「初めての夜〜かえで編〜」



「――かえで…よね?」

銀座の街を歩いていて、私は突然声をかけられた。銘仙を着て笑顔で立っている女性…、その顔には見覚えがあった。

「もしかして、芳子…!?」

「そうよ!やっぱり、かえでね…!久し振り〜!元気そうで安心したわ」


芳子は髭を生やして和装した男性の隣に立ち、その腕に赤ん坊を抱いていた。きっと、ご主人と子供だろう。

「芳子こそ元気そうじゃない…!こちらはご主人?」

「えぇ。2年前、お見合いでね」


旦那さんは髭のいかつそうなイメージとは反対に笑顔で会釈してくれた。見かけより、優しい人なのかもしれない。

「ふふっ、そう。よかったじゃない。この近くに住んでるの?」

「まぁね。今日は日曜だから、家族皆で銀ブラってわけ。――ほ〜ら、洋子もご挨拶なさい」


芳子の呼びかけに応えるように、彼女の腕に抱かれている娘の洋子は愛想良く笑ってくれた。人懐っこいところは母親に似ているようだ。

「ふふっ、可愛いわねぇ。――そっかぁ…。芳子ももうお母さんか…」

「えぇ、そうよ。今ではすっかり親馬鹿になっちゃって…。逆子だったから大変だったんだけど、無事に生まれてきてくれてよかった…。可愛い娘と主人に囲まれて、今、とっても幸せなの」


赤ん坊をあやす今の芳子からは、昔のおてんばな姿など想像もつかない。

芳子は昔から気さくで人懐っこく、誰からも愛される愛嬌の良い子だった。近所の男の子達からも人気があったので、結婚は早いだろうと思っていた。当時は特別親しかったというわけではないが、こうして旧友にばったり再会できたのは、やはり嬉しい。

「かえでの方はどうなの?確か、陸軍の士官学校に行ったんでしょ?」

「えぇ。一応、今は陸軍中尉よ」

「へぇ、女なのにすごいわねぇ!じゃあ、まだ結婚はしてないんだ?」

「うん…。まぁ…ね。仕事が大変で、それどころじゃないし…」

「そう…。軍人さんって大変なのね…。でも、もうそろそろ考えた方がいいんじゃない?いくら今、仕事で成功していても、年を取ってからじゃ寂しくなるだけよ?」

「そ、そうよね…」


私だってそれくらいわかっているつもりだ。余計なお世話だと思ったが、彼女なりに気遣ってくれているのだから、文句は言えない…。そういえば、芳子って昔から人の世話ばかり焼いていたわね。私にもよく恋愛のアドバイスをしてくれたっけ…。

「――あっ、もうこんな時間!?帝鉄に乗り遅れちゃう…!――じゃあ、またね…!今度、ゆっくりお茶でも飲みながら、話しましょ!」

急ぐ芳子夫妻の背中を私は一人寂しく見送る。

結婚…か。そりゃ、私だって全く考えてないわけじゃないし、ここだけの話、大神君っていう好きな人はいるけど…。

でも、もし今私が結婚して帝撃を辞めたら、あやめ姉さんの遺志はどうなるの?姉さんと同じ『帝都の平和を守る』という使命感に燃えている今、恋愛なんてしている暇はないと思う。……という主張は、恋人ができない言い訳に聞こえてしまうだろうか…?〜〜仕事と恋愛をうまく両立できない自分の不器用さに、この歳になってようやく気がついたわ…。

芳子は女学校時代の成績は中の下程度だったが、今は結婚し、子供も生まれて幸せそうだ。一方、私は女学校時代の成績は上位で、今は陸軍中尉と帝撃の副司令という肩書を持つまでになった。だが、恋人はいない…。

最近、『勝ち組』とか『負け組』とかいう言葉がよく雑誌を飾っているけど、私はどっちなんだろう…?

