「奇跡の鐘〜あなたと二人のラブストーリー」その2



「――かえではん、大変や…!さくらはんが部屋に閉じこもって、出てけぇへんのやさかい…!!」

「〜〜さくら、とっても悲しそうなの…!アイリス達と一緒にさくらを励ましてあげよう!?」


翌朝、怖れていたことが現実となってしまった…。さくらが体調がすぐれないから舞台を降りると言ってきたそうだ。

私が駆けつけた時には、すでに他の花組の娘達も大神君もさくらの部屋の前にいた。

「〜〜いい加減、へそを曲げるのはおよしなさいな…!!聖母に選ばれなかったのがそんなに悔しいんですの…!?」

「〜〜違いますっ!……そんなこと…どうだっていいんです…」

「〜〜さくら君、頼む…!君がいなきゃ、舞台は成り立たないんだよ…!花組は君を含めた全員が揃って花組だろ…!?」

「〜〜もう放っといて下さい…!!皆さんにご心配をおかけして、本当に申し訳なく思っています…!〜〜でも私、こんな気持ちじゃ舞台に出られません…。〜〜出たくないんです…!胸が苦しくて…、辛くて…、自分でもどうしたらいいのかわからなくて…」

「〜〜さくら君…」

「……隊長、さくらと何かあったのですか?」

「〜〜あぁ…、実は昨日――」

「――じゃあ、私が聖母役を降りれば、舞台に立つのね?」

「え…?」

「何でデスカ〜!?決まった役を途中で投げ出すなんて、勤勉な日本人のくせに不誠実極まりないデ〜ス!!」

「そうだよ!〜〜さくらもかえでさんも何なんだよっ!?昨日、皆で頑張ろうって決めたばっかりじゃねぇか…!!」

「ごめんなさいね…。でも、私はやっぱり、大神君みたいに裏方に徹する方が落ち着くのよね。…だから、聖母はさくらにやらせてあげて?」

「――!」

「〜〜かえでさん…」


私は大神君と目を合わすまいと、足早に去った。

できるなら、大神君の期待に応えてあげたかった…。〜〜けど、そのせいで花組の和が乱れるのなら…。……私が身を引けば済むことだもの…。

「……さくら、これで満足なの?」

「……」

「あなたと隊長の間で何があったのか…大体想像がつくわ。でも、そんな理由で聖母になれて、あなた嬉しいの?」

「〜〜おい、マリア…。今はそっとしておいてやった方が――」

「――甘ったれるのもいい加減にしなさい…っ!!大好きな隊長に選ばれなかったからって、子供みたいにすねて、ずっとそうしているつもり…!?」

「……」

「〜〜あなたの気持ちはよくわかるわ…。でも、舞台の幕を上げなくちゃいけないの…!どんなにやりたくない役でも、稽古中辛いことがあっても、舞台の上で事故が起こっても…、根性貫いて、最後まで演じ抜くのが女優ってものでしょう…!?」

「マリアさん…」

「…僕もマリアの意見に賛成だ。僕も…たぶん皆も…、さくらと同じ気持ちだと思う。隊長に選ばれなくて、すごくショックだと思う…」

「レニ…」

「皆…、そんなに聖母をやりたかったのかい?」

「〜〜ハァ…、相変わらず鈍い殿方ですこと」

「お兄ちゃんってば、ぜ〜んぜん女心をわかってないんだから!」

「〜〜いぃっ!?だ…、だって、主役を争うのはいつものことだろう?」

「まぁ…、隊長にとって今回の配役は、そんなに深い意味を持つものじゃなかったのかもしれねぇけどさ…」

「私達・花組にとって、隊長にたった一人選ばれるということは、とても意味のあるものでしたから…」

「え…?どういうことだい?」

「〜〜あ〜もうっ!あんさんをほんまドツきたくなってきたわぁ…!!」

「ホントデ〜ス!乙女心を踏みにじる者は、馬に蹴られて死んじゃえばいいデ〜ス!!」

「〜〜な、何で皆、怒ってるんだよ!?俺、配役だって一生懸命考えて――」


――ギィ…。

「――あ…っ!さくらはん…!!」

「きゃは!さくらが出てきた〜!!」

「〜〜ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした…。お芝居に私情を挟んじゃいけませんものね…」

