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「天使のイタズラ」



「――では、3時に作戦指令室に集合ということでよろしいですか?」

「あぁ、そう伝えてくれ」


米田司令から受けた伝令を私は忘れないように手帳にメモをする。

「……もう2年か…。早ぇもんだぜ…」

そう米田司令は呟くと、目を細めながら写真立てを手に取った。姉さん達対降魔部隊の4人が映った写真だ…。

「かえで、お前さんは姉さんの後を継いで、よくやってくれてるよ。これでも感謝してるんだぜ?」

「いえ…、私なんか姉さんと比べたらまだまだですわ…」

「ハハ…、謙虚なこと言いやがって。だが、黒鬼会も無事に壊滅できたしな。この調子でこれからも頼むぜ、副司令さんよ」

「えぇ、もちろんです…!――では…」


私は微笑んで敬礼すると、静かに支配人室を後にした。

姉さんの遺志を継いで、帝撃に来た私…。戦力的にも精神的にも姉さんは花組の大きな支えだった。だから、姉さんの抜けた穴はかなり大きいはずだ…。私はちゃんと姉さんの代わりを務められているんだろうか…?

『――大丈夫よ。あなたはよく頑張ってるわ』

突然、近くで姉さんの声が聞こえた…。私は辺りを見回したが、案の定姉の姿はない。…当たり前である。

私は大して気にせずに化粧室に入り、洗面台でメイクを直し始めた。

『――アイシャドゥはパープルより、グリーンの方が似合うわよ?』

……また姉さんの声がした。〜〜ありえない…。

私は自分の疲労が想像以上に蓄積していたことに苦笑し、顔を上げた。その直後、洗面台の鏡に映っているものに目を丸くした。私の隣で大天使・ミカエルが…、姉さんが微笑んでいるのだ…!

私は目をこすり、再度鏡を見つめた。……姉さんの姿はない。やっぱり気のせいか…。〜〜やだわ、幻聴だけじゃなくて、幻覚まで見るなんて…。

私は大きくため息をついて、フラフラになりながら化粧室を出た。ここのところ公演の準備と報告書書きで忙しかったし、少し休もう…。

その時、向こうから廊下を歩いてきた大神君が私に話しかけてきた。

「どうかしたんですか、元気がありませんけど…?」

「〜〜う、ううん、何でもないの…。――あ、そうだわ。3時から作戦指令室で会議をするから、皆に知らせといて頂戴」

「3時からですね?わかりました」

『――ふふっ、大神君、会いたかった〜!』


凛々しく敬礼した大神君を見つけると、ミカエルの姿をした姉さんはいきなり彼に抱きついた。そのありえない光景に私は再び仰天する。

「〜〜ね…っ、ねねねね姉さん…っ!?」

「え…?」

「〜〜そ、そこに…、あ…、あやめ姉さんが…!!」

「あやめさん…ですか?」


大神君は私の指さす方を見たが、誰もいず、首傾げている。どうやら、彼には姉さんの姿が見えていないらしい…。それでも、あやめ姉さんはお構いなしにニコニコして、大神君の頭をなで続けている。

〜〜ま、まさか本当に大天使・ミカエルが下界に降りてきてるの…?

それとも、やっぱり幻覚…!?私、心が病んできちゃったのかしら…?

「昼食、まだですよね?よかったら一緒にどうですか?」

「そ、そうね…」

「よかった…!食堂で食べますか?それとも、外に行きますか?」

「しょ、食堂でいいんじゃない?今日のオススメは焼肉定食って書いてあったし…」


何も知らずに、大神君は私と並んで歩き出す。そして、姉さんは大神君にピッタリくっついたまま、離れようとしない…。

まさか姉さん、天使の仕事放棄して、大神君に会いに来ちゃったのかしら…?もう二度と人間の前に姿は見せないとか言ってたくせに…。

私が一人悩んでいると、マリアが私達に近づいてきた。

「隊長、かえでさん、ここでしたか。午後の訓練についてなのですが…」

「あぁ。紅蘭が新しい訓練機を開発してくれたみたいだね――」


どうやら、マリアも姉さんの存在に気づいてないみたいだ…。

もしかして、私にしか見えないのかしら…?何で?姉妹だから…!?

