★8−1★



舞台。『西遊記』を上演中。捕まっている三蔵法師のマリア、猪八戒のさくら、沙悟浄のアイリス。高笑いする妖鬼夫人のすみれ。

「おーっほほほほ!よいザマねぇ、三蔵法師。たかが人間の分際で、この私に逆らうからよ!」

「〜〜何故このようなことをなさるのです!?あなたも元は人間、慈しみの心を持っていたはずです!」

「ふん、馬鹿馬鹿しい!私は牛魔王様に選ばれたのです!この美貌と有り余る妖力さえあれば、世界を統べるなど他愛もないことよ!その証拠にこの豚と河童をただの動物に変えてやったわ!」

「ぶひぶひ〜!」

「かっぱかっぱぁ〜」


四つん這いで鳴くさくら。きゅうりを食べるアイリス。

「お前一人で何ができる!さぁ、地獄の炎に焼け死ぬがいいわ!!」

舞台裏で覗く普段の服の紅蘭。

「くくく…!すみれはん、ハマリ役やなぁ」

やってくる大神。

「舞台、うまくいっているようだね」

「ちょうどええとこに来はった!いよいよ『きんとくん』の初お目見えや」

「――あぁ、この美貌が人間だけでなく、妖怪の男達までもを惑わし、ひざまずかせてしまうのねぇ!何て罪なオ・ン・ナ!おーっほほほほ…!!」

「〜〜あぁ、また勝手なアドリブを…」

「しっ!いよいよやで…。――ぽちっとな!」


リモコンのボタンを押す紅蘭。

「待て待て待て〜い!!」

孫悟空のカンナが装置で降りてくる。驚く観客。如意棒を振り回すカンナ。

「〜〜お、お前はいつぞやの石猿!」

「俺様の大切な仲間達を生贄にしようたぁ、いい根性だ!この斉天大聖・孫悟空様が、あ、成敗してくれる〜!!」

「悟空、戻ってきてくれたのですね…!」

「待ってな、お師匠さん!今、助けてやっからよ!」


鳴き声で喜ぶさくらとアイリス。

「生意気な!牛魔王様の正室、この妖鬼夫人が相手になってやるわ!!」

飛びかかるすみれ。装置から降り、『ストーンモンキー』を歌いながら、立ち回りするカンナ。ラストで装置に飛び乗るカンナ。

「妖怪め!ぶっつぶしてやる!!」

「今や!――ほいっ!」


ボタンを押す紅蘭。カンナを乗せた装置が激しく動く。

「どりゃあああっ!!」

「ぎゃああ!!〜〜ちっ、なかなかやるではないの…。そりゃああっ!!」


カンナとすみれのアクション。盛り上がる客席。

「きゃあ!すっご〜い!皆で考えたかいがあったね、さくら!」

暗いさくら。

「さくら…?……やっぱり嫌だったのかなぁ、豚さんの役…?」

さくらを見つめるマリア。続く立ち回り。

「はぁはぁ…、〜〜きええええいっ!!」

「ぜぇぜぇ…、〜〜おりゃああああっ!!」


まだ動き続ける装置。へとへとになるすみれとカンナ。

「も、もうそろそろいいんじゃないかい?何か二人ともばててきてるし…」

必死にボタンを連打する紅蘭。

「…紅蘭?」

「〜〜あかん…。壊れてもうた…」

「な、何だって…!?」


息を切らし、動き続けるすみれとカンナ。

「〜〜ちょ、ちょいと…、いつまで続けるおつもり…?」

「〜〜あ、あたいに聞くなよ…。――おい紅蘭、まだなのか…?」


リモコンを解体する紅蘭。手伝いながら、のばしてのサインを送る大神。

「〜〜は…?」

「ど、どうかしまして?」

「〜〜し、しぶとい妖怪め!今、成敗してやる!!どりゃああっ!!」

「ひええっ!!〜〜な…っ、こんなこと、台本にはないでしょう!?」

「お前が言うな!〜〜黙って続けろ!たぶん装置が壊れた…」

「〜〜何ですってぇっ!?」


すみれの大声に驚く客席。ハッとなり、咳払いするすみれ。

「おっほほほ…!それはこちらの台詞よ、馬鹿猿め!お前も地獄の炎で丸焼きにしてやるわ!!」

立ち回りし続けるすみれとカンナ。盛り上がる客席。

