★6−5★



「――いやっほ〜っ!」

はしゃぎながら露店風呂に飛び込むカンナ。水しぶきがすみれに飛ぶ。

「きゃあっ!!〜〜ちょいと、お湯がなくなってしまうではありませんか!!」

「堅苦しいこと言うなって。あ〜、疲れが取れる〜。いっい湯だな〜と!」

「きゃは!紅蘭ってお風呂の時も眼鏡かけてるんだね〜!」

「こうやって眼鏡をお湯に浸けとくとな、不思議と曇らなくなるんやで?」

「へぇ〜!」


楽しく入るさくら達を見つめるラチェットに気づき、隣に来るあやめ。

「――皆と一緒だと楽しいでしょ?」

無視して進むラチェット。気づき、あやめとラチェットに近づくさくら。

「あ、あやめさん、ラチェットさ〜ん!」

「うお〜!ラチェットはん、めっさダイナマイトやなぁ!!さっすがメリケンのお方はちゃいますわぁ…!」

「胸ならあたいも負けてないぜ!――どうだぁ〜!」


タオルを取って見せるカンナ。おぉ〜っ!!と驚くさくら達。

「…まったく、はしたないったらありゃしませんわ」

「あははは!少しぐらい小さくったって気にすんなよ!」

「〜〜あ〜ら、頭に行くはずの栄養が全てそこに注ぎ込まれた誰かさんに言われたくありませんわねぇ!?」

「〜〜何だと〜っ!?これでもくらえ〜っ!!」


すみれを沈めようとするカンナ。水しぶきが飛び、怒るマリア。

「〜〜喧嘩なら外でしなさいっ!!」

「あははは…!――あ、そうだ。さっきマリアさんと考えてみたんですけど、無事に帝劇に戻ることができたら、記念にラチェットさんが主役のお芝居を上演するっていうのはいかがですか?」

