「50年目のI love you」
「――これにて、『弁天小僧』昼の部の公演を終了致します。落し物・お忘れ物のないよう、お気をつけてお帰り下さいませ」
公演が終わり、客席から出てきたお客様を混雑のないように私達スタッフは誘導する。
今回の演目は歌舞伎だけあって、いつもよりお年寄りのお客様が多いように思える。なので、特に階段や段差等に気を遣ってあげなければ…。
「あんたが劇場の支配人かい?」
そこへ、山高帽を被って洋装したおじいさんが大神君に話しかけてきた。
「はい。まだ見習いの身ですが…」
「いやぁ、今回の芝居も実に見事だった!毎回、家内と一緒に楽しく観させてもらってるよ」
「フフ、花組さんの舞台を観るのが私達の生き甲斐となっておりますのよ」
一緒に来ているおばあさんも帽子にワンピースというエレガントないでたちだ。ふふっ、いかにも銀座らしいモダンな老夫婦だわ。
「花組の皆さんにもよろしく伝えておいてくれ。これからも期待しているよ」
「ありがとうございます…!またのお越しをお待ちしております!」
大神君と私がお辞儀すると、おじいさんも帽子をとって会釈し、おばあさんと仲良く腕を組んで歩いていった。
「ふふっ、素敵なご夫婦ね」
「そうですね。夫婦揃って応援して下さっているなんて、嬉しいですよね」
「えぇ、仲が良さそうで羨ましいわ。私達も将来、あんな夫婦になれたらいいわね」
「はは、そうですね」
ここでちょっと想像してみた。50年後の私と大神君。
おじいさんとおばあさんになっても、まだ帝撃の司令見習い(いい加減、『見習い』は卒業しといてほしいけど)と副司令でいるのかしら?花組の皆はどうしてるかしら?劇場の方はまだ続いてるのかしら…?
想像はまだつかないけど、きっと今とあまり変わらない生活なんだと思う。一緒に劇場の仕事をしたり、協力して敵を殲滅したり、『愛してる』って囁きながら愛を確かめ合ったり…。――できれば、結婚して子供が何人かいれば、言うことないんだけどね…。
「――皆さ〜ん、帝国歌劇団の皆様がお見えになりましたよ〜!」
「青山養老院の皆はん、こんにちは〜!」
「お久し振りです…!」
翌日、私と大神君、そして花組の皆で青山養老院を訪問した。ここは帝都にある老人ホームで、前に『あぁ無情』の朗読劇をやったことがある。
今日は敬老の日ということで、以前の訪問で仲良くなったお年寄りの方々へのご挨拶も含めて、花組ミニライブショウをしにやってきたのだ。
間近で見る帝国歌劇団のライブに皆さん、楽しそうに手拍子して下さっている。ふふっ、花組ってお年寄りのファンも結構多いのよね。喜んでいる皆さんを見ると、私と大神君も嬉しくなってくる。
「今日は来てくれてありがとうねぇ」
「いつも応援しとるぞ〜!」
「ありがとうございます…!これからもお元気でいて下さいね」
さくら達は目の高さに合わせて屈み、お年寄り一人一人と握手して会話する。そして…、
「一郎様〜、あんた、死んだじいさんの若い頃にそっくりだよぉ〜」
「ほ〜んと、爽やかで惚れ惚れするねぇ」
大神君はおばあさん達の黄色い声援を浴びながら、囲まれている。
どうやら、大神君の魅力に惹かれる女性は世代を超えて多いらしい。ふふっ、まぁ、さすがにこの状況にはやきもちを妬かないけどね。
「これ、少ないですけど、よかったら…」
「まぁ…、いつもありがとうございます…!」
今日だけでなく、朗読劇をやらせてもらってから、よくこの青山養老院を大神君と2人で訪問している。他にも帝都にある孤児院や病院にも同じように、困っている人達の力になれればと少しずつではあるが、劇場の売り上げを寄付してまわっているのだ。
