★6−1★



港に到着する船。降りてくる客を出迎える人々。トランクを持って降りてくるラチェット。走ってはしゃぐ子供達、ラチェットにぶつかり、尻もちつく。微笑み、サングラスを外して少年に手を差し伸べるラチェット。驚き、興奮しながらラチェットを見て、立たせてもらう少年。

「See you,boy!」

少年の頭をなで、歩いていくラチェットを見つめる少年と他の子供達。ラチェットがキャメラトロンで連絡。応答するブレント。

「ラチェット・アルタイル、ただ今、到着致しました」

「…ご苦労。そのまま大帝国劇場に向かえ。――幸運を祈る」

「ふふっ、では、また後ほど」


通信を切り、サングラスを再びして颯爽と歩いていくラチェット。

★            ★


「――いらっしゃいませ!」

銀座・三越。入店する花組、大神、あやめにお辞儀する店員達。

「うわぁ、三越だぁ〜!」

はしゃいで店内を走り回るさくら、カンナ、アイリス。

「あ〜、恥ずかしい!一緒にいる私まで笑われてしまいますわ」

「あ…、ごめんなさい。だって、お休みの日にこうして皆さんと出かけられて嬉しいんですもの!」

「フフン、まぁ田舎者のあなたがはしゃぐ気持ちもわかりますわ。ですが、ここは格式高い百貨店の三越。せいぜい恥をかきませんようにね?」


高笑いしながらエスカレーターに乗るすみれ。ムッとしながらアイリスと手を繋いで続けて乗るさくら。乗りながら店内を見渡す紅蘭。

「さすがは神崎重工の一人娘やなぁ。三越まで貸し切りにしてまうとは」

「でも、いいのかしら?日曜日なのに私達だけしか入店できないなんて…」

「いいじゃねぇか。ようやくまとまった休みが取れて旅行に行けるんだぜ?その時くらい遊びまくろうぜ、な!」

「ふふ、そうね。たまには羽根を伸ばすのも悪くないわね」

「へへっ、そうこなくっちゃ!お〜しっ、んじゃまず腹ごしらえだな!」

「え〜っ!?アイリス、お洋服が見たいよ〜っ!」


はしゃぐ花組を見て微笑む大神とあやめ。

「皆、楽しそうですね」

「えぇ。皆でお出かけができるようになるなんて、結成当初は思いもしなかったわ。これも隊長さんがしっかりまとめてくれているおかげね」

「はは、そんな…」


あやめに腕を組まれ、照れる大神。水着売り場に行き、選ぶさくら達。

「わぁ、これ可愛い〜!」

「えぇえぇ、よ〜くお似合いですわよ、さくらさん。あなたみたいなぺったんこの方には、そういうおこちゃまものがピッタリですわ〜」

「〜〜ムッ!そういうすみれさんだって人のこと言えるんですかっ!?」

「ホホホ…、私はあなたとは最初からセンスが違いますのよ?」

「うっわ、毒色ビキニ…。蛇女にはピッタリだな!」

「〜〜何ですってぇっ!?」

「へへっ、あたいはこれだな。競泳用水着!デザインより機能重視さ」

「アイリスはね〜、フリフリとリボンがいっぱいの〜!」

「う〜ん…、うちはどないしようかな〜?マリアはんは決――」


フリフリの可愛い水着を持つマリア、慌てて元に戻す。呆然のカンナ達。

「〜〜いっ、今のは…そう!アイリスのを選んであげてたのよ…!!」

「…そこ、大人サイズでっせ?」

「〜〜だ、だから、こういうデザインで子供サイズのがあればな〜って…」


顔をひきつらせるマリア。吹き出しそうになるカンナ、アイリス、紅蘭。

「……今、絶対笑ったでしょ?」

「〜〜うわああ〜っ!!店員さ〜んっ!!」


銃を3人に向けるマリア。鼻歌を歌い、鏡の前で水着をあてるさくら。

「まぁ、とっても似合ってるわよ、さくら」

さくらの後ろにきて、鏡を見るあやめ。

「あ…、えへへ、ありがとうございます!」

「若い娘はいいわね、肌もピチピチしてるし。う〜ん…、私はもっと落ち着いたデザインの方がいいんだけど…。――これなんかどう、大神君?」


セクシーな水着をあてるあやめに突然聞かれ、驚く遠くで待つ大神。

「〜〜いっ!?いや…、似合ってますよ、とても…!」

「そう?じゃあ、思い切ってこれに決めちゃおうかな!」


嫉妬するも、自分の水着を不安に見つめるさくら。

(大神さん、ああいう水着の方が好きなのかしら…?)