「え…?」

「そうね…。うん、いいんじゃないかしら」

「そうですよね!マリアさぁん、あやめさんの許可出ました〜!」

「さくらの奴、自分が新人ってことすっかり忘れてるな。あはははっ、いっちょまえによぉ!」

「面白そうやね〜!う〜ん、ラチェットはんって高嶺の花って感じやから、『クレオパトラ』なんてどうでっか?」

「あっ、アイリス、その人知ってるよ〜!エジプトの女王様だよね!」

「お〜、よう知っとるなぁ!」

「〜〜ちょいと皆さんっ!トップスタァの了承なしに話を進めないで下さいましっ!!」

「出た出た、サボテン女の新人イビリ!」

「〜〜何ですってぇっ!?」


カンナを沈めようとするすみれ。水しぶきが飛び、怒るマリア。

「〜〜もう!学習能力がないの、あなた達は!?」

「うふふふっ!一緒にお稽古しましょうね、ラチェットさん!」


さくらを見つめ、微笑むラチェット。

「ふふっ、そうね。面白そうだわ」

「――お、露天風呂って広いんだなぁ…あれ?」


腰にタオルを巻いた大神が入ってきて、一斉に振り返るさくら達。

「〜〜きゃあああ〜っ!!」

「お兄ちゃんの変態〜っ!!」

「〜〜痛ぇっ!!こ…、混浴だなんて知らなかったんだよ〜っ!!」


桶と石鹸を一斉に投げられる大神。さくら達と楽しく笑うラチェット。

★            ★


大帝国劇場・地下。薔薇組の部屋。米兵達が廊下を見回り続けるのを確認する椿と菊之丞。

「あの、大丈夫みたいです!」

「気づかれてないみたいですよぉ」

「は〜、それにしてもすごいわね〜。よく生きて帰ってこられたじゃない」

「素敵よ〜ん!雄一ちゃ〜ん!」


傷だらけでうつむいたままの加山を手当てするかすみ。顔を見合わせ、静かになる由里達。隠し通路から米田を連れて出てくる琴音。

「ハハハ…、こりゃすげぇ!いつの間にこんなもん造ったんだ?」

「フフフ…、常に美を求め続ける私達には愚問というものですわ!」

「おう加山、よく無事に戻って来てくれたな…!」

「……自分は臆病者です…。〜〜隊長の俺をかばって死んでいく仲間を助けに戻ることができなかった最低野郎です…!」

「加山さん…」

「〜〜いっそのこと、俺もあの場で死んだ方がよかったんですよ…!」

「…本気で言ってるのか?」

「…あいつらは今まで共に任務を遂行してきた友でしたから」

「…だったら、お前には月組…、いや、帝撃を辞めてもらうことになるな」


目を見開く加山。

「し…っ、司令…!?」

「……お前にはこの任務、向いてなかったのかもしれん…。忍者っちゅーんは冷酷無慈悲な奴がやるもんだ。だが、お前さんは情が厚すぎる、大神と同じぐらいにな」

「〜〜大神は仲間を守る為なら絶対に敵に背を向けたりしません…!ですが俺は…、任務遂行だけを考え、仲間を犠牲にしてしまった…。〜〜親友のあいつとは大違いで――!!」


ボードで加山の頭を叩くかすみ。

「〜〜か…っ、かすみさんっ!?」

「わ〜お、クリーンヒット…」

「隊長のあなたがそんなんでどうするんですか!?亡くなった隊員の方々は、最期まで任務遂行を最優先に隊長のあなたを逃がしたのでしょう!?〜〜辛い気持ちはよくわかります!ですが、あなたの仕事はまだ終わっていないんですよ!?ここであなたが戦意喪失してしまったら、亡くなった方々の想いはどうなるんです!?〜〜隊員達の死を無駄にしないで下さい…!!」


驚き、かすみを見つめる加山。ハッと気づき、慌てて頭を下げるかすみ。

「〜〜す、すみません、私ったら、偉そうに…!しかもこんなボードで…」

「いや、君の言う通りだ。あいつらの為にも、絶対にスチュアート・カンパニーを帝撃から追い出さなきゃな。――お陰で目が覚めたよ。フッ、ありがとう、ハニー!」


凛々しく微笑み、格好つけてかすみの手にキスする加山。赤くなり、再びボードで叩くかすみ。頭から血を流しながら米田に頭を下げる加山。

「司令、お見苦しいところをお見せてしまい、申し訳ありませんでした」

「〜〜い…、いや、お前も死んでいった隊員達もよくやってくれたよ。――そんで、ヤフキエルについて何かわかったか?」

「えぇ。――これをご覧下さい」


資料を米田に見せる加山。覗き込み、驚く三人娘と薔薇組。

「こ…っ、これって…!?」

「いや〜ん!マジなわけ〜ん!?」

「この事実を総理達に知らせれば…!」

「なるほど。――フッ、ようやく追い風が吹いてきたぜ…!」


★            ★


支配人室。ブレントのデスクを強く叩く大臣。後ろに控える総理と米田。

「〜〜聞いたぞ!!ヤフキエルの正体は降魔の死骸だそうだな…!?」

「…ほぉ、あの忍者は生きていましたか」

「あんなおぞましい魔装機兵で帝都が救えるものか…!〜〜よくも我々を騙してくれたな…!?貴様との契約は白紙に戻すっ!!」

「白紙に?フフフ…、そんな馬鹿なことがよく言えたものですねぇ」


総理のサインと印鑑が押された契約書を見せるブレント。

「『契約条項第1項:日本政府はスチュアート・カンパニーの命令に常に従うこと。第2項:大蔵省の財源の40%を弊社運営資金に充てること…』」

「〜〜そ…っ、そんな馬鹿な…!?そんなこと契約書には――!!」

「おやおや、意味もよくわからずにサインしてしまったと?これからの時代、英語は世界語になるんですよ?総理大臣ともあろう者が英語もわからないようじゃ、日本も大したことありませんね」

「〜〜馬鹿にしおって…っ!!」


拳を振るわせる総理にため息つく米田。

「ククク…、この契約書がある限り、私はあなた方のボスなのですよ?もっとも、企業をさらに拡大して世界中に支社を置くことになった暁には、こんなちっぽけな国など用済みになりますがね。それまでの辛抱ですよ」

