★8−3★



真宮寺の屋敷。正座するさくらと大神。前に若菜と桂。緊張し、荒鷹を前に出すさくら。

「荒鷹をここまで傷つけるとは、よほど苦しい戦いだったのですね、とおばあ様は申しておられます」

「は、はぁ…」


土下座するさくら。

「申し訳ございません…!!私の力が足りないばかりにお父様の形見を…」

「さくら君…」

「私から言うことは何もありません。今宵は荒鷹の儀式です。遅れないようにしなさい、とおばあ様は申しておられます」

「〜〜でも、やっぱり私…」


顔を上げるさくら。立ち上がり、出ていく桂。

「あなたは真宮寺の次期当主。破邪の血を引く唯一無二の存在です。厳しいことを言うかもしれませんが、これも試練…。成功を願っておりますよ」

出ていく若菜。

「私、本当にできるんでしょうか…?やっぱり不安になってきちゃった…」

「…儀式の準備はかかるのかい?」

「いいえ、白装束に着替えるくらいで…」

「だったらさ、案内してくれないかな?君の生まれ育った街を」


★               ★


仙台の名所を案内するさくら。

「ここのお店、牛タンがすっごくおいしいんですよ!」

牛タンを食べる大神とさくら。

「ここ、昔よくお父様とお母様と一緒に来たんです!緑がきれいでしょ?」

笑顔ではしゃぐさくらに微笑む大神。草原に寝転がるさくらと大神。

「はぁ…。楽しかった…!やっぱり仙台はいいですねぇ…」

「少しは元気になったみたいだね」

「え…?」

「よかった。今日はずっと元気ないみたいだったからさ…」

「もしかして、私を励ます為に…?」

「普段通りに振舞っているつもりでも、すぐわかるよ。君は素直だからね」

「〜〜もう!からかわないで下さいよぉ!」


赤くなり、座るさくら。風が吹き抜ける。大神も座る。

「いい風だね…」

「この緑も風も私の自慢なんです。帝都に比べれば田舎かもしれませんが、私はこの街が大好きです!お父様との思い出もたくさん詰まってるし…」

「真宮寺大佐ってどんな方だったんだい?」

「とーっても優しい人でした!自分の信念は絶対に曲げないし、何より私とお母様を一番に考えてくれて…。でも、怒るとすっごく怖いんです!小さい頃、近所のたけし君と一緒にいたずらしては、よく怒られてました。それで、一晩中納屋に閉じ込められるんです。泣いても許してくれなくて、本当に嫌われちゃったんじゃないかって不安になったこともあったけど、最後は笑って頭をなでてくれて…」

