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「奇跡の鐘〜あなたと二人のラブストーリー」その1



「――俺がクリスマス公演の演出を…?」

「えぇ、たまには大神君にやらせてみようってことになったのよ。さくら達も皆、最高のクリスマス公演にしようって張り切ってるわ。ふふっ、もちろん、大神君も協力してくれるわよね?」


もうすぐクリスマス。

今年、帝劇は設立以来初となるクリスマス公演を上演することが決定した。花組総出演による、聖母と天使達の素敵な愛の物語。凍えるような冬の寒さも忘れるほど、心温まる物語…。

その特別公演の演出を大神君に任せることになったのだ。もちろん、聖母と天使達・キャストの配役も彼が決めることになる。

配役はいつも米田支配人と私で決めるか、くじ引きになることが多い。だが、今回大神君に任せようというのは、米田支配人たっての希望だった。

『――どうして大神君に…?金田先生も江戸川先生も、いつも以上に張り切って下さっているのに…』

『なぁに、年寄りの気まぐれさ。士官学校首席の優等生を、いつまでももぎりに留めておくのは俺も心苦しいからな。あいつだって、毎回舞台を見て勉強してるんだ。たまには、あいつの好きにやらせてみるのも、趣向が変わって面白そうだろ?』


12月25日の聖夜一夜限りの特別公演。だから、花組のことをよくわかっている大神君にしか任せられないと米田支配人は言う。

私も支配人の意見に賛成だ。あやめ姉さんの後を継いで、帝撃に来て半年…。大神君の花組隊長としての手腕には毎回驚かされてばかりだ。

普段はもぎりとして、花組の女優達を影から支え、舞台成功に貢献する縁の下の力持ち。戦闘時は花組隊長として、花組の隊員達を守り、彼女達と協力して悪を討つ。

とても強い絆で結ばれている大神君と花組の娘達…。少し羨ましい…。帝撃設立時からいたあやめ姉さんならともかく、私はここではまだ新顔だ。悔しいが、その絆の中にはまだ入れそうもない…。あの子達から大きな信頼を得ていた姉さんが羨ましい。私も早く帝撃の一員として馴染みたいのだが…。

「――台本は金田先生がおおまかに筋立てして下さったけど、台詞の推敲や役者さんへの細かい演出はあなたがやってみなさい。ふふっ、これは副支配人からの命令よ?」

「了解しました!大神一郎、粉骨砕身の覚悟で演出を務めさせて頂きます!!」

「ふふふっ、そんなに力まなくても大丈夫よ。難しいことは考えずに、あなたの思うようにやってみなさい?」

「は、はぁ…。〜〜何だか責任重大だな…」

「こぉら、しっかりしなさい、大神君!他にもやることは山のようにあるのよ?まずは…、そうねぇ。聖母と天使達の配役を決めて頂戴。一口に天使と言っても、色々な天使がいるわ。心優しい天使、ちょっぴりいたずらが好きな天使、甘えん坊のワガママ天使…。あの娘達にはどんな役が合いそうか…、それを当てはめていけば、推敲もスムーズに進むでしょ?」

「はい。アドバイス、ありがとうございます、かえでさん。助かります!」


ふふっ、本当素直で良い子なんだから…。

――それにしても、大神君は聖母を誰に選ぶんだろう…?聖母はこの公演の主役…。つまり、大神君が最も信頼を寄せている人物が選ばれることになる。……それってつまり、大神君が一番好きな人…ってことよね…?

「……ねぇ、聖母役は誰にするか決まってるの?」

「これから色々検討しますが、候補者は数名ほど…」

「そ、そう…」


〜〜どうしてこんなに気になるのかしら…?私は花組じゃないのよ?なのに、変に期待をしてしまう自分が恥ずかしい…。

「……それで?その候補者って…」

「やっぱり、さくら君とすみれ君…。――あと、かえでさんでしょうか」

「え…っ!?〜〜わ、私…!?」

「はい…。え?かえでさんは候補の中に入れてはいけないんですか?」

「ふふっ、やぁね、もう…!私は女優じゃないのよ?当日は副支配人として、お客様をご案内しなくちゃいけないのに…」

「そうなんですか…。〜〜残念だな…、かえでさんの聖母、俺の中でイメージにピッタリなのに…」

「お…、大神君…」


思ってもみなかった答えを聞いて、まだ心臓がドキドキいってる…。

どうしてこんなに嬉しいの…?大神君に大きな信頼を寄せられてるってわかったから?大神君に少しでも気に入られてるって思ったから…?