悔しくブレントを睨む総理と大臣。警報が鳴る。

「――ほぉ、ようやく敵さんのお出ましのようだ」

★            ★


深夜。浅草。叉丹が率いる脇侍達を倒していくヤフキエル。笑う叉丹。

「くくっ、面白い。無人機には無人機で対抗というわけか」

脇侍を破壊するヤフキエルを見ながら、ラチェットと通信するブレント。

『――こちらは順調だ。そっちはどうだ?』

熱海。寝る花組。庭。キャメラトロンでブレントと話すラチェット。

「……いえ、特に問題は…」

『…声が震えているぞ?』

「…ただの武者震いですわ。ただ、花組を完全に解散させるのはいかがなものかと…。ヤフキエル部隊を新たに設けてもらえばよろしいのでは?」

『ほぉ、珍しいな、冷酷無慈悲と謳われた星組隊長のお前が…。奴らに情を移されたか?』

「…いえ。ただ、それが最も賢明で効率的且つ平和的な方法と思ったので」

『フフ…、平和的…ねぇ。まさか星組の恨み、忘れてしまったのかな?』

「〜〜そんなことは…」

『よいかな?人は愛だの正義だのぬかして他人を思いやる振りをし、不都合が起これば、掌を返して平気で傷つけ合う残酷な動物…。いや、動物以下だ。結局は皆、自分が一番可愛い。生き残り、のし上がる為に人は皆、己を偽って生きるもの…。お前もずっとそうし続けてきたのだろう?』


うつむくラチェット、幼いラチェットと若いかえでを回想。

『――私が頑張れば、ベガを助けてくれるんでしょ…?』

『もちろんよ。だから、あなたは常に模範生でいなければならないの。どんなことがあっても、決して反抗してはいけないわ』

(――そうだ…、私は常に優等生でいなければならない…。自分を偽って皆の手本でい続けなければ、居場所がなくなってしまう…)

