★1−2★



「――さくらがいない?」

「どこをどう探してもいないんですよぉ…」

「見かけた方はいらっしゃったみたいですが、どこへ向かったかまでは…」

「〜〜もしかして、何か事件に巻き込まれたのかも…!?」

「う〜む…、あいつの娘に限ってそんなことはないと思うんだが…」


電話が鳴り、出る米田。

「はい、大帝国劇場。――あ、あやめ君か?〜〜何ぃ、さくらがぁ!?」

さかのぼること30分前・午後8時。車を運転するあやめ、洋食屋のショーウィンドゥでオムライスを見つめるさくらを見つける。

『ちょっとあなた、どうしたの?』

『〜〜おなかすいちゃいましたぁ…』


頬がこけ、おなかが鳴るさくら。

★               ★


「――で、その男に財布を預けたまま、8時間近く待ち続けてたと…」

「はい、これでも忍耐には自信ありますから!」


うな重を元気に食べるさくら。ため息をつく米田。

「さくら、そりゃあな、世間では騙されたって言うんだよ」

「ほへ?」


考え、少し間をおいて驚くさくら。

「えぇ〜っ!?私、騙されたんですかぁっ!?」

「普通に考えてもわかるだろーが。どこに有り金全部知らねぇ奴に預ける馬鹿がいるってんだ!」

「〜〜でっ、でも、あのおじさん、良い人に見えましたし、お父様も人を信頼してこそ、素晴らしい友好関係が築けると…」

「確かにそうだけど、帝都は他の地方と違って、様々な犯罪が毎日のように起こっているの。どうしてだと思う?」

「うーんと…、人が多いから、良い人もいれば悪い人もいるとか?」

「そうとも言うわね。人が多いということは、お金持ちもそうじゃない人もいるってことでしょ?格差が大きいのよ。帝都に来て仕事を成功させるのは、とても大変なことなの」

「そうか…、だから罪を犯しちゃうんですね。生きていく為に仕方なく…」

「えぇ。でも、罪を犯すのはそういう身の上の人だけじゃないわ。恐るべき力や頭脳を持ち、この帝都を我が物にせんと企む組織…。お金も権力もある人達にも悪人はいるわ。そういった全ての犯罪を滅し、帝都を皆が幸せな未来に導く…。それが私達の使命よ。わかってもらえた?」