『魔は人の心にまず住み着く』…。大神司令見習い君は街の平和だけでなく、人々の生活や心の平穏についてもちゃんと考えているようだ。
私はそんな大神君のサポート、そしてパートナーとして一緒についてまわれていることを誇りに思う。
「これからカラオケ大会があるんですよ。よかったら、見ていきませんか?」
「おっ、いいねぇ〜、カラオケ!」
「アイリス達も参加しようよ〜!」
「ハハ…、そうだな」
私達が談話室に移動すると、すでに蒸気テレビジョンと蒸気カラオケマシーンに繋いだマイクを持って、何人かのお年寄りが歌っていた。しかも、花組の歌をである。
「皆さん、花組さんの歌が大好きで…。よくこうして歌ってるんですよ」
「そうなんだ…!何だか嬉しいね」
「――おぉっ、花組さんが来てくれたぞ〜!」
「わしと一緒に歌っておくれよ!」
「何言っとる!?わしが先じゃぞ!?」
「まぁ、ホホホ…!トップスタァであるこの私とデュエットできるだなんて、運の良いご老人達ですわ〜!まぁ、今回は特別に――」
「ハ〜イ!私が一緒に歌ってあげるデ〜ス!!」
「〜〜ちょいと、織姫さん!?私の出番を横取りする気ですのっ!?」
花組の皆も一緒になって楽しんでいるようだ。たまにはこういう出張ライブもいいものよね。
「皆さん、本当に楽しそう。今度、劇場に招待してあげましょうよ」
「そうですね。ちょうど今の公演は歌舞伎ですし――」
「一郎様〜、私らと一緒に歌っておくれよ〜!」
「ふふっ、ご指名みたいよ?」
「あ…ははは、じゃあ行ってきますね」
大神君はファンのおばあさん達に囲まれながら、一緒に歌い始めた。
「ちょいとお姉さん、あんたも歌ったらどうだい?」
「あんたも舞台に立ったことあるんだろ?その歌声を聞いてみたいねぇ」
「え…?そ、そうですか?じゃあ、大神君と一緒に『愉快な夜』でも…!」
「よっ!ご両人!!」
私は大神君とマイクを持って、デュエットし始めた。
どうやら私は、あやめ姉さんより単純らしく、おだてられるとすぐノってしまう性格のようだ。皆さんが喜んで下さるのが嬉しくて、ついハメを外してしまう。
私達は大きな拍手を受け、次に歌うさくらとお年寄り達にマイクを渡して座った。
「はぁ〜、喉、痛〜い…!」
「ハハ…、こういうイベントの時は花組を連れて来て正解ですね」
「そうね。――あら?あの人…」
私は隅っこの方で一人きりでお茶を飲んでいるおばあさんを見つけた。
「こんにちは。トメさん…ですよね?皆さんと一緒に歌わないんですか?」
「…あんたらには関係ないだろ?放っといてくれ」
そう言うと、トメさんは車椅子を自分で動かし、談話室を出ていってしまった。
「やれやれ、トメばあさんは因業だからな…」
「気にしなさんな。あのばあさんは誰にでもあんな口をきくんだよ。ここに入れられてから、ず〜っとあんな調子さ」
「はぁ…。そうなんですか…」
「寂しいんじゃないのかねぇ?息子夫婦に厄介者扱いされて、無理矢理ここに押し込まれてさ…」
「そうだねぇ。それに、旦那もあんな状態じゃあねぇ…」
「旦那さんもここにいらっしゃるんですか?」
「あぁ、ヤスケさんといってね、この施設の個室にいるよ。けど、ボケがひどくなっちまったからねぇ…」
「可哀相にねぇ。最近ではトメさんのこともわかんなくなっちまったみたいだしさぁ…。まぁ、あのばあさんが因業になるのもわからなくもないさ」
私と大神君は顔を見合わせた。
さっきのトメさんの顔…、怒っていてもどこか寂し気に見えたのはそのせいだったのか…。
私達はトメさんの旦那さんに会う為、彼の個室を訪れた。認知症がひどいらしく、一日のほとんどを個室で過ごしているらしい。
「お〜い、飯はまだか〜?」
「何言ってんだい!さっき食べたばっかりだろ?」