「良いお父様だったんだね…」

「はい!自慢の…、素敵な父でした…」


雷が鳴る。怯えるさくら。

「雷だ…。でも、まだ遠いね。…さくら君?」

「〜〜あ…、あぁ…」

「大丈夫かい?」

「あ…、す、すみません…!〜〜もうそろそろ帰りましょうか!おばあ様達に怒られちゃいますもんね。あ、今日の夕飯はサバの味噌煮だそうですよ!楽しみですねぇ〜!」


さくらを見つめる大神。

★               ★


「ただいま帰りました〜!」

屋敷。襖を開けるさくら、目が点。あやめとマリア達が桂、若菜とお茶中。

「〜〜み、皆さんっ!?」

「どうしてここに…!?」

「……お邪魔してます」


★               ★


さくらの部屋。笑う権爺。恥ずかしがって正座するあやめ達。

「さくらお嬢様が結婚ですか!いやはや、あっはははは…!!」

「〜〜由里め…!帰ったら、ただじゃすみませんことよ…!?」

「でも、よかったわ。本当なら式を中止してもらうはずだったんだけど…」

「あれぇ?延期じゃありまへんでしたっけ〜?」

「〜〜あ…、そ、そうだったかしら…?」

「ははは…!あやめさんの必死な形相、隊長にも見せてやりたかったぜ!」

「え…?」

「〜〜もう、大人をからかわないの!」


恥ずかしがる大神とあやめ。むっとなり、大神をつねるさくら。

「〜〜い…っ!?」

「…準備してきます」


怒って立ち去るさくら。さくら、大神、あやめを見る権爺。

「…なるほど。そういう相関図ですか」

「ねぇねぇ、権お爺ちゃん!荒鷹の儀式、アイリス達も出ていい!?」

「んー、まぁ、清めの儀式ぐらいなら…」

「――ならぬ…!」


入ってくる桂と若菜。

「これは真宮寺の大事な儀式。部外者は立ち入らぬようご理解頂きたい」

「ちゃんと喋れたんだ…」

「え?」

「〜〜あ、いえ…」

「えー?ちょびっとも駄目かぁ?」

「えぇ…。はるばるお越し下さって、本当に申し訳ないのですが…」

「ちぇー」

「ちぇ〜」

「その荒鷹の儀式ってどのようなことをするんですか?」

「まずは『清め』、仙台の山麓の冷水で体を清めます。次に『鍛冶』で荒鷹を鍛え直し、最後の『試練』で、最も信頼するパートナーと洞窟で最終試練に挑むのです」

「洞窟ではどういったことを…?」

「それは…、一言では申し上げられません」

「挑む者によって内容が変わるんじゃよ。わしは子供を助け、一馬は鬼を斬ることじゃった。いずれも過去のトラウマに関する事じゃったがな…」

「トラウマ…?」

「破邪の血、つまり邪を滅ぼす血を受け継いだ一族が真宮寺じゃ。さくらの霊力はお前さん達のとは少し違っての、悪を滅ぼす為だけに与えられた力なのじゃ。だがあまりに強く、使い様によっては自らを滅ぼしかねん…」

「それをコントロールする精神力を養う為、試練を受けるわけですね?」

「うむ。……ふっ、少し喋りすぎたかのぉ」


催促する桂に茶を渡す若菜。飲み干す桂。

「おばあ様と一馬さんは運良く帰還されましたが、先祖の中には命を落とした者も大勢いるとか…」

「まさに命がけの儀式なのじゃ…」


白装束で水を浴びるさくら。顔を上げ、荒鷹持参で歩く。途中でくしゃみ。

★               ★


荒鷹を鍛え直す鍛冶者達。正座して見守るさくら。部屋で大の字で蒲団に寝転がる大神。笑顔のさくらを思い出す。

(さくら君、大丈夫だろうか…?〜〜いや、部下を信頼するのも隊長の務めだと教わったばかりじゃないか…!絶対…、絶対大丈夫だ…!!)

足を組んで冥想する大神。廊下を歩くあやめ。降魔戦争の一馬を思い出す。

(大佐…。あなたのおかげで帝都は…)

