★8−4★



日比谷公園。暴れる脇侍達。逃げる人々。空から見下ろす叉丹。

「帝都崩壊まであとわずか…。早く人間どもの苦しむ顔が見たいものだ」

瞬間移動してくるミロク。

「こっちは準備完了だよ。いつでも合図しとくれ」

「ふふ…、さすがは黒之巣会が誇る式神使いだ。では、始めるとしようか」


封印石の前に降り立ち、楔を打ち込む叉丹。

「頼んだぞ」

「ふふん、任せとくれよ。さぁ、行っといで、私の可愛い式神ちゃん!」


お札が式神に変わり、ミロクの肩に乗る。鳴き、肩から飛び降りて消える。

「くくく…、早く来るがいい、帝国華撃団…!」

「――そこまでよ!!」


翔鯨丸から飛び降りるあやめとマリア達の光武。

「帝国華撃団、参上!」

「おやおや、やっと来たね?」

「お前達の悪事もそこまでよ!!おとなしく脇侍を撤退させなさい!!」

「素直に聞くと思ってるのかい?でも、ようやくけりがつけられるねぇ!」


攻撃しようとしたミロクを制する叉丹。

「私一人で十分だ。お前は状況を天海様に報告しろ」

「ふん、自分だけおいしいとこ持ってくつもりかい?」

「おとなしく待っていろ。――後で面白いものを見せてやる」


あやめを見つめる叉丹。動揺し、叉丹を睨むあやめ。

「ふぅん…。ま、いいよ。手みやげ、楽しみにしてるからね」

瞬間移動するミロク。

「真宮寺の娘と大神は不在か…。皆殺しにしてやろうと思ったのだがな」

「へっ!その強気がいつまで続くかねぇ!?」

「この間の借り、きっちり返して差し上げますわ!」

「面白い。行け、脇侍ども!」


襲ってくる脇侍達。

「皆、行くわよ!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


向かっていくあやめ達。笑う叉丹。三角形の結界に囲まれるあやめ達。

「〜〜な、何…!?」

「かかったな、愚者ども…!」


結界が光り、光武達に電流が流れる。

「きゃああああーっ!!」

「素晴らしい…!これが小娘達の霊力か…!!」


霊力を手中に集める叉丹。電流がやみ、倒れるあやめ達。

「〜〜う…っ、皆、大丈夫…?」

「な、何とか…。とりあえずここから脱出を…」


動かそうとするが、光武が動かない。

「〜〜こ、光武が…!」

「何でぇ!?動かないよぉ!!」


紅蘭の霊力測定器の全員の霊力値が急降下。

「〜〜あ、あかん…!霊力値が…!!」

翔鯨丸。機械を動かす風組。

「全隊員の霊力値、急降下!〜〜ほぼゼロに等しいです…!」

「〜〜な、何が起こったんだ!?」

「結界に高妖力反応、確認!叉丹の魔力が霊力を奪っているのかと…!」

「〜〜くそ…、やってくれるじゃねぇか…!」

「くくく…、どうした?早く反撃してみろ」

「〜〜こんの野郎おおおっ!!」


無理やり動かし、脇侍に攻撃するカンナ。ほとんど傷がつかない脇侍。

「〜〜だめだ…。力が出ねぇ…」

「卑怯ですわよ!?殿方なら、正々堂々勝負なさい!!」

「罠に気づかぬ貴様らが愚かなのだ。さぁ、ここからが本番だ…!」


襲いかかり、攻撃する脇侍達。揺れる光武の中。

「いや〜ん!!やめてよぉ!!」

「〜〜く…っ、あやめさん、ここは肉弾戦です!外に出て――」

「あかん!!今のうちらの霊力は一般人より低い!!攻撃受けたら、即お陀仏や」

「じゃあ、どうするのぉ!?」

「アイリス、翔鯨丸までテレポートできない!?」

