★7−3★



黒之巣会・本拠地。天海の前にひざまずくミロク。

「天海様、第三の封印、確かに解き放ちましてございます」

「くく、ご苦労であった、ミロクよ」


手中に黒い球を出し、妖力を集める天海。が、途中で消える。

「む…?どういうことだ?」

「おそらく、封印の力が弱まっているのでしょう」

「そんな…!わらわはちゃんと解き放ったぞ!?」

「戦国時代終結から300年間、ずっと封印されてきた力…。いくら強大な魔力といえ、目覚めて間もないなら、本来の力を発揮できないのは当然だ」

「じゃあ、他の場所のも…!?」

「おそらくな。――ですが、心配は無用です、天海様。あなた様の黒き力を封印石に加えれば、当時の魔力まで最大限に回復できますゆえ」

「そうか…。少々手間はかかるが、仕方あるまいな。よし、我自ら赴き、魔力を与えるとしよう。ミロク、案内致せ!」

「かしこまりました…!」


天海を見て怪しく笑う叉丹。

★               ★


朝。小鳥のさえずり。格納庫。光武を見る大神。寝息を立てて眠る紅蘭。

「朝か…。……泣き疲れて寝ちゃったか…」

「――大神君…」

「あ、あやめさん…!おはようございます」


微笑み、隣に座るあやめ。

「ずっと紅蘭に付き添っててくれたのね…。ありがとう」

「心配だったんです。あんなに怒った紅蘭見るの、初めてでしたし…」

「…ちょっと来てくれる?」

「え?」


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支配人室にノックして入る大神とあやめ。

「失礼します」

「来たか。ま、適当に座ってくれ。お前に見せたいもんがあるんだ」

「見せたいもの…ですか?」

「――あやめ君」


カーテンを閉め、映写機を動かすあやめ。スクリーンに欧州星組の映像。

「これは…、欧州大戦…!?」

「あぁ。多くの戦死者を出したとされるヨーロッパ史上最大の戦争…。これが戦争の引き金となった部隊、欧州星組だ」

「欧州星組って確かラチェットが所属していた…?」


ラチェット、織姫、レニ、昴の映像。

「あぁ。司令はあやめ君の妹・藤枝かえで特務中尉。弱冠16歳だった…」

「…かえでは全世界から霊力の高い子供を見つけて、特殊部隊を結成したの。それが欧州星組…、私達帝国華撃団の実験部隊よ」

「〜〜しかし、これではただの…!」

「あぁ、殺人部隊だ。欧州星組は当初、俺達と同じ都市防衛機構だった。だが、あまりに霊力が高い隊員と敵殲滅しか考えず、犠牲を顧みないかえで君…。主旨の軌道はずれていき、最終的に戦争の火種になっちまった…」

「星組は少しでも悪事を働いた者に次々制裁を加え、死に追いやったの。それに反発した欧州の各国が戦争を挑んだけど、どの国も勝つことはできなかった…。やがて欧州星組は危険部隊として強制的に解散、ラチェット達隊員の情報は抹消、かえでも謹慎処分を言い渡されたの」

「そうだったんですか…」

「この人型蒸気はな、アイゼンクライトっちゅう光武の前身だ。だが、光武とはまるで違う…。ただ殺人を繰り返す兵器でしかなかったんだ…」

「紅蘭はね、小さい頃、ずっとこの映像を見ていたの。機械が人間によって殺人兵器として利用される様子を泣きながら、目に焼きつけてね…」


蒸気テレビで映像を見ながら、泣く幼い紅蘭。

「紅蘭…。〜〜失礼します!」

立ち上がり、一礼して走って出ていく大神。

「大神か…。ふっ、良い奴じゃねぇか」

「あら、今頃お気づきになられたんですか?」


倒れる音。廊下を見るあやめ。大神が苦しそうに倒れている。駆け寄り、抱き起こすあやめ。

「大神君!?しっかりして!!〜〜すごい熱…!こんなになるまで、あなた…」

「どうした!?」

「〜〜早く医務室に…!」

「あ、あやめ君…!」


大神の肩を抱え、歩き出し、息を荒げる大神を見つめるあやめ。

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医務室。ベッドで寝る大神。蒸気体温計を見るあやめ。高すぎてエラー。

