★1−5★
夜。宴会しているさくら達。へとへとの大神が席を立つ。
「あれ?どうしたんですか、大神さん?」
「皆、明日も早いんだ。そろそろ寝よう」
「え〜?もうちっとだけ食おうぜ、隊長ぉ」
「そうだよぉ!夜更かし、楽しいよ!」
「駄目だ。敵が現れて、皆が二日酔いだったらどうするんだ!?」
「ノリが悪いですわねぇ。そんなんでは女性に嫌われてしまいましてよぉ」
「〜〜すみれ君、酒臭い…」
「あらぁ?少尉ってば近くで見るといい男ぉ〜」
「〜〜離れてくれぇ〜!」
甘えてくるすみれを離す大神。立ち上がるさくら。
「〜〜すみれさんっ!大神さんが嫌がってるじゃありませんか!!」
「…うるさいですわねぇ。田舎者の新人は黙ってらっしゃい!」
「〜〜何を〜っ!?」
取っ組み合うさくらとすみれ。大神とマリア以外は盛り上がる。
「ぎゃははは!もっとやんなはれ〜!!」
「…くだらない」
出ていき、うつ伏せで自室のベッドに倒れこむ大神。
「疲れたぁ…。腕痛ぇ…。〜〜もう食えねぇ…」
喧嘩を続けるさくらとすみれを盛り上げる紅蘭とカンナ。うとうとするアイリスにコートをかけるマリア。
「少しはしゃぎすぎたかな…。……ま、たまにはいいか…。おやすみー」
ノックする音。
「〜〜ふぁ〜い…?」
「私だけど、少しいい?」
「…え?〜〜は、はい!」
しゃきっと立ち上がる大神。入ってくる和服のあやめ。
「今日はお疲れ様。昨日来たばかりなのに大変だったわね。疲れたでしょう?」
「い、いえ!これも花組隊長の務めですから!」
「フフ、頼もしいわね。じゃあ、もう少し頼っちゃおうかな?」
大神を覗き込むあやめ。赤くなる大神。
「え…?は、はい、自分にできることでしたら…!」
懐中電灯を渡すあやめ。
「劇場の見回り…できる?」
「見回り…ですか?」
「そう。これから毎晩やってもらうわよ。だって隊長さんですものね?」
「あ…、はぁ…。了解しましたぁ…」
がっかりする大神。出て行こうとして振り返るあやめ。
「――あ、それからね、大神君」
「はいぃ?」
「私の部屋は隣だから、困ったことがあったら、遠慮なく来てね。鍵はいつでも開けておくから」
「え…?」
「これからはお隣同士、仲良くしましょうね」
「はっ、はい!大神一郎、夜の見回り、立派に務めてみせます!!」
笑顔で出ていくあやめ。にやける大神。
「よ〜っし!もうひと頑張りだぁ〜っ!!」
走って出ていく大神。隠れて見ているあやめ。
「ふふふっ、年下君って可愛いっ!」
★ ★
順に見回っていく大神。
「――皆、もう寝てるみたいだな」
格納庫で光武を懐中電灯で照らす大神。紅蘭が光武を整備している。
「あ、夜の見回りでっか?」
「紅蘭…!まだ起きてたのか?」
「まぁな。せやけど、もう整備も終わるさかい。うちもおいとまするで」
「毎日こんな遅くまでやってるのかい?」
「ま、大体な。この子らはうちの子供同然や。怪我したら直す、そして労ってやるんや。今日もよう頑張ってくれたなーってな」
「紅蘭…」
「なぁ、大神はん。なして今日、あんさんがあれだけの力出せた思う?」
「え?〜〜いや、それは…」
「ぷくく…!まぁ確かにあやめはんに興奮したんは否定せんよ。けどなぁ、同時にピンチになったあやめはんを助けたい思わんかったか?」
「それは当たり前だ!大勢の機動兵にあんなかよわい人が襲われたら…!!」
「せやから応えてくれたんよ、この光武がな。加山はんを助ける時だってそうやった。大神はんの素直な熱意が伝わったんやで」