「さくら…」

「私…、もう一度頑張ってみます…!――大神さん、ご指導の方、よろしくお願い致します…!!」

「あぁ、頑張ろう、さくら君…!」


大神君と花組が舞台の方に駆けていくのを私は米田支配人と支配人室から見ていた。

「やれやれ…。父親に似て、さくらも頑固なところがあるからなぁ。…んで?お前さんは何でここにいるんだ?稽古はどうした?」

「私は辞退しました…。聖母役は代わりにさくらが――」

「〜〜あーあー、ま〜だこっちに頑固な奴が残ってたか…」

「え…?」

「そんなことで聖母役をもらったって、さくらが喜ぶもんかよ。自分をフった演出家につきっきりで指導された女優が主役をやるんじゃ、ロクな舞台になりゃしねぇわな…」

「〜〜だ、誰からそれを…!?」

「はは、加山だよ。あいつ、この手の話が大好きでなぁ。…おっと、その前に由里からも噂を聞いてたっけか?」


〜〜まったく…、二人とも他人事だと思って…。

「まぁ、そんな怒りなさんなって。あいつらはただ、お前さんと大神の仲を応援してやりてぇだけなんだよ。ありがてぇ話じゃねぇか。なのに、いつまでグジグジいじけてるつもりだ?あいつらの期待を裏切ることになるぞ?」

「べ、別にイジけてなど…。〜〜ただ、私と大神君が交際すれば、花組の和が乱れてしまうような気がして…」

「はは、な〜んだ、そういうことか。ったく、血は争えねぇなぁ」

「え…?」

「お前の姉さんも昔、同じことで悩んでたんだよ…。『自分と大神が仲良くなったせいで花組の和が乱れてしまったから、彼のことは諦めます』って泣きながら、ウエディング雑誌を読んでてさぁ…。ははは、その時のことを思い出しちまったよ」

「あやめ姉さんが…?」


確かに、あやめ姉さんからの手紙には大神君の名前がよく出てきた。彼に恋しているような文面も見て取れた。

その頃、私はまだ帝撃にいなかったから、大神君とはどんな子なのかよくわからなかったけど…。まさか、姉と同じ人を好きになるなんて、思ってもみなかったわ…。

「大神と恋仲になったって、あの娘達に遠慮することなんてねぇんだぞ?いいか?男女交際っていうのは、二人の想いが通じ合って、自分達の意思で交際を決めて、初めて成立するものだ。それを否定したり、邪魔できる権利なんて誰にもありゃしねぇ。だから、お前さんが大神を好きなら、素直に好きと認めて、堂々としていればいい。文句を言ってくる奴は、俺がこの手で叩き斬ってやるからよぉ…!」

「米田支配人…」

「ハハ、そういやあやめ君にも同じことを言ったっけなぁ…。まぁ、ともかく、本番まで時間がねぇんだ。さっさと舞台に行って、稽古を始めろ!どうせあいつら、お前さんが来るまで稽古を始めねぇ気だからな」

「はい、行って参ります…!――ありがとうございました…!」

「おう、頑張れよ!」


励まして下さった米田支配人に敬礼して、私は舞台に向かった。

きっと、まだ帝撃に来て間もないということもあって、どこか皆に遠慮していたのかもしれない…。でも、自分の気持ちに素直になればいいのだ。

私、本当は聖母をやりたい。愛する大神君の期待に応えてあげたい…!