「……わかりました。引き続き、花組を監視しますわ」


通信を切るラチェット。切り、ほくそ笑むブレント。

「…やれやれ。そろそろあいつもお払い箱かな」

緊急事態のサイレンが発動。驚き、顔を上げるブレント。

「〜〜ヤフキエル部隊に異常事態発生…!!」

「〜〜何…っ!?」

「ククク…、私の戦闘人型蒸気を真似ようなど100年早い…!知識と実力の差をここで見せつけてやる…!!」


剣から黒いオーラを発し、ヤフキエルを全機操る叉丹。方向転換し、街を破壊しながら大帝国劇場に向かうヤフキエル部隊。

「〜〜手動操縦できません!ヤフキエル全機、こちらに向かってます!」

「〜〜再接続エラー!強制シャットダウンも不可能です…!!」

「まさかあの男一人でヤフキエルを全機操っているとでもいうのか!?」

「〜〜何をしておる!?早くあれを止めんか!!」


ブレントを急かせる総理。

「花組を呼び戻しましょう!〜〜我々だけでは対応が間に合いません…!!」

「〜〜馬鹿を言うな!!ここまで来て、引き下がるなど――!」


作戦指令室に来る軍服の米田、風組、薔薇組。

「〜〜勝手に入ってくるな!!衛兵は何を――!?」

気絶した入口の米兵達を投げ捨てる斧彦。驚くブレントを睨み、突き飛ばして司令の椅子に座る米田。米兵達を追い出す薔薇組。操縦席に座る風組。

「〜〜今は私が帝国華撃団のトップだ!!反抗する者は全て処罰するぞ!?」

「うるせぇ!!今はこの劇場を…、帝都の街と市民を守るのが最優先だろうが!ガタガタ抜かしてねぇで、てめぇもちったぁ防衛策を考えろ!!」

「〜〜フン、老いぼれが…!」

「老いぼれで結構。自分の利益しか考えねぇお前さんなんかに帝都の未来を預けられるか!――花組に通信しろ!作戦指令室本部は奪還した。至急、帰還し、出撃しろとな!」

「了解!」「了解!」「了解!」


悔しく睨むブレント。ヤフキエルを操り、街を破壊させる叉丹。逃げる人々。

「ハハハ…!!早く来い、帝国華撃団!私が直々にお前達と刃を交えてやる!!」

★            ★


旅館のロビー。メイクを直し、微笑むラチェット、桔梗の間。眠る大神、横に気配。ラチェットが覗き込んでいるのに気づき、飛び起きる。

「〜〜ラ…ッ!?」

「しー…。静かに」


自分の浴衣をはだけさせ、大神の口を塞いで馬乗りになるラチェット。

「〜〜な…っ、何してるんだ…!?勝手に人の部屋入ってきて――!」

「――ねぇ、私ってそんなに魅力ありません?」

「え…?」

「フフ、やっぱり。こんなにアプローチしてるのに全然気づいてくれてなかったんですね。私に目もくれない男なんて、あなたが初めてですのよ?」

「い、いきなり何を…!?」

「可愛い。緊張してるの?それとも、他に好きな女でもいるのかしら?」

「〜〜ふざけてないで、早く降りろ…っ――!」


大神を引っ張り、自分に馬乗りにさせるラチェット。大神がラチェットを押し倒す瞬間をキャメラトロンで撮るラチェット。

「な…、何のつもりだ…!?」

「フフフ…、新米隊員をレイプしながら撮影する変態隊長…。次回の賢人機関の議題にピッタリだわ。これで花組解散は決定的」

「〜〜な…っ!?」


自分の浴衣を乱し、悲鳴をあげるラチェット。

「きゃああああ〜っ!!」

「どうしたんですか…!?」


駆けつけるさくら達とあやめ。体を隠し、泣く演技をするラチェットを見てショックを受けるアイリス。

「た…、隊長に…無理矢理部屋に連れ込まれて…。〜〜う…っ、ひっく…」

「〜〜何ですってぇ〜っ!?」「〜〜何ですってぇ〜っ!?」


大神に殴る蹴るをするさくら、すみれ、紅蘭、カンナ。銃を向けるマリア。

「〜〜ラチェットに何しやがるんだ、この野郎〜っ!!」

「よりによって、こんなメリケン女に手を出すなど、言語道断ですわ!!」

「女の敵!いつかはやらかすと思ってました!!」

「〜〜大神さんの馬鹿!!最低〜っ!!」

「これでも食らいやっ!!『しびれる君1号』!!」


『しびれる君』を大神に当てる紅蘭。大神の体に電流が流れる。

「〜〜や…めろ…おぉ…っ!!ご…、誤解…だ…って…!!」

「〜〜違うよ!!」


アイリスの大声にハッとなり、総攻撃をやめるさくら達。

「〜〜お兄ちゃん、嘘ついてない…。嘘ついてるのはラチェットお姉ちゃん…!アイリス、わかるもん…!!」

「え…?」

「ラチェットお姉ちゃん、最初は心の中が真っ暗ですっごく怖かった…。でも、合宿に来てだんだん優しい心になってきてたから、アイリス、安心してたの…!〜〜でも、今は違う…!今は最初に会った時と同じ…。ラチェットお姉ちゃんの心、とっても暗くて怖いの…!」


