「生まれてきてくれた君へ」



「――あのね、大神君…。赤ちゃんができたの…」

見回りが終わって、いつものように部屋で2人っきりで過ごす時間、私は思い切って大神君に告白してみた。

案の定、大神君は驚いてむせてしまい、飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。

仕方ないかもしれない。妊娠の報告というのは未婚の男の人にとっては、なかなか衝撃的な告白だろうから…。

「今日、陸軍病院に行ったらね、3ヶ月ですって…」

「ほ、本当ですか…?」


私のお腹に今、新しい命が宿っている。とても神秘的で、不思議な感覚だ。

私も医者から聞かされた時は驚いたけど、今はとても嬉しい。大好きな大神君との赤ちゃんをこの身に宿すことを心のどこかで望んでいたのかもしれない。

けど、このことを素直に喜べない自分もいる…。

私は普通の女性ではない。陸軍中尉であり、帝国華撃団の副司令だ。

花組の娘達も椿達や薔薇組も祝福してくれるかもしれない。しかし、実際に出産することになれば、今後の任務に支障をきたしてしまい、迷惑をかけてしまうだろう…。

〜〜それがとても申し訳なくて…。

「〜〜ごめんなさい、私がもっと気を付けていれば…」

「そんなことありませんよ…!――本当にここに…俺達の子供が…?」


大神君は優しい、少しはにかんだ笑顔で私のお腹を撫でた。

ちょっと意外な反応だった。けど、嬉しい誤算だった。

逃げようとして、認知するのしないのって騒ぎとまではいかないまでも、てっきり困惑するかと思ってたのに…。

「男か女かはまだわからないんですか?あ、名前は何にしましょうか…!?」

「〜〜ちょ、ちょっと待って…!あなた…、戸惑ってないの…?」

「どうしてですか?突然のことで驚きはしましたけど、かえでさんと結婚して、この子の父親になれるんだと思うと嬉しくて…!」

「大神君…」

「かえでさんは嬉しくないんですか?俺達の愛の結晶ができて…」


大神君に優しく微笑まれ、私は涙を流した顔を両手で覆い隠した。

「ど、どうしたんですか…!?」

「ふふっ、ごめんなさい。何だかホッとして…。ふふっ、それに何だか嬉しくて…!」

「ははは…!俺も今、人生で一番幸せな時かも…」


大神君は微笑むと、私をぎゅっと抱きしめた。

「――かえでさん、結婚して、一緒にこの子を育てていきましょう。あなたもお腹の子も俺が必ず幸せにしてみせますから…!」

「ふふっ、えぇ…!頼りにしてるわよ、大神君」

「ハハ…!了解です」


私と大神君はキスをすると、互いの額をくっつけて、この幸せをかみしめ合った。

夢にまで見た大神君からのプロポーズ。

赤ちゃんができなかったら、もしかしたらタイミングを逃して一生聞けなかったかもしれない愛の誓い…。

ふふっ、私の願いが成就したのも、この子のお陰ね。

どうもありがとう。ママ、とっても嬉しいわ…!



翌日、私と大神君は花組や帝撃の皆に妊娠と結婚の報告をした。

「わぁ…!おめでとうございます、大神さん、かえでさん…!!」

「お二人が幸せになって下さって、私達も嬉しいです」

「赤ちゃん生まれたら、アイリスがお世話してあげるんだ〜!」

「ハハ…、そうだね。皆でお世話してあげようよ」

「どうせなら、結婚式は派手にやりまショ〜!!」

「せやなぁ…!せっかくやから、巴里と紐育の皆はんも呼ばへん?」

「うっひょ〜!美味いもんが腹いっぱい食えるぞ〜!!」

「〜〜まったく…、カンナさんの頭の中はそれしかありませんの?」


花組の娘達も皆、自分のことのように喜んで、祝福してくれた。

ふふっ、少し照れくさいけど、仲間が祝福してくれるって、やっぱり嬉しいものね…!



「――そうかそうか!まだかまだかとしびれを切らしてたが、ようやくなぁ」

私と大神君は米田さんのお宅にもお邪魔して、同じように報告した・

「副司令は、いわば司令の女房役だ。これからは公私共に良きパートナーとして、帝国華撃団を引っ張っていってくれよ?」

「はい…!」「はい…!」

「ハッハッハ、良い返事だ。――大神、かえでのことをこれからも頼んだぞ」

「米田さん…」

「はい…!かえでさんを必ず幸せにします…!」

「うむ、よく言った!まぁ、尻に敷かれるのは目に見えているがな」

「〜〜んもう、米田さん…!?」

「はっはっは…!さ〜て、今夜は赤飯でも炊くとするかぁ!」


ふふっ、この時の大神君の緊張ぶりったら…、まるで私の父親にでも挨拶してるみたいだったわ。

帝撃にいた頃と同じように今でも私達を実の子供のように可愛がって下さる米田さん。昔から私と大神君の仲を応援して下さっていたのよね。

ふふっ、少しは恩返しすることができたかしら…?



