★8−2★



食堂。朝食中の花組。マリア、すみれ、紅蘭、カンナは傷だらけで黙って。

「み、皆さん、どうしたんです、その怪我…?」

「ぷんっ!アイリス、悪くないもん。悪いのはさくらだもぉん!」

「え?わ、私!?私、何かしましたか!?」


黙っているマリア達。

「もしかして、黙ってすみれさんのお洋服借りて、買い物行ったことですか!?それとも、マリアさんの日記を隠れて読んで笑ったことでしょうか!?」

「〜〜んなぁっ!?あなた、そんなことしてましたの!?」

「…どこまで読んだの?」


さくらに銃口を向けるマリア。

「〜〜つ、つい出来心で…。でも、違うんですか?うーん、じゃあ何だろ?」

「――やぁ、皆、おはよう。今日はやけに早いじゃないか」


しばらく大神を見て、黙って食べるマリア達。

「〜〜な、何かあったのかい…?」

離れた席で食べ、見ている三人娘。由里と椿を睨むかすみ。

「……本当、何があったのかしらねぇ…?」

「〜〜あ、あはは!私、支配人に呼ばれてるんだった〜」

「わ、私もでしたぁ〜」


そそくさと立ち去る由里と椿。

「〜〜はぁ…。まさか一晩で全員に伝わってるなんて…」

「――あら、おはよう。皆、早いのねぇ」


やってくるあやめ。慌てて目を逸らすかすみ。

「あ、おはようございます、あやめさん!」

「さくら、大神君、支配人がお呼びよ。支配人室に来てくれですって」


顔が引きつるマリア達。卵焼きを落とすカンナ。

「わかりました。きっと例のことだね」

「そうですね!じゃあ、行ってきま〜す!」


仲良く出ていく大神とさくら。

「〜〜やっぱり…、本当なんだ…」

「ん?何が?」

「あやめはん…、もしかして知らないんでっか!?」

「え?」

「〜〜皆さんっ!!」


立ち上がるかすみに振り向く一同。

「あ、あの、その話はまだ真偽がはっきりしてないんです!ですから、まだ鵜呑みになさらない方が…」

「そんなの今の態度ではっきりしました!!あれは完全に婚約者同士の瞳でしたわ!!」

「え?ど、どういうこと…?」

「大神隊長とさくら…、結婚するらしいんです」


目を見開くあやめ。

「〜〜あ、あの、ですから、ご本人達にちゃんと確認してからの方が…」

「大体、若き青年がこんな大勢の女と一つ屋根の下で暮らしていて、何もない方が不自然です!!問題はさくらさんという相手ですわ!!少尉もあんな田舎に婿に行くだなんて、よっぽどの馬鹿か物好きですわねっ!!」