「――いただきます!」

マリアとの話を終え、大神君と私は食堂で同じ焼肉定食を食べ始めた。

「うん…!やっぱり焼き肉はスタミナがつきますよね」

大神君が私の目を見て話している間に、姉さんは指をくるくる回して大神君の湯呑みを浮かし、急須でお茶を淹れている。〜〜これって普通の人から見たら、急須がひとりでに動いているように見えないかしら…?それって、超常現象じゃないのよ…っ!!

「あ、飲み物忘れてた…。――水とお茶、どっちがいいですか?」

「お、お茶でいいわ…」


大神君が飲み物の話題に触れると、姉さんはすぐに大神君の湯呑みを彼の席に置いた。

「あれ…?もう淹れて下さってたんですね。ありがとうございます」

「え?〜〜えーと…」


〜〜返答に困るわ…。こういう時って何て言えばいいのかしら…?

正直にミカエルである姉さんが(大神君の分だけ)お茶を淹れてくれたって言ったら、信じてくれるかしら…?

『ふふっ、大神君…!』

姉さんは嬉しそうに、お姫様抱っこの要領で大神君の首に手を回し、彼の膝の上に座る。翼が生えてるし、実体がないから重さは感じないんだろうけど、普通から見たら、食事の邪魔してるようにしか見えないわね…。

「かえでさん…?さっきからどうしたんですか、ボーッとして…?」

「〜〜う、ううん…、別に何でもないのよ…?」


姉さんは大神君の気が自分より私の方に向いているのが気に入らないのか(大神君には見えてないんだから、当然である)、くるっと指を回した。

その直後、私の座っている椅子がガタッと傾いたので、私は勢いよく尻餅をついた。そして、湯呑に入ったお茶を頭から見事に被った…!

「〜〜あっつ〜いっ!!」

「だ、大丈夫ですか…!?」


大神君はお茶でびしょびしょになった私の髪と服をハンカチで拭ってくれる。

〜〜くすくす笑っている姉さんが腹が立つ…。天使だし、姿が見えないから何でもできるってわけね…。私はむすっとしながら、立ち上がる。

「〜〜ちょっと着替えてくるわね…」

部屋に戻って臨戦態勢を整えようとした私はイライラしながら食堂から立ち去ろうとしたが、姉さんのイタズラはまだ終わってはいなかった。

「〜〜きゃあああっ!?」

一瞬、ふわっと足が持ち上がったかと思うと、そのまま私は派手に仰向けに転んだ。正確に言えば、姉さんに転ばされたのだ。

「か、かえでさん…!?大丈夫ですか、すごい音しましたけど…?」

「〜〜いったぁ〜…」


腰をさする私を大神君は気遣いながら手を差し伸べ、ゆっくり立たせてくれた。私はキッとあやめ姉さんを睨む。だが、姉さんは大神君に抱きついたまま反省しようとしない…。私は遂に堪忍袋の緒が切れた…!

「〜〜いい加減にしなさいよね!?一体、何が目的なのよ…っ!?」

しーん…。大神君だけでなく、食堂にいた椿達もあんぐりと私を見つめてくる…。やはり、椿達にも姉さんの姿は見えていないらしい。〜〜まずいわ…。これじゃあ、私が頭おかしいみたいじゃない…!

「か、かえでさん…?あの…?」

大神君もわけがわからないといった感じで首を傾げている。

『ふふふっ、見事な転びっぷりだったわよ』

姉さんはくすくす笑いながら、私の頭をなでてくる…。〜〜完全に私をからかっている…!

私は怒り心頭のまま食堂を出て、自分の部屋に駆け込んだ。

「〜〜何なのよ、もう…」

だが、あれだけの超常現象が実際に起きているということは、どうやら姉さんの姿は幻覚ではないらしい…。でも、急にどうして…?やっぱり、大神君が恋しくなって、会いに来たんだろうか…?

