「司令見習い君と私2〜風邪引き副司令、奮闘記〜」



「――はっくしょん!!」

あぁ…、朝からすごくだるい…。私はボーッとした頭でいつもの白いスカートと緑のインナーに着替える。

そういえば、ここ最近、少し風邪気味だ。昨日までは少し喉が赤いぐらいだったのに、今日になって本格的に症状が出始めたみたいだ…。

大神君は大丈夫かしら…?

昨晩も私と大神君は毎晩の日課とも言える夜の営みを行った。伝染ってなければいいけど…。司令見習いと副司令が揃って寝込んでしまっては、部下達に示しがつかない上、緊急事態の対処にも困る。

〜〜それにしても頭が痛い…。

私の頭痛の原因は、風邪のウィルスだけではない。明日、賢人機関の面々と神崎重工の重役、それに陸軍と海軍のお偉い方がこぞって帝撃を視察しに来るのだ。

米田前司令が引退して、大神君が司令見習いとして若くして帝撃のトップとなったので、これから新生・帝国華撃団がうまく運営していけるのかどうかが気がかりらしい。それもそうだ。大事な資産から援助してくれているのだ。使えない・役に立たない組織と判断されれば、援助はストップされ、帝撃は財政困難に陥り、やがては潰れてしまう…。

すみれがいるから、神崎重工は大丈夫だろう。山口海軍大臣も大神君の将来性を見込んでくれている。京極の後になった陸軍大臣も私が陸軍入隊当初にお世話になった人なので、多分心配はない。問題は賢人機関の権力者達だ…。花小路伯爵以外の面々は、未熟者の軍人と女だけの部隊である花組を馬鹿にしている人がかなりいる。ヤフキエルの導入時や日比谷での戦闘で被害を多く出してしまった時は、あやめ姉さんも頭の堅い老人達にたいそう苦労したと聞いている。私自身も出来の良い姉さんと散々比べられて、嫌な思いをしたっけ…。

だから、彼らを納得させて帝撃の運営を維持していく為にも、明日の公開訓練は絶対に失敗できない…!なので、今日は色々と準備が必要だ。寝ている暇なんかないのである。

「――アイリス、織姫、レニは分散して後方の敵をお願い!すみれとカンナは左右それぞれの砲台を攻撃!その隙に私とさくらで橋を渡るわ!マリアと紅蘭は橋の向こう側の敵を殲滅して!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


公開訓練である模擬戦闘は、花やしき支部が開発した降魔型のロボットを敵に見立てて用い、屋外で行われる。参加するのは私とさくら達花組。大神君は司令として作戦指令室の中で花組はもちろん、風組にも的確な指示を迅速に出さなければならない。

今までは大神君が花組隊長として実際に現場で戦って花組を指揮してきたが、これからは副司令である私が花組隊長任務も兼ね、さくら達と一緒に戦うことになった。見習いといえども、司令となった大神君の背負う責任はそれだけ大きくなったということだ。

「風組、発生装置の方はどうだ?」

「――発見しました!Bポイントの地中です…!」

「よし、発生装置はBポイントの地中だ!」

「了解!――さくら、頼んだわよ!」

「了解!――破邪剣征・桜花爛漫!!」


さくらの放った花吹雪の衝撃波が降魔型ロボットの発生装置を見事に真っ二つに割る。

「あ〜、や〜っと終わりデスカ〜?早く帰ってシャワー浴びたいデ〜ス!」

「皆、よくやったわ。明日もこの調子でお願いね!」

「了解しました、かえでさん!」


私は息を切らし、汗だくになりながら、倒れるように光武から降りた。

「かえでさん、大丈夫かい?汗びっしょりだぜ…!?」

「ふふっ、心配しないで。少し緊張しただけよ」

「今までは前線に立って指揮を執るなんてしていらっしゃいませんでしたものねぇ。お疲れなのも当然ですわ」

「…早くシャワーを浴びた方がいい。そのままでは体温が低下して、風邪のウィルスが侵入しやすくなる」

「そうね、ありがとう、レニ」

(〜〜もうしっかり侵入されてるんだけどね…)

「お疲れ様でした。司令見習いにも勝るとも劣らぬ素晴らしい指揮でした」

「これからもこの調子でよろしくお願いしますね、かえでさん!」

「えぇ、こちらこそ。――紅蘭、悪いけど、明日までに光武の整備、しっかりとお願いね!」

「任しとき〜!本番で200%の力が出せるようにしとくさかい!」

「アイリスも頑張るよ〜!エイエイオ〜ッ!!」


本当にこの娘達は良い子だ。今まで大神君を中心にまとまってきた部隊なのに、今は文句も言わず、私についてきてくれる。それだけ彼女達も大神君の司令としての働きに期待し、応援しているのだ。

この娘達の為にも、絶対に帝撃を失くしたりなんてしたくない…!

