サイト設立1周年記念・連続長編小説
「サクラ大戦×コラボ小説
〜時空を超えた英雄達〜」

序章「始まりの世界」



大きくて不思議な世界樹がそびえ立つ世界・マナ=エルフィー。

全ての世界はこの世界樹より生まれ、消え去る時もまたこの世界樹へと還っていく…。

そのマナ=エルフィーの女王自身もまた世界樹より誕生し、光の霊力が世界中にうまく循環するよう見守り、存在する全ての世界一つ一つのバランスを均衡に保つのが仕事である。

だが、現女王のアンジュは超がつくほどのワガママで、自分の美貌を保つことしか気にかけない自分勝手な女王だった…。

「――鏡よ鏡…、世界で最も美しいのはだぁれ?」

『それは全ての始まりの場所・マナ=エルフィーの女王であるアンジュ様、あなた様でございます』

「フフフッ、まぁ、なんて正直な鏡なんだろうねぇ…!」

『――ですが…』

「え?」

『それはあくまでマナ=エルフィーだけでのこと…。この世界とは次元の造りも時間の流れも異なる様々な世界には、あなた様より美しい女性など五万とおります』

「〜〜んまぁ…っ!?女王に向かって何て口をきく鏡なのじゃ…っ!!お前などこうしてくれるわっ!!」


アンジュが魔法の鏡を叩き割る音を聞きつけ、家臣達が慌てて部屋に飛んできた…!

「アンジュ様、いかがされました…!?」

「〜〜フン、何が魔法の鏡だ…!これはわらわへの嫌がらせか…!?――こんなふざけた物をつくらせたのは誰じゃ!?即刻、打ち首にしてくれるわ!!」

「〜〜お、落ち着いて下さいませ、女王様…!」

「そうです!せっかくの美貌が台無しでございますよ…!?」

「〜〜ハッ、いかん、いかん…!怒るとまたシワが…!!〜〜うぅ…、世界樹の女王といえども、老化だけは避けられないようじゃの…。……それにしてもあの鏡、わらわより美しいおなごが異世界では五万とおるだと…!?――おい、ブレイザ!このマナ=エルフィー以外の世界は全部でどのくらい存在する!?」

「はっ、ア、アンジュ様が即位された時にはすでに数千億はあったかと…」

「〜〜すっ、数千億だとぉっ!?世界樹が誕生して何千年と経っているとは聞いていたが、まさかそれほど多くの異世界が産まれ落ちていたとはな…」

「確かに少々増えすぎたようですなぁ。これではいずれ、世界樹のマナエネルギーの生産が追いつかなくなって、全ての世界のバランスが狂ってしまうことでしょう」

「フン、そんなの知ったことか!しかし、粛清の良い機会じゃ。わらわより美しいと豪語する女どものいる世界を滅ぼし、我が前へ連れて参れっ!!わらわを侮辱した罰じゃ…!奴らを皆殺しにして、その世界を滅ぼしてやれば、わらわは真の意味で世界一美しい女として君臨し、世界のマナエネルギーのバランスも再び均衡を取り戻すであろう…!まさに一石二鳥!さすがわらわのアイディアじゃ!!お〜っほほほほ…!!」

