★6−2★
作戦指令室。楔を分析し、調査結果をモニターに出す風組。
「――調査結果、出ました。どうやら妖力で地盤を崩す装置のようです」
「地盤を…?」
「はい。同じ物が帝都内にあるか月組が調査にあたっているところです」
真剣な目でモニターに映る楔を見る米田とあやめ。
★ ★
廊下を歩く米田とあやめ。
「…奴らは何の為に楔を?」
「さぁな…?ま、どうせろくでもねぇことに決まってるが…。――そういや、ラチェットの様子はどうだ?」
「ご心配なく。皆と仲良くやっていますわ」
「そうか…。ハァ…、それにしてもあの欧州星組の隊長が来るとはな――」
「〜〜司令…、その話は…」
「…おっと、すまねぇな。〜〜つい…よ」
「……いえ…。あれはもう封印すべき過去なのですから…」
「そうだな…。あの時は悪い要素が全て重なっちまった…。〜〜ラチェットだけじゃねぇ。他の星組隊員やかえで君だって、被害者も同然だ…」
黙ってうつむくあやめ、支配人室に入る米田に一礼。
「では、私はこれで…」
「おう。――あー、ちょっと待て」
「…何か?」
「……その…、この間の戦闘…なんだがよ…」
前回の戦闘で見た叉丹を回想する米田。
「前回の戦闘…ですか?何か問題でも…?」
「…ハハ、いや、深川は霊的地脈が高い場所だったからな、苦労しただろう?ゆっくり休んでくんな」
「はぁ…。では、お先に失礼します」
一礼し、歩いていくあやめ。写真立ての山崎を見つめる米田。
「……まさか…な…」
酒を出そうとするが、『禁酒』のあやめの張り紙と共になくなっている。
「ははは…、あやめ君も随分たくましくなったものだぜ。…なぁ、山崎」
写真立ての写真の山崎を目を細めて見つめる米田。
★ ★
あやめの部屋。かえでに電話するあやめ。
「――えぇ、ラチェットは今日、着いたわ。――そう、さっき、訓練を受けたところよ。本当は隊員の能力を数字なんかで表したくないんだけど…」
『だから姉さんは甘いのよ。華撃団は何の組織?都市防衛の集団でしょ?』
「だけど、彼女達も人間よ。機械や兵器の様に扱うのは感心しないわね」
『またお説教?私ももう子供じゃない!姉さんと考え方が違うんだから!!』
電話を切られるあやめ、ため息つき、受話器を置く。見回りに来る大神。
「…ご苦労様です」
「…聞いてた?」
「最後の方だけ…。〜〜すみません、立ち聞きするつもりは…」
「別にいいわ…。……難しいわね、上に立つ人間って色々…。…何か用?」
「……はい、その…、アイリスのことなんですが…」
「アイリスがどうかした?」
「妙にラチェットに怯えているみたいなんです…。理由を聞いても、何も話してくれなくて…」
「そう…。アイリスは人の心を読めるから、怖がってるんじゃないかしら。ラチェットはね、表面ではニコニコしてても、何を考えてるのかよくわからないところがあるの。それに少し冷たくて残酷な部分も持ってるから…」
「そうなんですか…」
「ラチェットはね、昔から『天才』って言われ続けてきたの。戦闘能力だけじゃなく、芝居・歌・ダンス、どれも他の子よりずば抜けてたわ。IQも遥かに常人超えしてた。10歳で大学修士課程の資格が取れたぐらいね」
「すごい…!確かに天才ですね…!」
「…でもね、人間の大事な部分ってそういうところだけじゃないと思うの。『ハート』…思いやりの心だと私は思うのよ」
「そうですね…。〜〜う〜ん…、何だか手強そうな隊員だなぁ…」
「――あら、随分日本らしいお部屋ですこと」
突然入ってくるラチェット。
「ラ…、ラチェット…!?」
「うん、気に入ったわ!今日からここを私の部屋にします!」
