★9−3★
舞台。本読みする花組。
「『――シンデレラ、お掃除は終わったの?』」
「『は、はい、お母様』えっと、『お庭のお手入れと…だ、暖炉のお掃除…』」
「〜〜さくらさん!?あなた、台本読んでませんの!?」
「よ、読みました!けど、久しぶりの主役で緊張しちゃって…」
「心配しないでいい。君が見せたいシンデレラを表現すればいいんだよ」
「江戸川先生のおっしゃる通りよ。失敗を恐れずに演じてみなさい」
「せやで!リラックスやリラックス!」
「は、はい!」
「さくらだったら、きっとドジっ娘なシンデレラになるね〜!きゃはは!」
「あはは!ダンスは顔面着地でフィニッシュってか?」
「もぅ、カンナさぁん…!」
笑うマリア達。一人ムカついてるすみれ。
★ ★
鍛錬室。シミュレーション訓練する大神と花組。ハイスコアを出すさくら。
「すごいですぅ!ベスト更新ですよぉ、さくらさん!!」
「やったな、さくら君!この調子で頑張れよ!」
「は、はい…!えへへ…!」
控え室から見ているマリア達。
「すごいねぇ、さくら!」
「霊力値もぐんぐんウナギ上りや!いやぁ、さすが破邪の力やなぁ」
「あれだけの力、そう簡単にコントロールできるものじゃないわ」
「それだけさくら自身も儀式で成長したってことだな!」
むかつき、立ち上がるすみれ。出てきてさくらを突き飛ばす。
「さっさとおどきなさい!次は私ですのよ!?」
「あ、す、すみません…。じゃあ、失礼します!」
「あぁ。じゃあ、すみれ君、始めようか」
スタンバイするすみれ、控え室に戻って祝福されるさくらを睨む。
「3、2、1――スタート!」
「きええええいっ!!」
(〜〜あんな田舎娘に…負けてたまるものですかっ!!)
3Dの敵を蹴散らしていくすみれ。霊力値がバラつく。
「ちゃんと集中しろ!隙ができてるぞ!?」
「〜〜お黙りなさい…!〜〜きゃああっ!!」
「何してるんだ!?早く回避しろ!!」
悔しく攻撃に耐えるすみれ。心配に見守るさくら達。
「――もういい、止めろ!」
ストップする訓練。アイマスクが上がるすみれ。
「…一体どうしたんだ?君らしくない戦い方だったぞ?」
「……別に何でもありませんわ」
駆け寄ってくるさくら達。
「あの、大丈夫ですか?どこかお体の具合でも…」
「あなたなんかに心配される筋合いはありません!」
さくらを睨み、出ていくすみれ。追いかけてすみれの腕を掴むカンナ。
「おい、すみれ!何つっぱってんだよ?お前、この間からおかしいぞ?」
「放っといて下さい!あなたなんかに私の気持ちなんてわかりませんわ!!」
走っていくすみれ。拳を握るカンナ。
「〜〜何なんだよ…。あたいに隠し事なんてさ…」
自分の部屋に飛び込み、テーブルや花瓶に八つ当たりし、手を怪我するすみれ。血が流れる手の甲を押さえる。
「〜〜トップスタァはこの私ですのよ…?」
★ ★
医務室。薬を飲み、息苦しくコップを置くあやめ。頭痛で頭を押さえる。
「〜〜こんな時に…。もっとしっかりしなくちゃ…!」
背後を式神が走る。振り返るあやめ。式神はいない。
「……神経が逆立ってるのかしら…?」
水を飲むあやめ。かすみが入ってくる。テーブルの上に大量の薬。
「副司令…!?どうなさったんですか、顔色も悪いですし…!?」
「少し胃薬をね…。最近忙しかったし…」
「嘘つかないで下さい!これは精神安定剤…、こっちは睡眠薬…。〜〜冷汗もすごいですし…!待ってて下さい、今、お医者様を――!!」
「オーバーねぇ…。少し休めば大丈夫よ」
「大丈夫じゃありませんっ!!〜〜最近、おかしいですよ…?山崎少佐のことでノイローゼ気味ですし…」