「え…?だ、だって光武は機械だろ?」
「あー、何や、機械は生きとらん言うんか?」
「そりゃそうだろ。光武は俺達が操縦して、初めて動くのであって――」
「もうええわ。大神はんって男のくせに夢も浪漫もありゃしまへんのな」
「え…?お、おい、紅蘭…!…何あんなに怒ってるんだ?」
怒って出ていく紅蘭。
★ ★
頭を掻き、階段を昇る大神。支配人室から米田の声。
「――あぁ、坊ちゃんなら今日、こっちに来たぜ。――わかってるさ。確かに武術も心得てるし、頭も悪くない。だがなぁ、あいつには何かが足りねぇんだよ…」
「……誰と喋ってるんだ…?」
「おっと、噂をすればだ。じゃあ、また後でな」
電話を切る音。
「何突っ立てるんだ?早く入んな」
「はっ!し、失礼します!」
ノックし、一礼して入る大神。
「お前さんは堅苦しいなぁ。ここは劇場だ。軍の訓練所じゃねーんだよ」
「しかし…!」
「だから、おめぇは駄目なんだ」
驚く大神。立ち上がり、夜景を見る米田。
「今日の戦闘、ありゃ一体何だ?安い芝居小屋の笑劇か?」
「〜〜も、申し訳ありません…。全て隊長である自分の責任です…」
「隊長隊長っておめぇはそんなに偉ぇんか?」
「し、しかし、さくら君達隊員をまとめるのが隊長の務めであり…!」
「…で、あのザマか?」
うつむく大神。振り返る米田。
「いいか?さっきも言ったが、ここは劇場だ。よし、お前さんが舞台の主役だとしよう。お前さんは確かに他の脇役より優れた地位で、一番目立つ。出番も台詞も多い。…だが、それだけで芝居は成り立つか?」
「……いいえ…」
「わかるだろう?主役一人が目立ちゃいいってもんじゃないのさ。主役を支える脇役、出演者を支える裏方…。全員が一丸となって作り上げるもの、それが本当の芝居ってもんじゃねーのか?」
「――!」
「ま、お前さんは馬鹿じゃなさそうだしな。後はどうするか自分で考えな」
酒を注ぎ、飲み干す米田。出ていき、テラスに移動する大神。
(さすがは米田中将、日露戦争で活躍しただけはある。…その点、俺は…)
拳を握る大神。大神を見つけ、隣に来るあやめ。
「――大神君?」
「あやめさん…!」
「見回り、まだやってくれてたのね?御苦労様」
「いえ、今の自分にはこれぐらいしかできませんから…」
大神の手に自分の手を重ねるあやめ。どきっとなる大神。
「見て…!銀座の夜景、奇麗でしょう?」
「え、えぇ…」
「私ね、辛いことがあると、いつもここに来るの。ここからの夜景は銀座一だと思ってるわ」
「……あやめさんもあるんですか、悩むことなんて…?」
「私だって人間だもの。失敗したり、落ち込んだりすることもあるわ。でもね、その淀んだ気持ちがここに来ると、不思議と浄化されるのよね…」
「そうですね…。あの街の灯一つ一つが帝都…。一つでも消えたら美しさが欠けてしまう…」
「その灯を絶やさない為に私達は戦うのよ。帝都に虹の色を染め上げる戦士として」
「わかってます…。〜〜わかってますけど…」
「ねぇ、どうして米田中将は『日露に米田あり』なんて言われたと思う?」
「それは…きっと、統率力に優れていたんだと思います」
「それだけ?」
「え?は、はい…」
「うーん…。惜しいわねぇ、今の回答じゃ70点かな」
「いぃっ?」
「米田司令はね、ぶっきらぼうだけど、とっても心の温かい人なの。戦場に駆り出された部下達に優しく、時には厳しく接したわ。一緒にお酒を飲んで語り合ったり、悩みを聞いて叱咤激励してあげたり。いつでも心を正面からぶつけていたわ。だからかしら、日本軍は不利な状況だったにも関わらず、大国相手に勝てたのよ。それは見事なチームワークだったそうよ」
