★1−1★



海軍士官学校・訓練場。靄が晴れ、訓練場を照らす月。息を潜める学生達。見渡す教官。双眼鏡で相手チームの動きを見る大神、伏せる加山、学生達。

「距離11時の方向に300、敵数は10か…」

「楽勝だな。このまま一気に突破しちまおうぜ!」

「待て。まず相手の動きを見よう」

「でもよぉ、もたもたしてたら、先手打たれちまうぜ?」

「いや、どうも気になるんだ…。もう少しだけ様子を見よう」

「ケッ、そんなの待ってられるかよっ!」


飛び出し、戦場を駆け抜ける田中。

「あっ、田中…!」

田中めがけて発砲する相手チーム。走り続ける田中。

「へへっ、俺の俊足を見くびるなよな…!」

木に隠れた軍人の銃口が田中に発砲。胸の水風船が割れる田中。

「〜〜な…っ、何…!?」

「田中、失格!」


悔しがり、座り込む田中。相手チームの発砲が激しくなり、伏せる大神達。

「〜〜マジかよ、あんな所に隠れてやがったのか…!?」

「教官もいよいよ本気ってわけだな…」

「さすがは大神!今のもお見通しだったってわけだな!」

「はは、まぁな」


双眼鏡で見渡す大神。

「よし、鈴木と佐藤は俺が合図したら、左右に散って雑魚を一掃してくれ」

「了解!」

「その隙に加山は俺と旗を奪取だ」

「オッケー!また生きて会おうぜ、諸君!」

「よし…、――1、2の…3っ!!」


匍匐前進して発砲する鈴木と佐藤。水風船が割れていく相手チームの中を駆け抜ける大神と加山。立ちはだかる軍人を斬る大神。水風船が割れる軍人。旗が立つ岩場に手をかける加山。

「よっしゃあ!も〜ら――」

周りが暗くなり、見上げ、驚く加山。蒸気戦車が加山をロックオンする。

「〜〜じょ…、蒸気戦車だとぉっ!?」

「まずい…!加山、作戦3に切り替えろ!!」


間一髪で砲弾を免れる加山。

「よし!この加山様をなめるなよっ!」

戦車をよじ登り、フロントガラスにインク入り水風船をぶつける加山。戦車の蒸気チューブを斬る大神。暴走し、動かなくなる戦車。

「加山、今だ!」

「了解!!」


岩場に飛び移り、旗に手をかけようとする加山に刀を突きつける教官。

「ふははは!!貴様らの負けだ、5班!」

「〜〜何…!?」

「戦場とはめまぐるしく状況が変わる。逆転など何度でもありうるのだよ」

「――それはこちらの台詞ですよ、斎藤教官」


教官の後頭部に銃を突きつける大神。驚く教官。

「〜〜な…っ、貴様、いつの間に…!?」

「戦場では何が起こるかわからない。常に周囲に気を配り、迅速な判断を下す…ですよね?」

「もし、これが本当の戦だったら、確実に死んでましたねぇ、教官殿!」


旗を奪い、訓練場を見下ろし、旗を振る加山と大神。花火が上がり、終了のサイレン。喜ぶ味方チーム。

「〜〜ええいっ!調子に乗るな!!最後だから華を持たせてやったのだ!!」

「はいはい、そりゃどうも」


悔しがりながら去る教官。笑い合い、ハイタッチする大神と加山。

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海軍の船・甲板。ギターを弾く加山。酒を飲む大神。共に歌い、笑う二人。