「お兄ちゃ〜ん、そんなとこいないで一緒に水着選んでよ〜」

「〜〜だってそっちは女性用のだろ?男の俺が行ったら変に思われるよ」

「本当は来たくてしゃあないくせに。顔にちゃ〜んと書いてあるで〜!」

「〜〜い…っ、いぃっ!?そ、そんなこと…決して…ないぞっ!?」

「…そうやって動揺されると、余計疑われますよ?」


がっくりする大神。笑うさくら達。

★            ★


三越内の洋食レストランで食事するさくら達。

「――う〜ん、うめぇ〜!お〜い、ハンバーグステーキ1皿追加な〜っ!!」

「〜〜はぁ…、皆、すごい体力だな…」

「んまぁ、殿方がそれぐらいで音を上げていてはだらしありませんわよ!?」

「〜〜だからって、この荷物量はないだろ…!?歩いて帰るんだぞ!?」

「では、岡村に届けさせますわ。お買い物はまだまだこれからですもの!」

「〜〜まっ、まだ買うのかい!?」

「当たり前だよ!ね〜、マリア!」

「…すみません、隊長」

「〜〜ハァ…、休日バンザ〜イ…」


テーブルに突っ伏す大神。

「あはは…、頑張りぃや、大神はん!ほんなら、次はどこ行こか?」

「あっ、アイリス、あれ観た〜い!」


ラチェット主演の活動写真のポスターを指すアイリス。ハッとなるあやめ。

「わぁ…、外国のお話ですね!」

「ラブストーリーはアイリスにはまだ早いんじゃないかしら…?」

「〜〜むぅ〜、アイリス、子供じゃないもんっ!」

「いいね〜、是非観よう!!俺もそれ、ずっと前から観たかったんだ!!」

「わかりましたわ。その後でまたお買い物の続きと参りましょう!」

「〜〜うっ…!あくまでも買い物は外さないんだな…」


落ち込む大神の隣で暗くうつむくあやめ。

★            ★


活動写真館。ラチェットの出るアメリカの活動写真に泣くさくらとカンナ、扇子を扇ぐすみれ、都こんぶを食べながら観るマリア、映画よりクッキーに興味を持つアイリス、興奮して鼻息荒く観る紅蘭。照れて戸惑う大神。平気で観るあやめ。ラチェットと俳優のキスシーンにはしゃぐさくら達。

「きゃ〜っ!こんなシーン、映しちゃっていいんですかぁ!?」

「〜〜うお〜っ!!こりゃマズい!!〜〜アイリス、見ちゃ駄目だ!!」


アイリスの目を塞ぐカンナ。

「あ〜ん、クッキーが見えないよぉ〜」

「ほっほぉ〜!さっすがメリケンの映画は描写がすごいですなぁ〜!」

「ふん、この程度のラブシーンでうろたえるなんて、お子様ですわねぇ。お〜っほほほほほ…!!」

「〜〜静かにしなさいっ!」


小声で注意するマリア。周囲の客からの冷たい視線に小さくなるさくら達。

(〜〜な…、何だか想像以上にすごい話だ…。やっぱり、日本のアニメーションにしておけばよかったかなぁ…。アイリスもいることだし…)

照れて直接見られない大神に微笑み、ポップコーンを薦めるあやめ。

「どう?おいしいわよ」

「い、頂きます…」


ポップコーンをつまみ、あやめをちら見する大神。平気で観るあやめ。

(…全く動じていない。さすがはあやめさん、大人だ…。〜〜ハァ…、こういうのって普通、カップルで観るものだよなぁ。何だか気まずい――)

ポップコーンをつまもうとした大神の手がポップコーンを食べるあやめの手に当たる。赤くなる大神。

「〜〜あ…!す、すみません…!!」

「ふふっ、気にしないで。でも、熱でもあるの?妙に熱かったけど…」

「〜〜い、いえ…、その…。大丈夫です…」

「そう?気分が悪かったら言ってね?」


再び映画を観るあやめ。さらにどぎつくなるラブシーン。

(〜〜早く終わらないかな…。年齢制限とか出しといてくれないと困るよ)

あやめの横顔を見つめ、赤くなりながらポップコーンをつまむ大神。

(――暗い中、あやめさんの隣…か。……やっぱり悪くないかも――!!)