「心を正面から…」
「えぇ。ああ見えて、司令は愛に溢れた人なの。今も花組の隊員達を可愛がるだけでなく、心から信頼しているわ」
「信頼…。そうか…。俺、実を言うと少し調子に乗ってたんです。ずっと士官学校で首席でいて、訓練も実践も同じ、皆、俺の言うことを聞けば必ず勝てる、勝てなかったら部下のせいだって勝手に決めつけてました…。でも、ようやくわかったんです。悪に打ち勝つ為、今すべきことは何か…。それは部下達を…、いえ、仲間達をもっと知ることだと思うんです!」
「ふふっ、合格よ。じゃあ、後はどうするか、わかるわね?」
「はい!俺のすべきこと、今、俺がさくら君達にしてあげられることは…」
★ ★
煉瓦亭。席に座る大神と花組。テーブルに並ぶ人数分のステーキ。
「さぁ、今日は俺のおごりだ!何でも好きなもの注文してくれ!」
「うっひょ〜っ!!肉だ、肉〜っ!!」
「いっただきま〜すっ!!」
喜んで食べるさくら、アイリス、カンナ。
「はいは〜い!アイリス、オムライスも〜!!」
「あ〜、ずる〜い!私もお願いしま〜す!!」
「今日は目一杯語り合おう!俺、もっと皆のことが知りたいんだ」
「…どういう風の吹きまわしですか?」
「そのままの意味だよ。互いのことを何も知らないんじゃ、良いチームワークなんて築けないだろ?」
「チームワークぅ?はん、そんなものなくても、あんな機械になんか十分勝てますわ」
「でも、この前は吹っ飛ばされてたじゃないですか」
「〜〜さくらさんのくせにツッコむなんて生意気ですわっ!」
「今日一日で全て知ろうだなんて思わない。少しずつでいいんだ。明日は挨拶だけだっていい。毎日君達と接して、絆を深めていきたいんだ。隊長の俺とだけじゃない、隊員同士、協力や思いやりの気持ちを知ってほしい。俺も毎日努力する!だから皆も――」
席を立ち、出ていくマリア。
「…新米のくせに偉そうな口叩かないで下さい」
「あ、マリア…!」
「私もお買い物の時間ですわ。今日は三越で新しいお洋服を買う日ですの。失礼、小川少尉」
「〜〜大神なんだけど…」
「うーん、うちも光武の整備があるさかいなぁ…」
「うぅ〜、眠いと思ったらアイリスもお昼寝の時間だぁ…」
「おっと、あたいも空手の特訓の時間だぜ」
「〜〜ちょ、ちょっと皆…!」
「ごめんね、お兄ちゃん!お肉、おいしかったよ!」
「悪い、また後でな!」
出ていくすみれとアイリス達。ため息つく大神。
「安心して下さい、大神さん!私、全員の残り、頑張って食べます!!」
「〜〜そ、そう…。ありがとう、さくら君…」
(〜〜はぁ…、そう簡単には心を開いてくれないか……)
頑張って食べるさくら、外で犯人を見つける。
「――ん…?〜〜あぁ〜っ!!あのおじさん…!!」
「ど、どうしたんだい!?」
「あのおじさんです!!私のお財布、盗ったの…!!」
「何だって…!?――よし…!」
「あ、大神さん…!」
走り、犯人を追いかける大神。金を勘定している犯人。
「へへへ、今日も大漁だぜ…!」
「待てーっ!!」
走ってくる大神に気づき、逃げる犯人。
「〜〜な、何だ、あの男…!?ちっ、サツか…!?」
犯人の逃げていく先にいるすみれ達。騒ぎに振り返る。
「皆ぁ、そいつは窃盗犯だ!!捕まえてくれーっ!!」
「何…!?」
「どけどけ〜いっ!!」
「きゃあっ!!」
アイリスを突き飛ばす犯人。