「――各自、周囲の脇侍の撃破に専念!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


花組隊長として隊員をまとめ上げ、戦っている大神君を私は轟雷号のモニターで見つめる。

あやめ姉さんがよく手紙に書いてくれていた1歳年下の男の子…。帝撃に配属になる前、どんな子か気になって、顔とか性格とか声とか、色々想像したものだっけ。

そして、姉さんが亡くなって、副司令の業務を引き継ぐことになって帝撃にやってきた日、私は初めて大神君に会った。想像していたより、結構格好良くて、頼りがいもあって、顔も性格も私好みだった。堅物だった姉さんが夢中になっていた男だけはある。

だけど、私は恋愛をしにここに来たのではない。帝都とそこに住む人々を守るという重大な使命の下で働かせてもらっているのだ。そんな下心があっては、任務に支障をきたしてしまうだろう。〜〜だけど…。

「――ね〜ぇ、大神さん、これから2人でおでかけしません?」

「〜〜な、何言ってるんだ?昼飯の後にすぐ訓練があるんだぞ?」

「ふふっ、硬派なのネ、大神さんって。そういうとこも好きヨ!」


〜〜影山サキ…。私の気持ちを知ってか知らずか、妙に大神君にモーションをかけてくる嫌味な女だ。さくら達花組が皆、大神君を慕っているのは純粋な気持ちからなので、よしとしよう。だが、サキの場合はどうもそうは見えない…。何か彼をハメようとしているような、そんな危険な色香が漂っている気がするのだ。あんな女に大神君を取られてたまるものですか…!私もさくらみたいに背中をつねってやりたいぐらいだが、とてもそんな勇気はない…。

仕事より恋愛重視の女が私は好きではないので、そういう女にはなりたくないという気持ちもあるのだが、それ以上に大神君に自分の気持ちを知られるのが怖いのだ。帝撃に赴任してから、私は彼にどんどん惹かれていっている。恋愛から遠ざかっていた私をも惹きつけた大神君の不思議な魅力…。あのあやめ姉さんが本気で将来を考えていた相手というのもわかる気がする。私自身もこんなに一人の男性に夢中になるのは生まれて初めてだ。

でも、好きだと知られて、もし嫌がられたら…?そう考えるだけで、恋愛音痴な私は弱気になってしまう…。けれど、やっぱり他の女性に言い寄られている大神君を見ると、気が気ではない…。私はクールでデキる女として通っているが、恋愛に関してはひよっこ同然だ。一応、私も小さい頃に初恋は経験済みだが、それは子供の一時的な感情であり、大人の複雑なものとは違う。

女学校時代は先生以外は周りは女ばかりだったし、士官学校に入ってからは学業と訓練に勤しむ毎日で、恋なんてする暇などなかった。だから、私は今まで真剣に恋愛をしたことなんてないし、ちゃんと向き合ったこともない。もちろん、キスもそれ以上の経験もない。この歳になってまだ処女だなんて、恥ずかしくて人には言ったことはないけど…。

「――おやすみなさい、かえでさん」

「お…、おやすみなさい、大神君」


見回りが終わった後、大神君はいつも律義に私に挨拶をしてから就寝する。見回り時に異常がない時がほとんどなので、『おやすみ』だけでいつも済ませてしまうのだが、何か深い意味があるのだろうか…?〜〜もしかして、私の部屋で一緒に寝たい…とか…?

気になって、今日も私は大神君の部屋と自分の部屋とを隔てている壁に耳を当ててみる。私と大神君の部屋は隣同士。だから、人の気配とか小さな音もわかってしまう。

ごそごそ…。きっと、大神君は寝間着に着がえているのだろう。〜〜まさか、この私がこんなストーカーじみたことをしているなんて、思ってもいないだろう。でも、男性経験のない私の隣の部屋で、若くて元気な男の子が寝ているのだ。そういう関係になったとしても、おかしくはない…。

「――大神君…」

火照った顔で自分の部屋のドアを見つめると、自然と呼吸と鼓動が速くなる。皆が寝静まった深夜に大神君が私の部屋にやってくる様子を、私はこうしていつも妄想しているのだ。

『〜〜大神君、駄目よ…!私はあなたの上官なのよ…!?』

『いいじゃありませんか、かえでさん。そんなこと言って、本当は感じてるんでしょう?』

『あぁっ、大神くぅぅぅん…!』


私は想像し、妄想の中で大神君に押し倒されるのと同じタイミングでベッドに寝転がる。……同時に、こんなことをしている自分が惨めになった。こんなことを知られたら、絶対、由里達にからかわれるんでしょうけど…。