「ノイローゼなんかじゃないわ…」
「嘘です!〜〜このままじゃ心も体もボロボロに――」
「……もういいの…」
「え…?」
「もうボロボロだもの…。何だか疲れちゃった…」
水を飲み干すあやめ。あやめの頬を叩くかすみ。水が床にこぼれる。
「〜〜見損ないましたよ…。あなたってそんなに弱い方だったんですね…」
「……そう。私は弱いの…」
「今のあなたを見たら大神さん、何て思うでしょうね…?」
「〜〜何なのよ、皆して大神君大神君って!?私が好きなのは山崎少佐よ!?」
「私にはそうは見えません…」
「――!」
「正直言うと、私も大神さんが好きです…。でも、彼は私のことなんて見てくれてない…。いつもあなたを目で追って、あなたもまた大神さんを見ている…。〜〜相思相愛のはずでしょう!?なのにどうして…!?」
「わからないのよ…!!〜〜自分でもわからないの…。確かに私は大神君が好きよ!今は山崎少佐よりずっとずっと愛してるわ!……でも、少佐に…、葵叉丹に逆らえないの…。〜〜私の中の何かが服従しようとしていて…」
「何か…って…?」
「わからない…。最近、叉丹のことを考えるだけで震えが止まらなくなるの。服従してこの身を捧げなければ…、そう何かが突き動かすようで…」
「副司令…?」
警報音。医務室の鍵がひとりでにかかる。ドアを開けようとするかすみ。
「侵入者…!?〜〜しまった…!!く…っ、開かない…!」
ドアノブから黒いゲルが出て、かすみの腕に巻きつく。
「きゃああっ!?」
「かすみ…!!」
短剣でゲルを斬るあやめ。式神の鳴く声。式神が威嚇している。
「こ…っ、これは…、〜〜式神…!?」
襲ってくる式神。銃で撃つあやめ。撃たれ、ゲルになってあやめの足にまとわりつく式神。皮膚を焼く。仰け反るあやめ。
「くああああっ!!」
見回りをする大神。医務室が騒がしい。
「どうしたんだ…?〜〜くっ、どうして…!?」
ドアが開かない。かすみの声が聞こえる。
「〜〜副司令―っ!!」
「あやめさん…!?〜〜うおおおおっ!!」
体当たりでドアを壊す大神、医務室に飛び込む。
「大神さん…!」
あやめの足を這いずりまわる式神。苦しむあやめ。
「あうっ…う…くぅ…」
火傷しながらもゲルを剥がす大神。ピクピク動くゲル。
「な、何だ、こいつは…!?〜〜はあっ!!」
短剣でゲルを刺す大神。溶けて消えるゲル。あやめを抱き起こす大神。
「大丈夫ですか…!?」
「えぇ…。それよりあなたこそ…」
「俺は大丈夫です。それより、早く手当てを――」
手をハンカチで巻く大神に救急セットを渡し、微笑み、出ていくかすみ。
「か、かすみ君…?」
「……手当…してくれる?」
「あ…、りょ、了解!」
手当てし始める大神を見つめるあやめ。
「……この間と逆ね」
「そ、そうですね…」
「また助けられちゃったわね…。私、あんなにひどいこと言ったのに…」
「放っておけませんよ。あなたを守るって言ったじゃないですか」
赤くなって微笑み、大神の頭をなでるあやめ。
「私も素直になろうかな…。かすみに言われたの、意地を張るなって。少佐にもよく頑固って言われたっけ…」
「……」
「手、貸してみて…」
大神を手当てするあやめ。
「この間はごめんなさいね。私、意地っ張りだから…。本当はね、目が覚めた時、あなたが傍にいてくれて、すごく嬉しかったのよ」
大量の薬が落ちているのを見つけ、あやめを抱きしめる大神。
「〜〜俺、許せないです。あなたをここまで追い込んだ山崎少佐が…!」
「……一緒に始めてくれる、新しい恋…?」