そんなことを考えながら、私は濡れた服を脱ぎ、別の服を探そうとクローゼットを開けた。すると、そこについていた鏡にまた姉さんが現れた。

「〜〜出たわね?」

『ふふっ、ごめんなさい。あなたをからかうと楽しいんですもの』

「〜〜あら、そう。彼の前でわざと恥をかかしたようにしか思えないんだけど…?」

『ふふっ、そんなことないわよ。でも、確かにちょっと彼と仲良くしすぎね。大神君は私の恋人なんだから、気安く近づいたら、もっとひどい目に遭わせるわよ?』


〜〜やっぱり、それが狙いだったのね…!?何よ…!?天使のくせに悪魔みたいな不敵な笑み浮かべちゃって…!!

「〜〜ふふっ、残念だけど、大神君の今の恋人は私よ?姉さんはもう天使なんだから、人間の男は諦めた方がいいんじゃないかしら?」

『〜〜何ですって…!?私だって、天上界での仕事が一段落したら、すぐに転生して帝撃に戻ってきてやるんだから…!!ふふっ、もう転生届けだって出してあるんだから!』

「あら、そう。ま、その届けが受理される前に、私と大神君は結婚するだろうけど。あ、そうだわ!私達の子供として転生してきたらいいじゃない。姉さんそっくりの娘が生まれたら、大神君も喜ぶわよ〜?ホホホ…!」

『〜〜何ですってぇっ!?――姉さんを本気で怒らせたわね…?』

「え…?〜〜きゃあああああっ!!」

「どうしました――!?」


私の悲鳴を聞いて、廊下で待っていた大神君が部屋に入ってきた。…そして、拍子抜けして目を丸くした。だって、下着姿の私が絨毯の上を笑い転げているんだから…。

「きゃはははは…!く、くすぐったい…!!〜〜んもう、やめてよ…くぅ…っ、あはははははっ!!も、もう許してぇ…!」

「〜〜か、かえで…さん…?」


あやめ姉さんは指をくるくる回す遠隔操作で、私の全身をくすぐってくる。だが、大神君にはそれが見えていないので、私が勝手に一人で笑い転げているようにしか見えない…。

『ふふっ、今の発言、撤回する?』

「〜〜するっ!するから、もうやめ…〜〜いやああんっ!!きゃはははは…!!」


私の言葉に満足したのか、姉さんはくすぐりをやめた。私は姉さんのお仕置きから解放され、ぐったりと床にうつぶせになる。

「だ、大丈夫ですか…?〜〜もしかして、さっき、頭を強く打ったんじゃ…!?」

大神君は青ざめて、私の頭の傷やこぶを探してくれている。

〜〜そりゃそうよね…。これじゃあ、本当に頭のおかしな女だわ…。

「違うの…。今、姉さんがミカエルとしてここに…きゃはあああっ!?」

再び姉さんが私の全身をくすぐり始めた。どうやら、姉さんが今、下界に降りてきていることを言ってはいけないらしい。

笑い転げて悶えるおかしな私に、大神君は顔色をますます悪くさせていく。

「〜〜病院に行きましょう…!訓練の指揮は俺に任せて――」

「だ、大丈夫だから…!ちょ、ちょっと笑いたくなっただけよ…きゃはははっ!!」


姉さんは、手足をバタバタさせてくすぐりに耐える私を笑って見つめている。〜〜あやめ姉さんってMと見せかけて、結構Sなのよね…。

――そういえば、小さい頃もよくこうして姉さんに怒られたたっけ…。私がイタズラした時、あやめ姉さんはよくこうやってくすぐったり、お尻を叩いたりしてお仕置きしてくれた。ふふっ、その時のことを姉さんも思い出してくれてるかしら…?怒っているけど、どこか優しい懐かしい瞳を天使となった今でも姉さんはしている…。

姉さんはそのまま3時の会議にもついてきた。

総指揮官としての腕も衰えることなく、部下達を厳しく、時には優しく思いやる米田司令。そして、花組隊員としてそれぞれ一回り成長したさくら達…。変わらない帝撃の雰囲気にとても満足そうだ。

「今日から午後の訓練には、紅蘭が開発してくれた訓練機を使用することになった。平和になったからといって浮かれることのないよう、各自しっかりトレーニングに励むこと!舞台の稽古で疲れてるとは思うけど、頑張ってくれ!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


