「奇跡の鐘〜あなたと二人のラブストーリー」その3
〜〜な、何でこんな時間に三人娘が揃っているの…!?もうとっくに帰ってる時間でしょ…!?
「〜〜おかしいわねぇ〜。どこで落としちゃったんだろ、私の噂手帳?」
「こんなに探しても見つからないなんておかしいわね…。ゴミに紛れ込んだか、劇場にいらっしゃったお客様に拾われたか…」
「〜〜あ〜ん、あの手帳がなきゃ、私、生きていけな〜いっ!!こうしている間にも、面白い噂が劇場内を飛び交ってるかもしれないのに〜…」
「人の噂ばっかりしてるから、罰が当たったんですよぉ〜!」
「〜〜何よぉ!?あんたにあの手帳の価値がわかってたまるもんですかっ!!」
「〜〜こんな時間に喧嘩しないで頂戴!!もう皆さん、お休みになられてるのよ…!?」
「……はぁい…」
私と大神君は息を潜め、物音を立てないように抱きしめ合ったまま、動かないでいる。大神君の緊張した心臓の音がドクドク聞こえてくる…。
〜〜お願いだから、早く帰ってくれないかしら…?こんな所でエッチしてたなんて知られたら、上官としての威厳とプライドが…。
すると、私と一つになったままだった大神君が密かにストロークを再開した。
「〜〜ちょ…っ、大神君…!?」
「し…っ!――すぐ終わらせますから…」
「や、やめなさい…!〜〜こんな時にダメよぉ…っ」
大神君は私が慌てるのを楽しむように、さっきより激しいセックスを開始する。
「――ん…っ、ああぁ…っ――!!」
大神君が腰を動かす度に甘美な声が漏れそうになり、私は必死に自分の口を塞ぐ。
「……あれ…?今、何か聞こえませんでしたぁ?」
「〜〜や、やだぁ…。ひょっとして、幽霊じゃない…?」
「あはは、まっさか〜!」
〜〜ギリギリセーフね…。
けど、肉と肉が擦れ合って湿り気を帯びた卑猥な音だけは完全に消すことはできない。今は三人娘のお喋りで辛うじてかき消されているが、〜〜これ以上続けたら、絶対に聞こえちゃう…!
「〜〜あ〜もう…、暗くてよく見えないじゃないのよ〜」
「電気点けましょうかぁ?」
〜〜んなぁ…っ!?私が対策を練ろうとする時間も与えまいと、椿が衣裳部屋の電気を点けた。煌々とした電気が暗闇に慣れていた目に入ってきて、思わず顔をそむける。
「う〜ん…。やっぱり、なさそうね…」
「奥の方も探してみましょうかぁ〜?」
〜〜さ、三人娘が近づいてきた…。本当にまずいわ…!
さすがに大神君も観念したのか、急いでYシャツの乱れを直してネクタイを締め直すと、苦笑しながら立ち上がった。
「大神さん…!こんな所で何を…?」
「〜〜いや、その…、衣装の最終チェックをね…。はははは…」
「ん…?一緒にいるのは副司令ですかぁ?」
「そ、そうなの…!演出家さんと最後の打ち合わせをね…。ほほほほ…」
私も立ち上がって、服の乱れに気づかれないように大神君の後ろに隠れて苦笑した。
「はぁ〜、さすがは大神さんと副司令、熱心ですね〜!」
「――あら?その下着は…?」
「〜〜えぇ…っ!?こ、これは…」
「〜〜は、花組の娘達のじゃないかな…?多分、衣装合わせの時に忘れていって…」
「そ、そうみたいね…!〜〜やぁね、もう、こんな所に脱ぎっぱなしで…」
と、私は苦し紛れに言い訳して、黒のレースのブラジャーを慌てて拾った。
「ふ〜ん…。花組さんでそんなセクシーな下着、持ってる人いたかしら?」
「〜〜そ、そんなのわからないじゃないの…。き…、きっと勝負下着とかじゃないかしら…?」
〜〜私ったら、何言ってるのかしら…?