レニに言われた通り、私はすぐに大浴場でシャワーを浴びた。本当は風邪の時は控えた方がいいんだろうけど、汗をかいたままでいるのも気持ち悪いしね…。それにしても、良い汗をかいてさっぱりした。

私は風呂上がりに体にタオルを巻きつけ、自分の部屋でビールを飲む。すると、ノックする音がして、大神君が顔を出した。

「あ、風呂入ってたんですか…。〜〜またビールなんか飲んで…。飲みすぎは体に毒っていつも言ってるじゃないですか」

「いいの!この瞬間の為に毎日頑張ってるんだから」


大神君は仕方なさそうにビールを飲む私を見つめている。ふふっ、こればっかりは上官命令を聞けそうにないわね!

「あ…、ところで、何か用事?」

「はい。明日の打ち合わせをしようと思ったんですが、お疲れですよね?ゆっくり休んだらでいいので、後で俺の部屋に来て下さい。――それじゃ…」


帰ろうとした大神君のワイシャツの袖をおもむろに引っ張ってみる。

「…もう帰っちゃうの?ふふっ、何か忘れてない?」

「〜〜今は駄目です!まだ山のようにやることが…」


私は胸の谷間をわざと見せつける。大神君はごくっとつばを呑み、私の体を見つめてくる。ふふっ、出世してもやっぱり大神君は大神君ね。

「ふふっ、頑張ったご褒美よ」

「〜〜少しだけですからね?」


大神君はもぎり服のベストを脱ぎ捨てると、欲望をむき出しにして私にキスをし、ベッドへと押し倒した。オオカミに変貌した彼は私の体に巻きついているタオルを乱暴にはぎ取ると、夢中で私の肌に吸いついてきた。

「……?かえでさん…、体が妙に熱いですけど…、大丈夫ですか?」

「ふふっ、興奮してるだ・け!」

「そうなんですか…?なら、いいですけど…」


酔っ払って積極的に甘えてくる私に再びキスをすると、オオカミさんは再度私を愛し始めた。

大神君に愛されている感覚と風邪の熱っぽさで頭がぼんやりしてきて、何も考えられなくなる。

「…かえでさん?」

大神君は心配そうに私を見つめてくる。

司令見習いとして今まで以上にしっかりしようと努める大神君。そんな彼の為に私も明日、頑張らなくては…。あぁ、でも、熱のせいで天井がぐるぐる回る…。体も熱くて、だるい…。せっかく大神君と愛を育んでいるのに、頭がボーッとして集中できない…。それに何だか、少し息苦しくなってきたような…。

「――かえでさん…?〜〜大丈夫ですか、かえでさん…!?」

大神君の声がだんだん遠のいていく…。私、疲れたのかしら…?それとも、やっぱり風邪のせい…?私は大神君の呼びかけに応える間もなく、深い眠りに落ちていった。

しばらくして、私はゆっくり目を覚ました。寝まきを着せられ、氷枕を頭の下に敷かれてベッドの上に横にされている。額もひんやり気持ちいい…。たぶん、冷水で絞ったタオルが置かれているのだろう。

でも、手だけは温かい…。いつも私の手を握ってくれる大きくて優しい手…。

「気がつきましたか?」

目の前に大神君が微笑みながら座っていた。

「風邪を引いてるって、どうして早く言わなかったんですか?おとなしく寝てなきゃ駄目じゃないですか。――今、おかゆ持ってきますからね」

大神君は私に軽くデコピンすると、立ち上がった。

どうやら、私は大神君と愛し合っている最中に高熱のせいで気を失ってしまったらしい。窓を見ると、もう真っ暗だった。

「大神君…、私…」

「明日はゆっくり寝ていて下さいね。マリア達と話し合って決めましたから、大丈夫ですよ」

「〜〜だ、駄目よ…!公開訓練はどうするの…!?」

「マリア達なら大丈夫ですよ。指揮官がいなくてもちゃんと――」

「〜〜私がいたら…、足手まとい…?」

「え…?」

「〜〜そうよね…。私なんて皆と比べたら実戦経験も少ないし、さくら達も私抜きでやった方がやりやすいわよね…?〜〜でもね…、あなたが私に自分の代わりに皆を率いて戦ってくれって言ってくれた時、すごく嬉しかったの。上官となったあなたに頼りにされてる。だから、精一杯お役に立とうって頑張れるのよ。〜〜明日は絶対に失敗は許されないわ…。だから、私も悔いのないように役目を果たして、あなたをサポートしたいの!私、失いたくないのよ、私の家族、居るべき場所、そして、愛するあなたとの生活を…!」

「かえでさん…」


大神君は優しく微笑むと、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「その気持ち、すごく嬉しいです…!でも、俺はあなたに無理をしてほしくないんです。部下の体調管理を気遣ってあげられないようなら、司令見習いとして失格ですからね」

