★6−6★



銀座。街を破壊しながら接近するヤフキエル部隊。

「〜〜ヤ…ッ、ヤフキエル部隊、銀座A地区に到達…!ここに到達するまでもう時間が――!」

「はいは〜い、素敵なお兄さ〜ん、ちょ〜っとどいてね〜!」


米兵をどかして操縦席に座る薔薇組。

「よし、帝撃防御壁を展開しろ!」

「了解!帝撃防御壁、発動よ〜っ!!」


劇場の周囲に鋼鉄の壁が出現。驚くブレント。

「へへっ、日本の技術をナメるなよ?」

「〜〜司令、大変です…!翔鯨丸が…!!」


モニターに大神達に銃を突きつけて包囲している米兵達とラチェット。

『残念だったわね。翔鯨丸は我々が占拠したわ』

「〜〜何してやがる!?今はそんなことで揉めている場合じゃねぇだろ!?」

『あら、お忘れ?あなた方が本部を奪還しようと、帝撃はまだダグラス・スチュアート・カンパニーの傘下にあるのよ?今後は翔鯨丸も轟雷号も私達の指示の下で動かしてもらうわ。勝手な真似をすると、どうなるか…』


ナイフを由里と椿に突きつけるラチェット。青ざめるかすみ。

「〜〜由里!椿…!」

『〜〜あ〜ん!助けて下さ〜いっ!!』

「〜〜んまぁ〜っ!!何て汚い女なのかしら!?いくら顔が綺麗でもねぇ、心の内まで清らかさを保てないようならブスの極みになるのよっ!?」


揺れる劇場内。防御壁を攻撃し始めるヤフキエル部隊。

「〜〜遂にここにも来たか…!」

「総理、それから米田中将、我が国の高度な技術をご覧下さいませ」


正常なヤフキエルを放ち、戦わせるブレント。暴走したヤフキエルがやられ、黒い液体が飛び出て、降魔の死体が出てくる。

「〜〜な…、なかなかグロテスクですわね…」

「〜〜うぇ〜、気持ち悪〜い…」

「〜〜まさか…、あれは降魔なの…!?」

「さすがは対降魔部隊出身だけはあるわね。降魔の死体をリサイクルして、無人魔装機兵の本体にしてるってわけ」

「〜〜ふざけないで!!あの化け物が帝都にどれだけの災厄をもたらしたかわかってるの!?」

「だから、リサイクルって言ってるでしょ?あれはもう降魔じゃない、ヤフキエルという兵器なの。まったく、日本人は頭が固いんだから――!」


正常なヤフキエルが全滅し、防御壁を攻撃し続ける暴走したヤフキエル。

「〜〜だっ、駄目です!歯が立ちません…!!」

「〜〜そんなはずはない!ヤフキエル全機、戦闘レベルは同じはずだ…!!――第2部隊、追加しろ…!!」


ヤフキエルを追加するが、次々倒されていく。

「〜〜だ…、駄目です…!!」

青ざめ、舌打ちするブレント。動揺するラチェット。

「〜〜ど…、どうなってるの――!?」

隙をつき、ラチェットの手からナイフを落とし、床に押さえ込むあやめ。米兵達と戦う大神とさくら達。気絶し、全員倒れる米兵達。

「…もうやめろ!君だって本当はブレントのやり方が間違いだって気づいてるんだろう?」

「〜〜フッ、まだわからないの?私はブレントのスパイ!敵なのよ!?ヤフキエルを売り込んで花組を解散させる為、ずっとあなた達を騙してたの!そうとも知らずにあんた達は…、フフッ、お人好しにも程があるわ!」