すでにそこには、先程のトメさんがいた。
ヤスケさんは介護士の世話になりながら、ベッドの上で懸命に言葉を発し続けている。だが、そのほとんどは意味不明で、聞き取ることができない…。
「ヤスケさん、またお夕飯の時間になったら、食べましょうね〜?」
「あんた、誰だ〜?お〜い、母ちゃ〜ん、知らない人がいるよ〜」
「フン、ボケジジイ!お前さんの母親なんてとっくに死んでるだろ?」
トメさんは毒を吐くと、そのまま黙って、ベッドの上でわけのわからないことを言い続けるヤスケさんと彼を世話する介護士を見つめ続けた。
想像以上にヤスケさんの症状が重いことに、私と大神君も言葉を失う…。そんな私達に気づいて、トメさんはまた疎ましそうに睨んできた。
「……またあんた達かい。しつこいねぇ…」
「そんな言い方したらダメでしょ?トメさんも少しはお友達を作ったらどう?そしたら、ここでの生活も楽しくなるわよ?」
「フン、私の人生なんだからいいだろ?余計な口出しせんどくれ!」
トメさんはそっぽを向くと、車椅子を動かして廊下に出ていった。
「お〜い、飯はまだか〜?」
「だから、ご飯はもう終わったの〜!」
……介護士というのも大変な職業である。
「すみませんねぇ…。せっかく来て頂いたのに…」
「いえ…、ヤスケさんはここに来てからずっとこんな感じなんですか?」
「最初のうちはそうでもなかったんですけどね、ここに入居するようになってから、だんだん…。お仕事を引退されて、暇な時間が増えたことも原因だと思うんですけど…」
「そうですか…」
「トメさんのこと、嫌わないであげて下さいね?ちょっと意地っ張りで、寂しがり屋なだけですから」
「えぇ、わかってますわ」
誰とも打ち解けようとせず、なんだかんだ言いながらもずっとヤスケさんの傍に居続けるトメさん。息子夫婦に拒絶され、もう家族はヤスケさんしかいないのだろう。認知症になる前のヤスケさんがいつか戻ってくると信じて、待っているのかもしれない。
「トメさん…、可哀相でしたね…」
帰りのバスの中、大神君が呟いた。
好きな人が自分のことを誰だかわからなくなってしまう…。自分との思い出も全部忘れてしまう…。もし、将来的に大神君がヤスケさんと同じようになってしまったら…?〜〜私だったら、耐えられないかもしれない…。
「大神君…」
バスの中で私は大神君の手を握り、寄り添った。今、この時間を思い出を心と体に刻んでおきたかった。年を取ってから、『もっとああしておけばよかった』と後悔しないよう、大神君との一分・一秒を大切にしておきたいと心から思ったのだ。
同時に、トメさんとヤスケさんのことも考えた。何か私にできることはないだろうか…?お節介とは思ったが、放っておくことなどできなかった。ふふっ、こういうところは、あやめ姉さんによく似ているようである。
『花組の舞台を観るのが生き甲斐』と言ってくれたあの洒落た老夫婦…。ああいうタイプの高齢者夫婦を見たばかりだから、余計にトメさんが哀れに思えたのかもしれない。
翌日、この日はちょうど休演日だったので、私は一人でまた青山養老院を訪れた。
「こんにちは、トメさん」
談話室にいたトメさんに話しかけると、彼女は見ていた写真をとっさに隠した。古びた写真…。だけど、そこに写っている兵隊と和服の男女はとても幸せそうだ。
「……またあんたかい」
「その写真に写ってるの、ヤスケさんとあなたですよね?」
「……フン、あんたには関係ないだろ?」
「ふふっ、確かに。でも、良いお写真だなと思って」
「…今日はあの兄さんは一緒じゃないのかい?」
「えぇ。あなたにお会いしたくて、私一人で勝手に来ただけですから」
「フン、変わった女だねぇ。私と話して何が楽しいっていうんだい?」