「ふわあああ…。…なーんか長くない?アイリス、飽きちゃった」

「きっと何かあったのよ。…紅蘭のことだから」

「〜〜何とか直らないか?」

「〜〜せ、せかさんといてぇな!うちだって必死に――あ…」


自爆装置を誤って押す紅蘭。爆発する装置。落ちるカンナ。

「あ、あ…〜〜どわああああっ!!」

「〜〜ひ、ひえええええっ!!」


カンナの下敷きになるすみれ。笑う客席。頭を抱えるマリア。すすだらけで煙を吐く紅蘭と大神。

「…お約束だな」

「〜〜こ、これは…、あれやな!ほら、設計思想いうやっちゃ!きっとすみれはんがカンナはんに一泡吹かせよう思て…」


遠くから紅蘭を睨むマリア。ビビり、すみれとカンナに駆け寄る紅蘭。

「〜〜ふ、二人とも無事かーっ!?」

「…結局こうなるのか」


謝る紅蘭。怒鳴るすみれ。大の字で休むカンナ。笑うアイリス。呆れるも笑うマリア。笑って喜ぶ客席。微笑む大神。

「…ま、いいか」

一人うつむいてるさくら。

★               ★


鍛錬室・道場。道着で合気道の型をするあやめ。山崎を思い出す。

『――お前のおかげだ、ありがとう』

「〜〜はあああっ!!」


気合を入れて拳を突くあやめ。

『――貴様に私は撃てまい』

「〜〜やああああっ!!」


回し蹴りし、板を割るあやめ。息を切らし、座り込む。

「どうして…、〜〜あなたと…戦えるわけ…」

泣き、嗚咽を漏らすあやめ。見ているかすみ。気づくあやめ。

「〜〜あ、も、申し訳ありません…!タオルと着替えをお持ちしたので…」

「……ありがとう…。くれる?」

「は、はい…」


渡すかすみ。汗を拭き、顔を覆うあやめ。叉丹とのキスを回想するかすみ。

「……今の…見た?」

「〜〜あ、あの…」

「…皆には内緒ね。上官が弱いところを見せたら、不安がっちゃうもの…」


うつむくかすみ。

★               ★


さくらの部屋。ベッドで前回の戦闘を回想し、傷ついた荒鷹の刃を見つめるさくら。回想。仙台。悪ガキ達に囲まれている幼いさくら。

『化け物が来たぞ〜!』

『お前が変な力出したの、み〜んな見たんだぜ!』

『おっかね〜!来るなよ、化け物!』

『どっか行っちゃえ!』


石を投げられるさくら。

『〜〜さくら、化け物じゃないもんっ!!』

『だって母ちゃんが言ってたもん。お前ん家はご先祖様から変な力を受け継いでるんだって』

『父ちゃんとばあちゃんも変な力持ってるんだろ?おっかね〜!』

『〜〜違うもん!!お父様もおばあ様も変じゃないもん!!』

『お、化け物が怒った!』

『力使うぞ!よく見てろ!』


木刀を抜き、悪ガキ達に振り回すさくら。

『〜〜うるさい、うるさい、うるさぁい!!』

霊力を放出するさくら。驚き、逃げる悪ガキ達。

『〜〜う、うわあああっ!!』

『怖いよーっ!!』

『――さくら!!』


ハッとなり、力を抑えて振り返るさくら。一馬が怒って立っている。

『むやみに力を使ってはいけないと言っただろう?』

『〜〜だってあの子達が…』


手を振り上げる一馬。怯えるさくら。手を下ろし、頭をなでてやる一馬。

『辛かっただろう?うちに帰ろう』

一馬を見つめるさくら。さくらを肩車して歩く一馬。夕日が当たっている。

『――ねぇ、お父様』

『何だ?』

『どうしてさくら達には変な力があるの?たけし君だって、ゆうちゃんだって、皆持ってないのに…』

『それが…真宮寺家に生まれた宿命というものだ』

『しゅくめい…?』

『諸刃の剣と言ってな、私達の力はとても強い。だが、あまりにも強すぎて他人だけでなく、自分までをも傷つけてしまう…。おかげでお父様も何度も死にそうになったことがあるぞ』