黙ってラチェットを見つめる花組。イラつくラチェット。

「〜〜そんな瞳で見るんじゃないわよ!!私を誰だと思ってるの…!?私は…」

屈み、ラチェットに微笑むさくら。

「私も皆も信じてます。熱海で特訓したり、ご飯食べたり、枕投げして一緒に過ごしたラチェットさんの笑顔は嘘で固めてない本物だって」

「……」


ヤフキエルの攻撃に街が破壊されていく音にハッとなるさくら達。

「早く光武に…!」

「はいっ!」


急いで格納庫に向かう花組。悔しく睨んでくるラチェットを押さえ込むあやめだが、モニターから聞こえてきた叉丹の声に目を見開く。

「――無駄だ。私の技術に敵う奴はいない」

闇神威が出現し、肩に乗る叉丹。驚く米田とあやめ。

「〜〜あ…、あいつは…!!」

「〜〜や…、山崎…少佐…!?〜〜きゃ…っ!!」


ナイフであやめの腕を引っ掻き、馬乗りになって首を絞めるラチェット。

「形勢逆転ね。残念だけど、予備なら山ほどあるのよ」

首を絞められながら山崎を回想し、呆然とするあやめ。

「さすがは姉妹ね、よく似ているわ。その綺麗な顔を今、ズタズタに引き裂いてやる…!〜〜あんたの妹のせいで私とベガは…!!あんた達が星組なんてつくるから、ベガは死んだのよ…!?何が実験部隊よ!!何が都市防衛機構よ!!何が花組よぉ…っ!!平和の為なら子供一人の命なんてどうでもよかったわけ!?〜〜答えなさいよ、人殺しぃっ!!」

「〜〜しょ……さ……」

「え…?〜〜あ…っ!?」


ラチェットを突き飛ばし、格納庫に急ぐあやめ。唖然とするラチェット。ダグラスから通信。

『お前も出撃してヤフキエル部隊を指揮するのだ。花組に先を越されるな』

「〜〜言われなくともわかってるわよ…っ!!」


悔しく前を向き、立ち上がるラチェット。

★            ★


格納庫。米兵達を倒して光武に乗ろうとする花組だが、次々に邪魔される。

「〜〜く…っ、どいてぇな!こんなことしとる場合とちゃうやろ…!?」

「お願いです、出撃させて下さい!!〜〜早くしないと街が…!!」


アイゼンクライトの起動音に振り返る花組。戦闘服のラチェットが出撃。

「ラチェットさん…!!」

木刀で米兵達を倒していく大神。

「ここは俺に任せて、早く光武に…!」

「すみません、隊長…!――皆、行くわよ!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


光武に搭乗し、出撃する花組。送り出して安堵する由里と椿。

「〜〜はぁ…、助かったぁ…」

「――どいて…!!」

「あ…!副司令…!?」


光武に乗り込み、起動して飛び降りるあやめを不思議そうに見る大神。

「あやめさん…?」

★            ★


街を破壊し、帝劇に迫るヤフキエル部隊。逃げる人々を闇神威の上に立って見下ろす叉丹。駆けつけ、暴走するヤフキエル達の核にナイフを投げるラチェット。止まり、爆発するヤフキエル達。

「ほぉ、見かけん顔だな。新入りか?」

「残念だったわね。私は花組じゃないわ…!」


ナイフを叉丹に投げるラチェット。剣で弾き、闇神威に搭乗する叉丹。

「我が野望を阻む者なら同じこと…!娘、死んでもらうぞ!!」

振り下ろされた叉丹の剣をナイフで防御。攻撃するが、全て弾かれる。叉丹の発した黒いオーラに吹き飛ばされ、機体がビルに陥没するラチェット。

「きゃああああっ!!」

「多少はできるようだが、私の敵ではないな。さっさと死んでもらおう」

「〜〜フッ、私を侮辱しているつもり…っ!?」


不意にナイフを投げるラチェット。命中し、爆発して煙に包まれる闇神威。

(やった…!)

得意気に立ち上がるが、煙の中から剣がラチェットに伸び、アイゼンクライトの腕を貫通して壁に刺さる。

「きゃあああああああっ!!」

「そういう高慢な態度は勝ってからにしてもらおうか。気に食わん娘だ」


煙が晴れて平然と立っている叉丹。

「計算が外れて悔しいか?貴様の自負する力など、到底私には及ばぬということだ」

「〜〜黙りなさい!!あんたみたいな闇の霊力を使う奴と一緒にしないで!!」

「フッ、貴様も同じではないか。お前の心も真っ暗な闇で溢れているぞ?言ってみろ、今までどれだけ人を恨んできた?」


剣を壁から引き抜き、アイゼンクライトに何度も振り下ろす叉丹。激痛に耐え、悔しく叉丹を睨むラチェット。

(〜〜そうよ…。私はいつだって誰かのせいにしながら生きてきた…。そんなこと無意味だってわかってても、そうせずにはいられなかった…)

「――これで終わりだ…!」


剣を振りかざす叉丹を虚ろな瞳で見つめるラチェット。

(私…、このまま死ぬの…?)

剣を振り下ろす叉丹。花組との熱海の思い出を回想し、涙ぐむラチェット。

(まだ死ねない…。〜〜死にたくない…!!)