「あら、人生経験豊富な方のお話を聞くだけでも、いい勉強になりますわ」
「…それで、何が聞きたいんだい?終わったら、とっとと帰っとくれよ?」
「ふふっ、わかってます。――うーん、そうね…。トメさんとヤスケさんみたいに夫婦円満に歳を重ねていける秘訣ってあるんですか?」
「フン、円満だって?馬鹿言ってるんじゃないよ。私みたいになったら、あんたが泣くのがオチだよ」
「でも、ヤスケさんを見守っていた時のトメさんの顔、とても優しい表情をされているように見えましたけど?」
トメさんは私から目をそむけると、少し黙って重い口を開き始めた。
「……あの人とは見合い結婚だったんだ。私らが若い頃なんて、今と違って自由な風潮じゃなかったからねぇ。私は大して美人でもないし、こんな性格だ。だから、私の結婚が決まった時、両親は大喜びだったよ」
「それから今までずっとヤスケさんと一緒に過ごされてきたんですね?」
「あの人も変わってたからねぇ。教師やってる良いご身分だったっていうのに、わざわざ私みたいな女を選んでさ…」
「そうですか…。やっぱり、ご主人は優しかったんですか?」
「フフ、あぁ、馬鹿がつくほどお人好しでさ。そして、頭も良かった。本当、私にはもったいない人だよ…。でも、幸せだったのは昔だけさ。面倒を見てくれると思っていた息子夫婦に邪険にされて、よほどショックだったんだろうねぇ…。あんなにしっかりしていた人がボケるなんて、思ってもみなかったよ…」
「…息子さんは会いにいらっしゃらないんですか?」
「そんな律義に何度も来るぐらいなら、最初からこんなとこに入れるもんか。まったく、子供なんて産まない方が身の為だよ。親なんて歳を取れば惨めなだけだからねぇ…。結婚だって若いうちは楽しいかもしれんが、だんだん歳をとるにつれて、苦痛になる一方だしねぇ」
「あら、私にはそうは見えませんけど?」
「フフ…、お世辞を言ったって、何も出ないよ?ま、あんたも結婚してみればわかるさ。――昨日、一緒に来ていた兄さん、あんたの男かい?」
「えぇ、まぁ…」
「フフ、そうかい。結婚はまだなのかい?」
「いずれはしたいと思っています。将来を一緒に生きていく人は、彼以外考えられませんから」
「将来…か。ハン、若いっていうのはいいねぇ、未来があって。私も今の世の中で青春時代を過ごしていたら、また違った人生を過ごしていたかもしれないね…」
「でも、ヤスケさんと結婚して、後悔はしていないのでしょう?」
「フフ、私もあんたと同じさ。あの人以外が旦那になったとこなんて考えたこともないよ」
私と話しているうちに、トメさんはいつの間にか優しい顔になっていた。どうやら、好きな男の話をする時に幸せな気分になるのは、年齢なんて関係ないらしい。
「ハハ、嫌だねぇ。こんなに人と喋ったのは何年振りだろう…。確かじいさんがボケる前は、こんな風によく2人で話をしたっけねぇ…」
「ふふっ、トメさんみたいにいつまでも一人の人を想い続けるって、素敵なことだと思いますよ?」
「フッ、当の本人はもうわかってないようだけどね…。――どれ、そろそろ茶の時間だ…」
トメさんが廊下に出ようとしたので、私が車椅子を押してあげた。
「…本当にお節介だねぇ」
「ふふっ、よく言われます。――ヤスケさんのお部屋でよろしいんですよね?」
私はトメさんの車椅子を押して、一緒にヤスケさんの個室に入った。そこにはヤスケさんと世話をする介護士、そして…。
「大神君…!」
「かえでさん…!いらしてたんですか?」
私は大神君のワイシャツを引っ張り、小声で話す。
「駄目じゃないの、司令か副司令のどちらかは本部に残ってなくちゃ…!」
「すみません。ヤスケさん達のことがどうしても気になって…」
