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「大神と藤枝姉妹のセクシー旅行記〜ダブル・ハネムーン編〜」
〜1日目・その4〜
世話になった機長やフライトアテンダント達に礼を言い、俺達は飛行機から降りて、南の島のホーリー・アイランドに到着した。トランクを転がしながら、外国の島の土を踏みしめる。
「ここがホーリー・アイランドかぁ…!」
俺達だけでなく、アロハシャツを着て、サングラスやレイをかけた様々な外国人の観光客達が来ていた。ギラギラ太陽のお出迎えに、あやめさんは帽子を深く被り直す。
「日差しが照りつけるようだわ…!日本はもうすぐ冬なのに、ここは随分暖かいのねぇ」
「この島は亜熱帯に属していますからね。一年中温暖な気候みたいですよ」
「羨ましいといえば羨ましいけど、私はやっぱり四季がはっきり分かれている方が好きだわ。春は桜が綺麗だし…!」
「はは、やっぱり俺もそう思います」
ヤシの木が両端に等間隔で生えている大通りでは、島独自のアクセサリーや人形、レストランなどの多くの店が並んでおり、土産物がたくさん売られている。セレブ御用達の世界の高級ブランド店が並ぶショッピングモールも充実しており、ロープウェーや路面鉄道、バス、観光タクシーもたくさん走っているので、移動の時も便利そうだ。
「わぁ…、見て、大神君…!」
ホテルに近づくにつれて、海も見えてきた。美しく澄んだマリン・ブルーの海に色とりどりの水着を着た観光客で賑わう白い砂浜…!
島の雰囲気といい、南風の心地良さといい、海軍演習で滞在していたハワイによく似ているな。まさに常夏の楽園と言っていいだろう。
「――あ、あそこがホテルじゃない?」
『セイント・フラワー・ホテル』俺達が宿泊するホテルが見えてきた。
俺達の他にも船や自家用ジェット機で到着した外国人の観光客達がホテルにたくさん出入りしていた。
和の心を重んじ、客をもてなす日本の旅館とは雰囲気が違う近代的な造りの高層ビルを見上げてみる。これがホテルというものなのか…!
「へぇ、さすがは島で一番のホテルね…!」
「入ってみましょうか」
正面玄関から入ると、ホテルマンが礼儀良く頭を下げてきたので、俺も慌てて下げ返した。
「う〜んと、フロントは…。――あ、あそこね…」
「えっと…、――エクスキューズミー、ウィーアー イチロー・オオガミ、アヤメ・オオガミ、アンド…、カエデ・オオガミ…。オ…、OK?」
「Oh!お待ちしておりました、大神様…!『セイント・フラワー・ホテル』へようこそ!こちらがお部屋のルームキーでございます」
明るい笑顔が印象的なフロントの金髪女性は、饒舌な日本語で部屋のルームキーを渡してくれた。
何だ…、日本語通じたのか…。せっかく、勇気を持って、覚えたての英語を披露したのに…。〜〜恥ずかしい思いをしてしまった…。
「ふふっ、ありがとね、大神君。それじゃあ、お部屋に行きましょうか」
俺達の部屋は7階の777号室。何だかとってもラッキーな数字の並びだ。旅行中、本当に幸福が舞い込んでくるといいな…。
エレベーターを降り、777号室のドアをルームキーで開けると、お洒落なランプが枕元にある広いベッドルームと、大型の蒸気テレビジョンとソファーが置いてあるリビングが目に飛び込んできた。テラスでは綺麗な海が特等席で見渡せるみたいだ。
「へぇ、なかなか良い部屋ね…!」
「ベッドもフカフカだわ…!ふふっ、これなら三人一緒に寝られそうね」
「ふふっ、さっきあんなにヤりまくったのに、もう夜のこと期待してるの?姉さんったら本当好きよねぇ」
「あら、かえでだって同じ気持ちのくせに」
「〜〜な…っ、何言ってるのよ…っ!?ま、まぁ、ベッドの固さも丁度いいと思うけど…」
二人の会話を聞いているうちに、俺は興奮して思わず前屈みになってしまった。機内であれだけ男の役目を果たしたというのに、俺の分身はまだまだ元気らしい…。〜〜と、とりあえず、話題をそらしてみよう…!