「――大神くぅん…、傍に来てよぉ…。私…、あなたが欲しいの…っ」

私は隣の部屋にいる大神君に呼びかけ、寂しさを埋め合わせるように自分で自分の体を慰め始める。もちろん、大神君に体を触られているのを妄想しながらだ。

『――かえで、愛してるよ…』

「駄目ぇ…、大神君、それ以上は…っ!」


愛する大神君に呼び捨てにされて抱かれるのを頭で思い浮かべながら、私はベッドの上で一人で楽しむ。今夜の設定は、涙を流して拒む私に大神君が無理矢理してくるというものだ。そうだ、男の人を受け入れる心の準備がまだできていないという設定にしてみよう。こうして勝手に妄想するだけで、私の体は燃えるように熱くなっていき、自慰行為はエスカレートしていく…!

――その頃、大神君はというと…?

「明日の訓練について聞きたいことがあったんだけど…、かえでさん、もう寝ちゃったかな…?」

寝間着のまま私の部屋のドアの前に立っていた。

「やっぱり、明日にしようかな…?でも、直前になって皆に伝えるのも悪いしな…」

大神君が私の部屋のドアをノックしようとしたその時だった。

「――大神君、愛してる…!もっと…、もっとやってぇぇ…っ!!」

「…え?」


大神君の目がテンになった。かえでが部屋で抱かれている、しかも自分に…!?だが、確かに『大神君』と呼んでいた…。大神は自分だ。しかし、自分は今、ここにいる。――ということは…。

大神君は一瞬のうちに部屋で起きている状況を理解し、頬を赤らめた。

(〜〜う…、嘘だろう…?まさか…、かえでさんに限ってそんな…)

大神君はそっとドアを開け、中を覗いた。

「一郎…、愛してる…!愛してるの…!!」

(〜〜か、かえでさん…!?)


大神君を呼び捨てにして一人エッチに夢中になる私に、大神君は恥ずかしくなりがらも目が離せないようだった。上官がこんなことを…、しかも自分としているところを妄想しながら、思いきり喘いでいる姿を見ることになるなんて、予想もしていなかったのだろう。

「一郎、来て…!もう…我慢できない…っ!!」

「――俺もです、かえでさん…!」

「え…?――!!」


私は妄想でしかいるはずのない大神君の顔が目の前に近づいてきたことに気づき、思わず抜けた声を発した。その直後、大神君は私にキスしてきた。一瞬、わけがわからなかった。何故、彼が部屋にいるのか。そして、何故、私とキスをしているのか…。

「お、大神く…――んむ…っ」

質問する隙も与えず、大神君は夢中で私の唇を貪ってくる。熱でぼんやりする頭で考えて、私はようやく理解した。大神君に毎晩の秘密の儀式を見られてしまったのだと…。私は途端に恥ずかしくなって、彼の腕の中から逃れようとしたが、大神君も興奮しているのか、私の体を強く抱きしめ、さらに唇に夢中で吸いついてくる。

しばらくして、大神君はディープキスを要求してきたが、普通のキスの経験すらない私はどう対処すればいいのかわからず、硬直してしまった。

「――もしかして、キス、初めてですか?」

「〜〜え…、えぇ…」

「そうですか。じゃあ、教えてあげますよ。俺に任せて、楽にしていて下さい」


大神君は微笑むと、再び私に唇を重ねてきた。私と大神君の舌同士が絡み合い、甘美な吐息が漏れていく。初めての濃厚で甘いキスに私は酔いしれ、嬉しさのあまり、涙目で大神君を見つめた。

「お…、大神君…、私――」

だが、いざ見つめ合うと、恥ずかしくなって真っ赤になってしまい、声が震えた。〜〜大神君を想って一人エッチしているところを、よりによって本人に見られてしまった…。しかも、さっきのでキスの経験がないことまでバレてしまったのだ。