「〜〜そんな…!」

うなされる大神。手を握るあやめ。

「大神君、しっかりして!苦しいの!?」

「〜〜う…、こ…紅…蘭……」

「大神君…。〜〜バカ…、こんな時まで…!」

「大神さん…!?」


入ってくるさくら達と風組。

「大神さんが倒れたって支配人から聞いて…。あ、あの、何で泣いてるんですか!?〜〜もしかして、大神さんはもう…」

「うわ〜ん!!そんなのやだよぉ、お兄ちゃ〜ん!!」

「不吉なこと言わないで…!!医者には連絡しましたか!?」

「〜〜ま、まだ朝早いし…、休日だから電話に出なくて…」


うつむいて肩を震わすあやめを見つめるマリア。

「私達が連絡してきます!」

「お願いね!治療費はいくらでも出すからって…!」


驚くかすみ。

「了解しました!ほら、かすみも!」

「え、えぇ…」

「その必要はありませんわ。私の昔からのかかりつけ、最高の腕を持つ医師を特別に紹介して差し上げましょう」

「わぁ、さっすが神崎財閥のお嬢様ですね!」


連絡先をメモした紙を椿に渡すすみれ。

「私の名前を出しなさいな。我が財閥で治療費を半分負担致しますわ」

「わかりましたぁ!」


出ていく風組。

「助かるわ、すみれ…!」

「へへ、いいとこあるじゃねーか!」


すみれの肩を抱くカンナ。

「ふん、この私にうつったら大変ですもの」

「じゃ、あたいは特製スタミナ粥とたまご酒を作るか!すみれ、手伝え!」

「な、何で私まで…!?〜〜ちょ、ちょいとーっ!?」


すみれを引っ張っていくカンナ。

「医者が来るまで交代で看病しましょう。騒がしいと隊長も休めないわ」

「やだぁ!アイリス、ずっとそばにいる〜!」

「私もです〜!」

「皆でいても仕方ないでしょう?そうですよね、あやめさん?」


大神の手を握り、見つめるあやめ。黙り、ため息つくマリア。

「…わかったわ。その代わり、静かにね」

「はーい!」「はーい!」


大神を見つめるあやめを見つめるマリア。

★               ★


神戸の屋敷。格納庫で光武の試作品を完成させ、笑顔で見上げる紅蘭。

『よっしゃあ!遂に完成や…!』

『――調子はどう?』

『あ、パーシーはん!見てみいな、今朝、ようやく完成したんやで!人型戦闘蒸気『光武』試作品、第1号や!!』


驚き、紅茶を落とすパーシー。

『わっ!!だ、大丈夫でっか!?』

『〜〜こ…、これは…!!』

『へへ、可愛いやろ?うちの念願がようやく叶ったんやで。これもパーシーはんがパトロンでいてくれとるおかげやな。ほんまおおきに――』

『〜〜ふざけないでっ!!』

『…え?』

『こんな殺人兵器、今すぐ解体しなさい!!見てるだけで、吐き気がするわ!!』

『な、何言うてんねん!?この子は――』

『これが…、この鉄の悪魔が私の息子を殺したのよ!!〜〜欧州大戦のアイゼンクライトそっくりじゃない!!』

『この子はちゃう!!同じ人型蒸気でも、ちゃんと人間を幸せにする為に作られたんや!!』

『機械に違いも何もあるものですか!!〜〜どいて!!壊さないんなら私がやるわ…!!〜〜息子の仇ぃっ!!』


ハンマーで光武を叩くパーシー。傷ができてへこむ光武。

『やめてくれ!!この子は…、〜〜この子はちゃうんやあああっ!!』

光武の中で目を覚ます紅蘭。飛び立つ鳥。

「……寝てしもうたんか…」

涙を拭く紅蘭。薔薇の花束を持って廊下を走る薔薇組を見つける。

「大神さんのピンチです〜!!」

「いや〜ん!!私を置いて死なないで〜!!」

「一郎ちゃ〜ん!今行くわ〜!!」


驚き、廊下を走る紅蘭。事務室で三人娘が電話中。

「そうですか…!はい、ありがとうございます!患者は今、医務室で――」

再び走り、厨房で料理するカンナとすみれに気づく。

「わっ!〜〜バカ!塩、入れすぎだぁ!!」

「うるさいですわね!!これぐらいの方がおいしいのです!!」


再び走り、医務室を覗く紅蘭。看病するあやめとマリア。千羽鶴を折るさくらとアイリス。うなされる大神。周りで泣く薔薇組。

「大神はん…」

(〜〜うちのせいや…。うちのせいで風邪が悪化して…)