「フフ、まぁいいですよ。手帳もなさそうだし、そろそろ失礼しま〜す」
「え…?もっと奥の方も探しましょうよぉ…!」
「そんなの後でいいわよ。――んじゃ、ごゆっくり〜!」
「あ…、〜〜失礼します…!」
由里は悪魔のように笑い、かすみと椿を連れ、衣裳部屋を出ていった。
「――フフン、私の言った通りでしょ?」
「きゃ〜!生のラブシーンなんて、初めて見ちゃいましたぁ〜!」
「ふっふっふ、手帳にメモメモっと…!――『藤枝かえで副支配人ともぎりの大神一郎氏、熱愛発覚!!格差婚の行方は如何に…!?』うふふっ、明日の公演で帝劇日報号外を売りさばこうっと!」
「〜〜もう…、由里ってば、手帳を失くしたなんて嘘までついて…」
「いいじゃないの、お陰でこのカメラにスクープの証拠をバッチリ撮れたんだから!ふふふ…、それにしても副司令のあの慌てっぷりときたら…!」
「いやぁ、堅物だった大神にも、や〜っと彼女ができたか〜…!親友として、俺は嬉しいぞ〜!」
「〜〜か、加山さん、いつの間に…!?」
「フッフッフ、月組隊長の俺っちは神出鬼没なのさ。――よ〜し、お祝いに即興ラブソングを一曲――!」
「〜〜加山さんっ、今は夜中なんですから…!――ほら、皆ももう事務室に戻りましょう?お遊びはおしまい!明日の公演までにやらなきゃならない仕事がまだまだ残ってるんだから…!」
「おう!俺も手伝うぞ〜、かすみっち!」
「え〜?もうちょっとだけラブシーン見てたいなぁ〜」
「ふふふっ、今夜は徹夜で号外仕上げなくっちゃ〜!――ほら、椿!お茶とお煎餅用意してっ!!」
「〜〜うぅ…、由里さんってば、人遣い荒いんですからぁ…」
4人の会話を私と大神君はドアを隔てて秘かに聞いた。〜〜私としたことが、由里にまんまとしてやられたわ…。明日の朝にはもう劇場内に、夜には銀座中に私達の噂が広まっていることだろう…。
…でも、本音を言えば、そんなに嫌じゃないかも。そのうち、帝劇公認カップルとして、お客様から冷やかされちゃったりして…!うふふっ!
「…かえでさん?」
「〜〜あ…、な、何でもないわ…」
「…場所、移動しましょうか?――俺の部屋に来ませんか?」
大神君は積極的に私を隊長室に連れ込んで、ベッドの上に押し倒した。今度はちゃんと鍵をかけたから、途中で邪魔される心配はない。好きなだけ愛し合うことができる。
「かえでさん、中に出していいですか?」
ふふっ、いちいち聞かなくていいって言ってるのに…。まぁ、真面目な大神君らしいけど。
「いいわよ。できちゃったら、ちゃんと責任取ってくれるわよね?」
「――もちろんですよ…」
私の中で果てる瞬間、大神君は何故か一瞬悲し気な表情を浮かべた。
「大神君…?」
「〜〜すみません…。あやめさんのことを思い出してしまって…」
『――お前の姉さんも昔、同じことで悩んでたんだよ…。『自分と大神が仲良くなったせいで花組の和が乱れてしまったから、彼のことは諦めます』って泣きながら、ウエディング雑誌を読んでてさぁ…』
その時、私は米田支配人の言葉を思い出した。
そっか…。大神君とあやめ姉さん、付き合ってたんだっけ…。
「あやめさんのお腹には、俺の赤ん坊がいたんです。黒之巣会との戦いが終わったら結婚しようって二人で約束して…。〜〜けど、妊娠がわかった直後にあやめさんは最終降魔に…」
体を震わせる大神君の涙を拭うように、私は頬に口づけをしてやった。
「今は私がいるじゃない。私なら、あなたの赤ちゃんを産んであげられる。どこにも行かないで、ずっと傍にいるから…」
「かえでさん…」
「――愛してるわ、大神君。これからもずっと…」
私と大神君はもう一度甘くて長いキスを交わした。
もうすぐ夜明けだ…。真冬なので、少し冷える…。
私は甘えるように、隣で眠る大神君に寄り添った。そして、頬にそっと口づけしてやる。今日は朝から色々忙しいし、私も少し眠っておこう。愛する人のぬくもりを肌で感じながら、私も静かに瞳を閉じた。
そして、今日は12月25日。いよいよ本番がやってきた。午後5時に開場して、6時に開演する頃には、客席は満員のお客様で溢れ返った。
帝国歌劇団が聖夜にお送りする一夜限りの特別公演…。全てはこの日の為に皆、一生懸命頑張ってきた。
「稽古通りに演じれば大丈夫ですから。――ずっと見守ってますからね」
大神君はそう励まして、微笑んでくれた。彼の努力を無駄にしない為にも、今日は頑張ろう…!