『えぇっ!?そんなの嫌だ!やっぱり、こんな力いらない!だって死んじゃったら、もう皆とお話しできないし、ご飯も食べられなくなっちゃうよ!?』

『ハハ…、そうだな。皆が言うように、確かに恐ろしい力だ。だが、いずれわかる時が来る。何故この力が私達に授けられたのか、そして、何の為に力を使うべきかをな…』


回想終了。仰向けになるさくら。

(大神さんやマリアさん達も力を持ってる…。でも、私のは普通の霊力とは違う…。〜〜もっと強くて、恐ろしい力…)

ノックし、椿が顔を出す。体を起こすさくら。

「さくらさぁん、ご実家からお電話ですよぉ」

★               ★


楽屋。傷だらけでむすっとしているすみれ。

「……大失っっっ敗でしたわね」

「まぁ、ええやないか。お客はんもみ〜んな喜んでくれはったし」

「…誰のせいだと思って?」

「何や、根に持つお人やなぁ。でも、今回ので改良点はわかったし、明日にはさらにグレードアップした装置を作ってみせるでぇ!期待しててや!!」

「あなたは裏方だからいいですけど、一番恥かいたのはこの私ですのよ!?」

「ぐじぐじうるせぇな。今さらあーだこーだ言っても仕方ねぇだろ?」


アイリスに回復してもらっているカンナ。

「その通りだよ。今日の失敗を生かし、次の公演に繋げようじゃないか!」

「ふん、今日はトップスタァ・神崎すみれ、最大の汚点ですわ」

「もうその辺でいいでしょう。じゃあ紅蘭、装置の修理、お願いね」

「はいな!」

「〜〜ちょいと!!まだお話は――」

「では、今日の反省会はこれまでよ。解散!」

「〜〜ちょいとマリアさんっ!?」

「え〜?もう?」

「アイリスは寝る時間でしょう?夜更かししてると、大きくなれないわよ」

「あ〜っ!!また子供扱いした〜!!アイリス、子供じゃないのにぃ!!」

「はいはい。では隊長、今夜も見回り、お願いしますね」

「あぁ、わかった。おやすみ、皆」


おやすみを言って出ていくマリア達。すみれは文句を言いながら。

「〜〜まったく…。帝劇の名に傷がついたのに平気なのかしら…?」

「さすがはマリア、一気に流れを変えるとは…。〜〜俺も見習わなきゃな」


懐中電灯に手を伸ばす大神。やってくるさくら。

「――大神さん」

「ん…?さくら君、どこにいたんだ?探したんだよ?」

「……ちょっと…よろしいですか…?」


★               ★


あくびしながら、廊下を歩く由里。

「退屈ぅ。暇すぎて死んじゃう〜。何か面白い事件、転がってないかなぁ?」

楽屋から出てきてテラスに行くさくらと大神を見つけ、隠れる。

「何かしら、こんな時間に?…んふ!事件の予感…!!」

「――何だい?話って」

「……実は…」


隠れつつ、メモとペンを持っている由里。

「夜景を見ながら、神妙に会話する若き男女…。怪しい、怪しすぎる…!……うーむ、全く聞こえん…。由里ちゃんの秘技『特ダネ忍び足』…!」

忍び足で近づき、耳を澄ます由里。

「――ですから、一緒に実家に来てほしいんです…!大神さんなら、お母様達も私のパートナーとして認めてくれると思うんです…!」

「そうか…。わかった、俺に任せてくれ!必ず君を真宮寺の次期当主にしてみせる!絶対に君を守るからね…!」

「大神さん…」


さくらの肩を抱きよせ、見つめ合う二人。口をあんぐりする由里。

「〜〜こ…、これって…!!」

★               ★


事務室でお茶しながら話している三人娘。

「――結婚〜っ!?」

「しーっ!!声が大きい!!」

「〜〜ほ、本当なの?本当にさくらさんと大神さんが…?」

「きゃ〜!しかもパートナーですって!それって、逆プロポーズですよねぇ!」

「でも、さくらさんが真宮寺を継ぐってことは、大神さん、婿に入るわけ?」

「あれぇ?でも、大神さんって副司令が好きだったんじゃないんですかぁ?」


ハッとなるかすみ。