「無理はしないわ。だからお願い、一緒に戦わせて…!」

「――わかりました。でも、具合が悪くなったら、すぐに言って下さいね?」

「ふふっ、了解!」


私達は笑い合い、そして、またきつく抱きしめ合う。

「明日はきっとうまくいきますよ。帝撃を解散させるなんて、俺が絶対にさせません…!誰が何と言おうと、かえでさんは副司令として俺の傍にいさせます!俺の一番尊敬する部下であると同時に、一番愛する人なんですから…!」

「大神君…」


大神君は私の頬をなでると、優しくキスをした。

「ふふっ、風邪、伝染っちゃうわよ?」

「ハハ…、あなたに伝染されるなら、構いませんよ。……それに、昼間は途中で終わっちゃいましたし…」

「ふふっ、もう、大神君ってエッチね。今日はダ〜メ」

「〜〜いぃっ!?そ、そっちが先に誘ってきたんじゃないですか…」


こういう残念そうな顔を見ると、やっぱり大神君は司令と言われるようになるまでまだまだだ。ふふっ、これからも『しっかりしなさい!』って励ましてあげなくちゃ…!

私は笑いながら、オオカミになり損ねた彼の腕の中で瞳を閉じる。不思議と風邪の症状が治まっていくような感じだわ。やっぱり、愛の力ってヒーリング効果も絶大なのね…!

――明日は頑張ろう。少しでも帝撃の…、大神君の役に立てるよう、頑張らなくては…!

「――各自、周囲の降魔の撃破に専念して!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」

「発生装置はG地点だ!頼んだぞ、皆!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


翌日、すっかり風邪が治った私は、絶好調で模擬戦闘の指揮を執っていた。さくら達も皆、調子が良い。

これなら大丈夫…!私と大神君の願いもきっと届くはず…!

公開訓練が終わり、花小路伯爵が私と大神君に労いの言葉をかけてきてくれた。

「――今日はご苦労様。皆、君達を褒めていたよ。米田君が抜けたと聞いた時は心配したが、どうやら杞憂だったようだね」

「ありがとうございます、伯爵!」

「うむ、これからも帝都の未来を頼んだよ」

「了解しました!」「了解しました!」


私と大神君は伯爵からお褒めの言葉を頂き、敬礼した。

これでやっと認められたんだ、私達の新しい帝国華撃団という形が…!

長かった一日が終わり、私は心地良い疲れでクタクタになりながら、支配人室のソファーに倒れ込んだ。

「お疲れ様でした、かえでさん」

「お疲れ様、大神君。ふふっ、今日は本当によかった…!」

「そうですね。ハァ…、ホッとしたら、急に疲れが…――はっくしょん!!」

「あら。まぁ、風邪ですか、司令見習いさん?」

「〜〜うぅ…、完全に副司令さんから伝染されました…」

「ふふっ、なら、また伝染し直す?頑張ってくれた司令見習いさんに、ごほうび、あげちゃおっかな」

「ハハ…、いいですよ。――昨日の分も合わせてね…!」

「ふふっ、もう、あんまりはしゃがないで…!あははっ、きゃ〜!」


まだまだ司令見習いとして成長途中の大神君。だけど、私はこれからも彼と一緒にこの帝撃を支えていきたい。

きっと、私達なら大丈夫だろう。

帝都の平和、そして、2人の未来をこれからも守っていけるだろうから…!


あとがき

看病とかお見舞いって、やっぱり特別な人がしてくれるものですよね!

サクラXでもラチェットさんが新次郎に慣れない手つきでリンゴをむいてあげていたし…!!

大神君が風邪を引いて…っていうのは長編小説で書いたので、今度は逆にかえでさんが風邪を引いた設定にしようと思いました。

皆さんからのリクエストで『大怪我を負ったかえでさんの何から何まで世話をする大神さんが見たい!』というものや同じようなものが複数来ておりますので、そのネタで今度書いてみようと思っています!

皆様、いつもたくさんの励ましメールやリクエスト、本当にありがとうございます!

何だか芸能人みたいになった気分で(笑)、いつも楽しく読ませてもらっています!

大怪我を負うってことは、かえでさんは敵にやられているのかしら?

そこへ大神さんが助けに来て、帝劇に戻ってかえでさんのお世話をするという感じでどうでしょうか?

おぉっ、かえでさんのヒロインピンチから始まる短編、いいですな〜!

私は好きなキャラが敵に捕まったり、攻撃されて助けを求めたりしていると、大変萌える性癖があります(笑)

特にかえでさんのように凛々しい、完璧な程強いお姉様だともう…!!(笑)

…これ以上語ると、子供さんの教育上によろしくない話になってしまいますので、この辺でやめておきます(笑)

そうですね〜。今度、別にかえでさんのヒロインピンチ専門小説も書いてみるとします。

もっとリクエストがありましたら、メールフォームより投稿して下さいね!


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