「――そこまでよ!」


パラシュートを開いて銀座の街に降り立つさくら達の光武。

「帝国華撃団、参上!」

「ラチェットさん、大丈夫ですか!?」

「ホホホ…、やはりあなた一人では荷が重すぎましたわね」

「〜〜怪我がひどいぜ…。アイリス、頼む!」

「うんっ!」


黄の光を発し、ラチェットの傷を癒すアイリス。

「ここは私達に任せて、早く撤退しなさい」

「……どうして…?私は裏切り者なのよ…!?」

「だって、同じ花組隊員じゃないですか!」


さくらの笑顔に驚き、見つめるラチェット。

「ククッ、やっとおでましか…。待ちくたびれたぞ、帝国華撃団」

「おめぇは何者だ…!?」

「私は黒之巣会・死天王のリーダー・葵叉丹」

「葵叉丹…。あいつも黒之巣会の幹部なんですね…!」

「それにあの人型戦闘蒸気…、光武にそっくりやで…!」

「〜〜でも、光武とは違う…、すっごく嫌な力を感じるよ…!?」

「6機か…。闇神威の試験操作には妥当な数だ」


爆発したヤフキエルを再生して操り、襲わせる叉丹。

「〜〜ヤ…、ヤフキエルが甦った…!?」

「いや、あの化け物が甦ったんやない。機械の電子回路を一瞬で復旧させたんや…!――うちらも負けてられへんで…!ちびロボ軍団、発射ぁっ!!」

「神崎風塵流・胡蝶の舞!!」

「一百林牌!!」


ヤフキエルを全滅させる花組だが、再び甦る。

「クク…ッ、光武耐久率の限界時間など、すでに計算済みなのでね」

大量のヤフキエルに囲まれ、構える花組。

「〜〜く…っ、このままでは奴を倒す前に――!」

ヤフキエルを倒し、叉丹と対峙してさくら達をかばうあやめの光武。気づく米田。続けて翔鯨丸から降りてくる大神の光武。

「あやめさん…!?」

『〜〜いかん…!戻れ!!戻るんだ、あやめ君…!!』

「米田司令…!?」

「ほぉ、貴様が副司令…か」

(その声…、その瞳…、〜〜似ている…、あの人に…!)

山崎を回想し、青ざめて震えながら叉丹を見つめるあやめ。

「どうした?攻撃してこないのか?それとも…できないのかな!?」

「きゃあああああーっ!!」


衝撃波に吹き飛ばされるあやめ。

「〜〜あやめさん…っ!!」

「ふん、抵抗せぬ奴を甚振ってもつまらぬな…」

「あやめさん…、どうしちまったんだよ…!?」

「様子が変だわ…」


叉丹とあやめを交互に見て、急いであやめをかばうアイリス。

「〜〜お姉ちゃんに近づかないで…っ!!」

「アイリス…!?」


アイリスと共にあやめの前に出てかばう大神とさくら達。

「葵叉丹、私達が相手よ…!!」

「フフ…、よかろう。望み通り、貴様らから葬るとするか」


叉丹と戦う花組をモニターで心配に見つめる風組と薔薇組。

「〜〜一郎ちゃん達、大丈夫かしら…?」

「司令、私達に何かできることは…!?」

「…あやめ君を連れ戻してきてくれ」

「え…っ?」

「〜〜奴に…あやめ君を近づけさせるな…!」

「りょ、了解しました!」


急いで出ていく風組。ため息つき、座るダグラスに詰め寄る総理。

「おい、ヤフキエルとやらはどうした!?降魔でも何でもいい!早くあの男を殺すのだ…!!」

眉を顰めて黙り、モニターを見つめるブレント。

★            ★


「うわああああっ!!」

「きゃああああっ!!」


叉丹に攻撃され、傷だらけになる大神とさくら達。

「皆…!――イリス・マリオネ〜ット!!」

黄の光でさくら達を回復するアイリス。

「ハハハ…!無駄無駄ぁ!!」

「きゃあああああっ!!」


黒い衝撃波を放つ叉丹。吹き飛ばされる花組を心配に見るラチェット。

「〜〜皆…!!」

肩を押さえながら、剣を構え、大神とさくら達をかばうあやめ。

「〜〜く…っ、この子達は…私の命に代えても守るわ…!」

「〜〜あやめさん…!」

「フッ、いいだろう。相手になってやる…!」


剣を交え、戦うあやめと叉丹。押されるあやめ。

(〜〜この剣筋…、やっぱり似ている…!)