「えぇっ!?」
「ふふっ、素敵なお部屋!日本に来たって実感が湧きますわ。畳の部屋では布団を敷いて寝るのでしょう?」
「ちょ、ちょっと待って…!なら、お布団をもう一組持ってこないと――」
「あら、私も皆さんと同じ個室がいいわ。副司令は大神隊長のお部屋に移ればよろしいのではなくて?」
「〜〜え…、えぇ〜っ!?」
「あら、お二人はカップルではないの?Oh,sorry,てっきりそうかと…」
「〜〜ちっ、違う…!!何言ってるんだよ!?俺達はただの上官と部下だ…!!」
「〜〜そんなに否定しなくてもいいのに…」
「え…っ!?」
「ふふっ、あらあら、好感度が下がっちゃったみたいですよ、大神隊長?」
「〜〜ち、違うんです!別にあなたが嫌いとかいう意味では決して――!!」
警報音。顔を上げる大神とあやめ。
『――緊急警報、緊急警報!銀座に黒之巣会が出現!至急、作戦指令室に集合して下さい!!』
「来たか…!――行こう、ラチェット…!!」
「私達についてきて!」
走っていく大神とあやめ。不敵に笑うラチェット。
★ ★
ダストシュートに飛び込み、戦闘服と軍服になる花組とあやめ。作戦指令室。横に並んで敬礼する花組。
「大神一郎以下、花組全員集合致しました!」
「うむ、ご苦労。銀座で黒之巣会の幹部と思われる男が脇侍を率いて破壊活動を行っている。直ちに急行し、撃破してくれ!」
「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」
「ラチェットは初日だから見学しててね。花組の戦い方をよく学んで頂戴」
「了解しました」
にっこり笑うラチェット。モニターを見て驚く風組。
「〜〜たっ、大変です!脇侍が…!!」
「増員したか!?」
「い、いえ…、謎の人型蒸気に破壊されています…!」
モニターに脇侍達を倒すヤフキエルの映像。
「〜〜な…っ、何ぃっ!?」
★ ★
銀座。脇侍達と戦うヤフキエル部隊。逃げていた人々も足を止めて見物。
「おい、何だ、ありゃ…!?」
「さぁ…?帝国華撃団の新兵器かねぇ?」
「何だかよくわからんが、頑張れ〜っ!!」
ヤフキエルを応援する人々。隠れて様子を見るミロク。
「〜〜ちっ、この汚名返上の大事な時に限って何なんだい、あれは…!?」
轟雷号で駆けつける花組。最後の脇侍を倒すヤフキエル。脇侍の残骸が足元に転がり、ビビるさくら。
「〜〜い…っ!一体どういうことなんでしょう…!?」
「わからない…。俺達の味方なのか…?」
『――あれはヤフキエル。アメリカで開発された無人人型戦闘蒸気よ』
通信で説明するラチェット。
「あれ、無人なのかいな…!?ひゃ〜、すっごいわぁ…!」
「けどよぉ、何でそんなもんが今、ここにいるんだ…!?」
『ブレント・ファーロング社長の計らいよ。丁度、船で一緒になったの』
「え…っ?」
「――こんばんは、帝国華撃団の諸君」
米兵達を連れ、歩いてくるブレント、ヤフキエルを全機帰還させる。
「あなたがブレント…?もしかして、スチュアート・カンパニーの…?」
「マリア、知ってるのか?」
「紐育にいた頃、聞いたことがありました。様々な分野の機械を開発・販売し、現在では世界有数の重化学工業企業に成長したとか…」
「あなた方花組もアメリカでは大評判ですよ。お会いできて光栄です。ですが、今回はうちの新製品のせいで出番がなくなってしまったようですね」
「フン、あんなものの力など借りなくとも、私達だけで十分倒せましたわ」
「あなたは神崎重工のご令嬢・すみれさんですね?お父様とは仕事柄、よく顔を合わせるんですよ。フフ…、聞いていた通り、実にお美しい」