「う〜ん…!!〜〜だめ、力が入らなぁい…」

「やはり霊力を奪い返すしかないようね…!私が囮になるから、皆は――」


あやめの光武の中に瞬間移動してくる生霊の叉丹。

「〜〜きゃ…!?」

消えるあやめの光武。あやめのカメラが砂嵐に。

「あやめさん!?」

「副司令!応答して下さい、副司令!!」

「〜〜副司令との通信、完全に途絶えました…!」

「〜〜くそ…、これじゃあ奴の思うつぼだぜ…」


青ざめるかすみ。座席を倒し、あやめの首を絞める叉丹。

「〜〜あうっ!?〜〜う…、い、いつの間に…?」

「意識を飛ばしているのだ。この私は生霊と同じ…」


外で目をつむり、剣に霊力を蓄積している叉丹の体。

「ようやく二人きりだな、あやめ」

「〜〜う…っ、何故…ですか…?どうしてあなたが…っ、こんなことを…!?」

「ふふ、我がアジトに案内してから話してやる」

「〜〜共に…帝都を守ろうと…っ、約束したではないですか…!〜〜なのに…!〜〜答えて下さい、あなたは山崎少佐なのでしょう…!?」

「頑固なところは変わってないな。――藤枝少尉」


目を見開くあやめ。短刀で抵抗する。頬から血を流し、笑う叉丹。

「〜〜今は少佐です…、山崎少佐…」

連絡を試みる紅蘭。何とか戦っているマリア達。

「〜〜あかん…!電波障害が起きとるわ…」

「くっ、心配だわ…。叉丹の奴だもの、何を考えているか…」

叉丹の呪文。背後に魔法陣。脇侍が次々出てくる。攻撃を受けるマリア達。

「〜〜くっ、こんな雑魚相手に無様ですわね…」

「〜〜やっぱり、お兄ちゃんとさくらがいなくちゃ…」

「諦めるな!儀式が終わったら、必ず来てくれるさ!」

「その通りよ!それまで何とか持ちこたえましょう…!」

「うん…。絶対…絶対、来てくれるよね…!」


悲しく街を見上げるアイリス。炎に包まれる日比谷。

★               ★


洞窟。虚ろな瞳で膝をつくさくら。黒い炎から現れ続ける鬼を斬る大神。

「〜〜まずい、このままでは二人とも…。聞こえるか、さくら君!?」

「帝都…滅ぼす…、帝都…」

「心を強く持て!!自分の過去を乗り越えるんだ!!〜〜うわあっ!!」


鬼に攻撃され、倒れる大神。反応がないさくら。

「〜〜くそ…、――!」

近くにあやめが作ったやっこさんが落ちている。

『――必ず帰ってきて…。約束よ…』

やっこさんを踏みつぶす鬼。

「〜〜やめろおおっ!!」

鬼を斬り、ぼろぼろのやっこさんを拾う大神。

「……君の心はそんなに弱いものだったのか…?真宮寺の次期当主になるんだろう?〜〜大佐のような立派な跡取りになるんじゃなかったのか!?」

少し指が動くさくら。鬼の攻撃を防ぐ大神。

「思い出せ、君の父君が命をかけて守った帝都を…!!」

「お父…様…?」


瞳に生気が戻るさくら。

「確かに帝都には魔が集まるし、罪を犯す身勝手な奴もいる!!けど、君は何故帝都を守っている!?人々の笑顔を守りたいからじゃなかったのか!?」

「……でも、わからなくなっちゃいました…。私の故郷は仙台です。帝都なんて来たばっかりで、何の思い入れもない…。なのに、私は帝国華撃団として帝都を守り、お父様は自分の命を犠牲にしてまで同じ帝都を守り抜いた…。どうしてですか…?任務だったからですか?私達家族と離れてまでやる必要があったんですか…!?もし、本当に私達が大切だったら、帝都なんて行かずに仙台に残ったはずです!〜〜そしたら、お父様は今も…」