「もしかして、毎晩こんなことしてたんですか?言ってくれたら、いつでもこうして抱いてあげたのに…」

「だ、だって、バレるのが嫌だったんですもの…!〜〜その…、私が処女だって…」

「えっ?かえでさん、処女なんですか…!?」

「〜〜やっぱり、おかしいわよね?この歳までお嫁にも行かず、男と付き合ったこともないなんて…。そんな女が偉そうに上官ぶってるんだから…」

「おかしくなんてありませんよ。少し意外でしたけど、慣れている女性より俺は好きだな。ちゃんと真面目にこういうこと考えてるんだなって思うし…。それに今のかえでさん、とても可愛いですし」


大神君に頭をなでられて、私は頬を紅潮させて、目をそらした。『綺麗だ』とはよく言われていたが、『可愛い』なんて言われたのは初めてだったからだ…。

「――私を…抱いてくれる…?」

「え…?」

「私のバージン、あなたに捧げたいの…!今まで言い出せなかったけど、私、大神君のこと、ずっと前から好きだったから…」

「かえでさん…」

「私…、恋愛に関してはほとんど経験がなくて…、だから、あなたに嫌われるのが怖くて、ずっと自分の気持ち、言えないままだった…。でも、今なら素直に言えるわ。遊びでもいい。私のこと、好きになってくれだなんて言わない。迷惑なら、これっきりでも構わない。でも、今だけは…、今晩だけはあなたの女でいさせて…!愛するあなたの手で私を女にしてほしいの…!!」


不思議と、今まで恥ずかしくて言い出せなかったことが、嘘みたいに言葉にできた。大神君は驚いているみたいだったが、すぐに優しく微笑んでくれて、私の額にキスしてくれた。

「参ったな、俺が先に言おうと思ってたのに。――『大好きなかえでさんのバージン、俺が奪ってもいいですか?』って…」

「大神君…。それじゃあ…!」

「俺もあなたのことがずっと前から好きでした。ハハ…、なんだ。両想いだったんですね。もっと早く伝えればよかったな」


私は感極まって嬉し涙を流し、子供みたいに泣きじゃくった。

「ハハ…、何でそこで泣くんですか?」

「ふふっ、だって、すごく嬉しいんですもの。――じゃあ、今から私達はカップル?」

「そういうことになりますね。…なら、キス以上もして大丈夫ですよね?」

「えぇ…。――お願い、して…」


大神君は了解したように優しく微笑むと、私にもう一度キスして、ベッドの上に乗ってきた。ベッドが2人の重みできしむ…。

大神君に掛け布団を奪われ、私の裸体が露わになる。真剣なまなざしで頭の先から爪先まで見つめられ、私は心も体も熱くなっていく。ほんの少しの沈黙にも耐えられなくなり、ベッドのシーツをぎゅっと握りしめた。

「綺麗ですよ、かえでさん。やっぱり、スタイル良いですね。胸も大きいし…」

「あんっ!」


大神君に胸を揉まれ、甘い声が漏れた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。俺もあまり経験ないので、痛くしちゃうかもしれませんが…」

「ふふっ、多少なら大丈夫よ。でも、できるだけ優しくしてね…?」

「はい…!」


私は大神君に抱きしめられ、初めて男の人に体を許した。宣言通り、大神君は私が痛がらないように優しくしてくれる。

大神君が私だけを見て、愛してくれる、夢のような時間。毎晩、ずっと妄想の中だけで描いてきた幸せのひとときを今、現実として過ごしている。

「力を抜いて下さい。じきに良くなりますから…」

「〜〜こ…、怖いわ…」

「安心して下さい。俺がついてますから」


大神君は私と指を絡ませ、緊張しないように優しく口づけしてくれた。そして、ゆっくり私達は一つになった。下腹部に走る痛みに耐えて涙を流す私を気遣い、大神君は甘いキスを続けて、ゆっくり動いてくれる。

「かえで…、綺麗だよ」

「一郎…、愛してる…!これでもう、あなただけのもの…」


今だけは上官と部下という立場を忘れ、ただの男と女として互いを求め、愛し合う。夢に描いていた通り、私は女の初めてを大好きな大神君に捧げることができた。それが何より嬉しくて、幸せな気持ちで心が満たされた。