「――あ、かえではん、こっちやで〜!」

「チェリーさん、や〜っと出てきてくれたデ〜ス。引っ張り出すの、もう超〜大変だったんデスカラ〜」

「かえでさん…。〜〜本当に申し訳ありませんでした…!!」


と、さくらは深々と私に頭を下げた。

彼女の衣装は白い布を仮縫いした聖母の仮衣装ではなかった。天使の羽を骨組みだけ背負った天使の仮衣装だった。

「さくら君には従来通り、天使のアンジェラ役をやってもらうことになりました。――俺、やっぱりどうしても、かえでさんに聖母をやって頂きたいですから…」

「大神君…」

「……私だって、女優の端くれです。せっかく役を頂いたのに、気に入らなくて舞台を降りるなんて、とても許されることじゃありません…。役と台詞を頂けるだけでも光栄なのに…、〜〜それなのに、生意気を言うなんて私…、どうしようもないワガママですよね…」

「さくら…」

「でも、マリアさん達の話を聞いていくうちに思ったんです、互いに信頼を寄せている大神さんとかえでさんがタッグを組めば、きっと素晴らしい舞台に仕上がるんじゃないかって…!そしたら、不思議と『何でこんなことで悩んでたんだろう』って馬鹿らしくなって、同時に『私もその舞台に関わって成功させたい』ってやる気も出てきて…。そう思えるようになったのも、花組の皆さんのお陰です。本当にありがとうございました…!」

「わ〜い!いつものさくらに戻った〜!!」

「いや〜、さくらが元気になってくれて、あたい嬉しいよ〜!」

「ま、少尉だけは何もなさらなかったですけどねぇ」

「…かえってそれがよかったのよ」

「〜〜な、何で今日は皆、そんなに突っかかってくるんだよぉ…?」

「…馬鹿な隊長は放っておこう。――ほら、聖母はこの0番の位置に立つんだ。皆の中心だよ」


レニに教わり、私は花組の中心に立って、舞台から客席を見渡した。副支配ン業務だけでは見ることのできない風景と照明の光…。

女優初心者の私が花組を率いて、センタースポットに立つ…。責任重大だけど、普段の業務より何倍もやりがいがある仕事だわ…!

「かえでさん、今度のクリスマス公演、今までで最高の舞台にしましょうね!」

「さくら…。ふふっ、えぇ…!」

「フフン、まぁ、私のデビュー作である『椿姫の夕』を超えるのは無理でしょうけどねぇ。お〜っほほほほ…!!」

「ケッ、一人で言ってろ、蛇女!」

「〜〜何ですってぇっ!?このゴリラ女っ!!」

「〜〜久し振りに言いやがったなぁ!?このサボテン女っ!!」

「――これ以上ゴタゴタを起こさないで頂戴」


マリアが懐から銃を出すと、たちまちすみれとカンナはおとなしくなる。ふふっ、飛び道具持ってるって、やっぱり強いわよね。

「全員揃ったことだし、早速、稽古を始めようか…!」

「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」


こうして、クリスマス公演に向けての稽古がスタートした。

花組の皆は女優初心者の私に熱心に稽古指導してくれる。歌にダンス、それに芝居の台詞回しに所作、発声練習と腹筋運動…。厳しくて大変だけど、できるようになった時の達成感は最高よ…!日常生活や戦闘の時は私がサポートすることが多いから、こういうのって何だかとっても新鮮だわ。