「――はい、確かに受理致しました。おめでとうございます」

婚姻届が無事に受理され、私と一郎君は仲良く寄り添い、微笑み合った。

今日から私は『大神かえで』。まだあまり実感わかないな…。ふふっ、きっとまだ、ハンコを押すときや病院で名前を呼ばれた時は『藤枝』って旧姓の方を意識しちゃうんだろうけど…。

でも、これからは『大神の家内です』とか『うちの大神がお世話になっております』なんて言いながら、一郎君と一緒に挨拶回りするんだろうな…!それで、この子が産まれたら、年賀状に家族写真なんか載せちゃったりして――!

「――かえでさん…?顔がニヤけてますよ?」

「ふふっ、だって、嬉しいんですもの…!」

「おっと…!はは…、あんまりはしゃぐとお腹の子がビックリしちゃいますよ?」

「ふふっ、この子だって喜んでくれているに決まってるわ。――そうよねぇ?」


私は一郎君の腕に抱きついて、自分のお腹をさすってみた。

――トクントクン…。

まだかすかだけど、確かに命の鼓動が聞こえる。自分はここにいるよってママにアピールしてくれているのね。ふふっ…!

「早く会いたいですね、俺達の子に…」

「そうね。一郎君は男の子と女の子、どっちが欲しい?」

「うーん、そうだな…。どっちも欲しいけど、やっぱり男かな。剣道や合気道を教えて、いつか大神家と花組の隊長の座を継いでくれたらなって…。かえでさんに似た可愛い女の子もいいですけどね」

「ふふっ、一郎君ったら」


結婚式は、この子が産まれてから挙げようと思ってるの。

一郎君のご家族に帝撃の皆、米田さん、ダンディー団、巴里華撃団と紐育華撃団の仲間達…。

ふふっ、賑やかな披露宴になりそう…!

お嫁さんになるのって、実は小さい頃からの憧れだったりする。

由里によると、私達のようなケースを世間では『できちゃった結婚』というらしい。

最近の若者の間では、珍しくなくなってきているみたいだけど、お年寄りや格式高い家の者から見れば恥ずかしいことなのかもしれない…。今までは私も、どちらかというと後者の考えだった。

でも、自分がそういう立場になってみて、考えが変わったわ。順番とか人の目とか、そんなものは関係ない!自分達が幸せなら、それでいいと思わない?



「――良い天気ねぇ…!絶好の散歩日和だわ」

妊娠5ヶ月。そろそろお腹が目立ってきたので、私はマタニティドレスを着始めた。

新緑が光る心地良い日差しの中、一郎君と手を繋いで公園を歩く。

途中、赤ちゃんを抱いた夫婦とすれ違い、会釈した。ふふっ、私達も早くああいう風にお散歩してみたいな。

「疲れたら言ってくれよな。母胎が安定するまで、まだ無理しない方がいいだろうから…」

「ふふっ、ありがとう、一郎君」


最近、一郎君は私を呼び捨てにして、タメ口で話すようになった。なんでも、子供の前で父親の威厳を保つ為なんですって。ふふっ、でも、未だに妻である私にこき使われ続けてるけどね。