黙り、眉を顰めるが、微笑んでアイリスの頭を撫でようとするラチェット。

「…ふふっ、面白いこと言うのね。それがあなたの力――!」

ラチェットの手を払い、大神の後ろに隠れるアイリス。

「〜〜もうアイリス達に近づかないで…!!ラチェットお姉ちゃんなんて大嫌い…!!早くアメリカに帰ってよぉ…っ!!」

泣くアイリスを抱きしめるあやめ。顔を見合わせるさくら達。

「〜〜な…、何よ…?そんな子供の言うことを信じるっていうの…!?」

「……私達には誰も切ることのできない深い信頼と絆があります。アイリスが嘘をつくような子じゃないってこともよくわかってますし…」


悔しがるラチェットからキャメラトロンを取る大神。

「……もしかして、俺達を陥れる為に花組に入隊したのか?ダグラス社長と組んで、始めから花組を解散させようと…」

「マ…、マジかよ…!?」

「〜〜そんな…!嘘やろ、ラチェットはん…!?」

「〜〜そ…、それは…」

「……もう戻りましょう。明日も早いから、もう休まないと…」

「で、でも…」

「…大神君もちょっと来てくれる?」

「あ、はい…」


気まずく部屋を後にするさくら達。一人残され、うつむくラチェット。

★            ★


大神達にラチェットとアイゼンクライトの写真を見せるあやめ。

「これは…!……光武の元になった人型蒸気やな?」

「えぇ、アイゼンクライトという欧州星組で使われていた機体よ」

「欧州星組って何ですか?」

「欧州で行われた都市防衛機構の実験部隊よ。…でも、結局失敗して強制解散に追い込まれたって聞いたわ」

「そうなんですか…。ラチェットさんの笑顔、何だか悲しそうですね…」

「ラチェットはね、アメリカの裕福な家に生まれたの。いつも両親は仕事で忙しく、風邪の時でさえ誰も傍にいてくれなかったと聞いてるわ」

「…フン、ひねくれて当然ですわね」

「ある日、ラチェットは父親が寄付する孤児院についていってね、そこでベガという日系の少年に会ったの。ベガはとても素直な子でね、一人ぼっちだったラチェットとすぐに仲良くなってくれたわ。…でも、ベガは心臓が弱くてね、すでに完治は不可能だったんだけど、ラチェットは父親に頼みこんでベガの治療費を寄付してやっていたの…。でも、世界恐慌のせいで父親の事業がうまくいかなくなって、孤児院への寄付もベガの治療代も払い続けられなくなってしまった…。ラチェットの父親は自殺し、続けて母親も心労がたたって病死…。ラチェットもその孤児院に引き取られることになったの。丁度そんな時だったわ、かえでが…、欧州星組の司令がラチェットの霊力の高さに気づいて、星組にスカウトしたのは」


回想。雨が降る紐育。雨に打たれながら、裸足で孤児院を見上げるラチェットに傘。振り返るラチェット。優しく微笑むかえで。

『ラチェット・アルタイルさんね…?』

孤児院の中。眠るベガを見つめるラチェット。院長と話し合うかえで。

『では、ラチェットちゃんがその部隊に入れば…!』

『えぇ、孤児院の維持費とベガ君の治療費は我々が全額負担致します。お願いできますか?ラチェットさんを我々に預けてほしいのです…!』


欧州星組の作戦指令室。かえでと手を繋ぎ、歩いてくるラチェット、バックストゥーム計画で感情を失っていく子供達を見つめる。

『あなたのような優秀な人材を探してたの。あなたは天才よ。きっと星組の最高の兵器になれるわ』

『…私が頑張れば、ベガは助かるの?』

『もちろんよ。あなたが頑張った分だけ、ベガと孤児院は幸せになれるわ』


笑顔が明るくなり、頷くラチェット。

「武術・学問・芝居…。ラチェットは猛特訓して、あっという間に他の子を追い抜いてトップに立ったわ。『天才は1%の才能と99%の努力で成り立つ』ラチェットだって最初から完璧にできたわけじゃないわ。陰で人の何倍も努力して、上からの命令には必ず従った。全てはベガと孤児院を助ける為に…。あの子はまさに隊員達の鑑…、完璧な模範生だったわ」

「そんなに優秀な方がいたのに、何で星組は解散しちゃったんですか?」

「あまりにも優秀すぎたのよ…。霊力と己自身を高めすぎて、人としてではなく、完全な戦闘マシーンとして完成してしまった…。最早ラチェットに人としての心はほとんど残ってなかったわ。あったのは悪を滅ぼす強さと残酷さだけ。少しでも悪事を働いた者には容赦なく鉄槌を下す…。そんなの正義でも何でもないでしょう?」

「〜〜うち、知ってるで…。欧州星組のせいで欧州大戦が起きたて…」

「欧州大戦?」

「イギリス・ドイツ・フランス・イタリア…、欧州の列強が同盟を組んで星組に抵抗しようとしたの。星組のやり方はあまりに残酷で卑劣極まりなく、各国から弾圧反対の猛抗議が相次いだわ。でも、星組はそれを武力で無理矢理鎮圧したの。列強の連合部隊も鋼鉄の機械に乗った子供達には敵わなかったのよ…。そして、勝利の後にラチェットを待っていたのは、予想もしない地獄だった…」


帰省し、孤児院に喜んで帰るラチェット、ドアを開けて目を見開く。荒れた孤児院の中。ベガが寝ていたベッドが壊れている。

「当時、アメリカも列強側について欧州大戦に加勢していたのよ。そして、孤児院は戦禍に巻き込まれ、崩壊…。院長はもちろん子供達、そして一番大切なベガまでをもラチェットは戦争で亡くしてしまったの…」