「〜〜俺、まだまだ未熟者だし、部下としても男としても頼りないかもしれません…。それでも俺は、愛するあなたを守っていきたい…!」
「約束してくれる…?」
「はい」
「ずっと傍にいて…!」
「はい…!」
あやめにキスしてベッドに押し倒し、抱く大神。
「愛してるわ、大神君…!もっと…、もっと強く抱きしめて…!!」
あやめの太腿の包帯が黒く光る。
★ ★
あやめの部屋。大神に抱かれるあやめ。絡み合う大神とあやめの手。蒲団に裸で一緒に入る大神とあやめ。あやめの頭をなでる大神。微笑むあやめ。
「…本当に私なんかでいいの?」
「当たり前じゃないですか。俺にはあなたしかいません」
微笑み合い、キスする大神とあやめ。警報。
「緊急招令、発動!至急、作戦司令室に集合して下さい!」
「来たか…!すぐに向か――!!」
「〜〜お、大神君、服…!」
「〜〜あ…」
★ ★
作戦指令室。戦闘服と軍服で着地する大神とあやめ。
「遅れてすみません…!!」
「珍しいですねぇ。大神さんはともかく、副司令まで遅れるなんて…」
「しかも二人一緒とは…。うふふ、これは事件かな?」
真っ赤になる大神とあやめ。微笑むかすみ。むっとなるさくら。
「むぅ〜…、何で否定しないんですか、大神さん!?」
「〜〜い、いや、その…」
「事件って?」
「ふふふ〜!アイリスにはまだ早いでぇ」
「おいおい、のろけ話は後にしてくれよぉ?」
「し、失礼しました。――モニターを見て。今までの黒之巣会の襲撃地の芝公園、築地、浅草、深川、九段下、それに日比谷。6か所を線で結ぶと」
六破星降魔陣の完成が映る。
「これは…!?」
「帝都を包む魔法陣…。六破星降魔陣だ」
「六破星降魔陣!?〜〜って何ですか…?」
「帝都全域を崩壊させる力を持つ恐ろしい術だ。陰陽道に通じているとは、天海の奴、さすがというべきか…」
「楔は打ち込むだけではだめなの。天海自らが妖力を楔に注ぎ、覚醒させることによって本来の力が目覚める…」
「えぇ〜っ!?じゃあもし、それが発動しちゃったらぁ…」
「〜〜帝都全滅…ってわけか……」
「ふん、随分派手なことをしてくれるではありませんか。まぁ、この私の相手であるからには、それぐらいのことはなさって頂かないと」
「冗談言うとる場合やないで…!?なぁ、それを止める方法ってないのん!?」
「覚醒した楔を破壊するのはかなり難しいの。だから、最後の日比谷の楔は何としても死守しないと…!今、夢組が霊力バリアを張ってくれてるけど、一時的なもので、そう長くは持たないわ。そこで、あなた達には今夜から交代制で日比谷の警護をしてもらいます」
「月組の情報によると、天海は丑三つ時に行動してるという話だ。稽古で疲れてるかもしれんが、帝都の未来がかかってる。しっかり頼むぞ」
「本日は大神君とさくらにお願いします」
「了解しました!行くぞ、さくら君!」
「頑張りましょう!」
「よぉし、帝国華撃団、出げ――」
地震。よろける大神達。
「〜〜な、何だ…!?」
「おーっほほほほ…!!そうはさせないよ!」
現れるミロク。
「また懲りずに来ましたわね、おば様!?」
「ふん、その強気がいつまで続くかねぇ」
指を鳴らすミロク。防火シャッターが下り、閉じ込められる。
「しまった…!!」
防火シャッターを殴るカンナ。
「〜〜駄目だ…。ビクともしねぇぜ…」
「くそ、頑丈に作りすぎたか…」
「おーっほほほ!!全員仲良く地獄に行かしてあげるよ!」
「〜〜アイリス、格納庫までテレポートできるか?」
「やってみる!」
テレポートするアイリス。待ち構え、攻撃する紅蜂隊。
「きゃああ〜っ!!」
テレポートし、戻ってくるアイリス。
「だ、だめ!いっぱい待ち伏せしてるよぉ…!!アイリス一人じゃ無理ぃ〜」