気づき、顔を上げるあやめ。大神の部屋の前に立っている。

「私、いつの間に…?」

「――誰だい?」

襖を開け、驚く大神。

「あやめさん…?」

「ご、ごめんなさい、驚かせちゃったわね…」


真宮寺に関する本が置いてある。部屋に入って本を拾うあやめ。

「ふふっ、勉強家ね、大神君は」

「いえ、少しでもさくら君の負担を減らせればと…。…あやめさん?」

「――できた…!はい!」


大神に新聞紙で作った折り紙のやっこさんを渡すあやめ。

「おまじない。無事に帰ってこれるようにね」

「これ、やっこさんですよね?懐かしいな、よく姉に折ってもらいました」

「私も小さい頃ね、よく妹に折ってあげたの。このやっこさんを持っていれば、悲しいことや辛いことは全部身代わりになってくれるのよって…」


大神の胸のポケットにやっこさんを入れるあやめ。

「だから大丈夫!あなたの危険はこの子が全部カバーしてくれるから」

「はは、ありがとうございます…!」

「ふふっ、ごめんなさい。やっぱり不安よね?」

「本音を言えば…、少しだけ…」

「まぁ、ふふっ、しっかりしなさい、大神君!」


大神の額を小突くあやめ。

「あなたとさくらなら、きっと大丈夫よ。どんな試練が待ち受けていても、絶対に乗り越えられるわ…!さくらを、そして、自分を信じて、ね?」

大神の手を握り、寄り添うあやめ。赤くなる大神。

「そして、必ず帰ってきて…。約束よ…」

「あやめさん…」


見つめ合い、唇を近づける大神とあやめ。叉丹を回想し、大神を引き離す。

「ごめんなさい。どうかしてるわね。自分でもわからないの、どうしてここまで追いかけてきたのか、何故あなたにこんな気持ちを抱いてるのか…」

「あやめさん…、もしかして、他に好きな人でも…?」

「――!!」

「〜〜そう…ですよね。あなたみたいな方なら、俺なんかよりもっと――」

「〜〜違うの!!」


大神の背中に抱きつくあやめ。驚く大神。山崎と叉丹がぐるぐる回る。

「私は…、私は本当は…、〜〜あなたのことが――!!」

「〜〜ぎゃあああ〜っ!!」


襖を押し倒して前に倒れるすみれ達。

「〜〜き、君達…!!」

「〜〜あ、ははは…。やっほー…!」

「〜〜申し訳ありません…。止めたのですが…」


大神とあやめにそれぞれ駆け寄るアイリスとすみれ。

「お兄ちゃ〜ん!!浮気しちゃだめって言ったでしょ〜っ!?」

「〜〜副司令っ!!陸軍が恋人ではありませんでしたのっ!?」

「だからそれはお前の思い込みだっつーの!」


騒ぐすみれ達。我に返り、うつむくあやめ。

★               ★


豆がつぶれる鍛冶者。熱で倒れていく鍛冶者達。駆け寄ろうとするさくら。

「――平常心じゃ」

近づいてくる桂と若菜。

「無駄なことに心を動かされてはならぬ、とおばあ様は申しておられます」

「で、でも…」

「さくらさん、あなたはこの家の当主になるのですよ?常に冷静に、落着きを失ってはいけません…」


うつむき、座り直すさくら。倒れた鍛冶者を運ぶ従者。代わりの者を投入。

「……これも試練なのです…」

月光に照らされる鍛冶者達。

★               ★


提灯の灯り。従者を連れて歩くさくらと大神。さくらは普段の服。石碑の前で止まる。手を翳すさくら。霊力が発動し、石碑が動き、階段が現れる。

「行って参ります…!」

「お気をつけて…!この権爺、夜通しお待ち申し上げます故…」

「ありがとう、権爺」

「大神さん、さくらをお願いします…」

「お任せ下さい。必ずやさくら君を次期当主にしてみせます…!」


ホラ貝を吹く従者達。

「――大神さん」

「ん?」

「もし、無事に帰ってこれたら…、お伝えしたいことがあるんです」

「伝えたいこと…?何かな?」

「…知りたいですか?まだ秘密です。だから、絶対帰ってきましょうね!」

「あぁ、もちろんだ!」


照れるさくら。響き渡るホラ貝。屋敷で聞いているあやめ達。

「……いよいよかぁ…」

「〜〜くそっ!あたい達は何もしてやれないのかよ!?」

「落ちつきなさい。これはさくらにとって試練なの。真宮寺の当主としてだけでなく、華撃団の一員として成長する為のね…」

「〜〜さくらぁ…。絶対…、絶対帰ってくるよね!?」

「当たり前です!少尉もご一緒ですのよ!?心中などさせてたまりますか!!」

「大丈夫よ。今は祈りましょう。儀式が無事に終わるように…」


十字架のペンダントを握り、星空を見上げるあやめ。すみれ達も。あやめのキネマトロンが鳴る。受信するあやめの周りに集まるすみれ達。

「米田司令からだわ…。――はい、こちら、藤枝」

「まずいぞ、日比谷に黒之巣会が現れやがった!すぐ戻ってきてくれ!」

「な…っ!?〜〜しかし、さくらと大神少尉は今、荒鷹の儀式を…」

「お前達だけでも出撃してくれ!これじゃあ被害が広がる一方だ…!」


日比谷が破壊されるモニターを見る米田と風組。顔を見合わせるあやめ達。

「〜〜了解しました…。すぐに翔鯨丸を向かわせて下さい…!」

仙台に向かう翔鯨丸。

★               ★


洞窟。階段を下りていくさくらと大神。

「どこまで続くのかな…?」

「感じます…。下に行くにつれて、どんどん霊力が高まって…」


提灯の灯りが消える。パニックになるさくら。

「きゃああっ!!〜〜あ、灯りぃっ!!灯りが消えましたぁっ!!」

「お、落ち着け!大丈夫だ、今、点け〜〜う…っ!?」


風が吹き、身構えるさくらと大神。周囲は草原に。

「こ、ここは…」

「昼間、俺達がいた…」

『――さくらぁ!』


走ってくるたけし。

「た、たけし君…!?――あ…!」

『たけし〜!』


幼いさくらがたけしに駆け寄っていく。

「わ、私…!?」

「これは一体…?」


たけしとチャンバラして遊ぶ幼いさくら。

「これは…、私の記憶…?」

『――さくらさん』

『あ、お母様〜!』


若菜に抱きつくちびさくら。二人を見つめるたけし。夕日が沈んでいく。

『あのねあのね、今日、たけしと侍ごっこしたんだよ!』

『そう、よかったわね。お夕飯ができたから、おうちに帰りましょうか』

『はーい!じゃあね、たけし!また明日!』

『お、おう…!じゃあな!』


帰っていくちびさくらと若菜の背中を寂しく見つめるたけし。

「幼馴染かい?」

「…小さい頃、破邪の力を持った私は、近所の子達からいじめられてたんです。でも、たけし君だけは違った。一緒にかけっこしたり、チャンバラしたり…。周囲の目を気にせず、遊んでくれた唯一のお友達だったんです」