何度か大神君と一つになるうちに、痛みがうすれてきて、私もだんだん気持ち良くなってきた。それを察知したのか、大神君は様々なテクニックで私を快感の渦へと導いてくれる。私と大神君は、そのまま朝が来るまで何度も深く愛し合った。

「――痛くありませんか?」

「ふふっ、ちょっとね。でも、喜びの方が大きいわ」

「はは、そうですか」


隣で寝転がっている大神君は優しく微笑むと、私の頬をなでてくれた。私が嬉しくなって、寄り添うと、大神君は真剣な顔で見つめてきた。

「今回のことでやっと自分の気持ちがわかりました。俺は本気でかえでさんのことが好きです。俺と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」

「ふふっ、私なんかでいいの?」

「もちろんですよ。俺達、相性良いみたいですから」

「ふふっ、もう…!でも、確かにそうみたいね。もちろん、OKよ!」

「よかった…!」


見つめ合った私と大神君は指を絡ませ合い、またくちづけを交わして、寄り添い合った。

「何だか幸せすぎて、夢を見ているみたい…。ふふっ、夢オチだったらどうしよう?」

「はは、じゃあ試してみましょうか――?」

「――なら、その役割は」

「私達にやらせて頂けません?」


突如、ドア付近で異常なまでの殺気がした。さくら達花組8人が鬼の形相で、それぞれの武器を持って仁王立ちしていたのである…!私と大神君は上体を起こし、とっさに裸をシーツで隠した。

「〜〜あ、あなた達…!?」

「ふっふっふ、お二人は〜ん、随分お楽しみになりはったようですな〜?」

「〜〜一晩中、私達の部屋まで丸聞こえでしたよ?お陰で、こちらは寝不足です」

「〜〜いぃっ!?そ、そうなのかい…?」

「いや〜、最初は隊長が変なテレビ番組見てるのかと思って、からかってやろうと覗いてみたらよ…。へへっ、まさかかえでさんと本当にしてたなんて思わなくってさ…」

「〜〜見損ないましたわよ、少尉!?夜中に女性の部屋に忍び込んで、そんな…ふ…っ、不潔な行為をしたなんて…っ!!」

「〜〜みっ、皆、何でそんなに怒ってるんだよ…!?俺はちゃんとかえでさんと真剣な交際を約束した上で、そういう関係になったんであって――」

「〜〜ひどいよ、かえでお姉ちゃん…!!お兄ちゃんはアイリスの恋人なのにぃ〜…!!うわあああ〜んっ!!」

「〜〜ア、アイリス…、こういうことはあなた、よくわからないでしょう?」

「だって、さくらが教えてくれたんだもん!お兄ちゃんとかえでお姉ちゃんがやったことは、恋人同士しかしないことだって…!!」

「……別に、私は大神さんの彼女でも何でもありませんから、うるさくは言いたくありませんけど…。〜〜でも、お姉さんがいなくなったすぐ後にそっくりな妹さんに手を出すなんて、不誠実だと思いますっ!!」

「〜〜そ、それは…。でも、俺は本気でかえでさんを――」

「言い訳はナッシング!!日本のオトコ、やっぱり最低デ〜ス!!」

「……死、あるのみ」

「〜〜うわああ〜っ!!ちょっと待った〜っ!!」

「〜〜み、皆、やめなさい…!!」

「〜〜問答無用〜っ!!」「〜〜問答無用〜っ!!」「〜〜問答無用〜っ!!」「〜〜問答無用〜っ!!」「〜〜問答無用〜っ!!」「〜〜問答無用〜っ!!」「〜〜問答無用〜っ!!」「〜〜問答無用〜っ!!」


……その後は、想像がつくでしょ?私の部屋は一瞬にして戦場と化したわ…。でも、その後、ちゃんと話し合った結果、最終的に皆、私と大神君をカップルとして認めてくれたのよ。〜〜まぁ、半日はかかったけどね…。