「――これより、帝国歌劇団・クリスマス特別公演『奇跡の鐘』の上演を開始致します」
かすみのアナウンスが流れると、舞台の幕が上がった。
物語は天上界から神がいなくなってしまうところから始まる。神の恩恵を受けなくなった人間界は荒れ、人々は争い、憎しみ合い、世界からは愛が消えてしまった。そんな事態を憂い、聖母は神を呼び戻そうと、8人の天使達に呼びかける。
心優しい天使『アンジェラ』をさくら、ワガママな天使『ウリエル』をすみれ、落ち着いた大人の天使『ミカエル』をマリア、甘えん坊の天使『ニコル』をアイリス、いたずら好きな天使『ガブリエル』を紅蘭、正義感の強い天使『ラファエル』をカンナ、高飛車で自信家の天使『ルカ』を織姫、クールな天使『ヨハネ』をレニがそれぞれ演じる。
個性的でバラバラだった天使達も人間界の現状の悲惨さをわかり始め、やがて心を一つにして、聖母に力を貸すようになる。神が聖母と天使達を誕生させたもみの木の下で、聖母と天使達は神に呼びかけることに決めた。
「――『お願いします、神様!どうか再びその姿をお見せ下さい…!』」
「『どうかもう一度、世界中の恵まれぬ者達に愛の手を…!』」
「『さぁ、皆で主に祈りましょう。人と人とが愛し合う平和な世界になりますように…。皆に平等に富が分け与えられる世界になりますように…』」
聖母に翼が生えるのをイメージして、花組は私の左右にそれぞれ4人ずつ立ってひざまずき、手を組んで祈る。すると、舞台セットの大きなクリスマスツリーの電飾が点灯した。途端に、満員の客席から歓声が沸いた。
「『ツリーに光が灯った…!神様に僕達の声が届いたんだ…!』」
「『主よ、どうか聖母様に力をお貸し下さい…!荒廃してしまった世界を再び温かな光でお導き下さい…!』
――リンゴーン…。リンゴーン…。
「『あぁ…、鳴らなくなっていた鐘が鳴っているわ…!』」
「『まさに、奇跡の鐘だわ…!私達の願いが届いたのよ…!』
「『この聖夜の奇跡に感謝して、もう一度人間界の為に祈りましょう』」
「『さぁ、隣の人と手を繋いで。あなたの大切な家族と友人と恋人と…』」
「『今夜だけは争わず、いがみ合わず…。皆が愛の手を差し伸べ合って…』」
「『さぁ、天使達よ!愛の奇跡を世界中に起こしましょう…!』」
わぁ…っ!と客席から歓声と拍手が沸き起こった。スタンディングオベーションして下さっているお客様達の姿が幕が降りるにつれて見えなくなっていく…。