「はいっ!真宮寺さくら、皆々様のお役にたてるよう日々精進致します!」


敬礼するさくらのご飯粒を笑って取るあやめ。照れるさくら。

「ふふっ、よろしい。では、早速最初の任務を命じます。…他の花組隊員に挨拶してきなさい。皆、あなたが来るのを楽しみにしてたのよ」

「はいっ!すぐに行って参ります!」

「あ、それと、お財布の被害届は出しておくから、安心してね」

「ありがとうございます!では、失礼します!!」


スキップして出ていくさくら。

「やれやれ…、とんだ天然娘が来たものだな。父親とは大違いだ」

「えぇ。でも、あの子の瞳は輝いていますわ。きっと良い方に転がります」

「……だといいがな…」


★               ★


舞台。稽古するすみれとマリア。ジャンポールと遊ぶアイリス。かすみと由里が忙しく準備する舞台裏を見るさくら。

「へぇ、廊下からここに繋がってるわけね。えっと、皆さんは…ん?」

壮大なセットと装置に感動し、駆け寄るさくら。

「わぁ…!すっご〜い!!」

「あ〜らよっと!」


大道具を運ぶカンナとぶつかり、よろけるさくら。機械に倒れこむ。

「〜〜ちょ、ちょっと、その機械は…!!」

「え…?」


機械のスイッチを尻で押すさくら。機械の蒸気が暴走。驚くマリア達。

「きゃ〜っ!!皆さん、逃げて下さ〜いっ!!」

走って舞台に出てくるさくら。すみれに吹きかかる蒸気。

「きゃ…!?」

「危ないっ!!――え…?きゃ〜っ!!」


舞台から落ちかけたすみれを抱きとめようとするが、一緒に落ちるさくら。

「すみれ…!!」

駆け寄るマリア達。カンナもやってくる。

「おい、大丈夫か、あんた!?」

「〜〜あいたた…。な、何とか…」


馬乗りのさくらを突き飛ばすすみれ。

「〜〜何をなさるんですの!?あれは大事な舞台装置ですのよ!?」

「す、すみません…」

「すみませんじゃ済みませんことよ!?どうして下さるの!?これでは上演ができないではありませんか!!」

「仕方ないわ。それより、ここに一般人が迷い込んだことの方が問題よ」

「え?」

「あのねぇ、いくらアイリス達に会いたくても、お客さんはここに来ちゃいけないんだよ?」

「〜〜あのぉ、私、お客じゃ…」

「悪ぃな、今日はまだ一般開放してねーんだよ。公演が始まるまで待っててくんな」

「〜〜ですから――!」

「それより、治療費と修理代を請求しなくては!あなた、神崎重工を敵に回すと恐ろしい目にあってよ?」

「えぇ〜っ!?あ、あいにく私、今日お金全部盗まれちゃいまして…」

「そんなの知ったことではありませんわ!」

「ケッ、大袈裟だなぁ、これぐらいで」

「カンナさんはお黙りになってて!さぁ、名前と住所を教えて下さいまし!かすみさん、メモ!」

「あ…、〜〜は、はい!」


用意するかすみ。背筋を伸ばしたとたん腰が痛くなり、かがむすみれ。

「〜〜ぴぎゃっ!?」

「すみれさん、大丈夫ですか!?」

「ぐ…っ、〜〜こ、これが大丈夫に見えまして…?」

「落ちた時に強く腰を打ったみたいね…」

「泣いちゃだめだよ?アイリスのキャンディあげるから、ね!」

「けけけっ、いいんだよ、アイリス。日頃の罰があたったんだ」

「〜〜お黙りなさい!」

「…とりあえず医務室へ運びましょう」


かすみと由里に肩を借りて運ばれるすみれ。

「あ、あの、私…」

「…後できちんと話をしましょう」


落ち込むさくら。弁当を持ってくる椿。

「お弁当、作ってきました〜!…ってあら?どうかしたんですか?」

「見ればおわかりになるでしょう!?怪我させられたんですのよ、この女に!!」


さくらを指さすすみれ。さくらに驚く椿。

「あれ?さくらさん!真宮寺さくらさんですよね!?いつこちらに着かれたんです?」

「え?どういうことだい?」

「この人、今日から花組に入る新入隊員の方ですよ」

「……申し遅れてすみません…」


驚くすみれ達。すみれの叫びが劇場に響く。

「〜〜な…っ、何ですってぇ〜っ!?」

★               ★


医務室。レントゲン写真を見るあやめ。

「骨自体は折れてないけど、少しひびが入ってるわ。完治するまで、おとなしくしてた方がよさそうね」

「…だとよ?」


ベッドにコルセットを巻いて横になり、カンナを睨むすみれ。

「〜〜本当に申し訳ありませんでした…!」

「起こってしまったことは仕方ないわ…。本番は二週間後よ。代役を立てて、練習を再開しないと…」

「じゃあ、アイリスがやる〜!」

「〜〜ちょ、ちょっとそれは…」

「マリアさんの相手役ですからねぇ…。子供はちょっと…」

「あ〜っ!ひっど〜い!!アイリス、子供じゃないもん!!」

「じゃ、あたいかい?いやぁ、参ったな、可憐な花売りの乙女なんてよぉ!」

「ぷっ、カンナさんが…?」

「肉屋の間違いでしょう?」

「〜〜んだとぉ〜っ!?」

「はいはい、皆聞いて。先程、米田支配人に報告した結果、クレモンティーヌはさくらに演じてもらうことになりました」


驚くすみれ達。

「わ、私…ですか…!?」

「こうなってしまったのは確かにあなたの責任よ。でも、同時に早く帝劇に慣れるようにと支配人が配慮して下さっての結果です。私もあなたの実力に期待しているわ。やってくれるわね、さくら?」