「――大神はん、舞台のコンセプトはどないにします〜?」

「観に来て下さるお客様の心が温かくなるような、感動的な舞台にしよう!」

「おっ、いいね、いいね〜!寒い冬にはピッタリだな!」

「なら、照明をもっと明るめにした方がいいね」

「そうだな。後で照明班に言っておくよ」

「私達天使はどんな風に動けばいいですか?」

「そうだな…。前半はそれぞれ好きに動いてもらって構わないよ。それで、最後の盛り上がりは、天使全員の動きを揃えてみよう…!」

「うん、わかった!アイリス、『ニコル』っていう天使さんの性格、よく考えながら踊ってみるね!」

「私なら考えるまでもありませんわ。アドリブは大得意ですもの〜。おっほほほほ…!」

「少尉さん、任せて下サ〜イ!私もアドリブでは、すみれさんに負けまセ〜ンカラネ!」

「〜〜おいおい、張り切りすぎて、聖母より目立たとうとしないようにな…!?」


ふふっ、個性が強い女優達をまとめるっていうのもなかなか大変ね…。

「最後は私ね。主役の聖母はどういう風に演じればいいかしら?」

「やはり、聖母らしく神秘的に…。天使と人間への慈愛に満ちた、心優しい聖母様を演じて下さい」

「わかったわ。大神君の期待に応えられるように頑張るわね…!」


稽古が終わっても、大神君は寝る間を惜しんで、舞台セットの転換や照明を裏方に指示して、チェックしている。

ふふっ、頑張ってるわねぇ。偉い、偉い…!

こうして、3週間の稽古は順調に続いた。演出家という立場と業務に最初はあたふたしていた大神君も、最終的には江戸川先生並にテキパキ指示できるようになってきたし、私も辛い稽古を乗り越え、『女優・藤枝かえで』として舞台に立つのが楽しくなってきた。

できあがったばかりの本番用の衣装でリハーサルしたり、サイズ変更を頼んだ特別ブロマイドやパンフレットなどの限定グッズを仕入れたり…。ポスターや看板を出すと、主役が副支配人の私、演出がもぎりの大神君と知ったお客様は興味津々のようで、切符はみるみるうちに完売した。

私達出演者と裏方が一丸となって作りあげていく舞台…。

帝国華撃団…、ううん、帝国歌劇団に来て、本当によかった…!

――そして、公演前日のクリスマス・イヴ。いよいよ明日は本番だ。

一度きりの舞台だから、失敗は許されない…。けど、何故かそんなに緊張はしていない。ふふっ、私って昔から結構、肝が座ってる方なのよね。今日までできる限りのことはやった。後は本番でその成果を見せるだけですもの。

衣裳部屋のハンガーにかかっている聖母の衣装を私は鏡の前で服の上にあててみた。光に反射する特殊な布地とスパンコールでキラキラ輝く美しい衣装…。来たばかりの頃は、まさか自分が主役で舞台に立つ日が来るなんて、思ってもみなかったけど…。

「――あ…、ここにいらしたんですね」

見回りの最中だった大神君が声をかけてきた。

「あら、大神君…!ふふっ、舞台の最終チェックは終わったの?」

「はい、舞台スタッフの皆さんのお陰でスムーズに終わりました。本当は演出家の俺が引っ張っていかなきゃならないのに、逆に皆さんから教わってばかりで…」

「ふふ、いいじゃないの。それだけ協力してくれてるってことは、皆、あなたを演出家として認めてくれたってことじゃない」

「はは、だといいんですがね…」


大神君は笑いながら、手前にあるクリスマス公演用の衣装に触れた。

「――遂にここまで来たんですね…。明日は頑張らないと…!」

「そうね。最後に演出家として、主演女優に言っておくことはある?」

「うーん、そうだな…。上手くやろうと思わずに、稽古通りに頑張って下さい」

「それだけ?」

「それから…その…、〜〜勝手に主役に選んだりして、ご迷惑じゃなかったかな…と」

「え…?ふふっ、もう…今さら何言ってるの?私、とっても嬉しかったのよ?まさか本当に選んでくれるなんて、思ってなかったから…」

「そうですか…。よかった…!もしかしたら、無理矢理やらせてしまったんじゃないかって、ずっと気がかりだったんです…。でも、それを聞いて安心しました」

「ふふっ、心配性ねぇ。お陰で、舞台でセンターに立てる喜びも味わえたし、皆でお芝居を作る楽しみもいつもより多く感じたし…。――でも、不思議よね…。くじ引きとか米田支配人に言われて選ばれるより、大神君が選んでくれる方が何倍も嬉しいんですもの」