「ほ〜んと!アイリスっていう恋人がいるのに、信じらんな〜い!!」

「けど、めでてぇじゃねぇか。ちゃんと祝ってやらなきゃ可愛そうだぜ?」

「カンナの言うとおりよ。別に隊長もさくらも華撃団をやめるって言ってるんじゃないんだし、今まで通りなんだからいいじゃない」

「〜〜こんな心理状態で、実力を発揮できると思いまして!?」


言い争うマリア達。いなくなっているあやめに気づく紅蘭。

「……ん?あれ、あやめはん…?」

★               ★


支配人室。デスクを力いっぱい叩くあやめ。ビビる米田。

「さくらと大神君はどちらに…?」

「〜〜う、上野駅だ…。仙台のさくらん家に行くんだと」

「何故です?」

「な…、なんでも、昨日、さくらの母ちゃんから電話があったみたいで…」

「〜〜婿をもらって、家を継げと…!?」

「〜〜はぁ…?」


キネマトロンをデスクに叩きつけるあやめ。

「少し出かけてきます。ご用の際はそれで連絡を」

「ちょ…、何言ってるんだ!?副司令が持ち場を離れてどうするんだ!?おい、あやめ君〜っ!?」


ドアを力強く閉めるあやめ。肩をすくめる米田。

★               ★

食堂。テーブルに旅行用バッグを力強く置くあやめ。驚くマリア達。

「今から仙台に向かいます。各自、早急に準備して!」

「〜〜え、えぇっ!?」

「な、何を言ってるんです!?黒之巣会が現れたら、どうするおつもり――!?」

「〜〜そんなの知ったこっちゃないわよっ!!」


驚き、後ずさるマリア達。目が据わっているあやめ。

「いいから早く準備しなさいっ!!列車に間に合わないでしょう!?」

「〜〜りょ、了解っ!」


急いで散らばるマリア達。

「〜〜ふ、副司令…!?」

かすみの背中から顔を出す椿と由里。

「何だか面白いことになりましたねぇ〜!」

「うくく…!こりゃ大事件の予感…!!」


★               ★


黒之巣会・本拠地。黒い炎に映る前回の戦闘。炎を握りつぶす天海。

「〜〜ぐぬぬ…、我ながら油断したわ…」

「ですが、あの小娘達の力は我々の予想を遥かに超えております…!」

「先日の忌まわしき光、あれが奴らの霊力か…。〜〜叉丹!叉丹はおるか!?」

「ここに…」

「もう一度、お前にチャンスをやろう。奴らの霊力を全て奪い取れ!力の源を奪われれば、ただの小娘の集まりだ、恐るるに足りん」

「仰せのままに…」

「ミロクは式神を使え!」

「式神…!?では、いよいよ…!」

「フフフ…、帝国華撃団め、我を怒らせたこと、後悔するがいいわ…!!」

「全ては天海様の御為に…!」


高笑いする天海にひざまずくミロク。鼻で笑う叉丹。

(利用されているとも知らず、馬鹿な老いぼれだ。――いよいよ現れる頃だな、忌まわしき力を持つ奴らが…)

★               ★


列車。風景を見る大神。ミカンが剥けず、果汁で手が汚れるさくら。

「くすっ、貸してみて」

ハンカチで手を拭いてやり、剥いて、さくらの口に入れてやる大神。

「あーん!ん〜、おいしい!私もやってあげますね!はい、あーん!」

笑顔で食べる大神とさくら。遠くの席で双眼鏡で見るあやめとマリア達。あやめは長屋のおかみさんに、すみれは異国の姫に、マリアはギャングに、アイリスは少年に、紅蘭は謎の中国人に、カンナはおさげの女学生に変装。

「〜〜何々ですの、あのラブラブチックな雰囲気は…!?」

「アイリスにはしてくれなかったくせにぃ〜」

「…この変装に意味はあるの?」

「楽しいじゃねぇか、仮装パーティーみたいで!あたいは清楚な女学生〜!」

「うちは王行智や!」

「だぁれ、それ?」

「昔、近所に住んどった中国人のおっさん」

「…何でもいいけど、このままついていってどうするんです――!?」


ビビるマリア。おつまみを食べて酒を飲み、おっかない顔で睨むあやめ。

「――あぁ!?」

「〜〜いえ、あの…」

「もちろん、結婚式を延期してもらうよう頼むのよ。今は黒之巣会との戦いの最中よ。浮かれ気分では困るわ」

「ほほほ、さすがは副司令!」

「ほ…っ、そういうお考えでしたか。私も同感です」

「なるべくならねぇ、中止にさせた方がいいと思うよ!」

「あはは!アイリスも言うなぁ」

「でもよ、てっきり、あやめさんも隊長が好きなのかと思ったけどな!」


赤くなるあやめ。気づくマリア。ハッとなるアイリス。察し、考える紅蘭。

「おっほほほほ…!何をおっしゃるかと思えば!副司令はたとえ行き遅れと言われても嫁には行かず、帝都の平和を守り続けているんですのよ!?つまり、今は何より仕事が大事!陸軍が恋人のようなものでしょう、ねぇ!?」