「あ…、は、はい!真宮寺さくら、粉骨砕身の覚悟で稽古にあたりますっ!」

「ふふっ、良い返事ね。皆もいいかしら?」

「……まぁ、支配人達がそうおっしゃるなら…」

「相変わらず固ぇなぁ、マリアは。あたいは賛成だぜ!これで高慢ちき女の顔を見ずに済むしな」

「何ですって〜〜アイタタ…!」

「アイリスもいいよ〜!わ〜い!皆でお稽古〜!」

「私達も構いませんよ」

「上京初日で主役抜擢なんてすごいじゃない!」

「楽しみにしてますからねぇ!」

「えへへ、ありがとうございます!」

「じゃあ、決定ね。頼んだわよ、さくら」

「了解しました、あやめさん!」


拍手するマリア達。照れるさくらを悔しく睨むすみれ。

★              ★


海軍の船。海を監視する艦長と大神。やってくる田中。

「大神、交代だ」

「了解!」


艦長室を出て行き、どっと疲れる大神。

「やれやれ、卒業までずっとこの任務か…。退屈というか苦痛というか…」

工具を持つ加山と出くわす大神。

「お、もう交代時間か」

「加山…!何だ、その工具?」

「いやはは…、〜〜ちょっとへまをな…」


加山に連れられ、地下の倉庫へ。床の穴を覗く大神。

「うわ…、また派手にやったな」

「休憩時間に鈴木達とチャンバラしてたらついな…。まぁ、いつものに比べたら小さい方だろ?」

「…で、また俺が直すってわけか」

「なははは…!いやぁ、俺、これから任務だからさ。お前、こういう雑用、得意じゃん?」

「…褒めてないし」

「まぁまぁ、後でライスカレーおごるからさ。じゃ、見つからないうちに頼んだぜ!」


足取り軽く去る加山。しぶしぶ修理し始める大神。

「まったく…、〜〜損な役ばっかりだよな、俺って!」

金槌で思い切り指を叩く大神。

「〜〜っつぅ〜…!!お約束かぁ…」

「――あら、怪我したの?」

「〜〜げ…っ!?ご、ごめんなさい…っていうか、これは俺じゃなくて――!!」


振り返り、軍服のあやめを見て赤くなる大神。

「え…?あ、あの…」

「見せてごらんなさい」


大神の指を舐めるあやめ。見つめる大神。見つめ合い、笑顔になるあやめ。

「もう大丈夫よ。おまじないしておいたから」

「お、おまじない…?」

「見つからずに修理できるおまじない。頑張ってね」


出ていくあやめを見つめる大神。

(な…、何て綺麗な人なんだ…!誰だろう?あの軍服は陸軍のだよな…?)

へらへらする大神。サイレンが鳴る。

「緊急招令、緊急招令!全員直ちに甲板に集合せよ!」

「…へ?あ、りょ、了解!」


走る大神。魚介類を運ぶ調理場の担当者。揺れで箱が落ち、穴に魚が落ちていく。反応するサメ。

★               ★


甲板。教官と米田が光武の試作品の前に立っている。

「大神、遅いぞ!」

「はっ、申し訳ありません!」


敬礼する大神。加山が近寄ってくる。

「悪かったな…」

「気にするな。それより、どうしたんだ?」

「あぁ、お前も噂には聞いてるだろ?遂に海軍にも来たんだよ、霊力値測定検査がな」

「貴様達に集まってもらったのは他でもない。これより、海軍全候補生霊力値測定検査を開始する!――では、米田中将閣下」


前に出る米田に敬礼する大神達。

「まぁ、そう固くなりなさんなって。一人ずつこの人型蒸気マシーンに乗ってもらうだけだからよ。じゃ、後は頼んだぜ」

「はっ!」

「よっしゃ、任せときー!」


敬礼するあやめに驚く大神。

(あの人、さっきの…!)