「あ…、あら〜、ホホホ…!そんな当然のことを〜!」
「…ファーロング社長、これは一体どういうことなのでしょうか?」
「なぁに、日本向けに発売する新製品の威力を実験してみただけですよ。まぁ、こちらとしては想像以上の好成果を残せましたがね」
ダグラスに怯え、大神の後ろに隠れるアイリス。心配する大神。
「今日は挨拶ができてよかったです。では、いずれまた…」
車に乗り、走っていくブレント。
「何だ、あのキザ野郎…!いずれってことは、また来る気満々じゃねぇか!!」
「せやけど、あのヤフキエルとかって人型蒸気…、光武を遥かに超える戦闘能力を持ってたで…!?〜〜あの社長、ただもんやないわ…!」
脇侍の残骸を呆然と見るミロク。
「〜〜しょ…っ、正体不明の機械にあっさり負けてしまった…。〜〜ええいっ、私が悪いんでないよ!?弱い脇侍を造った叉丹が悪いんだからねっ!!」
開き直り、瞬間移動するミロク。轟雷号。微笑むラチェットを見るあやめ。
「…ラチェット、あなた、実験のことを知ってたの?」
「来る途中、船の中で伺いましたの。ふふっ、でも本当にすごい威力。花組なんかちっぽけに見えたわ」
機嫌良く出ていくラチェットに眉を顰めるあやめ。
★ ★
懐中電灯を持ちながら見回りする大神。
「〜〜はぁ…、何だかすっかり拍子抜けしたな…。それにしても、さっきのヤフキエルとかいう人型蒸気、どんな構造になっているんだろう…?」
サロンでジャンポールを抱いて寂しく座っているアイリス。
「どうしたんだ?早く寝なくちゃ明日起きられないぞ?」
「〜〜あのおじちゃん…、もう来ない…?」
「おじちゃん…?――あぁ…、ブレント社長のことかい?」
「アイリス、あのおじちゃん嫌い!それから、ラチェットお姉ちゃんも…」
「え…?何でだい?」
「〜〜ラチェットお姉ちゃんの心の中、真っ暗ですごく寒い。アイリス、わかる、あのお姉ちゃんとおじちゃん、アイリス達のこと大嫌いだって…!」
抱きついてきて泣き出すアイリスの頭をなでる大神。
「〜〜怖いよ、お兄ちゃん!早くラチェットお姉ちゃんを追い出して…!!」
「大丈夫だよ。たとえラチェットとブレント社長がアイリスをいじめても、俺達が絶対にアイリスを守るから。だから、安心しておやすみ」
「お兄ちゃん…、うんっ!」
★ ★
賢人会議。ヤフキエルを説明する後藤大尉。聞く大神、あやめ、米田。
「前回の対魔装機兵戦のデータがこちらです。まだ実験段階ですが、戦闘時間・市民及び市街への被害、いずれも光武の性能より遥かに上回っております。何よりヤフキエルは無人の戦闘人型蒸気。人間と違って壊れたら工場で直せばいいだけ。尚且つ、同型機兵の大量生産も可能な故、戦闘能力向上施設の維持費も一切無用になるのです。大量導入すれば、もう年端も行かぬ少女達を危険な目に遭わせずに済むでしょう。花組の皆さんも心置きなく芝居に専念できるというものです」
「何言ってんだ!?アメリカだか何だか知らねぇが、そんなわけのわからねぇ異国の兵器を帝都防衛に役立ててたまるか!」
「米田君の言う通りだ。――総理、ヤフキエルについてもっと念入りに調査された方がよろしいかと」
「これだから頭の固い老人どもは…。時代は今この瞬間も流れ、着実に変化しているのですよ?あなた方の考えは非常に古い!いずれ世界のリーダーとなるであろう新国・アメリカが誇るダグラス・スチュアート社が日本の霊的災厄を心配して、わざわざヤフキエル部隊体制の整備を呼び掛けてきてくれたのですぞ!?こんな好機、逃せばもう二度と訪れませんよ!?」