花組をしっかりまとめ上げる大神君を、姉さんは安心した、しかし、どこか寂しそうな瞳で見つめる。

『――もう…、私の帰るべき場所はなくなっちゃったのね…』

姉さんの自嘲するような呟き…。私が今いる場所は、かつてあやめ姉さんがいた場所だ…。あのまま何もなければ、姉さんは今もここで…。

姉さんは暗い気持ちを悟られないように明るく笑顔を見せているので、私も気にせず、会議に集中する。

あやめ姉さんは今、さくら達の誰からの目にも映らない存在。この空間に存在しているなんて、誰も思っていないのだから…。

その日の夜、私は部屋で姉さんとベッドの上に座り、話をした。

「久し振りに皆に会えて、嬉しかった?」

『えぇ。いつも雲の上からでしか見ることができなかったけど、やっぱり同じ世界で見るといいものね。大神君もさくら達も皆、本当によく成長してくれているわ。ふふっ、これもあなたのおかげね。……もう…、本当に私なんて必要なくなっちゃったわね…』

「〜〜そんなことないわよ…。あの子達があそこまで成長できたのも、姉さんがいたからじゃない…。大神君達だって、姉さんのことを忘れたことなんてないと思うわよ?」

「そうかしら…?ふふっ、そうだと嬉しいな…。でも、もう私が呼びかけても誰も気づいてくれないのよね…。〜〜私は天使で、皆は人間だから…」

「姉さん…。……ねぇ、昼間から思ってたんだけど、どうして私にだけ姉さんが見えるの?」

「それは、あなたが藤枝家の人間…、藤の名を連ねる一族の者だからよ。要するに、神がかり的な力が元々血に入ってるってことね」

「そう…。…だったら、藤枝家の人間である私になら、憑依することはできるの?」

『え…?それって…』

「ふふっ、今夜一晩くらいなら体貸してあげてもいいわよ?それで、心置きなく大神君と語り合うなり、愛し合うなりすればいいわ。そしたら、ちゃんと成仏してね?」

「成仏って…、ふふっ、私は天使よ?」

「ふふっ、同じようなものでしょうが」

『……でも、本当にいいの?天使が人間に憑依するなんて前例はないから、命の保証はできないわよ…?』

「大丈夫よ。今までだって、何度も死にかけてきたんだから…。でも、彼が気づくかどうかまでは保証できないけどね」


姉さんは涙を浮かべると、嬉しそうに私を抱きしめた。

『ありがとう、かえで…!』

「いいのよ。これくらいしか恩返しができないもの…」


私は姉さんの頭を優しく撫でてなだめる。ふふっ、これじゃどっちが年上かわかりゃしないわね。

『いい?じゃあ、ゆっくり深呼吸して、目を閉じて…』

「ん…」


姉さんは私の呼吸を確認すると、瞳を閉じて体を光らせ、すうっと私の体内に入り込んだ。私の意識が分離され、体から剥がされていく…。痛くはないけど、ふわふわ宇宙の中に浮いているみたい…。

私の体に乗り移ったあやめ姉さんは、ゆっくり目を開けた。私の方は意識はあるけど、体が思うように動かない。自分の体であるはずなのに、とても不思議な感覚だ…。

「――ただ今戻りました」

しばらくして、大神君が夜の見回りから部屋に戻ってきた。

『お帰りなさい。待ってたのよ』

「すみません。織姫君のピアノを聞いてたら、遅くなってしまって…」

『ふふっ、そう。――お茶、飲む?』

「梅の香りだ…。もしかして、梅茶ですか?」

『えぇ、どうぞ』

「ありがとうございます…!」


大神君は梅茶の入った湯呑みを受け取り、ゆっくり口に含んで味わう。

「はぁ…、何だか懐かしい味がします。あやめさんの淹れてくれた梅茶もこんな味だったっけ…」

そうよ、大神君!今、あなたの前にいるのはあやめ姉さんなのよ…!