『――かえでさんの聖母、俺の中でイメージにピッタリなのに…』

嬉しい言葉を頭の中で何度もリピートしてみる。

――ふふっ、大神君ったら、私の聖母が見たいんですって…!何だか自然に顔がにやけちゃうわ…。

「――副司令〜、何笑ってるんですかぁ?」

「え…?〜〜そ、そう…?ほほほ…、別に笑ってなんかいないわよ?」

「ふ〜ん…?」


〜〜売店でクリスマス公演用のグッズを発注している椿にツッコまれてしまった…。まずいわ、仕事中なのに…。もっと顔を引き締めないと…!

「椿ー、クリスマス公演のスペシャルブロマイド、もっとサイズ大きくできないかどうか、写真屋に頼んできてもらえる?」

「〜〜え〜?こっちは発注で忙しんですよぉ!?お昼までには終わらせておけって、かすみさん、厳しくて…」

「なら、私が行ってきましょうか?」

「え…?副支配人自らですか…!?」

「ふふっ、忙しい時ですもの。雑用だって手伝わないとね…!――それで、サイズはどれくらい?」

「え?〜〜えっと…、半切で」

「わかったわ。じゃあ、行ってくるわね〜♪」

「……副司令、何だか妙にゴキゲンなんですよねぇ〜」

「――フフフっ、さては、大神さんと何かあったわね…?」

「えぇっ!?副司令って大神さんのこと、好きだったんですかぁっ!?」

「当たり前じゃない。ちょっと見りゃわかるっつーの。あ〜あ、これでまたハーレムの人数が増えちゃったわね〜。――あ、かすみは一人、加山さんラブだけど」

「でも、肝心の大神さんは誰が好きなんでしょうねぇ?あやめさんはもういなくなっちゃいましたし…」

「そうね〜。あれから全然浮ついた態度取らなくなっちゃったし…。――うふふっ、でも、副司令のあの浮かれっぷり…。何だか一波乱ありそうな予感だわ…!」

「〜〜由里っ!椿っ!お喋りしてないで、仕事しなさい!!」

「〜〜ハァ…、委員長が来た来た…」

「〜〜あ〜ん、かすみさん、怖いですぅ〜」


三人娘に噂されているとも知らず、私は上機嫌で銀座の街に出た。

「――半切ですね、かしこまりました。いつもごひいき、ありがとうございます!」

お得意先の写真屋にサイズの変更を頼み、再び外へ。真冬の冷たい風に身を縮こませ、口から蒸気機関車のような白い息を吐く。ふふっ、これを見ると、冬になったなって実感が沸くのよね。

ショーウィンドゥにはクリスマスツリー、店の入り口にはリース、ガス灯にはサンタとトナカイのレリーフが飾られている。銀座の街もすっかりクリスマス一色だ。

鬼王を赤坂で倒し、京極も自殺していなくなった今、帝都は平和だ。街の明るさにつられ、私もいい歳して、子供みたいに浮かれてしまう。

「――ねぇ、知ってる?帝国歌劇団、クリスマス公演やるんですって!」

「本当かい?じゃあ、一緒に観に行こうか!」

「えぇ!」

「付き合い始めてから初めてのクリスマスだもんな。これからも君との素敵な思い出を作っていきたいよ」

「ふふっ、亮二さんったら」


仲良く腕を組んで歩くカップルとすれ違い、私は思わず振り返った。

あの二人の顔を大神君と私に勝手に置き換えてみる…。

『――これからもあなたとの素敵な思い出を作っていきたいなって…』

〜〜何を妄想してるんだろう…?私らしくもない…。

大神君は今、忙しくてそれどころではないのだ。さっきのカップルみたいに呑気に銀ブラできる暇なんてない。……それに…、相手が私だなんて、きっとありえないもの…。

今夜、大神君は舞台に皆を集めて、配役を発表する。いよいよ聖母役が決まるのだ。

花組の娘達は、大神君が自分を聖母に選んでくれることを心待ちにしているのか、朝から皆ソワソワしていた。

『――かえでさんの聖母、俺の中でイメージにピッタリなのに…』

……私は何を期待してるんだろう…?あの時、はっきり注意したのだ。大神君もきっと、他の誰かを選んでいるのに違いない。『聖母役は花組の女優の中から選ぶ』…。副支配人として、当然の判断だ。