「〜〜6時か…。そろそろ夕飯の時間ですけど、どうします?」
「ふふっ、いっぱい運動したから、お腹すいちゃったものね…!」
「どうせなら、バイキングにしましょうよ。ビール、飲み放題よ〜!」
「ふふっ、私はワインがいいわね。あ、もし日本酒があったら、そっちがいいかも…!」
〜〜二人とも、機内であれだけ飲んだというのに、まだ飲み足りないのか…!?『飲みすぎないで下さいよ?』って言ったら絶対怒られるので、黙っておこう…。
俺達は荷物を部屋に置いて、ホテルの中にあるレストラン街に出かけた。和食、中華、フレンチ、イタリアン、インド料理などなど、どれもそれぞれの国の料理人がちゃんと作る本格的な店ばかりだ。俺達はかえでさんのリクエスト通り、バイキング専門店に入った。
海でとれる新鮮なシーフードを使ったパエリアやロブスターなどの料理が食べ放題で楽しめる。どの料理も美味そうで、何から取ったらいいか迷ってしまう。なので、俺は色々な料理を少しずつ取る戦法に出ることにした。
周りの外国人達は一回で皿に盛る料理のボリュームがハンパない…!また、飲み物を注ぐグラスも日本のよりはるかにデカかった…!〜〜外国人は毎日この量をペロリと平らげるのだろうか…?日本人より外国人の方が肥満で悩む人が多いというのも納得がいく。
「ふふっ、嬉しいわね〜!ビールもワインも飲み放題ですもの!」
「かえで、ほどほどにしておきなさいね?」
「〜〜ジョッキ持ってる姉さんには言われたくないわね…」
「ふふっ、せっかくのハネムーンなんだし、たまにはいいじゃない。――ほら、大神君もどんどん飲んでね!」
「は、はい…」
〜〜だから、俺は酒に弱いんだってば…。なかなか酒が進まない俺にあやめさんはしびれを切らしたのか、白ワインを口に含むと、俺の唇を奪い、俺の口に流し込んできた。
「ふふっ、白ワインって飲みやすいでしょ?」
「あ、ありがとうございます…」
あやめさんにキス越しで飲まされてしまった…!こんな飲み方なら、俺もじゃんじゃん飲めてしまうのだが…。〜〜こんなことしてくるなんて、あやめさん、もうすでに酔っ払ってるな…。
かえでさんも負けじとあやめさんと同じ方法で、俺の口にビールを流し込んだ。かえでさんの口の端からビールが垂れてしまったので、もったいないと、俺は舐めてやる。
「あん…っ!ふふっ、美味しいでしょ?」
「えぇ、たまにはいいものですね」
「ふふっ、大神くぅ〜ん、お姉さん達がもっと飲ませてあ・げ・る…!」
できあがりつつあるあやめさんとかえでさんは陽気に笑い、俺の腕に抱きついてきた。
「も、もう充分ですよ。〜〜皆、見てますし…。――ほら、それより…」
俺は地元の観光ガイドブックを開いた。三人ともベロンベロンにならないうちに、3泊4日の日程を立てておかなくては…!