「馬鹿ねぇ。周りにあれだけ女がいるのよ?いくら真面目な大神さんでも、可愛い娘に迫られれば嫌って言えないわよ!」

「そっかぁ…。いや〜ん、男って不潔!ね〜?」


黙ってうつむくかすみの前で手を振る由里。

「おーい?」

「――あ!ご、ごめんなさい…」

「あんた、最近おかしいよ?仕事の時もボーッとしてるしさぁ」

「何でもないのよ…。少し…疲れてるのかも…」

「大丈夫ですかぁ?最近、出撃続きましたしねぇ…」

「〜〜と、とにかく!そのことはまだ黙ってた方がいいと思うわ」

「えー、どうして?おめでたい話じゃない」

「だって、本当かどうかまだわからないし…」

「絶対本当ですって!ねぇ?」

「で、でも、これ以上副司令を悩ませない方が…」

「え?」

「〜〜と、とにかく!このことはお口にチャック!いいわね!?」

「はいはい、わかりましたよぉ〜」

「お口にチャック…ね」


顔を見合わせ、笑い合う由里と椿。

★               ★


図書室。『罪と罰』を読むマリア。

「――さくらが結婚!?」

「しーっ!!まだ内緒ですよぉ?でも、やっぱりマリアさんには、どうしてもお知らせしときたくて…」

「そ、そう…。でも、驚いたわね…。しかも相手が隊長だなんて…」

「はぁ…。いいなぁ、お嫁さんかぁ…。さくらさんのウエディングドレス姿、素敵なんだろうなぁ…。私も着てみたぁい…」


うっとりマリアを見つめる椿。ビビるマリアに甘えてくる椿。

「マリアさぁん、このこと、誰にも言っちゃだめですよぉ?」

お口にチャックする椿。息を呑むマリア。

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鍛錬室。バーベルを落とすカンナ。当たりそうになり、足を上げる由里。

「〜〜何ぃ!?隊長とさくらが結婚だってぇ!?」

「そうなんです、大事件でしょ!?かすみには黙ってろって言われたんですけど、最年長のカンナさんには、やっぱり知らせとかなきゃと思って!」

「そ、そうかぁ…」


後ろを向き、すごい勢いでダンベルを上げるカンナ。

「カ、カンナさん…?」

「…ふぅ。そりゃめでてぇや!なぁ、式にはあたい達も呼ばれるんだろ!?うぅ〜、披露宴はきっと御馳走だぜぇ?うまいもんが食い放題!あぁ…!!」

「カンナさん、もしかして…」

「あぁ〜、何かワクワクしてきたぜ!よっしゃあ!早速他の皆に――」

「〜〜あ〜っ、だめです!!私が怒られるじゃないですかぁ…」

「あー、そうか…」

「とにかく、ぜ〜ったいこれですよ!」


お口にチャックする由里。口をうずうずさせるカンナ。

★               ★


「〜〜何ですってぇっ!?」

サロン。すみれが立ち上がり、紅茶がこぼれそうになる。

「さくらさんと少尉が結婚!?冗談でしたら、許しませんわよ!?」

カンナの胸倉を掴み、ぐらぐら揺らすすみれ。すみれの手を払うカンナ。

「〜〜やめねぇか!!夕飯が出てきちまうだろ!?」

「〜〜認めませんわっ!!この超お金持ちの私を差し置いて、あんな薄汚い田舎娘を選ぶなど、天地がひっくり返ってもありえませんわああっ!!」

「そりゃあ、どっちを嫁さんにするかっつったら当然だろ」

「き〜っ!!認めませんわ!許せませんわ!最悪ですわあっ!!絶対に結婚などさせるものですかあっ!!」


行こうとするすみれの首根っこを掴むカンナ。

「何言ってんだよ!?仲間の幸せぶち壊す気か!?」

「お放しなさいっ!!〜〜少尉め、絶対に許しませんわぁ…!!」

「何でそんなに怒ってるんだよ?――あ、まさか…!!」


ギクッとなり、真っ赤になるすみれ。

「…ご祝儀たかられるのが嫌なのか?」

ずっこけるすみれ。

「お前んちなら腐るほど金、あるだろーが。…あ、そういや、あたいとマリアって年長者だし、少し多めのほうがいいのかな?う〜む、あやめさんはいくら包むんだろう?後で聞いてみるか…」