大神に無理矢理ポップコーンを食べさせるさくら。

「私のも食べて下さいね〜!おいしいですよ〜!」

「〜〜も…っ、もがもご…」

「…フン、スケベ」


ムカついて大神を睨み、ジュースを飲むさくら。

★            ★


活動写真館を出て歩く花組。

「――あ〜、面白かったですねぇ、活動写真!」

「…アイリス、よくわかんなかった。お菓子食べてる方が楽しいよ!」

「濃厚なラブシーンがぎょうさんあったやさかい!子供が退屈なんもしゃあないわ」

「〜〜むぅ〜!アイリス、子供じゃないってば〜っ!!」

「ハハハ…、じゃあ、今度行く時はアイリスも楽しめるものを見ようか?」

「さんせ〜い!あたいもさぁ、何だかむず痒くって仕方なかったんだよ。〜〜アメリカ人ってああいうの見ても平気なのかねぇ…?」

「フフン、まぁ、カンナさんには一生縁のないことでしょうからねぇ」

「〜〜んだとぉっ!?もういっぺん言ってみろ、サボテン女っ!!」

「こぉら、道の真ん中で喧嘩しちゃ駄目でしょ?」


つんとするすみれとカンナを引き離すあやめ。

「あはははは…!よっ、トリオ漫才!!」

「あーあ、この前の戦いで仲直りしてくれたと思ったのに…」

「ふふっ、お二人らしくていいじゃないですか!――マリアさんは活動写真、いかがでした?」

「なかなかよくできていたと思うわ。さっきの映画ってミュージカルみたいに歌と踊りが入ってたでしょう?同業者としていい勉強になったわ」

「へぇ、仕事のことを考えてたなんて、さすがはマリアだな!」

「いえ、そんな…」

「私もそう思います!それにお話も明るくて、楽しかったですよね〜!」

「でも、最後は泣けたよなぁ〜!ハッピーエンドでよかった、よかった!」


帝鉄に乗ろうとするラチェットとぶつかり、気づくさくら。

「あ…!ご、ごめんなさ――ベ…ッ、ベス…ッ!?」

きょとんとするラチェットをよく見るさくら、カンナ、紅蘭、アイリス。

「きゃ〜っ!本物のベスだわ!ジョニーと幸せになれてよかったですね!!」

「お〜っ!本物だぁ〜っ!!すっげぇ〜っ!!」

「映画で観るより、さらにべっぴんはんなんやね〜!」

「きゃ〜!握手して下さ〜い!!」


騒ぐさくら達に戸惑うラチェット。

「〜〜み…、皆、あまり騒ぐと――」

「――おい、花組さんがいるぞ!」

「本当だ!すみれ様〜!!」

「マリアさ〜ん!」

「〜〜まずい…!逃げるぞ、このままじゃパニックになる…!!」

「そ、そうですね…!――ベス〜、ジョニーと仲良くね〜!!」


走っていくさくら達を見つめ、微笑むラチェット、キャメラトロンで花組の顔を確認。

「――ふぅん、あの娘達がねぇ…」

★            ★


大帝国劇場。ファン達に追いかけられ、急いで入口に逃げ込むさくら達。

「〜〜はぁはぁ…、はぁ〜、何とか帰ってこられたな…」

「はぁ…、綺麗な方でしたね〜、ベス」

「日本に来てたんだな〜!外国人の女優に会ったの初めてだぜ!」

「え〜?アイリスも外国人の女優だよ!?」

「あ…、そういやマリアと紅蘭もだな…。あはは!すっかり忘れてたぜ」

「皆さん、騒ぎすぎでしてよ?文明開化したこの時代、外国人が道を歩いていても不思議でも何でもありませんわ。それにトップスタァの私に比べたら、あんな安っぽい活動写真に出ているメリケン女など足元にも及びません。〜〜あそこで気づかれなかったらまだまだお買い物ができましたのに…!それもこれもあなた方が騒ぎすぎるからいけないんですのよっ!?」