「有名な観光スポットはいくつか押さえておきました。この印がついた場所がそうですね。他にどこか行きたい所があったら、言って下さい」
「ふふっ、さすがは大神君ね。頼もしいわ…!」
「私はビーチに行きたいわ。水着一応持ってきたけど、新しいの買っちゃおうかしら。うふふっ!」
いつもは花組や子供の意見が優先されてしまうが、今回の旅は何の制約も受けることなく、自分達の好きな時間に好きな場所に行ける。もちろん、大人の楽しみを味わえる場所にも…だ。……二人には内緒だが、後でこっそり行ってみたいと思う…。
食事の後は、このホテルの屋上にある露店風呂に入ることにした。
『サムライ』『ゲイシャ』と書かれたのれんは、おそらく、『男湯』と『女湯』のことだろう。
このホテルのオーナーは大の日本フリークらしく、日本ではおなじみの露天風呂も、この島ではこのホテルにしかないらしい。そもそも、外国には皆で入る銭湯や露天風呂というものはないらしく、バスルームのバスタブで泡風呂に入り、シャワーを浴びるというのが主流な入り方らしい。
「――それじゃあ、後でね」
「はい、ゆっくり入ってきて下さいね」
女湯のあやめさんとかえでさんと分かれ、俺は『サムライ』ののれんをくぐって脱衣所に入った。すると、『海人』の漢字がプリントされたTシャツを着た清掃員が掃除しているのを見かけた。清掃員のおじさんは日本人の俺を見つけると、ハイテンションで笑いながら握手してきた。
「OH〜!ジャパニ〜ズ!フジヤマ〜!!サムラ〜イ!!Hahaha…!!」
どうやら日本のことが大好きらしい。そういえば、外国人の間で日本は人気があると聞いたことがある。自分の国にそんなに多くの外国人が興味を持ってくれていることは、日本人として大変嬉しい限りだ。
たどたどしい英語と身振り手振りで、何とかおじさんと喋ることができて、仲良くなることができた。見知らぬ土地で、見知らぬ人とこうして心を通わせるのもいいものだよな…。
俺は脱衣所で服を脱ぎ、扉を開けた。ガラガラガラ…。
高層ビルの屋上ということで、開けた瞬間は寒かったが、目の前に広がる巨大な露天風呂からたつ湯気ですぐに体が温まった。乳白色の湯は肌がスベスベになりそうで、女性は喜びそうだ。
「へぇ、ミルク風呂かぁ…。女湯はどういうんだろう…?」
「――はぁ…、気持ちいい〜…!」
入ろうと足を入れた時、聞き慣れた女性の声がすぐ近くで聞こえてきた。
「ん…?――あら、大神君…!」
何とあやめさんとかえでさんがもうすでに湯船に入っていたのだ。
「〜〜な…っ!?ここ、男湯ですよ…!?」
「私達も清掃員の方に聞いてビックリしたわ。ここの露天は混浴なんですって。分かれていたのは脱衣所だけみたいね」
そうだったのか…。混浴だったなんて、ツイてるな…!ルーム番号が777なだけはある!しかも、今は俺達以外誰も入っていない。この露天風呂は別料金なので、きっと、部屋に付いているバスルームのシャワーで済ませてしまう人が多いのだろう。
あやめさんは湯に浸かったまま近づいてくると、嬉しそうに俺の肩にそっと寄り添った。
「ふふっ、こうしていると、何だか外国に来ている感じがしないわね」
「そうですね。湯加減も丁度良いですし…」
「ふふっ、お肌もスベスベになりそう…!」
かえでさんもあやめさんに遅れを取るまいと、俺の反対側の肩に寄り添った。両方の二の腕から感じる柔らかい感触に鼻の下が自然と伸びてしまう…。乳白色の湯だから、体がよく見えないのが残念だが…。
「――そろそろ、体洗っちゃおうかしら…?」
「そうね。のぼせちゃっても嫌だし…。大神君はゆっくり浸かってていいわよ?」
「あ…、はい」
俺の願いがミカエルに届いたのか、あやめさんとかえでさんがタオルで前を隠しながら、湯船から上がった。おぉ…、湯に滴る肌も艶めかしい…!