うつむいて泣くさくら。炎に飛び込み、前転して着地する大神。

「大神さんっ!?」

「…じゃあさ、君はどうして戦っているんだ?」

「え…?」

「俺は君のように高い霊力もないし、剣の腕だってまだまだだ…。俺だって生まれは栃木だし、海軍時代だってずっとハワイ沖にいた。だから、帝都には正直言って思い入れはほとんどないよ、君と同じでさ。だけど、俺達が戦わないで悪を野放しにしておいたらどうなる?帝都は勿論、俺の故郷の栃木も、いずれは君の仙台も…、魔の手に落ちる…」

「〜〜そ、それは…」

「だから、大佐は帝都を守り抜いたじゃないか?君達、家族を守りたくて」

「でも、死んじゃうなんて馬鹿みたいです!死んじゃったら、もう誰とも会えないんですよ!?楽しいことも何もできなくなっちゃうんですよ!?〜〜私は嫌です…!本当は戦うのが怖い…!まだ人生これからなのに、知らない人達の為に戦って命を落とすなんて…」


さくらを抱きしめる大神。

「怖いのは君だけじゃない。俺も他の皆だって同じさ。でも、俺達は選ばれたんだ。皆が高い霊力を持つわけではないし、武道に秀でてるわけじゃない。…俺の一族もね、皆高い霊力を持ってるから近所では化け物扱いさ」

「え…?」

「それで、俺は小さい頃、いつも思ってたんだ。どうしてこんな力を持ってるんだろう、こんな変な力、なくなればいいのに…って。年が離れた姉がいるんだけどね、その姉さんにいつも言われた、『人の目なんて気にするな。私達が力を持って生まれたのは、絶対に意味があるからだ』ってね」