「…本人の前で言うことか?」


酢こんぶを食べるマリア。むぅとなるアイリス。眼鏡を拭く紅蘭。

「……そうね…。今は…」

「やはり私の読みに間違いはありませんでしたわ、おっほほほほ――!!」

「あれぇ?今、すみれさんの声、聞こえませんでした?」


口を塞ぐすみれ。すみれの頭を押して隠れさすカンナ。隠れるあやめ達。

「気のせいだろう。こんな所にいるわけないじゃないか」

「ですよねぇ。今日は休演日ですし、今頃は三越でお買い物でしょうか?」

「〜〜ふん、呑気に笑っていられるのも今のうちですわよ…!?」

「……思ったのですが、隠れる必要ってあるんでしょうか…?」


駅に着き、降りる人々。狙っていた席が空くのを見つけるさくら。

「あ、大神さん、向こうの席に移動しません?」

「え?」

「すごく綺麗な海が見えるんですよ!帝都に来る時に見つけたんです」

「そうか。よし、移動しようか!」


遠くの席に移動し、楽しく話し始める大神とさくら。

「あ〜ん、遠くなっちゃったよぉ!さくらのバカァ!」

「仕方ないわ。私達も――」


乗車してくる人々。二人の席の周りに次々座る。動き出す汽車。

「…出遅れましたね」

「油断したわ…。うーん、これじゃあ何を話してるんだかわからないし…」

「こっそり近づいて聞いてこようか?」

「カンナじゃすぐ見つかっちゃうよぉ!」

「うーん…。せめて、もう少し大きな声で喋ってくれるといいんだけど…」

「――ふっふっふ、こんなこともあろうかと!」


眼鏡を光らせ、ふろしきから機械をどんと置く紅蘭。

「どんなに遠くの声も鮮明に聞こえる発明品、『地獄耳君』の出番や!」

「〜〜い、いつの間にそんな幅取るものを…?」

「わぁ!どうやって使うの!?」

「これを耳に当てるんや。後はレーダーを二人に向けて…と」


受話器を耳に当てる一同。レーダーを向ける紅蘭。赤く点滅。

「スイッチ・オン!」

ボタンを押す紅蘭。レーダーから超音波。

「――からさ、新次郎にもおみやげを買っていってやろうと思って」

「わぁ、素敵な甥御さんなんですね!」

「お!聞こえる、聞こえる!」

「でかしたわ、紅蘭!」


親指を立て合うあやめと紅蘭。車掌が来て、あやめ達の衣装に驚く。

「あー、切符を拝見ー、切符を――!?」

「え…?〜〜あ、すみません、今、出します!ほら、皆も早く…!」

「マリア、うるさいー。聞こえないじゃ〜ん」

「これ、出しといて」


手探りでマリアに全員の切符を渡すあやめ。身を乗り出して二人を見ながら聞くあやめ達。

「〜〜あやめさんまで…」

切符を切り、不審気に立ち去る車掌。トンネルを出て日本海が見える。

「あ、見えました!見えましたよ、大神さん!」

「わぁ…!本当に素晴らしいね!」

「でしょ?えへへ、大神さんに見せられてよかったぁ…」


目線を落とし、荒鷹の入った袋を握りしめるさくら。

「怒られるだろうなぁ…。お父様の形見をこんなにしちゃって…」

「…大丈夫だよ。君はよく頑張ったさ。刃崩れはその証拠だろ?」

「大神さん…。〜〜う…っ、うぅ…」


大神の腕の中で泣くさくら。気の毒がるあやめとマリア。

「……さくら、よっぽどショックだったのね…」

「気持ちはわかるぜ。あたいも父ちゃんの形見が一番の宝物だからな」

「〜〜それとこれとは別ぅ〜っ!!」


身を乗り出すアイリス、すみれ、紅蘭。

「男に抱きついて涙を見せるとは、結構計算高いですわね、あの田舎娘…!!」

「いっけー、大神はん!そこで優しゅうキスや!!」

「あ〜ん、もう!何応援してるのぉ、紅蘭!?」

「〜〜ちょ…っ、暴れないで下さいましっ!!バランスが…あ…あ…」

「きゃあああ〜っ!!」

「きゃあああ〜っ!!」

「きゃあああ〜っ!!」


アイリス、すみれ、紅蘭が落ちると同時にコードが抜け、『地獄耳くん』が爆発。驚くさくらと大神、周囲の乗客達。

「〜〜な、何だ…?」

「花火でもあがったんでしょうか…?」

「…結局、こうなるわけね」


すすだらけになって煙を吐くあやめ達。走っていく汽車。

★               ★


駅。汽車から降りる人々。荷物を持って歩く大神とさくら。

「〜〜あのさ、入口はまだかな…?」

「権爺が待ってるはずなんですけど…。どちらの方角かご存知ですか?」

「〜〜また迷ったのかい…!?」

「――さくらお嬢様〜!」


入口で手を振る権爺。

「あ!権爺〜!!」

「ほっ…、何とか着けそうだな…」


駆け寄るさくら。荷物を持ち直し、歩く大神。隠れて見るあやめ達。

「久しぶり〜!元気にしてた!?」

「この権爺、お手紙を毎日拝見してはお嬢様の健康と幸せを願っておりました。ご無事にお帰りになられて何よりですじゃ!ん?こちらの殿方は…」