「『ぼでーそーぷ』ですって。さすがホテルは洒落た物が置いてあるわね」
「かえで、ちょっと太ったんじゃない?お尻が大きくなった気がするし…」
ぷにぷに…。
「〜〜きゃ…っ!?ちょ…っ、体洗えないでしょ…っ!?」
「うふふっ、じゃあ、姉さんが洗ってあげるわよ」
「〜〜んもう、まだ酔いが抜けてないわね…っ!?」
「ほら、じっとしてなさい。子供の頃に戻った気分でね」
「〜〜子供の頃はそんなとこ触ってこなかったじゃないのよぉ…っ!」
「ふふふっ、ほら、動かないの!」
「ふっ、お仕返しよ…っ!」
「きゃああっ!?〜〜ちょ…っ、かえで、やめてぇ…!」
互いの体を洗いながら触り合い、じゃれ合う藤枝姉妹…。『体が勝手に…』でもなかなか見られないレアな光景だ…!
「大神君…?顔が真っ赤よ?ふふっ、のぼせちゃったんじゃない?」
「〜〜そ、そうかもしれませんね…。俺もそろそろ体洗おうかな…」
俺が湯船から出るのを待っていたかのように、あやめさんとかえでさんは即座に自分達の真ん中に俺を座らせた。
「ふふっ、旦那様の体は、やっぱり奥様が洗わなくっちゃね!」
「優しい奥様達に感謝しなさいね?あ・な・た!」
あやめさんとかえでさんに耳に同時に息を吹きかけられると、俺の体はぞくぞくぞくっと良い意味で鳥肌が立った。
「ふふっ、リラックスしててね。背中は私が洗うわ」
「じゃあ、前は私が洗ってあげるわね。ほら、ちゃんと腕上げなさい」
むにゅ…っ!ぷにぷに…っ!洗って動く度にあやめさんとかえでさんの胸や尻が当たり、石鹸の匂いと混じった二人の良い匂いが鼻孔をくすぐる。美人姉妹もとい、美人妻達に今、俺は全身を洗われているんだ…!
「ふふっ、気持ちいい、大神君?」
そして、耳元で囁かれるあやめさんとかえでさんの色気たっぷりの声…!あぁ、なんて贅沢なひとときなんだろう…!
興奮した俺の腰に巻いていたタオルの一部分が元気にむくっと盛り上がった。
「ふふっ、あらあら、元気ねぇ」
「今はダ〜メ。――また今夜…ね」
あやめさんとかえでさんは狙っていた俺の反応に満足したらしく、したり顔で微笑んだ。
風呂から上がって、バスローブを着たあやめさんとかえでさんは、部屋の窓から夜景を眺めた。
「街の灯りがとっても綺麗…!はぁ…、ロマンチックねぇ…」
昼とはまた違う顔を見せる夜のホーリー・アイランド。歓楽街と思われるネオンも一際よく見える。
「…今、あそこに行ってみたいって思わなかった?」
「〜〜いぃっ!?お…、思ってませんよ…!」
〜〜計画していなかったと言えば嘘になるが、そんな店なんて、今はもうどうでもいい。俺には、こんなに魅力的な妻が二人もいるんだから…。
「明日もいいお天気になるといいわねぇ」
「ふふっ、ミカエルにお願いしておかないとね」
テラスで夜景を見るあやめさんとかえでさん。下の方を見ると、二人の突き出された大きくて形の良い尻がバスローブから見え隠れしている。先程同様、俺を興奮させる作戦なのだろう。相手の術中にハマるのは軍人として情けないが、男である以上、我慢するのは無理な話だった。
俺はテラスに出ると、並んでいるあやめさんとかえでさんの尻を両手で鷲掴みにして、遠慮なく揉み始めた。
「きゃああっ!」「ああんっ!」
獲物が引っかかった時のハンターのようなドヤ顔をしながら、あやめさんとかえでさんは歓喜の悲鳴をあげた。
もみもみもみ…。水風船のように弾力があって、張りも良い。ぷりんっという音が聞こえてきそうだ。
「夜の街もいいものですね。明日にでも出かけてみましょうか」
女の尻を揉みながらとは思えないほど、実に淡々と話す俺。興奮していると思われたら、姉妹の思うツボだからな…。上官になった以上、少し威厳を見せなくては…!