「――まだ左の防御が甘いな」

「――!!」


あやめの耳元で囁き、あやめの剣を弾く叉丹。剣の稽古での山崎を回想し、ショックを受け、膝をつくあやめの首に剣を突きつける叉丹。

「あやめさん…!!」

「フッ、副司令ともあろう者が無様だな」


剣を振り上げる叉丹。あやめをかばい、刀で防ぐ大神。

「大神君…!?」

「ほぉ、私の剣を受け止めるとは…」

「〜〜く…っ、あやめさんを傷つけさせやしない…っ!!」


攻撃を受け流され、吹き飛ばされてビルに激突する大神。

「うわああああ…!!」

「大神さぁんっ!!〜〜きゃああああっ!!」


衝撃波をさくら達に放つ叉丹。倒れたまま悶えるさくら達。

「フフフ…、最期に言い残すことはないか?」

「〜〜み…っ、皆…っ!!」


駆け寄ろうとするあやめを剣で遮る叉丹。恐る恐る顔を上げるあやめ。

「〜〜本当に…あなた…なの……?」

妖しく笑う叉丹。山崎を回想し、涙を流すあやめに黒い雷を落とす叉丹。

「きゃああああああっ!!」

「〜〜あやめさああんっ!!」


気を失うあやめを抱き起こす大神。

『大神さん、離れて下さい!副司令の光武を回収します…!』

翔鯨丸で近づき、あやめの光武を回収する風組。

「ククク…、弱い…、弱すぎるぞ、華撃団!全力でかかってこい!もっと私を楽しませてみろ…!!」

拳を握り、叉丹を睨む大神達の前に立ち、かばうラチェット。

「ラチェット…!?」

「私の力をどうしても借りたいって言うなら、貸してやってもいいけど?」

「へへっ、何だよ、それ?」

「まったく、どこまでタカピーな女なんですのっ!?」

「このままダグラスについているべきか、それともあなた達につくべきか…。どうすればいいと思う、大神隊長?」

「どうしたいかは自分の意思で決めるんだ。君の人生なんだからな…!」

「ふふっ、そう。――わかったわ…!」


ナイフを構え、叉丹と対峙するラチェット。

「今まで戦場で死ぬのが当然って思ってたから、死にたくないって思ったのは生まれて初めてだわ。まだまだ私らしく生きていたいもの…!」

「はい!一緒に戦いましょう、同じ花組の仲間として…!」


ラチェットを加え、構える花組。剣に黒いオーラをためる叉丹。

「何人いても同じこと!一人残らず、息の根を止めてやる…!!」

「よし、ラチェットは――え!?」


すでに叉丹に突進していっているラチェット。

「〜〜ま、待て、ラチェット!」

「ふふっ、私の扱いは難しいわよ、隊長さん!」


ナイフを連続で投げるラチェット。剣でナイフを弾く叉丹。

「フッ、そんな攻撃、通用するとでも――!?」

「――スネグーラチカ!!」

「狼虎滅却・快刀乱麻!!」


背後から攻撃するマリアと大神。不意を突かれ、バランスを崩す叉丹。

「〜〜何…っ!?」

「ラチェットさん、一緒に参りましょう!」

「OK!――イッツ・ショー・タ〜イムッ!!」


叉丹との間合いを詰め、ナイフを連続で投げるラチェット。自在に向きが変化するナイフが闇神威に全て命中。

「今よ!」

「はああああっ!――破邪剣征・桜花放神!!」


舌打ちし、ギリギリでよける叉丹。

「〜〜仲間だの絆だのくだらぬ…!いずれ決着を着けよう、帝国華撃団」

瞬間移動する叉丹。アイゼンクライトから降り、髪を靡かせるラチェット。

「惜しかったわね〜。チームワークはまだまだってとこかしら?」

「今回のことで勉強になったでしょう、あなたのような天才でも、一人ではどうにもならない時もあるって?」

「だから俺達は支え合い、協力して戦うんだ。花組の中だけでなく、風組や薔薇組とも助け合いながらね。それが帝国華撃団の戦い方なんだ」

「フフン、仲間のありがたみが少しはおわかりになりました?」

「〜〜あんさんが言うなって!」