大神君も私と同じこと考えてたんだ…。ふふっ、注意しているはずなのに、途中で顔がにやけてしまった。
「今日はヤスケさん、とってもゴキゲンなんですよ?」
「トメはどこだ?俺は腹が減ったんだ」
「トメさんはこの人なの。ここにいるでしょ?」
「トメ〜、どこ行った〜、トメ〜?飯の時間じゃぞ〜?」
「ヤスケさん、ご飯はもう食べたでしょ〜?」
「〜〜ヤスケさん、トメさんと結婚した頃の記憶しかないみたいなんですよ。だから、自分もトメさんもまだ若者と思っているらしくて…」
だから、目の前にいるトメさんをトメさんだとわからない…。
ヤスケさんはよほどその頃の思い出が心に残っているのか、嬉しそうに何回も何回も同じ話を繰り返し私達に教えてくれる。
そんなヤスケさんをトメさんは複雑そうに見つめている…。
「……ったく…、このボケジジイ。〜〜どうしてこんなになっちまったんだろうねぇ…?」
トメさんは目に涙を浮かべ、ヤスケさんの手をぎゅっと握ってさすってやる。
「よく覚えてるねぇ、そんな昔のこと…。まぁ、あんたは頭だけは良い人だったからね…」
ヤスケさんは黙り、トメさんを不思議そうに見つめ始めた。
「私もあんたと過ごしてこれて、本当は楽しかったんだよ?口の悪い私に怒ることもなく、あんたはいつも馬鹿みたいに笑ってたねぇ。フフ、あんたが旦那でなきゃ、私はとっくに家を出ていたかもしれないよ…」
トメさんの素直な告白に、ヤスケさんはただきょとんとしている。
トメさんの切ない気持ちを考えると、私も胸が苦しくなってくる…。
「こんなこと言ってもわからないかもしれないけどさ、一応礼は言っておくよ。――ありがとうね、あんた…」
トメさんが涙腺と口元を緩ませて、ヤスケさんの頭をわしゃわしゃなでたその時だった。
「――トメ…、飯はまだか…?」
「え…?」
介護士も驚いた様子で、ヤスケさんの顔を覗き込む。
「ヤスケさん…、トメさんのこと、わかるの!?」
「わかるも何もこいつは俺の嫁さんだ。久し振りにお前の里芋の煮っころがしが食いたいもんだ。わはははは…!」
と、ヤスケさんは明るく笑い飛ばした。そこにいるヤスケさんは認知症になる前と同じヤスケさんだった。
「〜〜フン、馬鹿ジジイめが…。夕飯になるまで待っとくれ!」
悪態をつくトメさんの目には涙が溢れていた。
素直になれなかったトメさんの感謝の想いがヤスケさんに伝わった直後に起きた小さな奇跡だった。
その日、トメさんは久し振りにヤスケさんとまともな話ができた。今の2人は、劇場に来てくれたあの洒落た老夫婦に勝るとも劣らぬ素敵な夫婦に見える。
「――俺達もあんな風に歳を重ねていきたいですね」
「えぇ、そうね。私達もいつか…」
――いつか結婚して、老後もあんな風に毎日笑い合えたらいいな…。
幸せそうなトメさんとヤスケさんを見ながら、私と大神君は肩を寄せ合った。
1ヶ月後、私と大神君は花組を連れて、また青山養老院を訪れた。熱いラブコールに応え、再び花組ミニライブショウを開催することになったのだ。
花組の華やかな歌と踊りにお年寄りの皆さんは喜んでくれている。後ろの方では、ボーッと眺めているヤスケさんの隣で見てくれているトメさんの姿があった。トメさんとヤスケさん、観てくれている2人の手はしっかり握られていた。
ヤスケさんがトメさんのことをはっきり思い出せたのは、今のところこの前の1回だけらしい。それでも、トメさんの顔は輝いて見えた。ヤスケさんは頭の方はボケてしまっても、心の奥底ではトメさんのことを想い続けていたのだ。だからこそ、この前の奇跡は起きたのだから…。トメさんの方はあれから他の人に対して、少しだけ心を開くようになったという。ふふっ、私のお節介も役に立ったでしょ?