「ハハハ!見たかよ、さっきの教官の顔!結局最後まで勝てないでやんの」

「あぁ、これでお互い気持ち良く卒業できるな」

「卒業かぁ…。ついこの間、士官学校に入ったと思ったのにな…」

「そうだな…。加山はもう配属願い出したのか?」

「いや、まだ考え中。お前は?なんてったって首席なんだから、より取り見取りだろ?」

「そんなことないさ。俺もまだ経験不足だからな。もう少し現場で勉強させてもらおうと思ってる」

「へへっ、このぉ、最後まで優等生ぶりやがって!」


大神をヘッドロックし、笑い合う二人。

「まぁ、今夜は飲もうぜ!明後日の卒業式に向けてな」

「そうだな」

「ゴホン!えー、では我々と日本国の明日に!」

「乾杯!」


グラスを鳴らす二人。

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「かんぱーい!」

人々が乾杯。神崎重工の祝賀会。すみれの父に報道陣が集まってくる。

「社長、今回の蒸気船開発プロジェクトも大成功だったようですね!」

「来年はアメリカにも規模を広げるという話ですが?」

「私達重役の力だけではこうも業績を上げることはできませんでした。これも常日頃精進してくれている社員や作業員一人一人の努力の賜物です」


父を横目で見て、去るドレスのすみれ。呼び止めるメイド。

「すみれお嬢様、いかがされました?」

「気分がすぐれませんの。帰らせて頂きますわ」


不機嫌で車に乗って去っていくすみれ。

「しかし、旦那様は最後までご一緒にと…」

「失礼」

「〜〜あ…、お嬢様ぁ…!」

「…ふぅ、あんな馬鹿騒ぎ、付き合ってられませんわ」


あくびするすみれがバックミラーに映る。

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すみれの部屋。壁にすみれと三色すみれの写真。ベッドで寝返りを打つ寝間着のすみれ。目を開け、後ろを見る。

「――どなた?コソ泥なら容赦しませんわよ」

「さすがは神崎重工の一人娘…。光武開発に一役買っただけはあるわね」


カーテンが揺れ、テラスに軍服のあやめが立って微笑んでいる。座り、長刀を構えるすみれ。あやめの襟に少佐の紋章を見つける。

「陸軍のお偉いさんもお金に困ってらっしゃるのかしら?」

「ごめんなさい、驚かせちゃって。でも、安心して。私は泥棒じゃないわ」

「でしたら何ですの、こんな真夜中に?不謹慎ではありません?」

「えぇ、でも、この時間じゃないと、不用意にあなたに近づけないのよ。財閥のお嬢様はガードが厳しくてね…」


すみれに招待状を飛ばすあやめ。キャッチするすみれ。

「帝国華撃団…?」

「私達には今、あなたが必要なの。気が向いたら連絡してみて。良い退屈しのぎになると思うわ」


飛び降りるあやめ。驚き、テラスを見渡し、招待状を見つめるすみれ。

「――大帝国劇場…?」

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蒸気鉄道が通る。建設中の大帝国劇場を見上げ、連絡する米田。

「あぁ、あやめ君かい?こっちは順調だよ、もう少しで完成だ。――なぁに、今は飲んでねーよ、大事な劇場が手抜き工事されたら、たまんねーからなぁ。――信じられねーってか?ま、いいさ。それよりそっちはどうだ?」

「はい、こちらも順調です」


海を船で渡るあやめとカンナ。自分も出たいとアピールするカンナ。

「え?――あ、はいはい。支配人、カンナに代わりますね」

カンナにキネマトロンを渡すあやめ。

「もしもーし!あんたが米田支配人かい?あたいは桐島カンナってんだ。今からそっちに行くから、よろしく頼むぜ!しっかし、何だい、この面白ぇ機械は?小さいうえに離れた相手に連絡できるなんてさ!ちっちぇえ電話みたいだな!そのうちこういう電話ができるかもな、アハハ…!」