「……皮肉ですわね…。彼らを守る為に戦ってきたはずなのに…」

「〜〜かわいそうにな…。素直に従って頑張っていれば、いつかベガ達を救えると思ってたんだろうに…」

「えぇ…。それ以後、ラチェットはさらに心を閉ざすようになったわ…。やがて、自分以外の誰も信じることができなくなってしまった…」


花瓶を投げ割り、かえでに強くあたるラチェット。

『〜〜嘘つきっ!!ベガ達を助けてくれるって言ったじゃない…!!』

『私達は安全な場所に彼らを避難させたわ。やるべきことはやった。でも、仕方なかったのよ。恨むなら、欧州側についたあなたの祖国を恨みなさい』

『〜〜うるさいっ!!どうせあんた達が無差別に襲撃したんでしょう!?私はただ命令に従っただけ!!なのにこんな…!!〜〜もうたくさんよっ!!』

『出ていくつもり?…でも、今のあなたに行くあてなんてあるのかしら?』

『…!!』

『隊長のあなたがそんなに感情的では困るわ。皆びっくりしてるわよ?』


意地悪く微笑み、ラチェットの肩に手を置くかえで。ハッと気づくラチェット。隊員達や訓練生達がラチェットを冷たく見ている。

『ラチェット、あなたはその程度なの?違うでしょ?ここでもっと頑張れば、またあの子達を見返してやれるわ。部隊のトップだって夢じゃない』

拳を握り、隊員達を睨み返すラチェット。

「それ以来、ラチェットは完全に自分の気持ちを押し殺すようになったの。本当は悲しみで溢れていたはずの心をわざと奮い立たせ、肉体的にも精神的にも強くあろうと自ら壁を作ったの。弱い人間と思われたくなくてね」

「自分は常に優等生でなければならない…。いや、なるしか今の自分は認められない。それしか自分の生きる意味がなくなってしまったってことですね」

「そう…。完全に洗脳されてしまったあの子は最後まで星組の解散に反対していたわ。星組隊長として自分がトップとして強くいられる場所、その唯一の居場所を失う…。耐え難い苦痛だったでしょうね…」


うつむき、ジャンポールを強く抱きしめるアイリス。

「〜〜アイリス…、ひどいこと言っちゃった…」

「仕方ないわ。ラチェットの取った行動は許されることではないんだから」

「〜〜だけど…」


大神のキネマトロンが鳴る。応答する大神。

「はい、こちら、大神…!」

『皆さ〜ん、お待たせしましたぁ!遂に花組、完全復活でぇ〜すっ!!』

「え…っ!?」

『それが大変なんです!黒之巣会がヤフキエルを暴走させて、浅草から銀座方面に向かってるんですよ〜っ!!』

「ヤフキエルが…!?」

『間もなく翔鯨丸が熱海上空に到着しますので、準備してお待ち下さい!』

「ということは…!」

『あのあの、作戦指令室は無事に奪還できました!』

「よくやったわ、皆!」

『フフ、当然のこと。ですから今度は大神少尉、あなた方花組の出番よ!』

『一郎ちゃ〜ん、早く助けに来てちょうだ〜い!』

「わかりました!――よし、皆行こう!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」

「〜〜待ちなさいよ…!!」


ラチェットが入ってくる。立ち止まり、黙るさくら達。

「……行きましょう。時間がないわ…!」

あやめに促され、外に出るさくら達。下唇を噛み、悔しがるラチェット。翔鯨丸が上空で待機している。

「皆さぁん、急いで下さぁ〜いっ!」

ダストシュートに飛び込み、戦闘服になる花組。

「帝国華撃団、出撃!俺達の街は俺達で守るんだ!!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」

「間もなく帝都上空よ!皆、光武に――!?」


操縦する軍服のあやめの後頭部にナイフを突きつけるラチェット。

「フリーズ!そのまま動かないで下さいね?」

銃を持った米兵達が大神達を取り囲む。

「ラ…、ラチェットさん…!?」

「〜〜どういうつもりだ…!?」

「フフ、私を完全に敵に回したこと、後悔させてあげるって言ってるの」


両手を挙げ、ラチェットを悔しく睨むあやめ。


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