「…いかが致します、総理?」
「善は急げだ。後藤君の提案を取り入れるとしよう。今後は帝国華撃団・花組に代わり、ヤフキエル部隊を中心に帝都の霊的防衛に励むこととする」
「な…っ、何だって…!?」
「お待ち下さい!〜〜それでは花組は…!?」
「本日を持って解散とする。ただし、帝国華撃団・風組、月組以下の組織は変わらず銀座本部と花やしき支部に駐留するものとする。――後藤君にはヤフキエル部隊の指揮を担当してもらうことにしよう」
「ありがとうございます、総理…!」
「都市防衛機構はただ街を守ればいいというものではない!それに、強すぎる兵器は諸刃の剣になると、欧州星組で思い知らされたはずですぞ!?」
「自分も納得できません!確かにヤフキエルを投入すれば効率良く帝都を霊的災厄から守ることができるでしょう。ですが、我々花組はこれまで幾度の試練を乗り越えて、やっと一つにまとまってきたんです。自分達は人間ですが、機械にはない心を持って戦ってきたからこそ、今日まで帝都防衛の任務を遂行してこられたのだと――」
「静粛に、大神少尉!戦場に思いやりなど必要ない。すぐ死ぬ人間より使い捨ての機械の方が兵器として価値があるのは当然だろう?」
「〜〜彼らは兵器ではありません!人間です…!!」
「身の程をわきまえて下さい、藤枝少佐。女のあなたが口を挟むことではありませんよ?」
意地悪く笑う後藤を悔しく睨むあやめ。
「これは決定事項だ。従えぬと言うなら、それ相応の処分を言い渡すぞ?」
「上等じゃねぇか…!あんたらが何と言おうと、俺は絶対に花組を解散させたりしねぇからな…!!」
「静粛に!本日の午後2時より銀座本部にヤフキエル部隊を導入する。大神少尉以下花組隊員は強制退去とする。速やかに対応してくれたまえよ」
電気が点き、帰る総理達。微笑み、大神の肩を軽く叩く米田。
「…ありがとよ、大神。お前の気持ちは絶対に無駄にはしねぇぜ」
「米田司令…!」
「私も全力で花組を守るわ。花組あってこその帝撃ですものね!」
「私も協力しよう。必要なことがあれば、何でも言ってくれ」
「花小路伯爵…、ありがとうございます…!」
「――おやおや、惨めですねぇ。負け犬同士が傷を舐め合ってますよ」
歩み寄ってくる後藤を睨む大神とあやめ。
「まだわからないのですか?あなた方の花組は見限られたのですよ」
「〜〜何だと…!?」
「…放っておきなさい。相手にするだけ時間の無駄よ」
「ほほぉ、さすがに仲が良いですなぁ。フム…、海軍の若きエース…ねぇ。いやはや、藤枝少佐もなかなか見る目がありますな。そうやってまた将来有望の男に取り入り、自分の出世に生かそうというわけですか」
驚く大神。後藤を睨むあやめ。後藤の襟を掴み、睨む米田。怯える後藤。
「もういっぺん言ってみろ…!?その喉をかっ切ってやるぞ…!!」
「〜〜こ、これだから負け犬は嫌なんだ!フッ、しかし、全て遠吠えにしか聞こえませんね。ともかく、ヤフキエル部隊は予定通り導入されます!早く戻って荷物をまとめ始めた方がよろしいですよ?ハハハハ…!」
高笑いしながら出ていく後藤。うつむくあやめを心配に見る大神。
★ ★
深夜。部屋で眠るアイリス。静かにドアを閉める見回り中の大神。
「よかった…。アイリス、今日は寝られてるみたいだな」
『〜〜アイリス、わかる、あのお姉ちゃんとおじちゃん、アイリス達のこと大嫌いだって…!!』
(――本当にラチェットとブレント社長が組んでいるとしたら、さっきの戦闘で先回りされたのも説明がつく…。だが、一体何の為に…?)