――終わった…。私は途端に力が抜けて、膝をついた。3時間の長い公演なのに、始まってしまうと、あっという間だった…。
「かえでさん、まだですよ。カーテンコールが残ってます…!」
「あ…、そ、そうだったわね…」
カーテンコールの最後に私と花組で歌う『奇跡の鐘』。この特別な日にお客様が喜んでくれて、少しでも温かい気持ちになってくれますように…。少しでも幸せを感じてくれますように…。
「――レニ〜、お誕生日おめでと〜っ!!」
クリスマス公演も大盛況のうちに終わり、さくら達は楽屋で打ち上げを兼ねたレニのお誕生日会を開いた。
「ありがとう、皆…!」
「いやぁ〜、実に良い舞台だった!今夜はじゃんじゃん騒げ〜っ!!どうせ舞台がはねた後は興奮して寝られねぇんだ!わっはははは…!!」
「イェ〜イ!!良いこと言うなぁ〜、米田のおっさんもよぉ!――ほれ、レニも主役なんだからじゃんじゃん飲みなっ!」
「…僕、まだ未成年だよ?」
「ありゃ?そうだったっけか?あははははっ!」
「も〜、米田はんもカンナはんも飲みすぎやでぇ?――マリアはんも!」
「〜〜わ、私はそんなには飲まないわよ…?」
「あの…、私達もお邪魔してよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ!パーティーは人数が多い方が楽しいですもんね!」
「――あら…?少尉さんとかえでさんはどうしたデスカ〜?」
「ハハ、それを聞くのは野暮ってもんさ」
「そうそう!うふふっ、お陰で大スクープが載った帝劇日報号外も完売したし!」
「〜〜もう、由里さんったらぁ…」
皆が楽屋で楽しんでいた頃、私と大神君は劇場の外にいた。
華やかな色取り取りのイルミネーションで彩られた夜の銀座。昼とは違う顔を見せる美しい街を私達は手を繋いで歩く。
「綺麗ねぇ…!ふふっ、まるで、おとぎの世界にいるみたい」
「はは、おとぎの世界…か」
「…あら、私の口から出た言葉とは思えないって言いたそうね?」
「〜〜い、いえ、そういう意味では…」
「ふふっ、別にいいでしょ?今はそういうロマンチックな気分なんだから…!」
肩に寄り添う私を大神君は温かい眼差しで、腕を組むように促した。私はその要求に素直に応えた。
夜の銀座に私達と同じようなカップルがたくさん出歩いている。楽しそうにはしゃぐ若いカップル、少し落ち着いた大人のカップル、子供連れの幸せそうな夫婦、いつまでも仲むつまじい老夫婦…。
ふふっ、彼らも私達のこと、ちゃんとカップルって思ってくれているかしら…?