幼い頃を思い出すさくら。

『――いずれわかる時が来る。何故この力が私達に授けられたのか、そして、何の為にその力を使うべきかをな…』

「だから帝都を…、人々を守るんですね…?」

「…嫌かい?」

「…いいえ。不思議ですね、大神さんとお話したら勇気が湧いてきました」


荒鷹を握り直すさくら。炎が消え、鬼が衰弱する。

「鬼が…!今なら倒せるかもしれない…!」

「大神さん、私の霊力に波長を合わせてくれますか?」

「よし、やってみよう…!」


荒鷹と刀を交差するさくらと大神。二人の体がピンクに光る。

「破邪剣征・桜花乱舞!!」

「破邪剣征・桜花乱舞!!」


一面に花吹雪。鬼が全て消える。ハイタッチするさくらと大神。扉が開く。

「扉が…!」

背後でさくらを優しく見守る一馬の霊。振り返るさくら。

「お父様…?」

「どうした…?」

「いえ…、――ただ…私はいつも見守られてたんだなって…」

目の前に光。出口で待つ若菜、桂、権爺と従者達。駆け寄る権爺。

「さくらお嬢様…!!」

「権爺…!」

「あ〜、ご無事で何よりでございます!この権爺、もう断腸の思いでお待ち申しておりました…!」

「あはは、もうオーバーなんだからぁ…」

「よく頑張りましたね、さくらさん」

「私一人の力ではありません。大神さんがいてくれなかったら、きっと乗り越えられませんでした…」

「そうですか。――大神さん、私共からもお礼を言わせて下さい。さくらを支えて下さって、本当にありがとうございました」

「俺は補佐をしたまでです。最後はさくら君自身がトラウマに勝ったんですから…」

「まぁ、ご謙遜を。ふふ、まるで死んだ主人を見ているようですわ。ふふっ、私がもう少し若ければ…」

「え…っ?」

「――と、おばあ様は申しておられます」


真面目な顔になる若菜。頬を朱に染める桂。

「〜〜は、はは…、おばあ様ですか…」

「うふふ…!もう、大神さんったら…」


大神達を照らす翔鯨丸。

「大神さぁん!さくらさぁん!早く来て下さぁい!」

「日比谷に黒之巣会が現れたんです…!!」

「えぇっ!?」

「先程、戦況をお伺いしたのですが、とても苦戦しておられるようで…」

「わかった、すぐ向かう!さくら君、行けるな!?」

「はい!真宮寺さくら、粉骨砕身の覚悟で頑張ります!」

「よし、では…!」

「――帝国華撃団、出撃!」


目を見開き、命令する桂。慌てて敬礼するさくらと大神。

「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」

★               ★


「〜〜きええええいっ!!」

日比谷公園。脇侍を倒すすみれ。背中合わせになるカンナ。

「〜〜はぁはぁ…。くっ、やっと一機ですか…」

「はぁはぁ…。〜〜ちくしょう…!これじゃあ被害が広がる一方だぜ…」


脇侍に吹き飛ばされる紅蘭。銃で倒すマリア。

「〜〜くっ…!もうアカンわ…」

「〜〜諦めないで…!隊長とさくらが絶対助けに来てくれるわ…!!」

「〜〜でも、もうヘトヘトだよぉ…」


連絡しようと手を伸ばすあやめ。叉丹の生霊に腕を掴まれる。

「おとなしく負けを認めろ。そこまでして何故帝都を守ろうとする?」

「〜〜それが私達の使命だからよ…!」

「使命?あの事件を知ってて言っているのか?沈んだ大陸『大和』を」

「――!!」

「お前も聞いたことがあるだろう?それでもまだ帝都や人間達を守る為に戦おうと言うのか?」

「〜〜それでも…私は…」


あやめの光武に式神が入り込む。確認し、笑う叉丹。

「…まぁよい。会えて楽しかったぞ」

囁き、消える生霊の叉丹。元の場所に戻る。襲ってくる脇侍を斬るあやめ。

「あやめお姉ちゃん!」

「ご無事でしたか…!」

「えぇ…。ごめんなさい、もう大丈夫よ」

「よかったぁ…。通信、回復しましたぁ!」

「よし、こっちも砲撃準備が整ったところだ!全員射程範囲から離れろ!!」

「〜〜な…っ!?」

「〜〜ほ、砲撃だってぇ!?」

「おやめ下さい!!そんなことをすれば、被害はますます…!!」

「そんなこと言ってられる状況じゃねぇだろ!?このままじゃ余計、日比谷は壊滅だ…!」

「〜〜し、しかし…!」

「自分の体裁が良ければいいか…。やはり愚かだな、人間も帝都も」

「――待って下さいっ!!」


翔鯨丸から飛び降りる大神とさくらの光武。

「破邪剣征・桜花放神!!」

飛び降りながら放つさくら。三点の装置を撃破。解放されるあやめ達。

「狼虎滅却・千変万化!!」

壊れていく脇侍達。

「皆、無事か!?」

「お兄ちゃん!」

「さくら…!」

「遅くってよ、お二人さん?」

「すみません…!」

「儀式、うまくいったのね?おめでとう…!」

「はい、真宮寺さくら、パワーアップです!もう好き勝手にはさせません」

「少しは出来るようになったようだな。だが、たった二機で何ができる?」


黒の刃を放つ叉丹。あやめ達の周囲を通って地面に消えていく。

「きゃああああっ!!」

「皆さん…っ!」

「くくく…、早くせぬとこいつらは死ぬぞ?」

「卑怯な…!行くぞ、さくら君!叉丹を倒して、皆の霊力を取り戻すんだ!!」

「了解!」

「気をつけて!叉丹は私達の霊力を媒介にして、パワーアップしているわ」

「了解です!霊力の集まりは…、叉丹の剣ですね!?」

「え…?」

「大神さん、あの剣を狙いましょう!とてつもない妖気を感じます…!」

「あぁ!」


脇侍達を倒し、突き進むさくらを見つめるあやめ。大神は戦いながら。

(すごい霊力の高まりだ…!さすがは真宮寺の新当主…!)

(成長したわね、さくら…!)