――ん?パンティーを履いてないのか…。フッ、二人ともヤる気満々じゃないか。俺はあやめさんの尻を揉みながら、かえでさんの方を尻から胸にターゲットを切り替え、揉み始めた。
「あああ…んっ!」
予想通り、良い反応だ。かえでさんは尻より胸を揉まれる方が好きみたいだからな。
「お、大神くぅん、私にもしてぇ…」
「フフ…、はいはい」
要望通り、俺はあやめさんの胸も揉み始めた。もみもみもみ…。俺の手の動きが変化する度に、あやめさんとかえでさんの胸の形と喘ぎ声も変化する。
「あっ、あっ、あぁっ、いいわ…!いいのぉ…っ!」
「大神くぅん…、早く来てぇ…っ!」
その言葉を待っていた俺は、早速、あやめさんとかえでさんを後ろから交互に貫いた。俺が激しく腰を振り始めて間もなく、あやめさんとかえでさんは同時に昇天したようで、手すりに掴まりながら、座り込んだ。
だが、俺はまだ物足りない。腰砕けになったあやめさんとかえでさんを抱きかかえてベッドに寝かせると、俺は再び二人と一つになった。
「ふふっ、大好きよ、大神君。ねぇ、もっとこっちに来て…」
「大神君、お願い…。今は私だけを見ていて…」
あやめさんとかえでさんはまるで盛りのついた獣のようにオスの俺を求め、メス同士で奪い合う。
こういう南の島などの開放的な場所では、普段奥底で眠っている人間の本能が解放されるという。理性など意味がない。熱帯夜の中、ただ本能のまま、俺達三人はお互いを愛し、求め、激しく愛し合う…!
「〜〜はぁ…、疲れた…」
俺はベッドに大の字になって寝転がった。さすがに一回で二人の女性を満足させるのは疲れるな…。
両隣りでは、あやめさんとかえでさんが俺に寄り添うように眠っている。2人のネグリジェの隙間からちらちら見える俺のキスマークが何ともエロい…。
高嶺の花だと思っていた藤枝姉妹が今、二人とも俺の妻として、こうして隣りにいる。最初はただの一目惚れだった。だが、帝劇で一緒に過ごすうちに、仲間として協力し合ううちに、俺の中で憧れ以上の感情が芽生えるようになった。ありがたいことに、あやめさんとかえでさんも俺に対して同じ感情を抱いてくれるようになった。
結婚して、子供が生まれた今もこの気持ちが変わったことは一度もない。
これからもずっと二人の傍にいて、守ってやりたい。夫として、上官として、そして、互いを必要とし、支え合う最高のパートナーとして…。
明日から本格的な旅行が始まる。今日は早く寝るとしよう…。
ザザァ…ン…!波の音だけが深夜の静寂の世界に響く。
――どのくらい眠った頃だろうか…?静寂だった世界に何かが入り込んだ。物音はしない。異様な何かしらを感じるのだ…。
俺は嫌な予感がして、ゆっくり目を開けた。
キィィィン…!突然、耳の中で超音波のような、ガラスを引っ掻いたような不快な音が響いた。その直後、急に息苦しくなって、体を強張らせた。〜〜か、体が動かない…!?金縛りか…!?
「〜〜う…っ、うぅん…」
「〜〜くぅ…ん…」
あやめさんとかえでさんもこの空気の変化に気づいたのか、うなされながら、ゆっくり目を開けた。
〜〜駄目だ…、声を掛けたくても、喉がつかえて、声が出ない…!あやめさんとかえでさんも同じ状態に陥っているらしい…。〜〜く…っ、一体何々だ…!?
すると、俺の目の前を二つの黒い影が過ぎた。……今のは…何だ…?
刹那、ぬぅ…っと二人の女性の青白い顔が俺達を覗き込んできた…!