「〜〜あやめさん、怒ってるかな…?将来を誓い合った仲なのに、俺は今、かえでさんと…」

『…その件については、ちょっと怒ってる』

「え…?」

『ふふっ、でも、幸せそうだから許してあげる!それに、私とそっくりなかえでと結婚してくれれば、私が産んであげられなかった赤ちゃんそっくりの子が生まれてくるだろうし…。あなたと結婚して、幸せな家庭を築いて…。私の叶わなかった夢を、かえでが叶えてくれるって信じてるもの…』

「かえでさん…?」

『〜〜あ…、そ、そう姉さんも天上界で思ってるんじゃないかなって…』

「そうですか…。そうだといいな…」


ベッドに座った大神君の隣で、姉さんはそっと彼の頬にキスをした。

『…本当は私とあやめ姉さん、どっちを愛してるの?』

「え…?」

『ふふっ、ごめんなさい。ちょっと意地悪な質問だったかな…?』


と、姉さんは寂しそうな表情で髪を触った。それを見た大神君の目が見開く。

「――あやめさん…?」

姉さんはハッと顔を上げた。大神君は真剣な顔で姉さんを見つめている。

姉さんは困ったことがあると、髪を触る癖があった。そのことに気づいたのかもしれない…。だが、大神君は少し間を置くと、ふっと口元を緩ませた。

「……そんなわけないですよね…。すみません。俺、何言ってるんだろ…」

『大神君…』

(〜〜私はあやめよ…?)


姉さんの悲痛な叫びと気持ちが私にも伝わってくる。姉さんは下唇を噛みながら、大神君に抱きついて嗚咽を漏らし始めた。

「かえでさん…?」

『大神君、愛してる…!〜〜もう離れたくなんてない…っ!ずっと…傍にいたいの…!』

「だ、大丈夫ですよ。俺はずっとあなたの傍にいますから」


理由もなく、突然、狂ったように泣き出した私に大神君は少し困惑しているようだ。姉さんは美しい涙を頬に伝え、顔を上げて大神君と見つめ合う。

『大神君、抱いて…!〜〜私がどこにも行けないように、強く抱きしめていて…!!』

『――抱いて…!私が私でいられるように、もっと強く、強く…!!』


最終降魔になる前にあやめ姉さんが必死に大神君に訴えかけていた言葉と今の言葉が重なる…。大神君もそれに気づいたのか私…、いえ、姉さんを抱きしめる手に力が入る。かえでであるはずの私が大神君の中であやめ姉さんに重なって見えたのだろう。

「あやめさん…。〜〜あやめさんなんですね…?本当に…!」

『えぇ…、気づいてくれたのね…!』

「やっぱり…!でも、どうして…?」

『それは…、ふふっ、あなたにどうしても会いたかったから、抜け出してきちゃった…!』

「〜〜あやめさん…!」


大神君は涙を流して、姉さんをさらに強く抱きしめた。

『あったかい…。ふふっ、大神君の懐かしい…温かい温もりだわ…。ずっとこうやってされるの、雲の上で望んでたんだから』

「〜〜もう離すものか…!永遠に俺だけのものでいてくれますか?」

『ふふっ、もちろんよ…!』


大神君は安堵して顔をほころばせると、姉さんの唇にキスをした。久し振りの愛しい彼とのキスに姉さんも嬉しそうだ。

大神君はそのまま、あやめ姉さんの上に馬乗りになって、愛し始める。大神君に体中をキスされる度、その愛を受け止める度に、姉さんの心が、体が熱くなっていく。

『愛してる…!愛してるわ、大神君…!!もっと…、もっとこっちに来て…!』

あやめ姉さんは妹である私の体を通じて、大好きな人の愛を受け止められることに感激し、キスマークが増える度に嬉し涙を流していく。そして、私の心を通じて、姉さんの気持ちが入ってくる。

あやめ姉さんは、ずっとこの時間を恋しがっていたに違いない。天上界で私と大神君が愛を語り合い、愛し合うのを見守ってじっと堪えながら…。時には、自分の数奇な運命を呪いもしただろう。今までどんなに辛く、寂しかったことか…。

「あやめさん…、俺も愛してます…!〜〜あやめさん…!!」

大神君も涙を流しながら、何度もあやめ姉さんと一つになる。姉さんと繋がっていられるこの時間を失いたくない…。今この時が永遠に終わりが来ない時間であることを祈りながら、いつまでも姉さんを愛し続ける。ベッドの中で大神君とあやめ姉さんは見つめ合い、愛を語り、そして愛し合う。それをひたすら繰り返す…。

