後藤大尉もこうして葬ったというわけか…」

「ククク…、その通り。我が社が誇る無人魔装機兵・ヤフキエルから逃れられた者は一人もいません…!」


ブレントの合図で一斉に加山をロックオンするヤフキエル達。

「〜〜た…っ、隊長…、ここは…我らに任せて…!」

「〜〜しかし…!」

「一人でも機密を持ち帰ることができれば我らの勝利…!さぁ、早く!」


逃げる加山をロックオンするヤフキエルに忍刀を刺す隊員だが、別のヤフキエルの光線に当たる。爆発音と隊員達の叫び声を聞いて涙をこらえながら懸命に逃げる加山。

「〜〜すまない…!!」

煙が晴れ、隊員達を足蹴にしながら再び加山をロックオンさせるブレント。

「――追え!絶対に逃がすな…!!」

全速力で飛行してくるヤフキエル。振り返り、青ざめる加山。爆発し、窓ガラスが割れて煙が噴き出す。

★            ★


熱海。桔梗の間。汗だくで飛び起きる大神。

(〜〜妙な胸騒ぎがする…。米田司令達、大丈夫だろうか…?……夜中の1時か…。まだ起きてるかな…?)

コンパクトで化粧を直し、桔梗の間の前まで来て入ろうとするラチェット。

「――眠れない?」

ラチェットの背後で微笑むあやめ。微笑み返すラチェット。キネマトロンを取ろうとする大神、気配に気づいて廊下を見るが、誰もいず。

「……あれ?今、誰かいたような気がしたんだけど…」

★            ★


夜の露店風呂に入るあやめとラチェット。

「う〜ん、気持ちいいわねぇ…!さすがにこの時間じゃ誰も入ってないか。――どう?花組には慣れてきた?」

「ふふっ、さすがは姉妹。同じような顔で笑うんですね。思ってもいないことを言うところ、妹さんとそっくりです。――素直におっしゃればよろしいのに、『彼の部屋に入れるのは私だけだ』って」

「…そういう下心があったから、あそこにいたの?なら、副司令として見過ごすわけにはいかないわね」

「あら、可愛い。ふふっ、隊員相手に妬いてるのかしら?」

「……悪いことは言わないわ。ブレントとは縁を切りなさい」

「あら、ふふっ、急に何を言い出すかと思えば…」

「とぼけないで!私はあなたにこんなスパイみたいなことしてほしくないの…。帝撃に来たのだって、最初から花組を潰す為だったんでしょう?」

「……副司令、名誉棄損ってご存知かしら?証拠もないのに新米隊員をスパイ扱いだなんて…。アメリカなら裁判沙汰ですよ?」


ポーチからラチェットのキャメラトロンを出すあやめ。驚くラチェット。

「通信記録を調べさせてもらったわ。悪く思わないで頂戴」

「〜〜立派なプライバシーの侵害だわ…!!本当に訴えるわよ!?」

「構わないわ。私も花組を守る為なら、一歩も退かないつもりだから」


悔しく睨むラチェットの手を取るあやめ。

「ラチェット、花組は星組じゃないの。星組はもうなくなったのよ…!もう誰もあなたを束縛なんてしないわ。私はただ、あなたの個性を認めて、普通の花組隊員として皆と仲良くしてもらいたいだけなのよ…!」

「仲良く?ふふっ、そんな心構えで戦いに勝てると思ってるわけ?あなただけでなく、ここの花組はみ〜んな変人ばっかりね。特訓メニューと称してビーチバレーや枕投げを課したり…。何て効率の悪いやり方なのかしら」

「確かにあなた達欧州星組は、戦士として申し分ない力を持っていたかもしれないわ。でも、それって本当の強さとは言えないでしょう?」

「戦士に必要なのは体力と武道の心得、そして、自信と誇りです。戦場で最後に頼りになるのは、結局は己のみ…。あなたのおっしゃる大事な仲間が全員死んだとしたら、協力したくてもできない状況になるでしょ?」

「そうならない為に協力するの。私達一人一人の力は弱いわ。でも、協力し合えばどんな敵にも負けない強い力が生まれるの!それをわかってもらいたくて、米田司令はあなたの研修を許可されたのではないかしら?」

「失望したわ。何が帝国華撃団よ!?それじゃお遊戯倶楽部と一緒じゃない!!」

「〜〜待って!まだ話は――」

「――私の正体をバラしたいならバラせばいいわ。いずれにせよ、花組なんて部隊は失くなるから、意味ないでしょうけど」


ほくそ笑み、風呂から上がるラチェット。ため息つくあやめ。脱衣所でスーツを着た自分を鏡で見つめ、眉を顰めるラチェット。

『――何なの、その格好は?あなたは皆の模範生なのよ!?』

派手な服を着た幼いラチェットの頬を叩くかえでを回想し、苛立って脱衣所のかごを床に叩きつけるラチェット。清楚な服が床に広がる。

★            ★


中庭。浴衣でうちわを扇ぎながらキネマトロンで三人娘と通信する大神。

「――じゃあ、まだヤフキエルは本格的に出動していないんだね?」

『えぇ。黒之巣会も警戒しているのか、あれ以来、動きがなくて…』

『逆に平和でいいけどね〜。私達も軟禁状態とはいえ、仕事しなくていいから蒸気テレビジョン見放題だし!このままダグラス・スチュアート社の傘下に入るのもいいかな〜なんて――』