「それ、花組にも言われたんですよ…。う〜ん、どうしてなんだろう?もぎりの俺に選ばれるなんて、そんなに光栄なことは思えないんですが…?」

「ふふっ、本当に鈍いんだから…。そんなんじゃ、花組に愛想尽かされちゃうわよ?」

「〜〜いぃっ!?そ、そんなぁ…」

「うふふふっ、大神君をからかってると、本当に楽しいわね〜!」


鏡の前で衣装をあてる私を大神君は照れくさそうに見つめてきた。

「――かえでさん…」

「ん…?どうかした?」

「その…、この前、俺がさくら君と夜中に話してたこと…、本当に聞いてないんですよね?」

「え…?〜〜え、えぇ…」


〜〜また嘘ついちゃった…。でも、今さら本当のことも言えないし…。

「そう…ですか…」

大神君は少しの間沈黙すると、困惑したように、しかし、照れくさそうに頭を掻いた。

「こういうことって、どういうタイミングで言ったらいいのかよくわからないけど…。――でも俺…、その…」

「お、大神…君…?」


大神君のドキドキが私にもうつったみたい…。恋愛は人並みに経験してきた方だけど、今はまるで初恋の時みたいにドキドキワクワクしてる…。

「――かえでさん、キスしていいですか…?」

え…っ!?〜〜い、いきなりそっち…!?

「ダメですか…?」

「そ、そんなことはないけど…」


大神君は私を壁際に寄せて、壁に手をついて見つめてきた。

「俺…、今すごくかえでさんを抱きしめたいんです…!言葉とか…、そんなんだけじゃ全然足りないほど…」

「大神君…」

「俺…、どうしちゃったんでしょうね…?あなたのことを考えるだけで俺、どうにかなってしまいそうで…。一緒にクリスマス公演の稽古をし始めた頃から、余計にその想いが強くなってきて…!こんなこと生まれて初めてで…。〜〜もうこの気持ちを抑えておくことなんてできないんです…!」


今にも泣き出しそうなほど感情が昂っている大神君のおでこに、私は自分のおでこをくっつけた。

「大丈夫よ。あなたの熱…、気持ち…、十分伝わってるから…」

「かえでさん…」

「いいのよ、――キスして…」


瞳を閉じ、唇を突き出す私を大神君はゆっくり唇を重ねてきた。緊張しているのか、吸いついたり、舌を絡ませる動きがぎこちない。ふふっ、慣れてない感じが可愛いくて、余計に愛しい…。

「かえでさん、抱いていいですか?」

「ふふっ、そういうことは聞かない方がムード壊れないのよ?」

「あ…、す、すみません…」

「ふふっ、まったくもう…。――いいわよ、大神君の好きなようにして…」


私の返事を聞いて興奮したのか、大神君はさっきより激しくキスしながら、私の服のボタンを外しにかかった。

「ま、待って…!電気…――あむぅ…っ!」

大神君に夢中で唇を奪われながら、私は部屋に誰もいないのを装おうと、衣裳部屋の電気を消した。

その直後に私は床に押し倒され、大神君に服を脱がされながら、責められる。大神君の熱い舌が肌を這う、とろけるような感覚に頭が真っ白になっていく…。

大神君はネクタイを緩めて自分のYシャツをはだけさせ、私の中に入ってきた。大神君は興奮しているのか、それとも女性を抱くのは初めてなのか、責め方が少々荒っぽい。でも、そんなワイルドな彼も魅力的だ。

そろそろ暗闇にも目が慣れてきた。私と一つになりながら、夢中で愛してくれるその顔が見えるようになってきた。

「大神君、とっても上手よ…!」

「かえでさん…!」


私が大神君の顔を引き寄せ、キスを再開したその時だった。

「――もぉ〜、こんな所にあるわけないじゃないですかぁ〜」

――!?突然、廊下から椿の声がして、私は慌てて大神君の口を塞ぎ、そのままフリーズした。椿に続いて、かすみと由里も衣裳部屋に入ってきたのだ。


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