「かえでさん、今日はお疲れ様でした。お陰で最高の舞台になりましたよ」
「ふふっ、ありがとう。大神君もお疲れ様。よく頑張ってくれたわね」
「かえでさんと皆のお陰ですよ。全員が一つの目標に向かって頑張れたから、成功したんです。俺はその指揮を執って、サポートしたまでですから」
「ふふっ、謙遜しちゃって…。――私ね、本当はずっと憧れてたの…。花組みたいに舞台に立って、お芝居したり、歌を歌ったり、ダンスしたり…。それで見に来て下さったお客様を感動させてみたい…。一度でいいから、私もセンタースポットを浴びたいなぁって…。ふふっ、そんなの絶対無理だろうなって思ってたけど、夢が一つ叶っちゃった」
「はは、そうだったんですか。よかったですね」
「えぇ。――それに…、もう一つの夢も…」
「え…?」
「クリスマスに恋人達で賑う銀座の街を大神君とこうして歩くこと…。それが叶ったらいいなってお稽古中、ずっと思ってたの」
「かえでさん…。それって…」
「ふふっ、いくら鈍感なあなたでも、それぐらいの意味はわかるでしょ?――クリスマス公演、来年もまたやりましょうね…!」
「えぇ、是非…!今度は俺も脇役で出てみようかな…」
「いいわねぇ…!後で支配人に頼んでおくわ」
「はい、お願いします。その…、――できるなら、かえでさんの相手役とかがいいかな。クリスマスに愛を誓う恋人役とか…」
綺麗にライトアップされたクリスマスツリーをバックに、大神君は少しはにかみながら微笑んだ。
「大神君…。ふふっ、いいわよ。来年、一緒に出ましょ…!」
「ありがとうございます。――来年の今頃もこうして二人でいられたらいいですね」
大神君は私の肩を抱き寄せ、キスしてくれた。私達の唇が合わさった瞬間、空高くから真っ白な雪が舞い降りてきた。
「まぁ…、雪だわ…!」
「まさにホワイト・クリスマスですね」
「ふふっ、そうね。何だかロマンチック…」
「――そうだ…!かえでさんに見せたいものがあるんです。ついてきてくれませんか?」
「見せたいもの…?ふふっ、何かしら?」
私は大神君に連れられて、細い路地に入った。大通りからは外れてしまったが、代わりに綺麗に雪化粧した白樺の木々が見えてきた。人工的なイルミネーションとはまた違う、自然が生み出した冬の美しさを感じられる。
「――ここです」
「ここは…、教会…?」
「はい、この間、偶然見つけて…。入ってみませんか?」
「え?勝手に入っても大丈夫なの?」
「少しだけなら平気ですよ」
――ギィ…。扉を開けると、窓に装飾されたステンドグラスの数々が目に入ってきた。夜なのに、まるで昼間のように雪の白さで明るく光って、その後光を浴びて、天使や聖人達が美しく輝いている。
「きれ〜い…!」
「気に入って頂けましたか?聖母様にはピッタリな場所だと思って…」
と、大神君は今日の公演で使った小道具の聖母のベールを私に被せた。
「ふふふっ、いつの間に持ってきてたの?」
「ハハ…、さっき、小道具部屋からこっそり拝借してきたんです。このベールって、結婚式で花嫁がつけるものとよく似てるなって思いませんか?」
「そう言われればそうね…。ふふっ、まさか今から結婚式でも挙げるつもり?」
「ハハ、正確には『ごっこ』ですけどね」
「ふふっ、もう、大神君ったら…。仕方ないわね、付き合ってあげるわ」
……とか言いながら、実は私も結構乗り気だったりするんだけど…。
大神君と腕を組み、頭の中で結婚行進曲を思い浮かべながら、赤い絨毯が敷かれたバージンロードをゆっくり歩く。そして、牧師の待つ(…と見せかけた)聖壇に上がった。
「『――それでは、これより大神家、藤枝家両家によります結婚式を行います。まず、新郎から新婦に指輪を…』
大神君は私の左手を掬い上げると、薬指に指輪をはめた。
「え…っ?これ、どうしたの…!?」
「クリスマス・プレゼントですよ。実際の結婚指輪より安物ですけどね」
「ふふっ、ありがとう、大神君。大切にするわ…!」
ピンクのスワロフスキーがはめ込まれたハートの指輪。安物も高価な物も関係ない。大神君がわざわざ私の為にプレゼントしてくれたことがとても嬉しい。
「『――では、式を続けます。新郎・大神一郎。病める時も健やかなる時も妻・かえでを愛し、終生変わらぬ愛を誓いますか?』――はい、誓います」
「ふふっ、忙しいわね」