近づいてくる男三人に気づくあやめ。カンナはキネマトロンに夢中。

「よぉ、お姉さん、美人だね〜!あっちで俺達と遊ばない?」

あやめの手首を掴む男。

「せっかくだけど、お断りするわ。仕事中なの」

「いいじゃん、いいじゃ〜ん!そっちのバカでかい男なんてやめてさ〜」


カンナの耳が反応。

「――男…?もしかして、あたいのこと言ってるのかい…?」

「んあ?他に誰がいるんだ――」


カンナの睨みに後ずさる男達。キネマトロンが握力で割れる。聞こえず、不審がる米田。

「そうかい、そうかい…。あたいが2mある大女で、色黒で、ゴリラに見えると…」

「〜〜い、いや、そこまでは…」

「はぁ…、青い海と青い空に囲まれてこんなことしたくねぇけど…。――こりゃあ一回シメねーとダメみてぇだなぁ…!」


拳の骨を鳴らして近づくカンナ。後ずさる男達。

「〜〜なっ、何なんだ、この男は!?これでもくらえーっ!!」

殴りかかってきた男を投げ飛ばすカンナ。

「あたいは女だああああーっ!!」

他の男達も殴るカンナ。ため息をつくあやめ。

「カンナ、ほどほどにね…」

「あやめさんは黙っててくんなっ!!」


ノックアウトされる男達。

「いいか、よく聞け!琉球空手桐島流・第26代継承者・桐島カンナちゃんとはこのあたいだ!よーく覚えときなっ!!」

背中を踏まれ、気絶する男達。くすくす笑うあやめ。

★               ★


「――それで、その兄ちゃん達、どないしはったん?」

「私だけじゃ手をつけられなくて、警備員が来て、カンナもようやくね…」

「アハハ、そうかいな。なんや、大変やなぁ、あやめはんのお仕事も」


望遠鏡で神崎重工の工場を見る紅蘭。チャイナ服のあやめ。お互い中国語。

「そうかぁ…!その帝国華撃団っちゅーのに入れば、うちも好きなだけ機械がいじれるんやな?」

「えぇ。あなたの機械に関する知識は我が部隊に必要不可欠なの。予算は軍が全額負担するわ。安心して発明に没頭して頂戴」

「そうかいな!で、頼んどいた光武パワーアッププロジェクトは…?」

「えぇ、お願いしてもらってもいい?」

「もっちろんや!よっしゃ、腕が鳴るでぇ!発明は爆発や〜っ」


花火を打ち上げる紅蘭。

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ブラインドから夜空の花火を見るマリア。ニューヨーク・マリアのマンション。ソファーに座るあやめ。

「お願いできる、マリア?あなたの銃の腕と冷静な判断力は、帝国華撃団の大きな戦力になるのよ」

「…何故私なのですか?」

「あなたの霊力の高さ、そして…」


マリアを後ろから抱きしめるあやめ。

「寂しそうな瞳…。今まで一人ぼっちで辛かったでしょう?でも、これからは仲間がいるわ。帝都を守るという同じ使命を持った素敵な仲間が」

振り返らずにあやめを見るマリア。

「皆、あなたを必要としているのよ。これからは人を殺める為ではなく、守り、愛する為に力を使ってほしいの」

「……わかりました。では、一勝負お願いできますか?」


★               ★


マンションの屋上。風が吹き、靡くマリアとあやめのコート。

「これで私が勝ったら、一緒に日本に来てくれるわね?」

「いいでしょう…」


振り返り、銃を放つマリア。刀で5発の銃弾を弾き、突進するあやめ。

「はあああああっ!!」

(かかった…!)