「――あ…、蹴った」

「え?本当かい…!?」

「えぇ。――あっ、ほら、また…!」

「そんなに元気がいいってことは、きっと男の子だな。――その調子で元気に生まれてくるんだぞ。父さんと母さん、お前に会えるのを楽しみにしてるからな」


一郎君は私のお腹をさすりながら、中にいる赤ちゃんに優しく呼びかけた。

ふふっ、大丈夫。きっと、この子にも声と気持ちが届いてるわよ。



「――安心して下さい。赤ちゃんは順調に育ってますよ」

週に一度の検診も一郎君は欠かさず産婦人科についてきてくれる。

「そろそろ赤ちゃん用品の準備をし始めないとね。先生に男か女か聞いちゃう?その方が準備しやすいだろうし…」

「でも、産まれた時にわかる方が感動が大きいと思わないか?おしめとかベビーベッドとか男女共通の物だけ揃えておけばいいよ。あとは産まれてから俺が買いに行くからさ」

「ふふっ、大神君って本当ロマンチストよねぇ」

「そ、そうかな?ははは…」


そこへ、一郎君と私のキネマトロンに連絡が入った。

どうやら、新宿に降魔の大群が現れたみたいだ。すぐに帰還してほしいとの、椿からの連絡だった。

「かえで、すぐ戻るから劇場で待っててくれ…!」

「私なら平気よ。作戦指令室から指示くらいできるわ…!」

「ダメだ。緊張とストレスはお腹の子に良くない。俺を信じて、待っていてほしいんだ…!」

「一郎君…。〜〜必ず無事に帰ってきてね…?」

「あぁ、もちろんだ。帰りを待ってくれている家族がいるからな」


不安がって涙ぐむ私に一郎君は優しくキスすると、ぎゅっと抱きしめてくれた。



私は一郎君の部屋で編み物をして、一郎君達の帰りを待つことにした。……出撃中の劇場の2階って、こんなに静かだったんだ…。

――ねぇ、一郎君。早く帰ってきて…。心配で、寂しくて…、どうにかなってしまいそうよ…。

そこへ、バタバタと廊下を走ってくる元気な足音が聞こえてきた。

「――かえで…!」

「一郎君…!」


ドアを開け、一郎君は笑顔で私を抱きしめてくれた。

「よかった、無事に終わったのね…!」

「あぁ、かえでとこの子の為に頑張ったからな。寂しい思いをさせて、すまなかった…」

「ふふっ、ううん、いいの。あなたがこうして無事に帰ってきてくれただけで…。――お帰りなさい、あなた…!」

「ただいま、かえで」


一郎君の温もりは、いつも私に安心と安らぎを与えてくれる。

それは、誠一郎が産まれて1年が経とうとしている今も変わらない…。



「――ぱぁぱ、まんま…!きゃっきゃっ!」

「どうした、誠一郎?はは…、今日はゴキゲンだな」


今日は天気が良いので、私と一郎君と誠一郎の家族3人で公園に散歩しに来た。

新緑の優しい匂いと温かい日光に包まれるように、誠一郎は私の腕の中でぐっすり眠る。そんな息子の寝顔を見守る私と一郎君…。

ずっと憧れていたこういうひととき…。今の私にとって、何より幸せな時間だ。

「誠一郎ったら、ぐっすりね…」

「今日は天気が良いから、気持ちいいんだろうな」


そう言いながら、一郎君は誠一郎の頭を優しく撫でた。

すると、誠一郎は小さな口であくびして、お父さんの指を小さな手で握って、再び眠りについた。

「ふふっ、何だか壊れてしまいそうで怖いわ」

「はは、大丈夫だよ。子供はすぐ大きくなるって言うからな」

「ふふっ、そうね。それにしてもこの寝顔、あなたにそっくりだわ」

「はは、そうかい?今度は女の子が欲しいな。かえで似の可愛い子…。まぁ、性格は俺に似た方が育てやすいだろうけどな」

「〜〜んもう、一郎君…!?」

「ハハ…、冗談だよ」


心地良い温かさの中、可愛い息子を抱いて、大好きな旦那様に寄り添う私…。

――生まれてきてくれた君へ。

お父さんとお母さんは、あなたが私達の子供として産まれてきてくれて、とっても幸せよ。

大きくなったら、私達がどうやって出会って、どういう風に惹かれ合っていったのかをお話ししてあげたいな。

「かえで、愛してるよ」

「ふふっ、一郎君ったら…。誠一郎が起きちゃうわよ?」

「はは、ちょっとだけだよ」

「ふふっ、もう…。仕方ないわねぇ」


ふふっ、これからもお父さんとお母さんの愛情をたっぷり受けて、元気に育つのよ…!

終わり


あとがき

前にブログ『大神姉妹』の方に掲載させて頂いた、ブログオリジナル大神×かえで小説の第2弾です!

サイトの方でも掲載してほしいというご要望を頂きましたので、「かえでの部屋」にも掲載させて頂きました!

この作品は、私が一番最初に書いた大神×かえで小説を推敲したものです。

2のゲームをやる前?後?に歌謡ショウDVDの『つばさ』を観て、初めてあやめさんに妹のかえでさんがいることを知り、妄想して一気に書き上げたのがこの短編…だったと思います!(すみません、記憶があやふやですが…。最近、物忘れが激しくて…(笑))

書いた当時はまだ結婚していなかったのですが、結婚した今読み返してみると、愛する人と築き上げる家族って素敵だなって思いますね!

『誠一郎』という子供の名前は、書いた当時はまだ決まってなくて、息子の名前は『二郎』というとてもネーミングセンスのないものでした…(苦笑)

なので、子供達の名前と設定を考えて下さった読者の皆々様には、大変感謝しております…!!

これからもナンセンスな私にアドバイス、よろしくお願い致します!(笑)

続けて、「かえでさん、初めての実家ご挨拶」の方もアップしたいと思います!

ブログで連載中の大神×かえで小説「娘はあやめ姉さん!?」の方も、引き続きよろしくお願い致しますね♪


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