「〜〜し、しかし…、全ての世界を回るには、あまりにも時間と労力がかかるかと…」

「それに、魔法の鏡が言っていたアンジュ様より美しいという女達が誰のことを指しているのかもわかりかねますし…」

「たとえ全員葬れたとしても、少しすればまた新たな美女が生まれてくるやも――」

「〜〜ええ〜いっ!!ゴチャゴチャとうるさい奴らめ…!!女王であるわらわの命令が聞けぬと申すのか!?ならば、お前らも全員打ち首じゃぁっ!!」

「〜〜そ、そんなぁ…!」

「フン、世界樹の女神の化身であるわらわを怒らせると怖いぞよ?お〜っほほほほ…!!」

「――相変わらずだね、アンジュ姉さん」


世界樹がそびえ立つ女王の間に入ってきたのは、白いドレスのアンジュとは反対に黒い鎧を身に纏った弟のジュータスだった。

「ちっ、ジュータスか…。今さら戻ってくるとは…、一体何の用だ?金なら貸さんぞ?」

「フフッ、お金なんか要らないよ。双子の弟が久し振りに会いに来たというのに随分冷たいねぇ」

「フン、王位継承争いに負けた奴が偉そうに…。貴様は勘当したはずだ。もう王子でも弟でもない…!わらわの前にのこのこ現れるな…!!」

「…残念だなぁ。せっかく姉さんの望みを叶えてあげようと思ったのに」

「望みを叶える…だと?」

「あぁ、そうだよ。――僕に協力すれば、アンジュ姉さんは世界一の美女にも…、全世界の支配者にもすぐなれるよ?」


ジュータスの氷のような冷たい微笑にアンジュと家臣達は黙り、息を呑んだ…。

★            ★


「――いらっしゃいませ!大帝国劇場へようこそ〜!」

蒸気文明が発展した太正時代の帝都・銀座4丁目にそびえ立つ大帝国劇場。

東洋一の劇場と謳われるその劇場の支配人見習い・大神一郎は、もぎり時代のノウハウを生かして切符をもぎりながら、副支配人であり恋人でもある藤枝かえでと共に、今日もお客様達を笑顔でお迎えする。

三人娘が売り子を務める売店も今日はいつも以上に賑やかだ。

「今日もお客さんでいっぱいねぇ〜!ありがたや、ありがたや〜♪」

「だって、ファンの皆さんが待ち望んでいた『愛ゆえに』の再演ですもの」

「記念すべき大帝国劇場第1回公演作品ですものね〜。さくらちゃんも今や、すみれさんと肩を並べる娘役トップスタァに成長したし♪」

「はぁ…、オンドレ様ぁ〜♪私も一度でいいからクレモンティーヌやってみた〜い!」

「はいはい、椿。妄想はあとあと!」

「お客様を待たせたら失礼でしょ?――あ、いらっしゃいませ〜!」

「〜〜あ〜ん、マリアさぁ〜ん…」

「ふふ、売店の人手が足りないみたいだから、ちょっと手伝ってくるわね」

「あ、はい!お願いします」

「――ちょいと支配人の兄さん、この席にはどうやって行くのかね?」

「あ、はい。二階席ですから、そこの階段を上っていくんです。お席までご案内しましょう」

「ありがとう。いつもすまないねぇ」

「はは、いえ。お荷物、お持ち致しますね」

「『――クレモンティーヌ…!』」

「『オンドレ様ぁぁ…!』」


今日の昼・夜公演も満席だ。笑ったり、涙したり、拍手したり…。花組の芝居を観劇して明るくなるお客様の笑顔が大神達の励みになる。今までもそうして、大帝国劇場は帝都市民や地方にいるファン達に夢と希望を与え続けてきた。