私は花組のライブを見ているお年寄り達を見渡した。仲良く一緒に施設に入った夫婦、死別してしまった夫婦、若いうちに離婚してしまった夫婦、入居後に仲良くなって、ゴールインした夫婦…。この青山養老院だけでも、色々な夫婦がいると思う。
大神君と知り合って付き合い始めてから、もうすぐ3年になる。そろそろ結婚してもいいかなって最近、思うようになってきた。トメさんとヤスケさんのように、私達も50年経った後も、変わらずに愛し合っていたいな。
夫婦の形は人それぞれ。けど大神君、50年後も、そのずっと先も私はこれからもあなたに『I love you』って言い続けるわ。1年1年歳を重ねてしわを増やしながら、この愛を深めていく…。とても素敵なことだと思わない?
50年目のI love you、きっと私達なら変わらずに言い合える。
大神君、もしあなたが私のことをわからなくなってしまっても、先に天国へ逝ってしまっても、私のあなたに対する想いは決して変わらないって胸を張って言えるわ。だって、あなたと一緒に作ってきた思い出は永遠に私の心の中に残るんですもの。その思い出を心に刻んで、永遠にあなたを忘れないようにするわ。
その為にも、これからもっともっと素敵な思い出を作っていきましょう。いつか年を取って、『そんなこともあったね』って縁側でお茶を飲みながら笑い合う、そんな日が来るまで…。
終わり
あとがき
花花様よりお寄せ頂いたリクエストを基に作ってみました!
『歌謡ショウネタで作ってほしい』ということだったので、『笑え!花組』より青山養老院を題材にしたハートウォーミング・ストーリーを書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか?
劇中や幕間でのタキさんとウメさんのコント、個人的に大好きです(笑)
他にも歌謡ショウ関連では『根来幻夜斎を登場させてほしい』というリクエストもいくつか頂いているので、今度はそれをテーマにまた短編小説を作ってみたいと思います!
さて、今回はヤスケとトメというオリジナルキャラクターを登場させてみました。ちょっとでも感動して下さっていると、嬉しいです!
50年以上経った帝撃で大神さんとかえでさんは果たしてどうしているんでしょうかね?きっと、結婚して子供達に帝撃を任せて、自分達は隠居しながら楽しい老後を過ごしているんじゃないかな〜と私は勝手に想像しています。
今度、そのネタでも短編を書いてみようかな?さくら達それぞれの未来も気になる所ですね!
花花様、リクエストの方、どうもありがとうございました!そして、いつも励ましメールをお寄せ頂き、ありがとうございます!毎回楽しく読ませて頂いております!また機会がありましたら、スカイプしましょうね!
他の皆様もいつも当サイトへのたくさんの応援メールや感想、リクエストメール、本当にありがとうございます!
特に大塚あり様、くりぃむろまん様からは大神さんとあやめ・かえで姉妹の素晴らしいイラストを頂きました!どうもありがとうございます!
プリントアウトして、額に入れて部屋に飾ってますよ〜!
これからもリクエストにどんどんお応えしていくつもりなので、もうしばらくお待ち下さいませね!
長編小説の方も並行して書いておりますので、楽しみに待っていて下さい!
次の短編へ
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