『〜〜由里!冗談でもそんなこと言ったら駄目でしょ!?』

『支配人に言いつけて、由里さんのお給料、減らしてもらお〜っと!』

『〜〜何よ、椿!?あんた、最近ちょっと調子づいてないっ!?』


喧嘩する椿と由里に苦笑する大神。

「〜〜そ、そうだ。米田支配人の様子はどうだい?」

『反逆しないようにって、ず〜っとアメリカの軍人さんに囲まれて、息苦しそうですよぉ?』

『心配するなと普段通り笑ってらっしゃいましたが…、少し心配です…』

「そうか…。俺達の方は皆、元気だよ。明日から強化メニューを組んで特訓することにしたんだ」

『そうですか…!こっちも隙を見て必ず帝劇を奪還してみせますから、もう少し我慢してて下さいね』

「あぁ、俺達の留守中、頼んだよ」

『そんじゃ、もうそろそろ寝ましょうかぁ!』

『え?も、もう通信終わりなの…?』

『かすみ〜、愛しのダーリンと話してたい気持ちはわかるけど、バッテリーの無駄遣いできないでしょうが。配給されたのしか使えないんだから』

『〜〜そっ、そんな…!ちっ、違うんですよ!?今のは由里の嘘ですから…!!』

『かすみさん、赤くなっちゃって可愛い〜!んじゃ、おやすみなさ〜い!』

「〜〜あ、あぁ…。おやすみ…」


通信を切る大神。

「よかった、椿ちゃん達はいつも通りみたいだな。……それにしても、黒之巣会の動きは未だなし…か…」

「――あら、まだ起きてたの?」

「あぁ、あやめさん。今、椿ちゃん達と通信を――!?」


風呂上がりでタオルで髪を拭うあやめに赤くなる。

「〜〜お…、温泉に入ってたんですか…?」

「えぇ、ラチェットとね。せっかくだし、大神君も入ってきたら?夜の露天も気持ち良いわよ?」

「え…、えぇ…、そう…ですね…」


火照った顔をうちわで懸命に扇ぐ大神。微笑み、隣に座るあやめ。

「…それで、何ですって?」

「自分達は元気だから安心してくれって。それから、黒之巣会はまだ襲撃を仕掛けてきていないようで、ヤフキエル部隊の出撃もまだだそうです」

「そう…。〜〜ハァ…、黒之巣会にスチュワート社…。問題は山積みね」

「でも、俺達がしっかりしないと、さくら君達に示しがつきませんからね」

「そうね…。……ハァ…、何だか疲れちゃった…」


あやめに寄り添われ、赤くなって直視できない大神。

「ふふっ、こうやってると落ち着くな…。私ね…、人前では格好つけちゃって、背伸びして頑張っちゃう方なの。でも、私だって人間ですもの、こうして息抜きしなきゃやってられないわ…」

「あはは、俺の前では自然体でいられるってことですか?それって…」

(〜〜お、俺だけに心を許してるってことか…?


赤くなって目をそらす大神を見て微笑み、手を重ねてくるあやめ。鼓動が高鳴る大神。

「誰かと一緒にいてこんな気持ちになるなんて…、あの人以来だな…」

「あの人って…?」

「…覚えてる?この前の賢人会議で、後藤大尉が私に言ったこと」

「あ…、〜〜はい…」

「私ね…、昔、好きな人がいたの。士官学校時代からずっと憧れててね、その人と一緒にいる時間が何より楽しかった…。彼、熱中すると周りが見えなくなるタイプでね、そのせいで寂しい思いもしたけど、彼のキラキラした瞳と子供みたいに熱中する顔を見ているだけで幸せだった…」

「〜〜そう…だったんですか…」

「…でもね、彼と同じ部隊に私が入ったせいで悪い噂がたったのよ。出世コースの彼に女の武器を使って取り入った最低女ってね…」

「え…っ!?」

「仕方ないのよ。女で出世コースに入れる軍人なんてそうはいないもの。もちろん、私は彼を出世の道具として見たことなんて一度もないわ。人の何倍も努力して首席で卒業した。……けど、世間の目なんてそんなものなの。陸軍の中だって、そう思っているのは後藤大尉だけではないし…」

「〜〜ひどい話ですね…。それで、その人は…?」

「……行方不明なの、7年前からずっと…」

「え…っ?」

「それから陰口は増す一方だったわ、私が彼の有望な将来を潰したってね…。もし、どこかで生きてるなら、こんなに嬉しいことはないわ。でも、多分無理だと思うの…。〜〜いっそ、全部忘れられたらどれだけ楽かな…」