「〜〜はぁ…、えらい目に遭いましたね…」

「米田司令が間に入って下さって助かったわ…。ふふっ、でも、ちょっと良い気分!これからは私だけが大神君を独占できるのね〜!」


さくら達に半殺しにされて傷だらけの大神君の頬に、私は絆創膏を貼ってあげた。その私の手にキスして、安堵したように大神君は微笑んでくれる。

「俺も嬉しいです。こんなに魅力的なかえでさんを独占できるだなんて」

「ふふっ、もう、お世辞が上手ね。男女交際なんてしたことないからよくわからないけど、今まで通り、自然のままでいればいいのよね?」

「俺もそう思います。見栄を張って自分をよく見せようとする必要なんてありませんよ。そういう付き合い方だと、結婚してからが大変ですしね」


『結婚』と聞いて、私は昨日の芳子の話を思い出した。結婚して、子供を生んで、温かい家庭を築く…。それだけが女の幸せじゃないことはわかるけど、芳子はとても幸せそうだった。私も芳子みたいに幸せになれる日が近いうちに来るかもしれないと思うと、思わず顔がにやけてしまう。

私との結婚を本気で考えてくれている大神君…、その気持ちがとても嬉しかった。

「ん…?どうかしましたか?」

「ふふっ、内緒!」


私は笑顔で大神君に寄り添った。黒鬼会との戦いもあるので、浮かれてばかりはいられない。でも、今はもう少しこのままでいさせてほしい…。

「――ねぇ、大神君、今夜も…」

――今夜も私を抱いて。…な〜んて、今では私の方から誘うことができるようにまでなった。恋愛下手だった私も、少しは女として成長できているのかしら?

『勝ち組』って仕事で成功を収めた人?それとも、結婚して幸せな家庭を築けた人?どういう意味かも、その基準さえもよくわからないけど、幸せな人生を勝ち取った人のことを指すのなら、今の私は『勝ち組』だと思う。これからの人生、恋も仕事も大神君がいてくれたら、何でもクリアーできそうな気がする。

恋愛に不器用で、縁のなかった私に神様がくれた初めての恋の魔法。これからもこの恋を一緒に育てていきましょう。だから大神君、不器用な私を今夜も優しく抱きしめてね!

終わり


あとがき

ダイゴ様、おかちゃん様、藤枝の親分様、そして大学時代お世話になったreicoco先輩よりお寄せ頂いたリクエストから作った短編小説です!

『かえでさんがバージンを大神さんに捧げる話を作ってほしい』というリクエストでしたが、いかがでしたでしょうか?

このシチュエーションはサイト設立直後からリクエストがたくさん寄せられていたので、下手なものはアップできないなと推敲を重ねながらようやく完成させたものなのですが…、お気に召して頂けましたでしょうか?

これだけ読むと、大神さんが遊び人(笑)みたいな印象を受けると思いますが、大神さんはあやめさんに手ほどきを受けて童貞を喪失し、あやめ姉さんから授かったテクニックを妹のかえでさんに施してあげたという設定で読んで頂けると、このサイトの主旨に繋がるかなと思います。

初めてで照れながらも、愛してやまない大神君を信頼して、身を委ねるかえでさん…。私もこういうシチュエーションってアリだなと思います!

大神さんをぐいぐい引っ張っていくかえでさんもいいんですが、たまにはこういう少女のような、可愛らしいかえでさんもいいですよね!私が書くと、ちょっと変態気味になってしまいますケド…(汗)

仕事ができても恋愛は奥手という、現代のキャリアウーマンとちょっと重ねてみました。大正時代は、女性達が社会進出に憧れて、行動を起こし始めた時代としても知られていますしね。

それにしても、レディースコミック並みのこんなに濃いラブシーンを書いたのは初めてです(笑)自分で書いてて照れまくりでした…!

今、この『初めての夜』をあやめさん編で制作中ですので(こちらのバージョンもたくさんリクエストを頂いております)、楽しみに待っていて下さいね!

武道館ライブ記念のスペシャル小説も制作中ですので、そちらもご期待下さい!

それから、お待たせしております、大神さんとあやめさんの子供の発表は、あやめ姉さんの誕生日記念短編小説にて掲載する予定ですので、7月31日までもうしばらくお待ち下さいね!


次の短編へ

かえでの部屋へ