「〜〜牧師がいないんですから、仕方ないじゃないですか…。コホン…。『――新婦・かえで。病める時も健やかなる時も夫・一郎を愛し、終生変わらぬ愛を誓いますか?』」
「はい、誓います」
「『――それでは、誓いのキスを…』」
大神君は聖母のベールを捲り、私にキスしてくれた。
瞼の裏には花組の皆や米田支配人、他にもたくさんの人が私達を祝福してくれているように映る。大神君は白いタキシード、私は純白のウエディングドレスを着て、聖壇には老齢の牧師が立っていて…。式が進むにつれて、まるでリアルな夢のような…、そんな不思議な錯覚を覚えてしまう。
大神君がゆっくり唇を離すと、私もゆっくり目を開け、見つめ合った。
「俺、幸せにしますから…。この先、どんなことがあっても、あなたを必ず…!」
「大神君…」
大神君は私の手を握り、優しい微笑みを浮かべると、ぎゅっと抱きしめてくれた。あったかい…。大神君を愛し、愛される喜び…。こんなに人を好きになったことなんて、きっと初めてだと思う。
「――好きです、かえでさん」
ずっと大神君から言われたかった言葉…。
私も恥ずかしくなって、赤くなりながら、ぎゅっと抱きしめ返す。
「――私も愛してるわ、大神君」
ずっと大神君に伝えたかった言葉…。
いざ口から出たのは、自分でも拍子抜けしちゃうほど、ありがちな言葉だった。もっとクールに『あなたの気持ちなんて、お見通しだったわよ』なんて振る舞いたかったのに、興奮して、気持ちが昂っちゃって…。ふふっ、でも、シンプルな言葉の方が気持ちって伝わりやすいわよね。
「はは、幸せすぎて何だか怖いです…。夢でも見ているのかも…」
「…なら、試してみる?」
と、私は大神君の唇にキスをした。
「ふふっ、これでもまだ夢だと思う?」
「〜〜い、いえ…。俺からもかえでさんにキスしていいですか?」
「ふふっ、先に言っちゃうと、ムードが壊れるって言ったでしょ?」
「あ…、そうでしたね…。〜〜すみません…」
「もう、大神君ったら…。ふふっ、いいわ。これから私が男としての魅力を磨いていってあげる…!」
私は少し背伸びして、もう一度自分から大神君の唇にキスした。
「〜〜恥ずかしいな…。俺、いっつもかえでさんにリードしてもらってばかりで…」
「あら、私は別に嫌じゃないわよ?――あやめ姉さんの分まで私がしっかり面倒見てあげる…」
「かえでさん…」
『――では、神の名の許に、あなた方を夫婦と認めます』
「え…?」
私と大神君は辺りを見回した。今、確かにあやめ姉さんの声が…!
「――もしかして、あれでしょうか…?」
大神君が指差したのは、大天使ミカエルを描いたステンドグラスだった。
「あやめさんも俺達のこと…、祝福してくれてるんでしょうか…?」
……まさか…ね。でも、もし本当に天使になった姉さんがこの光景を見ているのなら、お願いよ。私と大神君をこれからもずっと見守ってて…。
――ゴーン…。ゴーン…。
私のお願いに同意してくれたかのように、午前0時を知らせる教会の鐘がタイミング良く鳴った。
「12時…か。クリスマス、終わっちゃったわね…」
「少し寂しいですね…。――皆を心配させても悪いですし、そろそろ戻らないと…」
「あら、もうちょっと遅くなってもいいじゃない。ふふっ、私達二人とも、もう大人なんだし…」
「え…?〜〜ちょ…っ、かえでさん…!?」
私は大神君をバージンロードの上に押し倒した。
「〜〜きょ、教会でこんなことしていいんですか…?」
「ふふっ、だって、せっかくミカエルが祝福してくれてるんですもの。期待に応えなきゃ、罰が当たるわ。――それに、私からのクリスマス・プレゼント、欲しくないの?」
大神君はいたずらっ子のように微笑むと、ぐるりと形勢を逆転させて、私の上に馬乗りになった。
「――今夜は朝まで帰しませんからね…!」
「ふふふっ、大神君ったら…!」
私と大神君は朝になるまでずっと教会で過ごした。
来年のクリスマスも、再来年のクリスマスも彼と一緒にまたここで過ごしたい。大天使が奇跡の鐘を鳴らしてくれるこの教会で、私達が本当の結婚式を挙げるその日まで…。
終わり
あとがき
12月はクリスマスシーズンということで、「『サクラ大戦2〜君死にたもうことなかれ〜』の第九話『劇場のメリークリスマス』で、もし、かえでさんをヒロインに選べたら…」というリクエストを基に書かせて頂きました!