「〜〜万事休すか…」
「おーっほほほほ…!!逃げられると思ってるのかい?」
「どうするんですか?これじゃあ光武にも乗れませんよ…!?」
「〜〜ここは玉砕覚悟で行くしか…!!」
構えるカンナとマリア。
「命を無駄にしちゃダメ!あなた達の代わりはいないのよ!?」
「しかし、他に方法が…」
「――あやめ君」
「米田司令…?〜〜まさかあれをなさるおつもりじゃ…!?」
「…軍人たるもの命がけは当たり前だからな」
絵画を叩く米田。回って帝劇のマークに変わり、カウントダウンが始まる。
「〜〜皆、伏せて!!」
伏せる一同。全員の肖像画からミサイルが発射。炎に飲み込まれるミロク。
「な…っ!?きゃあああああ…!!」
「うわわわわ…!!」
「うわああ〜ん!!怖いよ、お兄ちゃあん!!」
「死ぬ時は一緒です〜!!」
大神に抱きつくアイリスとさくら。
「〜〜ぐ、苦しい…。離れてくれ…」
「何や、だらしないなぁ、これぐらいの爆発で」
「……免疫ってすげぇな」
耳を塞いで体育座りするすみれ。覗き込むマリア。
「…大丈夫?」
「……ふん、この程度で怯える私ではなくってよ」
固く目を瞑るすみれを見て笑うマリア。
「…司令、作戦司令室、大丈夫なんですかぁ?」
「大丈夫だ。ここは特別な合金素材で作られている。少し傷つく程度だろ」
飛び散る防火シャッター。燃え上がる炎。青ざめる風組と米田。
「〜〜そう見えないのは私だけでしょうか…?」
「〜〜壊れたら直しゃいいんだよっ!」
「でも、これで脱出できますね!全員、退避よ!!」
「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」
走って出ていく一同。
「〜〜くっ、逃がすかああっ!!」
「最終ミサイル、発射ぁっ!!」
「ひいいいっ!?」
机から飛ぶ大型のミサイル。さらに爆発。走りながら怯える花組と風組。
「やったか…?」
立ち止まる一同。炎から出てくるミロク。驚く一同。
「残念だったねぇ、大事な指令室を犠牲にしたのに」
エンフィールドで撃つマリア。弾がミロクの体を通過。
「おーっほほほほ…!!無駄無駄ぁ!!」
雷を落とすミロク。廊下が壊れる。
「〜〜ったく、しぶとい奴だなぁ…」
「あ〜ん!!どうするんですか、司令〜!?」
雷が大神達に落ちる。よける一同。
「ふふん、いつまでよけきれるかねぇ…」
孔雀と紅蜂隊が地中から現れる。孔雀に乗り込むミロク。
「いよおおお!雷破ああっ!!」
合体攻撃で大きな落雷。
「きゃああああ…!!」
「〜〜くそ…っ、はああああっ!!」
刀で孔雀に斬りかかる大神。
「大神さん…!!」
「いけません!!無茶です!!」
「〜〜く…っ、俺に構わず早く逃げるんだ…!!」
「〜〜でも…!」
「ふふん、まずはお前からだ。――いよおおお!」
雷を胸にためるミロク。
「大神くぅん…!!」
「雷破あああっ!!」
大神をかばうあやめ。落雷する直前で消える大神とあやめ。
「〜〜お、大神さん…?あやめさん…?」
「どこ行っちゃったの…?」
「ふっ、あいつかい…。仕方ない、お前達だけで我慢するかね。――わらわに続くのだ、紅蜂隊!!」
襲いかかる紅蜂隊。構えるさくら達。
「〜〜風組、雪組に緊急要請を送れ!」
「わかりました!」
「応援が来るまで持ちこたえるんだ!!誰一人死ぬんじゃねぇぞ!?」
「了解…!」
煙幕をぶつける紅蘭。バラバラに逃げる一同。
「ふん、逃がしやしないよ…!」
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