だが、どんなことでも終わりというものは訪れる。永遠とも思われるほど長かった夜が終わり、空が明るくなってきた。

『――そろそろ…、タイムリミットみたい…』

姉さんは寂しそうに微笑み、大神君の頬をそっと撫でる。

「〜〜そんな…、あやめさん…!」

大神君は自分の頬を撫でた姉さんの手をぎゅっと握り、キスをする。そうされて、姉さんはますます寂しさがこみ上げてくる。でも、もう行かなければ…。体が引き裂かれる程の悲しみが妹の私の中にも流れ込んでくる。

『〜〜大丈夫よ、また遊びに来るから…。ふふっ、私は第一天使長だから、結構融通がきくのよ?』

「本当…ですか…?本当にまた…会いに来てくれますか…?」

『もちろんよ!――約束…ね!』


姉さんは大神君と指きりをし、涙を浮かべて微笑んだ。その表情とは裏腹に、私の心に姉さんの辛い気持ちが雪崩のように流れて込んでくる…。

本当は姉さんは転生届けが受理されて、近いうちに人間として転生することが決まった。だが、また人間になれるとしても、どこに生まれ落ちるかわからない。日本に生まれても、生まれ変わる前の記憶が失くなっていたら、せっかく大神君に会ってもわからない…。それに、帝都から遠い地方ならば一生会えずに終わるだろう。下手したら、日本じゃない外国人として生まれ変わるかもしれない…。

だから、転生する前にこうして大神君に会いに来たのだ。天使として見守ることができなくなる前に、もう一度愛を確かめ合いたいと…。普段、天使長として頑張る姉さんを、神様は特例として許して下さったみたいだ。

『ずっと傍にいてあげられなくて、ごめんね…?〜〜あなたの赤ちゃん…、産んであげられなくてごめんね…?』

「〜〜俺の方こそすみません…。永遠にあなた一人を愛すと誓ったのに…」

『ふふっ、いいのよ。…ほら、泣かないの!男の子でしょ?』

「ハハ…、…はい!」


姉さんは笑いながら大神君の額を小突くと、泣くのをじっと堪えてうつむいた。

『かえでを…幸せにしてあげてね…。あなた達がずっと幸せでいられるように、これからも祈ってるから…』

「〜〜あやめさん…」


大神君は最後に姉さんをきつく抱きしめて、口づけを交わした。甘いけど、涙に濡れてちょっとしょっぱいキス…。

姉さんは静かに涙を流し、大神君と自分の額を重ねると、静かに瞳を閉じた。

『――ありがとう…。これからもずっと…愛してるわ……』

姉さんの気配が消えると、ふわふわ漂っていた私の意識が水面に浮かび上がるかのようにはっきりしていく…。

「姉さん…?」

「かえでさん…ですか…?」


体の自由を取り戻した私は、ゆっくり目を開けて大神君と見つめ合う。

「……どうやら、行っちゃったみたいね…」

「ありがとうございました。俺とあやめさんの為に…」

「ふふっ、いいのよ。姉さんも嬉しかったんじゃないかしら、久し振りにあなたに会えて?」

「俺も嬉しかったです。もう二度と会えないと思っていましたから…」

「……やっぱり、まだ姉さんのこと…好き?」

「正直に言うと…。はっきりしなくて、あやめさんにもかえでさんにも申し訳ないですけど…、でも俺、今も、そしてこれからも同じくらいお二人を愛し続けますから…!」

「ふふっ、あら、そう。――同じくらいってことは平等にってことよね?」

「え…?〜〜うわ…っ!?」


私はテンション高く大神君の胸に飛び込むと、甘えた声でおねだりしてみた。

「ふふっ、なら、今度は私の番よね〜?姉さんにばっかりじゃズルイわ」

「し、しかし、もう朝ですよ…?」

「ふふっ、文句言わない!これは命令よ?」

「ハハ…、了解!」


大神君は私にキスすると、あやめ姉さんを愛したのと同じやり方で私を愛し始める。姉さんには悪いけど、今、大神君のこの愛を一人占めできていることに私は酔いしれていた。その様子を姉さんがムッとしながら、天上界から見ているとも知らずに…。