うつむくさくら。

「さくら君…?」

大樹のブランコに乗るちびさくらとたけし。

『――いいなぁ、さくらには優しい母ちゃんがいて』

『どうして?たけしにもお母さん、いるじゃない』

『今の母ちゃん、本当の母ちゃんじゃないんだ。俺が赤ん坊の頃に死んじゃってさ』

『え?〜〜そうだったんだ…』

『でも俺、ちっとも寂しくないぜ!さくらと一緒だもんな!』

『うん、そうだよ!さくらもたけし、だ〜い好き!』

『えへへ…!』

『そうだ!今日、さくらの家に泊まりにおいでよ!夜までずっと遊べるよ』

『でも、今日は母ちゃん、家にいろって…。俺の新しい弟が来るんだって』

『え〜?』

『ごめんな。でも、明日ならいいぜ。畑で採れた野菜、持っていってやる!』

『本当!?わ〜い!』


遠くで雷が鳴っている。震えるさくら。

「さくら君、大丈夫かい!?」

「〜〜あ…、す、すみません…。少し…こうしてていいですか…?」


大神の手を握るさくら。

「あぁ、もう怖くない?」

「はい…」


横殴りの雨。義母に叩かれるたけし。義母に泣きつく血の繋がらない弟。

『うちの大輔ちゃんに何をしたの!?たんこぶができてるじゃない!!』

『〜〜だ、だって、お供え物を食べようとしたから…』

『そんなことで大輔ちゃんを殴ったの!?この乱暴者!!今すぐ謝りなさい!!』


大輔を木の棒で叩き続ける義母。

『〜〜お、俺、悪いことしてないもん…!』

『まぁ、何て生意気なガキなんでしょう!?だからこんな田舎に嫁ぐの嫌だったのよ!!人は粗暴だし、街には何もないし…』

『――どうしたんだ?』

『あなた…!聞いて下さいな、たけしが大輔を殴ったんですよ!?』

『〜〜違う!それは――』

『何…?〜〜何てことしたんだ!?大輔はまだ3歳なんだぞ!?』

『本当!今からこんな乱暴者じゃ、先が思いやられるわね』


拳を握り、家を飛び出すたけし。

『たけし…!!』

『放っておけばよろしいですよ。どうせすぐ帰ってくるんだから』


雨の中、走るたけし。見つける店の者達。

『どうしたんだ、たけし?これから雷様が来るんだぞ?』

『雷様におへそ取られるぞ〜?』

『〜〜うるさいっ!!』


涙を袖で拭き、走るたけし。噂する街の人々。

『杉浦んとこの旦那、再婚したんだって?』

『あぁ。今日、後妻が連れ子呼び寄せたんだってよぉ』

『新しい奥さん、帝都から来たべっぴんさんなんだって?そりゃ捨てられまいと必死だよなぁ』

『たけしもかわいそうになぁ…。あの後妻、良い評判、聞かないぜ?』


雨の中消えていくたけし。屋敷から雨を見つめるちびさくら。

『雨、やまないねぇ…』

『心配せずとも朝にはやむでしょう。ほら、今日はもうお休み下さいな』

『はーい…。おやすみなさーい』


正座して頭を下げ、とぼとぼ出ていくちびさくら。

『……たけしと遊びたかったなぁ…』

『〜〜大変だ、大変だ!!』


玄関に飛び入ってくる八百屋の主人。出てくる一馬と若菜。

『どうしました?』

『〜〜す、杉浦んとこのたけしが行方不明だとさ!!』


立ち止まるちびさくら。

『今、他の奴らも捜索に加わってるんだが、どこにもいやしねぇんだ!』

『わかりました。私もお探ししましょう。若菜、さくら達を頼む』

『はい。お気をつけて…!』


飛び出すちびさくら。

『――!!さくら…!?』

(たけし…!どこ行っちゃったの…!?)