気づき、振り返るマリア。が、もういない。涙を袖で拭き、凛々しく走る紅蘭。格納庫。薬草の本を広げ、調べる紅蘭。

「これも違う…!これも…、〜〜これもや…」

『――俺はずっとここにいるから』

『――機械のこと、もっと教えてくれよ』


大神を思い出し、手を震わせ、薬草を置き、涙を流す紅蘭。

「〜〜何つまらん意地張ってたんやろ…。大神はん、あないにうちのこと考えとってくれたのに…。〜〜うち、ほんまアホやわ…」

「――大変そうね」

「マリアはん…!」

「知人に薬草研究家がいるの。教わったことあるし、手伝えると思うわ」

「マリアはん…。よっしゃ!お願いするで!!」


煎じる紅蘭とマリア。医務室まで走る。

「紅蘭…!」

「これを大神はんに…」


あやめに煎じた薬を渡す紅蘭。

「薬草を煎じてくれたのね…。ありがとう」

「へへ…!」


スプーンで薬を大神に飲ませるあやめ。呼吸が楽になり、眠る大神。

「よかった…!これでお医者様が来るまで安心よ」

「い、一郎ちゃ〜ん!!」

「あ〜ん、よかったわ〜!!」

「紅蘭、すっごーい!」


微笑み合う紅蘭とマリア。遠くから見て微笑む米田、気配を察し、急いで作戦司令室へ。九段下が赤く点滅。

「〜〜ちくしょう、こんな時に…!」

警報音。

「九段下に天海が出現!至急、作戦司令室に集合して下さい!!」

「〜〜そんな…!」

「大神さんは私達で見てます!どうぞ行ってきて下さい!」

「ありがとう…。皆、行きましょう…!」


★               ★


ダストシュートに飛び込む花組とあやめ。戦闘服で一列に並んで敬礼。

「…花組隊員と藤枝少佐、到着致しました」

「…すまねぇな」

「…敵はこちらの事情なんてお構いなしですからね」

「紅蘭、大丈夫…?」

「〜〜ほんまカンニンや…!大神はんがあないなことになったのも、うちの責任や…。うちがつまらん意地張っとったから、大神はんは…」

「――それは違うよ…」


ふらつき、戦闘服で歩いてくる大神。泣いて後を追う薔薇組。

「お兄ちゃん…!!」

「だめじゃない!寝てなくちゃ…!!」


大神を支えるあやめ。

「あ〜ん、そうよ、そうよ!」

「お願いだから、おとなしくしててぇ〜!」

「俺なら大丈夫です…。――紅蘭、欧州大戦の映像、俺も見せてもらったよ。それで、やっとわかったんだ。一番悪いのは人を殺す機械じゃない。機械を使って悪事を働く人間達なんだって。だから君が言うように脇侍ももし、設計思想で人を幸せにできるよう願いを込められて作られてたら、きっと素晴らしい機械になっていたと思う。機械同士が壊し合うなんてとても辛いことだ。でも、俺は思うよ。機械同士、いや、人間と機械が互いに支え合って暮らしていける日が近いうちに来るんじゃないかって」

「大神はん…」


ふらつき、膝をつく大神。

「大神、無理すんな。今日は見学してろ」

「〜〜しかし…!」

「部下を信頼してやるのも、隊長の立派な務めだと思うけど?」

「え…?」

「この子達は大丈夫よ。あなたが築いてくれた深い絆で結ばれてるもの」

「その通りだぜ!」

「トップスタァの私を中心に、皆さんよく働いて下さってますしねぇ」

「アイリス、頑張るからね、お兄ちゃん!」

「私達を信じて下さい!」

「絶対勝ってきますからね!応援してて下さい!」

「皆…。――健闘を祈る!全員必ず無事に帰還せよ!!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


敬礼し合う大神と花組。笑顔で頷くあやめ。

「今回は私が指揮を執ります。米田司令、出撃命令を!」

「よし!帝国華撃団、出撃せよ!場所は九段下。天海を撃破するんだ!!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」

「翔鯨丸、発進!!」


出発する翔鯨丸。

「頼んだぞ、皆…!」


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