このリクエストをお寄せ下さったのは、藤枝の親分様、くりぃむろまん様、マダムバタフライ様です!皆様、リクエスト&応援メール、どうもありがとうございました!!
サクラ2のゲームをやりながら、私が妄想したことをそのまま文章で書き表してみました。
それにしても、何でゲームでは、かえでさんだけヒロインにできないんでしょうね…!?本当ひどいよなぁ…。私が操作するゲームの大神さんは、かえでさん以外誰も聖母に選びたがらないというのに…(泣)
いつか2のリメイク版ができて、かえでさんもヒロインに選べるシステムができるといいな〜!これからのサクラ大戦&セガさんに期待したいと思います!!
さて、本当は小説の内容通り、12月25日にアップさせたいなと思っていたのですが、年末年始は仕事で忙しい&家族で実家に帰省してしまう為、ちょっと早いですが、アップしちゃいました!
次回はあやめさんヒロインの「もしも『サクラ大戦1』であやめさんと初詣デートができたら…」という短編小説を掲載したいと思っております。
たぶん、今年中にアップできると思いますが…、できなかったらごめんなさい…(汗)
皆様からのメールでよく、「どんな小説がいつアップされるのかの予定が知りたい」というご意見を頂きますので、これからのことを簡単に予告しておこうと思います!
まず、12月〜1月初旬に先程申し上げました「あやめさんヒロインの初詣の短編」、1月3日に「大神さんの誕生日記念特別短編小説」、1月〜2月にかけて、あやめさんヒロインの短編小説を4〜5作品ほど続けてアップさせたいと思っております。また、2月には、あやめ&かえでダブル・ヒロインでのバレンタイン企画も検討中です!
また、少し先になってしまいますが、4月23日に「サイト設立1周年記念」として、「サクラ大戦×他作品のコラボ小説」の連載をスタートさせたいなと思っております。こんな作品とコラボさせてほしいというのがありましたら、リクエストして下さいね!
その後は、大変お待たせしております「舞台」の黒之巣会編&黒鬼会編の長編小説と、連続小説「1年花組 藤枝先生」の二本柱でしばらく更新していきたいなと思っております。
ただ、皆様から頂いたリクエストの中でまだお応えしていないものがたくさんあるので、予定とは違う短編を急にアップさせたりする場合もあるかもしれませんが、あらかじめご了承下さい。とりあえずは、こんな予定でいきたいと思っております!
それから、ありがたいことに、当サイトのトップ絵などを描いて下さっております、くりのあ様が当サイトの為に藤枝姉妹と大神さんのブロマイド風イラストを掲載する『売店』のイラストと、小説の挿絵を現在、描いて下さっています!くりのあ様から送られてき次第、徐々にアップしていきますので、そちらの方もどうぞお楽しみに…!!
1000人突破記念の『ダブル・ハネムーン』の方もこのサイト史上最強(!?)のセクシーシーン盛りだくさんだからでしょうか、ありがたいことに読者の皆様から大反響&大好評の感想メールをたくさん頂いております!皆様、本当にいつもこのような個人の小説サイトを応援して下さり、どうもありがとうございます!!続きができたら、またアップしますね!その前に来場者数が2000人突破しそうな予感がしますが…(笑)頑張って最後の「4日目」まで書きますので、もう少々お待ち下さいませ…!
また、サイト来場者数2000人突破記念の小説の構想もできましたので、併せて楽しみにしていて下さい!
それでは、また次回更新時にお会いしましょう!
次の短編へ
かえでの部屋へ