すみれに怒鳴られ、しょげるさくら。暗いあやめを覗き込む大神。

「…どうかしましたか?」

「ううん、何でもないの…。〜〜でも、どうしてあの子がここに…?」


難しい顔をするあやめに首を傾げる大神。

「――あ〜、もう!!だから、何なのよっ!?」

「…?何の騒ぎでしょう…?」


騒がしいロビーに向かうさくら達。困惑し、ラチェットと話す三人娘。

「〜〜だーかーらー、私達は日本人!日本語で喋ろっつってんの!!OK!?」

「〜〜ゆ、由里…、そんなむちゃくちゃな…」

「どうしたの?」

「あ、マリアさぁん!〜〜あ〜ん、助けて下さぁ〜い…!!」

「外国人のお客様がいらしたのですが、何を話されてるんだかさっぱりで」


振り返るラチェットの顔を見て、驚く花組。

「あぁっ…!ベス…ッ!!」

さくらに気づき、笑顔で英語で話してくるラチェット。戸惑うさくら。

「〜〜OH〜、あ…、あいあむ…ちぇりー!ちぇりーいず…仙台ね!」

通じず、よけい速くなるラチェットの英語。

「…通じてねぇみたいだぞ?えーと、こういう時はだな…、ハロー!ボンジュール!グッバ〜イ!」

「フフン、何ですの、その途中にフランス語を混ぜたでたらめな言語は?」

「ムッ!…だったら、てめぇが話してみろよ」


すみれに話しかけるラチェット。扇子を扇ぎ、得意気に前に出るすみれ。

「――ウィ・キャント・スピーク・イングリッシュ!!OK!?」

驚き、オーバーに笑うラチェット。

「わぁ、さすがは、すみれさん!英語も完璧にお話しになるんですね!」

「フフン、これくらい上流階級のたしなみですわ。お〜っほほほほ…!!」

「〜〜せやけど、何か妙に笑われとるで…?」

「フフッ、日本人の中にもこんなに英語を話せる人がいたなんて、と嬉しがってらっしゃるのですわよ。お〜っほほほほほ…!!」


ため息つき、前に出て、英語でラチェットと話すマリア。

「おぉっ、なんて流暢な…!…で、何を話してるんだ?」

「〜〜そ、それは…、『大帝国劇場へようこそ!先程ご挨拶させて頂きましたのは当劇場の麗しきトップスタァ・神崎すみれ嬢でございま――』!?」


すみれが言い終える前に突然ラチェットに銃を向けるマリア。

「〜〜マ、マリアさんっ!?」

銃を連射するマリア。トランクで防ぎ、ナイフをマリアに投げるラチェット。よけ、転がって撃つマリア。走りながらナイフを投げるラチェット。

「〜〜これのどこがご挨拶なんだよっ!?」

「〜〜わ…っ、私に聞かないで下さいましっ!!」

「〜〜ストップ!スト〜ップ!!二人とも、喧嘩はやめろぉっ!!」

「〜〜こっ、これはもはや喧嘩という次元の問題やないと思うで…?」

「それもそうだな…って感心してる場合じゃない!早く止めないと…!!」

「――何の騒ぎだぁ?今日は休演日だろ…ってうわああ!?」


欠伸しながら下りてくる米田、弾とナイフが目の前を交差し、腰を抜かす。

「〜〜し、支配人…!」

「〜〜あ〜ん、何なんですかぁ、この外人さぁん!?」

「お、おい!人の劇場で何やって――!!ラ、ラチェット…!?ラチェットか!?」


米田の方を向き、最後の弾を弾いてナイフをしまうラチェット。

「…Are you Mr.Yoneda?」

「…あなたが米田支配人かと言っています」

「イ、イエス、イエ〜ス!じゃあ、やっぱりお前がラチェットなんだな?」

「おじちゃんのお友達なの?」

「いいや、初対面さ。こいつは今日から花組に配属になる新入隊員だよ」

「えぇ〜っ!?」

「そ、そんな話、聞いてねぇぞ!?」

「…ま、俺も陸軍省から今朝聞かされたばっかりだからな」

「えぇ?どういうことなんですかぁ…?」

「…ラチェット・アルタイルです。あなた達が花組の皆さん?」

「〜〜に…っ、日本語話せるんじゃないのよぉっ!!」

「Sorry!確認できるまで面倒を避けたかったから」