涙目で大神の手を強く握るあやめ。屋根裏部屋でアルバムを整理していたあやめを回想し、眉を顰める大神。

「……忘れられないんですね…、その人が…」

「昔は…ね。ほんの一瞬でさえ忘れたことなんてなかったわ…。でも、花組の隊員集めに奮闘しているうちに、考えていられる余裕なんていつの間にか失くなってた…。一緒に過ごしたあの日々も、全部夢だったのかなって思えちゃうほどに…。〜〜いっそのこと、本当に夢ならいいのにな…。――そうすれば、一人の男の子の気持ちを素直に受け止められるのに…」


大神の頬をなで、見つめてくるあやめに赤くなる大神。

「え…っ?あ、あの…?」

「ふふっ、な〜んてね!おかげで少し元気が出たわ。…今の話は忘れて?」

「あやめさん…、あの…!」

「ふふっ、ほら、明日も早いんだから、早く寝ないと駄目よ?」


微笑んで大神の額を小突き、歩いていくあやめにきょとんとなる大神。

★            ★


翌朝。浜辺をジャージで走るアイリス以外の花組。記録簿を持ってタイムを計るあやめの隣で応援するアイリス。

「あと10周よ!頑張ってー!」

「ファイト〜、ファイト〜ッ!」

「〜〜はう〜…、いいなぁ、アイリス…」

「〜〜ああいう時だけ子供ぶるんやからなぁ…」

「ハハハ…、ランニングはまだアイリスには厳しいだろうしね」

「〜〜ハァハァ…、こ…、こんな体育会系のやり方など…、この私に…っ、ふさわしくありませんわぁ…」

「だらしねぇなぁ、トップスタァさんよ。先、行くぜ〜!」


鉄下駄を履きながら軽々走っていくカンナに呆然のすみれ達。

「〜〜あんな筋肉馬鹿に負けてたまるものですか…っ!たああああっ!!」

全速力でカンナを追いかけていくすみれ。

「〜〜熱海に来ても相変わらずね、あの二人…」

一人で走るラチェットの隣に来て走る大神。

「どうだい、調子は?」

「順調です。自分のペースを保つだけですから」

「そうか。まぁ、君なら心配ないか。疲れたら休みながらでいいからな」


笑顔で走り去る大神にムッとなり、スピードを上げるラチェット。疲れて座り込むさくらに駆け寄り、マリアと紅蘭と共に励ます大神。

「ほら、もう少しだから頑張ろう!」

「〜〜す…、すみませぇん…」

「うおっ!?ちょ…っ、見てみい、あれ…!」


紅蘭の指す先に全速力で競うカンナとラチェット。

「〜〜ば…、化け物…」

へとへとになって倒れるすみれ。息を切らし、カンナを抜かすラチェット。歯を食いしばり、再び抜かすカンナ。負けじと追い抜かすラチェット。同時にゴールし、倒れ込むカンナとラチェットにタオルを渡すあやめ。

「お疲れ様、二人とも同着よ」

「〜〜かぁ〜っ、そうかぁ…。くっそ〜…!」


大の字になって休むカンナ、息を切らす汗だくのラチェットに笑顔で握手を求める。

「お前、すっげぇ〜な!あたいもここまで本気で走ったの、久々だったぜ」

黙って握手するラチェットに微笑むあやめ。遅れてゴールするさくら達。

「はぁはぁ…、〜〜あ〜、終わったぁ〜…」

「お疲れ様。皆、それぞれ記録更新よ」

「本当ですか!?やったぁ〜!」


フラフラになりながら、ビリでゴールするすみれ。

「すみれ君もお疲れ様!」

「きゃははは!すみれ、ビリだ〜!」

「〜〜き〜っ!!普通に走ればトップ確実でしたわ!〜〜よりによってさくらさんに負けるなんて…」

「あははっ、ドンマイですよ、すみれさん!」

「〜〜お黙りなさいっ!!」


笑うさくら達。握手した掌を見つめるラチェットから溢れる温かい気持ちを感じ、見つめるアイリス。さくらをタオルで拭ってやるあやめ。

「ふふっ、ほらほら、風邪引いちゃうわよ?」

「あ…、えへへっ、ありがとうございます!」

「泥で汚れてるわ。ちゃんと洗ってきなさい。――可愛い顔が台無しよ?」


目を見開くさくら。ピンクのお守りが揺れる。桜の木のお姉さんを回想。

『――泣かないで…。可愛い顔が台無しよ』

「――はい、それじゃあ15分休憩にします。今度は光武の操縦訓練だから、戦闘服に着替えておいてね」

「はい!」「は〜い」「はい!」「は〜い!」「はいな!」「へ〜い!」「はい!」


お守りを握りながら、不思議そうにあやめを見つめるさくら。

「どうかした?」

「あ…、いえ!〜〜あ〜、そうだ!マリアさん、英語教えて頂けませんか?私、ラチェットさんと英語でお話ししてみたいんです!」

「え…?いいけど、私の特訓は厳しいわよ?」

「あはは…、覚悟してま〜す!」


少し振り返り、片づけを手伝う大神と話すあやめを見つめるさくら。


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