今月は大帝国劇場設立3周年記念として、第1回公演で披露した『愛ゆえに』を織姫とレニも混ぜて再演することになった。

当時と比べて、さくらも演技や歌が上手くなった。マリアは己の技術だけでなく、舞台上で仲間をサポートすることを知った。

そして、今もなお陰で努力をし続け、帝劇のトップスタァの座に君臨し続けるすみれと、仲間の素晴らしさを知ったイタリアの赤い貴族・織姫。

二人に自分の方により多くのスポットライトを当てるよう言われた紅蘭は苦笑しながら、自分の発明した自動照明装置『ピカルくん』を操作している。

楽屋では、カンナが自分の出番でない時に弁当を6個平らげ、アイリスはレニと化粧台前でいつものように仲良く舞台に上がる準備をしていた。

「――皆ー、今日もたくさん差し入れが届いてるぞ!」

「わ〜い!ありがと〜、お兄ちゃん♪」

「お〜っ!竜屋のどら焼きじゃね〜か!丁度、デザートが欲しかったとこなんだよな〜!!」

「〜〜カンナ、つまみ食いしないの!今日の公演が終わったら、皆で頂きましょう」

「うん、そうだね」

「え〜?一つくらいいいじゃねぇかよ〜」

「ダ〜メ!」

「〜〜あ痛っ!ちぇ〜、かえでさんのケチ〜」

「ふふっ、ケチで結構」


どら焼きをつまみ食いしようとして、かえでに手を叩かれたカンナに大神、アイリス、レニは笑った。

いつもと変わらない日常…。この先もずっと続くはずだった運命…。そんな幸せな暮らしが突然終わりを告げるなんて、この時はまだ誰も予測していなかったことだろう…。

★            ★


運命が変わったその夜も、大神はいつものように劇場内の夜の見回りを終え、隊長室のベッドに横になりながら、鏡の前で肌のお手入れをするかえでと話していた。

「――『愛ゆえに』のチケット、全公演分完売したみたいですね」

「えぇ、ありがたいことにね。帝劇設立からずっと応援して下さっている方、最近ファンになって下さった方…。ファンの皆様あっての帝国歌劇団ですものね」

「本当にその通りですよね。それに、花組の皆も今までよく頑張ってきたと思います。これまで何度も一致団結して、帝都を狙う魔を滅ぼし、人々の心に救う魔を鎮めてきて…。最初は個性が強くてバラバラだったのに…」

「そうね…。帝撃がここまで成長できたのも、大神君と米田さん、そして、あやめ姉さんのお陰ね」

「それから、かえでさんも」

「ふふ、ありがとう。でも、その礎を築いてくれたのは姉さんですもの…」


かえでは保湿液を塗りながら、写真立てに飾ってあるあやめの写真に微笑みかけた。大神も同じように微笑むと、かえでを後ろから軽く抱きしめ、キスした。

「ふふっ、こぉら!終わってからね」

「お手入れ、まだ終わらないんですか?もう待ちきれないんですけど」

「う〜ん…、最近、肌が荒れちゃってね…。きっと、報告書を徹夜で書いてたせいだわ…」

「かえでさんはそのままでも十分お綺麗ですよ」

「ふふっ、大神君ったら」


嬉しくなったかえでは大神に抱きつき、キスしてベッドに押し倒した。

「女はね、好きな人の前ではいつも美しくありたいものなの!」

「ははは…!かえでさん、くすぐったいですってば…!」

「ふふふっ、待たせちゃったお詫びにうんとサービスしてあげるわね――」


その時だった…!

夜だというのに、窓からカ…ッ!!と正体不明の強い光がいきなり差し込んできたのだ…!

「な、何だ…!?」

大神がカーテンを開けてみると、夜空に大量の流れ星が降り注いでいるのが見えた。

「これは…、しし座流星群でしょうか…?」

「それなら、前もってニュースでやるはずじゃない?」

「そうか…。なら、これは一体…?」

『――あれは滅ぼされた世界の欠片達です…』

「え…?」


聞き慣れた声に耳を傾けようとした次の瞬間、夜空からさらに強力な光が降り注いできた…!

「きゃああっ!!」

「〜〜かえでさん…っ!!」


大神はかえでを守るように抱きしめながら、薄れ行く意識の中、夜空に浮かぶ黒い服の男の姿を見た。

(――あいつは…何者…なん…だ…?)

★            ★


意識を取り戻した大神とかえでは大帝国劇場の隊長室ではなく、帝都でも地球でもない異空間に抱き合って倒れていた。

何もない、黒と紫のマーブルがかった不気味な空間…。風の音もしない。人の気配もない。どうやらこの空間にいるのは、大神とかえでの二人だけのようだ。

「〜〜な、何が起こったの…?」

「さぁ…?それに、ここはどこなんだろう…?」

『――ここは世界と世界を繋ぐ道…』


そう言いながら、大天使ミカエルが二人の前に姿を現した…!