「…とりあえず支配人室に来てくれ。正式に隊員として迎え入れるからよ」

「イエッサー!」


顔を見合わせるさくら達。すれ違いざまにあやめに微笑むラチェット。戸惑いながらも微笑むあやめ。2人を黙って見つめる米田。

★            ★


支配人室。紐育華撃団設立の書類に目を通す米田。

「――なるほど。巴里に続いて紐育にも華撃団ができるってわけか」

「はい。この度、私は紐育華撃団・星組隊長として任命されました」

「ふむ…。……星組…ねぇ」

「ごめんなさいね。もっと早くわかっていれば色々準備できたんだけど…」

「いえ、こちらの伝達ミスですから。――それで、研修生として受け入れて下さいます?」

「あ?あぁ…、まぁいいだろ」

「まぁ、お心遣い、ありがとうございます!」


米田の頬にキスするラチェット。照れて笑う米田。

「な〜に、何ならもっといていいんだぞ〜!部屋も好きな所使ってくれ」

「〜〜司令っ!勝手なことを言われては困ります…!!」

「いいじゃねぇか。アメリカ人の隊員はまだいなかったしよ」

「恩に着ますわ、米田長官。お優しい上官でよかった!」

「ははは…!ほれ、早く他の連中に挨拶してきな」

「えぇ、失礼します」


鼻歌混じりに出ていくラチェット。

「ははは…!べっぴんさんになったなぁ、ラチェットも――!?」

米田の机の周囲にある全ての酒瓶を抱え、微笑むあやめ。

「――ラチェットが帰るまで、禁酒ですから」

「え…!?〜〜お、おい…!ちょっと待った、あやめく――!!」


追いかけてくる米田に思い切り閉めたドアをぶつけるあやめ。

★            ★


「――というわけで、今日から1年間、研修生として花組に入ることになったラチェット・アルタイルさんだ」

「ラチェット・アルタイルです。そんなわけだから、よろしくね!」


鍛練室。さくら達にラチェットを紹介する大神。全員戦闘服。

「こちらこそ、よろしくお願いします!わぁ…、アメリカのトップスタァさんと一緒にいられるなんて、夢みたい…!」

「フン、トップスタァという言葉を軽々しく使わないでほしいですわね。アメリカなんて移民を寄せ集めた国土が広いだけの国…。そんな所の隊員を突然連れてこられても、私達には何のメリットもありませんわ」

「ま〜た…。おめぇのせいでアメリカと戦争になったらどうする気だよ?ラチェットは隊員とはいえ、お客さんなんだぞ?もっと大事にしてやれよ」

「こう考えたらどうでっか?ラチェットはんが入ったら、自然と花組の戦力も上がるやろ?戦闘が楽になる分、舞台の方にも力を入れられるで!」

「紅蘭の言う通りだよ。それにラチェットはアメリカの人気女優。帝劇に新しい風を吹かせてくれるだろうし、お客様にもウケが良いと思うけどな」

「〜〜わかってませんわねぇ!!どちらにせよ、私の出番が減るだけですわ!!」

「〜〜あ〜…、そういうことかいな…」


ラチェットに怯えているアイリスに気づく大神。

「どうしたんだ、アイリス――?」

大神の後ろに隠れるアイリス。微笑み、アイリスの頭をなでるラチェット。

「まぁ、お人形さんみたい!お名前は?」

黙っているアイリス。困り、愛想笑いする大神。

「この子はイリス・シャトーブリアン。俺達はアイリスって呼んでるんだ」

「ほらアイリス、ラチェットさんにご挨拶は?」


うつむいたままのアイリスに顔を見合わせるさくら達。

「と、とりあえず訓練を始めようか。ラチェットは帝劇内を見学でも――」

「ふぅん…、なかなか良い機械をお使いなのですね」


すでに訓練機を見て触れているラチェット。

「〜〜い、いつの間に…!?」

「ねぇ、私もやってみていいかしら?」

「フン!あなた、帝撃の訓練をおナメになっているでしょう?それにこれは先月改良されたばかりの最新型…!この私でさえ全項目優を取るのが難しいのに、ましてやド新人のあなたがまともな点数を出せるとでも――」