雨の中、走って探すちびさくら。転び、泣き出す。

『〜〜たけしぃ…』

雷が鳴る。神社の階段の上にたけしを見つけ、階段を上がるちびさくら。

『たけしっ!!』

『……さくら…?』


びしょぬれでゆっくり振り返るたけし。

『どうしたの!?皆、心配してるよ!?早くおうちに帰ろう…!!』

『〜〜やだっ!!』


ちびさくらの手を振り払うたけし。

『俺、もうやだ…。〜〜あんな母ちゃん、もういらないっ!!』

『た、たけし…?〜〜きゃあっ!!』


雷が激しく光る。

『と、とりあえず雨宿りしよ!え〜と、う〜んと…、あ!あそこがいいね!』

大樹の下までたけしを引っ張るちびさくら。

「〜〜だめ!そこに行っちゃ…!!」

雨宿りするちびさくらとたけしを引っ張るさくら。透ける。

「〜〜だめ!!そこにいちゃだめなの!!」

「さくら君、落ち着け!これは映像だ!」


さくらを後ろから止める大神。

『ふぅ、これならもう濡れないね!』

黙ってうつむくたけし。

『…どうしたの?何でお母さんが嫌なの…?』

『だって、大輔のことばっかで、俺のことちっとも可愛がってくれないし、父ちゃんもわかってくれないし…。〜〜あんな家、二度と帰るもんか!!』


激しくなる雷と雨。

『わ、わかった!おうちに帰りたくなるまで、さくらの家にいていいから…!ね、一緒に帰ろう?』

『〜〜さくらも…、大人になったら帝都に行くんだろ?』

『え…?』

『俺、帝都なんか大嫌いだ…!!父ちゃんが出稼ぎに行かなければ、母ちゃんの死に目にも会えたし、新しい母ちゃんも来ることなかった…!きっと帝都に住んでる人、皆、ああいう奴らなんだ…!!』

『そ、そんなことないよ…!』

『嘘だ!!俺、聞いたことある!帝都は仙台と違って怖い人がたくさんいて、変な事件もいっぱい起こってるって、店のおっちゃん達が言ってたもん!!』

『〜〜そ、それは…』

『新しい母ちゃんなんか来なきゃよかったんだ!いっそのこと、帝都なんかなくなっちゃえばいいんだよ!!帝都なんか…、帝都なんか大嫌いだあっ!!』


大樹に落雷する。目を見開くさくら。

『きゃああああっ!?』

ちびさくらの霊力が発動し、耳を押さえてうずくまるちびさくらを包む。雷に打たれるたけし。雨がやみ、顔を上げるちびさくら。

『たけし…?〜〜あぁっ!!』

倒れているたけしにゆっくり手を伸ばすちびさくら。

『た…けし……?』

怯えるさくら。

「〜〜いや…!もう見せないで…!!」

「さくら君…!」

『――いたぞーっ!!』


傘を差して駆け寄ってくる一馬達。

『さくら…!?』

『〜〜あ…あ…、たけし…、たけしがぁ…!〜〜うわああああんっ!!』

「〜〜思い出したくない…!!」


うずくまるさくらを抱きしめる大神。一馬に抱きつき、泣くちびさくら。

『さくらのせいだぁ!さくらが雨宿りしようって言ったから…!〜〜うわああああんっ!!』

ちびさくらの頭をなでる一馬。たけしの葬式に出るちびさくらと一馬達。泣くたけしの父。平気で席を立つ義母。映像が消える。

(そうか…。これがさくら君のトラウマ…)

「――確かに…、そうですよね。都会の人は冷たいです…」

「え…?」

「私が上京してきた時も、騙されてお金を盗られかけたでしょ?そういった負の感情が集まるからこそ、帝都には魔が増えるんです…。それは一生なくならない…。――帝都が滅びない限り…」


荒鷹が黒く光る。

「〜〜さくら君…!?」

「そうよ…。あんな都、守る価値なんてないわ…」

「さくら君、だめだ!!負の感情に心を支配されては〜〜くぅっ!!」


さくらの周囲に黒い炎が現れ、中から鬼達が現れる。

「〜〜これは…!?〜〜くっ!はあああっ!!」

鬼の攻撃を刀で防ぎ、反撃する大神。斬られ、消える鬼。新たな鬼が追加。

「何…!?〜〜ぐああっ!!」

攻撃を受け、壁に激突する大神。防ぎ続ける大神。

「〜〜さ…、さくら君…」

暗い顔で立ち尽くすさくら。瞳から光が失われる。

「帝都なんか…滅んでしまえばいいのよ…!!」


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