〜〜けど、何故だろう…?大神君が他の娘を選ぶって思うと、自分でも驚くくらい胸が苦しくなる…。

「――それでは、クリスマス公演『奇跡の鐘』の配役を発表したいと思います。…大神君、お願いね?」

「はい」


大神君は一歩前に出て、軽く咳払いした。

いよいよこの瞬間がやってきた。さくら達も皆、緊張した面持ちで大神君を見つめている。

大神君は劇場内を見回りながら、花組の皆と直前まで話をしていたらしい。椿達の話では、『選ばれなかった娘達の気持ちを考えると心苦しい』と本音を話していたという。本当に優しい子だ…。

だが、主役に選ばなければならないのは、たった一人…。〜〜一体誰を選ぶの…?

「まず、主役の聖母役…。――かえでさん、お願い致します」

「え…?」


一瞬の沈黙の後、ざわめきが起こった。私も一瞬、頭の中が整理できず、間抜けな声を出してしまった。

「わ…、わ…たし…?」

「はい。あれから色々考えてみたんですが、やはり、聖母役はかえでさん以外考えられなくて…」

「〜〜ハァ!?少尉さん、何言ってるデスカ〜!?かえでさんは花組じゃないんですヨ〜!?『花組公演』と謳っているのに花組を主役に選ばないなんて、本末転倒デ〜ス!!」

「確かに『花組公演』とは謳っているが、花組以外の人を主役にしちゃいけないなんて決まりはないはずだろ?」

「〜〜これですから、ド素人は嫌ですわ!お芝居の経験のない者を主役にしては、せっかくの公演がめちゃめちゃになってしまうではありませんかっ!!そんなグダグダな公演、お客様からも不満が出るに決まってますわ…!!」

「そんなの、やってみねぇとわかんねぇだろ?隊長が慣れないながらも一生懸命考えて出した答えなんだ。尊重してあげようぜ!」

「…かえでさんはどうなの?聖母、やりたいの?」

「わ、私?〜〜えっと…、そうねぇ…」


予想していなかった展開なので、どう返事したらいいかなんて考えてもいなかった。

以前から女優の仕事には興味があったし、せっかく大神君が選んでくれたのだ。引き受けたいのは山々だが、不安もある…。初舞台の『青い鳥』の時は、『魔女ベリリュンヌ』というほとんど台詞も出番もない役だったから何とかなったけど、今回は主役で、頭から最後までほとんど出ずっぱりだ。〜〜それに、すみれの言うように、花組の活躍を楽しみに来て下さるお客様にも申し訳ないし…。

「〜〜やっぱり、駄目ですか…?」

「そ、そんなことないわ…!……けど…」

「私達のことは気になさらずに…。ただ、かえでさんがやりたいのか、やりたくないのか…。正直な気持ちを聞かせて下さい」


マリアに言われて、私は花組の娘達の顔を見渡した。皆、私の返事に注目していると見えて、真剣な眼差しで見つめてくる…。

そして、大神君…。私が断るかもしれないと不安がりながらも、まっすぐ見つめてくる…。――不安とプレッシャーもあるけど、やっぱり大神君の期待に応えてあげたい…!

「――私、やってみたいわ、聖母役…!」

「かえでさん…!」

「へへっ、さすがはかえでさんだ!そう言ってくれると思ってたぜ!」

「アイリスもかえでお姉ちゃんの聖母様、見たいな〜!えへへっ、これで皆でお稽古できるね!」

「そうね。それに、かえでさんになら、主役を任せても安心だし…」

「人数も増えるから、色々なフォーメーションもできると思うよ」

「こりゃすごいわ〜!うちもセット、張り切ってつくらな…!」

「ありがとうございます、かえでさん!引き受けて下さって…」

「こちらこそありがとう、大神君。選んでくれて、とっても嬉しいわ」

「決まりだな!台本もできたし、早速明日から稽古始めようぜ!」

「あぁ、せっかくの特別公演なんだ!素晴らしい舞台になるよう、かえでさんを中心に皆で頑張っていこう!」

「お〜っ!!」「お〜っ!!」「お〜っ!!」

「フン、…まぁ、少尉がそこまでおっしゃるなら、仕方ありませんわね。今回は特別に主役の座を譲って差し上げますわ」

「〜〜絶対私を選ぶと思ってたのに〜、とんだ番狂わせデ〜ス」

「んも〜、織姫ったら…。誰が主役になっても、恨みっこなしって約束したでしょ〜!?」

「〜〜むぅ…、ちょっち不本意ですが…、まぁいいデショ〜。――かえでさん、安心するといいデ〜ス!イタ〜リアの劇場で観客を魅了し続けたこの私が手取り足取り、頭の先から爪の先まで完璧に聖母になりきれるよう、教えてあげマ〜ス!」