「――!?」
「きゃあああああああっ!!」「きゃあああああああっ!!」
あやめさんとかえでさんは悲鳴をあげた。幽霊と思われる女性二人の視線はあやめさんとかえでさんにまっすぐ向かれている。何をするでもなく、ただじっと…、深海のような暗い青色の瞳で二人を見続ける…。
「〜〜いやあああっ!!やめてええっ!!やめてええええっ!!」
「〜〜あうぅ…っ、く…るしい…っ!し…っ、死ぬぅぅぅ…っ!」
あやめさんとかえでさんは我を忘れて取り乱し、泣き喚いている。一体どうしたというんだ…?
ただ恐怖を感じているだけとは思えない。もっと何かこう…、辛くて苦しいものが幽霊達から二人に流れ込んでいるような…。
〜〜まさか、二人を道連れにしようとしているのか…!?――そんなこと…っ、させるものかぁ…っ!!
「〜〜やめろぉぉぉぉぉっ!!」
俺は持てる限りの力を振り絞り、強力な光の霊力を発した。すると、幽霊達は後ずさるように姿を消した。金縛りも解け、体の自由を取り戻せた。
あやめさんとかえでさんは動けるようになると、口を押さえ、急いでバスルームに駆け込んだ。
「〜〜う…っ、おえええぇぇ…っ!!ごほっごほっ…!」
「ぐ…っ、おげえぇっ…げえぇぇ…っ!!〜〜はぁはぁはぁ……」
二人は洋式トイレを奪い合うように、交互にその中に嘔吐していく。
「だ、大丈夫ですか…!?」
二人の奇妙な様子に俺は心配になり、背中をさすってやった。
「〜〜う…あああぁぁ…ああ〜ん!うああ〜ん…!!」
「うわああああ〜ん、うあああああああ〜ん…!!」
涙と汗と鼻水でぐしょぐしょになりながら、あやめさんとかえでさんは子供のように泣き喚いた。先程、幽霊に見つめられた時と同じように…。
〜〜まさか、憑依されたのか…?いや、幽霊は目の前で消えていったはずだ…。
二人は巫女の力を継いでいる為、霊力が高い。きっと、その霊力の高さが仇となって、普通の人の何倍もの悪い霊的影響を受けてしまったのだろう…。
俺は黙って、あやめさんとかえでさんをぎゅっと抱きしめた。
「――安心して下さい。俺が傍にいますから…」
俺の声と温もりを感じて我に返ったのか、あやめさんとかえでさんは泣くのをやめて、俺を強く抱きしめ返した。
俺達は抱き合ったまま、ベッドの上に座った。超常現象が起こる前と同じように波の音だけが聞こえている。もうあの嫌な感じもしない…。
あやめさんとかえでさんは無言のまま、ボーッと虚ろな瞳で幽霊が消えていったテラスの方を見つめている…。俺が尋ねても、二人は無言でただその一点を見つめ続ける…。仕方なく、俺も黙ったまま、二人の肩を強く抱き寄せた。
そろそろ外が明るくなってきた。もう夜明けらしい…。まだ4時前だが、この島は陽が昇る時間が早いみたいだ。
「――ありがとう、大神君。もう大丈夫よ…」
あやめさんがポツリと呟いた。声の調子からすると、普段とさほど変わらなそうだが…。
「大丈夫ですか…?どこか体の異常とかは…?」
「えぇ、もう平気みたい…」
「〜〜う…っ、あんなのもう一度されたら、私…っ!」
嗚咽を漏らすかえでさんをあやめさんがなぐさめるように抱きしめた。
「あの幽霊からね…、とても強い哀しみと苦しみが流れ込んできたのよ…」
「あの二人は姉妹よ…。そして、私達に何かを訴えてきてる…。〜〜でも、何かが邪魔して、よく聞き取れなくて…」
あやめさんとかえでさんは、楽しくはしゃいでいた昨日までとは打って変わって、意気消沈している。あの幽霊達に負の感情をうつされたような状態だ…。
「……フロントに言って、部屋を変えてもらうよう頼んできますよ…」
「待って…!その必要はないと思うの…」
「〜〜しかし、あんな強い念をもう一度受けたら――!」