「はああああっ!!」


荒鷹と叉丹の剣がぶつかり合う。

「ふっ、さすがは破邪の力。だが――」

「きゃあああっ!!」


剣圧で飛ばされ、荒鷹で支えて着地するさくら。

「剣筋がまだ鈍いぞ?本当は怖いのであろう、また私に負けるのが…?」

ハッとなり、震える手で荒鷹を握るさくら。叉丹の剣を荒鷹で受け止める。

「図星か…。荒鷹の真の力を発揮できぬのも無理あるまい」

新たな脇侍達が現れ、襲いかかる。身構えるあやめ達。刀で防ぐ大神。

「〜〜くそ…っ!さくら君、耳を貸すな!!」

「…確かに怖いわ。負けて死ぬのも、皆が傷ついて死んでいくのも嫌…!」

「さくら…」

「でも、だから私は戻ってきたの!私の故郷は仙台だけど、帝都には今、私の守りたいものがたくさんある!帝都に住む人々の笑顔、素敵な街並み、そして、帝国華撃団の仲間達…!!」

「さくら…!」

「皆がピンチだって聞いた時、すごく怖かった…。もう会えなくなったらどうしよう、何が何でも助けなきゃって…!その時、気づいたの…」

『――いずれわかる時が来る。何故この力が私達に授けられたのか、そして、何の為にその力を使うべきかをな…』

「私は大好きな人達を守る為、この力を授かった…!そして、大好きな人達を傷つける奴らを葬る為、力を使う!!」


荒鷹が光り、叉丹の剣にひびが入る。滅んでいく脇侍達。

「〜〜な、何…!?」

「すごいわ…!あれが真の破邪の力…!!」


驚くすみれ。

「破邪剣征・桜花放神!!」

「ぐあああああっ!!」


さくらの全身が光る。剣が割れ、飛ばされる叉丹。霊力があやめ達に戻る。息が切れ、汗だくで座り込むさくら。

「さくら…!!」

駆け寄るあやめ達。傷だらけで立ち上がる叉丹。

「ふ…、ふふふ…、ふはははは…!」

「〜〜な、何!?笑ってるよぉ!?」

「頭でも打ってイカれたか…!?」

「霊剣荒鷹…。くくく…、さすがは真宮寺の名剣…」


刀を構える大神。笑いながら後ずさり、消える叉丹。

「な、何だったんだ…?」

「さくら、大丈夫か!?さくら!?」


ハッチを開け、うつむいたままのさくらを揺り動かすカンナ。

「〜〜お…」

「お?」


お腹が鳴る音。

「〜〜お腹すいちゃいましたぁ…」

笑う大神達。

「ふふふ…、まったくさくらったら…」

「アイリスもお腹すいちゃった!お夜食食べようよ〜!」

「いいねぇ!ヨシカミで食ってこうぜ!メ〜トロで行こう〜♪ってな!」

「とっくに閉まってるっちゅーねん!それにその歌は、もっとこうビブラートをきかせてやなぁ――」


歌う紅蘭とカンナ。笑う花組。さくらを悔しく見つめるすみれ。

「――あやめさん、これ…」

ぼろぼろのやっこさんを見せる大神。

「あやめさんのおっしゃる通りでした。俺の身代わりになって、守ってくれたんです。もうだめだって何度も思いました…。でも、その度にあなたの顔を思い出して…。あなたの優しい笑顔が俺に勇気をくれたんです」