「おいおい、かなりのべっぴんさんじゃねーか!陸軍にはあんな少佐殿がいるのかよ〜!」

「〜〜しょ、少佐なのか、あの人…!?」


大神を見つけ、微笑むあやめ。赤くなる大神。

「よっしゃあ!早速調査開始や!!」

光武に乗る学生。測定器の針が全く動かず。

「そのまま腕を動かしてみて」

「りょ、了解!〜〜くっ…!!」


動かず、蒸気が出る光武。

「はい、ダメー。次、いってみよー!」

検査していく学生達。並んで待つ大神と加山。

「へへっ、任務さぼれてラッキーだな!」

「またそんなことを…。男たるもの常日頃の鍛錬が必要不可欠なんだぞ!」

「おまえなぁ、何時代の奴だよ?もう20世紀だぜ?これからは新しい時代だ。日本はこれから変わるぞぉ!」

「確かにな。少し見てみたい気もする、俺達が守る日本の行く末を」

「次、加山雄一!」

「へーい。んじゃま、行ってくらぁ」


光武に乗り込む加山。針が動かない測定器。

「う〜ん…。また反応なしかぁ…」

「少し動かしてみてくれる?」

「へーい。〜〜うおらああーっ!!」


全く動かない光武。ばてる加山。

「ありがとう。もういいわ」

「ちぇっ、かっこわりー…」


出ようとした加山。突然船が揺れ、光武ごと海に投げ出される加山。

「うわあああっ!!」

「加山!!」


飛び込もうとする大神を止める教官。

「馬鹿者!見ろ、サメの大群だ!」

船の周りを泳ぐサメの群れ。

「そんな無防備な格好では、奴らの餌食だぞ!」

「〜〜しかし、加山が…!」


周りを泳ぐサメに青ざめる加山。サメの体当たりで揺れる船。

「〜〜くそ…っ、どうすれば…!?」

予備の光武を見つけ、乗り込む大神。

「どうする気なの!?」

「サメといえでも、鋼鉄までは?み切れませんからね!」

「無茶や!そっちの試作品はとても素人が乗りこなせるもんや…へ?」


大神の霊力が高まる計測器。驚く紅蘭とあやめ達。

「な、何やねん、この膨大な霊力値は…!?」

「はああああっ!!」


白に光る大神の光武。剣を抜き、海に飛び込む。

「どけぇっ!!そいつは俺の大切な仲間だああっ!!」

向かってくるサメを斬っていく大神。モニターで見ている一同。

「すごいで!!初めてでここまで光武を使いこなせるとはやりますなぁ!えーと、名前は…、大神はん!大神一郎はんか!」

驚き、顔を見合わせるあやめと米田。口を開けて襲ってくるサメ。

「狼虎滅却…快刀乱麻!!」

剣圧でサメを真っ二つにする大神。

「ヒュー!さすが熱血君は違うねぇ」

「加山!!」


加山の光武の手を取る大神の光武。歓声が湧く甲板。万歳する紅蘭。

「思わぬダイヤの原石を見つけちまったなぁ」

「えぇ、彼ならきっと…!」

(――大神一郎君…か)


微笑むあやめ。帰還し、拍手喝采を浴びる大神と加山。

★              ★


大帝国劇場・鍛錬室。シミュレーション訓練をクリアしていくマリア、アイリス、カンナ。さくらだけできず。馬鹿にするすみれ。舞台。

「――『オ〜ンドレ様ぁ〜!!』」

無言になるマリア、アイリス、カンナ。

「…いかがですか?昨日、寝る間も惜しんで特訓したんですよ!」

「〜〜いや、その…、何て言うか…」

「くさい…わね」

「えっ!?私、ちゃんとお風呂入りましたよ!?」

「〜〜いえ、そっちじゃなくて…」

「オーバーすぎるんだよぉ。もっと肩の力を抜いてもいいと思うけどな」

「そうね。いくら舞台とはいえ、自然体が一番お客様に受け入れやすいと思うわ」

「はぁ、自然体…ですか」

「まぁ、ようするにだな、ここをもっとこうして――」


舞台に上がり、指導するカンナ。マリアとアイリスも加わる。遠くから見るすみれ、機嫌悪く立ち去る。

(何ですの、あの女!?光武もろくに操れないくせに生意気な!大体、副司令も副司令ですわ!あんな田舎者に第1回公演の主演を任せるなんて…)

食堂の椅子に座るジャンポールを見つける。

「〜〜邪魔ですわっ!!」

イラつき、窓からジャンポールを投げる。腰に響き、さするすみれ。隠れて見ている三人娘。

「〜〜み、見た…?」

「〜〜しっかりと!」

「ハァ…、また嵐の予感…」


★               ★


「〜〜ジャンポール!?」

「どうしたの、アイリス?」

「ジャンポールがいないの…!ここで待っててねって言っといたのに…」

「え…っ!?よく探した?」

「うん…。でも、いないの…」

「おっかしいなぁ…。稽古始める時はここにいたよなぁ?おい、かすみ、何か知ってるか?」


ぎくっとなる三人娘。

「〜〜あ、あの、私達はその…」

「ん?何だよ、何か知ってるのか?」

「〜〜いや、そのぉ…」

「〜〜ジャンポール!!」


窓から身を乗り出すアイリス。

「どうしたの!?」

「ジャンポールが…〜〜ジャンポールが…」


汚れて破れたジャンポールを浮かび上がらせ、泣いて抱きしめるアイリス。

「うわああ〜んっ!!ジャンポールがこんなになっちゃったぁ〜!!」

「ひどい…!誰がこんなこと…」

「おい!お前ら、知ってんだろ!?」


顔を見合わせる三人娘。


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