「…織姫に教わるとなると、逆に不安だよね?」

「〜〜んなぁ〜っ!?レニったら、ヒドいデ〜ス…!!飼い犬にお尻を噛まれまシタァ〜…」

「…お尻じゃなくて、手だよ?使い方も微妙に間違ってるし」

「ハハハ…!織姫はんとレニはんの掛け合いは、いつ見ても絶妙やなぁ〜」


皆、楽しく笑っている。私が聖母をやるのを認めてくれたみたいだ。よかった…!

「――ん…?さくら君、どうかしたのかい?」

「え…?〜〜い、いえ…、何でも…」


何故か、さくらだけ元気がない…。いつもなら、皆が落ち込んでいる時でも一人明るくいるあの娘が…だ。

〜〜無理もない。大神君は花組の中でも特にさくらと仲が良い。きっと、今回は自分を聖母に選んでくれると信じていたのだろう。あの娘も私と同じで、大神君のことを慕っている。おそらく、花組の中で誰よりもその想いが強いだろう。だからこそ、主役に…、大神君が最も信頼する女の子に選ばれなかったことを誰よりもショックに思っているのかもしれない…。

〜〜そんなことを考えると、なかなか寝つけない…。私はベッドの上で何度も寝がえりを打つ。〜〜明日から稽古が始まるっていうのに、参ったわ…。見回りがてら、少し散歩でもしてこようかしら…?

私は寝間着の上に赤いカーディガンを羽織り、懐中電灯を持って、劇場内を見回ることにした。

深夜の劇場は不気味なほど静かだ…。時計を見ると、深夜2時…。皆、とっくに寝ている時間だし、仕方ないか…。

「――山さんが…――じゃないですか…」

1階の廊下を歩いていると、事務室の明かりが点いているのに気づいた。

〜〜まさか泥棒…!?よく耳を澄ませてみると、中からかすみの声が聞こえる。こんな時間まで仕事をしているのだろうか?本当に真面目なんだから…。

「――かすみ〜?もう遅いから、そろそろ帰…――!?」

「〜〜ふ…っ、副司令…!?」


かすみは加山君に抱きしめられながら、事務室のデスクに寄りかかっていた。しかも、二人とも服を淫らにはだけさせて…。

「〜〜あははは〜、そんじゃ、俺はそろそろ任務に戻ろうかな〜?」

「〜〜わ、私も伝票整理、終わらせないと…」

「〜〜お…ほほほほ…、あ〜、いいのよ?お邪魔して悪かったわね〜。どうぞ、ごゆっくり〜…」


気まずい雰囲気から逃げるように私は詫びながら、急いでドアを閉めた。

まぁ、加山君とかすみが付き合っているのは周知の事実だし、そんな現場を目撃してしまっても、驚くことはないんでしょうけど…。

……それにしても、あの堅物なかすみが事務室で…ねぇ…。やっぱり、クリスマスシーズンって誰もが浮かれちゃう時期なのかしら…?

あ〜あ、私も早く大神君とエッチした〜い…。

――そんなことをふと考えた時、脳裏にさくらの顔が浮かんだ。

……さくら、ちゃんと眠れているかしら…?何か相談に乗ってあげられることってないかしら…?〜〜でも、今私が行ったら、逆効果かも…?

「――私のこと…、守ってくれるんじゃなかったんですか…?」

すると、中庭の方から他の人物の声が聞こえてきた。

――あれは…、さくらと…大神君?こんな夜中にどうしたのかしら…?