自分の部屋に戻り、ドアを開ける大神。あやめが軍服を脱いで着替え中。
「え…?〜〜うわあっ!!す、すみません、間違えました…っ!!」
真っ赤で慌ててドアを閉める大神、隣のあやめの部屋を確認して気づく。
「…ってここ、俺の部屋だよな?――あぁ、そうか。ラチェットが…」
寝間着に着替え終え、照れながらドアを開けるあやめ。
「ごめんなさい、驚かせちゃったわよね…?どうぞ入って?」
「い、いえ…。俺、屋根裏で寝ますから」
着替えと毛布を持って出ていこうとする大神のシャツを引っ張るあやめ。
「私は平気よ?ほら…」
屏風でベッドと床のスペースを仕切ってある。
「屋根裏なんかで寝たら風邪引いちゃうもの。ね、一緒に寝ましょ?」
「いいっ!?だ、駄目ですよ、そんな嬉し…じゃない!ふしだらなことっ!!」
「ふふっ、大神君を信じてるから!」
(〜〜うぅ…、そんな顔で言われるとなぁ…)
「…じゃあ、あやめさんはベッドを使って下さい。俺は床でいいですから」
「ありがとう。明日、ラチェットに新しい部屋を用意するから、今日だけ我慢してね?」
「は、はぁ…。――じゃあ、電気消しますね…?」
電気を消し、布団を頭まで被る大神。
(〜〜ね、寝られるわけないじゃないか、あやめさんと同じ部屋でなんか…!!)
大神を見つめ、横を向くあやめ。
「…ねぇ、大神君」
「〜〜なっ、何ですか…?」
「……私って…嫌な女よね…?」
「え…?」
「ふしだらよね、嫁入り前の女が男の人の部屋で一夜を明かすなんて…?」
あやめの方を向き、静かに見つめる大神。
「〜〜本当…すごく嫌な女よね?純粋な男の子に思わせぶりな態度取ったりして…。これじゃ女の武器を使ったとか言われても仕方ないわよね…」
「あやめさん…」
「〜〜ごめんなさいね、突然こんなこと…。あなただって、もっと若い娘との方が嬉しいわよね?」
「え…?そ、そんなこと――!」
体を起こす大神、勢いで屏風が倒れ、涙目のあやめが見え、驚く。
「あなたは優しすぎるわ…。〜〜だから、余計辛くなっちゃう…」
「すみません…!〜〜俺、何か失礼を…!?」
「ふふっ、ううん、違うの…。……私、やっぱり楽屋で寝るわね」
「あ…、でしたら俺が…!」
「ううん、あそこも畳だからお布団敷けるのよ。そっちの方がよく寝られるのよね。…それじゃ、おやすみなさい」
「あ…、おやすみなさい…!」
「――それから悩み…、聞いてくれてありがとう…」
微笑み、茶羽織を羽織って出ていくあやめを見つめ、照れる大神。
(あやめさん…、やっぱり悩んでたんだな…。でも、俺に悩みを打ち明けてくれたなんて嬉しいな。…少し距離が縮まったって思っていいのかな?)