「あ、こちらはね、大神一郎少尉よ。お手紙にも書いたでしょ?とっても優しくて、頼りがいがあって…」

「ほ、褒めすぎだよ、さくら君…」

「ほぉ、あなたが大神さんでしたか。いつもお嬢様がお世話になっておりますじゃ…!これ、皆の者、挨拶せい!」

「お初にお目にかかります、大神殿!」


一斉に頭を下げる従者達。振り返って見る周囲の者達。

「あ、こちらこそ…!〜〜あ、あの、頭を上げて下さい。俺、そんな大層な人物じゃないですし…」

「いやはや、ご謙遜なさるとは何と腰の低い…。この権爺、気に入りましたぞ!さぁ、籠に乗って下され!真宮寺の屋敷までご案内致しましょう」


籠の前で待っている従者達。

「おぉ…!ず、髄分由緒ある御家柄なんだね…」

「お気に召して頂けました?さ、一緒に乗りましょ!」


乗り込む大神とさくら。体が密着し、赤くなるさくら。

「け、結構狭いね…。〜〜あ、ご、ごめん…!」

「い、いえ…!えへへっ」

「皆の者、行けーい!!」


籠を持ち上げ、掛け声をかけて走り出す従者達。驚いて振り返る人々。

「ふん、従者がいるなんて、生意気ですわね」

「でも、面白そ〜!アイリスも乗りた〜いっ!!」

「とりあえず追いましょう。迷ったら厄介だわ」

「でも、意外と早いで?ほら、もうあんな所まで…」


指さす紅蘭。すでに遠くを走る籠。

「こっちはアイリスもいるし、走って追いつくのは――ん?」

人力車を置いて一息つく御者。人力車に目一杯乗るあやめ達。

「〜〜う…っ、さ、さすがに無理があったかしら…?」

「〜〜カンナさんっ!!幅取ってないで、降りなさいな!!」

「うるせぇな…!!でも、こういうの一度乗ってみたかったんだよな〜!はは、絶景かな、絶景かな!」

「おじちゃーん、もうちょっと早くできない?追いつけないんだけどー?」

「〜〜ん、んなこと言われてもなぁ…」

「定員オーバーで思った程スピードが出ませんね…。どうします?」


考え、ひらめいて鞄を探るあやめ。

「あやめさん…?」

「少しだけ人力車、お貸し下さいません?」

「あぁ?そげなこと言われてもなぁ、こっちも商売で――」


花組のブロマイドを御者にあげるあやめ。

「おぉっ!!て、帝国歌劇団のブロマイドでねぇか…!!しかもサイン入り…!!」

「最新公演『西遊記』のものです。特別に全員分差し上げますわ」

「ど、どうぞ、どうぞ!こんな汚ぇもんでよかったら、使ってくんろ!!」


放す御者。倒れそうになる一同。

「〜〜ちょ、ちょいと!御者がいなくてどうやって動かしますの!?」

「――私の指示に従って」


御者のカンナ。人力車の後ろのロケットに座る紅蘭。乗る他の者達。

「こっちはバッチリやで〜!」

「よし!人力車、発進!!」

「りょ、了解っ!!〜〜って、うわあああ〜っ!?」

「きゃははは!いけいけ〜っ!!」


発射するロケットにしがみつく紅蘭。猛スピードで走るカンナに火花。

「〜〜あ、危ねぇっ!!これじゃあ着く前に大火傷だぞ!?」

「おっほほほほ!あなたは叩いても壊しても死ぬような方ではありませんから、大丈夫です。さぁ、ハイヤー!!」

「〜〜ふざけんなああっ!!」


前方を走る籠を双眼鏡で見つけるマリア。

「前方60m先に目標、発見!」

「よし、スピードアップ!!」

「はいな!」

「〜〜くっそおっ、負けるかあああっ!!」


ロケットをパワーアップする紅蘭。必死なカンナ。壊れそうになる人力車。

「〜〜ちょ、ちょいと!?崩れてきましたわよ!?」

「負荷がかかりすぎて、耐えられなくなったんだわ…!」

「――アイリス!」

「は〜い!そぉれ〜っ!!」


人力車が直る。

「おぉ〜っ!…お?」

ロケットがバチバチ言う。

「〜〜や、やばいで!?今度はロケットが…!!」

「んん〜っ!!えええ〜いっ!!」


人力車が黄色い光に包まれ、直るロケット。

「ほっ、おおきにな、アイリス!…え?」

「〜〜だめ…、力が暴走して…、止まんな〜いっ!!」


宙に浮かび、超高速で飛んでいく人力車。

「お…?〜〜お…!?」

「きゃあああ〜っ!!」


黄色い流れ星を見つける大神。

「え…?流れ星…!?」

「仙台は空気が綺麗ですしねぇ。昼間でも見えるんですよ?」

「〜〜ほ、本当…?」


爆発音。肩をすくめる大神。

「え…?〜〜えぇっ!?」

「落ちちゃいましたねぇ、流れ星…」


山中。すすだらけで出てくるあやめ達、力尽きる。

「〜〜今回、こんなのばっかりや…」


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