「大天使ミカエル…!?」

「あやめさん…!あなたが俺達をここへ…?」

『はい。あなた達のいた世界はマナ=エルフィーの女王・アンジュとその弟のジュータスによって滅ぼされてしまったのです…』

「〜〜な…、何だって…!?」

『マナ=エルフィーは全ての世界の源の世界…。あなた方の世界もマナ=エルフィーから派生して生まれた世界なのです。その根源である世界樹の加護を受けた女王の手にかかれば、そんなちっぽけな世界を消し去るなど造作もないこと…』

「〜〜ちょ、ちょっと待って下さい…!他の皆はどこへ…!?」

『残念ながら、世界が消えると同時にその世界に住む全ての人間の存在が消えてしまったようです…。〜〜私の力をもってしても、あなた方二人を救うので精一杯で…』

「〜〜そ…、そんな…」

「どうして、その女王は私達の世界を消したの…!?」

『被害をこうむったのは、あなた方の世界だけではありません。――ご覧なさい。今こうしている間も数々の異世界が次々にアンジュ女王達によって滅ぼされているのです…』


ミカエルの説明を裏付けるように、異空間の四方八方で先程見たのと同じような流星群が流れていた。

『マナの根源を司る女王の身勝手な振る舞いに神も頭を抱えています…。ですが、神は下界に直接干渉することはできません。ですから、代わりに第一天使長の私があなた方を女王討伐隊の戦士として選出させて頂きました』

「女王討伐隊…!?」

「〜〜けど、メンバーが私と大神君の二人だけじゃ心許ないわ…」

『安心して下さい。これからあなた方は様々な世界を訪れ、色々な方達に出会うでしょう。そこで出会った仲間達なら、きっとあなた方に力を貸してくれるはずです』

「その…様々な世界に訪れるにはどうすればいいんですか?」

『これをご覧なさい』


と、ミカエルが差し出したのは、パズルのピースのような光の欠片だった。

『あなた方の暮らす世界とは違う世界の欠片です。これを持って強く念じれば、欠片があなた方をその世界へと連れて行ってくれるはずです』

「でも、欠片になっているということは、その世界も滅んでしまったということなんじゃ…?」

『えぇ…。ですが、欠片がまだ残っているということは、完全に世界の存在が消滅したわけではない証拠です。あなた方の力でその世界を侵食している悪を滅ぼせば、その世界は元通りに構成され、再び平和が訪れることでしょう』

「俺達の世界の欠片もどこかの世界に落ちているのでしょうか…?」

『それはわかりません…。ですが、絶対にないとも言い切れません。あなた達に強い思いがあれば、きっと欠片を見つけることができるでしょう』

「そして、滅ぼされた世界を元に戻していきながら、最終的に女王の野望を食い止めろってことね?」

『はい…。アンジュ女王のいるマナ=エルフィーは全ての世界と繋がった世界…。世界を渡り歩いていけば、いつか必ずその入口へたどり着くことができるはずです。かつて、魔王サタンとの戦いに勝利したあなた方なら、今回も私の期待に応えてくれると信じてますよ』

「ミカエル様…」


ミカエルは優しく微笑むと、大神の額を人差し指で小突いた。

『ふふっ、しっかりしなさい、大神君!あなたとかえでは今まで何度もピンチを切り抜けてきたでしょ?ずっと天上界から見守ってたんだから…』

「あやめさん…」

『同行できなくてごめんなさい…。第一天使長である私は天上界を離れるわけにはいかないの…。けど、私はいつもあなた達を見守っているわ。それだけは忘れないで…』

「姉さん…」

「あやめさん…、俺、頑張ります…!」

『ふふっ、さすがは私の大神君ね。応援しているわ』


と、ミカエルは大神の唇にキスをした。

「〜〜んなぁっ!?」

『ふふっ、かえでをよろしく頼むわね』

「りょ、了解しましたっ!」


デレデレしながらミカエルと見つめ合う大神の様子に、かえでは不機嫌になって、そっぽを向いた。

『さぁ、この欠片を持って、最初の世界へお行きなさい』

「はい!――行きましょう、かえでさん…!」

「〜〜フンっ!」

「〜〜な、何怒ってるんですか…?」

「…別に〜」

「〜〜ふ、二人旅なんですから、仲良くやっていきましょうよぉ」

『ふふふっ、あなた方の行く先に神の加護があらんことを…』


ミカエルから世界の欠片を受け取ると、大神とかえでは眩い光に包まれ、異空間から姿を消した。

序章、終わり


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