銃口を向けるマリア。口元を緩ませ、間合いを置くあやめ。銃弾が外れる。

「〜〜何…!?」

マリアの喉に刀を突きつけるあやめ。

「勝負ありってとこかしら?」

「〜〜何故…、私のエンフィールドが6発弾と?」

「データ採取時に調べさせてもらったの。勝利にはまず敵を知らないとね」

「フッ…、――いいでしょう。あなたが上司なら心強いです」


エンフィールドを懐にしまい、微笑むマリア。

★               ★


フランス。今までの隊員達とのあやめの記憶を読み取るアイリス。

「きゃは!と〜っても面白いお姉ちゃん達だね!」

「ふふっ、気に入ってもらえた?」


ベッドに座るあやめとアイリスの周りに浮かぶぬいぐるみ達。

「うん!アイリスね、同じ力を持ったお友達が欲しかったんだ〜!うふふっ!これからは一緒に遊んでもらえるね、ジャンポール!」

「じゃあ、一緒に日本に来てくれる?」

「うん、いいよ!ねぇねぇ、この子達も一緒にいい?」


あやめの周りを飛ぶぬいぐるみ達。ジャンポールと握手するあやめ。

「もちろんよ。よろしくね、ジャンポール」

「――本当だ…」

「え?」

「あやめお姉ちゃん、本当にジャンポールと仲良くしたいって思ってる!アイリス、とっても嬉しいっ」

「アイリス…」

「よーし、ニッポンにしゅっぱ〜つ!」


ぬいぐるみと回るアイリスを見守るあやめ。劇場の上空を飛ぶ飛行機。

「よぉし、これで駒はそろった。いよいよ帝国華撃団の幕開けだ!」

「よっしゃあ、派手にやるで〜っ!」


花やしき支部で実験する紅蘭。実験室が爆発し、驚く人々。

★               ★


大帝国劇場・ホール。稽古するマリア、アイリス、カンナ、すみれ。

「――『クレモンティーヌ、君の為なら私は全てを捨てても構わない…!』」

「『あぁ、オンドレ様…、そのようなことをおっしゃられては私…』」

「『なりませぬ!オンドレさ――』」


すみれの裾を踏むカンナ。顔面から転ぶすみれ。

「ふぎゃっ!!〜〜いっ…〜〜たいではありませんこと、カンナさんっ!?」

「あ、悪い悪い、立ち位置少し間違えたよ」

「あなたのようなゴリラ女に全体重乗せて踏まれたら、私の美しい着物が破けてしまうではありませんか!!」

「んだとぉっ!?誰がゴリラ女だって!?」

「あーら、おかわいそうに…。鏡を見てもご自分のごつさがおわかりになれないのねぇ…。脳みそも筋肉でできているのではありません?」

「てんめぇ…!黙って聞いてりゃつけあがりやがって!この妖怪蛇女!!」

「〜〜何ですってぇっ!?」

「もう、喧嘩は駄目だってばぁ〜!あ〜ん、マリアもなんとか言ってよぉ」

「もう時間がないのよ。やる気がない奴は放っときましょう。さ、練習するわよ、アイリス」

「うぅ、マリアまでぇ…」


客席から見ている米田と軍服のあやめ。

「……本当に幕開けできるのか?」

「〜〜少し…、不安になってきましたね…」

「――副司令!」


やってくる三人娘。

「もうそろそろ、さくらさんが上野駅に到着する時刻です」

「あ、そうね。じゃあ椿、代わりにお迎え頼めるかしら?私、これから賢人会議に出席しなくちゃならなくなったのよ」

「はいっ、責任を持ってお連れします!会議、頑張って下さいね!」

「ふふっ、ありがとう。じゃあ、かすみと由里はポスターとパンフレットのチェックをお願い。何か不備があったら、報告して頂戴ね」

「了解しました!」「了解しました!」


元気に走っていく三人娘。

「さくらもいよいよ到着か…」

「はい。やっと手に入れましたからね、真宮寺家の血を継ぐ少女を…」

「あぁ、だが、もう二度とあんなことがあっちゃならねぇ…。その為に設立されたんだからな、ここはよ」


うつむくあやめ。

★               ★


列車の座席で一馬の写真を見ているさくら。

(お父様、いよいよさくらは帝都に立ちます…!)

上野駅に着く列車。荷物を持って降りるさくら。

「えっと、出口は…あ、すみません!」

すれ違う人々にどんどんぶつかりそうになるさくら。謝り続けるさくら。

「うぅ、人が多いなぁ…。劇場の人が迎えに来てくれるはずなんだけど…」

改札を出て、都会ぶりに驚く。

「わぁ、ここが帝都!?」

はしゃいで走っていくさくら。入れ違いになるさくらと椿。

「う〜ん…。どこ行っちゃったんだろう?列車が遅れてるのかなぁ?」

さくらの写真を見ながら、探す椿。店をはしゃいで見て回るさくら。

「何てハイカラなの!ここが帝都なのね!私の守る街、帝都〜っ!!」

大声に振り返る人々。

「あ、あれ…?改札出ちゃった…。まっず〜い、急いで戻らなきゃ…!」

さくらを呼び止める靴磨きの男。

「――ちょいと、そこのお嬢さん」

「え?私ですか?」

「あぁ、そうさ。お前さん、帝都は初めてかい?」

「はい、今日、仙台から出てきたばかりなんです!」

「そうかい。なら、俺が案内してやろうか?おのぼりさんじゃ右も左もわからんだろ」

「え?いいんですか?よろしくお願いします!」

「あぁ、いいとも。そうだな、まず何をするにも金だ。お前さん、持ってるかい?」

「え?はい、一応実家から持ってきましたが…」

「あー、その通貨は帝都じゃ使えねぇんだよ。待ってな、俺が両替してきてやるよ」

「本当ですか?ご親切にどうも〜!」


財布を渡すさくら。

「ちょっくら行ってくらぁ。そこで待っててくんな」

「はい、よろしくお願いします!」


お辞儀して見送るさくら。


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