私は不謹慎と思いながらも、隠れて、こっそり様子を伺うことにした。

「魔神器を壊す時…、大神さん、言って下さいましたよね…?私を大切に思ってるから…、失いたくないから、壊すんだ…って…」

「〜〜誤解させてしまったのなら、ごめん…。あれはその…、君を大切な仲間として守りたいという意味であって…」

「そ…、そうだったんですか…。〜〜あははは…、私、馬鹿みたいですよね…。勝手に一人で勘違いして、舞い上がっちゃって…」

「さくら君…。〜〜君の気持ちは嬉しいよ…。君は俺にとって、とても大切な仲間だ。素直で健気だし、女性らしい大和撫子だと思う。けど、異性としてとか、一生の伴侶にしたいとか…、すまないが、そういう目で見ることはできないんだ…。俺が愛しているのは、かえでさんだけだから…」


――え…?大神君…、私のこと――!?

「〜〜あ〜あ、やっぱりなぁ…。大神さんとかえでさんの噂、由里さんから聞いてたんですよね…。あまり気にしないようにしてたんですけど…。〜〜大神さんご本人がおっしゃっているなら、本当なんですよね…」

「すまない…。君なら、そのうち俺なんかよりもっと素敵な人が現れるよ」

「大丈夫ですよ…。私、女優だし…、〜〜結婚なんてしませんから…っ!」


さくらはうつむきながら呟くと、涙を見せまいと大神君の元から走り去った。

「あ、さくら君…!」

「――あ…っ!」


さくらは隠れていた私にぶつかりそうになると、眉を顰めて、避けていってしまった。

「〜〜さくら…」

「かえでさん…!いつからそこに…?」

「つ、ついさっきよ…。眠れなくて、お散歩してたら、偶然見かけて…」

「そ、そうですか…」


しばし、沈黙が続いた。私のせいでさくらと喧嘩になったのだ。バッドタイミングで顔を合わせてしまい、大神君も気まずいのだろう…。

「……さくらを振ったの…?」

「……はい…。俺の言い方が悪くて、傷つけてしまったようです…。〜〜さくら君の真剣な気持ちを弄んでしまいました…。思わせぶりな態度を取ってしまった俺が悪いんです…」

「…追いかけなくていいの?」

「〜〜何て声かけてやればいいのか…、良い言葉が見つからなくて…。どんな慰めの言葉も、今、俺から言われたら、傷つくだけでしょうから…」

「大神君のせいじゃないわよ…。ズルズル引っ張らずに、はっきり断ってやるのも愛情だと思うわよ?だから、あまり自分を責めないで…?ね?」


そう励ましてやるのが精一杯だった…。自分に全く関係ないことだったら、もっとうまい言葉が見つかったと思う…。

〜〜上官なのに情けない…。こういう時、あやめ姉さんだったら、どんなアドバイスをするだろう…?

「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした…。俺もそろそろ失礼します。見回りの途中ですので…」

「あ…、そ、そう…。遅くまでご苦労様」

「はい。――では、これで…」


一礼して、背中を向けた大神君だったが、急に足を止め、振り返った。

「…?大神君?」

「あの…、俺達の会話…、どこから聞いてたんですか?」

「え…?」

「いえ…、〜〜その…」

『――俺が愛しているのは、かえでさんだけだから…』


たぶん、この言葉を私が聞いたかどうかが気になるのよね…。〜〜バッチリ聞いちゃったから、私も今、こうして悩んでるんだけど…。

「〜〜ほ、ほんのちょっとだけよ…?えっと…、『君なら、そのうち俺なんかよりもっと素敵な人が現れるよ』ってところぐらいから…かしらね」

〜〜嘘ついてしまったわ…。でも、今、本当のことを言えば、大神君を困らせてしまうに違いないもの…。嘘も方便…よね?

「そ、そうですか…」

大神君はホッとしたような…、でも、どこか残念そうな苦笑を浮かべた。

「明日、さくら君ともう一度よく話し合ってみることにします」

「それがいいわね。このままだと舞台にも支障が出ちゃうでしょうし…」

「そうですね…。――冷えてきましたね…。かえでさんも早く休んで下さいね。主演女優が風邪引いては大変ですから…」

「ふふっ、えぇ、おやすみなさい…」


〜〜こういう時、上官として…、仲間としてどうすればいいの…?

私と同じように、大神君も私のことを想ってくれていたなんて、すごく嬉しい。……だけど、さくらの気持ちを考えると、素直に喜べない…。

さくら、大丈夫かしら…?私もどんな言葉をかけてやればいいのか、うまい言葉が見つからない…。

〜〜ハァ…、ますます眠れなくなってしまったわ…。


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