すみれにツッコむ紅蘭に笑う一同。

「でも、ラチェットさんが加わって下さったおかげで、流れがぐんと変わりましたよね!本当にありがとうございました…!」

ラチェットに握手を求めるさくら。微笑み、握手するラチェット。

「一件落着だな!そんじゃ、いつものアレ、やろうぜ!」

「いつものアレ…?」

「アイリス達の真似すれば大丈夫だよ!そんじゃいくよ〜!せ〜の…!」

「勝利のポーズ、決めっ!」


さくら達と決めポーズするラチェット。

★            ★


作戦指令室。安堵し、崩れる総理を慌てて支える大臣。拍手するブレント。

「お見事でした。さすがは花組の皆さんだ」

「ケッ、都市防衛を金儲けに考える奴に言われたくねぇがな」

「フフ…、仕方ないですが、認めざるを得ないでしょうね、日本にヤフキエルを売り込む必要はないと…」


契約書を破るブレント。驚く総理と防衛大臣。

「どうやら、ラチェットもすっかりそちらのペースに呑まれてしまったみたいですし…。完敗ですよ、米田中将。さすがは帝国華撃団の長官だ」

「日本のやり方も捨てたもんじゃねぇだろ?お前さんのようなよそ者に頼らなくても、これからも俺達は俺達の街を俺達のやり方で守っていく」


米田に睨まれ、決まりが悪くなる総理と防衛大臣。

「ビジネスなんてものは俺にはわからねぇが、お前さんも人間なら、これからはもっと人情ってものを大切にしろよ」

「フフ…、考えておきますよ」


微笑み、米田と握手するブレント。

★            ★


『クレオパトラ』を上演する花組。

「――『エジプトの民よ、ひざまずけ!我こそは女王・クレオパトラなり!!』」

美しく歌い踊るクレオパトラ役のラチェット。シーザーとカエサル役のマリアとカンナ、クレオパトラをめぐって戦う。女官役のさくらとすみれ。舞台袖から見る大神とあやめ。

「アメリカは舞台装置の技術も進んでるんですね…!1日だけの特別公演なんて、何だかもったいないな…」

「……そうね…」

「あやめさん…?どこか具合でも悪いんですか、熱海から帰ってきてから、ずっと元気がないみたいですけど…?」

「え?〜〜ううん…、何でもないの…」


叉丹を回想し、幕をぎゅっと握りしめるあやめ。?な大神。カーテンコールでスタンディングオベーションを受け、手を振る花組。

★            ★


テラス。銀座の夜景を眺めているラチェット。隣に来る大神。

「どうしたんだい、こんな所に呼び出して…?」

「別にー。う〜ん、涼しくて気持ちいい〜」

「あまり当たりすぎると風邪引くぞ」

「シャワー浴びて寝るから平気!なんなら、一緒に浴びます?」

「〜〜い、いいっ!?」

「あはははっ、アメリカンジョークですよ!何マジになってんの?」

「〜〜な…、何だか打ち解けてから急に性格変わったな…?」

「そう?…小さい頃はこんなんだったはずだけどね」

「はずって…?」

「……本当の自分なんて忘れちゃった。今までず〜っと感情抑えて生きてきてたし…。ふふっ、何だか馬鹿みたいね」

「ラチェット…」

「――ロマンチックな夜景…。ますます気に入ったわ、日本のこと」

「なら、今度は京都や九州にも案内するよ。古くから日本の歴史がある素晴らしい所なんだ」

「歴史…か。アメリカには縁のない言葉ね。アメリカは新しくて、夢と希望がいっぱいの移民の国。誰にでもチャンスはあって、アメリカンドリームを叶える為に皆、一生懸命…。今の私もアメリカと一緒。素直に言いたいことも言えず、泣いたり笑ったりさえできずにロボットみたいに戦ってたあの頃は、とても生きてるなんて言えなかった…。今になってようやく時間が動き出したって感じ。そういう意味で言えば、人生の長さはアイリスと同じくらいかもね」