そして、同じ日の晩…。

「ただ今戻りました――!?」

夜の見回りから帰ってきた大神君はぎょっとなった。洋服を好んで着るはずの私があやめ姉さんの着ていた和服を引っ張り出してきて、着用していたからだ。

「も、もしかして…、あやめさんを意識してみたんですか…?」

『ふふっ、意識なんてものじゃないわ。だって私、あやめ本人ですもの!』

「い…?〜〜いぃ〜っ!?」

「〜〜ちょっと姉さんっ!!天上界に帰って転生するんじゃなかったの!?」


姉さんに体と意識を支配された私は必死に抵抗して、何とか声を発することに成功したが、またすぐに姉さんの意識に支配されてしまう。

『藤枝あやめとしてまた転生できるって受理にはなったんだけど、他の天使にも転生希望者が多くて、なかなか順番が回ってこないのよね…。だから、その時が来るまでずっとここにいようと思って!』

「〜〜何よ、それ…!?ずっとってことは…、これから毎日…っ!?」

『そう!しばらくかえでの体にいることになったから、よろしくね!』

「本当ですか!?じゃあ、これからも、そして転生してからもずっとあやめさんとしてここにいていてくれるんですね…!」

『ふふっ、嬉しい?私も嬉しいな…!』

「ちょっと大神君、何呑気に喜んでるのよ!?〜〜姉さんも勝手に決めないでよ…!!これは私の体よっ!?」


事情を知らない人が見たら、今の私は1つの心の中で2つの人格が共存する二重人格者に見えるんだろうけど、大神君は気にしてないみたい。

そんなことより、私達姉妹を独占できるってことの方が嬉しいみたいね。

「――そうだ…!今日はかえでさん、今日はあやめさんっていう風に日を決めて、交互にかえでさんの体を独占するってどうですか?」

『まぁ、さすがは大神君ね!良いアイディアだわ』

「〜〜ちょ…っ、何でそんな何回も姉さんに体貸さなきゃならないのよぉっ!?」

『いいじゃないの、そっくり姉妹なんだし。そんなに支障は出ないわよ』

「〜〜わかったわよ…。だけど姉さん、セックスだけじゃなくて、副司令としての仕事もちゃんとやってもらいますからね?」

『ふふっ、わかってるわよ。――ありがとう、かえで』

「ありがとうございます、かえでさん」


……まったく…。天使のイタズラのおかげで、とんだことになっちゃったわ。でも、姉さんも大神君も喜んでくれているし、悪い気持にはならないわね。ふふっ、それにちょっと奇想天外で面白いし。

『――じゃあ大神君、まずは私とかえで、どっちとセックスしたい?』

「もちろん、妹の私の方とよね?大神君!」

「え…?え〜と…」


大神君は困った、だけど嬉しそうな顔で頭を掻く。

2人の体と3人の心が繰り広げる不思議な恋愛模様。普通ではありえない、天使だからこそもたらせた奇跡の三角関係。

しばらくはこの状態が続きそうだけど、尊敬するあやめ姉さんと一つの同じ体で、大神君に愛されながら仲良くやっていこう。

姉さんが人間として転生して、また帝撃に戻ってくるその日まで…。

終わり


あとがき

ねこ丸様よりお寄せ頂いたリクエストに応えて誕生した短編です!

『かえでの体を通してのミカエルと大神のラブシーン』ということで、これでいかがでしょうか?

何か物足りなかったら書き加えますので、遠慮なくお申し付け下さいね!

同じ設定でまた違った話をあやめ(ミカエル)ヒロインで書くつもりですので、そちらの方もご期待下さい。

ミカエルの性格をあやめ姉さんそのままに書いてみたんですが、どうでしょう?

う〜ん、もっと神々しさを出した方がよかったですかね…?

まぁ、大神×あやめ(ミカエル)×かえでの三角関係の良さを感じて下さると、ありがたいです!

ねこ丸様、リクエストありがとうございました!それにしても、リクエストを募集すると、私では考えつかないようなアイディアが続々送られてくるので、心強いですね!

これからもリクエスト等をお待ちしております!


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