「〜〜ご…っ、500点突破しました…っ!!」

「…え!?」


鼻唄を歌いながら、勝手にシミュレーション訓練を始めているラチェット。測定する風組のモニターに颯爽と3Dの敵を倒していくラチェットの操作する3Dの光武。驚き、駆け寄って大神達と一緒に見るすみれ。

「〜〜い…っ、1000点〜っ!?マジかよ…!?」

「〜〜このスピードでこんなに確実に敵を仕留められるなんて…!」

「ベス、すっご〜い!」

「…いや、ベスは役名やからね?」


うっとりするさくらにツッコむ紅蘭。わなわなするすみれ。大型の敵を倒し、次のステージに進むラチェット。

「ひぇ〜っ!!最難関と言われた三次元訓練機(改)をたったの1分でクリアとはなぁ…!フッフッフ…、こりゃさらなる改良のし甲斐があるでぇ!」

アイマスクを上げ、出てくるラチェット。拍手し、出迎えるさくら達。

「すごいな、ラチェット!全項目、優だぞ…!!」

「〜〜ちょいと、あなた!!本当にこの訓練機を使うのが初めてですの!?フフン、目立とうとしておとぼけになっているのではありませんわよねぇ?」

「でも、このタイプのものはアメリカには輸出してないはずですけど…?」


すみれに睨まれ、ビビる由里。

「…さすがは元星組隊長ね。これからもお互い頑張っていきましょう」

マリアの出す手を見つめ、握手するラチェット。意味深に微笑むマリア。

「けけけっ、これでおめぇの天下も終わりだな〜!」

カンナを睨み、腕を組んでムカつくすみれ。ボードを持って駆け寄る紅蘭。

「機械の調子はどないやった?新製品やさかい。これから徐々に微調整を重ねていくつもりやねんけど」

「トレーニングとしてはなかなかね。でも、敵の動きが単純すぎるわ。もっと動きのパターンを増やした方がいいんじゃないかしら?」

「なるほど!いや〜、さすがアメリカのお人は言うことがちゃいますなぁ。それに初めてでこないに光武と波長が合うやなんてすごいわぁ!」

「えぇ、光武はパイロットの一番のパートナーですものね」

「嬉しいなぁ!ラチェットはんって優秀だけやのうて、人間的にも優れたお方なんやね!」


喜ぶ紅蘭と互いに指導し合うさくら達を馬鹿にした目で見るラチェット。

(…波長なんか合わせなくても、これくらい操縦できて当たり前じゃない)

「…もう戻っていいかしら?船旅だったせいか、疲れてて…」

「あ…、そうですよね…。――お疲れ様でした。ゆっくり休んで下さいね」


かすみから結果を渡され、微笑んで出ていくラチェット。見送る三人娘。

「は〜、すごいですねぇ。私のマリアさんだって満点出すの難しいのに…」

「はぁ…、格好良いなぁ、ベス…!」

「〜〜せやから、ベスは役名やて…」


憧れの眼差しのさくらにツッコむ紅蘭。真剣な顔で腕を組み、光武にもたれるマリア。怯えるアイリスを心配する大神。テラスを通り、星を見るラチェット。回想。訓練で満点を出す幼いラチェットの頭をなでるかえで。

『――あなたは天才よ。きっと星組の最高の兵器になれるわ』

『――ラチェット、絶対帰ってきてね!僕、ずっと待ってるから…!』


かえでとベガを回想し、ため息つき、窓に寄りかかるラチェット。

★            ★


黒之巣会・本拠地。水晶玉の破片が散る。ビビり、土下座するミロク。

「〜〜も、申し訳ございません!!孔雀の整備が万全であれば、今頃――」

「〜〜言い訳など聞きたくないわぁっ!!」


黒い雷が落ち、慌ててよけるミロク。いた所の床が壊れて煙が立つ。

「刹那、羅刹に続いてミロク、お前までもが無様に失敗か…。〜〜まったく、これが黒之巣四天王とは、聞いて呆れるわい」

「い…、今一度このミロクにチャンスを!次こそ必ず奴らを亡き者に…!!」

「くくくっ、よかろう。――じゃが、失敗すれば…」


ミロクのすぐ横に黒い雷が落ちる。ビビるミロク。

「…よいな?」

「〜〜は…、ははぁ〜…!!」


深々頭を下げるミロク。隠れて聞き、怪しく笑う叉丹。


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