「ハハハ…、その分、これから大いに人生満喫すればいいじゃないか」

「……そうね。これから…ね」

「それにしても、アメリカかぁ…。俺もいつか行ってみたいな…」

「特別に案内してあげてもいいわよ、隊長だけなら?」

「俺一人で行ってもな…。花組の皆やあやめさんも一緒じゃないと――!」


大神の肩に寄り添うラチェット。

「ラ…、ラチェット…?」

「…惜しいなー。大神隊長がもう少し若かったら、文句無しなんだけど」

「〜〜俺より若いっていったら、子供だぞ?」

「いいの!私はキュートなジャパニーズボーイがタイプなのっ!!」

「あぁ…、なるほど」


日系人の少年・ベガを思い出し、苦笑する大神。

「ねぇ、隊長の周りに誰か可愛い男の子、いない?」

「うーん、あ、じゃあ今度、甥っ子紹介するよ。今年15になるんだ」

「まぁ!ふふっ、楽しみにしてるわ。今度来る時に必ずよ!」

「え?今度って――!」


大神の頬にキスし、微笑むラチェット。頬を押さえ、赤くなる大神。

「色々ありがとね、隊長さん!」

★            ★


翌日。サロン。ラチェットの置手紙を囲んで見る花組。

『――花組の皆さんへ Good morning!突然姿を消して、ごめんなさい。私ね、紐育に戻ろうと思うの。あなた達と一緒にいるうちに、本当に紐育にも華撃団をつくりたくなっちゃったから。いずれは帝都だけでなく、世界中の主要都市にも魔の脅威が及ぶようになるでしょう。そうなる前に、今のうちから色々準備しておかなくっちゃね。でも、誤解しないで?決してさくらさん達が煩わしいからじゃないの。アメリカにも花組のような居心地が良い場所を作って、色々な人との出会いを大切に、私らしい思い出をたくさん作っていきたいだけ。だから、それが一段落したらまた戻ってくるわ。それまで各自、少しは私の実力に近づけるようにね。それでは皆さん、お元気で。See you! ――愛をこめて、ラチェット・アルタイル』

船の上。さくら達と撮った写真を見つめ、微笑むラチェット。汽笛を鳴らし、アメリカに向かっていく船。再び大帝国劇場・サロン。

「…フン、最後まで人騒がせな方でしたわね」

「とか言って〜、本当は喧嘩仲間が減って寂しいんだろ?」

「〜〜な…っ、何を馬鹿なことを…!」

「でも、嬉しいな、花組のこと好きになってもらえて」

「そうだね!アイリスもラチェットお姉ちゃんのこと、だ〜い好きだよ!」

「あ〜、帰る前にキャメラトロンの構造、調べさせてもらいたかったわ〜」

「ハハハ…、紅蘭は本当に機械が好きなんだな」

「せや!機械は人間の暮らしを支えるパートナーみたいなもんやからね。まぁでも、アメリカの舞台装置のことはよ〜くわかったやさかい。キャメラトロンは次来た時の楽しみとしときますわ!」

「心配しなくても、またすぐ会えるわよ」

「そうだよ。どんなに離れていても俺達は花組の仲間なんだからな…!」


★            ★


医務室。加山の傷の手当てをするかすみ。

「ハニ〜!あぁ〜、俺は何て愚かだったんだ…!こんなに近くにいた君への愛に今まで気づかなかったなんて…!」

「〜〜は…っ、離して下さいっ!!お付き合いもしていない相手にそんなこと言う人なんて軽蔑しますよ!?」

「ハハ、照れなくていいんだよ!もう俺達付き合ってるも同じじゃ〜ん!」

「〜〜ハァ!?な…、何言ってるんですか!?私はあなたなんかより大――!」

「大神の方が…いいのか…?」


急に真面目になる加山に赤くなるかすみ。

「〜〜そ…、そんなことはない…ですけど…」

「OH!!そうか、そうか!やっぱり、かすみっちは見る目があるなぁ〜!」

「〜〜か、かすみっちって…。んもう、調子に乗らないで下さいっ!」


真っ赤になって加山をボードで殴り、退室するかすみ、廊下で照れる。

「〜〜もう…、調子狂っちゃうな…」

殴られた頭をさすりながら、真面目な顔で叉丹の写真を見つめる加山。

「――さて…、新たなターゲットの調査といくか…」

★            ★


屋根裏部屋。壁にもたれながら、虚ろな瞳で夜空を見上げるあやめ。

『――君がいるだけで心が洗われるようだ』

『――左の防御がまだ甘いな』

「……山崎少佐…」


山崎と叉丹を回想したあやめの頬に涙が伝う。窓から差し込む月光が山崎とあやめのツーショット写真を照らす。

第6話、終わり

次回予告

この前の合宿で、皆の絆もより深まったようやね!
ほんま、うちが帝撃に来た頃やったら、考えられへんかったわ。
一人ぼっちやったうちの唯一の友達は機械やった。
〜〜せやのに、皆はんときたら、平気で機械を傷つけはるんや…。
次回、サクラ大戦『物言わぬ友よ』!太正桜に浪漫の嵐!
〜〜機械は人間の道具やない…!友達や…!!


第7話へ

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