「アイリス…!!〜〜何すんだよ、オッサン!!」
背負い投げするカンナ。さくらの財布が飛び出す。
「あぁっ!!私の財布です!!」
財布をつかもうとする犯人の手を踏む紅蘭。
「ふっふっふ〜、そんな間違った道歩いてたら、今にしっぺ返しが来るで!?こんな風になぁ?」
インク入り水鉄砲を顔面に発射する紅蘭。
「へっへーん!どや?これぞうちの発明品『カラフルくん』や!」
「〜〜く、くそぉ、目が見えん…!!〜〜ぎゃあっ!?」
立ち上がろうとする犯人に巨大なジャンポールを落とすアイリス。
「も〜っ!アイリス、痛かったんだからね!?」
「〜〜くっ、放せぇ〜!!」
財布を拾おうとする犯人より先に拾うすみれ。
「こんなはしたお金欲しさに罪を犯すなんて、よっぽどの馬鹿者ですわね」
さくらの財布の中身を調べるすみれ。取り返すさくら。お守りがある。
「よかった、盗まれてない…!」
ジャンポールから抜け出し、逃げる犯人を押さえ込む大神。
「逃がすか…っ!!」
「〜〜離せぇっ!!この小僧!!」
犯人に黙って銃を突きつけ、引き金を引こうとするマリア。慌てる犯人。
「〜〜あ…、ご、ごめんなさい…!も、もうこんなことしませんから…!!」
「――バーン!!」
大声で叫ぶマリア。失神する犯人。
「〜〜よ、よかった…。本当に撃つかと思ったよ…」
「…無駄な殺生はしないと決めましたから」
周りで見ていた群衆が拍手と歓声。
「――そうだ…、これだよ…!これがチームワークだ!皆、わかってくれただろう…!?」
すでに遠くにいるアイリス達。
「いい準備運動になったぜ!今日は牛殺しでもするかぁ!」
「まったく、これだから野蛮人は…」
「『カラフルくん』、とりあえず第一実験成功っと…!」
「マリアぁ、寝る前に絵本読んでぇ」
「…そんなの少尉に頼みなさい」
「〜〜はぁ…、だめか…。…中身はどうだい、さくらく――?」
涙ぐむさくらに驚く大神。
「さくら君…?」
「よかった…。このお守り、死んだお父様が最後にくれたものなんです…」
「さくら君…、――そうか…」
「〜〜本当によかったぁ…」
泣くさくらに微笑み、軽く抱きしめる大神。群衆に紛れて見つめ、笑う軍服の叉丹。歩いていくと、景色が闇へ。黒之巣会・本拠地に入り、普段の服へ。歩いてきて横に並び、玉座に座る天海にひざまずく死天王。
「紅のミロク、ここに…!」
「蒼き刹那、ここに!」
「白銀の羅刹、ここに!!」
「黒き叉丹!我ら黒之巣死天王、天海様の命によりここに見参!」
「時は来たれり!遂に我ら黒之巣会が新たな太正を支配する時が来た!」
「黒之巣会に栄光あれ!」
「西洋文化を排除せよ!!」
「帝都・東京を滅ぼせーっ!!」
死天王に合わせてコールする脇侍達。
「我が名は天海!帝都の最初にして最後の支配者なり!全ての者は我が前にひざまずくのだ!!ククク…、アーッハッハッハ…!!」
高笑いする天海。不気味に笑う叉丹。蠢く闇。
第1話、終わり
次回予告
私…、帝都になんて来ない方が良かったのでしょうか…?
せっかく主役に選ばれたのに、全然皆さんに追いつけません。
戦闘だって足引っ張ってばっかりで…。
…え?大神さん、私とデートしてくれるんですか!?
やったぁ!じゃあ、もうちょっと頑張っちゃおうっと!
次回、サクラ大戦『敵の名は黒之巣会』!太正桜に浪漫の嵐!
大神さん、そのブローチ、もしかして…!!
第2話へ
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