「私には、あの人達が私達を殺そうとしていたようには見えなかったわ。自分達だけの力ではどうにもならない、何か大きな悩みを抱えて成仏できないから、私達に助けを求めてきたんじゃないかしら…?」
「私も姉さんと同じ推測よ。この島で死んだ観光客…、もしくは地元の人間か…」
「白装束のようなものを着ていたから、もしかしたら何百年も前に何かの儀式の生贄にされたのかもしれないわね…」
「生贄…か。その姉妹について、詳しく調べてみる必要がありそうですね」
「そうね…。ごめんなさいね、せっかくスケジュール組んでくれたのに…」
「気になさらないで下さい。一応、昨日決めた場所に行ってみましょうか。情報なんてどこに転がっているかわかりませんし」
「そうね。なら、ここは二手に分かれて調査した方が効率がいいかもしれないわ。――大神君、一緒に行きましょうか!もちろん、YESよね?」
「いぃ…っ!?〜〜えぇと…」
「ダメよ、かえで。ちゃんと彼の意見も聞かなくっちゃ。――大神君は私とかえで、どちらと行動したいの?ふふっ、正直に言ってもらって構わないのよ?万が一かえでを選んだとしても、私はぜ〜んぜん怒らないから」
〜〜顔は笑ってても、何とも言い難いオーラであやめさんは威圧してくる…。これじゃ余計に答えづらいんだが…。
「フン、姉さんは外国慣れてるんだから、一人でも大丈夫でしょ?」
「慣れてるからこそ、私が彼をリードしてあげられるんじゃない。ふふっ、年下の子を可愛がるより、年上のお姉様に甘えたいって大神君がアイリスに話してたの、私、知ってるんだから…!そうだったわよね、大神君?」
「は、はい…」
確かにレニが帝撃に来る日に『年上と年下の人、どっちが好き?』ってアイリスに聞かれて、正直に話したことはあったが…。あやめさん、その時、いなかったはずなのに何で知ってるんだ…?ミカエルの千里眼か…!?
「〜〜何でハネムーンなのに、一人で過ごさなくちゃいけないのよっ!?ここは可愛い妹の為に姉が身を引くべきでしょうが…!!」
「あら、世話になってきた姉さんに恩返しするチャンスじゃないの」
〜〜こ、このままでは姉妹喧嘩が始まってしまう…!
「〜〜で…っ、では、午前9時から調査を兼ねたデートを開始するとして、午後2時まではあやめさんと、2時〜7時まではかえでさんと俺は行動することにします。……それなら、平等ですよね?」
「5時間ずつってことね…。まぁ、大神君が言うなら仕方ないわね…」
「ふふっ、そうね。見習いとは言っても、一応司令なわけだし…」
「ふふっ、命令には従わないとね…!」
あやめさんとかえでさんはベッドから下りて、俺の両腕にそれぞれ抱きついた。やっといつもの笑顔に戻ったようで、俺もホッと胸を撫で下ろした。
「安心して下さい。何があっても、俺が絶対にお二人をお守りしますから…!」
「大神君…」
「ふふっ、期待してるわよ」
ピンピロリロリ〜ン…!俺に対するあやめさんとかえでさんの好感度がまた上がったみたいだ。よし、この調子で今日もいくぞ…!
「さぁ、出かける準備をしなくっちゃね…!せっかくハネムーンに来たんですもの。楽しみながら調査しましょ!」
「はは、そうですね」
「とりあえず、レストランに行きましょうよ。吐いちゃったから、胃の中な〜んにも残ってなくて、ペコペコだわ…」
こうして、俺達のハネムーン2日目が始まった。
初日から謎の幽霊姉妹出現で少し不安だが、せっかくの新婚旅行なのだ。
三人仲良く、今日も楽しんでいこう…!
2日目・午前(あやめとデート編)に続く
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