「〜〜ふ、筋肉馬鹿…」


★               ★


格納庫。整備服で光武を整備する紅蘭。

「――何やて!?今、何て言うたのん!?」

「さくらと隊長が結婚…。しかも隊長が婿に入るらしいわ」

「そりゃ、またえらい急やなぁ。何や、赤ん坊でもできてもうたん?」

「〜〜そ、それはないと思うけど…」

「そうかぁ。まぁ、よかった、よかった!あ、披露宴でやる出し物、考えとかなあきまへんなぁ。マリアはん、うちと漫才やらへん?マリアはんがボケやって、うちがつっこむんよ!『今日はおめでたいですねー』『そうですねー、私なんか釣り堀でこーんな大きな鯛釣ってきましたー』『ってえらい古典的なボケやなー!』なーんてやったりしてなぁ!あはは…!」

「……そうね…」


寂しそうに佇むマリア。

「マリアはん…?…へぇ、そうかぁ!」

「〜〜な、何!?」


真っ赤になるマリア。

「マリアはんってそうやったんやぁ!いやぁ、初めて知ったわぁ」

「〜〜だから何を!?」

「べっつに〜!大神はんてええ人やしな。無理もないわ」

「〜〜わ、私は別にそんなんじゃ…!!…ただ初恋の人に似ているだけで…」

「そうかぁ…。なら、うちと同じやな」

「え?」

「まだ中国におった頃、好きな人がおってん。その人、飛行機つくるっちゅうでっかい夢持っててな、まぁ叶わずに病気で死んでしもうたんやけど」


ボルトをきつく締める紅蘭。見つめるマリア。

「せやから、うちがその夢、引き継いでん。あの人の夢にまっすぐな目、ほんま大神はんにそっくりなんやで?ほんでな、いつか飛行機を完成させて、大神はんを乗せて飛ぶのがうちの夢なんよ…」

「紅蘭…。じゃあ、あなたも…?」

「まぁ、さくらはんに申し訳ないしな。このことはお互い秘密やで?な!」


ウインクする紅蘭。微笑み、頷くマリア。

「――何が秘密なのぉ?」

パジャマで立っているアイリス。

「〜〜ア、アイリス!?」

「な、何やってるの!?もう寝なさいって言ったでしょう!?」

「少しくらい遅くなったって平気だもん!それよりなあに?何の話?」

「〜〜せ、せやなぁ…。アイリスにはまだ早いかもしれんなぁ」

「あ〜っ!!また仲間外れだぁ!!アイリス、もう子供じゃないよ!?」

「聞いたら…、……眠れなくなるわよ、今夜?」


眼光鋭く見下ろすマリア。ぞっとするアイリス。

「…まぁ、確かにな」

「〜〜こ、怖い話なの…?」

「せやでぇ?ものすんごく怖いでぇ?どないしよ〜?うち、もう一人でお手洗い行けんわぁ。…それでも聞きたいー?」

「〜〜え、えぇ〜…?」

「くくく…!もうひと押しやで、マリアはん!」


後ろで笑い合うマリアと紅蘭。怯えるアイリス。

「〜〜ア、アイリス…、へ…っ、へーきだもん…!」

「ほんまかぁ?足、ぷるぷるしとるでぇ?」

「早く部屋に戻った方がいいわよ。…この格納庫、出るって有名なの」

「〜〜ひ…っ!」

「さっきもね、女の幽霊が恨めしそうにこちらに来て――」

「〜〜納得いきませんわあっ!!」

「〜〜ぴぎゃあっ!?」


マリアに抱きつくアイリス。入ってくるすみれとカンナ。

「まったくどいつもこいつも…」

「すみれ!いきなり大声出さないで頂戴!!」

「え…?な、なんだ、すみれかぁ…。も〜、驚かさないでよぉ!」

「そんなことより、少尉とさくらさんのお話、お聞きになりまして!?」

「え?お兄ちゃんとさくらがどうかしたの?」

「何や、あんたらも聞いたん?」

「何だ、もう知ってんのか。つまんねぇの」

「〜〜だから何がぁっ!?アイリスだけ仲間外れにしないで〜っ!!」

「はぁ…。いずれわかることだから話すけど…、落ち着いて聞いてね?」

「うんっ!何々?」

「……実は…」


目を見開くアイリス。地下が黄色い光で爆発し、帝劇内が揺れる。支配人室で驚く飲酒中の米田と酒に付き合っている大神。

「…あー?何だぁ?」

「また紅蘭でしょうか…?」


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