「大神君…。ふふっ、本当によかった。帰ってきてくれて」


赤くなり、大神の胸に顔をうずめるあやめ。

「本当言うと、少し怖かったの。もう生きて会えないんじゃないかって…」

「あやめさん…」


あやめの背中に手を回そうとする大神。割り込んでくる花組。

「――ってなわけで、夜食は帝劇特製茶漬けに決定したぜ〜い!!」

「早く帰って食べようよ〜!」


顔を見合わせ、笑い合う大神とあやめ。

「じゃあ、お夜食も決まったことだし、いつものアレ、やりましょうか?」

「はい!今回はさくら君、頼むよ」

「わかりました!では、行きますよ?勝利のポーズ…決めっ!」


ポーズとり、さくらを睨むすみれ。翔鯨丸。喜ぶ風組。軍帽を脱ぐ米田。

「よかったですねぇ、間に合って!」

「はぁ…。――あ?あぁ…、そうだな…」

「どうかなさったんですか?上層部から文句言われるのを承知で、砲撃しようとしたなんて…」

「らしくありませんでしたよぉ?」

「あぁ、まったくだ…。だけどよぉ、ちっとばかし不安だったんだよ。大神が不在の間、叉丹をあやめ君に近づけさせるのがな…」

「え?」

「――司令、教えて頂けませんか…?副司令と…葵叉丹の関係を…」


立ち上がるかすみ。黙って軍帽を被り直す米田。きょとんとする由里と椿。

★               ★


大帝国劇場。舞台を見終わって帰って行く人々。挨拶する大神。

「ありがとうございました!またお越し下さい!」

バケツに水を汲み、モップで舞台を掃除する大神。

「――大神さん」

「ん?さくら君か。今日も猪八戒、大好評だったね!」

「もぅ!それって褒め言葉になってませんよぉ」

「はは…、ごめん、ごめん。で、何か用かい?」

「儀式が終わったら、お伝えしたいことがあるって言いましたよね?」

「うん、確かに言ったね。それを言いに?」

「はい…!それでそのぉ…。〜〜わ、私…、〜〜あうぅ…、そ、そのぉ…」


赤くなり、袴を握り、頭を抱えるさくら。ネズミが出てきて、パニックに。

「きゃあっ!!ネズミぃっ!!〜〜あ…、あぁ〜っ!!」

「さくら君…っ!!〜〜あ痛っ!」


舞台から落ちるさくらを抱きとめる大神、頭をぶつける。大神を押し倒す形に。通りすがりに見て、ハッとなるあやめ。真っ赤になるさくら。

「あいたた…。だ、大丈夫かい…?」

「〜〜ご、ごめんなさいっ!!やっぱり何でもないんです!!忘れて下さい!!」

「え?さ、さくら君っ!?」


慌てて離れ、出入り口で立ち止まり、少し振り向くさくら。

「――戦いが終わったら…、絶対言いますから…!」

走り去るさくら。頭を掻く大神。

「何だったんだ…?――あれ?あやめさん、いらっしゃったんですか?」

「あなた達の声が聞こえたから…。いいわねぇ、若い人同士、楽しそうで」

「さくら君も元気になってよかったです。破邪の力もコントロールできるようになってきたみたいですし。でも、さっきのは何だったんだろう…?」

「ふふ…、鈍いわねぇ、大神君は。女の子の気持ちぐらいちゃんとわかってあげなきゃだめよ?」


額を小突くあやめ。

「――それから…、私の気持ちもね…」

「え…?」

「…なーんてね!大神君、七兎を追う者は一兎も得ずよ?」

「〜〜そ、そんなに追いかけてませんって!!〜〜わあっ!?」


モップがバケツにあたり、水をこぼして慌てる大神。笑って歩き、十字架のペンダントを落とすあやめ。山崎を回想。苦笑し、拾って去るあやめ。

★               ★


格納庫。黒く光るあやめの光武。水晶玉で見るミロク。

「いよいよだねぇ、叉丹」

微笑み、黒い炎にさくらと荒鷹を映す叉丹。

「真宮寺さくら…。破邪の力を持つ者のみが真の力を発揮する霊剣荒鷹。まずは一本…」

お猪口で酒を飲むミロク。築地。楔に霊力を与え、フラフラになる天海。

「ふふ…、ふふふふ…、あと少しだ…。待っておれよ、帝都の愚か者共…!」

高笑いする天海。楔が地中で黒く光る。

第8話、終わり

次回予告

山崎少佐…、あの頃のあなたはもう戻ってはこないのですか?
あなたを愛し、愛された日々は幻なんかじゃなかった…。
でも私、今、本当は…。
大神君…、ずっと傍にいるって約束して…!
次回、サクラ大戦『わたしの青空』!太正桜に浪漫の嵐!
もう、私は迷わない…!!


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