隣の部屋で聞いて笑うラチェット、後藤から通信が入り、応答。
「――Good evening!後藤大尉」
『ブレントから聞いたぞ。作戦は順調のようだな』
「えぇ。今、大神隊長から誘われちゃいました、俺の部屋に来ないかって」
「ほぉ。フフッ、確かにあの小僧は利用価値がありそうだ」
「副司令のお気に入りですものね。仲間にしておいて損はないですわ」
「フフッ、柱を1本でも壊せば、全てを崩すのはたやすいもの。偉そうに気取っていても、奴も所詮は女ということだ」
「あなたも悪い人ね。副司令を陥れて、少佐の座に自分が就こうだなんて」
「フン、汚い手を使って早々に出世した奴が悪いのだ。自慢の女の武器を駆使しても、あの小僧を落とせぬと悟った瞬間の顔を早く見たいものだ」
「まぁ、怖い方!ふふっ、では、予定通り1時間後に…」
後藤との通信を切った直後、ブレントから通信が入るラチェット。
「――ナイスタイミングですこと。まるで私達の話を聞いてたみたい」
「フフ…、お前も相当人が悪いな。東洋の猿を手玉に取って楽しいか?」
「ふふっ、彼の方から持ちかけてきたのです。それにしても、日本の軍人はろくな奴がいませんわね。こんな異国の、しかも蔑む存在であるはずの女の力を借りようだなんて、相当追いつめられてる証拠ですわ」
「お遊びも程々にしておいてやれ。…それより、例のプロジェクトだが」
「私を誰だとお思いに?元欧州星組隊長の実力、見せつけてやりますわ」
輪ゴム鉄砲で星組とかえでの写真が入った写真立てを倒すラチェット。
★ ★
深夜。ヤフキエル製造工場。カードを翳し、扉を開けるブレント。ヤフキエル達を両側に収納する通路をブレント、ラチェットと歩く後藤。
「それにしてもすごい数ですなぁ…。たった2日でこれほどの――」
誤作動したヤフキエルが後藤をロックオンして攻撃する直前にナイフを投げるラチェット。ナイフが核に当たり、動作停止して黒い液体が流れ、バラバラになるヤフキエル。怯え、ラチェットの後ろに隠れる後藤。
「〜〜な…っ、ななななな…何だね、今のは…!?」
「…ただの不良品です」
「不良品だと!?そんな物があっては困る!!私の信用問題に関わ――!?」
ラチェットにナイフを突きつけられ、怯える後藤。ほくそ笑むブレント。
「大船に乗ったつもりでって日本では言うのかしら?あなたはおとなしく花組崩壊の瞬間を待っていればいいんです。おわかりになったかしら?」
声にならず、必死に頷く後藤。微笑み、ナイフをしまうラチェット。
「ひ、一つだけ教えてくれないか!?人間の操縦無しであそこまで動ける人型蒸気など未だに信じられないのだ。一体、何で造られている?」
「…知りたいですか?――いいでしょう、今日はその為にいらして頂いたようなものですからね」
ブレントに目で合図され、扉を開けるラチェット。事実に目を見開く後藤。
「〜〜こ、これは…!!何を馬鹿なことを…!?このことがバレたら私は――」
「命が惜しければ、この機密を漏らさないことだ。もし誰かに話したりすれば、すぐにその首が飛ぶことになりますよ?――もちろん、本物のね」
「〜〜ひ…っ、ひいいいっ!!」
「あら〜、もしかして、とんでもない奴らと関わっちゃったって後悔してます?」
震える後藤の頬をナイフでピタピタはたくラチェット。
「〜〜ふ、ふざけるな!!これでは話が違う!!私は降ろさせてもらうからな!!」
「あら、藤枝少佐をぎゃふんと言わせるんじゃなかったの?」
「〜〜貴様らといれば私の方が降格されるわ!二度と関わらんでくれ!!」
「…ほぉ、それは残念だ」
指を鳴らすブレント。動き、一斉に後藤の方を向くヤフキエル。青ざめ、後ずさる後藤。近づいてくるヤフキエル。
「〜〜ど…っ、どういうつもりだ…!?」
「せっかくのビッグチャンスを棒に振ったのはあなたですよ、後藤大尉?」
「〜〜すっ、すぐにやめさせろ…!!私を殺せば、陸軍が黙っちゃいないぞ!?」
「そうですね…。だが、ここは我々以外立ち入り禁止区域と書いてある。あなたは運悪く不良品のヤフキエルに出くわし、誤射された…」
「フフッ、それって規則を守らない方が悪いってことになるわよね?」
「〜〜な…っ、何…っ!?」
「安心して下さい。ヤフキエルの光線は瞬時に骨まで焼き尽くしますから、痛みは一瞬で済みます」
「Good luck〜!」
「や…、やめろ…!!だ…、誰か助けてくれええっ!!〜〜ぎゃああああ〜っ!!」
光線が当たり、一瞬で灰になる後藤。元の場所に戻るヤフキエル達。
「ふふふっ、私達を敵に回すだなんて…、馬鹿な男」
後藤の大尉の勲章を拾い、妖しく微笑むラチェット。
6−3へ
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